ミサキ〜いざ鎌倉アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
2.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/16〜04/19
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前回のリプレイを見る
●本文
ふらふらと、街灯の下へ歩いていく。
何だろう‥‥頭が重い。何か食べたい。何を‥‥?
私はその場にうずくまり、じっと地面を見つめていた。
「どうしたの、大丈夫?」
誰かが声を掛けてきた。後ろの方で複数の声が聞こえる。
「駅員さん、この子さっきからふらふらしてたよ」
「警察通報した方がいいんじゃない?」
「大丈夫かな、立てる?」
駅員らしき男が、肩を掴んだ。
「さが‥‥さな‥‥きゃ」
「何探してるの?」
「‥‥わかんないけど‥‥おなか‥‥すいた」
ちがう、そんなものじゃない! いらない!
差し出されたパンを手で弾くと、私は駆けだした。
どこかに居るはずだ、私の獲物。ただ闇雲に駆ける私は、いつしか薄暗い路地に駆け込んでいた。ここなら、人間が来ない。
すう、と風が吹く。気配を感じたのか‥‥私は振り返った。
風を切り、何かが体に突き刺さる。
突き刺さった矢の端から、つう、と赤い血が滴った。
「‥‥そこじゃない。困るなあ、駅前を彷徨いてくれなきゃ。そこで三津屋臣という人を探している、と聞いてみな。誰か釣れたらそれでよし、つれなくとも‥‥」
ふい、と気配が消えた。
−ランズ・シシリー‥‥煉獄から釈放されたのか。一体誰があの刻印を‥‥−
消えた気配のあとには、プリントアウトされた一枚の記事が残されていた。
それは寒村で起こった事件と、復活した神楽祭の記事だった。
三津屋・臣という人を探しているの。
私はその日から、夜の駅前を徘徊するようになった。釣れるのは、ナンパしてくる男くらいのものだ。それでもお金をもらっても、体を満たしても、心は満ち足りない。
いつになったら、来るんだろう。
私の‥‥獲物。
そして。
−傀儡の森・掲示板−
通りすがりさん:
突然失礼します。鎌倉駅に、ミサキの管理人と思われる人を探している女の子が居ました。なんだか様子がおかしかったんですけど、何か関係あるんでしょうか?
噂じゃ、ミサキの呪いとか‥‥。ホントなんでしょうか?
この書き込みは、一体‥‥?
設定
三津屋・臣:前回の調査により、鎌倉に居た事が判明しています。鎌倉駅近郊から捜索を開始してください。現在の連れの写真などはありませんが、顔立ち等は聞いておいたとしても構いません。
駅前の少女:すぐに見つけられると思います。NW憑きですが、何故か三津屋を探しています。多分三津屋でなくとも、餌を感知すればそれで(食欲は)満足でしょう。
調べ物:刀に関してはまた1週間後に出します(蟇目大祭関係込みで)。件案7号はもう少し情報を整理してからとなります。
1.三津屋の行方。2.NW。3.黒い鏡。という優先順番です。
依頼主:今回から、緋門あすかとなります。
●リプレイ本文
[謎の男]
それで、やはり時雨・奏(fa1423)は緋門あすか宅に居る訳ですが。
月の殆どをあすかの家で過ごしているのだから、住んでいるといってもよいのではなかろうか。
「あすかちゃん、男二人が下宿、ならまだしも、男一人と同居‥‥など認めはせんで」
そう、あすかの家に居るのはなにも、彼だけではない。ランズ・シシリーが、日夜問わずウロウロしている。
すう、と時雨を指すあすか。
「ちゃうわ、シシリーの事や! 殺人鬼でもロリでもメイド好きでもええけど、それでだけは拒否するで」
「‥‥別に男二人でも」
時が止まった‥‥が、あすかは平然としている。
「義兄弟という事に」
「ちょ、巫女さんなんやから、全年齢対象の言葉言おうや」
−以上の文面、報告書からカットされました−
時雨が傀儡の森を覗くと、御神村小夜(fa1291)が掲示板に足跡を残していた。
黒い八卦鏡と、身元不明の書き込みの主に関する情報を求め、小夜はフルヤと連絡を取っていたのである。
フルヤにチャットを借りると、小夜は先の書き込みに関するアクセス情報を聞いてみた。人が増えてきた矢先の事であるし、フルヤはアクセス解析を設置していると見ている。
「それは、鎌倉からの書き込みではありませんか?」
「そうですね、鎌倉からです」
フルヤが答えた。問題はそれを誰が残したのか、である。
駅前の少女か、それとも書き込みした者。どちらかは現在の三津屋の彼女かもしれない、とリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)は言っていた。
「黒い八卦鏡について調べたんですけど‥‥御伽峠の南西にあるかもしれません」
御伽峠という地名が出てくる逸話が、ネットに書かれていたという。御伽峠を北東に望む小さな村で起きた事件‥‥。村の社に安置してあった鏡をある少年が破壊し、そのせいで山から妖怪が下りてきた。村人七人が、少年を妖怪に生け贄として捧げて山へ追い返す。
その日より少年の呪いで鏡が黒く変化し、村人七人は怪死した‥‥。
と、その話を横で見ていたあすかが、突然自分のパソコンで何かしはじめた。
「‥‥なるほど」
確認すると、ぱたんとモニターを閉じる。
「似たような話が、八卦にありますよ。件案七号と呼ばれる事件です‥‥今じゃ、関連書類が八卦内でも封印されてますが‥‥三津屋は何故‥‥」
「どうやら、アタリらしいで」
チャット越しに、時雨が言った。
しかし、黒い鏡はシシリーが盗んだという月光の鏡ではなかった。緋門神社と関わりがありシシリーも狙ったものであれば、何らか八卦とも繋がった物かもしれない、と思ったのだが。
では、黒い八卦鏡は今どこに‥‥?
トシハキク(fa0629)に聞いてはいたが、いつ来ても八卦の社内は慌ただしい。今は映画『爪痕』の撮影がクランクアップ間近であるというから、忙しさも倍増であろう。
その喧騒の中にあって、ロッテの動きはしなやかだ。興味のあるものには何でも飛んで行って確かめる質のロッテであるが、身の軽さは猫系特有なのかもしれない。
橘 遠見(fa2744)は彼女の後ろについて、その喧騒の中に歩く。
「やあ、いらっしゃい。‥‥僕に何か用?」
立浪は、自分のデスクでパソコンに向かっていた。どうやら、次の企画を考えている途中のようだ。髪は何日か梳いた様子がなく、服もよれよれだ。
自分の服をつまむと、立浪は苦笑した。
「あ、これ? 社内の給湯室で洗ってるもんだから」
「うわ、ここで寝泊まりしてるんだ? 信じられない。せめてお風呂入って、服くらいちゃんと洗濯しなよ!」
ロッテは一歩下がって、眉を顰めた。
なんだか立浪は、いつ探しても八卦社内に居ると思ったが‥‥。遠見はただ無言で笑うしかなかった。
腰に手をやり、ロッテが立浪を見据える。
「立浪さん、三津屋臣の親って八卦で何してたの?」
「三津屋の親‥‥んー‥‥ああ、機密事項だ。すぐに必要な情報じゃなければ、必要になってから聞いてくれ」
気になる口振りで、立浪が答えた。
[三津屋の足跡]
鎌倉駅前。初日の日曜日に泉 彩佳(fa1890)が皆を誘ったのは、この日流鏑馬が行われるからである。
「鶴岡八幡宮で流鏑馬があるんですけど、何か情報が得られるかもしれませんし。みんなで行きませんか?」
アヤは意見を求めて、視線を巡らせる。
「私はいいわよ、流鏑馬も見てみたいしね」
すう、と手に持った扇を開いて久遠(fa1683)が笑った。同じ日本の芸術をたしなむ者として、流鏑馬も興味が無くはない。
むろん、他の者も興味津々だ。
「じゃ、俺は鶴岡八幡宮の近くで、三津屋さんの情報を探して来るよ。短期のバイトをしているかもしれないしね。‥‥この時期に祭があるなら、この時期だけ神社でバイトしててもおかしくないだろ?」
「私も行きましょう。二人で探す方が、見つけるのは早いでしょう?」
小夜は、トシハキク(fa0629)とともに歩き出した。
小夜はジスとともに、まず鶴岡八幡宮の周辺を回った。
「泉さんの言うように、この時期この場所で事件が起きた‥‥その流鏑馬というイベントは、大きなファクターだと思う」
手がかりになるのは、十年前に撮られた写真のみ。雑踏の中、小夜とジスは連絡を取り合いながら一件ずつ聞き込みをして回った。
やがて、小夜との待ち合わせ時間十分前‥‥。
「来てたって?」
「いや、三日くらい前に辞めたよ。なんでも、お母ちゃんが倒れたとかでなぁ」
そば屋の主人は、隣の机を片づけながら答えた。
ジスは机から身を乗り出して、話を聞いた。たしかロッテが言うには、三津屋の両親はもう亡くなっているはずだ。
「もう、来ないんですか? 連絡先とかは‥‥」
「さあ、あいつ携帯電話持ってないとか言ってたしなぁ」
そば屋の主人はそう答えると、奥に戻っていった。
似たような話は、小夜の方でも聞く事が出来た。やはりジスの居たそば屋に関わる話で『そば屋に短期のバイトが居て、その子に似ている』という目撃情報があった。
「三日前でしたら、まだ近くに居るかもしれません。あのNWが現れた事で、身を隠したとも考えられます」
三津屋は、フルヤのサイトを見ているのかもしれない。そう思ってフルヤのアクセス解析等を頼んでみたが、やはり今、ここに居ると見て間違いない。
小夜は、すぐに全員に連絡をし、駅前へ戻った。
一方それより少し前。アヤは、ある事が気になって鶴岡八幡宮の社務所を訪れていた。
直前に、少女について調べていた八咫 玖朗(fa1374)から『少女の肩に矢が刺さっているのを見た人が居る』との連絡を受けたからである。
それが三津屋なのか、それとも全く別人なのか分からないが、調べる価値はあるはずだ。
「最近、誰か短期でバイトに来たりしませんでしたか? 三津屋という名前の人を捜しているんですが‥‥」
「三津屋って人は知らないなぁ」
「そうですか‥‥すみませんでした」
アヤが身を返す、と社務所の青年があっと声をあげた。
「そういえば、外人さんなら来たよ」
「外人さん‥‥銀髪とかですか? えっと‥‥シシリーとか?」
「いや、たしか甲斐・クラークとか言っていたかな。弓の勉強をしているから流鏑馬を見せてほしい、と言われてね。特別に中に入れてあげて、見せたんだ」
甲斐・クラーク。味方‥‥それとも、NWを射た‥‥敵?
[謎の少女と、三津屋の女]
そして駅前では、玖郎、遠見と久遠、ロッテが動いていた。
少女についての調査を主としていた三人とは違い、ロッテはNW戦になった時の為に場所を選んでいた。公園やビルの合間、行き止まりの道路など、携帯上の地図や徒歩での確認で周辺を歩き回る。
玖朗の目的は、少女に接触して来る人物を特定する事であった。遠くと遠見は、駅周辺で三津屋の情報を探している。もっとも、つい先ほど入った小夜からの連絡からすると、三津屋は鶴岡八幡宮近くでバイトをしていたようだから、これといって有力な情報は得られないかもしれないが。
久遠は、三津屋もともかくとして少女の身柄をまず確保したい、と考えていた。玖郎の言う、矢を射られていたという話も捨て置けない。
駅前の方へと戻る道、周囲の雑踏に目を向けていた久遠が足を止めた。
「遠見、あの子」
扇子の先でさした、そこには一人の少女が居た。ふらふら歩いている、肩が人にぶつかる。しかし、彼女は何かを探すように見まわしながらこちらに向かって歩いてきた。
遠見と久遠が、じっと彼女を見つめる。
彼女と視線が合う。横の小道からロッテが姿を現し、手招きをして誘導する。
「あ‥‥」
少女がこちらへ、駆けだした。
「久遠さん、この先のビルを曲がって! 奥まって広くなっている所があるの。そこだったら、周囲がビルに囲まれてて見えないわ」
昼間に周辺を確認していたロッテが、NWをおびき寄せる久遠を誘導していく。
人目が無くなると、久遠は眼鏡に手をやって目を閉じた。体に、力が戻り、獣の耳が茶色の髪に混じって突き出した。
「私たち、そもそも戦いに向いてない種じゃなかったかしら」
同じ種である遠見と肩を並べ、久遠が薄く笑う。
「仕方ないですね、みなさんお忙しいようですし」
遠見はNWの退路を塞ぐように、瞬時にその後方へと移動した。
退路をふさがれ、前方は久遠とロッテ、そして後方は遠見とアヤとで囲まれている。
「あなた、どうして三津屋臣を探しているの?」
久遠が聞くと、少女は拳を握りしめた。
「あ、‥‥あたし‥‥」
分かっている、腹を空かせているのだ。遠見は、彼女の様子を隙無く監視する。
遠見は更に、言葉を引き出そうと話し続けた。
「矢を射たのは誰、何故三津屋を知っているの」
「射た‥‥人、あたしに言ったもの‥‥三津屋って人を見つけたら‥‥苦しいの、終わるって‥‥そしたら‥‥あなた、ここに‥‥来た」
苦しいモノ‥‥それは、体を破って実体化した。
そしてその光景を、上空のビルからじっと観察していた影が一つ。鴉に行く先を追わせた玖郎は、後ろに立つ時雨をふり返った。
「戦闘をしている近くに、まだもう一人誰か居るようです」
「ちょいと近くまで行って、捕まえるとするか」
「‥‥じゃあ、俺と時雨さんで挟み撃ちに」
玖郎は示し合わせると、翼を広げて眼下の人影を確認した。狭いビル合間の前後に、時雨と玖郎が降り立つ。人の姿に戻った二人がその人影の前に姿を現すと、上から差し込むネオンの光がぱっ、と照らした。
弾かれたように、細い女の影が駆け出す。しかし逃げた女は、難なく時雨によって捕まえられた。
獣化せずとも、ヒールを履いた女と時雨では、追いかけっこにもならない。
「あ‥‥あなた達、なんなの」
呆然と立ちつくす女性に、時雨が頭を掻いて玖郎と視線を交わした。
玖郎は無言で前に出て、それでも何と言っていいか困ったように‥‥ようやく口を開いた。
「あの、俺達は八卦の者です。ここは映画の撮影中なもんで‥‥」
「‥‥八卦。臣を捕まえに来たのね」
臣、三津屋臣。
「そうです、三津屋さんです。どこに居るんですか、三津屋さんは!」
「あなた達‥‥本当に八卦の人?」
疑いの眼差しを向けられ、玖郎はつとめて冷静に話し返した。
「俺達、八卦の緋門あすかさんという人から依頼されて‥‥ミサキについて追っていました。あのアイテムと件案7号との繋がり、そして他のアイテムの行方についてお伺いしていのです。なかでも、黒い八卦鏡が御伽峠の南西にあるかもしれないと‥‥」
女性は少し俯くと、ため息をついた。
「臣から色々聞いたわ。その八卦鏡は当たっていると思う。臣は、八卦鏡だけは自分自身も見た事がないと言っていたから。臣は、八卦に居た頃から件案7号を含めた八卦内部の事件について、追ってたって言ってたわ‥‥木崎って人と二人で。何らかの形で、その結果を知らせたかったのね‥‥でも、あすかという人の事は、臣も気にしていたわ。あの人なら、預けても大丈夫かもしれないって言ってたもの」
「事件の事、知ってたんですか」
「ネットとかで調べたもの。それ以外にも、色々ツテを使ってね」
くすりと女は笑った。
そう、名前言ってなかったわね。
あたし、藤堂静(とうどう・しずか)。肩に掛けた鞄から煙草を出すと、静かは口にくわえた。
コアを砕かれたNWの残骸の中‥‥久遠が汚れた上着を脱いでいると、視界に何かが映った。それは恐らく、少女が持っていたものであろう。
「‥‥何かしら、これ」
久遠がつい、と紙切れを拾い上げる。それは、何か記事をプリントアウトしてもののようだ。
紙に書かれていたのは、神楽祭復活の記事‥‥。そう、時雨が神楽祭復活に協力した際、傀儡の森に掲載してもらった‥‥あの記事である。
「それは時雨さんの‥‥。それじゃ、おびき出す事には成功したのですね」
小夜が久遠の手元をのぞき込みながら、言った。
黒。それは風水で隠すという意味なんだね。
アヤが言うと、報告を聞きながらあすかが頷いた。だからこそ、黒い八卦鏡には何かのメッセージがある‥‥。しかも、会社の名も八卦。
「ねえあすかさん。三津屋さんは、ミサキの物にNWが憑いているのを知っていて、事件を防ぐ為にサイトをを作ったんじゃないかな。そしてそのNW付きの物をばらまく敵から逃げる為、姿を隠しているとか」
「そうですね。‥‥その逆も考えられますが」
「それは‥‥」
玖郎が言葉を続ける。
「NWを封じる事が出来る‥‥ですか?」
さて、とあすかは首をかしげ、じっと携帯電話を見つめた。
そこには、藤堂静香の名前と連絡先が、打ち込まれていた。