隠匿のウエスト 〜ツィーネ〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:9 G 99 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月23日〜10月03日
リプレイ公開日:2008年09月30日
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●オープニング
女性冒険者ツィーネ・ロメールと少年テオカはロームシュト家の屋敷で守られていた。宝飾品眩しき翼の王冠の元の持ち主であるミランテ夫人の懇意によるものである。
テオカを取り戻すために眩しき翼の王冠は盗賊集団の首領ウエスト・オリアイリの元に渡る。再び取り戻して教会で封印してもらうか、もしくは破壊してしまうのがミランテ夫人の意向だ。これまでに幾多の人々に不幸を振りまいてきた眩しき翼の王冠をこのままにしておくにはいかなかった。
ツィーネはミランテ夫人とどのような形で奪還すべきかを話し合う毎日を送っていた。そして出来るだけテオカの側にいてあげる。
ある日、面会者がツィーネの元に現れた。
「ザオさん、おかげでテオカを助けることが出来た。ほら、テオカ。挨拶とお礼をしないと」
ツィーネの背中に隠れながらも、テオカは森に住む男ザオにお礼をいう。
「よかったな。坊主。姉さんのいう事を聞くんだぞ。これはお土産だ」
ザオは腰を屈めてテオカの頭を撫で、果物の入ったカゴを抱えさせた。
居間を借りてザオの話を聞く事となる。
「あんたらの顔が見たかったのもあるが、パリに来たのにはもう一つ理由がある。スペクターのロジャー・グリムの事だ」
ザオの表情が険しいものに変わった。
生前のロジャーは宝飾品専門の泥棒であった。他の盗人を出し抜いて次々と宝飾品を手に入れていた凄腕である。単独で動いていたので正体が掴めず、ウエストも手を焼いていたようだ。
スペクターとなったロジャーは、他の幽霊も彷徨う森の奥で生前に集めた宝をひたすらに守り続けていた。
ツィーネは仲間の力を借りて宝の中から眩しき翼の王冠を探しだし、誘拐されていたテオカと交換したのである。
「森の外縁の集落は覚えているだろ? あそこでスペクター・ロジャーが現れて大暴れしたんだ。感化されたのか俺の昔の隣人であった森のレイス達も一緒にな」
「あの集落の人達にはいろいろと世話になっているのに。被害は?」
「幸いにいくつか建物が壊されて、怪我をした人がいた程度で被害はとどまった。一暴れした後で青白い炎の集団は夜空を飛んでいったよ。俺が思うには眩しき翼の王冠を追いかけていったんじゃなかろうかと。あんたのところに来なかったかい?」
「いいえ‥‥。あれからパリから離れて、しばらくルーアンに行ってましたので。今、眩しき翼の王冠はウエストの元にあるはず」
ツィーネはザオにルーアンで起きた顛末を話した。
「そんなに用心深い奴だったのか。それじゃあ、ウエストが何処にいるのかもわからないな。眩しき翼の王冠も行方不明ということか」
「ボク、知っているよ。ウエストのいるとこ」
ザオの一言に答えるようにテオカが呟く。驚きの表情を浮かべるツィーネにテオカが林檎を手渡す。
「捕まっていたとき、みんな怖かったけど、食べ物をくれたカミナお姉ちゃんはボクに優しかったんだ。カミナお姉ちゃんいってたよ。ヴェルナー領とマント領のあいだにウエストの一番の隠れ家があるんだって」
テオカはツィーネが拭いてくれた林檎にかじりつくのだった。
ザオが帰るとツィーネはミランテ夫人に相談をする。
スペクター・ロジャーの動きが気になるものの、ウエストから眩しき翼の王冠を取り戻すべく行動したいと。
翌日、冒険者ギルドに出向いたツィーネは依頼を出す。まずはウエストの隠れ家を捜しださなくてはならなかった。
●リプレイ本文
●心配
一日目の早朝、ツィーネはランタンを片手にロームシュト屋敷の地下に掘られた隠し通路を辿る。
眩しき翼の王冠を手に入れたウエストにとって、ツィーネと関わる理由はなくなっていた。しかし、今までのやり方をみれば、経過を知る者の口封じに動く可能性が非常に高い。見張りもいると考えての行動であった。
地上に出ても日の出間近で薄暗かった。ツィーネが路地を歩いていると近くに一両の馬車が停まる。
一瞬身構えるツィーネであったが、すぐに緊張を解く。
「乗ってくれ。ツィーネ・ロメール」
「エイジか。助かる」
ツィーネに声をかけたのは御者台に座るエイジ・シドリ(eb1875)だ。馬車は秘密裏にミランテ夫人が手配してくれたものだ。
「ツィーネ、ここに座るといいわよ。私はエイジの隣りに行くから」
シュネー・エーデルハイト(eb8175)が空けてくれた席にツィーネは座った。薄暗い車中、ヤード・ロック(eb0339)がとても残念そうな顔をしていたのを誰も知らない。
まずはパリを脱出する所から今回の旅は始まる。半日程走ってから小川が流れる草原で停車し、ようやく休憩となった。
「敵らしき人影はどこにもおらへんで〜」
シフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)が周囲を偵察して追っ手がいないのを確認してくれる。明王院月与(eb3600)とエイジの鷹も、空から見張ってくれていた。
「しまったんだな、と‥‥」
休憩ついでにお腹を満たす時、ヤードは気がつく。あまりに張り切りすぎて保存食を買い忘れてしまった事を。旅の途中で購入した保存食は少々割高であった。
「仲間の変装はヤードに任せよう。女性なら手伝えるので、手が足りない時は声をかけてくれ」
「リンカ、男の人が駄目なの? 難儀ね」
リンカ・ティニーブルー(ec1850)が銅鏡の見ながら変装する横でシュネーは自らの髪を梳かす。
今までにウエスト側と接触した仲間は何らかの変装をする。
「テオカに怖い思いをさせた落とし前はきっちりとってもらわなきゃね!」
「その通りだ。ティア、ますは隠れ家を探しだそう」
リスティア・バルテス(ec1713)とツィーネは並んで岩の上に座る。後ろに立ったヤードが二人の髪型をいじっていた。
先程までの落ち込みはどこへやら、ヤードは鼻歌を唄ってご機嫌であった。
「これ貸しておくね。リンカお姉ちゃん」
「すまない。これで探らせてもらう」
月与がリンカに貸したのはレミエラ付きの水晶のダイスである。魔力を消費して目を閉じれば感覚を鋭敏にする効果が見込めるものだ。
ここからは二手に分かれての行動となる。
馬車でこのまま移動を続けて調査をするのはエイジ、ヤード、ツィーネ、イフェリアのA班である。
別の移動する手段を持つシュネー、リスティア、リンカ、月与はB班だ。
それぞれに目指すはマント領とヴェルナー領の狭間周辺であった。
●A班
「では、あの町が手始めだ」
A班の仲間と相談し、御者のエイジが馬車を速める。
二日目の暮れなずむ頃、A班は目的地周辺の町を訪れた。
A班は幽霊退治の一行として行動する。その上でスペクター・ロジャーを含む幽霊集団の目撃証言を探り、ウエストの隠れ家を発見するつもりであった。
イフェリアは正体がばれていないのでそのままの姿である。
エイジは粗野な感じのファイター風情に変装した。
ヤードは耳を隠し、普段よりやぼったい恰好をしている。
ツィーネは麦わら帽子をかぶった普通の町娘姿だ。
(「リスティアもいないし、チャンスなのではっ‥‥」)
ヤードがツィーネをちらりと眺める。テオカが無事救出され、ツィーネの心にも余裕が出来たはずだし、何らかのアプローチをして平気ではないかと考えていた。
「だ〜いぶ♪」
「きゃあ〜!」
二つの黄色い声を耳にしてヤードがもう一度振り向く。
シフールのイフェリアがツィーネの胸元に飛び込んでいた。顎が落ちそうな程、ヤードは口を大きくあげてショックを受ける。
むにゅむにゅとイフェリアが首を左右に振った後で離れ、『おっしゃ! 捜索や〜』と叫んでから飛んでゆく。
「ツィーネ〜! ああ、うが〜〜〜!」
ヤードも真似をしようと馬車を飛び降りてツィーネ目がけて走ったが、エイジに足を引っかけられて地面の上でゴロゴロと三回転半だ。
「行くぞ。ヤード・ロック」
土煙の中に腕を突っ込んだエイジはヤードの首根っこを掴んで立ち上がらせる。普段は放っておくのだが、さすがに今回の出来事は美少女の味方であるエイジには見逃せなかった。エイジにとってツィーネも美少女の範囲である。
「ヤード、大丈夫か?」
「ツィーネは優しいぞ、と‥‥」
後ろをついてきたツィーネにヤードが涙ぐんだ。
ヤードとエイジは酒場に立ち寄ってて聞き耳を立てる。ツィーネは店の外で、イフェリアは上空で監視を行う。
訊ねる時は、ゴースト系アンデッドの話題だけにした。場合によっては酒を振る舞う時もある。
青白い幽霊集団の襲撃があったのなら、すぐに人々の噂になるはずだ。A班は半日程調べると別の町、村、集落へと移動する。上空のイフェリアと、ヤードのテレスコープによって、ぽつりとある一軒家などにも注意が向けられた。
二日に一度、A班とB班と接触して情報が交換される。その際、エイジと月与の鷹が目印として役に立つのだった。
●B班
「やけに煙草を吸っている者を見かけるな」
リンカは、ある村の市場で待機する。
煙草を吹かしている者だけでなく、市場にもかなりの乾燥された煙草の葉が売られている。どうやらこの近くは煙草農家が多いようだ。
鼻のよい愛犬二頭が少々可哀想であった。
市場の近くにあった酒場ではシュネーが情報集めする。
「一軒家ねぇ。この辺りは結構な数があるよ。村に入る途中で何も植えられていない畑を見かけたろ。あれは煙草の畑で、その為の作業小屋はあちこちにあるよ」
「中には大きい建物もありそうね。教えてくれてありがとう」
シュネーは店員や客などに疑われないように注意して質問をして酒場を立ち去る。
さすがに地方なので冒険者の集う酒場は存在しなかった。情報屋も簡単には見つからない。とはいえ酒場に噂話はつきものである。煙草農家は堅気だが、それを元締めとする者達はそうではないようだ。
「幽霊が暴れるだけ暴れてどうやらこっちの方面に飛び立ったらしいの。数が数だけに放置も出来ないって討伐をお願いされてるんだけど、何か変な噂とか知らない?」
「幽霊ねえ‥‥。聞いた事がないな。そこらのチンピラでも倒してくれるなら、幽霊でも大歓迎なんだけどね」
月与は市場の人達に声をかけて回る。A班と同じく、基本はゴースト系アンデッドを追っている集団として振る舞った。
リスティアは時折デティクトアンデットで周囲を探りながら、月与と同じく市場の人達に話しかけた。ハーフエルフの耳はヤードのおかげで完全に隠れている。
「大口の客なら、いくらか見かけるね。使用人みたいのが荷馬車でやって来て、大量に買ってゆく時があるよ」
「そうなんだ。お金持ちの別荘でもあるのかな?」
リスティアは大量の買い物をする外来の顧客がいないかを訊ねるのだった。
●集合
いくつかの情報が集まったところで、A班とB班は再集結した。
夜、月与の作ったシチューを頂きながらの会議となる。
ゴースト系アンデッドの目撃例はすでに刈り取られた煙草畑が多い地域にある。ただし二例のみの証言で、しかも両者とも目撃時には相当酔っていたらしい。
理由を問わずに近頃何らかの被害を受けた町や村、集落の噂はなかった。
もしもスペクター・ロジャーとレイス集団が近くに潜伏していたとしても、未だウエストの隠れ家を見つけていないのが推測される。
煙草の元締めが素性のよくない者達という情報に引っかかる冒険者も多い。もしかすると、ウエストの盗賊組織と繋がりがあるかも知れないからだ。
これ以上の聞き込みは怪しまれるとして、冒険者達は自分達の足で探す事にした。煙草畑が広がる地域は当初考えていた範囲の五分の一にあたった。
薄暗い林もあり、ランタンが必要な場合も多い。
眠る時は安全を考えて全員で集まって休んだ。
「ツィーネ! あれはもしかして‥‥ロジャー達?」
見張りをしていたリスティアが夜空を見上げる。
「あれは、間違いないな」
ツィーネも視認し、テントや馬車内の仲間を起こす。
暗闇の中に幽霊らしき青白い炎がいくつも飛んでいた。リスティアのデティクトアンデットによっても幽霊であるのが確かめられる。
「任してや!」
イフェリアが飛んで追いかけた。
他の冒険者達も馬への二人乗りや移動用アイテムを使って夜空を飛ぶ幽霊集団を追跡する。小回りが利きにくい馬車は使わなかった。
「こっちの林の奥や。結構大きな屋敷があったでぇ〜」
途中で見失うものの、戻ってきたイフェリアが導いてくれる。
「ちょっとだけ待つんだな、と」
ヤードはテレスコープを使ってイフェリアが教えてくれた林の中の屋敷を遠くから眺めた。たくさんの篝火が屋敷の周囲に置かれていたので光は充分に間に合う。
チンピラ風の屋敷の者達と幽霊達が戦っていた。屋敷の者達はかなりの統率がとれていて、見事な戦い振りである。
「ロジャーのスペクターがいるんだぞ、と。屋敷の奴らにも何人か精霊魔法が使える奴がいるぞ」
ヤードの実況を参考にしながら他の冒険者達は相談をする。スペクター・ロジャーが襲ったからといって、必ずしも屋敷にウエストがいるとは限らない。もっとはっきりとした情報が欲しかった。
「あたいが行って調べよう」
「リンカお姉ちゃんを補助するね」
リンカと月与が建物に近づいて調べる事となる。足音を立てず、身を隠しながら林の中をリンカと月与は疾走した。
(「並大抵の警護体制ではないな‥‥」)
混乱が起きている今だからこそ、屋敷に潜り込めたのをリンカは実感する。
レイスが衝撃を受けている様子からしても、殆どの屋敷の者は魔力が込められた武器を手にしていた。ヤードがいっていた通りに魔法を操る者もいる。
「ここで待って、見張っておくね」
月与はリンカが侵入した窓の外で待機し、いざという時に備えた。
リンカは誰もいない二階の小部屋に飛び込むと窓を開ける。そして感覚を鋭くするレミエラを目を閉じて発動させた。
「やはりロジャーは来ましたか。撃退しなさい。眩しき翼の王冠は誰の手にも渡すつもりはありません」
どれだけ離れた部屋から届いたかはわからないが、リンカは確かにウエストの声を聞いた。
確信を持つと、リンカはすぐに脱出をはかる。廊下にもたくさんの護衛が配置されていて、このままだと発見されるのは時間の問題であった。
「こっちだよ」
月与が屋敷から脱出したリンカを誘導する。幽霊集団が退却した事で戦いが終わり、屋敷の者達が元々の配置に戻ろうとしていた。
しかし、一つの青白い炎が林を駆けるリンカと月与を追いかけてくる。
「屋敷の者にはばれていない。このまま脱出するぞ」
リンカはレイスの意識を自分に向けさせる為に一度立ち止まって矢を放つと、再び走った。
「任せて、リンカ」
二人の状況を知ったシュネーが剣を抜いて構える。ツィーネも同じく魔剣を抜く。
リンカとすれ違った刹那、シュネーの一撃が追いかけてきたレイスに決まる。ツィーネは月与の盾となった。
「当たったか?」
木の上に登ったエイジが放ったアンデッドスレイヤーの手裏剣がレイスの額に突き刺さる。
「痛いで〜。覚悟しぃ〜や〜!」
イフェリアが用意していたアイスチャクラを投げまくった。
「どうか、心静かに‥‥」
最後はリスティアがピュアリファイで一気にレイスを浄化する。
危険が去った後で多くの冒険者が倒したレイスに対して祈りを捧げる。レイスは眩しき翼の王冠を探すのを手伝ってくれたザオのかつての隣人であった。
屋敷の者達に発見されないように、冒険者達は林を立ち去る。
滞在出来る最後の八日目は、遠くから林を監視するにとどめるのだった。
●そして
十日目の暮れなずむ頃、冒険者達はパリへ到着する直前に解散する事にした。すべてはウエストの監視から逃れる為であった。
ミランテ夫人からのお礼がツィーネから手渡される。馬車についてはエイジが戻してくれるという。
屋敷に盗賊組織の首領ウエスト・オリアイリが滞在している事は確かだ。ロジャー率いる幽霊集団によって身動き出来ないのはツィーネにとっても好都合である。
ただ、ウィザードを含めるウエストを取り巻く護衛達は、あまりに手強そうで課題として残った。
「誤解なんだぞ、と〜」
「何が誤解よ〜!」
解散の間際、ツィーネに抱きつこうとした一件がばれて、ヤードがリスティアに追いかけられる。
各自冒険者ギルドで報告をするのを残して、今回の依頼は終了するのだった。