獣人Drs放映編・第五話アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
龍河流
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.9万円
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参加人数 |
9人
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サポート |
1人
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期間 |
05/22〜05/28
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前回のリプレイを見る
●本文
●『獣人と白衣とわたし』
最近活発な話題
・ナースのお部屋『第二話で着ていた衣装の入手先』
・秘書のお部屋『猫好きが猫に捧げるオフィス文具』
・薬剤師のお部屋『彼女の捜し人について』
・エンジニアのお部屋『トカゲ飼いたい‥‥』
・検査技師のお部屋『今回の貧乏くじ度』
・サブチーフのお部屋『娘がいてもいいです』
・インテリ眼鏡のお部屋『伊達眼鏡考察』
・代行のお部屋『自分ばっかりいい思いしやがって』
『深夜番組『獣人ドクターズ』ファンサイト『獣人と白衣とわたし』では、各キャラクターごとに熱い思いを書き連ねるお部屋をご用意しております。
参加資格は紳士淑女であること。詳細は以下をご確認ください』
「で、これはなんなんだ」
「ファンサイトー。作ってみたのー。今は代行のお部屋に『綺麗どころを侍らせて、クラシック演奏させてるんじゃないやい』ってツッコミが多いわよ」
「それはやっかみ」
●『獣人ドクターズ』第五話予告
謎のウィルス『フッキョーワヲーン』感染者を感知するレーダーの開発成功で、続けて二人の感染者保護に成功した獣人界衛生局防疫課人間界出張所のメンバー達。この日もレーダーに感知された感染者の保護に向かった空きビルで、彼らは感染者以外の人影を見付けた。
獣人姿の感染者と、その人影が向かい合うのを目撃し、獣人の存在がばれてしまったかと慌てるメンバー達だったが‥‥
「感染もしていないのに、どうして人間界に‥‥!」
「さあ、どうしてだろう?」
そこにいたのは、人間に姿を変えた一人の獣人。
捜し求めていた相手との突然の再会に平常心を失うメンバーに、その獣人は微笑んで。
「倒せ」
感染者をけしかけるのだった。
ウィルス『フッキョーワヲーン』は、どうして発生したのか。感染者達が揃って人間界へと逃げ込んだのはなぜか。
そして、感染者ではない獣人の存在が示すものは。
謎が謎を呼ぶ急展開!
●リプレイ本文
OP曲は、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』だった。
扉の開く映像に合わせ、次々と獣人の姿が現れる。
獣人ドクターズ課長代行の狼、熊野蕪村‥‥三田 舞夜(fa1402)。
代行秘書の猫、夜啼鳥(ナイチンゲール)‥‥紅雪(fa0607)。
サブチーフの鶯、カーラ・アディントン‥‥谷渡 初音(fa1628)。
研究員の猫、ルイ・セレネ‥‥リュシアン・シュラール(fa3109)。
メディカルエンジニアのトカゲ、ラガル・ティッハ‥‥エミリオ・カルマ(fa3066)。
薬剤師の蝙蝠、エリューシャ‥‥エルティナ(fa0595)。
臨床検査技師の竜、ウェイ・リュー‥‥星野・巽(fa1359)。
看護士の燕、リョー・ライト‥‥黒曜石(fa2844)。
最後に、タイトル画面に半ば隠れるように体格がよい猫の姿が映りこむ。ドクター・ゼロ‥‥田中 雪舟(fa1257)
生活感のない、居間と呼ぶにも簡素な調度しかない部屋の中に、『リゴレット』のアリアが流れている。
「ああ、おかえり」
テレビの画面に現れていたオペラの一シーンが消え、緊張が抜け切らない顔でそれを眺めていた猫獣人の表情が和んだ。視線の先には、まだ幼げな猫獣人の姿がある。
人ごみの中、黒に白地に銀糸の入ったフリルを満載したゴスロリ系の服に身を包んだリョーが、服飾品店のショーウィンドーにへばりついていた。片手に下げた、これまた黒の手提げからは高そうなパンが覗いている。
その横では、ルイが携帯電話でメールでも打っているような様子で、雑踏のほうに顔を向けていた。実際は彼らが獣人で、人間姿になって、この場で感染者を探しているのだとはとても分からない。
当人達はとても嫌だろうが、周囲からは買い物をしているカップルに見えるだろう。女性が足を止めてしまったので、付き合いきれずに入口の柱に寄りかかっている男性といったところだ。
「リョー、代行に連絡を入れてくれ」
「今計算が忙しい」
リョーの『計算』は、人間界金銭で貰える給料でどれだけ欲しいものを買えるかである。よってルイはまったく相手の事情に頓着しなかった。感染者の反応があったのだから、当然だ。
けれども。
「すまん、忘れてきた」
ピアノとバイオリンの奏でる旋律が、殺風景な店内に満ちていた。申し訳程度の数のテーブルと椅子を置いた小さな喫茶店の中で、人間界の楽器を奏でる獣人の姿は不可思議なものだが、旋律を聴いているとそんなことは気にならない。もちろんそれは、聴いている者も獣人だからだが。
「どうかなさいましたか」
「本局からワクチン投与後の感染者の状況報告が届いたのと、抗体検査の結果が出る頃なんだが‥‥終わりかね?」
カーラとエリューシャ、夜啼鳥の三人が、不意に訪れた空き時間に一曲合わせているのを覗いていた熊野は、仕事に戻るよりはまだ音楽を聴いていたい素振りだった。けれどもバイオリンを弾いていたときとは別人のように無表情に戻ったエリューシャはさっさと奥に行ってしまい、カーラは余計なことを言えば小言の一つ二つは飛んでくる気配だ。どちらも仕事優先なので、熊野にもそれは当然予想できる。
それでも、彼は秘書の夜啼鳥に言っていた。
「楽譜と新録音のCDは、経費から予算を組んでなんとかならんか?」
「先日も、そう言って本局から経費を回してもらったところじゃなかったの?」
「楽器を買うと、足りないんだよ。人間界の楽器は我々には作れないからなぁ」
カーラの指摘にしれっと答えた熊野だが、夜啼鳥が『三十枚組を買いましたから』と正直に答えたため、今度は速やかに仕事に戻っていた。夜啼鳥は、なんら態度が変わらず。
「後程、皆様が聞けるように開封いたしましょう」
と、苛立ちが表情に出ていたカーラに微笑みかけた。
一人先に仕事に戻ろうとしていたエリューシャは、スタッフルームへの通路端にある洗濯機の前で、ラガルがウェイを引っ叩いているのを目撃した。最近のラガルは、『人間界ではこれを使うらしい』とハリセンを用意して、ウェイが何か失敗したと言ってはぺしっと引っ叩いている。
「ああもう、これ絶対に壊れてるよ。探知機を水につけるなんてミス、するかぁ?」
ウェイが持っていたのは、じゃらじゃらと飾りやぬいぐるみのついた携帯探知機兼通信機だった。これがあれば皆との連絡も取れるし、いつでも感染者探索が可能なラガルの自信作である。最近はこれで続けて感染者を保護出来て、ラガルはそれはもうご機嫌だったが‥‥
基本的に無口なエリューシャが指で示したのは、ジャラジャラついている飾りだ。ウェイも同様に、『それそれ』と主張する。
「そんなに飾り付けてるのは、俺じゃないですよ。俺の、ここにあるし」
「私も持ってるわ」
あれとラガルが首を傾げたところで、彼の通信機から呼び出し音がした。二人にも聞こえるようにして、応じる。
「あ、ルイ? 今日はカレーだから」
『感染者の反応が出た。俺とリョーで先行する。すでに食材の買出し済みなので、車にはクーラーボックスを積んできてくれ。それと、リョーが探知機をそっちに忘れたらしい』
「ウェイが洗っちまったよ」
自分が見たときには、もう水に漬かっていたと背後で繰り返すウェイにでこピンを食らわせたラガルは、通信相手がリョーに変わったのに気付いた。
『服が試薬を被ったから、水に漬けた。しみになったら困るからな。‥‥ごめん、許して。また作ってね』
ぷっつりと切れた通信に、『そっかー』と晴れ晴れと笑ったラガルと、自分の嫌疑が晴れて安堵したウェイを、エリューシャが何か喉につかえたような顔付きで見守っていたが、そんな彼らを眺めていたカーラと夜啼鳥の会話は。
「男の子は、体力が有り余っているのね」
「最近は仲良くなったようでひと安心です」
車のキーを手にした熊野は、賢明にも沈黙を守っていた。
名前を表示していたはずの看板が入口から外されているビルの横、細い通路に入り込んだリョーとルイの二人は、三階の窓が開いているのを見付けた。頷きあい、リョーが燕の姿に戻ったかと思うと、周囲に解けるように消えていく。
この頃、ビル前まで到着していた他の六人は、ルイが確認したのと同じことを、探知機の画面から読み取っていた。
「感染者一名を確認しました。この距離ですと、三階あたりでしょう」
常に冷静な夜啼鳥が読み上げるデータに合わせ、皆の視線が3階へと上がる。熊野だけが周囲に首を巡らせ、隣のビルとの間の通路から顔を覗かせたルイを見付けた。身振りで上を示したルイに熊野と、同様に気付いたカーラが頷き返したところで。
か細いとは言えないが、明らかな悲鳴が響いたのだった。
「服がーなんて叫ぶのは、リョーしかいない!」
「否定はしませんが、助けに行くのが先でしょう!」
入口のドアを、鍵が壊れるような勢いで蹴破って、ラガルとウェイが中に飛び込んだ。続いた他の誰もちゃんと確かめはしなかったが、おそらく壊れているだろう。ちゃんと買出しの荷物を車に収めたルイは、取っ手を適当に整えてから上がっていっていた。
階段を駆け上がった一行は、三階の通路で姿隠しの能力が解けたリョーが猫獣人と睨み合っているところに辿り着いた。
更に、その向こうには壮年の男性の姿。こちらは人間である。
「あの服は‥‥」
人間界でなら詰襟タイプのドクターズウェアと呼ばれる白衣だが、エリューシャが何か思い出したように呟いた。けれどもそれを質す暇は誰にもなく、燕姿のリョーと猫獣人と男を見比べている。
獣人の存在を人間にはけっして悟られない。それは彼らが人間界に来る前に厳命され、されなくても承知していた事柄だ。感染者の判断力が鈍っていたとしても、リョーの姿は誤魔化せない。そんなことがないように姿隠しの能力を使っていたはずだが‥‥
そっと振り返った熊野に、夜啼鳥がこんなところまで抱えてきた紳士用の傘を示した。それに頷いて、前衛に立ったはいいが対応に困っているウェイとラガルの頭を超えて、男に話しかける。
「そちらの坊やとは、知り合いか?」
「知り合いかと問われれば、違うな。そちらのお嬢さんは人の部屋を覗く無作法を働いたので、お仕置きしたまでのこと」
魅惑的に響くテノールで返してきた男は、一行を見やり、あるところに視線を留めた。その目が、何か懐かしいものを見たように細められて、一度閉じられると共に豹変する。
「倒せ。そのお嬢さんだ」
『お嬢さん』と言われて、猫獣人と睨み合っていたリョーが身構え、ラガルとウェイがその前に立ち塞がるべく飛び出し‥‥猫獣人はエリューシャ目掛けて、飛び掛った。
けれども、その爪に掛かったのはエリューシャを背後から引き摺り倒したルイだった。
「莫迦か、男を庇ってどうする」
「なんでそこでばらす!」
転倒したエリューシャを助け起こし、ルイの傷の止血をしようとしていたカーラが、『仕事をなさいっ!』と一喝した。虚を突かれ、または別件で動きが止まっていた前衛三人が慌てて男を見やったときには、その姿が猫獣人のものに変わっている。
「あんた、もしかして」
熊野が上げた声を遮るように、幼げな猫のほうが奇妙な声を上げた。感染者が叫ぶのとも、獣人の咆哮とも違う、軋るような声だ。
「感染者と反応が違うわ。それに、反応が」
作動したままの探知機を見たカーラが、途惑いもあらわに口にしたので、ルイが指摘する。
「感染者ではないから、反応はしない。人間界に逃げたのは感染者のみと考えていた我々の、ミスか」
幼い猫獣人に翻弄されている、正確には相手の感染者らしからぬ反応にウェイとラガルが手を出しあぐねていると、相手は隙を突いてまたエリューシャに向かおうとした。この時、彼女に一番近かったのは熊野だ。
「代行っ、見てないで手伝って!」
「そりゃあ、女性は守るが、男は自分で頑張れよ。後で頑張った分、大人の遊びを教えてやるからな」
飛び掛ってきた猫獣人を、狼の姿に戻って蹴り飛ばした熊野が偉そうに宣言した。カーラの表情が更に険しくなったが、二対一でようやく対等の勝負になっている前衛を見て、すっくと立ち上がった。
やや上向いた彼女の喉から出たのは、『ブラームスの子守唄』。先程夜啼鳥、エリューシャと奏でていた曲である。続いてリョーが、スカートの中から取り出したとしか見えないフルートで、伴奏を始める。
「帰って来い!」
「よし、行け!」
男と熊野の声が重なった。カーラの歌に明らかに動きを鈍らせた猫の少年を男が呼び、熊野はルイに命じている。夜啼鳥がルイに差し出したのは、傘に仕込まれた細身の刀だった。ルイは剣術をよくする。
けれど、そのルイに飛び掛られた男も、そちらの腕では劣っていなかったらしい。手の中に隠しこんでいた小さな箱で、刃を受けた。箱が開き、プリズム状の光が零れ、床へと転げていく。途端に膝を着いた少年をウェイが取り押さえ、ラガルは転がってきた箱を拾い上げた。ルイはもう一度刀を振り抜き、男の足を止めようとしたが。
刃を腕で止め、ウェイと熊野を怪我人とは思えない膂力で投げると、男は少年を抱えて窓から飛び降りた。夜啼鳥が追いかけようと窓まで行き、熊野に止められる。
「何を言うの。ここで追わなかったら、探知機にも反応しない相手よ」
「そこはラガルに考えてもらうさ。だが、奴さんはあの子供を手放せない。人目に触れる可能性があることはするな。‥‥これ、上に報告したら予算増やしてくれるかね」
「ぶーさん、冗談でもそういうことは言わないで」
歌ってるときみたいに笑っていたほうが素敵なのにとほざいて、熊野がカーラを怒らせるのはいつものことだが、それを許容する精神状態にあるのは、この場では夜啼鳥以外にいなかった。
「感染者でもない人が人間界にいるなんて、そんな報告はないですよね?」
「他にもいるんだろうか」
「行方不明者のリストを請求する必要がありそうだな」
ラガルとウェイ、ルイがそれぞれの怪我を夜啼鳥が持ってきた救急箱で手当てしながら、暗い表情で互いを見交わした。もう一人のリョーは服の汚れを嘆いているだけなので誰も気にしない。注文した服を取りに行く時間に間に合わないとか嘆いているのも、熊野から『明日行け』と言質を取っておとなしくなった。へたり込んでいるエリューシャを、やはり服が汚れるという理由で立たせていて、カーラが目尻をもんだがそれはそれ。
すぐにもリストなどの請求をと、気を取り直したカーラに対して、熊野が要らないと身振りで示した。救急箱と一緒に車からパソコンをとってきた夜啼鳥から画面を見せられて、エリューシャと夜啼鳥以外の疑問に満ちた表情に答える。
「あの制服は、本局の研究所のものだ。関係者だな」
「先程の二名の外見と年齢から該当するのは、研究所のゼロ博士とその子息です。ドクター・ゼロと言ったほうが通じるかもしれません。我々が使っているワクチンの開発者です」
「子息っつーのが難病の罹患者でな。ウィルスや遺伝子の研究には熱心なお人だ。ちなみに息子の病気は『オンチ』だから」
「まあ‥‥まだ発症理由も不明で、治療法も確立していない病気じゃないの」
カーラのみならず、ほぼ全員が『オンチ』患者への理不尽な差別に思いを馳せている中、相変わらずエリューシャは青い顔で立ち尽くしていた。夜啼鳥に肩を抱かれているが、それにも気付いていない様子だ。
やがて、どうしたのかと何人かに尋ねられたエリューシャは。
「あの人、お義兄さんの上司で‥‥」
その義兄も行方が知れないのだと、大粒の涙を零した。