獣人Drs放映編・最終話アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 龍河流
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 4万円
参加人数 10人
サポート 3人
期間 07/17〜07/23
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●本文

●『獣人ドクターズ』最終話予告
 新たなウィルス、便宜上『セカンド』と呼ばれるそれのための新薬は、進行を止めることは出来るが、完治させることは叶わない。セカンド・ウィルスの感染者は、獣人界への帰還は叶わないのだ。
「別に悩むことじゃない。獣人界と連絡が取れないわけでもないし、選ぶ道は幾つもある」
 『フッキョーワヲーン』感染者のみを保護し、ワクチンを投与する任務を果たして、獣人界へ帰るか。
 『セカンド』感染者のために、人間界でワクチン開発に挑むか。
 いまだ捕らえられぬウィルス開発者を追って、犯罪者として獣人界へ送還するか。ワクチン開発に協力させるか。その背後の、獣人界の病巣を取り除くべく動くのか。
 それとも‥‥
「随分手の込んだ喧嘩を売られたんだ。せいぜい高く買い取って、華々しく皆様にお披露目してあげればいい。我々には、あちらにはない『音楽』がある」
 様々な思いのためを込めたクラシックの旋律と歌声が、幾重にも絡んで‥‥

 望むものを手に入れられるのか、ドクターズ!

●今回の参加者

 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa1257 田中 雪舟(40歳・♂・猫)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa1402 三田 舞夜(32歳・♂・狼)
 fa2844 黒曜石(17歳・♂・小鳥)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3109 リュシアン・シュラール(17歳・♂・猫)
 fa3172 浪井シーラ(26歳・♀・兎)
 fa3860 乾 くるみ(32歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 OPは、バッハの『ブランデンブルグ協奏曲第五番・第一楽章』。
 写真付きの書類がめくられていく。
 看護士の燕リョー・ライト、黒曜石(fa2844)。
 臨床検査技師の竜ウェイ・リュー、星野・巽(fa1359)。
 研究員の猫ルイ・セレネ、リュシアン・シュラール(fa3109)。
 薬剤師の蝙蝠エリューシャ、エルティナ(fa0595)。
 メディカルエンジニアのトカゲ、ラガル・ティッハ、エミリオ・カルマ(fa3066)。
 サブチーフの鶯カーラ・アディントン、谷渡 初音。
 代行秘書の猫夜啼鳥(ナイチンゲール)、紅雪(fa0607)。
 課長代行の狼熊野蕪村、三田 舞夜(fa1402)。
 そして用紙が変わり、兎のレリア・トパーズ、浪井シーラ(fa3172)。
 猫のドクター・ゼロ、田中 雪舟(fa1257)とオリジン、ユリウス・ハート。
 狼のリディア、ヴォルフェ。
 犬のジェーン・ドゥ、乾 くるみ(fa3860)。
 二つの世界を繋ぐ、固く縛められた扉を背景に『獣人ドクターズ』と現れるタイトル画面には、逆光でその全員が、僅か三人以外は背を向ける形で入っている。

 倉庫のような建物の中で、ドクター・ゼロは細長い大きな箱を前に佇んでいた。背後には、立っていられないほどに苦しいといった様子の狼の青年がいる。
「リディア、我を張るものではないよ。眠っていれば、義妹が助けてくれるかもしれない」
 彼女は有能だが、我が強いところがそっくりだと、そう言われたヴォルフェは何か言おうとして、結局は果たせない。
「私は私以外の者が、セカンド・ウィルスを完成させることを望まない」
 意識のない青年を、まるで棺桶のような箱に入れたゼロは、奇妙に白っぽい顔で呟いた。
「ワクチンもだ」
 倉庫の隅には、彼の息子が別の箱に腰掛けていて‥‥そちらを見る表情は、別人のように優しげだった。

 部下からセカンド感染者を出した熊野は、そのウェイとエリューシャを前に珍しく渋い表情だった。不注意が原因のウェイは肩をすぼめ、自ら感染したエリューシャは無表情を通り越して仏頂面だ。
「例のイレギュラーはいいんだ。別に仲間じゃないから。しかしおまえ達が感染したんじゃ、やっぱりワクチンは本腰いれて開発しないとな」
「今までは適当だったのですか?」
 先日の怪我以来、少し性格が変わったと周囲に思われている夜啼鳥が、熊野の上げ足を取る。珍しい光景を注視したウェイとエリューシャは、ややあってから『仲間だから』と言われたことに気付いた。
「代行、今のは」
「実験するのに便利だとか思ってませんよね?」
 期せずして同じことを思い付いた二人が、それを口にしてから、自分の口を押さえた。今更だが、一応下など向いてみる。どちらも反省はしておらず、ワクチン製造から外されてたまるかと、同じことを考えている。
 そんな二人に熊野は。
「俺達は、仲間じゃないのか?」
 命が危ないままに出来るかと、当然のように笑った。

 その頃、ドクターズの拠点を抜け出したルイは、レリアと会っていた。相手の上の空な様子が気に掛かるが、彼とて様々な心配事を抱えている。立場は違えど、レリアもそのことで悩んでいるのだろうと考えたルイだったが‥‥
「レリア?」
 その呼ぶ声には振り返らず、ただこの世界の表記である住所を示したレリアは、少し間を置いてからルイを振り返った。何事もなかったように、『梅味ではないキャンディー』を彼に差し出してくる。
 チェリー味だった赤いキャンディーを舐めつつ、ルイはレリアの横顔を観察した。いつもと変わらないように見える、でもどこかが不自然な横顔を。
「君は、この情報をどこで手に入れてくるんです?」
 ルイの問い掛けは小さな声ではなかったが‥‥返事は与えられなかった。

 退屈で死にそうだと、スタッフルームに設えられたベッドに横になっていたジェーンは、様子を見に来たラガルとリョーを見て、嬉しそうだった。
「退屈で退屈で。一人じゃこの楽譜は演奏できないし、体は平気なのに」
「ひっくり返って死にそうだったのは誰だよ」
「一度呼吸が停止しているのだから、ワクチンを接種したからと油断するな」
 また発作を起こしたら、今後こそ後遺症が出るかもしれない、そうしたら演奏どころではないと脅かす二人に対して、ジェーンは素行のよくない患者だった。言われている最中から、ラガルが下げているサックスの入ったケースを奪おうと手を出している。
 その手をラガルが払い、リョーが捉えて脈を取ろうとした時になって、ジェーンの様子が変わった。手が震え始め、それが激しくなって‥‥
「ラガル、代行とカーラさんを!」
 痙攣を起こし、更に意味不明の叫びを上げるジェーンを押さえつつ、リョーがラガルを促す。その時にはすでにラガルは部屋から飛び出していて、騒ぎを聞きつけた熊野や夜啼鳥、エリューシャ達が駆けつけるところ。
「やれやれ。この様子を見ると、ゼロ博士からウィルスのデータを全部取り上げないわけにはいかないな」
 居場所を示す情報があったので、これから向かうよと宣言する熊野の後方では、ルイが何か戸惑った顔付きのままで立ち尽くしていた。
「わざわざあたしを助けてくれるわけ?」
 ジェーンの力のない声に返ったのは、『我々はドクターだから』と。

 慌しく喫茶店を飛び出していくドクターズの姿を遠くから眺めて、レリアは満足の笑みを浮かべた。自分が今やるべきことは、着々と進んでいる。
 切り札となるはずのデータを手に、彼女は自分が勝者だと考えたが‥‥ドクターズが乗る車の立てる音さえ聞こえないことに、ふと眉を寄せた。
「ルイと話をしていた時は、なんともなかったのだから‥‥」
 自分に言い聞かせるかのような彼女に、頷いてくれる存在はない。

 倉庫に並んでいるのは、ドクターズが感染者を保護し、獣人界に送り返す際に使う冬眠処理設備と同じだった。中に眠っているのは、獣人界から行方不明になった、医療従事者達。
「あなたは一体、なにをしたの!」
 噛み付くような勢いのエリューシャを、夜啼鳥とリョーが止めている。油断なくゼロと、その傍らの息子オリジンとを睨むラガルとウェイ、何か訊きたげだが口を結んだルイとカーラ、場違いににこやかな熊野。
 彼らを前にしたゼロは、顔をしかめるオリジンの肩を抱いて宥めつつ、熊野に視点を定めて口を開いた。
「君は、最初からなぜとは訊かないね?」
「聞いてどうなる? 難病治療法共同研究の申し出なら、ありがたく受けたがね」
 それよりもと、熊野はカーラから受け取った書類をゼロに示した。そこに書かれているのは、一つが人名の羅列。もう一つはこの場所を示す住所。
「タレコミが二件あった。一つは獣人界あてに、違法人体実験関係者のリスト。もう一つはこの場所の情報。内部分裂ついでに、ウィルス開発データをくれ」
 まるで世間話のように出てきた『違法人体実験』との言葉に、ゼロとオリジン、熊野、カーラ、夜啼鳥以外の五人が動揺を見せる。予想はしていたし、目の前の冬眠処理設備は動かぬ証拠だが、それがこれほどの人数になると今更のように自覚したのだろう。
 オリジンだけは会話が聞き取れないのか、苛々と耳をかきむしろうとして‥‥ゼロに手を握られていた。その様子を目にして、ルイが今まで以上に顔をしかめる。
「あなたは、何を考えている?」
「今頃になってそれを尋ねるようでは、選んだ甲斐がないな」
「では、セカンドのワクチン開発を成功させているかどうか、お尋ねしましょう」
 ルイの思わず漏らした問いはあっさりと除けられたが、これまで戦闘の先陣を切っていたウェイが穏やかに問いかけたのには、ゼロはまるで生徒を見る教師のように微笑んだ。
 けれど。
「ワクチンなど‥‥私が目指したのは、完全なセカンド・ウィルスだ。現状では、あまりにも不完全で人を選ぶがね」
「これまでの観察データから見て、おまえと息子も感染しているだろう。自分達は選ばれたので、他は見捨てるつもりか? 意外そうな顔をするな。俺達はドクターズだ」
 演奏と攻撃だけが能ではないと、リョーも冷静に言い募る。初対面のときとは別人のよう。ゼロに評された若者達のその向こうで、熊野がずっと変わらぬ口調で宣言する。
「我々は保菌者の保護と治療を目的とする。息子共々、保護されてくれ。延命治療は得意じゃないが、息子の抗体検査のお礼に、努力しよう」
「こと」
 断ると続くのだろう言葉がすべて音にならないうちに、ゼロの声が途切れた。その視線の先、オリジンがうずくまって震えている。先程まで自信に満ち溢れていたゼロが、そちらに手を伸ばすことも、声を出すことも出来ずに、眦が裂けそうなほど目を見開いていた。
「セカンド発症を確認しました。ワクチンの投与が一時間以内に必要です」
 夜啼鳥の場違いに平坦な声が、この場の誰もが知っていることを告げる。その時にはすでに、エリューシャとルイがオリジンへと駆け寄っていた。
 そのエリューシャの目が、オリジンが座っている装置に向けられ‥‥引き剥がすように、ワクチンを入れた鞄に戻される。
「馬鹿な、この子には抗体が出来ていたはずだ!」
「セカンドが不完全だと言ったのは、あなただ」
「投与ワクチン、No.3。投与時刻‥‥心配せずとも、私が打っているものと同じよ」
 手馴れた動作でワクチンをオリジンに打ち込んだエリューシャが、データ記録を取っている夜啼鳥への報告を途切れさせて、ゼロに教える。別人のように肩を落としたゼロを、すでにウェイとリョー、ラガルが包囲していた。
「エリューシャ、No.5を寄越せ。ゼロ、うちで作った最新型だ。息子の治療を投げ出すなよ」
「‥‥無理だ。すでに視力も内蔵機能も低下を始めている。延命したところで、研究など出来ない」
 痙攣が収まったオリジンの、身動きがままならない体を抱きしめるゼロは、途中でラガルが支えなくてはならないほどに力を失っていた。会話は聞き取れずとも、父親の異常を察知したオリジンがその体にすがりつく。
「代行、空いている装置が一つあります」
「夜啼鳥、冬眠処理だ。カーラ、景気付け頼む。息子も後で冬眠させておく。心配するな」
「大統領の息子の約束か。心強いと言うべきだが、請求が高そうだ」
「前払い、ウィルス開発データで頼もうか」
 今、何か不思議なことが聞こえたと言わんばかりに顔を見合わせた若者達の間から、夜啼鳥がワクチンの入ったケースを取り上げる。オリジンを抱きしめたカーラが皆を振り返り、用意はいいかと目で問うた。
 各々が楽器を構え、奏でられるのは悪魔のトリル。けれどもそれはジェーンの持っていた楽譜によって、まるで別の曲へと変わっている。もはやトリルとは言えない、不思議な旋律。
 やがてその音が途切れた時、オリジンが父親、エリューシャがようやく見出した義兄の入った装置に取りすがって泣く姿があった。


 溢れる光の中、二つの世界を繋ぐ扉をくぐる影が幾つか。残る影も。

『夢への扉叩く音 聴こえますか?
 誘いに 辿る教えを
 進み行くよ Holly night』

 退屈はしないと思うので、更に気合を入れてワクチンの研究を。
「馬鹿かおまえは。もっと前向きに、こちらの世界で得たものがあるからだとくらい言え」
「リョー、俺はそもそも感染者だから帰れないんですよ。ルイの結婚式に出るために、ワクチンは絶対に開発しますが」
「ああ、大事な仲間だからな。さて、買い物は終わったから、あの店のバーゲンを」
 今までとまったく変わらず、でも足取りだけは軽く、ウェイとリョーが買い物した品物を下げて雑踏を歩いている。今夜のメニューは、多分カレー。

『想い乱すノイズ打消し 君に届け 星屑のシンフォニー 心に生命の旋律を
 Beast night 今 夢を奏でよう』

 エリューシャがバイオリンを奏でるのは倉庫。
 床に並べられた冬眠処理装置の中、その傍らには彼女の捜し求めた義兄が眠っている。
 ドクター・ゼロとオリジンも隣り合う装置の中。

『祈りは力となりて 側にあるから』

 瀟洒な建物の中、生気なくピアノの前に座っているレリアは、人の気配にぎくりと体を震わせて振り返った。
「やっぱり、聞こえないのか。‥‥心配ないよ、レリアは俺が治す」
 困惑気味に自分を見上げるレリアの掌に、指で言葉を綴って、ルイは彼女を抱きしめた。
「その為に、帰ってきたから」

『愛を壊すノイズかき消し 空に響け 月影のハーモニー 心に絆の旋律を
 Beast night 今 愛を謳おう』

 届いた書類を一瞥したジェーンが、愛用のギターとバイオリンを取り上げた。
「ちゃんと定期的にワクチン取りに来いよ。そしたら合奏しよう」
「ん〜、きっとあの代行が手を回しちゃったんだと思うけど」
 音楽でのセカンド・ウィルス治療の道も模索しているラガルに、ジェーンはにかっと笑いかけた。
「治験者として、こちらで世話になれって。キャンディーの安い店、教えてあげるから」
 あたしもちゃんとした部屋が欲しい。ジェーンの希望に、ラガルが慌てている。

『扉打ち破る力 感じますか?
 闇に安らぎ 育まれる』

 セカンドに感染していないにもかかわらず、獣人界に戻らないと告げる熊野に、カーラは不審の目を向けた。
「報告よろしく。俺はこちらで、感染者の治療に専念するから」
「面倒ごとを押し付けるのですから、もっと誠意のある挨拶でお見送りしませんと」
 戻ってきてもらえませんよと、夜啼鳥がひとくさり。その微笑には、『戻ってきて』と含まれている。

『光誘う 未来の道筋
 歩み行くよ Holly night』

 帰る者と留まる者がいて、でも。
 二つの世界を繋ぐ扉は、閉ざされてはいない。

●ピンナップ


エルティナ(fa0595
PCツインピンナップ
嘩月 彰