眩しき翼の王冠の行方 〜ツィーネ〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:9 G 99 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月24日〜08月03日

リプレイ公開日:2008年08月01日

●オープニング

 冒険者ギルドに依頼を出していた紳士的な中年男性ウエスト・オリアイリの正体は盗賊組織の首領であった。
 すべてはロジャー・グリムなる宝飾品専門の単独の泥棒が手に入れた眩しき翼の王冠を探す為だ。
 仲間と共に依頼へ参加していた女性冒険者ツィーネは、ウエストが行った過去の虐殺の事実を知る。それ以外にも人を人と思わない振る舞いが明るみに出た。
 その事がわかるとツィーネは当然の如く依頼に入るのを拒否する。もう一歩の所まで来ていると感じていたウエストはツィーネの弱点を突いた。
 ツィーネの育てている男の子テオカの誘拐である。
 テオカは未だウエストの手中であった。


 ツィーネは曰く付きの宝飾品『眩しき翼の王冠』の元の持ち主であったミランテ夫人の屋敷を訪れていた。
 ミランテ夫人は眩しき翼の王冠を取り戻した後、これ以上の不幸をまき散らさないように教会に寄贈するつもりである。その為には依頼などの資金提供は惜しまないという。
 しかし、ツィーネはウエストにテオカと眩しき翼の王冠との交換を突きつけられていた。
「そうですか。それは困りましたわね」
 ツィーネとテーブルを挟んで椅子に座るミランテ夫人が囁くように答えた。ツィーネは事実をすべて話し終える。
「目の前のテオカさんを救うのか、それとも不幸になるたくさんの未来の誰かを救うのか‥‥ですね」
「そういわれても、わたしの考えは決まっています」
 ツィーネはまっすぐにミランテ夫人を見つめる。
「そうでしょうね。わたくしがツィーネさんの立場だとしてもテオカさんを救うのを優先するでしょう。‥‥この世界には正しい事がたくさんあります。ただ、それが少数の方にとって正しいのか、多数の人にとってなのかはまた別の話。時には相反する事もあります」
「どうしたらよいと、ミランテ夫人は仰るのですか?」
「簡単な事。眩しき翼の王冠を手に入れてウエストに渡しなさい。そして必ずテオカさんを取り戻すのです」
「それで、ミランテ夫人もよいのですか?」
「続きがあります。救いだされたらテオカさんはわが屋敷で守りますので、ウエストなる者と部下達を倒すか官憲に引き渡しなさい。眩しき翼の王冠は取り戻すか、もしくは破壊して構いません。この約束、守って頂けますか?」
 ツィーネはミランテ夫人の手を握って涙を零す。必ず約束を守ると誓ったツィーネであった。


 翌日、ツィーネは冒険者ギルドを訪ねて依頼を出す。
 幽霊の森の奥ではロジャー・グリムのなれの果てと思われるスペクターが狂気をまき散らしていた。その他にも森にはウエストの虐殺によってレイスになってしまった幽霊が多数森には徘徊する。
 森の外縁にある集落の人達と、森に住むザオは心強い味方である。
 生前のロジャーが森のどこかに隠したと思われる眩しき翼の王冠を探すのが依頼の目的であった。

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb0339 ヤード・ロック(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7358 ブリード・クロス(30歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

クレア・エルスハイマー(ea2884)/ クリス・クロス(eb7341)/ レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文

●出発
「これでいいでしょう」
 ブリード・クロス(eb7358)は仲間の馬も含めて馬車に繋げ終わる。これから森に向かうにあたり御者も務めるつもりであった。
「卑怯者が! 人間の風上には到底置けぬ!」
 突然、馬車を停めてある空き地の片隅で叫び声があがる。西中島導仁(ea2741)がツィーネからこれまでの経緯を聞いて、強く握る手の甲に血管を浮かび上がらせていた。叫んだ言葉はウエストに向けられたものだ。
「二頭とも、馬車を頼みますよ」
 陰守森写歩朗(eb7208)は愛犬ぶる丸と円に馬車の護衛を言い聞かせる。陰守自身は少しパリに残ってウエストの盗賊組織について調べるつもりであった。
 仲間の見送りに来ていたクリスとクレアもテオカの情報をパリで探ってくれるという。何かわかれば後で馬車組と合流する陰守に伝えてくれる約束になっていた。
 リンカ・ティニーブルー(ec1850)はギルドで地図を写してから追いつくといって空き地から姿を消した。
 先に出発する者達は馬車へと乗り込んだ。ブリードが手綱を持ち、馬車は走りだした。
「まずは、眩しき翼の王冠の発見だな。そうしなければ何も始まらない」
 エイジ・シドリ(eb1875)はいつものように馬車後部で武器を作る。ツィーネが教えてくれたミランテ夫人の言葉を思いだしながら。
「スペクターとなったロジャーから、どうにかして王冠の隠し場所を探さなくては‥‥」
 真剣な表情で悩むツィーネの側ではヤード・ロック(eb0339)がいつものように寝転がっていた。今回は後で合流する仲間が多いので、馬車内の椅子にも余裕がある。
(「さて、なんとか王冠見つけて早めにテオカを助けてやらないとな‥‥。寂しがってないだろうかな、と‥‥」)
 顔に乗せた帽子の隙間からツィーネを見上げながらヤードは心の中で呟く。
 そこまでは真面目であったヤードだが、ツィーネの膝が目に入るといたずら心が疼く。膝枕をしてもらおうと背中をもぞもぞと動かして移動するものの途中で取り止めた。じっと見つめるリスティア・バルテス(ec1713)の瞳と杖が光ったように感じたヤードであった。
「‥‥テオカ、大丈夫かな‥‥」
 ほっとしたリスティアは思わず呟いてしまって口を両手で塞いだ。一番テオカを心配しているのはツィーネである。
「テオカは大丈夫‥‥。強い子だから」
 ツィーネが少し俯き加減に口を開く。リスティアは腕を伸ばしてツィーネの手を強く握りしめた。
「ランタンを森の所々の木に吊り下げておいて地図に描き加えます。いろいろと役に立つ事でしょう」
 御者台のブリードが馬車内に向けて話す。出発前に計画を聞いていたツィーネもランタンを用意していた。
 後にわかることだが森に馬は連れてゆけず、大量のランタンは運べずに終わる。戦いに必要だった分のランタンはツィーネので間に合った。前にブリードの兄弟クリスがペガサスを連れていけたのは、人並みに賢いのと崖などを低く飛んで越えられたからだ。アイデアは秀逸なので、機会があれば次にお願いする事となる。
 森外縁の集落までは馬車でも二日かかった。一日目の野営をしている間にリンカが写してきた地図を持って馬車組と合流する。
 二日目の昼頃には陰守がフライングブルームネクストで追いついた。
 馬車組の後を追うような怪しい者は見あたらなかったと陰守は仲間に報告する。パリでは以前に仲間が調べた以上の情報は得られなかった。
 テオカの誘拐に関しては、まったく情報がない。パリ内で監禁されているかも知れないが、城壁外に連れて行かれた可能性の方が高まった。
 二日目の夕方、森外縁にある集落へ到着した冒険者達は馬車を預けるとそのまま一晩を過ごすのだった。

●森
 三日目の朝、冒険者達は森に足を踏み入れた。
 以前の戦いから冒険者達の強さを学習したのか、無闇に森の幽霊達が襲う事はなくなった。だからといって安全に進めた訳ではない。
 場所を選んで幽霊達は一斉に襲いかかってくる。冒険者達は足を止め、リスティアが張ったホーリーフィールド内を基点として幽霊達と戦った。
 出来るのなら浄化によって苦しみから救ってあげたいところだが、そうはいっていられない状況だ。この森に立ち入るようになってからのジレンマでもある。
 リンカがレミエラを発動させたメダルを愛犬に取り付けていた。周囲ではアンデッドの能力が低下したので前衛が戦いやすくなる。おかげでホーリーフィールドの張り直しも楽に行われる。
 何度かの襲撃を払い、ザオの小屋に辿り着いたのは三日目の夕方であった。
 ザオが一緒にいればほとんどの幽霊は襲って来なくなる。かつて人であった時、仲間であったからだ。
 冒険者達はザオと細かな相談をしてから見張りを決めて就寝する。
 スペクターの徘徊する森の奥に向かったのは四日目の朝であった。
 出発前、リンカはバーニングマップのスクロールを陰守から借りて地図を燃やしてみた。残念ながら眩しき翼の王冠の所在はわからない。広い森の中にあるという情報だけでは無理なようだ。
 陰守もサンワードで探ってみたものの反応はない。
 ヤードが振り子を地図に垂らしてもピクリともしなかった。
 夕方、冒険者達は窪んだ土地に注意深く近づくと、スペクターの位置を把握する。
(「あれは?」)
 唸り声をあげるスペクターの近くに人が倒れているのをリンカが発見した。
「そういえばこの間、白骨した死体が転がっていたんだな、と」
 ツィーネの横でヤードが思いだす。
「最近、出回り始めたレミエラを持っていたのよね」
 話すリスティアをツィーネが見つめる。
「森の奥まで幽霊に襲われずに入って来られたのか不思議だ。何故だ?」
 エイジは青白い炎のようなスペクターを観察する。森の中は薄暗いので遠くでもはっきりと確認出来た。それにもうすぐ日が暮れる時間である。
「助けるべきだな」
 西中島が腰に下がる霊剣の鞘を軽く持ち上げた。
「何か知っているかも知れませんし、そうでなくてもあのままでは死が待つのみでしょう」
 静かに木から飛び降りた陰守が賛成する。
「少し待って下さい。道を拓いておきますので」
 ブリードは木枯というプラントスレイヤー能力を持つ魔刀で茂みを切り開く。
 自由に空中を飛び回れるスペクターを相手にするには、障害物の多い森の中では不利である。窪地から距離をとればスペクターは追いかけてこないと仲間から聞いていた。ブリードは逃げ道を作っておいた。
「これを使うべきか‥‥」
 リンカはツィーネから預かった小箱を取りだす。かつてはウエストの持ち物であり、スペクターが執着する品の一つでもある。
 ザオにはリンカと陰守の犬四頭が護衛についた。
 夜はスペクターにあまりにも有利だが、残された日数は大して残っていない。それにスペクターの近くで倒れている人を放っておく訳にもいかず、準備が出来次第実行される運びとなった。
 少しでも有利にする為、窪地の周囲の木にはランタンが吊される。作戦が実行されたのなら、手の空いた者が点ける段取りになった。
 リンカが滑るように低地へ駆け下りて叫んだ。手にしていた小箱を高く掲げるとスペクターは追いかけてきた。
 リンカは一気に斜面を駆け上り、魔剣を構えるツィーネとすれ違う。
 ツィーネがわざと大きく魔剣を振ってスペクターの軌道を曲がりくねらせる。
 西中島はオーラテレパスでスペクターに問いかけてみた。狂気にかられたスペクターとの意志疎通は出来なかった。
 逃げるリンカのフォローをヤードが行う。プラントコントロールを使い、新たな逃げ道を拓いてあげる。眩しき翼の王冠の在処がわかるまでは、スペクターを倒す訳にはいかなかった。
 ブリードはリンカが通り過ぎるのを確認して獣道に飛びだした。魔法の小盾を構えて、スペクターに突進する。弾き飛ばしては時間稼ぎを行った。
 リスティアは所々にホーリーフィールドを張って安全地帯を作っておく。少しでもリンカが休めるようにと。
 スペクターをリンカが引きつけているうちに、エイジと陰守は倒れている人を窪地から助けだした。
 倒れていたのは若い男であった。二人で両側から肩を貸すようにして運ぶ。男の掌は酷く傷ついていて泥だらけだ。
 すべてが順調に思えたが、スペクターは男が消えた事に気がついた。すぐに目標を変え、男を運ぶエイジと陰守を追いかけ始める。
 青白い炎が暗い森の中を飛び、逃げる男を救出する二人に急接近した。
「女神には会えたのか?」
 エイジの一言にスペクターは一瞬動きを止める。
 すかさずエイジは清らかな聖水を振りかけてスペクターを牽制する。呻き声をあげているスペクターを後目にひたすら逃げる。
 西中島が救出の二人に追いつき、霊剣でスペクターに対抗してくれた。空中からの攻撃は対処が難しいものの、その気になれば倒せる手応えを西中島は感じる。だが今は眩しき翼の王冠を探る為に我慢の時であった。
 前に感じた距離よりしつこく追いかけてきたスペクターだが、団結した冒険者達は無事に逃げおおせるのだった。

●決意
 リスティアはリカバーで救出された男の回復をはかった。ヤードが集めた薬草で怪我の治療も行われた。
 五日目の朝、目を覚ました男は事情を話してくれる。
 一週間程前、危険な森だと知らずに足を踏み入れてしまい、たくさんの幽霊に追いかけられるうちに迷ったという。
 疲れて休んでいると、何かが身体の中に入り込んできて頭の中で囁き始めた。抗う事も出来ず、結局いいなりになって穴を掘ってしまった。
 大きな穴が出来上がると、別の離れた地面をまた掘らされる。頑丈そうな金属製の箱が見つかり、新たに出来た穴まで運んで埋める作業を行った。
 休みもなく、たった一人で行われた作業はとても過酷で最後には意識を失ったらしい。その後の記憶は冒険者達に救いだされた後のものであった。
 リスティアは頷く。スペクターはゴースト系だが、普通憑依は出来ない。変わったスペクターだと第一印象を持ったのは、このせいであったようだ。
 スペクターは定期的に宝の隠し場所を移動させているのではないかとエイジが話し、誰もが同意する。
 光明は見えたものの問題は残った。箱は一つではない。男が埋め直しただけでも六個所もあるからだ。
 白骨化していた遺体は憑依したスペクターにこき使われて、最後は捨てられた者の末路なのだろう。周辺を探せば他にも同じような遺体が転がっているかも知れない。
 わかっている六個所を掘るべきか、それともすべての隠し場所が判明してから行動すべきか、ツィーネは難しい判断に迫られた。
「‥‥わたしがわざとスペクターに憑依されて隠し場所を探してみる。それしかない」
 ツィーネの言葉に仲間は耳を疑う。どうしてもやるのなら、代わりに自分がという者もいた。
 しかしツィーネの決意は固かった。テオカを助けるのなら、これぐらいの事は当然だといって。
 装備を外して身軽になったツィーネは窪地に降りた。
「ロジャー・グリム、何がしたいのかいってみろ」
 ツィーネは挑発するようにスペクターに声をかける。
 青白い身体を震わせたスペクターが吠えた。次の瞬間、ツィーネに取り憑く。
 その様子を遠方で確認した冒険者達の気分はやるせないものであった。
 ヤードが木の幹を拳で何度も殴りつける。
 エイジは頭をかいては、ため息をついた。
 ブリードとリスティアはひたすら神に祈り続けた。
 西中島は歯ぎしりをして悔しがる。
 リンカと陰守は心を鬼にしてツィーネの行動を身を隠しながら近くで確認する。
 ザオはツィーネの覚悟の深さを知り、より積極的に手伝おうと心の中で誓っていた。
 七日目の夕方、これが限界と判断した冒険者達はツィーネを救出する。
 リスティアがピュアリファイを使ってツィーネの身体からスペクターを追いだす。リンカは小箱で再び囮になった。
 西中島、ヤード、ブリード、リスティアがリンカをフォローし、エイジと陰守がツィーネを運んだ。
 気を失っているツィーネを安全な場所まで運びだすと、すぐさま撤退する。今回、これ以上の長居は無用であったからだ。
 ザオがつき合ってくれたおかげで、冒険者達は予定より早めに森外縁の集落まで戻れる。
 九日目の朝、預けてあった馬車を受け取ると冒険者達はパリへの帰路へついた。
 帰りの間、ツィーネはほとんど眠っていた。リスティアとヤードが付きっきりで介抱をする。ツィーネはうなされながらテオカの名を呟いた。
 十日目の夕方、馬車はパリへ到着する。
 手足などの傷はまだ癒えていなかったが、ツィーネは総じて回復していた。
 救出した男の話しとツィーネのがんばりでわかった箱の隠し場所は十個所になる。
 次はスペクターを倒し、穴を掘り返して眩しき翼の王冠を探す作業になるとツィーネは考えていた。
 ミランテ夫人からの使いの者が冒険者ギルドで待っていた。今回の成果を説明すると、謝礼として追加報酬とレミエラが全員に渡される。
 しばらくギルドに残り、今後を話し合う冒険者達であった。