着ぐるみ演劇ショー・参南北アメリカ

種類 シリーズ
担当 龍河流
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 0.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 11/24〜11/26
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●本文

 ラスベガスの着ぐるみ演劇ショーは、今年も一人の重傷者も出さず、消防車が来る騒ぎも起こさずに演目の全てを終了した。明日には参加団体の中から、優勝劇団が公開される。後は成績順に、優勝団体の再上演前後に時間を合わせたお仕事が回ってくるのだが‥‥
「この上演前の来客お出迎えって、具体的にどの辺の成績なのよ」
 優勝劇団以外の順序は公表されないことになっている。何年も参加していれば、大体察することも出来ようが日本代表の看板を背負った『ぱぱんだん』は初参加。笹村初美はさっぱり予想が付かないので、主催者スタッフの一員である友人に尋ねている。
「三位。初出場団体では最高レベル。気になるだろうから教えておくと、韓国も同率。初出場三位は今回で三度目四団体だって」
「来年は来れるか分からないわよ。費用がかさむし」
「忍者もの、受けるんだけど。民族衣装とか」
 『ぱぱんだん』はかなり細かいところに目をつぶった忍者もので、韓国の劇団は民族衣装をあちらの装身具で飾り立てた華やかさで観客を魅了した。
 だが、流石に優勝には及ばなかったようだ。『ぱぱんだん』としては、『日本から唯一参加』の肩書きが得られたので商業的な目的は一応達成されている。
 すると次には。
「あ、はっちゃん。お土産どうするの。おばさんやおじーちゃんおばーちゃんに買っていかないと、怒られるわよ」
「お父さんが買いに行くとは言ってたけど、危なっかしいからついていく。任せても、決められなくて空港で買うようになるのは目に見えてるし」
 『ぱぱんだん』の団長笹村恵一郎は、仕事以外ではおっとりのんびりした性格だ。お土産を見て歩いているうちに飛行機登場直前なんてことは、容易に想像できる。それゆえ、初美が同行することにしたらしい。
「睦月や葉月は? カンナちゃんは食べ歩き先をリストにしてたけど、一人で行かせると危ないから、どっちかは付き添わせて、もう片方連れて行けば? 他の人達も仕事が終わったら観光とかで自由行動でしょ?」
 長年の友人のユウの助言に、初美は『けけけ』と気味の悪い笑い方をした。それから。
「もう十二月になるから、我が家の例年最悪の月だから、まあ大目に見てあげましょうよ。今年は乗り切れるといいなぁ、今年は」
「‥‥はっちゃん、一昨年ははっちゃんで、その前が睦月で、同じ年に葉月もだっけ。去年は誰かいたの?」
「卯月」
「あー、卯月か。って、あの子も彼女なんか作る歳になったのねぇ」
「クリスマスはバイトがあるからごめんねって言ったら振られたって」
 初美とユウはなにやら語り合っているが、とりあえず。
 着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』は着ぐるみショーの最後を飾る優勝劇団の再上演で、お客様のお出迎えをロビーで行なった後に、二日半の自由行動を経て、帰国する予定である。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0413 フェリシア・蕗紗(22歳・♀・狐)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)
 fa2681 ザ・レーヴェン(29歳・♂・獅子)
 fa3109 リュシアン・シュラール(17歳・♂・猫)

●リプレイ本文

 毛並みを梳いてぴかぴかに、着ぐるみ組は忍者装束、自前毛皮組は着物で。着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』、ラスベガス着ぐるみ演劇ショーの最後は、日本から唯一参加らしくカッコを付けてみた。
 ちなみに着物の大半は、狐の着ぐるみ着用のダミアン・カルマ(fa2544)の提供。女性陣はカンナと初美以外は自前である。男性陣では諫早 清見(fa1478)とザ・レーヴェン(fa2681)が自前なのだが、キヨミはともかく。
「アメリカ人の抱くイメージが端的に分かった」
 関係者に挨拶回りをするはずが、しっかり羽織袴で正装している蓮城久鷹(fa2037)が参考資料にした程度に、何かが違っていた。そもそも獅子の姿で髷のかつらはコメディだ。
 他にフェリシア・蕗紗(fa0413)と蘭童珠子(fa1810)が一見似た感じの和装だが、狐とパンダである。印象は全然違っていた。同じパンダの姉川小紅(fa0262)は着物の雰囲気ががらりと違うし、狸のポム・ザ・クラウン(fa1401)は振袖だ。物珍しさ倍増中。
 借り物で臨んだトシハキク(fa0629)とリュシアン・シュラール(fa3109)の二人は、いささか勝手が違うようだが仕事は何とかこなしていた。俳優のルカと違って、ジスは裏方だが、ダミアンと同じく人数増で駆り出されている。観客である子供達が喜んでいるので、慣れない着物や着ぐるみを着た甲斐があっただろう。
 慣れている女性陣は、自前毛皮だろうが、着ぐるみだろうが、愛想を振りまいてあちこちで記念撮影中。
 そして。
「‥‥信じられない。何人いるんだ」
「百八人」
 ヒサと挨拶回りをしていた睦月が、キヨミに答えているのは、目の前で繰り広げられた優勝劇団の再上演について。非常に評判になったので、希望者揃ってチケットを手に入れたのだ。
 劇内容はほとんどシンデレラ。父親が弁護士、王子様が学校の人気者のハンサムになっているが。
「うーんと、パンフの解説だとぉ」
 タマが必死に読んだところでは、ここ五年間欧州勢に優勝をさらわれた米国内劇団が、声優、ゴスペル合唱団やミニオーケストラ、ブラスバンド、ダンサーのグループと協力して作り上げた『シンデレラ風味ミュージカル』。舞台上の俳優が、ダンスシーンはすかさず同種族のダンサーに入れ替わり、声は声優が、歌はゴスペル合唱団が、音楽は全部生演奏。しかも全部、客席から見える。
「すごいねぇ。あれだけ合わせるのは生半可な練習じゃ追いつかないよ」
「あたし達も頑張ったけど、まだまだだったのねぇ」
 小紅とタマが二人して感心しているが、ヒサやジス、ダミアンが見ると展開が強引だし、微妙な失敗もある。声優まで客席から見えるので、観客の気が散ることも。だがキヨミやカンナが音楽に合わせて踊っているのを見れば、これは『演劇ショー』としては成功しているのだろう。
「採算あわねー」
 葉月の現実的発言は、小紅に『しーっ』とたしなめられている。でも確かに絶対に合わない。裏方衆は深く頷いてしまった。
 歌えるキヨミは、こういうのも楽しいと感じ入っている。確かに楽しかった。

 ところで、打ち上げらしいものもしていないので解散前に一度食事でもしよう。そういう声が上がり、アメリカの生活暦が長いフェリシアが皆の希望に合いそうな店を見繕ってくれた。やはり活動拠点がアメリカのレヴがここはいいと断言したのでよい店なのだろう。
「ドレスコードなんかあると、のんびり出来ないでしょう。お値段もそこそこで、ね」
「公演も無事に終わって、仲間と食うメシは格別だ! 好きなだけ食わせてもらうぞ!」
 フェリシアの心遣いは、特にキヨミなどには嬉しいが、レヴがいいと言ったのはもしかすると『なんでも取り放題』だったからかもしれない。
「アメリカって何でも量が多いから、こうやって皆で取り分けが出来るところがいいよな。色々食べられて楽しいし」
 キヨミが言うことはもっともだが、そうねと同意してくれたのはタマと小紅とお世話になったのでと招かれたユウのみだ。他の人々はと言えば。
「カンナさん、それ一人で食べるつもりなのかな?」
 レヴとカンナが、それぞれに大量に皿に持ってきたパスタやピザやサラダ、その他諸々の料理を前に、食べる前からげんなりとしていた。ジスがようよう問いかけたが、たまたま指差したのがグラタンで、
「くれるみたいだから、貰えば?」
 隣の席のダミアンが、笑いをこらえつつジスをせっつくことになった。どうも『分けてくれ』と言われたと思ったようで、カンナがグラタンをすくったスプーンをジスに突き出している。『一口だけよ』と視線が語っていた。
「グラタンは冷めたら美味しくないのよ?」
「ぱくっと一口で食べなきゃ、ぱくっと」
 多分悪気はないだろうが、タマと小紅がけしかけている。この二人の隣の睦月と葉月は知らぬ振りで、ジスが視線を泳がせた先の誰もが苦笑していて、ポムはじいっと彼を見上げている。更にジスと反対側のカンナの隣のヒサはと言えば。
「今日の劇団は、ショーとしては学ぶところが多かったな」
 と、恵一郎パパ相手に話し込んでいた。こちらを見てもいない。
 その向こうでは、ルカがアメリカの飲酒可能年齢は二十一歳からと、日本より厳しい制限に打ちひしがれていた。カジノも同様だが、そこまで利用したかったかはわからない。ただフランス人と日本人の親を持つ彼の場合、飲酒制限はフランスの十六歳と日本の二十歳が基本かも知れず‥‥
「日本でも飲めないんじゃなかったっけ?」
 同年代のキヨミに突っ込まれていた。
「公演成功を祈って、かんぱーい」
「終わってるから祝って? とりあえずかんぱーい」
 それでも、徐々にアルコールが回った一部が、乾杯コールを繰り返すのに笑顔で付き合える程度には誰もがご機嫌だったのである。百八人には負けたが、十五人では最高峰だ。
「ふー、食った食った」
 そういう感動をさておいても、レヴとカンナと、つられたジスの食べっぷりは一つの見物であっただろう。

 自由行動で、ダミアンはとある免税店にいた。入店前に周囲を何度も見回して、知り合いがいないことを確認している。あまりの怪しい素振りに店員から注視されていたが。
「ええと、カタログで見たオープンハートネックレスは‥‥」
 普段だったら一人では絶対に入らない装飾品店で、ダミアンは女性向けのアクセサリーを物色している。仕方も事前にカタログを見ていた念の入れよう。
 しかし。
「クリスマスも近いし」
 なにやら言い訳しながら店を出る彼は、なぜか新製品として店頭にも飾ってあったクロス型ペンダントの包みを抱えていた。それはもう大事そうに。
 そして油断をしていたから、知り合いに会う。

 お土産にチョコレートがまず浮かぶキヨミは、他の希望は街頭でやっているらしいショーの一つ二つを見物することだ。後は日本の居残り組への土産を買うので大変そうな恵一郎と初美の荷物持ちでもいいやと思っていたのだが。
「せっかくだからアウトレットモールでショッピングをしようかと思って。ブランド物よりは安い掘り出し物を探したいわね」
「‥‥俺も連れてって。いや、メンズの店を教えてくれれば、勝手に行って、時間で合わせて帰ってくるからさ」
 フェリシアが初美と話しているのを聞いて、荷物持ちに志願し直している。恵一郎はでこで買い物しようと、格別文句はない。
 途中、免税店でチョコレートを購入しがてらうろうろしていて、ダミアンを発見し、女性二人が『新製品幾ら?』と追求していたが、キヨミは見なかった振りを通した。ついでに土産物屋で買いあさったアクセサリーの行き先は、
「全部仲間の分」
 で通している。事実なんだから、追求されても問題はない。あるとすれば。
「さっきのお店に戻る? これも悪くないと思うけど」
「お父さん、早く決めて」
 三人も『付き添い』がいるのに、なかなかお土産が決められない恵一郎だった。フェリシアは根気よく、キヨミはおおらかに付き合っているが、この二人だけだったら買い物は永遠に終わらなかっただろう。
 街頭ショーを見る時間は、かろうじてひねり出せている。

 帰国すれば年末で忙しいのだからと、皆をほとんど無理やり送り出したヒサはやはり買い物は土産程度らしいルカに付き合わせて、引き上げ準備をしていた。荷物は大抵がこちらに送ってきた時と同じ梱包で返せばいいのだが、中にはわざわざ持って帰らなくても、日本でなら幾らでも作ったり手に入れられるよなという小道具もある。特に竹光は、剣術に詳しいルカが見ても、結構古くてそろそろお役御免だ。
「だからといって、こういうものを捨てるのは色々うるさそうだし、どうするかな」
 そんなことを思っていると、コンドミニアムに来客が。ユウが連れて来たのは、どこかの劇団の裏方で‥‥
「そう。アメリカの劇団から、竹光とあの派手な忍者装束と木製の手裏剣、譲ってくれって来てるんだが」
 ヒサはもちろん馬に蹴られないように、初美に電話連絡を取って、『高く売って』と言質を取った。となれば、うんちくは得意だ。
 ルカは、ヒサの解説をなぜか正座して聞いているアメリカ人を、不思議そうに眺めている。ヒサはとても嬉しそう。

 その頃、多分デートの小紅と葉月は公園で。
「どこか行きたいとこあれば、遠慮なく言ってね」
「んー、葉月君がここでいいならいいけど‥‥こっちの料理を食べなくてもいいの?」
 一緒にどこか行こうなんていったら図々しいと思われないかしらと、一応は小紅も心配していたのだが、葉月は全然気にしなかった。ただ行きたいところがまずはスーパーで、買ったものが豆腐で、持参していた醤油をつけて公園で食べている。
 そしてぼんやりしているのも悪くはないが、流石に寒いので土産物屋を冷やかしに行こうかと腰を上げ、小紅は頑張った。
「ネイティブアメリカンのアクセが欲しいけど‥‥ペアでってのは駄目かなっ」
 よし言ったと拳がプルプルしている彼女に、葉月はあっさり頷いている。

 食べ歩きをしながら、ちょっとでも距離が縮まったらいいなと淡い願いを抱いていたジスは、現在おなかを押さえてぜえはあしているところだった。隣では、カンナが同様。
「しばらく休まないと次は無理だけど、お土産でも買う?」
 食べ歩き三昧し過ぎで苦しい二人は、手をつないで道を歩いている。手を離すと、カンナがどこで立ち止まってはぐれるか分からないので、睦月から言い聞かされたからだ。ジスはどきどきだが、カンナはさも当然のような顔。微妙な年下の男心には全然気付かない。
 挙句にスーパーで、友人への土産にジッパー付き保存用ビニールパックをしこたま買い込んでいるのだから、ジスとしては苦笑するしかない。
「これ、そんなに買ってどうするの?」
「食べ物小分けにするのに便利。サイズが日本よりいっぱい」
 そこで仲良く、自分も買ってしまったジスだった。

 タマがユウに事前に確認したところ、睦月は『滅茶苦茶長男体質』という情報だった。
「一緒にお仕事できたら嬉しいけど、無理でも、そんな睦月さんをあたしは好きになったんだもの」
 傍にいるだけでも幸せだけど、一緒に仕事をするとタマはより楽しい。大事なのは睦月がそう思ってくれているかどうかなのだが、どうも『葉月より年下』がネック。
「人が楽しんでる時は、全部仕事だけど」
「キヨミ君も言ってたでしょ。そういうときに仕事がないほうが困るって。それで年下の女の子じゃなくて、あたしを知ってもらうのに、お付き合いしてもらうのは駄目かしら?」
 他の皆がいるところでは、睦月の性格だと嫌でもそう言わないような気がするので、タマは歩きながらの直球勝負を挑んでみた。
 次の瞬間、往来だが睦月に抱きついている。

 なにやらユウに色々尋ねていたポムが、大荷物持参で出かけようとするのでレヴは車を出すことにした。今更観光でもないし、ホスピタルクラウンというのに興味もあった。
 とはいえ、ユウも病院につてはなく、すぐに受け入れ先を探すことは出来なかった。代わりに参加団体でそういう活動をしているところが、有志を募ってビデオ撮影していると教えてくれる。
「ポムは本職だからいいが、プロレスラーにも需要はあるもんかね?」
「ジョージ先生の需要があるみたいだね」
 忍者が二人来たと喜んだ団体は、なぜか『ぱぱんだん』の小道具を持っていた。事の次第は分からないが、二人とも手回しがよいと思いつつ、ここで二手に。
 レヴは忍者らしい立ち回り、ヒサが見たら多分視線をそらすような感じで、寸劇の大立ち回りを任された。ビデオなので思い切り声を張り上げての熱演だ。こういうのは、本業でもやっていないわけではないから、思いのほか楽しい。元気を出して、勇気を持てるような、そういうヒーロー役である。
 かたやポムはもともとクラウンでもあり、メイクもしっかり決めて、次々とマジックを披露したり、季節感を出してクリスマスリースをバルーンで作ったり、ジャクリングをしたりと忙しい。途中で顔のアップを取るのにカメラマンが迫ってきて、思わず引いたが、『画面いっぱい笑顔』と指定されれば、それはもうしっかりと笑った。
 手袋パペットにクリスマスリースを持たせて記念撮影。色々制限があって、リースも飾れない子供用のカードになる予定だ。
 最後に他の人達と動物姿で記念撮影。人文字で『メリークリスマス』と書くのは、非常大変だった。特に力仕事を任されて二人も抱えたレヴが。

 そんなこんなで、アメリカ最終日。
 まだアメリカで仕事をする予定の人々に見送られて、『ぱぱんだん』一行はなんとかかんとか搭乗口に滑り込んでいる。