後悔の町スモーリア 〜血と炎の赤〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:01月03日〜01月13日

リプレイ公開日:2008年01月12日

●オープニング

「行かれるおつもりなのですか? スモーリア町へ」
 サルーシャの兄モルオンテスに訊ねられ、クロードは長い間の後で頷く。
 クロードはパリの貧民街にある自宅にモルオンテスとその妻ミリアルをかくまっていた。
 風邪であったミリアルは元気を取り戻していたが、バルモ町に二人を帰す訳にはいかない。バンパイアへの恐怖はまだバルモ町に残っているはずだ。狂気にかられた町民達が何をしでかすのかわからないからだ。
 モルオンテスによれば、妹のサルーシャは突然の失踪でいなくなったのだという。似顔絵の一致からしてもまず間違いなくバンパイア・スレイブになったのはサルーシャだ。
 問題はクロードが救えなかった娘アーミルの事である。
 捕らえられたクロードはアーミルが焼かれた現場を目撃していない。その後もアーミルは焼かれたものだと思いこみ、ローエン司祭が脱出させてくれた際にも問いただしてはいなかった。
 バルモ町と山を挟んで存在するスモーリア町。かつてクロードが本名のバリオ・ロンデアとして教会の手伝いをしながら住んでいた町である。
 あの悲劇の真実を知るためにはスモーリア町に行かなくてはならないと、クロードは考えていた。つい先程冒険者ギルドに出向いて依頼を出してきたばかりである。
「アーミルが本当にあの時、亡くなったのか‥‥。それともバンパイア・ノーブルのルノー・ド・クラオンが何かをしたのか‥‥それが知りたい、いや知らなくてはならないんです。この身をもって」
 クロードはモルオンテスを見つめながら答えるのであった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2237 リチャード・ジョナサン(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1876 イリューシャ・グリフ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec3793 オグマ・リゴネメティス(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

レン・コンスタンツェ(eb2928)/ イシリシク・ローレミファ(eb4772)/ セタ(ec4009)/ ホーソン・ガードナー(ec4033

●リプレイ本文

●心の故郷
 四日目の暮れなずむ頃、スモーリア町の教会を旅の四人が訪れる。助祭によってローエン司祭が現れ、数日の宿を許された。
「これも神のお導きです」
 ローエン司祭は助祭の一人に旅の四人を任せる。
 髪を黒く染め、耳を隠して貴族の主人に成り済ましたイリューシャ・グリフ(ec1876)。
 女装をし、セレスト・グラン・クリュ(eb3537)の名前を借りて、イリューシャの妻に扮したクロード・ベン。
 侍女としてかしずくシュネー・エーデルハイト(eb8175)。
 大剣を帯刀する護衛の騎士、リチャード・ジョナサン(eb2237)。
 町に入る前に施された女装のおかげでクロードの正体はばれずに四人は教会の一室へと通される。グリフォンのシュテルンに関しては教会近くの大木辺りに待機させた。馬は厩舎があるので預かってもらった。猫は部屋に入れるのを許してもらう。
 続いて教会に現れたのは神に仕える三人である。
 クレリックのクリミナ・ロッソ(ea1999)。
 同じくクレリックのリスティア・バルテス(ec1713)。
 神聖騎士クローディア・ベンを名乗るセレストである。
 三人は自分達を王宮と管轄司教からの遣いだと説明した。しばらく滞在し、スモーリア町の状況を確認して王宮と司教に伝えるのが役目だとローエン司祭に告げる。遣わされたのは嘘であるが、調べた事を伝えるつもりなのは本当である。
 三人が乗ってきた荷馬車は教会の庭へと停められ、馬は厩舎に預けられる。犬は部屋の窓近くの庭だ。
 教会関係の三人に続いてこっそりと現れたのはオグマ・リゴネメティス(ec3793)である。
 旅人として数日の宿を借りたいと願う。危険な地域なのはローエン司祭も承知なので、お困りでしょうと許された。
 ジュエル・ランド(ec2472)は流浪の楽士を名乗る。多人数の相部屋になるのを説明された上で宿を許された。
「つかぬ事をお聞きしますが――」
 ローエン司祭にジュエルはラテン語の修得についてを訊ねられる。ジュエルが頷くと、時間がある時に聖歌を唄って欲しいと頼まれた。
 久しく聞いていないと遠い目をして呟くローエン司祭であった。

●疑いと調査
 五日目、一行は朝早くから行動を開始する。
 治安が悪いのはクロードから聞いていた。慎重に事を運ばなければ、バルモ町の時のように町民に追われての脱出になるだろう。
 あの時は仕方なかったのだが、出来れば今回は避けたい冒険者達であり、クロードであった。

 ジュエルはシフールの竪琴を奏でながら唄う。
 酒場は昼間から酔いどれ共が集う、華やかさからは無縁のごみためであった。
(「バルモ町の酒場よりは、ちょっとはええけど‥‥」)
 メロディで答えを引きだしやすい精神状況に導こうとジュエルはがんばった。バルモ町の酒場に比べれば、まだスモーリア町の酒場はケンカがほどほどなだけマシである。
 しかしとてもパリでのお見合いパーティについての話題を振る雰囲気ではない。
 道中にクロードからアーミルの名を出さない方がいいといわれていた。吸血鬼についての話題も相手が振ってこない限り、止めた方がいいらしい。
 ジュエルは悩む。そうなると訊ねる事がほとんどなくなってしまう。
 王宮からこの町に査察官が派遣された噂は流した。問題は吸血鬼関連である。
(「あの人なら大丈夫そうや」)
 ジュエルは気が弱そうで親切そうな客を見つけて近寄る。
「許さない‥‥バリオ。奴のせいで――」
 客が酒を呑みながら呟いた一言を聞いて、ジュエルは話しかけるのを止めた。
 バリオとはクロードの本名である。
 スモーリア町ではクロードがバンパイアに間違えられた一連の事件が、未だ風化していないのをジュエルは理解した。

 オグマはバンパイアの潜伏を危惧して注意深く動き回っていた。
 昨日のうちに調べておいた教会関係者はすべて人であり、バンパイアは一人としていない。
 五日目の今日は町内の探索だ。
 目立たないように移動してはブレスセンサー、ミラーオブトルース、リヴィールエネミー、インフラビジョンなどを活用する。
 バンパイアらしき人物は見つからず、オグマはひとまず安心する。
 昨晩のうちにジュエルと手分けして教会内を調べたが、どこにもペルペ教を示すものはなかった。同じく町内にもそれらしき紋章は見つからない。
(「安心しきるのはいけません。巧妙に隠れているのかも知れないし、油断は禁物‥‥」)
 オグマは誰にも気づかれずに教会へ戻るのであった。

 リスティア、クリミナ、セレストは町の治安と吸血鬼に関する調査を始める。
 スモーリア町は酷い有様であった。
 一見バルモ町よりはまともに見えるが、それはすでに町民がやる気を無くしていたからだ。
 恨み辛みを抱いてすすり泣くだけなのが、スモーリア町だといっていい。
 バンパイアの騒動で町民の誰もが大切な人達を失っていた。
 ルノーに噛まれて吸血鬼化しかけた娘達を燃やしただけではなかった。狂気のせいで罪のない人々も犠牲となっている。
 バルモ町の狂乱を越えて辿り着いた終着場。それがスモーリア町であった。
 神に遣える三人にとって哀しみの世界が広がっていた。
 セレストは官憲を探したが、見つかったのは廃墟の建物だけだ。
 破壊された入り口を眺めるセレストは、行きの道中でクロードと交わした会話を思いだす。
 質問されたクロードは悩みを言葉にした。依頼を始めた頃ならルノーを倒す目的と訊かれれば『復讐』と答えたはずだと。だが今は違うような気がすると曖昧であった。
 夕方、三人はジュエルと合流する。そしてアーミルが葬られたはずの墓地を訪ねた。
 クリミナがジュエルにグットラックをかける。
 ジュエルはムーンアローを赤く染まる空に放った。
 光の矢は大きく迂回し、ジュエルの肩に命中する。少なくともこの墓地にはアーミルは眠っていない。
 リスティアがリカバーでジュエルを回復してあげた。
「今夜、クロードがローエン司祭と話すっていってたけど大丈夫かな‥‥」
 リスティアは振り返り、シルエットの教会をしばらく眺め続けた。

 教会に戻ったクリミナはわずかに得た情報を整理し始める。
(「このままでは晴れないわね‥‥」)
 クリミナはバンパイアノーブルのルノーに、この地域の領主が殺されているのではないかと疑いを持っていた。これほど酷い状況なのに放置されているのは、とてもおかしく感じられたからだ。
 だが確固とした証拠は何もない。
 今だけに終わらせず、次からも領主については注意を払おうと考えるクリミナであった。

 貴族の一行として教会に潜り込んだ四人は町内へと出かけなかった。
 理由はいくつかあるが、クロードが教会に留まるのを望んだ事が一番大きい。
「あのね。その‥‥」
 椅子に座り続けるクロードにシュネーは声をかける。クロードは振り向くだけで黙ったままだ。
「今夜でしょ。ローエン司祭に訊いてみるのは。‥‥感情的にならないでね。難しいのはわかっている。でも‥‥一人じゃないわ。私達を信じて耐えて欲しい」
「ありがとう、シュネーさん」
 クロードは微笑んで言葉を続ける。
「大丈夫です。ローエン司祭には感謝しているんです」
 シュネーはクロードの様子にほっとする。
「教会周囲の状況を調べてきた。今のところ、安全のようだな」
 イリューシャが部屋に戻り、ベットに腰掛ける。
「グランドクロスを教会に進呈したら喜ばれた。本当は信者や町民達の前で大仰に渡したかったのだがね。そうしている時間もなさそうだ」
 リチャードも部屋に戻ってくる。
 クロードは仲間に感謝する。今はローエン司祭に訊ねる事しか頭にはなく、他の事は一切考えられなかった。
「やはり、結論は変わらないな」
「そうしよう」
 リチャードとイリューシャが出した結論は、出来る限り早く町を脱出したほうがいいというものだ。
 町にこそ出かけなかったが、教会の聖職者の態度を見るだけでもわかる。それほどスモーリア町に漂う雰囲気は重かった。

 真夜中の礼拝場に蜜蝋燭が灯る。
 クロードは歩を進めた。祈りを捧げるローエン司祭に向かって。
 女装はせずに誰が見てもクロード・ベンであった。ローエン司祭にとってはバリオ・ロンデアであろう。
「いつ話しかけてくれるのか、待ってましたよ。バリオ」
 ローエン司祭は首から下がる十字架を強く握りしめる。
「やはりバレていたのですね。わたしはローエン司祭から話してくれるのを待っていました。いつまでも待つわけにはいかないので、こうやって今夜には訊ねるつもりでいましたが」
「何故戻ってきたのです? バリオにとって苦い思い出ばかりでしょう。それに命が危ない」
「確認しなければならない事があるのです。わたしが建物内で狂気に我を忘れている時、アーミルが火刑に処されていたはずの外では何が起きていたのでしょうか?」
「それを聞いてどうするつもりなのです?」
「‥‥一つの疑問があるのです。ルノーの下僕としてスレイブが何人かいるようです。その中の一人がアーミルではないかと。山を挟んだバルモ町ではアーミルの親戚の娘が失踪していました。どうやらスレイブに‥‥。もしや容姿が似たアーミルも」
「‥‥バリオの想像の通り、アーミルはさらわれました。巨大なコウモリが現れたかと思うと突然に人型になり、ルノー・ド・クラオンと名乗りました。もの凄い勢いで突っ込んできた馬車に十字架から解かれたアーミルは乗せられて、そのまま何処に‥‥」
「やはりアーミルは‥‥」
「スレイブになったでしょう‥‥。どうやらバリオはルノーを追っているようですね?」
「はい‥‥。追っています」
「これ以上悲しみを広げない為にもルノーは倒されるべきでしょう。しかしそれをバリオがしなければならない義務はありませんよ」
「‥‥違うのです。そんな大層なものではないのが、今はっきりと理解出来ました。それより、いつまたルノーがこの町を襲うかも知れません。直接狙われないにしろ、この町を離れられたらどうでしょう?」
「わたしはこの町から離れる事はできません」
「今日一日、町の人々は誰も教会を訪れませんでした。残念ながらこの町はすでに‥‥」
「わたしの事は気にする必要はありませんよ。バリオは早くに立ち去りなさい。正体を見抜く町民は必ず出てきます」
 クロードとローエン司祭の話しは深夜まで続いた。
 クロードは脱出の説得を続ける。だがローエン司祭が首を縦に振ることなかった。

●パリへ
 六日目にジュエルによる聖歌の独唱が行われた。
 聴いたのは教会の者達、クロード、そして冒険者達だけであった。
 七日目の朝に荷馬車はスモーリア町を出発する。
 町から出るまでは酷い緊張感に包まれたが何事もなかった。戦闘もなく、無事に脱出した事に誰もがほっと胸を撫で下ろす。
 町から離れた場所で次々と仲間が荷馬車に乗り込む。セブンリーグブーツや愛馬で走る者も合流した。
「セレストさん、みなさん。なぜわたしがルノーを倒そうとするのか‥‥答えは見つかりませんでしたが、理由はわかりました‥‥」
 御者をするシュネーの横にクロードは座っていた。
「とっても理不尽で、傲慢な理由です‥‥。『嫉妬』だと思うのです」
 クロードの話しは続く。
 バンパネーラと人間はよく似ていても別の生き物だ。
 当時のクロードも重々承知していて、アーミルの心が自然と自分から離れるのを待っていた。正体を明かせなかったからだ。
 それでも情は移る。噛まれて発熱したアーミルを連れてスモーリア町を逃げだそうとしたのもその為だ。
「ところがルノーは、強引に‥‥彼女の意志も関係なくスレイブにする事で、アーミルを手に入れた。それは非道な行いであるし、許さざるべき事なのはわかっているのですが‥‥わたしは‥わたしは嫉妬したのです。実行を遂げたルノー・ド・クラオンに。なぜ自分がそうしなかったのかと。きっと心の奥底では考えていたのです。ルノーへの憎悪はその裏返し‥‥最低な奴だ、わたしは‥‥ただ実行しなかっただけで、ルノーと変わらないんです‥‥」
 クロードの背中は酷く丸まっていた。
「クロード、そんなことないよ。みんな弱いところはあるんだから‥‥。気にしないでね」
 リスティアはやさしくクロードに声をかける。
 それからパリに着くまで、クロードはほとんど言葉を発しなかった。

 十日目の夕方に一行はパリへ到着する。
 クリミナとシュネーの足りなかった保存食も途中で高めのを買う事でなんとかなる。
 セタ、レンのおかげでモルオンテス夫妻はマホーニ助祭が所属する教会で過ごし、何事もなかった。
 ホーソン、イシリシクの手紙が冒険者ギルドに預けられてあった。バルモ町とスモーリア町を統治する領地は現在跡目争い中であるようだ。
 クロードは冒険者達にこれからを訊ねられた。
「ルノーは絶対に追います。どんなことがあっても必ず‥‥」
 クロードは冒険者達に深くお礼をいってギルドを立ち去った。