着ぐるみ演劇ショー・弐南北アメリカ

種類 シリーズ
担当 龍河流
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 10.2万円
参加人数 10人
サポート 2人
期間 11/08〜11/14
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●本文

 ラスベガスの着ぐるみ演劇ショー。
 ありとあらゆる娯楽の都を自負するラスベガスの片隅で、おおむねファミリー向けに展開されているこのショーコンテストの開演が今年も間近に迫ってきた。観客からの投票で順位が決まるコンテスト形式なので、もちろん参加団体の登場順と開演時間は大変気になるところだが。
「時間が初日の十三時半と最終日の十五時半。素晴らしくいい時間帯よね。通し稽古は二日前の十四時と前日の十一時。うーん、完璧だわ」
 主催者事務所で参加団体公開で行われたくじ引きで、日本から初参加の着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』の笹村睦月は驚異的なくじ運のよさを発揮した。本人は当日事故がないことを祈っている。
 このコンテスト、参加団体数で開催日数が増減するが、今年は五日間行われる。参加団体はその間にくじ引きで決まった時間に二回の公演をこなし、観客からの評価をいただくのである。当然初日と最終日は注目度が高い。ついでにご飯の時間はもともと公演が無いが、お茶の時間は観客数が少ないというこれまでのデータもあった。それらを考えれば、完璧な時間帯である。
 通し稽古も運が悪いと夜の十時からとか始まるのである。それだとちょっと厳しい。そもそも現場での通し稽古が二回しかないのが、とてつもない状態でもあるのだが。
「ドライアイスも手配済んでるし、大量に貰っておいたから、通し稽古でもたくさん使って平気よ。何か言うことは?」
「特に無い。しかし結構至れり尽くせりで助かるな。後から大金の請求書とか来ないだろうな」
 小学校から中学、高校まで同級生だった水沼裕次郎ことユウに、睦月が尋ねている。今回宿泊するコンドミニアムの手配から、日常必要な機関やスーパー、更には使用に許可がいる機材の入手と使用許可まで主催者側が担ってくれているのだ。そりゃあ、後の請求書を心配してもおかしくはなさそうな様子である。
 しかし、『そのうち裕子に改名して、戸籍もちゃんとするから』と宣言するユウは、胸を張って断言した。
「心配ないわ。だってアジアの六十団体に声を掛けて、応募してくれたのが十六で、予選通ったのが二つだけよ。韓国の劇団と『ぱぱんだん』だけなの。うちの団体も全力を挙げてサポートするわよ」
 世界中の着ぐるみ劇団の祭典にしたいばかりに、主催者側が多少は融通してくれている感じだ。睦月はコネがあるなら使うことにためらいが無いので、まあいいやと思っている。
「じゃ、ひたすら練習して、日本らしく忍者ものの上演するから。韓国ってどういうのするんだ?」
「ロミオとジュリエット風の、ハッピーエンドミュージカル」
 それはロミオとジュリエットではないよという意見もあろうが、とりあえずさておこう。
 もうすぐ、『ぱぱんだん』初の海外上演なのである。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0413 フェリシア・蕗紗(22歳・♀・狐)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)
 fa2681 ザ・レーヴェン(29歳・♂・獅子)
 fa3109 リュシアン・シュラール(17歳・♂・猫)

●リプレイ本文

 直前で配役一人変更。
 マネージャーの手違いで来られない従兄に代わって来たフェリシア・蕗紗(fa0413)は恐縮していたが、こういうことは着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』の歴史には多々あったらしい。
「代役寄越すだけ気が利いてるわ。たまに逃げるのがいるからね」
「これで厄落としかな」
 そういう考えでいいのかと、皆は思ったりするのだが、笹村家の人々は気にしない。初美と睦月がいいと言えばいいのだ。恵一郎パパはどんと構えているし、葉月は飄々としているし、カンナは。
「あのね、サンドイッチ買うから、心配しなくても大丈夫だよ」
 姉川小紅(fa0262)と蘭童珠子(fa1810)と三人で、お弁当用のおにぎりを握っていた。ダミアン・カルマ(fa2544)にそれより練習に専念してと、台所から追い出されている。
「着ぐるみがない分、動きがいいだろう。よく練習すれば問題なかろうさ」
 狐の教師のヒバリ役変更にも、相方のジョージ先生役ザ・レーヴェン(fa2681)は動じない。さっそく蓮城久鷹(fa2037)に入ってもらって、まずは動きの確認に入っていた。
 その後はポム・ザ・クラウン(fa1401)に習って、忍術技の練習だが、フェリシアは合気道も出来るので諫早 清見(fa1478)が技でやられるシーンは合気道技でするりと投げることに変更することに。キヨミの演じるリーダー、ラウスも見せ場が一つ増えるが、大変なのは演出家。
 それと、変更で背景の移動が必要かどうかの確認をするトシハキク(fa0629)だが、流石にそこまでの手間が発生しないように、ヒサも配慮したようだ。
「ダミアン君、さっき来てたの誰ー?」
「何か貰ってたでしょ、見せて」
 練習とは違う方向性に気付いて、賑やかにしては睦月に怒られているのが小紅とタマ。ダミアンは聞こえなかった振りをしている。ジスも何か尋ねたそうにしていたが、こちらは自分で『あと、あと』と呟いていた。
 そうして。
「手品の種は絶対に他人に教えたら駄目だって言われたけど」
「これは一応市販のグッズだけど、吹聴したらいけないの」
 フェリシアはステッキから旗をするすると取り出す練習をし、付き添うポムははらはらしっぱなしだが、幸い演技力に恵まれているのでささやかな手品も華麗な忍術風にしてくれそうな気配である。
 後はひたすら、全員で練習練習、また練習。
 校長、ジョージ先生、ヒバリ先生、ラウス、ナギ、トマコにワカナ、ルベツとラン、スーになりきって、ひたすらに練習をする。
「重いものは俺が運ぶから、衣装が汚れないようにしてくれなきゃ」
 舞台設営準備の練習では、ジスがその気になると力持ちの役者陣に注意を促している。全員で取り組むとはいえ、手順はきっちりしておかないと。
 本番舞台での通し稽古も無事終わり、後は上演するだけだ。

●『Schoolmates of NINJA!』
 忍者学校の毎日は、体術と忍術の修行に明け暮れる。
「忍者は体力だ! おらっ、走れ! 飛べ! こんな草も越えられないのか!」
 ジョージ先生が、生徒達をスパルタ教育中。徐々に延びる草を飛び越える修行だが、生徒は皆でぐるぐる回っては飛び、回っては飛び、回っては‥‥飛べない。高すぎる。ジョージ先生は華麗に飛んで見せるが、なぜかそのときだけ草の丈が下がったような?
「忍者は武術だ! このくらいの木は真っ二つにして見せろ!」
 ジョージ先生が、生徒達にまたまたスパルタ教育中。皆が刀を握って立てられた木を切ろうとするが、なかなかうまくいかない。皆で何度も繰り返すうちに、ようやく倒したけれども、客席の子供からブーイング。ジョージ先生は一撃ですっぱり、拍手喝采だ。
 忍者学校の毎日は、まだまだ修行に明け暮れる。
「はぁぃ、そこ。サボりは許しませんよ」
 性別不詳の声でヒバリ先生が生徒達に忍術を教えている。杖の先からボールが飛んだり、いつの間にやら仕掛けられていた網で逃亡しようとした生徒が捕まったり。網で団子状態に捕まった生徒達が、客席の家族連れから笑われている。
 ヒバリ先生は手を休めない。忍者の仕事を暗誦している生徒達が間違えると、びしばし鞭が飛んでいる。当ててないけど、怖い先生だと家族連れからの視線が変わっていた。
 なんて、先生達に厳しく忍者の道を教えられている生徒達だが、チームワークは今ひとつ。それどころか練習も在校生と留学生で分かれているから、それぞれ同じことでつっかえる。お互い、相手の悪いところは目敏く見付けてからかうので、ちっとも仲良くなりはしない。
 しかし、問題は。
「「こんなもの食べ物じゃなーい!」」
 食べ物の恨みは怖い、だった。生徒間の争い勃発。校長先生の『お願い』こと命令で、卒業試験に突入である。

 その頃、舞台の裏手では。
「背景動かすぞー」
 学校内から山の中に、ジスが背景を動かす手筈を整えていた。一人ではいかに彼とて無理なので、このときばかりは役者陣も参加である。客席から見えたら大変の、在校生、留学生、先生の共同作業。
 合間にダミアンが次に使う小道具を皆に差し出し、水分も取らせている。そんな彼の字で『触るな』と張り紙されているのは、ドライアイスの容器だ。煙玉のための準備が、これから彼を待っている。
 ヒサは時計を睨んで、皆に登場時間の合図をしていた。なにしろ音声が録音だから、ずれるわけにはいかない。

 卒業試験が始まったはずだが、先生達は隠れてしまって見付からない。在校生と留学生があちこち覗いて歩いているが、どこにも手掛かりがないようだ。客席からは、『ここ、ここ』と客席通路をうろうろしている校長先生以下三名を教える声がするが、生徒達には聞こえない。先生達の背中には、『ただいま姿を消す技使用中』の札が掛かっている。
 草むらを覗いていたラウスと、近くを歩いていたランがぶつかった。どちらがよりドジかで言い争い、懐から取り出したのは手裏剣だ。拳銃を取り出す仕草に似ていたのは、一触即発気分を盛り上げるため。
「お前、生意気アル。お仕置きアルよ」
「何を言ってる。手裏剣投げ下手くそのくせに」
「ちょっと二人とも。喧嘩している場合じゃないでしょ。どんなときでも冷静に任務遂行するのが忍者だよ」
 学級委員のトマコが割ってはいるが、どちらも一歩も引かない構え。
『やっちゃえー、ゴーゴー』
 人形遣いのスーが、当人の声ではなく応援している。人形のキーちゃんが踊っているが、踊らせているのがスーなのは見え見えだ。スーはあさっての方向を向いているが、手が動いている。
「スー、お前もまとめて怒られたいらしいな」
 トマコの静止も空しく、ナギまでが手裏剣を取り出して、ワカナとルベツがトマコを下がらせようとする。そこに掛かるのは、客席からの『あぶなーい』の声だ。
 ちゃっかり舞台上に戻っていた『姿隠し中』の先生三人が、睨みあっている生徒達の頭をポコポコポコと叩いていく。見えていないことになっているから、生徒達は揃って、どこだどこだと見当違いのところに腕を差し出す。その間に、先生達はお互いに背中の札を取り外して。
「「「「「「「あっ、先生達! いつの間に!」」」」」」」
 こんな時、見ている人は『そこにいたじゃん』と思うものだが、それは織り込み済み。とにかく派手に驚いて見せるのがお約束だ。
「早い者勝ちアルよ!」
 見付けたからにはと、スーが威勢のよい掛け声とともに、飛び蹴りを放った。飛び蹴りとなっているが、その実ランが担いで、よっこらしょと動かしている。これでは校長先生も当たるわけにはいかない。二人まとめて、軽くいなされた。トマコに助けられるも、『助けてなんていってないアル』と振り払う。
「おかしいアル」
「あんなにうまく飛べたアルよ。どうしてアルか」
 舞台の片隅で、二人で作戦会議に移る留学生パンダ達だった。理由が分からないのは、もちろん二人だけだ。なぜって、とろいから。
 その間にも、ワカナとルベツがジョージ先生にでこピンで倒され、舞台上を派手に転がっている。ワカナは端まで転がって、どういう作用か反対端まで跳ね返った。途中、立ち上がったルベツがそれで足をすくわれる。
 そういう二人はさておいて、卒業試験遂行のためにトマコがヒバリ先生と縄技の応酬だ。縄だが、びしばしと互いの間で鞭のような音がしている。これはもちろん効果音。更に、すらりと音がして。
「ヒバリ先生、覚悟!」
 ナギが刀を振りかざして、気合一閃飛び掛る。だが、しかし。
「「あー、ドジったアル」」
 そんなところだけ見ていたランとスーが、ヒバリ先生の技でトマコの投げ縄に掛けられたナギの回りでスキップを始めた。
「お前達、試験だって忘れたな! ここは俺達の勝ちだっ」
 ラウスが景気よく叫んで、ちゃんと一人で飛び蹴りをジョージ先生に。でもジョージ先生はそれを受けても揺るがなかった。
「今の蹴りも効かないなんて」
「ラウス、あの技だ」
 ささっと土台を組んだラウス、ルベツ、ワカナを踏み台に、ぽんと宙高く飛び上がると、客席がわあっと沸いた。が、尻つぼみになったのは、ラウスがジョージ先生と校長先生に受け止められて、投げ返されたから。ラウスとルベツが上手に受け止めるが、客席からはブーイング。
「み、皆、今のうちに巻物を」
 けれどもその中で一人果敢に、トマコがジョージ先生を背中から羽交い絞めにした。身長差、実に三十センチ以上、ほとんどトマコが背中にぶら下がっている姿勢だが、初めて在校生、留学生ともに巻物目掛けて飛びかかろうとした。ところが。
「あ、先生の頭‥‥」
 トマコが不意に脱力して、振り回された弾みで放り出されたのである。とっさに受け止めたのはランとスーの留学生コンビ。ちょっとよろけつつも、しっかりトマコを受け止め、二人で顔を見合わせて、それからトマコの顔を覗き込み、叫んだ。
「「死んでるアル!」」
 『せっかく助けてあげたのに』と恩着せがましいが、さっき助けられたのでおあいこだ。慌てふためく留学生二人の間で、トマコは『死んだ振りの術』と札を掛けられて横になっている。本当に術を使うと不測の事態に対応できないので、気合を入れて固まっているところ。
「蘇生するアル」
「人工呼吸は」
 やたらと詳しく蘇生法をしゃべり始めた二人はさておき、在校生もショックを受けていたが、ヒバリ先生が懐から『薬』と日本語と英語で書かれた袋を取り出して、一言。
「これを飲ませると生き返るかもねぇ」
 『早く飲ませなきゃ』と在校生と留学生の意見が、初めて一致した。お互いに顔を見合わせ、ナギが『一時休戦だ』と言えば、『手伝ってあげるアルよ』とランは恩に着せる。
 ようやく協力態勢が出来た生徒達はトマコが『死んだ振りの術』中なので六名、教師側が三名で最初はチャンバラ状態だった。けれども、スーとランが『必殺技!』と声を揃えて取り出したのは黒と黄色で危険物らしく作られた球だ。
「ナギ、飛べっ!」
 パンダ二人がまったく同じ動作で、ジョージ先生とヒバリ先生に球を投げつける。派手な破裂音と共に、舞台上にドライアイスの煙が溢れ出した。ついでにどこからか糸の束が降ってきて、先生二人を絡め取る。
「丸薬と巻物、どちらも貰い受ける!」
 先程より高く投げ上げられたナギが、空中での一回転を加えて、構えた刀で先生二人を打つ。更に校長先生が下敷きになった。ナギの手には見事に、目指す品物が二つ。
 けれどもナギは打たれてしゃがんだジョージ先生の頭を見て、『ぷっ』と吹き出した。皆が何事かと思えば。
「ジョージ先生の頭に、二十五セントくらいの禿があるー」
 日本だったら十円禿だが、アメリカなので二十五セント。この声とともに、『きゃー』と悲鳴が上がった。
「いやー、ジョージ先生にはげなんてー」
 『死んだ振りの術』札を引っぺがしたトマコが、元気に叫んで、ショックだとまたよろめいた。心配させてとルベツが殴ろうとして、ワカナがなだめている。介抱するのはランとスーだ。
「ええい、人が気にしていることを!」
「あらぁ、でも昔からあるじゃない。たてがみで隠すなんて、恥ずかしがりね」
 ほら、ここに立派な禿がと、客席に見えるようにヒバリ先生が頭を押さえる。ジョージ先生が必死に隠すので、なかなか見えないが。
 そんなことをしていると、二人に絡んだ糸が更にぐるぐるになっていく。それを見て、
「納豆をヒントにしたけど、臭いから寄らないで欲しいアル」
「納豆はやっぱり食べられないアルよ」
「身体にいいんだって言っただろー!」
「辛いものばかり食べるなっ」
「食べ物の好き嫌いはいけないのよ」
 きゃいきゃいと生徒達が騒いでいると、校長先生がパンパンと手を叩いた。
「卒業試験はこれにて終了。でも卒業式の前に、あの四人を助けてあげてね」
 四人? と振り返った生徒たちの視線の先、舞台の中央では、増えに増えた糸にまかれて座り込んでいる先生二人と、助けようとしたのか同様のルベツ、ワカナの四人が座っていた。
「ジョージ先生がー!」
 卒業式までは、もう少し掛かりそうだ。

 幸運付与の効果があったかどうかと思いつつ、ジスはダミアン、ヒサ、葉月の四人で幕が下りた舞台の上を走り回っていた。カーテンコール代わりに役者は皆客席通路を回っている。その間に片付けを始めておかねば、次の劇団に迷惑が掛かるからだ。
「残り時間二十分。後十分で次の劇団が入り始めるぞ」
「道具は戻ってからケースに詰めなおすから、とりあえず片付け優先で」
「観客の反応はどうかな?」
 それが分かるのは、もう少ししてから。
 何人かがそれぞれ気に掛かっていることも、今のところは後日のことである。