テオカの笑顔 〜ツィーネ〜
|
■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:11 G 94 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月06日〜09月12日
リプレイ公開日:2008年09月13日
|
●オープニング
女性冒険者ツィーネはロームシュト家ミランテ夫人の屋敷の世話になっていた。
自宅に戻らなかったのは安全の為である。
仲間の協力を得てツィーネはついに宝飾品『眩しき翼の王冠』を手に入れる。
盗賊組織の首領ウエスト・オリアイリが欲する逸品であり、ツィーネが育ててきた男の子テオカとの交換条件の品でもあった。
特に宣伝をしなくてもツィーネが眩しき翼の王冠を手に入れた事はウエストに伝わっているはずだ。それぐらいの諜報能力はウエストにとってお手の物であろう。
考えていた通り、ツィーネの元にウエストからの手紙が届いた。
ツィーネは心を落ち着かせてから手紙の封を開けた。
「ルーアンか‥‥」
ツィーネは手紙を凝視したまま、指定された引き渡しの場所を呟く。
これまでにパリやその近郊を調べたが、テオカの所在はわからなかった。仲間やその知人が懸命に調べてくれても同じ結果だった。まさかルーアンにテオカが連れて行かれていたとは考えもしなかったツィーネである。
パリ北西にあり、セーヌ川沿いにある古き街ルーアン。
ヴェルナー領の中心地であり、とても活気のある街だと聞いていた。
ツィーネは人気が少ない場所を指定されるものとばかり考えていたが、まったくの逆であった。
ルーアンにある広場では毎日のように市場が開かれている。
人混みの中で眩しき翼の王冠とテオカの交換をしようと手紙には書かれていた。
ツィーネには赤い帽子を被り、市場を彷徨くようにと指定されている。もちろん眩しき翼の王冠を持った状態でだ。
ウエスト側の特徴は示されていない。ツィーネに『煙草の火を貸してくれ』と頼む人物に眩しき翼の王冠を渡せとあった。その後、テオカを返すとある。
武器の携帯は認められず、丸腰の条件も付け加えられていた。
官憲に協力を求めたのがわかった時点で、取引を無効にしてテオカを殺すと文章は締めくくられている。
「ウエストは信用出来ない‥‥。眩しき翼の王冠を渡したからといって、テオカをすんなりと返す輩では‥‥」
ツィーネは悩んだ。ウエストの言いなりになっていたのでは、テオカは戻って来ないだろう。かといって手を間違えるとテオカの身が危なくなる。
ツィーネはミランテ夫人に頼み、足がつかない人物に代理で依頼を出してもらう。ツィーネを知らなければわからないような内容である。
ここまでしないとウエストには隠し通せないとツィーネは考えていた。
●リプレイ本文
●始めの行動
テオカを救うために集まった冒険者達は様々な行動をとった。
ツィーネは出発をわざと一日遅らせる。ウエスト側の監視があるのを想定し、仲間の行動を助ける為に囮となった。
今回エイジ・シドリ(eb1875)はツィーネにつかず離れず行動するつもりでいた。空いた一日目で変装用の帽子や服などを用意する。
船旅でツィーネと偶然に居合わせるのを装う玄間北斗(eb2905)も準備に余念がない。必要な品を買い込み、ツィーネとテオカの匂いがついた品を秘密裏に預かる。
ヤード・ロック(eb0339)と陰守森写歩朗(eb7208)は、自前のフライングブルームでルーアンへ先乗りする為に飛び立った。一日しか時間がない陰守辰太郎は見送るにとどまる。
リンカ・ティニーブルー(ec1850)、シュネー・エーデルハイト(eb8175)、リスティア・バルテス(ec1713)は一日目の朝にペットを連れて船着き場に向かう。
変装は夜明け前の一時間で終わらせて、さっさと乗り込んだ三人である。本格的な変装は船の中やルーアンでも出来る。今は少しでも早くルーアンに到着すべきであった。
甲板の上でリンカは思いだす。ツィーネの為に玄間北斗へ短剣とブルースカーフを預けたのを。
誰もが感じていたが、ツィーネは思い詰めている。テオカを助けるにおいて、ツィーネの身に何かがあってはならない。
ツィーネとテオカの無事が、リンカの、そしてみんなの願いであった。
リスティアもまたツィーネとテオカの事を考えていた。
二人が無事で済むのなら眩しき翼の王冠がウエストの手に渡ってもやむなしだ。川面を眺めながらリスティアは唇の端を噛み、そして神に祈りを捧げた。
シュネーは船底で愛馬ヒューゲルの世話をする。幸いな事にシュネーと玄間北斗はウエスト側にまったく面が割れていない。そこを大きな武器にしたいとシュネーは策を練る。
夕方、空を飛んで先行していた陰守とヤードはルーアンに近づくと別れて行動する。それぞれに目立たないよう郊外で降りて、徒歩でルーアンの城塞門を潜った。
日が落ちて、ヤードは酒場を渡り歩きながら情報収集を行う。
陰守は飲食店へ一時的に雇ってもらい、そこから噂を拾ってゆくのだった。
二日目の朝、ツィーネがパリの船着き場を訪れて乗船する。
頃合いをみて、エイジと玄間北斗もツィーネと同じ帆船に乗り込んだ。鐘が鳴らされてすぐに出航した。
エイジは顔を隠すため帽子を深く被り、瓶を片手に酔っぱらいのふりをしていた。髪はぼさぼさで服装もわざとだらしなくしている。より演出をする為にボロボロの大きめのカバンを傍らに置いていた。酒臭さを出す為に服へワインを染み込ませてあるが、瓶の中身はグレープジュースだ。
手紙にはいろいろと書かれてあったが、ツィーネをルーアンに呼び寄せるだけが目的かも知れない。ウエストの息がかかった者が、いつツィーネに接触してきても対応出来るようにエイジは心がけていた。
エイジが見守るツィーネは大きな布袋を抱えてセーヌの下流に振り向く。その方角にはテオカがいるであろうルーアンがあった。
玄間北斗は愛犬達が懐いたのを機会にしてツィーネをナンパをする。
もちろん演技であり、ツィーネにまとわりつく口実を作り上げる為だ。甲板から釣り糸を垂らしながらも、ちらちらとツィーネを見ては頬を染める人物を演じ続ける。
昼頃、シュネー、リスティア、リンカの三人を乗せた帆船はルーアンに入港する。
シュネーは愛馬ヒューゲルと共にルーアンの街へ紛れてゆく。まずは取引が行われるはずの市場の下見に向かった。
リスティアは先行していたヤードと接触し、本格的な変装を施してもらう。ヤードが酒場で聞き込みをしていると聞いて、教会を中心に回ろうと決めた。その際、寄付という名目で口止めをするつもりである。
リンカは真っ先にトレランツ運送社本社を訪れた。十野間修から紹介されたルーアンを拠点にしている海運会社であった。
十野間修からの手紙が届いていて話しは早く済んだ。
リンカはカルメン社長からルーアンの地図を借り受ける。
後に地図を欲していたエイジ、陰守と写しの代金を折半する。素人には手に負えない程精密で、なおかつそれにかける時間が残されていなかったからだ。
三日目の昼、ツィーネがルーアンの地を踏む。
酔っぱらいのエイジ、一目惚れの玄間北斗も降り立つ。
テオカと眩しき翼の王冠の取引は四日目の昼頃と手紙には記されている。あと一日しか残っていなかった。
●監視
シュネーは市場の下見を終えると信頼出来そうな情報屋を探したが、うまくはいかなかった。
ルーアンでのシュネーに人脈はない。そこでリンカを通じてカルメン社長に紹介してもらう。
情報屋によれば平和なルーアンにも裏社会は存在する。ウエストの盗賊組織もそのうちの一つだが、容易に近づける相手ではなかった。
ウエスト側に間者であるのがばれれば確実に殺される。使い走りのような仕事を受ける奴はいないと情報屋は鼻で笑う。
シュネーと情報屋は廃屋の薄い壁越しで会話をし、最後までお互いの顔を合わさなかった。
唯一の得られた情報として、シュネーはウエストの盗賊組織が根城にしている区画へ向かう。ただし中には踏み入れず、近隣から監視するに留めた。
それほど広い区画ではなく、見張っていれば何かしらの動きは掴めそうである。
建物に隠れて、シュネーはひたすらに眼を光らせた。
●居場所
ヤードは酒場を渡り歩いていた。
酒場の女を口説く代わりに、さりげなく盗賊の情報を訊ねる。わざと柄の悪い連中の隣りの席に座り、聞き耳を立てたりもした。
ウエストの名は出さないように気をつけていたが、何者かに追いかけられる一幕もある。ウエストとは限らず、叩けば埃が出る連中もルーアンにはそれなりにいるようだ。
ヤードもシュネーと同じように市場の下調べは済ましてある。仲間と話す時はテレパシーを介して、知り合いであるのを隠し通した。
地図が手に入ったとリンカからの伝言があり、ヤードと陰守が闇に紛れてトレランツ本社を訪れる。
ヤードは地図に振り子を垂らして占ってみるが、テオカの居場所まではわからなかった。
陰守がバーニングマップで地図を燃やしてみて、テオカの監禁場所を探る。それらしい場所が三個所わかり、手分けをして確実な証拠を探し求めた。
やがて三個所のうちの一つが、シュネーの見張っていた区画に存在する建物だと判明する。教会関係者から探っていたリスティアも同じ区画へと辿り着いて信憑性が増した。
後はテオカの姿を確認できればいいのだが、こればかりは一筋縄ではいなかった。エックスレイビジョンなどの魔法を駆使して探ってみても見あたらない。敵側にウィザードがいて、何かしらの妨害をしている可能性が高かった。
リンカは愛犬二頭にテオカとツィーネの匂いを探らせたが発見には至らない。もしテオカが区画にいたとしても監禁状態なのだろう。
テオカが確認出来たのなら直接踏み込んで救出する作戦もあり得るが、今の状況で踏み切る事は無理だ。もし救出に失敗すれば交換の取引はなかった事になるだろう。当然、テオカの命の保証もなくなる。
区画の見張りをリスティア、ヤード、陰守、リンカ、シュネーの五人で行う事にした。
ルーアンに着いたツィーネは宿の二階奥の部屋に泊まっていた。階段に近い部屋を玄間北斗とエイジが別々に借りて用心する。
パリからルーアンまでの船旅の間、ツィーネを監視しているような怪しい人物は見かけられなかった。だが魔法を駆使すれば遠くからの監視も容易である。
宿にいる三人は窓を開けて外を眺めるふりをし、ヤードか陰守のテレパシーを介して情報交換を行った。
テオカ監禁場所の目星はついたものの、確実かどうかがわからずにツィーネが決断を下した。交換時に交渉をする作戦がツィーネによって選択される。
三日目から四日目にかけての夜は、誰にとっても眠れないものとなった。
●交渉の時
四日目の昼前、ツィーネは手紙に書かれた通りにパリから持ってきた赤い帽子を被って宿を出る。腕には大きな布袋が抱えられていた。
ルーアンの市場はとても活気がある。ツィーネは手紙にあったようにしばらくの間、人混みの中を彷徨い歩く。
「そこの姉さん、煙草の火を貸してくれ」
露天が並ぶ奥に路地裏があり、そこからひげ面の中年男がツィーネに声をかけてきた。息を呑んだツィーネは路地裏に消えた中年男の後を追う。
「念の為だ。我慢しな」
薄暗い路地裏には中年男の他にもう一人若い男が隠れていた。ツィーネの身体をまさぐって武器が隠されていないかが確認される。
「それに眩しき翼の王冠が入っているんだな。寄越せ」
中年男がツィーネから引ったくると布袋の口を開いた。
「おい、どういうことだ! ガキがどうなっても構わないっていうのか!」
中年男によって布袋がひっくり返され、兜の中に砂袋が詰められたものが地面で音を立てる。
「あんたらが手紙にあったウエストの手の者かどうか、信じられないのさ」
「その為の煙草の問いかけだろう? いいか? 俺が合図を出せばあのガキは今すぐにでも死ぬんだぞ。眩しき翼の王冠はどこにある?」
ツィーネと中年男のやり取りはしばらく続く。
「まずはテオカの安全を確認するのが先だ。これは譲れない。そうでなければこちらも眩しき翼の王冠を晒すつもりはない」
ツィーネの強い語気に中年男と若い男が顔を見合わせる。
「来い!」
中年男が路地裏を出て市場を歩きだした。ツィーネは若い男に肩へ手を回されながらついてゆく。
多くの人とすれ違う中、玄間北斗がツィーネの懐に短剣を忍ばせる。
玄間北斗は一旦離れたところでツィーネを追う。
その頃、ウエスト側が根城としている区画でも動きがある。馬車が一両、猛烈な勢いで建物から飛びだしたのだ。
陰守は単独、ヤードはリスティアと二人でフライングブルームに乗って馬車を追いかける。リンカとシュネーは引き続いて区画を見張った。
やがて市場を抜けたツィーネは特に古い建物が建ち並ぶ一角に連れてこられた。
「テオカ!」
中年男が指さす方向を見上げたツィーネが叫んだ。
建物三階の屋上には男二人の姿と一緒に、テオカの姿があった。後ろ手に縄で縛られて、猿ぐつわをはめられている。
「地面に叩きつけられるガキを見たいか? 早く眩しき翼の王冠は何処だ! ルーアンに持ってきていないとはいわせないぞ!」
凄む中年男を睨んだツィーネは手を挙げて合図を出す。
間もなくテオカがいるのとは別の建物の屋上にエイジが現れる。
エイジがボロボロの大きめのカバンから取りだしたのは『眩しき翼の王冠』であった。
「わたしがテオカのいる建物に登る。お前とそこの若いのは眩しき翼の王冠がある建物へ登れ。それで交換だ」
中年男と若い男がツィーネの条件を受け入れる。
ツィーネは屋上までの階段を一気に駆けのぼった。
「テオカ‥‥」
ツィーネはテオカを凝視する。
「それでは受け渡しだ!」
中年男が大声で合図を出した。
ツィーネがテオカを抱きしめ、若い男の手に眩しき翼の王冠が渡る。
「ツィーネ、危ない!」
どこからか聞こえたリスティアの声にツィーネが反応する。おかげで屋上にいた敵の攻撃をツィーネは短剣で凌ぐ。
「テオカ、よく頑張ったんだぞ!」
フライングブルームを操るヤードはツィーネとテオカの側へ落下するように着地させる。後ろにはリスティアが乗っていた。
「テオカ、もう大丈夫だからね」
リスティアはすぐさまホーリーフィールドを張る。飛んできた二本の矢を跳ね返し、テオカとツィーネが守られた。
それ以上の遠隔攻撃はなかった。別の建物で玄間北斗が弓を持つ敵に挑んでいた事を仲間は後で知る事となる。
ヤードは建物に絡みつく蔦を魔法で動かしたが、屋上にいた敵の二人はいなくなっていた。
「その眩しき翼の王冠は呪われている。少なくてもロジャー・グリムが狙っているのは確かだ!」
エイジはフライングブルームで飛び去る眩しき翼の王冠を抱えた中年男に向かって叫んだ。
「空中とはいえ、相手に地の利がありました」
陰守が眩しき翼の王冠を追ったものの、すぐに戻ってくる。深追いするよりも今はツィーネとテオカの安全を計るのが優先だからだ。
安全な区画へと移動してテオカの無事を喜び合う。
テオカに特に酷い怪我はなかった。とてもまずかったそうだが、食事もちゃんともらっていたという。
ツィーネはひたすらテオカを抱きしめて泣き続けた。
「馬車はしばらくして戻ってきたけど、空から帰ってきた者はいなかったわ」
「そうだな。一体どこへ行ったのだろうか」
区画を見張っていたシュネーとリンカによれば、フライングブルームに乗ったウエスト側の者達は戻って来なかったらしい。
どこかに隠れているウエストの元へ直接運んだ可能性が高い。その場所が何処なのかまでは誰にも見当はつかなかった。
「これを食べるのだぁ。とっても美味しいのだ」
玄間北斗が持っていたブールスカーフをほどくとシュクレ堂の焼き菓子が現れた。
目を輝かせたテオカが焼き菓子を手にとって頬張る。
「ティアの友人、シュネーよ。これからよろしくね、テオカ」
シュネーが食べ終わるのを見計らってテオカと握手をした。手の甲が傷だらけで、テオカなりにがんばっていた事がよくわかった。
●そして
六日目の夕方、警戒をしながらパリに戻った一行は冒険者ギルドでの報告を終える。
そしてロームシュト家ミランテ夫人の屋敷を訪ねた。眩しき翼の王冠がウエスト側に渡った経緯などを細かく説明する。
「テオカさんが無事で何よりです。ただ、呪われた眩しき翼の王冠をこのまま放っておく訳にはまいりません。以前ツィーネさんにはお話しましたが、取り戻すか、もしくは破壊したいと考えています。依頼を出させて頂きますので、どうかよろしくお願いしますね」
ミランテ夫人は手持ちのレミエラを感謝の印として冒険者達に贈る。
ツィーネとテオカは安全が確認されるまでロームシュト家の屋敷で世話になる。笑顔の二人に見送られて、冒険者達は家路に着くのであった。