(アキノソラ)あきのそら
※発注文に関して!
現在対応中のタイトルは『グロリアスドライヴ』です
主に日常系の明るい雰囲気の作風を目指しているのですが……そうでもないかも?
こんな雰囲気!と言ってもらえると意識して書けます(多分)
一人称が得意なのでこんな風な子なんです!というのがわかるセリフを一文でも二文でも書いていただけると幸いですです
三人称も可能なのでお気軽にどうぞ!(特に指定がなければ時と場合によりまちまちかも…?)
※随時更新中
主に日常系の明るい雰囲気の作風を目指しているのですが……そうでもないかも?
こんな雰囲気!と言ってもらえると意識して書けます(多分)
一人称が得意なのでこんな風な子なんです!というのがわかるセリフを一文でも二文でも書いていただけると幸いですです
三人称も可能なのでお気軽にどうぞ!(特に指定がなければ時と場合によりまちまちかも…?)
※随時更新中
サンプル1『私と彼女の精一杯』
「ふふっ、どうしたんですか?入っていいんですよ?」
恥の多い人生を送ってまいりました。
これといって成績が良いわけでもなく、高校を出たら親戚の会社でちょこっとアルバイト。
以降、毎日毎日だらだらと事務でもなく何でもない仕事をちょろちょろとして生計を立ててまいりました。
「んもう、ほーらっ」
「あっ、ちょっ、柔すぎるッ」
「ふふっ、なんですか柔すぎるって」
「あ、いや、ちが、おててのぷにりてぃがちょっと……へっ、へへ……」
そうして、おじさんおばさんに囲まれて暮らす生活が続いた私は、SNSにどっぷりだった。
そこで、彼女と知り合ったのはもう二年も前のことになる。
「塩ココアさんの手だってぷにぷにであったかいですよぉ」
塩ココアとは私のこと。あっ、いや、名前じゃなくてハンドルネームね。
そして彼女はまみちゃんこと真海ちゃん。ハンドルネームが本名と一緒なことから分かるように、なんというかリア充さんだ。
「えへへ、ぷにぷに」
故にスキンシップが激しすぎるッ!もはや私のコミュニケーション力は限界ギリギリです!
あ、いや、それでですね。今何をしているかというと。
真海ちゃんと絡み始めたのが高校受験のタイミングだったらしくて『合格出来たのは塩ココアさんのおかげですっ!お礼がしたいですっ!よかったらオフしませんかっ><』とのことで。
まぁ、何度も通話やメールのやり取りはしていたし、住んでいる場所も近くて何度もニアミスをしていたらしいし、お互いほぼ身バレ同然だったので今更かということで『お茶くらいなら』とOKしたら。
『今日はお母さんたち居ないから、ウチ来ませんか?』
ということになり、なんと彼女の家でオフ。
ちなみに真海ちゃん制服姿。大丈夫?私捕まらない?
「塩ココアさんも、ぷにぷにしていいんですよっ?」
「あっ、いやっ、かたじけのうござる」
「ふふふ、なんですかそれー」
これが私の精一杯なんですごめんなさい。
終始真海ちゃんは楽しそうなのだが、私としては気が気ではない。
だってここ女子高生の部屋で、私真海ちゃんの一回り年上ですよ?今年で28ですよ?大丈夫?お母さん私の年下だったりしない?
いやそもそも知らない女が娘の部屋に居るという状況を一体どこのどんな親御さんなら平常心で受け止められるのだろうか、絶対に変な目で見られる。というか変な目で私が見てしまう。
しかも、なんというかもっとクラスでも端っこに居るような子が来るのかと思っていたら完全に中心人物系の子で緊張せざるを得ない。
「ん?何か、わたしの顔についてます?」
「あっ、いやっ」
うぅぅ!視線が眩しい!
明るめに染められた茶髪に若干ふんわりした感じの髪は整髪料か何かでまとめられてて前髪なんか黄色いかわいらしいピンとかで留めちゃったりして!
そんな目で見られたら「この子の一回り年上のくせになんてしょうもない人生を送ってきたんだろう」とか「どんなツラしてこの子と接したらいいんだろう」とか「年上のくせにどぎまぎしすぎなんじゃないだろうか」とか……そんなどうしようもない自虐心が止まらない。
止まらないとか言いながらも真海ちゃんに手を引かれるままベッドの上に二人並んで腰かけて、おててぷにぷに合戦を強いられているんだけども。
「あ、あー、あれですね、寄せ書きみたいなのもいっぱいだね、やっぱり生徒会関係でっか」
「ううん、誕生日にクラスのみんなから貰ったんですよ」
誕生日に寄せ書き!?やっぱりリア充だ…。
「に、人気者なんだね」
「んー、まぁ、そうですね」
そうなんだ…。
「……あの」
と、真海ちゃんが今までと打って変わって暗い声色で切り出す。
「見て貰いたいものがあるんです」
「な、なんでございましょうか」
「これ、なんですけど」
取り出してきたのは分厚いカバーのアルバムだった。なんだろう、想い出の写真とかだろうか。
「これ、初めて塩ココアさんがコメントしてくれた時のキャプで」
「えっ、キャプ?」
「こっちが、初めてメールした時のキャプで」
「あの、ちょ」
「これが初めて通話してくれた時の挨拶のキャプ、こっちが誕生日おめでとうって言ってくれた時のキャプ、こっちは合格おめでとうの時のキャプでこっちが相談に乗ってくれた時のキャプで」
「ちょ、ちょちょ」
「こっちが、塩ココアさんの書き込みの考察です」
「考察!?」
うわあ、ほんとにパソコンとかスマフォの画面のキャプチャー画像だ。赤ペンとかペイントで『仕事してる?』とか『一人暮らし?』とか書いてある。
「塩ココアさん、悩んでることがある……ううん、ずっと悩んで、コンプレックスを抱えっぱなしで居る。でも誰とも接していないわけじゃなくて、本当に心のうちを共有出来る人が居ない、新しく作りたくても作れない生活環境に居る、でも根っこのところがおせっかいだから自分のことよりもわたしみたいな……ちょっと困ったなーって思ってる子が居ると、すぐ相談に乗っちゃう。そうですよね」
真剣な瞳が、私を捕まえて離さない。
「塩ココアさんみたいな人、初めてで、すっごく嬉しいのに何にも恩返しなんかさせてくれなくって、でもわたし、本当にほんとうに助かって、だから塩ココアさんのこと知りたくって、わたしのこと、知ってほしくって」
言いながら、ハサミを取り出す真海ちゃん。
「いろんな人がわたしの側に居てくれるけど、誰も隣には来てくれないんです。それは、歩み寄ろうとしないわたしのせいだってわかってるんですけど、でも、塩ココアさんを知ってからは、もう、隣に居て欲しいのは誰かじゃなくって、塩ココアさんが良いって思って、だから」
――ぱさり。
「わたしの隣に、居てくれませんか」
そう言いながら、私を見つめる涙ぐんだ視線は、ぱらぱらと散らばる彼女の茶髪に彩られて。
不格好な髪と、突然の告白と、震えた彼女の指先が、真海ちゃんの精一杯を教えてくれるから。
混乱したまま、彼女の隣に立って……。
「あ、えと、よ、喜んで」
我ながら、かっこ悪い返事をした。
「真海―っ?誰かいらっしゃってる……の……?」
「えっ」
「あっ」
「「「……きゃーーーっ!!!」」」
突然の告白に、突然の親フラでもうめちゃくちゃなオフ会になってしまった。
恥の多い人生に、また恥の上塗りをする結果になったけど、正直。
真海には感謝してもしきれない。
人生初めての告白が、ストーカーぎりぎりのアルバムを見せて髪を切るなんていうどう考えても両親からすれば理解出来ない告白で、しかも直後を発見されるなんて恥ずかしい想い出……なかなか共有できるものじゃない。
そんな貴重な相手が居るというのは、実際はなんでもない事だけれど、私にとっては妙に嬉しいことだったのだ。
だから、三年経った今日。
忘れっぽい真海に代わって、今度は私が髪を切ってみせるのだ。
今日から同じ部屋で暮らす、最愛の彼女へ。
精一杯の気持ちを込めて。
恥の多い人生を送ってまいりました。
これといって成績が良いわけでもなく、高校を出たら親戚の会社でちょこっとアルバイト。
以降、毎日毎日だらだらと事務でもなく何でもない仕事をちょろちょろとして生計を立ててまいりました。
「んもう、ほーらっ」
「あっ、ちょっ、柔すぎるッ」
「ふふっ、なんですか柔すぎるって」
「あ、いや、ちが、おててのぷにりてぃがちょっと……へっ、へへ……」
そうして、おじさんおばさんに囲まれて暮らす生活が続いた私は、SNSにどっぷりだった。
そこで、彼女と知り合ったのはもう二年も前のことになる。
「塩ココアさんの手だってぷにぷにであったかいですよぉ」
塩ココアとは私のこと。あっ、いや、名前じゃなくてハンドルネームね。
そして彼女はまみちゃんこと真海ちゃん。ハンドルネームが本名と一緒なことから分かるように、なんというかリア充さんだ。
「えへへ、ぷにぷに」
故にスキンシップが激しすぎるッ!もはや私のコミュニケーション力は限界ギリギリです!
あ、いや、それでですね。今何をしているかというと。
真海ちゃんと絡み始めたのが高校受験のタイミングだったらしくて『合格出来たのは塩ココアさんのおかげですっ!お礼がしたいですっ!よかったらオフしませんかっ><』とのことで。
まぁ、何度も通話やメールのやり取りはしていたし、住んでいる場所も近くて何度もニアミスをしていたらしいし、お互いほぼ身バレ同然だったので今更かということで『お茶くらいなら』とOKしたら。
『今日はお母さんたち居ないから、ウチ来ませんか?』
ということになり、なんと彼女の家でオフ。
ちなみに真海ちゃん制服姿。大丈夫?私捕まらない?
「塩ココアさんも、ぷにぷにしていいんですよっ?」
「あっ、いやっ、かたじけのうござる」
「ふふふ、なんですかそれー」
これが私の精一杯なんですごめんなさい。
終始真海ちゃんは楽しそうなのだが、私としては気が気ではない。
だってここ女子高生の部屋で、私真海ちゃんの一回り年上ですよ?今年で28ですよ?大丈夫?お母さん私の年下だったりしない?
いやそもそも知らない女が娘の部屋に居るという状況を一体どこのどんな親御さんなら平常心で受け止められるのだろうか、絶対に変な目で見られる。というか変な目で私が見てしまう。
しかも、なんというかもっとクラスでも端っこに居るような子が来るのかと思っていたら完全に中心人物系の子で緊張せざるを得ない。
「ん?何か、わたしの顔についてます?」
「あっ、いやっ」
うぅぅ!視線が眩しい!
明るめに染められた茶髪に若干ふんわりした感じの髪は整髪料か何かでまとめられてて前髪なんか黄色いかわいらしいピンとかで留めちゃったりして!
そんな目で見られたら「この子の一回り年上のくせになんてしょうもない人生を送ってきたんだろう」とか「どんなツラしてこの子と接したらいいんだろう」とか「年上のくせにどぎまぎしすぎなんじゃないだろうか」とか……そんなどうしようもない自虐心が止まらない。
止まらないとか言いながらも真海ちゃんに手を引かれるままベッドの上に二人並んで腰かけて、おててぷにぷに合戦を強いられているんだけども。
「あ、あー、あれですね、寄せ書きみたいなのもいっぱいだね、やっぱり生徒会関係でっか」
「ううん、誕生日にクラスのみんなから貰ったんですよ」
誕生日に寄せ書き!?やっぱりリア充だ…。
「に、人気者なんだね」
「んー、まぁ、そうですね」
そうなんだ…。
「……あの」
と、真海ちゃんが今までと打って変わって暗い声色で切り出す。
「見て貰いたいものがあるんです」
「な、なんでございましょうか」
「これ、なんですけど」
取り出してきたのは分厚いカバーのアルバムだった。なんだろう、想い出の写真とかだろうか。
「これ、初めて塩ココアさんがコメントしてくれた時のキャプで」
「えっ、キャプ?」
「こっちが、初めてメールした時のキャプで」
「あの、ちょ」
「これが初めて通話してくれた時の挨拶のキャプ、こっちが誕生日おめでとうって言ってくれた時のキャプ、こっちは合格おめでとうの時のキャプでこっちが相談に乗ってくれた時のキャプで」
「ちょ、ちょちょ」
「こっちが、塩ココアさんの書き込みの考察です」
「考察!?」
うわあ、ほんとにパソコンとかスマフォの画面のキャプチャー画像だ。赤ペンとかペイントで『仕事してる?』とか『一人暮らし?』とか書いてある。
「塩ココアさん、悩んでることがある……ううん、ずっと悩んで、コンプレックスを抱えっぱなしで居る。でも誰とも接していないわけじゃなくて、本当に心のうちを共有出来る人が居ない、新しく作りたくても作れない生活環境に居る、でも根っこのところがおせっかいだから自分のことよりもわたしみたいな……ちょっと困ったなーって思ってる子が居ると、すぐ相談に乗っちゃう。そうですよね」
真剣な瞳が、私を捕まえて離さない。
「塩ココアさんみたいな人、初めてで、すっごく嬉しいのに何にも恩返しなんかさせてくれなくって、でもわたし、本当にほんとうに助かって、だから塩ココアさんのこと知りたくって、わたしのこと、知ってほしくって」
言いながら、ハサミを取り出す真海ちゃん。
「いろんな人がわたしの側に居てくれるけど、誰も隣には来てくれないんです。それは、歩み寄ろうとしないわたしのせいだってわかってるんですけど、でも、塩ココアさんを知ってからは、もう、隣に居て欲しいのは誰かじゃなくって、塩ココアさんが良いって思って、だから」
――ぱさり。
「わたしの隣に、居てくれませんか」
そう言いながら、私を見つめる涙ぐんだ視線は、ぱらぱらと散らばる彼女の茶髪に彩られて。
不格好な髪と、突然の告白と、震えた彼女の指先が、真海ちゃんの精一杯を教えてくれるから。
混乱したまま、彼女の隣に立って……。
「あ、えと、よ、喜んで」
我ながら、かっこ悪い返事をした。
「真海―っ?誰かいらっしゃってる……の……?」
「えっ」
「あっ」
「「「……きゃーーーっ!!!」」」
突然の告白に、突然の親フラでもうめちゃくちゃなオフ会になってしまった。
恥の多い人生に、また恥の上塗りをする結果になったけど、正直。
真海には感謝してもしきれない。
人生初めての告白が、ストーカーぎりぎりのアルバムを見せて髪を切るなんていうどう考えても両親からすれば理解出来ない告白で、しかも直後を発見されるなんて恥ずかしい想い出……なかなか共有できるものじゃない。
そんな貴重な相手が居るというのは、実際はなんでもない事だけれど、私にとっては妙に嬉しいことだったのだ。
だから、三年経った今日。
忘れっぽい真海に代わって、今度は私が髪を切ってみせるのだ。
今日から同じ部屋で暮らす、最愛の彼女へ。
精一杯の気持ちを込めて。
サンプル2『危険な彼女のプレゼント』
「ふんふーんっ♪」
あの日、私は鼻歌混じりにスキップしながら夕焼けこやけの廊下を歩いていた。
それは何故かと聞かれれば、私の誕生日だから!
高校三年、高校最後の誕生日。
なんでかみんなは余所余所しくて、プレゼントだって一つも貰っていないけど、放課後下駄箱覗いてみたら!
『教室で待ってるわ プレゼントより』
なーんてちょっぴりロマンチックな置手紙!
もお、みんなったらぁ!そんなサプライズ良いのになぁーっ!
そんなわけで沈み気味だった気分がめちゃくちゃ上がった私。
「みーんなーっ!」
ガララッ、と勢いよくドアを開けると、そこに居たのは。
「あら、いらっしゃい」
「あ、え?鈴木さん?」
たくさんのプレゼントが乗った机と、クラスであまり話したことのない鈴木さんだけだった。
「ごめんなさいね、みんなは居ないの」
全然申し訳なさそうな鈴木さんの態度も気になるけど、鈴木さんがなんで居るのかのほうが気になっていました。
「あの、下駄箱の手紙って…」
「そう、ワタシよ」
「ぷ、プレゼントって…?」
「ココの、ぜーんぶ貴女へのプレゼントだそうよ。みんなから預かってきたの」
「預かってきた!?」
「ほら、コレなんて」
綺麗な飾りがついてて、ハートのシールで綴じられた便箋。
「貴女へのラブレターだそうよ」
「ら、ラブレター!?それを、渡しに?」
「いいえ、破りに」
「えっ」
「びりっとな」
――ビリッ!
「あ、あーっ!」
「こっちはアナタへのチョコとメッセージカードよ。はいバキッ」
「あーーー!」
そうして次々と出てきては粉砕されていくあれやこれやのプレゼントたち。
「う、うぅぅ…どうしてこんなことを…およよ……」
為す術も無くただただ破り捨てられていくプレゼントたちを見守るしかない私はついに膝をついていました。
「最期にコレ。ワタシからのラブレター」
「えぇっ!?」
「はいびりーっ」
「あーちょ!ちょっと!」
「どう?」
子供みたいに小首を傾げながら、聞いてくる鈴木さん。
「もう…鈴木さんがわからないです…」
「なら、教えてあげる」
「えっ」
粗方プレゼントを粉砕し終えた鈴木さんは、黒板へと向かった。
「今日の朝、好きなパンがやっと買えたんじゃない?」
「えっ、そ、そうだけど、なんで知ってるの」
言いながら、鈴木さんはパン屋さんと書いていく。
「ま、まさか、毎朝商品を並べる時に無理やり全部買ってくお客さんって」
「そう、ワタシ」
ニッコリ笑いながら、パン屋さんに花丸をつけていく鈴木さん。
「自転車置き場も、今日は水たまりが無かったんじゃなかったんじゃないかしら?」
「そ、そう、だけど……え、じゃあ、あの水たまりを毎朝作ってたのも」
「そう、ワタシ」
駐輪場、花丸。
「図書室で借りようと思ってた本が必ず無いのも!?」
「そう、ワタシ」
図書室にも、花丸。
そうして書き連ねられていく場所、言葉、あれやこれや。
「い、いつから、こんな」
「物にもよるけど、一カ月くらい前からかしら」
小首を傾げて、わざとらしく思い出す仕草を取って見せる鈴木さん。
「ひぇぇ」
全然顔が、悩んでるって顔してないよぉ。
「ねぇ、分かってくれた?」
スッと差し伸べられる手。
絡め取られる私のほっぺ。
「ワタシのこ・と」
鈴木さんの瞳に見つめられて。
吸い込まれそうなくらいの視線にくらつきながら、コクコクとお人形みたいに頷く。
すると、鈴木さんは嬉しそうにニコっと笑って。
「じゃあ、ワタシからのプレゼント」
そう言って、鈴木さんが私の胸元に抱き着いて、そっと耳を当てる。
「ステキな今日と、ステキなワタシをプレゼント」
「あっ…」
手紙に書いてあった、プレゼントよりって言葉。
何かの冗談っていうか、プレゼントが待ってるよって意味だと思ってたけど、そうじゃなかった。
本当に、プレゼントからの手紙だった。
「ほら、どうしたの?」
甘えるような声色で、手を握られて。
鈴木さんの頭を、抱えるように促される。
「え、と」
もう、スキップしたくなるようなワクワクは無くなっちゃったけど、でも。
今日はちょっぴり良い事がいっぱいあった日で、だからウキウキしてて。
そんな気持ちも全部、鈴木さんがくれたんだって思うと。
それに、人のプレゼントとか、破ったったりして。
でも、そういうところ全部見せてくれるのが、なんだか、鈴木さんの全部を見せられたような気がして。
不覚にも、胸が高鳴る私は。
「いただき、ます」
鈴木さんの頭をぎゅっと抱きしめて、彼女を受け取ったのでした。
そして、あれから十年。
今日も私は鼻歌混じりにスキップしながら歩いている。
それは何故かと聞かれれば、私の誕生日だから。
付け加えるなら、今日はお弁当のおかずが好きなものばかりで、帰りの電車で席に座れて、お気に入りのパンが買えて、誰からもプレゼントを貰っていないから。
ガチャッと開けた玄関の先で、きっと待っているに違いない。
あの日とおんなじ。
たくさんのプレゼントが乗ったテーブルと、危険な彼女のプレゼントが。
「ただいま」
「―――あら、おかえりなさい」
めでたしめでたし
あの日、私は鼻歌混じりにスキップしながら夕焼けこやけの廊下を歩いていた。
それは何故かと聞かれれば、私の誕生日だから!
高校三年、高校最後の誕生日。
なんでかみんなは余所余所しくて、プレゼントだって一つも貰っていないけど、放課後下駄箱覗いてみたら!
『教室で待ってるわ プレゼントより』
なーんてちょっぴりロマンチックな置手紙!
もお、みんなったらぁ!そんなサプライズ良いのになぁーっ!
そんなわけで沈み気味だった気分がめちゃくちゃ上がった私。
「みーんなーっ!」
ガララッ、と勢いよくドアを開けると、そこに居たのは。
「あら、いらっしゃい」
「あ、え?鈴木さん?」
たくさんのプレゼントが乗った机と、クラスであまり話したことのない鈴木さんだけだった。
「ごめんなさいね、みんなは居ないの」
全然申し訳なさそうな鈴木さんの態度も気になるけど、鈴木さんがなんで居るのかのほうが気になっていました。
「あの、下駄箱の手紙って…」
「そう、ワタシよ」
「ぷ、プレゼントって…?」
「ココの、ぜーんぶ貴女へのプレゼントだそうよ。みんなから預かってきたの」
「預かってきた!?」
「ほら、コレなんて」
綺麗な飾りがついてて、ハートのシールで綴じられた便箋。
「貴女へのラブレターだそうよ」
「ら、ラブレター!?それを、渡しに?」
「いいえ、破りに」
「えっ」
「びりっとな」
――ビリッ!
「あ、あーっ!」
「こっちはアナタへのチョコとメッセージカードよ。はいバキッ」
「あーーー!」
そうして次々と出てきては粉砕されていくあれやこれやのプレゼントたち。
「う、うぅぅ…どうしてこんなことを…およよ……」
為す術も無くただただ破り捨てられていくプレゼントたちを見守るしかない私はついに膝をついていました。
「最期にコレ。ワタシからのラブレター」
「えぇっ!?」
「はいびりーっ」
「あーちょ!ちょっと!」
「どう?」
子供みたいに小首を傾げながら、聞いてくる鈴木さん。
「もう…鈴木さんがわからないです…」
「なら、教えてあげる」
「えっ」
粗方プレゼントを粉砕し終えた鈴木さんは、黒板へと向かった。
「今日の朝、好きなパンがやっと買えたんじゃない?」
「えっ、そ、そうだけど、なんで知ってるの」
言いながら、鈴木さんはパン屋さんと書いていく。
「ま、まさか、毎朝商品を並べる時に無理やり全部買ってくお客さんって」
「そう、ワタシ」
ニッコリ笑いながら、パン屋さんに花丸をつけていく鈴木さん。
「自転車置き場も、今日は水たまりが無かったんじゃなかったんじゃないかしら?」
「そ、そう、だけど……え、じゃあ、あの水たまりを毎朝作ってたのも」
「そう、ワタシ」
駐輪場、花丸。
「図書室で借りようと思ってた本が必ず無いのも!?」
「そう、ワタシ」
図書室にも、花丸。
そうして書き連ねられていく場所、言葉、あれやこれや。
「い、いつから、こんな」
「物にもよるけど、一カ月くらい前からかしら」
小首を傾げて、わざとらしく思い出す仕草を取って見せる鈴木さん。
「ひぇぇ」
全然顔が、悩んでるって顔してないよぉ。
「ねぇ、分かってくれた?」
スッと差し伸べられる手。
絡め取られる私のほっぺ。
「ワタシのこ・と」
鈴木さんの瞳に見つめられて。
吸い込まれそうなくらいの視線にくらつきながら、コクコクとお人形みたいに頷く。
すると、鈴木さんは嬉しそうにニコっと笑って。
「じゃあ、ワタシからのプレゼント」
そう言って、鈴木さんが私の胸元に抱き着いて、そっと耳を当てる。
「ステキな今日と、ステキなワタシをプレゼント」
「あっ…」
手紙に書いてあった、プレゼントよりって言葉。
何かの冗談っていうか、プレゼントが待ってるよって意味だと思ってたけど、そうじゃなかった。
本当に、プレゼントからの手紙だった。
「ほら、どうしたの?」
甘えるような声色で、手を握られて。
鈴木さんの頭を、抱えるように促される。
「え、と」
もう、スキップしたくなるようなワクワクは無くなっちゃったけど、でも。
今日はちょっぴり良い事がいっぱいあった日で、だからウキウキしてて。
そんな気持ちも全部、鈴木さんがくれたんだって思うと。
それに、人のプレゼントとか、破ったったりして。
でも、そういうところ全部見せてくれるのが、なんだか、鈴木さんの全部を見せられたような気がして。
不覚にも、胸が高鳴る私は。
「いただき、ます」
鈴木さんの頭をぎゅっと抱きしめて、彼女を受け取ったのでした。
そして、あれから十年。
今日も私は鼻歌混じりにスキップしながら歩いている。
それは何故かと聞かれれば、私の誕生日だから。
付け加えるなら、今日はお弁当のおかずが好きなものばかりで、帰りの電車で席に座れて、お気に入りのパンが買えて、誰からもプレゼントを貰っていないから。
ガチャッと開けた玄関の先で、きっと待っているに違いない。
あの日とおんなじ。
たくさんのプレゼントが乗ったテーブルと、危険な彼女のプレゼントが。
「ただいま」
「―――あら、おかえりなさい」
めでたしめでたし
サンプル3『なんてことはない所員の面倒で最高の転換日』
「……で?あなたはここで何してるわけ、舞香」
斡旋所の一角。
所員制服を着込み、鋭い視線を目の前の同僚へと向ける長身の女性の名は桜。
今日も今日とて、斡旋所での勤務を終えて帰宅しようとしていた矢先。
ろくに会話もしない他の所員たちに呼ばれ、会議室の一室へと渋々向かっていたのだが。
「あ、わわ」
指定された部屋の前で待っていたのは、同僚の女性所員。舞香だった。
「いやあ、あのぉ、今日は、ほらぁ、桜先輩のお誕生日で……」
誕生日。
その言葉を耳にした瞬間、桜の額のしわがより深く刻まれていく。
般若面か金剛力士像かというほどにイライラした表情を見せる桜に、ふるふると小動物のように涙ぐむ舞香は声も身体も震えさせながらも絞り出すように続ける。
「だ、だ、だから、その、いつものお礼ということでささやかなお誕生日会を催そうと思いましたらぁ、あれよあれよという間に会議室ひとつ貸切るような大事になってしまいもうして……」
「……はあ」
「ぴぇっ!せせせ先輩がこういうあのその大々的な催し物が嫌いなことは重々承知しているんですけどもあのその」
「……承知しているんですけども?」
「でででですけどもあのその……いつもの、お礼がしたくって……」
申し訳なさそうにうつむく舞香の姿に、桜は少しの間考えるような素振り見せ、めんどくさそうにため息を吐くと。
「帰る」
「えっ、えっ!待ってくださいっ!もうみんな待ってるんですよ!」
「それが嫌だから帰るの」
「でっ、でも!」
「じゃあ舞香は『いつものお礼です』って言って、カエルの丸焼き出されたら嬉しい?」
「かっ、かえるは……ちょっと……」
「そういうことよ」
「っ、う、うぅぅ」
カバンを肩にかけ直し、桜が踵を返す。
一歩、二歩。桜が踏み出すたびに開くものの、言葉が出てこない舞香の口から、六歩目にしてようやく言葉を発した。
「どっ、どうして先輩は、そう、チキンなんですかーーーっ!!!」
桜は、一瞬何が起こったのか分からず硬直していた。
「……は?」
「どうして斡旋所の人たちと仲良くしようとしないんですか!そんなに笑われるのが怖いんですか!」
「何を勘違いしてるのか知らないけど、私はそんなこと――」
「気付いてないようだから言いますけど!ごはん食べるときあんなにぽろぽろご飯粒落とすの先輩だけですからねっ!」
「ちょっ、大声でなにを――」
「一回のごはんで三回も『ご飯粒ほっぺについてますよ』って言われるの先輩だけなんですからねっ!」
「やめなさいよお!なんなのよお!」
自らの言い分には聞く耳持たれず、好き放題恥ずかしい事実を年下に暴露されて桜は若干涙目になっていた。
「わ、私はねぇ!」
涙目になりながらも、桜はキッと舞香を睨み付ける。
「誕生日会だなんだって理由つけて馬鹿騒ぎしたいだけだったり”おもちゃ”になりそうな人見つけようとするのが嫌いで、そんな嘘をついてるってことを自覚出来てない奴らが嫌いなだけなのよ!」
「先輩だって嘘ついてるくせに!ホントはみんなで仲良く飲み会したり、連休にはちょっぴり遠出したり、お正月とかお盆とかにはお土産持ち寄ってわいわい楽しくしたいくせにーっ!」
「でっ、出来るならそうしてるわよ!」
「そうすればいいじゃないですかっ!」
「出来なかったのよッ!!」
桜の目から叫びと共に零れ落ちる一筋の涙に、舞香は思わず息をのむ。
「何度も、何度も作ろうとしたわ。そんな、当たり前の……他の人たちにとっては、当たり前の関係を何度もね。でも、今の世の中はそう簡単じゃない……安全じゃ、ないのよ」
「桜先輩……」
「良いじゃない、いつ、どんな時に自分っていう存在が消えちゃうかわかんないのよ?だったら、自分の好きなように、生きたっていいじゃない……」
うつむき、途切れ途切れになりながらも言葉を紡ぐ桜の表情は計り知ることは出来なかったが。
その震える拳と、言葉が途切れるたびにきゅっと結ばれる口元から耐え難い悔しさが滲み出ていることを舞香は知っていた。
「……って桜先輩のそれは元カレに逃げられまくっただけじゃないですかッ!」
そして同時に桜の過去も舞香は知っていた。
「惚れる度すぐ貢いじゃうから良いように利用されまくっただけじゃないですかっ!わたし知ってるんですからね!」
「やめて!絶対違うもんっ!カケルもトウゴもサトルもユウキもみんな私に一言も言えないような悲惨な死を遂げただけだもんっ!私貢がされてないもんっ!」
「嘘だー!だってわたし聞きましたもん!キスどころか手も繋ごうとしない彼氏ばっかりだったから絶対奥さんとか本命の彼女が居る、誰でも見ればわかるって言ってましたもん!」
「誰よそんなこと教えた奴ッ!」
「桜先輩の同期さんですよっ!!!」
「ぐぬぬ………!あーじゃあもう良いわよ!」
痺れを切らした桜が、舞香の手を引きながら会議室の扉を開ける。
パンパンッ!とクラッカーが鳴り響き、室内でプレゼントを構えていた面々から「おめでとう!」の言葉が飛び出しかけたところへ、被せ気味に。
「私、舞香と二人で誕生日会やるから!」
と、叫ぶと思い切り扉を閉めて。
「あ、ちょ、ちょ、先輩!?」
舞香を引きずるように自分の車へと乗り、行きついた先は市内の日帰り温泉だった。
「ぷあー……温泉なんて久しぶりですぅー……じゃなくってっ!」
湯船に浸かりながらとろけかけていた舞香がフンスッと桜へ向き直る。
「な、なんで温泉来ちゃってるんですかあ!」
「だってこっちの方がリラックスできるでしょ。あんなところで適当に見繕ったの分かり切ってるプレゼントなんか貰ってどうなんのよ、疲れが取れるの?肩こりでも治る?そんなこと一切ないじゃない。私の人生にとって、なんの足しにもならないのよ」
ふぅーとこれみよがしにリラックスした様子で吐息を吐いて見せる桜に、若干不満気ながらも、舞香は再び湯船に浸かる。
「そりゃあ、効能はないかもしれませんけど……きっと、幸せな気持ちになれるのに……」
「ならないわ、私はね」
「そんなの!わかんないじゃないですか!」
「わかるわ、嬉しくなかったもの」
窓ガラスの向こうへと向けていた視線を手元へ落としながら、桜はつぶやくように続ける。
「周りの気持ちを受け取っても、それを嬉しいと思うかどうかは私の勝手でしょう?なのに、喜ぶことを期待されて、喜ばなかったら変な目で見られて、損するのはこっちなんておかしいじゃない」
しばし、舞香も桜と同じように視線を落とす。
やがて。
「じゃあ」
舞香が、つぶやくように言った。
「わたしは、どうやって先輩に喜んでもらえばいいって言うんですか」
むつけるような、拗ねるような、我が侭を言ってることを重々承知しながらもお互い様でしょとでも言いたげな声色に。
「そうねぇ」
桜は嬉しさ誤魔化すように、少しおどけた口調で返す。
「今まで通りでいいわよ、別に」
桜の言葉に舞香は顔を上げ、何か言いたげな表情をしてから桜のチラチラとせわしなく動く視線を見つけると、徐々に嬉しそうな表情へと変わっていき、そして。
「そうしてあげてもいいですよ?べつに」
得意気な表情で、桜の肩をつついてみせるのだった。
そして、後日。
桜と舞香の言い争いを聞いてしまった所員の面々は気まずい面持ちながらも、毎日のように忙しい所を空けるわけにもいかないので健気に出勤していた。
気まずい雰囲気の中、朝礼が終わろうとしたとき。
「あの」
スッと、片手を挙げた舞香が立ち上がり皆の前へと歩き出た。
「昨日はありがとうございました」
舞香は満面の笑みで、キョトンとした所員の面々ひとりひとりへ語り掛けるように視線を移しながら続けた。
「でも、金輪際ああいうのはもう大丈夫です」
「は?」
どうせ社交辞令的なお礼を言うのだろうと思っていた桜は、思わずすっとんきょうな声を漏らす。
「先輩のお祝いは、全部、わたしが、先輩と二人きりでやることにします。だって――」
舞香が、わざとらしく言葉を溜め、そして。
「わたしと先輩は、そういう関係ですから、ねっ!」
これでもかと得意気な表情で言ってみせる舞香に、桜は一瞬唖然としたものの。
その口角がわざとらしく吊り上がっていることに気が付くと、同じようにわざとらしく口角をつりあげ、黙って仕事に取り掛かったのだった。
おしまい
斡旋所の一角。
所員制服を着込み、鋭い視線を目の前の同僚へと向ける長身の女性の名は桜。
今日も今日とて、斡旋所での勤務を終えて帰宅しようとしていた矢先。
ろくに会話もしない他の所員たちに呼ばれ、会議室の一室へと渋々向かっていたのだが。
「あ、わわ」
指定された部屋の前で待っていたのは、同僚の女性所員。舞香だった。
「いやあ、あのぉ、今日は、ほらぁ、桜先輩のお誕生日で……」
誕生日。
その言葉を耳にした瞬間、桜の額のしわがより深く刻まれていく。
般若面か金剛力士像かというほどにイライラした表情を見せる桜に、ふるふると小動物のように涙ぐむ舞香は声も身体も震えさせながらも絞り出すように続ける。
「だ、だ、だから、その、いつものお礼ということでささやかなお誕生日会を催そうと思いましたらぁ、あれよあれよという間に会議室ひとつ貸切るような大事になってしまいもうして……」
「……はあ」
「ぴぇっ!せせせ先輩がこういうあのその大々的な催し物が嫌いなことは重々承知しているんですけどもあのその」
「……承知しているんですけども?」
「でででですけどもあのその……いつもの、お礼がしたくって……」
申し訳なさそうにうつむく舞香の姿に、桜は少しの間考えるような素振り見せ、めんどくさそうにため息を吐くと。
「帰る」
「えっ、えっ!待ってくださいっ!もうみんな待ってるんですよ!」
「それが嫌だから帰るの」
「でっ、でも!」
「じゃあ舞香は『いつものお礼です』って言って、カエルの丸焼き出されたら嬉しい?」
「かっ、かえるは……ちょっと……」
「そういうことよ」
「っ、う、うぅぅ」
カバンを肩にかけ直し、桜が踵を返す。
一歩、二歩。桜が踏み出すたびに開くものの、言葉が出てこない舞香の口から、六歩目にしてようやく言葉を発した。
「どっ、どうして先輩は、そう、チキンなんですかーーーっ!!!」
桜は、一瞬何が起こったのか分からず硬直していた。
「……は?」
「どうして斡旋所の人たちと仲良くしようとしないんですか!そんなに笑われるのが怖いんですか!」
「何を勘違いしてるのか知らないけど、私はそんなこと――」
「気付いてないようだから言いますけど!ごはん食べるときあんなにぽろぽろご飯粒落とすの先輩だけですからねっ!」
「ちょっ、大声でなにを――」
「一回のごはんで三回も『ご飯粒ほっぺについてますよ』って言われるの先輩だけなんですからねっ!」
「やめなさいよお!なんなのよお!」
自らの言い分には聞く耳持たれず、好き放題恥ずかしい事実を年下に暴露されて桜は若干涙目になっていた。
「わ、私はねぇ!」
涙目になりながらも、桜はキッと舞香を睨み付ける。
「誕生日会だなんだって理由つけて馬鹿騒ぎしたいだけだったり”おもちゃ”になりそうな人見つけようとするのが嫌いで、そんな嘘をついてるってことを自覚出来てない奴らが嫌いなだけなのよ!」
「先輩だって嘘ついてるくせに!ホントはみんなで仲良く飲み会したり、連休にはちょっぴり遠出したり、お正月とかお盆とかにはお土産持ち寄ってわいわい楽しくしたいくせにーっ!」
「でっ、出来るならそうしてるわよ!」
「そうすればいいじゃないですかっ!」
「出来なかったのよッ!!」
桜の目から叫びと共に零れ落ちる一筋の涙に、舞香は思わず息をのむ。
「何度も、何度も作ろうとしたわ。そんな、当たり前の……他の人たちにとっては、当たり前の関係を何度もね。でも、今の世の中はそう簡単じゃない……安全じゃ、ないのよ」
「桜先輩……」
「良いじゃない、いつ、どんな時に自分っていう存在が消えちゃうかわかんないのよ?だったら、自分の好きなように、生きたっていいじゃない……」
うつむき、途切れ途切れになりながらも言葉を紡ぐ桜の表情は計り知ることは出来なかったが。
その震える拳と、言葉が途切れるたびにきゅっと結ばれる口元から耐え難い悔しさが滲み出ていることを舞香は知っていた。
「……って桜先輩のそれは元カレに逃げられまくっただけじゃないですかッ!」
そして同時に桜の過去も舞香は知っていた。
「惚れる度すぐ貢いじゃうから良いように利用されまくっただけじゃないですかっ!わたし知ってるんですからね!」
「やめて!絶対違うもんっ!カケルもトウゴもサトルもユウキもみんな私に一言も言えないような悲惨な死を遂げただけだもんっ!私貢がされてないもんっ!」
「嘘だー!だってわたし聞きましたもん!キスどころか手も繋ごうとしない彼氏ばっかりだったから絶対奥さんとか本命の彼女が居る、誰でも見ればわかるって言ってましたもん!」
「誰よそんなこと教えた奴ッ!」
「桜先輩の同期さんですよっ!!!」
「ぐぬぬ………!あーじゃあもう良いわよ!」
痺れを切らした桜が、舞香の手を引きながら会議室の扉を開ける。
パンパンッ!とクラッカーが鳴り響き、室内でプレゼントを構えていた面々から「おめでとう!」の言葉が飛び出しかけたところへ、被せ気味に。
「私、舞香と二人で誕生日会やるから!」
と、叫ぶと思い切り扉を閉めて。
「あ、ちょ、ちょ、先輩!?」
舞香を引きずるように自分の車へと乗り、行きついた先は市内の日帰り温泉だった。
「ぷあー……温泉なんて久しぶりですぅー……じゃなくってっ!」
湯船に浸かりながらとろけかけていた舞香がフンスッと桜へ向き直る。
「な、なんで温泉来ちゃってるんですかあ!」
「だってこっちの方がリラックスできるでしょ。あんなところで適当に見繕ったの分かり切ってるプレゼントなんか貰ってどうなんのよ、疲れが取れるの?肩こりでも治る?そんなこと一切ないじゃない。私の人生にとって、なんの足しにもならないのよ」
ふぅーとこれみよがしにリラックスした様子で吐息を吐いて見せる桜に、若干不満気ながらも、舞香は再び湯船に浸かる。
「そりゃあ、効能はないかもしれませんけど……きっと、幸せな気持ちになれるのに……」
「ならないわ、私はね」
「そんなの!わかんないじゃないですか!」
「わかるわ、嬉しくなかったもの」
窓ガラスの向こうへと向けていた視線を手元へ落としながら、桜はつぶやくように続ける。
「周りの気持ちを受け取っても、それを嬉しいと思うかどうかは私の勝手でしょう?なのに、喜ぶことを期待されて、喜ばなかったら変な目で見られて、損するのはこっちなんておかしいじゃない」
しばし、舞香も桜と同じように視線を落とす。
やがて。
「じゃあ」
舞香が、つぶやくように言った。
「わたしは、どうやって先輩に喜んでもらえばいいって言うんですか」
むつけるような、拗ねるような、我が侭を言ってることを重々承知しながらもお互い様でしょとでも言いたげな声色に。
「そうねぇ」
桜は嬉しさ誤魔化すように、少しおどけた口調で返す。
「今まで通りでいいわよ、別に」
桜の言葉に舞香は顔を上げ、何か言いたげな表情をしてから桜のチラチラとせわしなく動く視線を見つけると、徐々に嬉しそうな表情へと変わっていき、そして。
「そうしてあげてもいいですよ?べつに」
得意気な表情で、桜の肩をつついてみせるのだった。
そして、後日。
桜と舞香の言い争いを聞いてしまった所員の面々は気まずい面持ちながらも、毎日のように忙しい所を空けるわけにもいかないので健気に出勤していた。
気まずい雰囲気の中、朝礼が終わろうとしたとき。
「あの」
スッと、片手を挙げた舞香が立ち上がり皆の前へと歩き出た。
「昨日はありがとうございました」
舞香は満面の笑みで、キョトンとした所員の面々ひとりひとりへ語り掛けるように視線を移しながら続けた。
「でも、金輪際ああいうのはもう大丈夫です」
「は?」
どうせ社交辞令的なお礼を言うのだろうと思っていた桜は、思わずすっとんきょうな声を漏らす。
「先輩のお祝いは、全部、わたしが、先輩と二人きりでやることにします。だって――」
舞香が、わざとらしく言葉を溜め、そして。
「わたしと先輩は、そういう関係ですから、ねっ!」
これでもかと得意気な表情で言ってみせる舞香に、桜は一瞬唖然としたものの。
その口角がわざとらしく吊り上がっていることに気が付くと、同じようにわざとらしく口角をつりあげ、黙って仕事に取り掛かったのだった。
おしまい