バンパイア サルーシャ 〜血と炎の赤〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月13日〜12月23日

リプレイ公開日:2007年12月19日

●オープニング

「バンパイアについての情報は極端に少なねぇんだよ。いろいろと苦労しているんだぜ。これでも」
 情報屋のひげ面の男が妙な臭いを放つ飲み物を口にしながら、クロードに話しかける。飲むのを薦められたがクロードは断った。
 クロードは物で溢れた情報屋の部屋にいた。
「なんせ、クロードの旦那からもらえた手がかりは『サルーシャ』という名で美人ということだけ。後は誘拐された人物かも知れんぐらいか」
「少ない情報ですみません。それで、何か掴めましたか?」
「ああ、『サルーシャ』という名前が偽名じゃないという前提でだがな。それらしい人物がいたという町を見つけたよ。この町だ」
 ひげ面の男は羊皮紙に描かれた地図を指さした。
 クロードは眼を見開く。
 その町の名は『バルモ』。
 バルモ町はクロードがルノーに噛まれた娘アーミルを連れて彷徨った山の麓にある。かつて本名のバリオ・ロンデアで教会を手伝いながら住んでいた『スモーリア町』とはちょうど山を挟んだ位置にあった。
 クロードはまず間違いないと呟く。あの地域にバンパイアノーブルのルノー・ド・クラオンが出没していた事は確かだ。バンパイアスレイブになったサルーシャなる人物が、かつてバルモ町に住んでいた可能性はかなり高い。
「いってみるのかい? バルモ町に?」
 クロードから謝礼金を受け取りながらひげ面の男が訊ねる。
「行きたくはありませんが、行かない訳にはいかないでしょう‥‥。バルモ町を含めるあの地域は今、どうなっていますか?」
「しょうがねえな。オマケだぜ? バンパイアの噂が流れてからというもの、酷い状況らしいわ。誰も人を信じず、誹謗中傷、密告、リンチなどがてんこ盛りだとさ。情報屋の俺がいうのもなんだがね」
 ひげ面の男は薄ら笑いを浮かべた。
 クロードは一礼して情報屋の部屋を立ち去る。そして冒険者ギルドを訪れて依頼を出した。
 バルモ町にかつていただろう『サルーシャ』なる娘がどんな人物だったのか。姿を消した際はどの様な状況だったのかを冒険者に調べて欲しいという内容であった。
 クロードも同行するつもりだ。山で隔てられているとはいえ、スモーリア町が近くにある。慎重に動かなくてはならない。
 帰り道、クロードの脳裏に助けられなかった娘アーミルと、スモーリア町で世話になった司祭の顔が浮かんだ。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2237 リチャード・ジョナサン(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1876 イリューシャ・グリフ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec2838 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec3793 オグマ・リゴネメティス(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ラファエル・クアルト(ea8898)/ 十野間 空(eb2456)/ コルリス・フェネストラ(eb9459

●リプレイ本文

●バルモ町
 二日という長い道のりは順調だった。
 新しく参加してくれた冒険者達もバンパネーラであるクロードを理解してくれる。
 御者のブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)のおかげで荷馬車も大して揺れずにここまで来られた。荷馬車に繋がれた冒険者達の馬達のおかげでもある。
 唯一の不安はクロードの浮かない表情が物語る。
 この前の依頼でジュエル・ランド(ec2472)とイリューシャ・グリフ(ec1876)がバンパイア・スレイブの『サルーシャ』を目撃する。
 シュネー・エーデルハイト(eb8175)の勧めによって、野営時、二人に特徴を聞きながらクリミナ・ロッソ(ea1999)とブリジットがサルーシャの似顔絵を作成してくれた。
 その似顔絵を観たクロードは絶句する。何故ならば救えなかったスモーリア町の娘アーミルにそっくりであったからだ。
 クロードはアーミルが火刑に処されている現場を目撃していない。アーミルの名を叫ぶ町民達の声を煙が入ってきた部屋で聴いただけだ。さらに怒りのあまり錯乱してしまい、その後の記憶が定かではなかった。
 バンパイアのサルーシャがアーミルの可能性がわずかながらある。かといってサルーシャがアーミルだとは言い切れない部分もあった。特徴的な目尻下のほくろが似顔絵にはあるのだが、アーミルにはなかったのだ。
「囮班には先に町へ入ろう」
 三日目の朝、目的のバルモ町にあと半日という所でリチャード・ジョナサン(eb2237)がかねてからの作戦を口にする。
「別動班は後で向かいます」
 オグマ・リゴネメティス(ec3793)はセブンリーグブーツを履いて待機済みだ。昨晩、コルリスが用意してくれた地図をダウジングペンデュラムで探ってみたが、特に反応はなかった。正確にいえばあまりに町全体が危険で絞りきれなかった印象がある。
「調べてくれたラファエルによれば、今までのギルド依頼にバルモ町が関わるものはなかったようだね」
 イリューシャはバルモ町を間近にして、あらためて仲間に知っていることを話した。
 囮班はリスティア・バルテス(ec1713)、イリューシャ、ジュエル、クリミナ、リチャードで、そのまま荷馬車でバルモ町に向かう。
 別動班はシュネー、ブリジット、オグマ、クロードで馬やセブンリーグブーツなどで向かうことになっていた。
 昼頃に囮班がバルモ町に到着する。暮れなずむ頃に別動班が到着した。
 大通りにも人通りの少ない寂れた町であった。

●情報
「ご店主、買って下さいよぉ」
 四日目、みすぼらしい格好に変装したクリミナは酒場に入って店主に懇願する。愛馬に載せてある酒を買って欲しいと。
 哀れみを演出することで情報を引きだす作戦であった。
 酒場の隅ではジュエルがシフールの竪琴を奏でながらメロディーを使う。
(「うわぁ‥‥こんなに酷いの滅多にないわ‥‥」)
 ちょっとやそっとのメロディーでは、どうにも改善されない暗く殺伐とした雰囲気である。酒場の全員は無理だが、少しでも和むようにジュエルは懸命に唄った。
 リチャードが大剣を肩に担いで側にいてくれるおかげで襲われることはないが、そうでなければすでに襲われているかも知れない。
「ああぁ? 女だって?」
 ジュエルが訊いても、酒場の酔っぱらい達は話しに乗ってくれない。やはりいつもとは様子が違った。作戦を変えた方がよさそうだとジュエルは考え始めていた。
「お、おい? 今なんていった?」
「バンパイアについて教えてくれといっただけだよ。この周辺でバンパイアが徘徊していたと噂で聞いたよ」
 リチャードが近くにいた酔っぱらいに訊ねると酒場が静まりかえる。
 クリミナが店主に何本かの酒を買わせた後、ちょうどバンパイアについて訊こうとしていたところであった。
 店主もリチャードの言葉に凍り付いている。バンパイアという言葉自体が町の禁句になっているのだとクリミナは感じた。
 三人とも囮班なので目立つことは作戦通りだ。ただ酒場の者達の視線があまりに鋭すぎる。
 先にジュエルが窓から酒場を出る。そして酒の代金に握りしめたクリミナ。続いてリチャードも無事に酒場を脱出する。
「これは大変な調査になりそうね‥‥」
 クリミナの呟きにジュエルとリチャードは頷いた。

 イリューシャとリスティアはバルモ町の自警団詰め所を訪れていた。この町には領主から派遣された官憲はいない。
「俺達二人はパリにある冒険者ギルドでバンパイア退治の依頼された冒険者なんだ。何か情報があったら教えてくれないか」
「ああ、そうかい。そうかい。お、それで俺の勝ちだな」
 イリューシャが話しかけても自警団員は上の空で返事をするだけだ。木札とサイコロを使って仲間と賭け事を続けていた。
「あまり、その事を訊き回るのはよくないぜ。バンパイアにかこつけた恨み妬みの嘘密告なんかも多いからな。いつの間にかバンパイアって事にされても知らないぜ。町のみんなは疑心暗鬼でいっぱいだ。俺らの仕事も犯罪者を掴まえたりすることより、火あぶりを手伝う方が多くなった‥‥。まあ、燃やす薪とか用意さえすれば、勝手に町民達がやるんだけどな」
 別の自警団員が酒の瓶を手にしたまま、イリューシャとリスティアに話しかけてきた。
「そんな‥‥」
 リスティアが十字架を握りしめる。
「一つだけ聞きたいけと教えてくれるかい? この町にサルーシャという女性はいたのは本当かな? 男だったら誰でも歓迎したいくらいの美人だったらしい」
「サルーシャ? ああ、結構美人だったから覚えている。ある日突然町から姿を消したと思う。まだバンパイア騒ぎが始まる前だったか。関係があるのか?」
 イリューシャは自警団員の質問をはぐらかす。そして詰め所を後にした。
 続いて訪れたのは、この町唯一の教会である。
「司祭様、この町にいたはずのサルーシャという女性について何か知りませんか?」
「サルーシャ‥‥よく知っています。ミサには必ず来てくれていたよい娘でありました。突然町から姿を消したので驚いた記憶があります。今思えばあの時出ていって正解だったのかも知れません。現在の町の惨状は嘆かわしいことです」
 リスティアが似顔絵を見せると、司祭は丁寧に答えてくれた。
「私の力不足もありますが‥‥、ここまでの狂気に取り憑かれると誰にも鎮めることは出来ないでしょう。山の反対側の麓にあるスモーリア町でも同じような騒ぎが起きているようです‥‥」
「お気を落とさずに。そして希望を持って町の人々の導きをどうか」
 リスティアは苦悩に満ちた表情の司祭と共に祈りを捧げる。
 イリューシャはさりげなく教会内を調べたが、ペルペ教を示すようなものはどこにもなかった。

 教会の外では別動班であるシュネー、ブリジット、オグマ、クロードが身を隠しながら囮班の周囲を見張っていた。
 今日はイリューシャとリスティアの二人を追い、明日はもう一方の囮班の予定である。
 自警団詰め所から教会までの間、二人の男がイリューシャとリスティアの後を追っていた。シュネーは自警団の者だろうと想像する。
「自警団はどうやら敵となる立場の人達ですね」
「そう私も思います」
 ブリジットとオグマは小さな声で仲間に話しかける。
「こうなると、自浄されることはまずないでしょう。悪くなる一方です」
 クロードは特に姿を晒さないように深くフードを被っていた。バンパネーラとバンパイアの区別など一般の者にはわかるはずもない。仲間も気にしてくれたが、何より自分自身の注意が必要である。
「イリューシャとリスティアが出てきたわ。追っ手の一人が教会に入ろうとしてる。司祭とかに話した内容を聞くつもりかしら‥‥。オグマ、お願いできる?」
 シュネーに頼まれたオグマは教会に忍び込んだ。
 イリューシャとリスティアはこの後、宿屋に戻るだけなので追いかける必要はない。襲われたとしても簡単にやられる二人ではないからだ。
 しばらくするとオグマが教会から戻ってきた。シュネーの考えていた通り、教会に入った男は司祭に根ほり葉ほりさっきまでの会話についてを尋ねていたという。
「注意すべきは自警団か」
 クロードが教会を眺めて呟いた。

●進展
「あっちや!」
 ジュエルが滑空しながらクリミナとリチャードを先導する。その先には逃げる男が一人。
 七日目の夕方の出来事であった。
 ジュエルが道ばたにいた女性にサルーシャについて訊いてみると、突然男が斬りかかってきたのだ。
 もうすぐ路地裏が終わろうとした時、前方で男の逃げ道を塞いでくれた者達がいた。別動班の仲間である。
 逃げ道を失った男は観念する。
 男はペルペ教の信者であり、サルーシャについて嗅ぎ回る者がいたのなら始末するのが役目であった。同時にサルーシャの唯一の肉親である兄を見張る事も役目の一つだという。
 リチャードは男からサルーシャの兄の居場所を聞きだした。男を縛り上げて、しばらく見つからないような場所に放り込んでおく。
「帰ってくれ!」
 リチャード、クリミナ、ジュエルが兄の家を訪れるが、門前払いをされる。
 しかしここで諦める訳にもいかない。ジュエルが高窓から、家の中を覗くとベットで寝込んでいる女性の姿があった。どうやらサルーシャの兄の妻で病気のようだ。
 すぐに戻ったジュエルは仲間に相談する。自然治癒する病気ならいいが、万が一にもバンパイアに噛まれたのなら大事である。
 リスティアとイリューシャも呼び、ここからは囮班、別動班の区別なく全員で事にあたる。
 少々強引にクロードとクリミナが家に入り、サルーシャの兄を説得した。パリに連れて行き、治療をしてあげられる用意があるといって。
「バンパイアに咬まれたのでは‥‥ないと思う。熱があるだけでただの風邪のはずだ。だが、この病状が世間に知られれば火刑にされてしまうかも知れないんだ」
 サルーシャの兄は涙ながらに妻の心配する。
「妻が熱で倒れた事が近所に知られてしまった‥‥。このままでは」
 サルーシャの兄は一行に助けを求めた。
「風邪だとは思いますが‥‥」
 クリミナは応急手当ての知識は持っていたが、詳しい事まではわからなかった。身体のどこにも咬まれた傷跡はない。
 一行は全員で相談する。
 今はサルーシャの兄とその妻をバルモ町から脱出させ、パリの教会まで連れてゆく事が先決だと決まった。そして運ぶのなら出来るだけ早い方がいいと。
 夜陰に紛れて脱出する計画を立てる一行であった。

●脱出
 蹄の音が止まる。
 すでに日は暮れて暗い。荷馬車にはランタンが灯されていた。
「さあ、こっちよ」
 シュネーとがサルーシャの兄に指示を出す。サルーシャの兄は妻を背負って荷馬車に乗り込む。
 すぐにシュネーが御者台に座り、荷馬車を走らせた。ジュエルがランタンを手に飛行しながら先行して夜道を照らしてくれる。
 リチャード、ブリジットはウォーホースに跨り、荷馬車を護衛した。夜空を飛ぶジュエルを除いて、その他の全員が荷馬車に乗っている。
 突然、夜のバルモ町に鐘の音が鳴り響く。
 何故鐘の音が鳴ったのかはすぐにわかった。想像していた通り、一行が運ぼうとする病気の女性は見張られていたのだ。
 家々の戸が開き、中から町民達が農具を手にして飛びだしてきた。
 進行方向を塞がる町民達をブリジットが忍者刀で払う。殿のイリューシャは、追いかけてくる町民達を牽制する。
 夜道で異常な状況に馬達も怯えていた。荷馬車は普段よりゆっくりとしか走れなかった。
 ようやく外へと繋がるバルモ町の門近くに辿り着く。
 荷馬車は一旦停止する。門はしっかりと閉められていたが、中からなら比較的簡単に開けることが出来るはずである。
 門の両側にある見張り台へとジュエルが飛んでいった。
 クロードはホーリーフィールドを張り、荷馬車を安全に保つ。リスティアは病気の女性をかばうように覆い被さった。
 リチャードはクレイモアを手に荷馬車を降りて、襲いかかってくる町民達を退ける。
 オグマは威嚇で矢を放つ。
 クリミナはコアギュレイトで町民達の足を止めてゆく。
「門の錠は開けたで!」
 ジュエルが叫び、シュネーは手綱をしならせて荷馬車を門に突っ込ませる。大した抵抗もなく、門は開いた。そのまま荷馬車は町の外へと飛びだした。
 追いかけてくる町民達はだんだんと小さくなり、闇に紛れて消え去る。足音やかけ声もやがて聞こえなくなり、荷馬車の音だけになるのだった。

●安心
 十日目の昼、一行はパリへと到着した。
 すぐに病気の女性は教会へ運ばれるが心配はなかった。やはりただの風邪であったようだ。もっとも大事をとらなければいけない状況ではある。
 クロードがサルーシャの兄と妻をしばらく預かることになった。感謝したサルーシャの兄から冒険者達にお礼金が渡される。
 帰り道中に、サルーシャの兄から重要な情報が得られる。失踪したサルーシャと亡くなったはずのアーミルが親戚同士であったことを。
 互いの両親はすでに亡くなっていたが、親族同士仲がよかったのだという。
 クロードの心配はより深くなった。
 仇であるバンパイア・ノーブルのルノー・ド・クラオンの好みがアーミルの容姿であるのなら、サルーシャも狙われた可能性が高い。そしてアーミルがどうなったかははっきりとしていない。
「亡くなったと思っていたアーミルは‥‥」
 誰にも真実はわからなかった。それを知る為にはスモーリア町に行かなければならないとクロードは結論を出した。
 クロードは仲間の励ましに、気持ちを奮い立てさせるのであった。