アーミルからの招待状 〜血と炎の赤〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 85 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月27日〜02月04日

リプレイ公開日:2008年02月04日

●オープニング

 蜜蝋燭のシャンデリアが深夜の広間を照らす。
 バンパイアノーブルのルノー・ド・クラオンは、二人の女性バンパイアスレイブを従えて歩みを進め、そして立ち止まる。
 女性の一人はサルーシャ。もう一人はアーミルという。
「わたしたちをどうするつもりなの?」
「こんな趣味の悪いところにつれてきて‥‥、わたくしをどこの誰だと思っているのだ?」
「早く解放しろ! どこぞの田舎貴族のようだが、後悔するぞ」
 三人のバンパイアの前には椅子にロープで縛られた女一人と男二人の姿があった。誰もがきらびやかな衣服をつけている。どこかの金持ちか貴族なのだろう。
 ルノーがニヤリと笑うと長く尖った犬歯二本を覗かせる。威勢のよかった縛られていた三人が異様な雰囲気を感じて静かになった。
 真っ赤なルビーのような輝きを持つ瞳。白く透き通った肌。縛られている三人はもしやと思い始める。
「いや!」
 椅子に縛られた女性の首元にルノーの口元がゆっくりと近づく。その肌を軽く舐めた後で犬歯が突き立てられた。
「二人も頂きなさい」
 振り向いたルノーの口の端から血が一筋流れる。サルーシャとアーミルは主人のいう通りにそれぞれの『食べ物』の前に近づく。
 バンパイアの宴が今しばらく続くのであった。


 パリの貧民街で居を構え、代筆屋で生計を立てているクロード・ベンは悩んでいた。クロードの正体はバンパネーラである。
 ルノーに対しての憎悪。自分の中に潜む嫉妬。まぜこぜになってクロードを苛んでいた。
 ある日、一通の手紙が届けられる。
 開けてみると一枚の羊皮紙とさらにもう一通の手紙が入っていた。羊皮紙の文章はローエン司祭のものだ。
 細心の注意を払って出したので、まず他の者にクロードの居場所はばれていないはずだという趣旨の書き出しから始まっていた。手紙自体を送るかどうかも悩んだが、判断はバリオが決めるべきとして決断したそうだ。バリオとはクロードの本名である。
 手紙の中に入っていたもう一通の手紙の送り主を知ってクロードは何度も瞬きをする。
 スモーリア町でルノーに連れ去られたのがわかったアーミルの名前が記されていたからだ。
 ローエン司祭の手紙によれば、真夜中に教会に現れた男から手渡されたらしい。
 男の口振りからすれば、バンパイアのルノーはクロードが自分を追っているのを知っているようだ。もっとも居場所がわからないので、スモーリア町の教会に手紙を届けさせたようなのだが。
 クロードは中に入っていた手紙の封を開けて読む。署名からも感じていたが、どう見てもアーミルの書いた文字ではなかった。スモーリア町に住んでいた時、クロードは教会で子供達に文字を教えていた。アーミルも手伝いながら同時に文字を習っていたのだが、とても拙いものであった。バンパイアスレイブになってから文字の練習に勤しんだとは考えられない。
 アーミルの名を騙って送られてきた手紙は招待状であった。
 ペルペテュエル教団の真夜中のミサに招待するとある。何名かのお仲間を連れてきてもよいと、挑戦的な内容が書かれてあった。
 手紙を持つクロードの手は震える。
 心を落ち着かせた後で、クロードはモルオンテス夫婦に留守を任せて出かける。マントを羽織り、早足で向かう場所は決まっていた。
 依頼をする為の冒険者ギルドであった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2237 リチャード・ジョナサン(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1876 イリューシャ・グリフ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec2838 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299)/ ホーソン・ガードナー(ec4033

●リプレイ本文

●山城へ
 荷馬車は走る。
 すでにパリを出発して三日目。山道には少々雪が積もるが、冒険者達の馬も牽いてくれているおかげで荷馬車に不安はなかった。むしろ寒さの方が問題である。
 冒険者達は防寒服で身を固め、なるべく寄り添うようにする。身体を暖める為にイリューシャ・グリフ(ec1876)のお酒を少しずつもらっていた。
「‥‥あー、少しは落ち着いたかい?」
 御者をするイリューシャが隣りのクロードに話しかける。元気がないクロードを気にかけた言葉であった。
 クロードは笑顔で答える。大丈夫ですと。
「一番欲しい情報はありますか?」
 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)が白い息を吐きながらクロードに訊ねる。
「知りたいのはルノーが住むという城の場所ですが、それに繋がる情報なら些細なものでも」
 クロードは嘘をついた。バンパイアスレイブになってしまった者を戻す方法こそが一番欲しい情報であった。
 しかしそれは存在しない。
 だからクロードは言葉にしなかった。発熱の時期を通り越してしまったら、あるのは絶望だけだ。
「寒いわ〜‥‥」
 偵察に行っていたシフールのジュエル・ランド(ec2472)が戻る。震えながらクリミナ・ロッソ(ea1999)の愛犬クララに抱きつく。
「どうぞ」
 クリミナがジュエルの荷物から防寒服を取りだして着させてあげた。残っていたお酒をもらってからジュエルは空からの偵察内容を仲間に伝える。
 山城は確かにあった。山の峰に沿って横に長い城壁のような形で、中央には大きな建物があるという。
「すごい不気味やったわ」
 ジュエルの震えもようやく止まった。
「クロード、これからの事を考えて黒教義のクレリックを装った方がいいわ。正体が広まってはあなたも困るでしょ?」
 セレスト・グラン・クリュ(eb3537)はすでにクレリックに相応しい装備などをクロードに貸していた。クロードは心遣いに感謝し、意見を受け容れる。
 シュネー・エーデルハイト(eb8175)はクロードに昨日伝えた言葉を思いだしていた。
 もし刺し違えてなどと考えているのなら、それはルノーの思う壺だとクロードに語りかけたシュネーである。
(「無茶はしないで‥‥」)
 シュネーは心の中で呟く。クロードの容姿は消えてしまいそうに儚げだ。すでに何度かしているが女装してもまったく違和感がない程に。
 『私達が必ず貴方に彼を倒させてあげる』とクロードと約束したシュネーであった。
「それにしても招待状なんて‥‥またずいぶん挑発的な事をしてくれるわよね」
 リスティア・バルテス(ec1713)はクロードから預かっていた手紙を取りだす。
「誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやらないとね」
 振り返ったクロードをリスティアは笑顔で元気づける。どこか虚ろながらクロードは笑顔で返す。
「陽動を兼ねた本隊はせいぜい派手にあばれるかな」
 リチャード・ジョナサン(eb2237)は遠くを望む。ジュエルのいっていた山城が葉の落ちた木々の隙間から小さく見える。
 何人かの仲間もリチャードが望む先を見つめるのであった。

●陽動隊
 途中ブリジットが御者を交代しつつ、山道を登り続ける。山城から荷馬車で半日程度の場所で野営を行った。
 わざわざバンパイアに有利な夜に向かう必要はない。クロードから清らかな聖水が全員に渡された。
 冒険者達は陽動隊と別働隊に分かれる。
 陽動隊は正面から入ってペルペ教徒達の注意を引く。
 その間に別働隊は別の侵入し、手に入れば情報を、そうでなければ陽動隊と合流して教徒共を追い込む作戦だ。
 四日目の朝日が昇る前に冒険者達は活動し始める。
 荷馬車は途中で見つけた山小屋の中に隠しておく。枯れ草を集め、馬達をよく言い聞かせておいた。毛布などもかけて少しでも暖かくしてあげる。
 戦闘馬は連れてゆくか悩んだ者もいたが、今回は置いてゆくことにした。相手の機動力を奪うのは戦いの常道である。ペルペ教徒達が馬をそのままにしておくはずがないからだ。
 陽動隊のリチャード、ブリジット、セレスト、リスティア、クロードは、自らの足で山城に向かった。
 別働隊はシュネー、イリューシャ、クリミナ、ジュエルは空飛ぶ絨緞を用意して陽動隊の様子を見ながら待機する事となった。

 昼過ぎに陽動隊は山城に到着した。
 セレストが惑いのしゃれこうべを使う。激しく歯を鳴らし、近くにアンデットがいる事を示す。まず間違いなく石積みで造られた山城の中にいるはずだ。
 陽動隊の仲間は気を引き締めた。ズゥンビ化した敵かも知れないが、もしかするとバンパイアの可能性もある。
 歯ぎしりをするクロードの手をブリジットがそっと握る。一人ではないのをクロードに伝える為だ。
 山城のすべての窓には厚い板がはめられていた。隙間がないように粘土も詰められている。
「よくお出でなさいました。ですが夜には早いお時間です。アーミル様を始めとする我々の指導者はまだこちらに来ておりません。部屋をご用意致しますのでどうぞこちらへ」
 一人の老紳士が現れて陽動隊を案内しようとする。
 もしやと考えて陽動隊は日中に訪れたのだが当てが外れる。確かにアーミルからの手紙には真夜中のミサに招待するとあった。老紳士の言葉に分がある。
「それなら外でしばらく待たせてもらう。焚き火はさせてもらうよ」
 リチャードが山城と反対方向へ歩きだした。仲間もついてゆく。
 落ち木を集めて、陽動隊は焚き火を用意する。再びしゃれこうべを使ってみると、やはり激しく歯を鳴らす。敵がすぐ近くにいるのに、くつろいでいる妙な状況であった。
「ねえ、クロード」
 リスティアが仲間達から少し離れた場所に座っていたクロードに声をかけた。
「この間、貴方は私達に言ったよね。自分はルノーと同じだ‥って」
 リスティアにクロードが首を縦に振る。
「私はそうは思わない。自分のいう事を聞く人形にするなんて事、本当に好きならやる筈が無い。だってそうでしょう? それはもうその人じゃないんだから。‥クロード‥バリオがそうしなかったのは彼女の事を本当に好きだったから。そう思う」
 リスティアは涙目で俯き加減になる。
「心配してくれてありがとう。自分の心なのに、どうする事も出来ないのはとてももどかしく感じる‥‥。今は行動しかない。考えても答えが見つからないのだから‥‥。シュネーにいわれたけど、自暴自棄にはならないように気をつけるよ」
 クロードは優しげな表情で答えるのだった。

 太陽が沈み、闇の世界が訪れた。
 陽動班は山城内の広間に通される。
 以前は食堂に使われていた形跡のある広間は改造が施されていた。
 立派な祭壇があり、十字架にかけられたジーザス像もある。しかし冒険者達は知っていた。ジーザスと思われるのは、実はルノー・ド・クラオンだという事を。
 ジーザス教を信仰する者にとって侮辱でしかない代物だ。
 セレストが目配せする。戦うのなら敵が完全に集まっていない今が混乱を招いてよい。本当に教徒共が崇めるバンパイアが現れるのかどうかは怪しい。もしクロードに用があるのならどんな状況であっても姿を現すはずである。
 クロードの身体が黒く淡い光に包まれた。祭壇の中央にいたペルペ教の重鎮に向かってブラックホーリーが放たれる。陽動の戦いは始まった。

●別働隊
 空飛ぶ絨緞で山城近くに移動した別働隊は背の高い枯れ草の群生の中に隠れていた。シュネーも仲間の行動に合わせて身を隠す。
 ジュエルに陽動隊の動きを監視してもらって突入のタイミングを計る。上空からならば比較的簡単に侵入できる事は判明していた。
 イリューシャが鷹を飛ばして周囲の警戒を行う。
 夜になり、ようやく陽動隊が動きだす。
 別働隊は闇に紛れて山城内に上空から突入した。見張り一人をクリミナがコアギュレイトで動けなくし、イリューシャが仕留める。使われていない小部屋を見つけて、四人とも隠れた。
「奴ら突然暴れだしたようだ!」
「ルノー様が来るまでは静かにしていると思っていたのに!」
 教徒共がドアの向こうの廊下で話している声が聞こえる。どこかにいったようですぐに静かになる。
 別働隊は廊下を飛びだして奥へと進んだ。
 ジュエルがランタンを手にして周囲を照らすように飛ぶ。三人は後をついてゆく。
 教徒共を発見したイリューシャは刀を抜いて突っ込んだ。一撃を受けた教徒が階段を転がり落ちてゆく。
 自らにオーラエリベイションをかけたシュネーも剣を手に教徒共の群れに飛び込んだ。
 教徒達はナイフなどを取りだして反撃し始める。
 クリミナはジュエルにグッドラックを使った。ジュエルは教徒の中で指示を出している者にコンフュージョンをかける。
 教徒共を倒し終わった頃、クリミナの愛犬が吠えた。クリミナはすかさずデティクトアンデットを使う。
「階段の下にアンデットがいます」
 クリミナの言葉に急いで階段を降りる。階段の下は広間のすぐ近くであった。
 アンデット犬共が広間に入って行くのを見て別働隊も追いかける。
 広間では陽動隊の仲間が戦いを繰り広げていた。
 襲いかかる教徒共をブリジットが刀で振り払う。後方にいるクロードがソルフの実をかじって魔力を補給していた。魔法で仲間の補助をするリスティアの足下には縛られた教徒が転がっている。
 リチャードとセレストは二人で死角をなくすように教徒共と戦っていた。
 至る所で倒された教徒共が呻いている。不利な状況に教徒の誰かがアンデット犬を呼んだようである。
 別働隊はアンデット犬共を倒しにかかる。リスティアの浄化によるアンデット犬への攻撃も始まった。
 戦いの真っ最中、広間に笑い声がこだました。
「これは面白い。私達の到来を待てないとは余程せっかちだと思われる。ようこそ、バリオ・ロンデア。ようこそ、バリオの親しき者達よ」
 クロードにはその声に聞き覚えがあった。祭壇の上段にいたのはバンパイアノーブル、ルノー・ド・クラオンであった。
 ルノーの両脇にはドレス姿の女性の姿もある。
「アーミル‥‥」
 クロードは祭壇を見上げる。
 以前のように質素な服ではなく、艶やかなドレスをまとい、化粧を施していたが、ルノーの右に立っているのはまさしくアーミルであった。
「バリオ、なぜ戦うの? そんな無駄なことはせずにわたしの元へ来て」
 アーミルが祭壇上でクロードを見下ろしながら微笑んだ。
「その顔で‥‥その声で‥‥、話しかけるな!」
 クロードは両手で顔を覆って床にうずくまる。スレイブになったアーミルがルノーにいわされているのはクロードにもわかっている。わかっていてなお頭の中が混乱した。
 冒険者達は戦いながらルノーの高笑いを聴いた。
「ダメ、無茶をしないで!」
 リスティアは祭壇へ走ろうとするクロードを掴まえた。
 クロードはルノーに向かってブラックホーリーを唱えるが不発に終わる。
「短くはあったが、今宵はよい余興に巡り会えた。バリオ・ロンデア、再会を楽しみにしているよ」
 ルノーは両脇のアーミルとサルーシャの肩に手を回して背中を向けた。冒険者達と祭壇の間には教徒共とズゥンビ犬共が集結する。
 祭壇には隠し通路があり、バンパイアの三人は姿を消した。
「待つんや!」
 ジュエルが後を追う。
「道を開けろ!」
 リチャードは教徒共を蹴散らそうとする。
「クロードを頼むわ!」
 セレストは戦いながらクロードをリスティアに頼んだ。
「クロードになんて事を!」
 シュネーは涙目に剣を振るった。
「邪魔だ!」
 イリューシャは敵をかき分けて進むが、祭壇にはなかなか辿り着けない。
「止まりなさい!」
 ブリジットはクロードとリスティアを守るように剣を振るい、時にはコアギュレイトを使って教徒の動きを止めた。
「これを使って下さい」
 クリミナはホーリーライトをセレストに渡す。混戦の中、聖水を使う余裕はない。だが光球なら一度手にすれば少しの間だが力が継続する。アンデット犬は逃げようとするはずだ。
 アンデット犬は退き、残る教徒共を冒険者達は叩きつぶした。何名かの冒険者は祭壇上部の隠し通路を潜って外へ飛びだす。
 犬のクララが吠える。雪の上に倒れていたジュエルが発見された。
「大丈夫やけど‥‥追いかけるの無理やったわ」
 クリミナがジュエルにリカバーを施した。
 ジュエルはジャイアントバットのルノーと夜間の空中戦をし、落とされたようだ。
 バンパイア共はすでにいない。
 いつの間にか雪が降り始める。いくつかあった轍の跡も消えてゆくのだった。

●そして
 戦いのあった夜、冒険者達は山城で一晩を過ごす。全力を尽くした戦いで誰もが疲弊していたからだ。
 魔力の回復が必要な者から先に眠り、見張りの者達は疲れた身体を奮い起こす。
 五日目の朝が訪れると生き残らせた教徒の尋問を行う。同時に山城内の物品も捜す。
 教徒がいうには今回のミサはかなり以前から用意されていたという。クロードを呼ぶ計画も含めてだ。そこから推測すると、今までルノーはクロードがどう動くかを確認していた節がある。
 物品に関しては、前に手に入れたようなペルペ教の紋章がついた物が何点か見つかる。その中の一つにペルペ教の紋章と並んでもう一つ紋章がある手鏡があった。
 クロードが手鏡を預からせてくれと冒険者達に頼み込んだ。次までに情報屋を使って調べておくと。
 熱心なクロードに負けて預かってもらう事となる。
 残った時間で広間を含める清掃をする。セレストはベゾムに乗って官憲に連絡をし、戻ってきた。

 六日目の朝、冒険者達は山城を後にした。
 馬達も荷馬車も無事で帰りは順調であった。
 クロードの様子におかしな点はない。しかし強がっているのはありありとしている。
 セレストは出発前に手紙二通をアブラメンコフに届けるように頼んであった。一通は黒分隊の詰所、もう一通はマホーニ助祭の所属する教会である。
 八日目、パリに到着して冒険者ギルドを訪れる。手紙の返事が届いていた。
 黒分隊はペルペ教徒をすべて罪人として扱うという。刑罰については一律ではないらしい。
 マホーニ助祭の教会では騙されていた者がいれば救いの道を用意したいそうだ。
 もう一つ、イリューシャの知り合いのホーソンからの伝言も残っていた。山城の持ち主は現在いないらしい。人里離れている為に放置されているそうだ。
 山城に関しては何者かに利用されないように策を打つべきだが、今すぐには出来る術はない。
 報告が終わると、クロードが感謝の言葉と共に追加の謝礼金を手渡してゆく。
 冒険者はその姿を痛々しく感じるのであった。