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発注前にご覧ください

●人称、語り手について

 一人称か三人称、ご希望がある場合はご指定ください。

  例:両親が深く寝入っているのを確かめ、僕はベランダから外に出た。(一人称)
  例:ふと机の上に目をやった朝来みゆかは、メールの着信に気づいた。(三人称)

 特に指定がない場合、こちらで最適と判断した形式を選択します。

●服装、小物について

 こだわり、好きな色、逆に嫌いなもの(たとえば虫、高い場所、大きな音)などございましたら教えてください。
 発注文はできる限り詳しく書いていただけると、イメージ齟齬のない物語をお届けできると思います。

●納期について

 確実にお届けできるよう、ノミネート、通常窓の開閉を調整させていただきます。

以上、どうぞよろしくお願いいたします。   (2013.3月更新)

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文章サンプル『風が味方』

文章サンプル『風が味方』 (現代・恋愛物NL)


「針谷、私の嫌いなところってどこ」

 おっと、いきなり「駄目出し」ですか。 
 ユーザからのトラブル報告もなく、部下のプライベートをのぞき込む課長代理もおらず、二人きりの休憩時間、残業する前のエナジー補給、穏やかな夜の平安はたった五分で打ち砕かれる。
 僕の反応を待つ涼子さんは、口紅のはげた幼い唇を結び、茶色の瞳で僕をつかまえたまま。
 僕を透かし見て、背後の世界すべてを憎むような顔。
 あぁ、また見えないぬかるみにはまってしまったんだな、と思う。
 問いには誠意を持って答えよう。こわばりをほどく唯一の方法。隠し事の気配に聡い君に、嘘はつけない。
「悲観的なところ」
 見つめ合う僕達は恋人同士のはずだ。僕だけが勘違いしているのでなければ。
 三十センチの距離、悲愴な空気を浅い呼吸で分け合うなんて、もったいない。
 見渡せば遠くに人影を数えられる職場の隅で、窮屈なスーツを身に着けた二人ができることは限られてはいるけれど。
「……そっか」
「嫌いというか、困るんだ。どう接していいのかわからなくなるときがある」
 涼子さんは小さく数回うなずき、そっか、と繰り返した。
 両手で紙コップを握りつぶし、力を緩める。指先の皮膚の色が変わる。
 酷な言葉だっただろうか。
「針谷ったら迷わず答えるんだね。驚いた」
「だって適当にごまかしたら怒るでしょ」
 もし、嫌いなところは一つもないと答えたならば、そんなんでちゃんと私を見てるの、なんてへそを曲げそうだからね。
「そうかも」
 涼子さんが肩を震わせる。よかった。笑った。
 悲観的思考を断ち切り、前向きに上向きに姿勢を変えようとしているに違いない。

 ベンダーマシンが虫の声に似た音でうなる。もう一杯コーヒーを飲みたくなる。でも今は立ち上がるタイミングじゃない。
「針谷は楽観すぎるよ」
「そうっすかね」
「のんびりしてるし、焦らないし」
「だって僕まで特急で警笛鳴らしまくったら、涼子さん困るでしょ。耳ふさぐかもね」
「……正論なだけに腹が立つ」
 妥協を許さない君の情熱はせわしなく形を変え、滑り、うねってゆく。クリアしても、やり遂げても、次へ、またその次へ。
 女であることが武器にはならない職場で、君を助ける僕であり続けるのが、僕が自分に与えた使命だ。
 入社して七年。このポジションを得るために実は画策したと告げたら、君は公私混同と怒るだろうか。

「涼子さん」
「うん?」
「木が生えてたとします。背伸びしても届かない高さに、欲しい実が生ってたらどうします?」
「んー……」
 涼子さんは背をそらせた。
 僕はその胸元から視線をそらし、絨毯の染みを数える。鼻先をかすめた柑橘系の香りは涼子さんが愛用するボディソープだ。
「そうだな、はしごを持ってくる」
「幹が細くて、登ったり、はしごを立てかけるのは危ないようだったら?」
「切り倒す。あるいは棒か何かでつつく」
 さすがだ、と僕は笑った。のこぎりを手にした涼子さんも、長い柄をかざす涼子さんも容易に想像できた。
「僕なら、こう、幹をつかんで揺らします」
「ふん。原始的だな」 
「それで枝から落ちてこなくても、信じて待てばいい。重力と、風と、念力。いつかは熟れて落ちてくるから」
「そういう待ちぼうけ、私耐えられない」
「待ってるのも楽しいものですよ」

 届かない場所に一つの果実を認めて、手にしたくて、絶対に他のひとには渡したくなくて、そんな気持ちを抱いたあの日から。
 自分が目を離したすきに誰かにさらわれたり、地面に叩きつけられることがないよう、雨の日も晴れの日も。
 揺れる君を、見ていた。とげで覆われた中身はきっとやわらかいに違いない、と。

「そうだ。私の手が届かなかったら、針谷、あんたを呼べばいいじゃない。肩車してよ」
「え、あ、それ正解」
 素早く人目を確認し、頭をなでた。
「こら……っ」
 怒られるのは承知の上だ。
「ねえ、反対に、私の好きなところは?」
 視線を合わさずに尋ねるのは照れのせいか、おびえているからか。
 年上の君の精一杯の甘えを僕がどれほど愛しく思っているか、きっと君は知らない。

(2008.9月 (c)Miyuka Asago)

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