紋章の貴族 〜血と炎の赤〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 96 C
参加人数:7人
サポート参加人数:5人
冒険期間:03月05日〜03月16日
リプレイ公開日:2008年03月14日
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●オープニング
夜道、クロードはランタンを持たず、家々の隙間から洩れる灯りを頼りに足取り重く歩いていた。
「おい!」
すれ違った男三人組に声をかけられるが、クロードは振り向かない。
「てめぇ、ぶつかっておきながらシカトしやがって何様だ!」
戻ってきた大男はクロードの胸ぐらを掴み、拳を振り上げる。
鈍い音。
マントで覆われていてもわかるクロードの華奢な身体が吹き飛ぶ。道に積まれていた空の木箱が崩れ、クロードは下敷きになった。
「何、笑ってやがる! まだ終わってねえぞ!」
舎弟の二人に無理矢理立たされたクロードの腹へ大男の拳がめり込む。石畳に這いつくばったクロードへの暴力は執拗に続いた。腹や顔を蹴り、腕を踏みつけられる。
「なんだ? その目は!」
大男がナイフを取りだすと、クロードの右目を狙って振り下ろす。しかし、ナイフの先端は石畳に当たり、欠けた。
クロードはいつの間にか大男の後ろに立っていた。
「お前達のような奴がのさばって、なぜアーミルは‥‥」
「はぁ? いってるのがわかんねえぞ!」
大男は振り向き様にナイフでクロードを狙うが空振る。
いなくなったクロードを大男は頭を振って探す。今度は舎弟の後ろに立っていた。身軽な時のバンパネーラ・クロードの動きを一般人が捉えられるはずがない。
「本能を押さえつけて何を守れた‥‥何を救えた‥‥教えなどもう‥‥」
クロードは唇から流れた血を腕で拭いながら瞳を閉じる。
長らく植物の生命力だけを摂取して生きてきたクロードである。バンパネーラの教えは動物からの生命力の摂取を禁じている。
クロードはバンパネーラの戒めなど、どうでもいいと心の中で呟く。何を今まで律儀に本能を封印してきたのだと。
「火事よ! 火事だわ。火が出たわよ!」
クロードが瞳を開けた時、どこからか火事だと騒ぐ女性の声が聞こえてきた。叫び声も一緒である。
周辺の家々の窓や戸が開き、三人組とクロードの姿が晒される。衆人環視の元、ばつが悪くなった三人組は虚勢を張りながらも小走りに姿を消した。
「おじちゃん、大丈夫?」
「平気ですか?」
女の子と母親がクロードに近寄ってきた。火事だと叫んだのはクロードを助ける為についた嘘のようだ。
クロードは笑いがこみ上げてきた。笑い続けた。
出てきた住人達は文句をいいながらも家に戻ってゆく。
「ありがとう‥‥。もう少しで自分が自分でなくなるところだったよ」
落ち着いたクロードは女の子の頭を撫でながら、親子にお礼をいう。
親子は家に戻り、クロードは再び一人きりになる。
そして星空を見上げた。
「冒険者達に謝らないと‥‥、そして告げないと」
クロードは夜の帰り道を急ぐのであった。
翌日、クロードはひげ面の情報屋の所に出向く。
冒険者のおかげで手に入れた手鏡に刻まれているペルペテュエル教団のとは違う紋章の調査結果を聞く為である。
「ありゃ、貴族の古い紋章だな。理由は知らんが、復興戦争の後に紋章を変えていやがる」
物だらけの部屋でひげ面の男は椅子に深くもたれていた。
「何という一族なのですか? その紋章を使っていた貴族とは?」
クロードは一歩、ひげ面の男に近づいて訊ねる。
「パリの北西にルーアンを中心としたヴェルナー領がある。その北にあるトーマ・アロワイヨー領は小さな領地だが、東にもう一つ、小さな領地が存在するんだ。トロシーネ・パルネという女性が領主だよ。そのパルネ家が使っていた紋章だ」
「‥‥そこにルノーの城らしきものはあるのですか?」
「わからんね。リンゴの産地という以外に知られていない土地なんだ。のどかな領地だと聞く。あったとしても狭い領地だ。何者かが住み着いていたとすれば、領主が知らない訳がないと思うがね」
ひげ面の男は手を伸ばした。クロードは黙って謝礼金を支払う。
「気をつけていけよ。‥‥そういや、晴れた顔してるな? ここしばらく落ち込んだ様子だったが、何か良いことでもあったのかい?」
去り際のクロードにひげ面の男は声をかけた。
「もう迷わないと決めたんです。どんな事があろうとも」
クロードはドアを閉め、部屋を出ていった。
クロードは冒険者ギルドへと向かう。パルネ領に向かい、ルノー・ド・クラオンの足取りを調べる依頼を出す為に。
●リプレイ本文
●パルネ領
「行っていいぞ」
関所の衛兵が手を挙げて指示を出す。
一時停車をさせたイリューシャ・グリフ(ec1876)は手綱をしならせる。荷馬車は動きだし、門を潜り抜けた。
「噂通りやな。ぎょうさんあるわ」
ジュエル・ランド(ec2472)は道の両側に広がるリンゴの果樹園を眺める。まだ三月なので緑はどこにもないが、リンゴの木の花芽は微妙に膨らんでいた。
今は四日目の昼前。パルネ領では、のどかな風景が広がる。
「ここからがパルネ領か。手掛りは手鏡一つ。さて、どうするかね」
イリューシャは関所を通過する時、ルノーの馬車の特徴を説明して訊ねたが、衛兵に知らないと面倒くさそうにいわれただけだった。本当なのか、とぼけているのか、詳しく調べてみなければわからないようだ。
「円もパリで調べてくれたが、パルネ領のことはリンゴ以外わからなかったそうだよ。領主と会うのなら、やはり手鏡の事をきっかけにするのとかかな? 古物屋や質屋から紋章入りの手鏡を手に入れたとかいって」
リチャード・ジョナサン(eb2237)は大剣を抱えるように荷台の縁に寄りかかる。
「そんな感じになると思います。出来れば領内すべてを調べたい所ですが、小さな領地とはいえ町や集落はいくつもあるようです。まずは領主館がある町、オーミィユで宿をとるつもりです。拠点にしましょう」
クロードは自ら用意してきた服で黒クレリックに変装していた。
「それがいいわ。パリからトロシーネ様宛に送った面会申請が受理されているとよいのだけど。そうそう、クリミナさんとリスティアさんに質問があるの」
セレスト・グラン・クリュ(eb3537)はクレリックであるクリミナ・ロッソ(ea1999)とリスティア・バルテス(ec1713)に訊ねる。ノーブルなどのバンパイアがどうやって増えるのかを。
クレリックの二人は答えた。
スレイブは別にして、バンパイアは生まれついてのアンデッド・バンパイアであるようだ。断言は出来ないが、人とノーブルとの間にノーブルは生まれない。人をスレイブに置き換えても同様であった。
一時間程で荷馬車はオーミィユ町に到着する。町といっても質素な建物が多く目についた。
一行は真っ先に宿をとる。
クロードは宿屋の主人に宿代を払うと部屋にはいかずに庭へと出た。シュネー・エーデルハイト(eb8175)が馬小屋に向かうのを見かけたからだ。
「あら、どうしたの? クロード」
シュネーは馬達の世話をしていると、クロードが来たのに気がつく。
「お話があります。この間のわたしは‥‥、平気だとかいって強がっていただけでした。心の中は、ぐらついていて、それがみんなの信頼を裏切ることに気がつかず、酷い事をしてしまいました‥‥」
「気にしないで。助け合ってこその仲間でしょう?」
シュネーは手を止めてクロードと向かい合う。
「‥‥たとえアーミルを救う事が出来なかったとしても、やる事はあるはず」
シュネーは覚悟して心を揺らがせるような言葉をクロードに投げかけた。
「そうです。その通りです」
クロードは動じていなかった。言葉はしっかりとし、シュネーから目もそらさない。クロードの瞳にシュネーは覚悟を見つける。
「馬を見に来たら‥‥。クロード、元気になったようね」
リスティアが馬小屋にヒョイっと足を踏み入れる。
「リスティアさん、いたんですか! まいったな。機会を待って一人一人にちゃんと話そうと思っていたんです」
「あたしは構わないし、よくわかったわ。これからも、一緒にがんばろうね☆」
リスティアがクロードに微笑みかけた。
「御者をしてくれたイリューシャさんにお礼をしようと馬小屋に出向いてみれば。私もよくわかりましたわ」
「クリミナさんも? という事は?」
クリミナに驚いたクロードは辺りを見回す。馬小屋の隅にある藁山に手が昇る。覗いてみるとイリューシャの姿があった。
「つまんねぇことを気にすんな。自分らしいことをすればいいのさ。後で酒でも呑もう」
イリューシャは外した手綱を布で拭きながらクロードを見上げる。
「わたしたちもいますよ」
窓からリチャードとジュエル、セレストが顔を覗かせた。回って出入り口から馬小屋へと入る。
「気にせんと。うちは最後までクロードにつき合うつもりやで」
ジュエルは愛馬ナヴィの背に乗ってクロードと同じ目線で話した。
「結末を書くのは決して後世の吟遊詩人ではない。‥‥判るわね、クロード?」
セレストはクロードを見据える。
「クロード、まだまだこれからです。では、わたしは出かけて来ます。宿での見張りの順番は決めておいてくれ」
リチャードは愛馬に跨って出かけてゆく。宿に返事の手紙が届いていないようなので面会の許可が下りたかどうか、セレストの使いの者として領主館に向かったのだ。
「宿屋の主人がパルネ領の話、もう少ししたらしてくれるっていうとったで。宿の部屋に集合忘れんといてな」
ジュエルは伝えると愛馬の世話を始める。残った全員で馬の世話を終わらせ、宿の部屋へと戻るのであった。
●調査
リチャードが戻り、パルネ領主との面会は七日目の昼頃とわかる。
宿屋の主人にパルネ領の大まかな状況を聞いた一行は、それぞれに調査を開始した。
「へぇ〜。遠く、パリから来たのかい」
ジュエルとクリミナは酒場で二人の客とテーブルに座る。
先程の歌と演奏を二人の客が気に入り、招かれたのだ。すでにメロディーで秘密を話しやすくするように酒場内の雰囲気は導いてあった。
冒険者二人は奢られたリンゴの飲み物を頂く。
「おいしいわ〜」
「とっても素敵」
冒険者二人が褒めると二人の客は喜んだ。パルネ領内に住んでいれば何らかの形でリンゴと繋がりがあるという。
クリミナが領内での商売についてを訊ねる。二人の客によれば、ギルドや寄り合いがあるにはあるが、本当に形だけの存在らしい。基本的に自由のようだ。
ジュエルは紋章が変わった理由について二人の客に訊ねてみた。
「まあ、噂だけどよ――」
どうやら復興戦争終了直後にパルネ一族内での覇権争いがあったらしく、裏で実権の委譲が行われた。その際に紋章が変わったらしい。
話しが終わり、クリミナとジュエルはお礼をいってテーブルを立つ。
「そういえば、さっきの歌にあったけど、本当にちっこいその身体でリンゴ一個食べたのかい?」
客からの最後の質問にジュエルが振り向いた。
「蜜が多くてうまかったわ。ここらで穫れたリンゴだったのかも知れへんな。いろいろ教えてくれて、ありがとうな〜」
ジュエルは螺旋を描きながらクリミナと一緒に酒場を出ていった。
「ここはペルペ教とは違うようですね‥‥」
「そやね」
次にクリミナとジュエルが向かったのは教会であった。クリミナはクレリックではなく一教徒として礼拝する。午後なので礼拝者はほとんどいなかった。
二人でペルペ教の紋章を探したが見つからず、ジーザスの像にもおかしな点はない。
司祭とも話してみたが、ごく普通の教会だった。
クロードや他の冒険者達もオーミィユ町近辺で聞き込みを行った。
手鏡についていた古い紋章を知っている町民もかなりいた。たかだか十数年前であるので、地元の者ならば知っていて当然なのかも知れない。
変更になった際、紋章がついた物はすべて回収、又は削られて領内には残っていないらしい。
なぜそこまで手鏡についている紋章を抹消したかったのかと一行の脳裏を横切る。
謎を残したまま、明日に面会を控える夜は過ぎていった。
●面会
七日目、一行は宿から借りた馬車に乗り込んだ。貴族御一行としては荷馬車だと問題があるからだ。
念の為にとクロードからアンデット対策として聖水が全員に手渡される。
セレストを中心にして御者、侍女、侍従、護衛などの役目がすでに決められていた。
領主館に到着し、トラブルもなく部屋へと通される。
(「ちょっと聞きたいんやけど――」)
ジュエルは窓から見える領主館の馬にテレパシーで質問をする。
相手が馬なので詳しくはわからないが、深夜に領主館から出かける者は滅多にないようだ。だが夜にしか会わない人はいるらしい。
リチャードとイリューシャは廊下の扉の前で待つ。部屋への武器携帯は許可されなかったからだ。室内の声は聞こえるので、これでよしとする。
(「相手はルノーの一味かも知れない。油断は禁物‥‥」)
リチャードはいつでも扉をぶちやぶるつもりでいた。
テーブルで待つのはセレスト、クロード、シュネー、ジュエル、リスティア、クリミナである。
すでにリンゴが使われたもてなしがテーブルに並ぶ。
しばしの時間が経ち、隣りの部屋のドアが開いた。
「紋章の入った手鏡をお持ちになってくれたそうで。わたくしはトロシーネ・パルネと申します。わざわざご足労、ありがとうございました」
トロシーネ・パルネが現れ、セレスト一行は挨拶をする。そして再びテーブルについた。
紅茶が新たに煎れられる。好みでシードルも用意されていた。
クリミナはセレストと話すトロシーネを観察する。四十歳を越えた年齢で身体は細かった。若い頃はさぞかし美人であったのがうかがえる。
だんだんと会話には貴族にしかわからない単語が溢れだす。かろうじてクロードがわかったのは陛下とセレストがお茶をしたという辺りだ。
「また、お顔を出してもらいたいと仰ってましたわ。そうそう、肝心の物を忘れてました。こちらを」
セレストは問題の手鏡を取りだす。
(「少し、沈んだ様子に見えたけど‥‥」)
シュネーは手鏡を見た瞬間のトロシーネに疑問を抱く。目を細めて口の端をわずかにゆがませていた。
「つかぬことをお聞きしてよろしいかしら?」
「何か?」
「こちらの紋章は古いものとお聞きしましたが、なぜ現在の紋章に変更を?」
「新たなノルマン王国の出発を祝って、我が一族の志を示したのです。かといって古い紋章も確かにパルネ家にとって大切なもの。とても助かりましたわ」
セレストの質問にトロシーネが答える。
シュネーだけでなく、リスティアもトロシーネに違和感を感じていた。手鏡を受け取ってからというもの、早く部屋を立ち去りたい態度がトロシーネから溢れていたのだ。
「それではゆっくりなさって下さいね。わたくしは公務がありますので」
トロシーネは一行を残し、廊下へと続くドアから立ち去った。
一行は馬車へ乗り、領主館を後にする。
「領主、何故か廊下へと出てきたな。ちらっと見たが、大分焦った顔していたぞ」
御者をするイリューシャが一瞬だけ馬車内を振り返る。
「絶対おかしいわ。あの態度。ね? クロードもそう思うでしょ?」
「わたしも、そう思います」
リスティアにクロードが同意する。
「馬さんに聞いたら、夜しか見ない人がいるっていうておったで。誰やろ‥‥」
ジュエルは腕を組むと考えた。
「領主には隠し事がある。紋章と夜にしか外に現れない者は、隠し事に繋がるはず‥‥。私達が知っている奴らかはわからないけど『バンパイア』かも知れないわ」
シュネーは考えを仲間に話した。
「確かめるべきだと思うが、どうするね?」
リチャードは剣を握り、わずかに動かす。
「ある程度近づければ、私のデティクトアンデットでアンデットか判別出来るはずですわ。バンパイアかは容姿で判別出来るでしょう」
クリミナのいう判別方法に誰も異論はなかった。
「‥‥決まりね。調べるとすれば、今夜しかなさそうね」
セレストが呟いた。
「一つ、お願いがあります」
クロードに冒険者達の視線が集まった。
「もしバンパイアがいたとしても、今回は見逃しましょう。ここで騒ぎにしてもパルネ領主を頑なにするだけです」
クロードの言葉に冒険者達が驚いた。少し前のクロードなら絶対にそんな事はいわないはずだからだ。逆に率先して倒したであろう。
「クロードがそういうのなら、そうしましょう」
シュネーがクロードの腕を軽く叩く。
まもなく馬車は宿へと到着した。
●月夜
深夜、領主館の庭。
とても静かな月夜であった。
「満月には、もう少し日が必要ね」
トロシーネは隣りを歩く二十代半ばの女性に話しかける。
「ええ、そうね。姉さん」
女性はトロシーネの後ろをついて歩く。青白い肌をし、赤く輝く瞳の持ち主であった。
「もう少し経てば、満月だけでなく大地に緑芽吹く季節が訪れるわ」
トロシーネは振り返り、妹の言葉を待つ。しかし返っては来なかった。
夜の散歩は三十分程で終わる。
トロシーネと女性は何事もなく館へと戻った。
●そして
八日目、一行は荷馬車でパリへの帰路につく。
馬車で交わされる話は昨晩についてである。
全員で領主の館を見張り、トロシーネと女性が散歩している場面を目撃していた。
会話からすれば、二人は姉妹。女性はクリミナの魔法でアンデッドと判別される。
一行は女性の正体がバンパイアスレイブだと結論を出す。
スレイブといえばアーミルとサルーシャだが、その二人ではない。まったく別のスレイブだった。
新たなスレイブと紋章の謎が残る。途中で帰らなくてはならない状況に、悔しさを感じる冒険者もいるようだ。
しかし依頼者でもあるクロードは、そう感じていなかった。
クロードにとっては確かな手応えであり、何より再び信頼する冒険者達と得られた情報である。
(「やはりパルネ領にはルノーの城があるのでは‥‥」)
クロードはもう少し考えがまとまるまで話すのは止めておく。
帰り道は長く、十一日目の暮れなずむ頃にパリへと到着する。
またパルネ領へと行くつもりだと冒険者達に告げた後でクロードは冒険者達と別れた。