エドガ・アーレンス 〜サッカノの手稿〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月02日〜12月11日
リプレイ公開日:2007年12月10日
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●オープニング
「そうか。エドガ・アーレンスは、それらの場所に隠れている可能性が高いのだな?」
「そうよ‥‥。もうエドガに逃げ場はたいして残されていないはず‥‥」
パリのどこかにある投獄施設。ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーは、少女コンスタンスの尋問をしていた。
暗く冷たい部屋で窓もない部屋である。
後ろ手に縛られて唯一の家具であるベットに座る少女コンスタンスの顔に生気はない。 少女コンスタンスの尋問は主にラルフ黒分隊長が行っていた。聞かれた事を少女コンスタンスは素直に答える。自らが行った非道に関しても淡々と話し続けた。
尋問が終わり、投獄部屋をラルフ黒分隊長は後にする。そして近辺の牢獄を監視する衛兵達に貨幣を二度握らせた。最初は衛兵達にやる金。二度目は少女コンスタンスにもう少しよい食事と、毛布を何枚か渡してあげてくれと頼む金だ。
これからさらに寒くなる。獄中死が増える季節だ。
少女コンスタンスがどういう刑に処されるかは、もうしばらく時間がかかる。どうなるかはわからないが、せめてその時までは生き延びて欲しいと考えるラルフ黒分隊長であった。
ラルフ黒分隊長は馬車に乗って、城内にある黒分隊の執務室に向かう。
「ラルフ黒分隊長、お待ちしておりました。さっそくですが――」
黒分隊エフォール副長が以前に冒険者達の手によって捕まえられた水精霊使いのアリーセの尋問結果を報告する。
冒険者ギルド経由の情報によれば、エドガはアリーセによく似た水精霊使いと逃げたようだ。その為の確認である。
アリーセは施設に投獄されたまま脱獄もしていない。どうやらエドガと一緒の水精霊使いはアリーセの妹のようで、名はイーアヌ。エルフである。
「コンスタンスの話しによれば、エドガが隠れていると思われる個所は三つ。私と副長で率いて二個所を回ろう。残る一個所を冒険者に任せるつもりだが、どう思う?」
「アリーセを捕まえたのも冒険者の手柄。よい考えだと思います」
ラルフ黒分隊長とエフォール副長の考えは一致する。
翌日、エフォール副長によって冒険者ギルドに依頼が出された。
場所は山岳部の崖途中にある洞窟。そこはアビゴールが拷問をする際に使う場所だという。一度はエドガも拷問を受けた場所らしい。
その洞窟が本当に拷問場所であったのかの調査と、エドガと使徒がいたのなら捕まえる事が依頼内容である。
「捕まえる事が困難ならば、エドガを倒しても構わない。デビノマニが相手だ。容易には捕まえられないだろうし、そのせいで逃がしてしまっては元も子もない。冒険者達の判断にお任せしよう」
依頼を出し終えるとエフォール副長はすぐに城へと引き返す。黒分隊の半分を預かり、自らも別の隠れ家と思われる場所に向かわなくてはならなかった。
●リプレイ本文
●凍てつく山
風が吹きすさび、山にはすでに雪が降り積もっていた。
吹雪にはなっていないが、寒さの中で登るだけでも冒険者達の体力は奪われてゆく。
三日目の夕刻、冒険者達の姿は雪深い山中にあった。敵に察知されない為、わざと目的地の手前で野営の準備を行う。一部の者が空を飛んで先行するのを止めて全員でわざわざ徒歩で登ったのも同じ理由だ。
比較的平らな土地である杉の密集地が野営場所とされた。
馬達は馬車と一緒に麓の集落に預かってもらって同行はしていない。ペットも状況を鑑みて預かってもらった。唯一、連れてきたのはペガサスのみである。
「グレムリンが見張っているな。南西の方角だ」
「南東の方角でも見かけたぞ」
李風龍(ea5808)とキサラ・ブレンファード(ea5796)が野営地に戻り、雪を払いながら仲間へ報告する。
「何も見えませんでした。グレムリンに見つかることもないはずです」
フライングブルームで雪上に下りたリアナ・レジーネス(eb1421)は、上空から眺めた野営地の状況を伝える。
野営地の頭上では杉の枝葉が生い茂っていた。空を臨む事は出来ないが、おかげでグレムリンに発見される事もないはずだ。
「アリーセの尋問によってもたらされたイーアヌなる水精霊使いの使う魔法とは――」
冒険者全員がたき火の周囲に集まる。フランシア・ド・フルール(ea3047)はエドガに付き添う水精霊使いの魔法について説明を行った。
「グレムリンの警戒が厳しくて大して調べられなかったが、洞窟は崖の途中にあった。コンスタンスがラルフ黒分隊長に話したことは本当のようだな」
ナノック・リバーシブル(eb3979)は発動させたばかりの白光の水晶球を眺めながら語る。デビルの反応は今の所なかった。
(「コンスタンスはきっと‥‥」)
レイムス・ドレイク(eb2277)は心の中で呟く。プリンシュパリティ・ハニエルに誓ったのだ。コンスタンスはもう嘘をつくことはないだろうと。
「道中でお話したことの確認ですが、ここはやはり空を飛んで――」
シクル・ザーン(ea2350)は洞窟内に突入する時の確認をとる。仲間が用意した空中を移動出来るアイテムやペットを駆使すれば強襲は可能である。
「それにしても崖にできた洞窟とは、厄介な場所に拠点を作りよったものじゃのう」
マギー・フランシスカ(ea5985)は枯れ枝をたき火に放り込んで手をかざす。空中からの突入が無理な場合に備えて、いつでもウォールホールを使えるように待機するつもりのマギーであった。
「あの子と会えなかったしな‥‥」
ミケヌ(ec1942)は保存食をかじりながら思いだした。出発前に李風龍、レイムスと一緒に冒険者ギルドを訪れていたエフォール副長にコンスタンスとの面会を頼んでみた。
残念ながら面会は無理だといわれてしまう。レイムスが減刑の嘆願書を、李風龍が待遇改善の為にいくらかのお金を副長に渡していた。
『また会おう』と伝えてくれと副長に頼んだミケヌである。
「とにかくこれを機にエドガを殲滅できれば、アビゴールとの戦いにおいても後方の憂い無しで決着をつけられよう」
ディグニス・ヘリオドール(eb0828)が強い語気で決意を放つ。仲間に異論はなかった。
強風のせいで周囲の杉の木がざわめき続ける。
「本格的な吹雪になりそうじゃ」
「そうだな」
マギーとキサラは山の天候がさらに崩れるのを感じていた。
●エドガ・アーレンス
「足掻きであったか‥‥」
冒険者がパリを出発してから四日目、洞窟の奥にある一室でエドガは椅子に寄りかかりながら暖炉の炎を眺めていた。
外は猛吹雪である。
「エドガ様、どうかなさったのですか?」
エルフの女水精霊使いイーアヌはエドガの隣りに座る。
「ラヴェリテ教団が壊滅していた時に全てが終わっていたのだ‥‥。その後にイーアヌを含める古き友であったものを集めて新たなる勢力を模索した。しかし大した成果も出せぬうちに、コンスタンスの裏切りをきっかけに壊滅させられた‥‥ブランシュ騎士団黒分隊と冒険者にな」
「そのようなことは‥‥」
「この状況においてアビゴール様からの連絡はない。グレムリンの補充も無くなった。完全に見捨てられたようだ」
「エドガ様のお考え、このイーアヌが口を挟むことでは御座いません。ただ一つだけお願いが」
「なんだ?」
「最後まで私にお供させて頂きたく‥‥お願い致します」
「かつてお前の姉アリーセと私の間に何があったかを知らぬ訳ではあるまい‥‥。そして私はデビノマニだ」
「構いません。ただお側に居られればそれで」
エルフの女、イーアヌは澄んだ瞳でエドガを見つめ続けた。
●強襲
吹雪は五日目も続いた。
昨日の間に下調べを終え、体力の回復に努めた冒険者達は洞窟の強襲を決行する。
直前にダウジングペンデュラムを使って内部の様子を探る冒険者もいたが、残念ながらはっきりとは示さなかった。
キサラによれば人が利用出来る出入り口はナノックが発見した一個所のみ。あとは空中を移動できるグレムリンが出入り口とする通気口の縦穴がある。
「確かにここが侵入口のようだな」
ペガサスのアイギスから下りたナノックは白光の水晶球で反応を調べると、激しい点滅が起きる。
大凧やベゾムに跨った冒険者達が次々と崖途中の洞窟に入り口に足をつける。洞窟の入り口周辺にはグレムリン一匹すらいなかった。
冒険者達はあらかじめ戦闘で有利になる魔法の付与をし先を急いだ。
入り口は狭かったが、少し奥に行くと坂道となる。下るにしたがって洞窟の空間が広がってゆく。
その頃、リアナ、ミケヌ、マギーの三人は別行動をとっていた。
「今のうちに!」
リアナの手から稲妻が輝き走る。吹雪の中を偵察飛行するグレムリンに向けてライトニングサンダーボルトが放たれた。
「近寄らせねえよ」
ミケヌは純白の弓を引き、頭上のグレムリンに向けて矢を放つ。
リアナとミケヌが護っていたのはマギーである。
「ここじゃな」
マギーはきつい斜面で踏ん張りながらグラビティーキャノンを下方に向けて唱える。放つ先はグレムリンの出入り口。
マギーが茶色い光に包まれたかと思うと黒い帯がまっすぐ縦穴へと突き進む。上昇していたグレムリンのバランスを崩させ、そして縦穴の壁へ衝撃を与えてゆく。
何度目かの衝撃で縦穴は崩れ始めた。すかさずリアナのフライングブルームにミケヌとマギーに飛び乗って難を逃れる。斜面に崖崩れが発生した。
洞窟にいた冒険者達は地響きを感じる。時を同じくして洞窟内にいたグレムリンと遭遇する。
前衛の冒険者達が武器を手に次々とグレムリンを撃ち伏せてゆく。フランシアはホーリーフィールドを展開しながら、色水で透明化したデビルを警戒した。そしてグレムリンに掛かっていたエボリューションをニュートラルマジックで解呪していゆく。
「少ないな」
李風龍はもっと洞窟内に敵がいるのを想定していた。これまでに遭遇したグレムリンは六匹。今までを考えればあまりに少ない。
「そう私も感じました」
洞窟内を走りながらレイムスが李風龍に頷く。
「アビゴールに見捨てられたのか? エドガは。そうなら説明がつく」
ディグニスは天井から落ちるように襲ってきたグレムリン一匹を事も無げに倒す。
「こっちだ。さあ、フラン殿も」
キサラがフランシアを誘導しながら進む方向を指し示した。洞窟のさらに奥を目指す。
「これは霧。ミストフィールドです! イーアヌが近くにいます!」
フランシアが仲間に呼びかけ、すぐにニュートラルマジックをかけて霧の解呪を試みた。
レイムスは発泡酒を周囲にわざと零す。グレムリン対策である。
すぐに霧は消え去り、冒険者達はグレムリンをさばきながらイーアヌを探す。
ナノックがイーアヌを見つけた時、何かを唱えようとする寸前であった。
「来るぞ!」
ナノックはペガサスのアイギスが張ったホーリーフィールドに飛び込んだ。他の仲間もフランシアが張ったホーリーフィールドのどちらかに身を隠す。
地下空間にアイスブリザードの猛威が襲った。
「エドガもいます! ここはグレムリンは無視しましょう!」
シクルがレジストマジックをかけ直しながら覚悟を決める。
吹雪が終わった瞬間、冒険者達は一気に仕掛けた。
シクル、李風龍、ディグニスは水精霊使いのイーアヌを。
レイムス、ナノックはデビノマニのエドガを狙う。
キサラはフランシアを護りながら機会を探った。
「加勢します!」
「いたぜ!」
「こんなところにおったのじゃな」
リアナ、ミケヌ、マギーが洞窟の出入り口の反対側から現れる。ちょうどイーアヌとエドガを挟む形となった。三人は崖崩れで通気口を潰した後、マギーのウォールホールで洞窟内に侵入したのである。探知にはリアナのブレスセンサーが役に立った。
「この洞窟を見つけるとはな。冒険者共! ‥‥そうか、コンスタンスか。これも奴の裏切りによるものか!」
エドガが剣を手にしてイーアヌを護るように冒険者と対峙した。イアーヌは岩壁のへこみに身を隠しながら、アイスコフィンを多用する。
凍ってしまった仲間を、無事な状態のシクル、ナノック、フランシアがニュートラルマジックでうち消してゆく。
「人であることを捨てたことが貴様の限界だったのだろうな。ここで決着をつけてくれようぞ!」
ディグニスはエドガに声をかけながらも、狙うはイーアヌであった。前のようにアースダイブで逃げられては元も子もない。ペルクナスの鎚を振るうが、エドガも冒険者の考えを読んでいるようで簡単には引き下がらない。
「これを!」
リアナはミケヌ、マギーと共にグレムリンを一掃すると、切れかかっているレジストコールドを仲間に付与してゆく。
「あたしが出来るのはこれまでのようじゃな」
マギーはフランシアが作ったホーリーフィールド内に入る。そして一旦下がった仲間にストーンアーマーを付与していった。
「それではフラン殿を任せたぞ」
「わかった。がんばれよ」
ミケヌは周囲に罠が張られていないかを確認を終え、その上でキサラと交代してフランシアの護衛を行う。
「エドガ、此処がお前の最後の逃げ場所だ、覚悟を決めろ!」
レイムスが聖剣でエドガと刃と刃を交わし、火花を散らせた。
シクルがニュートラルマジックを唱え、エドガのエボリューションを解呪する。
ナノックが放った捨て身の攻撃がエドガの動きを一瞬止めた。
「イーアヌ!」
エドガが叫んだ。ディグニスが盾となるエドガをすり抜けてイーアヌの脇腹に槌をめり込ませたのだ。
「まだ‥‥まだよ! 私がエドガ様をお守りするのよ!」
李風龍が大錫杖で放った一撃が当たる寸前に、イーアヌが渾身のアイスブリザードを唱えた。刹那の後、大錫杖がイーアヌの額を捉える。
吹雪の勢いが冒険者達の動きを止め、体勢を崩させた。近くにいたエドガも例外ではなかった。
アイスブリザードが鎮まり、イーアヌが洞窟の崩れるように地面へ倒れ込む。絶命したのである。
エドガが剣を杖にして立ち上がる時、背後から忍び寄る者がいた。
「貴様!」
キサラの一撃がエドガの背中に決まる。エドガはよろめきながら体勢を変え、キサラの二撃目を払った。
「エドガ・アーレンス!」
シクルの剣がエドガの武器を持つ腕を肩から斬り落とした。
レイムスの剣がエドガの脳天から顎までを斬り裂く。
そのまま、エドガは地面に膝をつき、倒れた。
「この人数を一人で、これだけ抑えきるとは。エドガ、人間のままだったなら間違いなく俺には勝てただろうな」
ナノックは剣をエドガに向けて見下ろす。
「アビゴールに従い、何を得ました? 其が主に叛きし者の末路と知りなさい。そして主の裁きを受け、永遠にその罪を悔いるのです」
フランシアがエドガに近づいた。
キサラが念の為の仕留めをしようとした時、エドガのすべてが消え去る。身体も血も全て。残るは服と鎧であった。
「主よ、感謝致します」
フランシアは地面に膝をつき、祈りを捧げた。
●調査
五日目から六日目の一晩を、冒険者達は野営地で過ごした。
敵は誰もいなかったが、用心の為である。生き埋めを危惧したのだ。
「‥なかなかいい趣味だ。持って帰りたいくらいだ」
キサラが一人の時、拷問道具の鉄製の台を見て呟いた。
コンスタンスの情報は正しく、拷問の場所として使われていた形跡がある。冷えきった部屋なのに妙な臭いが鼻についた。
他の冒険者達も一通り洞窟内を巡り、報告としての情報を得る。何かしらの品がないか期待した者もいたが、残念ながら価値ある物はなかった。
●パリへ
七日目の朝になり、山の天候も大分落ち着いてきた。
冒険者達は下山をし、夕方までには麓の集落に到着する。
八日目の朝に馬車でパリを目指す。九日目の夕方には到着した。
「そうか、エドガ・アーレンスを仕留めてくれたのか」
冒険者ギルドではエフォール副長が待機していた。
冒険者達の話をエフォール副長は真剣な眼差しで聞き続ける。
「私とラルフ黒分隊長の向かったそれぞれの先は空振りであったので、心配していたのだ。見事やり遂げてもらい、とても助かった」
エフォール副長は用意してきた指輪を全員に渡す。せめてものお礼だと。
「あの‥‥」
エフォール副長にレイムスが声をかける。
「コンスタンスを宜しくお願いします」
レイムスが礼をする。李風龍、ミケヌもそれぞれのやり方で礼をした。他の何人かの仲間も気になっていたようで、エフォール副長に一声かける。
「気持ちは伝えよう‥‥。すまないな。この程度のことしか私には出来ないのだ」
エフォール副長は冒険者達に深く感謝してから部下と共に冒険者ギルドを立ち去った。