ミサキ〜鬼、動くアジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/23〜05/27
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●本文
そもそも黒い八卦鏡は、三津屋が八卦の件案七号について調べるうちに出てきたものである。
八卦には、封印されたままの書類がいくつもある。そのほとんどは、八卦自体や、古い事件に故あるものばかりだった。
件案七号は、その故、の一つだ。
『臣は、あの黒い八卦鏡にあった、村人が死んだという逸話‥‥あの話に何かヒントがあると考えています。件案七号の事件に、似た話があると聞きました。私には、詳しい話はしてくれませんけど‥‥』
藤堂は人間だ。おそらく、あすかのように獣人について知る立場にはないのだろう。
やはり藤堂を介してでは、詳しい話は聞き出せない。だが、やはり三津屋は慎重になっているのか、電話には出なかった。
黒い八卦鏡の手がかりの一つ、御伽峠の南西という地理から探すしかない。
「御伽峠の南西‥‥何かあったでしょうか」
「2年前の“リザード”の情報だと、八卦の爻の血統が居ると聞いたな。ただ、奴らとも八卦とも交流は断絶しているらしいが」
「爻‥‥八卦設立の初期メンバーの事ですね」
くるりとあすかが、来島を見る。すると来島は、しばらく考え込んで答えた。
「うーん‥‥そんな話もあったな。吉永さんという女性で、旦那は普通の‥‥というか、まあ獣人だから放送業界な訳だが勤め人で、八卦とは今は関わりがない」
知るかぎりの範囲では、相当古くから八卦と縁を切っているはずだ。同じ業界で働く者として、たまに八卦と顔を合わせる事もあるようだが、社の機密について話す機会はない。
「しかし‥‥件案七号ね」
何を思うか、来島は真剣な表情で煙草をくわえた。
風を避けるように、彼女は顔の上に手をかかげた。髪が手をすり抜けて、肩まで伸びた髪をさらう。年は、三十から四十前あたりだろうか。
足音もなく近づいたシシリーを、正面からじっと見返していた。
「‥‥シシリーさんですね。黒蜥(ヘイシィ)が何の用です? 私を殺しに来たのですか」
静かな口調だった。不思議と、動揺はない。シシリーは鼻で笑った。
「はっ、殺すつもりなら抜く手も見せねえよ。‥‥今は八卦に首の鎖を持たせてる身でね。あんたに、黒い八卦鏡について聞きに来たんだ。三津屋臣という男を知らないか?」
「さあ。既にウチは‥‥黒崎家は八卦と関わりを絶っていますし、黒崎家自体も私が嫁いだ事で途絶えています」
「途絶えた、か。‥‥おまえさん、女紋というものを知ってるか? 瀬戸内海を中心にした風習でな。嫁いでも女が女親の家紋をついでいく、女系の家紋ってやつだ。あんた、今でも八卦爻の家紋を継いでいるんじゃないのか。爻の坤は女を象徴するからな」
見くびっていました、と吉永が小さくつぶやいた。シシリーは思ったより、記憶力がいい。日本に来て十年余りのはずなのに、そんな事を知っているとは。
女紋は、地方によっては違う意味で使用されているものがあるが、確かに瀬戸内近郊ではシシリーの言うような意味で使用される。
「黒崎家は、長らく八卦からもリザードからもノーマークだった。あんたが何を隠してようと、俺達が知らなくて当然だ」
彼の言葉に、吉永はシシリーに背を向け黙り込んだ。
本当に彼女が黒い八卦鏡を持っているのか、そして三津屋がそれを追っていた意味は‥‥。
「確かに私は、黒い八卦鏡を持っています。ですがシシリー、あなたに渡す事はできませんし、八卦にも渡すつもりはありません。どのみち、見ても仕方ないものです‥‥普通の八卦鏡ですから」
見ても仕方ない、普通の八卦鏡を渡すつもりがない、とはこれ如何に。
「それならそれで、渡したくなるようにするまでだ」
シシリーの言葉の意味は、いずれ判明する‥‥。
二日後、彼女から緋門あすかに電話があったのだ。吉永の言葉に、あすかは深いため息を漏らした。
『シシリーを野放しにしたのは、あなたですね? 責任を取ってもらいましょうか』
シシリーは、吉永の六歳になる長男を浚ったのである。
完全獣化状態で、どこかに潜伏しているらしい。むろん、そんな状態では警察に電話する事もできない。
さらにシシリーは、藤堂にも連絡を取っていた。三津屋に、御伽峠まで来るようにと‥‥。
彼の目的は、黒い八卦鏡を渡す事と三津屋を引きずり出す事。
それが、シシリーのやり方。彼は、手段を選ばない。渡さなければ、殺す‥‥。
しかし、あすかとてこんな所でまごまごしていられない。三津屋臣には追っ手が伸びているのだ。
「シシリーの脅しに乗るだろうかねえ‥‥」
来島が言うと、あすかが首を振った。
「そもそもシシリーは、これが茶番染みたやり方だと分かっていますよ。八卦も吉永さんも三津屋も、そして黒蜥もみんな引っ張り出して同じ土俵に乗せたいだけです。問題は、三津屋‥‥もし彼が来なければシシリーも黙っていないでしょうし、来れば黒蜥が彼を殺すかもしれない」
毒を以って毒を制すと言うけれど‥‥ちょっと強い毒だったでしょうかねえ。
あすかは、のんびりとそう言うと、来島と見合わせた。
設定
吉永:旧姓黒崎。八卦の初期メンバーの家系(八卦は、“爻(しゃお)”と呼ぶ)の女性。現在、シシリーに一人息子を誘拐されている。黒い八卦鏡と何か関係があるのではないかと思われている。
誘拐:シシリーの事だから、現在の居場所を探すのは困難だと思われる。目撃証言を探すのは困難ではないかもしれないが、それで現在位置につながるかどうかは‥‥。シシリーは御伽峠へ指定日深夜0時(依頼四日目)に来るよう、伝えています。
三津屋臣:藤堂経由で連絡を取る事は可能だが、今回姿を現す事で命に危険が生じるかもしれないらしい。
黒蜥(ヘイシィ):シシリーが“リザード”と呼ぶもの。あすか達は、多くは語らない。今回姿を現すのかどうか、全ては不明。
●リプレイ本文
リーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)は八咫 玖朗(fa1374)とともに、八卦本社に居る来島兵庫を訪れていた。
大人しく後ろを付いて歩く玖朗を連れ、ロッテは会議室に入った。立浪は今回も不在。
ロッテは、静かに話し始めた。
「今回の仕事の中で気になったのが、黒蜥の事なの。‥‥今までの来島さん達から聞いた話からすると、この黒蜥とは何らかの理由で内部分裂をした、八卦の者で出来た組織じゃないか‥‥それ故、来島さん達が言葉を濁しているんじゃないか。私はそう考えたんだけど」
来島はロッテの話を聞き、ふぅと息をついて椅子に背を預けた。
「黒蜥っていうのはなぁ、‥‥ご想像通り随分昔に分裂した、八卦の者だ。お前さん達が気づかない所でねぇ、獣人が色々悪さをしてる訳よ。俺達に反して、ね。黒蜥っていうのは、そういった連中さ。八卦には、まだそいつらに協力しようとしている奴らが潜んでいる。あすかは、それを警戒してるんだ」
こくり、とロッテが納得したように頷く。
「じゃあ、三津屋さんのご両親の調べ物や仕事も‥‥」
「三津屋の親が本当は何を追っていたのか、今じゃ誰も知らない」
ロッテの推察通り、緋門要も黒蜥の一員であった。ロッテはやや俯き加減で、問いかけた。
「黒蜥が現れた時、私達は戦っていいの?」
「最悪の奴が出てこないように、祈っとくよ」
「最悪の奴‥‥ですか?」
玖朗が口を挟むと、来島は苦笑した。
自宅のPCに向かっている御神村小夜(fa1291)は、御伽峠の南西にあるという村を探していた。小夜は、『見ても仕方ない』と言われた黒い八卦鏡と、藤堂から聞いた逸話が気になっていた。
もしかすると、もう何も残っていないかもしれない。その可能性も視野に入れつつ、ネットで検索を続けていた。
その結果、一つそれらしきものが浮かび上がった。記事を目にし、小夜はそっとカーディガンを羽織りなおした。探しものを見つけた時のように、背筋を冷たいものが走る。
御伽峠の南西の麓に、村があったというのである。その村は、ある事件をきっかけに廃れ、姿を消した。
−昭和61年‥‥7人の少年少女、忽然と姿を消す‥‥最後の足跡は小学校か?−
小夜が発見したのは、そういった内容の新聞記事であった。
「20年前の行方不明‥‥? でもこれは、あの昔話と違うけれど‥‥7人」
まだこの村、何かあるのかもしれない。件案7号に関わる、何かが。
黒魚村という名前の村に。
吉永は八卦から来たという泉 彩佳(fa1890)とトシハキク(fa0629)に、あまり色よい顔はしなかった。
「シシリーを捕まえる手だては、見つかりましたか」
落ち着かない吉永に、ジスが冷静な口調で話しかけた。
「息子さんは、俺達が無事連れ戻しますから」
「落ち着いてなどいられません。八卦鏡でしたら、いくらでも持って行ってください。でも息子は返してやって」
ムリも無い。アヤは吉永が黒い八卦鏡の事、八卦爻や黒崎家の事を聞こうとしていたが、とても聞ける状態ではなかった。
ジスと話し、ひとまずアヤは御伽峠の社の調査へと向かう事にした。
黒い八卦鏡は、もしかすると陰刀に匹敵する程の重要品だったのではない、とアヤは考えていた。吉永の動揺もわかるが、もし陰刀ほどの貴重品であれば、吉永ももう少し違った言い方をしているのではないか。
御伽峠の社には、手がかりとなりそうなものは無く、アヤが引き返してくると八卦本社から飛んできたロッテがジスとともに待っていた。
「‥‥こんな時にごめんなさい。あの、吉永さん。黒崎家について聞きたいんです。八卦鏡、十銭白銅貨、それらに何の意味があるのか‥‥吉永さんなら、ご存じではないかと思って」
「その白銅貨に心あたりはありませんし、八卦鏡もが何の意味を成すかわかりませんが、ごらんになるといいでしょう」
黒崎は、そう言うと奥の部屋から桐の箱を出して来た。吉永が開くと、中から黒色の八卦鏡が現れた。そっとアヤが手に取る。これといって変わりのない、八卦鏡だ。裏返すと、端に『八卦会』という文字が彫られているのが、確認出来た。
一方、八卦の仕事に初めて関わるベス(fa0877)は、玖朗から今までの事件について、ざっと聞いていた。
煉獄という、八卦による犯罪者収容施設に閉じこめられていた、シシリーという男の事。三津屋という青年が、七つの品をネット上でオカルト風に紹介していた事。そのアイテムが、八卦に繋がっているらしいという事。
「ぴぇぇ〜? いっぱいあるねぇ」
頭を抱えて、ベスが声をあげた。玖朗はミサキの報告書だけを取り出して彼女に見せた。
「とにかく、三津屋さんと連絡を取ればいいんだよね?」
「うん、三津屋さんの連絡先は藤堂さんという人間の女の人が知っている。彼女の連絡先は、あすかさんが知っているから」
玖朗はあすかから藤堂の連絡先を聞くと、電話をかけた。
目的は、シシリーが呼び出した御伽峠に来てもらう事。交渉の結果、三津屋臣を電話に出す所まで、ようやくこぎ着けた。
「三津屋さんですか」
玖朗が電話ごしに声を掛けると、無効から男の声が聞こえた。
『八卦の者か?』
「俺は、緋門あすかさんから仕事を依頼されている八咫 玖朗というものです。あなたに、御伽峠まで来てもらいたいんです」
玖朗は、シシリーの今回の行動の事を三津屋に説明した。
『今までの報告書を見るかぎり、緋門とは信じるに値する人間だ。それに、来島さんが信じる人ならば安心していいだろう。だが、シシリーは別だ。第一、現場に黒蜥が来るかもしれない』
「来てもらえない場合、八卦爻の吉永さんの子供が殺されるかもしれないんです。もし来ていただけるなら、俺達が護衛しますから」
『甲斐は、黒蜥の中でも屈指の力を持つ。シシリーでもなければ相手はムリだろう‥‥となると、僕がシシリーを信用するかどうかに掛かる訳だね』
話を聞いていたベスが、携帯電話に声を掛ける。
「あたし達は、緋門さんから頼まれたんです! シシリーさんを選んだあすかさんも、信じてもらえませんか?」
少し、時間をくれ。
三津屋はそう言うと、電話を切った。
三津屋からの連絡が無いまま、四日目を迎えた。
御伽峠麓に七人が揃うと、鷹見 仁(fa0911)がシシリーとの交渉についての打ち合わせをはじめた。ジスは、吉永を迎えに行っている。
「俺はミサキ関係に関わるのは初めてだから、とにかく俺は俺に出来る事をするよ。シシリーとは面識があるから、俺はシシリーと交渉して子供を帰してもらう事にする」
「でも、シシリーさんが子供を傷つけたり殺したりするかもしれないよ」
ベスが心配そうに言うと、鷹見は真剣な表情で言葉を返した。
「シシリーは、今の俺達じゃ相手が出来ない。そもそも奴は、子供を利用する必要が無い位強いし、頭も切れる奴だ。‥‥あれで性格が良ければね」
鷹見がふ、と苦笑すると時雨・奏(fa1423)が深く頷いた。
「せやな〜、シシリーがあすかちゃん家に住み着いてさえなければな」
「時雨‥‥」
「分かっとる、シシリーの行動やろ。あいつ、今まで積極的に動かへんかったのに、急に活発になるてオカシイと思わんか? もちろん、奴が必要やいうのは分かるけどな」
小夜も、ため息をつく。
「ともかく私は、三津屋さんの護衛に徹します」
「ならわしも、三津屋の護衛に行くわ。それまで、八卦の妨害が来うへんように、偽情報で攪乱でもしといたらええ」
そうして三津屋の護衛に時雨と小夜、アヤ、玖朗が。吉永をジスが護衛、シシリーの周辺に鷹見とベス、黒蜥の警戒にロッテが当たる事となった。
御伽峠に向かう車中。吉永は車を走らせながら、不安そうな表情を浮かべていた。
「‥‥吉永さん、俺は様々八卦の仕事に関わって来たが、今回はそういう事抜きで、あなたとお子さんを助けるべく努力したいと思う」
ジスが言うと、吉永は少しだけ笑った。
「ありがとう。でもムリはしないように」
そう口にすると、吉永はまた表情を曇らせた。
今回の、暴走とも思えるシシリーの行動‥‥それが八卦の意志ではないと信じたい。映画制作という『何かを作る』面の八卦と、暗部という組織を持つ八卦。
一体、どちらが八卦の『表』なのだろうか。
ざわざわと風が吹き付ける。
吉永を連れたジス、交渉に来た鷹見が御伽峠の参道まで着くと、奥に影が落ちた。白い虎の影‥‥片手で子供を抱えている。
吉永がはっ、と息をのむ。ジスが、強い口調で声を上げた。
「シシリー、もう子供に用は無いはずだ。返してくれ!」
「ここまでお膳立てしたんだ、これ以上ゴネたってあんたに利は無いはずだ」
鷹見も、シシリーに向けて言った。
「さあて‥‥まだ、三津屋が居ない。役者が揃ってねえな」
鷹見は、黙って周囲の様子を伺っていた。シシリーは、手を出さない‥‥その点だけは信じられる。
樹上に完全獣化状態で待機するベスは、獣化能力で麓の報を見つめていた。
「ぴ? ‥‥誰か来る。一人‥‥それから、その後ろから誰かが着いてきてる。両方、バイクだよ」
二台のバイクは御伽峠を駆け上り、参道に滑り込んだ。最初の一台から飛び降りたのは、写真で見た男‥‥三津屋だった。
にやりとシシリーが笑う。瞬間、鷹見がシシリーの胸元に飛び込み子供を抱えた。シシリーの興味は、既に子供には無いはずだ。鷹見は子供を無事受け取ると、空中へと逃げた。
三津屋を追ってきた男がメットを脱ぎ、その下から銀色の髪がこぼれる。頭部には、獣の耳が生えていた。
すう、とジスは吉永を後ろに庇う。
「あんたが甲斐?」
樹上から、時雨が声をかけた。甲斐の視線が時雨を捕らえる。ふ、と甲斐が笑った。
「八卦の連中かい?」
「‥‥いや、わいはあすかちゃんの味方やから、八卦とか関係ない」
「なるほど」
甲斐は薄く笑うと、腕を前に差し出した。シシリーが若干姿勢を低くする。瞬時に距離を詰めたロッテが、甲斐の背後に立った。
‥‥その時。甲斐から、黒い影が飛び出した。巨大な蜘蛛の形をしたモノが、甲斐の両脇に降り立つ。
蜘蛛が、ロッテに飛びついた。
ロッテの持った銃が煙を吐く。舌打ちすると、時雨がもう一体のNWに向かった。ベスは、時雨をフォローするように体から羽を放って攻撃する。
「シシリー、責任とらんかいっ、慰謝料払えや、コラ!」
小夜は三津屋の前から動けない。鷹見は子供を連れて空に、ジスは吉永の側に居る。
「お前、引っかき回す事だけが目的じゃないはずだろ!」
上空から鷹見が、シシリーに叫んだ。
シシリーは‥‥時雨の脇に立つと、片手でNWの牙を掴んだ。甲斐が意外そうな顔をする。
ちら、とシシリーが時雨を見た。ロッテは銃撃を止め、一人で蜘蛛を相手にしている。しかし、やや不利だった。ロッテの肩は蜘蛛の牙に抉られ、肩で息をしている。
「時雨、お前はあの猫の手伝いをしてやれよ。俺はこいつをいただく」
「‥‥せやったら、お前にくれてやるわ。きっちりカタ付けとかんと、あかんで」
上空から時雨がロッテの加勢に入ったのを確認し、ベスもそちらに回る。
甲斐は、三津屋を見ていた。彼を後ろに庇い、アヤがきっと甲斐をにらむ。アヤの蹴りが風を切ると、甲斐はするりとよけた。カウンターで、甲斐の足がアヤの頭部に叩きつけられる。
さらに後方から、羽が甲斐の背中を刺した。振り返った甲斐に、二撃目が襲いかかる。ベスの後方で、既にシシリーがNWを倒し終えていた。
「三津屋、こんな事をして何の得になるんだ。よく考えろ」
甲斐はそう言い残すと、バイクに乗った。
持ってきたデジカメを確認し、ベスが眉を寄せた。デジカメで何とか甲斐を撮ろうとしたが、あまり上手く映らなかったようだ。
ベスが、顔を上げて三津屋を見る。小夜が三津屋の前に進み出た。
「三津屋さん‥‥あなたに聞きたい事があります。何故ミサキを作ったのか、あなたが何を知ったのか」
ミサキ‥‥。三津屋は、目を伏せて語り出した。
「僕は、あの件案七号と‥‥八号事件という関連事件を追っていた。しかし八卦は黒蜥と繋がる者が多く、僕は黒蜥からも追われる身となった。僕が調べた物を、何らかの形で残したかった」
話す事は沢山ある。ベスが三津屋と小夜を交互に見ると、声をかけた。
「とりあえず三津屋さんを保護出来る場所が無いか、あすかさんに聞いてみようよ」
「では、あすかさんの家がいいんじゃないでしょうか。シシリーも居ますし」
小夜が答える。
「煉獄‥‥」
ジスに、視線が集中した。
「煉獄は今までシシリーが収容されていた、警備の厳重な施設だ。八卦で内部分裂していようと、そう簡単に手は出せない。三津屋さんは煉獄に居るのが、一番安全じゃないか」
「そうだね。僕は蟇目大祭で姿を消してからずっと、黒蜥に協力して来た。煉獄に収容される理由はある。それに‥‥僕があすかさんの家に行くと、甲斐に付け入る隙を与える事になる」
「それは‥‥あのNWを呼び出した術の事ですか?」
アヤが聞くと、三津屋が頷いた。
「僕が緋門さんの家に行くと、彼女を必ず巻き込むだろう。そうすれば、人間である彼女に防ぐ手だてはない」
しんとする、一行。
既にもう、甲斐に追いつかれているよ。どこにも逃げ場は無い、時間の問題だよ。アヤがぽつりと言った。
煉獄に向かう前、三津屋は藤堂に連絡をしていた。その背中に、小夜が声をかける。
「一つ‥‥聞いてもいいですか?」
振り返った三津屋に、小夜が問いかける。フルヤさんに‥‥何か言う事は?
何も答えない。小夜は手を挙げ‥‥振り下ろす事なく、手を下ろした。