破滅の蛾 後編アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 塩田多弾砲
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 7.2万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 04/15〜04/17
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●本文

 午前零時、ハイウェイ。
 バイクを走らせているのは辰宮銀二。札付きの悪として恐れられた、ちょっとした有名人。将来は悪の道に走るものと誰からも思われていた。
 しかし、それは過去の事。自分でも驚いていたが、彼は改心したのだ。彼のクラスに赴任してきた女性教師。彼女は武道の達人であり、彼を逆にしめあげ、厳しく、優しく諭した。
 高校を卒業し就職できたのも彼女のおかげ。今夜、今までの自分を捨てて生まれ変わろうという証をたてんと、彼はバイクを走らせていた。もう二度と、悪の道は走らぬと誓って。
 が、ドライブの終わりは、彼の人生の終わりでもあった。
 超高速で飛ぶ何かが、彼とすれ違った。途端に衝撃波が襲来し、彼は吹っ飛んだ。道路に叩き付けられ、体中の骨が折れた。そして体中が腐食し始めた。
 バイクは道路わきに衝突し、爆発炎上。それをバックにして、彼の目の前に、巨大な蛾が舞い降りてくるのが見えた。

 次の日、深夜零時。住宅街へ続く、暗い夜道。獣人である栗沢榮子。彼女はWEAからの警告を聞いており、警戒してはいた。
 自分の夫はWEAのエージェント。昨年にナイトウォーカーと戦い、相討ちとなった。蓄えがあるために生活費はしばらくは何とかなるだろうが、それでも収入が激減した事は否めない。
 絶望した事も何度もあった。が、自分の帰りを待つ幼い娘が、彼女を支えてくれる。今は幼稚園に通っているが、来年には小学生になる。これからもっとがんばらないと。
 幼稚園の先生が言っていた。娘には絵の才能があると。ならばそれを伸ばせるようにしてやりたい。買ってきたお絵かきセット、気に入ってくれるだろうか。そう思いつつ、夜道を行く。
 家まではあと少しだ。娘が待っている。
 が、ふと後ろに気配を感じ、彼女は振り返った。
 それが彼女の最後の行動。もう二度と家には戻れない。彼女が最後に見たものは、己の首を切断するドゥーム・モスの翼だった。

「‥‥といった事件が、ここ数日で多発しています」
 WEA担当官が報告する。
 スカージの体調も悪化し、話をするのも困難な状態になっている。いや、息をすることすら難しい。医師が言うには、もってあと数週間‥‥との事だ。
 そして、かの破滅の蛾は、遊園地からここ数日、一日一人以上の犠牲者を出しつつ暴れまわっていた。
「‥‥三月七日の老人ホームでのガス爆発に、十日の幼稚園火災。老人たちやホームの職員、園児や幼稚園の教諭などは全員死亡‥‥。表向きは事故ですが、真相は『ドゥーム・モス』の仕業であることは、言うまでも無いですね」
 担当官も、この件に関しては怒りをあらわにするのを隠し切れない。
 が、何も手を打てないわけではない。ドゥーム・モスが感染し、まだ実体化せずに潜伏している事実が判明していた。
「スカージ氏から聞いていると思われますが、過去のモスの事例から、判明している数少ない特徴の一つ‥‥それを用いれば、なんとか倒せるかもしれません」
 曰く『感染してから七日は実体化しない』。
「バイク事故から、モスを追っていたエージェント『キラーバイト』ですが、彼は現場に出くわしたのです。栗沢榮子さん殺害の現場にね。それが今から四日前の事です」
 キラーバイト‥‥獅子獣人である彼は、その必殺のひと噛みで、多くのナイトウォーカーのコアを噛み砕いてきた。キラーバイトはそこから付いた仇名。
 が、その牙も顎もモスには通用しなかった。彼は親友の妻‥‥榮子を気にかけていたが、それが仇となってしまった。
 榮子は殺され、キラーバイトは全身に酸のりん粉を浴びて大火傷を。病院に担ぎ込まれ、モスについての情報を伝えた後、息を引き取った。
「曰く『デコトラの絵の中に、消えていくのを見た』と。そのデコトラも、既にどこにあるかは突き止めています」
 彼女は、目の前の画面に地図を出して、君たちの前に見せた。
「ここ‥‥首都圏の境界周辺地域ですが、ここはかつて、山村を潰してダム建設する予定でした」

 某県雛ヶ淵村。80年代末にこの周辺に巨大なダムを建立する計画が持ち上がり、村の人間はそのほとんどがそれに従い、大金を持って新天地へと向かって行った。ほとんど農家で後継者も無く、産業もなく、文明の利器の恩恵を受けられない場所。過疎化が進み、村民が村を売り渡すのになんの躊躇も無かった。
 が、計画が進行中にバブルがはじけ、結果ダム建立は中止。残ったのは無人となった村のみ。現在、村の景観は脇を通る道路から一望できるものの、村へ入り込む事はできないように厳重に囲われている。
 その村のすぐ近くに、かのデコトラが止まっていたのだ。
 報告を持ってきたのは、とあるナイトウォーカーを追って雛ヶ淵村にやって来た三人の獣人たち。
 格闘技の達人「バッテン丸尾」、拳銃使い「ワンショット」、そしてリーダーの、キラーバイトの後輩「ジェントルマン」。
 彼らは前のモス事件にて取り逃がしていたナイトウォーカー‥‥「エアスティンガー」を追い、ここまでやって来た。そして三人は見事にそいつのコアを破壊し、帰路につく直前であった。
「あれを‥‥!」
 ワンショットの指摘に、二人は廃村の入り口へと目をやった。
 ジェントルマンは、それを見て即座に思い出した。‥‥四日前にモスが潜伏したデコトラ、それに間違いない。
 運転手の姿は見られなかったが、エンジンはついたまま。貨物には見たところ、手が付けられてない。
「!?‥‥どうやら、逃げたほうが得策だな」
 ジェントルマンは即座に判断し、WEAにその旨を伝えたのだ。

「ジェントルマンたちは、エアスティンガーとの戦いで重傷を負っていました。ワンショットの拳銃や火器の弾丸は尽き、丸尾も針に手足を貫かれ、意識不明の重体に。無論、ジェントルマンもです。彼は骨折しており、ろくに動ける状態ではありませんでした」
 それでも、報告は出来る。報告の後、彼らは即座に入院となった。
「それが、今から四時間前に受けた報告です。モスはまずまちがいなく、デコトラの運転手に感染し、村の中央部で実体化するつもりなのでしょう。感染から実体化まで、一週間。うち既に四日経過しています。残り三日で、ヤツを発見し、実体化直後の状態で殲滅できるか‥‥加え、己を護衛させているナイトウォーカーも忘れてはなりません」
 場所柄、人払いや周囲への被害などは考えずとも良さそうではある。が、問題はこの戦いに勝てるか。殺るか殺られるかの戦いに生き残れるか否かだ。
「スカージ氏、そして私個人からもお願いします。これは一歩間違ったらあなた方の命を簡単に奪いかねない、困難な任務です。仮に生き延びたとしても、その怪我から芸能活動自体できなくなるかもしれません。
 命令はしません、断っても構いません。選ぶか否かは、あなた方の意志にお任せします」
 頭を垂れ、スカージの姪は君達に懇願した。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa5271 磐津 秋流(40歳・♂・鷹)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)

●リプレイ本文

 雛ヶ淵村は、考えている以上に広く大きい。
 家屋や建物の数は、確かに少ない。が、家と家との間が開き、間に畑が広がっている。その畑をはさんで、さらに別の家屋が建っていた。つまるところ‥‥捜索は思った以上に時間と手間がかかるという事だ。
 そして、村の外れには学校があった。大きくそびえたつそれは、まさに廃墟そのもの。巨大な生き物の死骸のように佇んでいる。
 学校の校舎をふくめ、木造の家屋は使用した木材が腐りかけ、中には完全に腐り崩れ落ちたものもある。が、中にはまだしっかりと立ち、頑丈すぎて取り壊しや自然崩壊するにはおよばない耐久力をもつものすらある。
 さらにこれでも足りないかのように、山の岩肌には洞窟がいくつかあり、貯蔵庫や倉庫に用いられていた。
 獣人たちは、村を、雛ヶ淵を臨む場所で、これから起こりうるだろう激闘を予想しつつ、気をひきしめた。
陸 琢磨(fa0760)、各務 神無(fa3392)、泉 彩佳(fa1890)。狼の獣人二人と竜獣人の少女が、受け持った場所を調査している。
 10名の獣人たちは、今回のミッションにあたり注意深く作戦を練り、連携を固めた。確かに探すのは容易ではない。が、だからと言ってあきらめるようなやわな精神を持つ者は最初からいなかったし、誰も弱音など吐かなかった。
 同様に、ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)と九条・運(fa0378)、磐津 秋流(fa5271)。コウモリと竜、鷹の獣人が、村の水田だった場所を探る。昔は稲穂が実った場所だったろうが、いまや乾いた泥が広がり、悪臭を漂わせているのみ。鷹の獣人たる盤津は、己の鋭い嗅覚をもって目標のナイトウォーカーの居場所を‥‥ドゥーム・モスの居場所を探ろうとしていたが、その片鱗も匂ってはこなかった。
 ただ、奇妙な事が一点。畑の一角に地蔵が数体立っているが、その周辺にて動物が食い散らかしたように、動物の遺体、ないしはその断片が散乱していた。
 畑の小道は、山のほうへと続き、石段へと続く道路に繋がっている。石段は木々で覆われ、内部は昼なお暗かった。
「モスは、どこにいやがるんだろう?」
 九条が、ミカエラに問いかける。
「それは分かりまセン。ですが‥‥探すだけデス」
 鋭い瞳を、周囲にむける。彼女は気にしており探しているものがあった。「ドゥーム・モス」を守っているはずの、もう一体、もしくはそれ以上いるはずのナイトウォーカー。
 モスは、脱皮、すなわち実体化するまでは無力。その周囲を、守っている存在がいる。どこにそれがいるというのだろう‥‥。
 幸い、空は晴れて雨は降りそうには無い。雲も無く、昼間は日光が照らしてくれる。雨風が邪魔をする事は無いだろう。
 が‥‥逆に言えば、味方する者もない。

「もしも」
 神保原・輝璃(fa5387)が、蒼穹から次第に誰彼に移行しつつある空を見つつ、つぶやいた。
「もしも神というものが居るんなら、味方してもらいたいもんだ。こんなバケモノと戦う、俺たちに対してな」
 狼獣人たる彼は、緑川安則(fa1206)、尾鷲由香(fa1449)、ジョニー・マッスルマン(fa3014)とチームを組んでいる。彼らは三班での編成で、最初の一日目と二日目は護衛役ナイトウォーカーの捜索、三日目にモスの捜索と破壊‥‥と、予定を立てていた。
 が、しらみつぶしに家屋や小屋や屋敷、建物などを探っても、目標のものは見つからない。焦りが皆を苛み、焦りが精神に食い込み、牙をつきたてる。
「HAHAHAHAHA〜〜〜〜〜〜リヴェンジマッチだZE〜〜〜〜!!!」
 一角獣の獣人、己の本性を露わにしたジョニーは、数時間後に相対する敵、ナイトウォーカーに対してつぶやいた。
「モスはまだ、羽化してない‥‥少なくとも、そう願いたいけど。でも、モスを守ってるやつ。そいつはどんなやつなんだろう?」
 家屋内部を捜索しつつ、尾鷲が緑川に問いかける。
「さあな。少なくとも、一匹以上は居るはずだ。モスより強いって事はないだろうが‥‥モスと同じような能力を持っていたとしたら‥‥そして、複数の敵が同時に襲い掛かってきたとしたら‥‥」
「‥‥ミーたちは、DEAD ENDだ」
 ジョニーの声が、ひどく奇妙に、そして真剣に響いた。

 一日が経ち、二日目が始まった。
 そして、昼。リミットまで、残り半分。
 一度集合した皆は、それぞれの捜索地域を報告し合った。
「アヤは横穴をしらみつぶしに探したけど、何も無かったです」
 と、泉。
「けど、ナイトウォーカーの『痕跡』は発見したわ。穴の一つに、食い散らかされた犬や猫の死骸のなれの果てがあり、大きな何かが身体を引きずったような跡が残されていたんだ。間違いなく、モスの護衛だと思うわ。そいつは学校へと向かっていた」
 各務が、泉を補足する。
「少なくとも、学校に何かが潜んでるのは間違いないだろう。まずは俺たちはそいつを叩きたい」
 睦の言葉に、緑川はうなずいた。
「よし、それじゃお前らはそっちを頼む。ミカエラ、お前らの方はどうだ?」
「なんとなくですガ‥‥ヘンな気配を感じまシタ。もう一度、神社へと続くあたりを探ってみたいデス」
「ああ。ひょっとしたら神社、ないしはそこに潜んでいるのかもしれないしな。モスにとっては、脱皮するのにちょうど良い環境だろう」
 ミカエラと九条のの言葉を聞いた緑川は、同じようにうなずく。
「じゃあ、泉・各務・睦は学校の校舎に、ミカエラ・九条・盤津は今言ったそこを探してみてくれ。俺たちは、神社を探してみよう」
 かくして、皆の行動が決まった。彼らは再び三班に分かれ、各々のすべき事へと向かって行った。

 泉たちは、校舎に入り込んだ。
 引きずった「痕跡」は、巨大な円筒形をした何か。例えるなら、蛇か芋虫が、己が体を引きずって行ったかのよう。
「‥‥まさか、モス?」
 泉が、不安を口にする。それを払拭したのは、睦。
「それは無いだろう。モスは感染した宿主から、蛾に変体することで実体化する。宿主はあくまで人間。ならば、わざわざこんな痕跡を残すわけはなかろう」
「ならば、間違いなく護衛ってことになるわね‥‥しっ!」
 カリカリという、木屑を削り取った時のような音。そして出し抜けに、それは起こった。
 巨大な芋虫が、校舎の壁をかじり取り、壁から湧き出てきたのだ。頭部は甲殻に覆われ、なおかつ甲虫類もかくやの角や大顎、そしていやらしくのたくる触手が彩っている。コアは額部分に露出しており、不気味に光っていた‥‥恐怖で獣人を、餌食にするかのように。まさに、地獄から来た蛆虫、地獄蛆だ。
 が、それらに対し、各務と睦は両の手のグローブと剣を、泉は両手の篭手とグローブとを構えることで対抗した。
 武器は力、戦意を高揚し、勇気と勇猛さを発生させる。発生した蛮勇を新たに武装し、獣人たちは向かって行った。
 ムチのように、地獄蛆は触手をたたきつける。が、三人はそれをやすやすとかわし、各務と睦の持つ剣が触手を切断する。後部からは、おぞましくも柔らかな胴体を泉が攻撃し、ダメージを食らわせていた。手足が柔らかい胴体にめり込み、体液が迸る。
 が、尻の突起が伸びると、それが触手となりて泉を絡めとった。
「アヤ! うわっ!」
 それに気をとられた、睦も口元の触手に絡め取られた。が、それは各務に与える事になった‥‥攻撃のチャンスを。
「‥‥各務の銘、その身に刻んで逝け」
 つぶやいた彼女は、地獄蛆のコアへとブラストナックルの一撃を食らわせ、潰した。

「!」
 畑にあったのとそっくりの地蔵が、神社の境内に置かれていた。
 ミカエラたちは畑からの石段を登ると、神社の本殿へとたどり着いた。が、そこで彼女は見た。地蔵がもう一つ、そこにあったのを。
「ミカエラ‥‥あれは」
「間違い‥‥無いデス!」
 二人の相棒の言わんとしているところを理解した盤津は、手にした火器、SSXスレッジハンマーを構え、引き金を絞った。
 途端に、地蔵は翼を広げ、空へと羽ばたく。それは、擬態したナイトウォーカーだったのだ。ダンゴムシのように体を丸め、岩そっくりの甲殻で体を覆っている。それで地蔵に化け、佇んでいたというわけだ。
 スレッジハンマーの20ミリの弾丸が、当たることなく宙を切る。そいつの羽ばたきは、前回に相対した護衛‥‥エアスティンガーのそれを遥かに凌ぐ。
 岩そっくりのコガネムシめいたそいつ、岩の虫(ロック・バグ)と勝手に名を付けたミカエラは、自身も空に羽ばたいた。コウモリの獣人が、蒼穹の空に舞う。素早く動くロック・バグに、盤津はスレッジハンマーの狙いが中々定められない。ミカエラが近くにいるため、なおさらだ。
「こいつ‥‥ぐあっ!」
 バグの攻撃がヒット! 針状の角が、ミカエラを貫く。
 そのまま地上に落ちるミカエラを、九条は受け止めた。
「大丈夫か!」
「チッ、不覚デス!」
「次は、俺が相手する! 下がってろ!」
 ホットアドレナリンを飲み干した九条が、入れ替わりにバグへと向かって行った。
 身体が火照り、熱く燃える。精神が高揚し、戦闘へと力がたぎる。
 九条の両手の剣、ライトブレードと七星剣とが宙を切り、バグの角とかちあった。通常ならば、剣が折れるか弾かれるだろう。が、力がみなぎりオーバーブースト気味の今の彼にとっては、それは当てはまらない。剣により、角が切断された!
 が、九条は負けた。そのままバグは体当たりをして、九条を地面へと自分とともにたたきつけたのだ。気絶した彼の体からはい出たバグは、今度は盤津へと突進した。
「!!」
 カウンターで、スレッジハンマーを掃射する。20ミリ弾丸がバグの表面装甲を貫き、体液を流した。あと少しだ!
 が、弾丸が切れてしまった。まずい、弾丸を交換している暇が無い!
「終わり‥‥デス!」
 復活したミカエラがいなければ、盤津はやられていた。彼女は組み付くと、装甲がボロボロになっていたバグのコアを掴み、そのまま握りつぶしたのだ。
「‥‥大丈夫か!」
 盤津は、倒れたミカエラを介抱せんと、近寄っていった。

 ロック・バグは、三人の前で披露してはいなかったが、擬態の他に一つ特殊能力を有していた。
 それは、特殊な臭気の糞をする能力。臭気は、催眠状態にさせる作用があった。つまり、臭いのする糞をしておけば、その周囲に近付いた生物は眠気を覚えて倒れてしまうわけだ。擬態した自分の周囲に糞をしておけば、眠りこんだ獲物を手に入れられる。
 そして、バグはモスの周囲に糞をしていたのだ。
 神社本殿から離れた、別の社。その内部にモス、ないしは感染した人間が丸まった状態になっているのを、緑川らは発見したのだ。
 が、臭気は予想外。神保原はそれをまともにかいでしまい、眠り込んでしまった。
 他の三人も、同様に強烈な眠気が襲い掛かる。そして、サナギのようになった感染者が、徐々に色づき、背中にひびが走るのを見た。
「ま、まずい!」
 が、ふらふらになり、皆は思うように手足が動かない。無理やりに体を動かし、銃や武器を構えて倒さんとする。
「‥‥go to ‥‥hell!」
 ジョニーが、マグナムを撃った。リボルバーの弾丸六発を、全てそれに、実体化しつつある感染者へと撃ったのだ。
 サナギそのものの感染者の体に、マグナムの弾丸が貫く。体液とともに、モスの体が破壊された! ジョニーが崩れ落ち、眠りに落ちたのと同時に、緑川もまた銃を撃った。
「くっ、くそっ‥‥」
 ハンドガンの弾丸がモスの体を貫く。しかし止めをさすにはいたらず、弾を撃ちつくした彼はモスの前で崩れ落ちた。
 もう、モスを邪魔するものは無い。体液をしたたらせながら、モスは己の体を脱ぎ捨て、脱皮した。が、その姿は所々がボロボロになっている。翼はほとんど千切れ、胴体にも大きく穴が穿たれ、長く人々を苦しめてきた存在には到底見えない。
 が、もうそいつは、誰も苦しめられないだろう。
「‥‥今度は逃がしはしない! くらいな!」
 体が固まりかけたその時、臭気を逃れ空中へと舞った尾鷲が、最後の攻撃を仕掛けてきた。
 ウォーカーキラー、オーパーツのハンマーの一撃が、モスのコアをとらえ、破壊した。

 スカージは、眠るようにして逝った。
 が、その直前、病院にやってきた獣人たちの報告を聞いていた。
「我ら、モスと二体のナイトウォーカーを殲滅せり」と。
 あれから、負傷したミカエラをヒーリングポーションで治した尾鷲は、仲間たちを介抱した。
 眠りから目覚めた緑川やジョニーらも、正気に戻り状況を判断。こうして、任務が終了した事を確認したのだった。
 負傷者は、ジョニーの治癒命光にて治療。かくして獣人たちの負傷は回復し、スカージの憂鬱は解消された。
「‥‥良くやってくれた。これで‥‥思い残す事はない」
 それが、スカージの最後の言葉。

 こうして、ドゥーム・モスの破滅は終わった。
 ナイトウォーカーの被害が、これで終わったわけではない、が、それでも獣人たちは満足を感じていた。少なくともこれで一つ、確実に減ったからだ。凶悪な怪物の、これから起こるだろう被害が。
 そして、獣人たちは改めて誓った。新たなモス、新たな被害者を、これ以上出さないようにと。