●リプレイ本文
●パリ
朝早く集まった冒険者達は相談をし、ひとまず出発を半日遅らせた。用意もなく目的地に向かうのは得策ではないと判断されたからだ。
今回の依頼は宝飾品『眩しき翼の王冠』の奪回、または破壊が目的である。
一つはウエストの盗賊組織、もう一つはスペクター・ロジャーが率いる幽霊集団の二団体を相手にしなければならなかった。
エイジ・シドリ(eb1875)、リンカ・ティニーブルー(ec1850)、ヤード・ロック(eb0339)は市場へ買い物に出かけて大きめの布と桶、染料を用意する。染料を仕込んだ桶を馬車に運び込み、布を沈めて蓋代わりの板を載せておく。ある程度の時間を置いてから干すつもりである。目的地までは二日を要するので、その間に染め上げるつもりであった。
明王院月与(eb3600)は見送りに来た十野間空に料理のレシピを渡すと仲間と一緒に市場に出かけて、いくらかの食料を買い込んだ。染色もお手伝いをする。
出発前、十野間空とチサトが該当地域で採れた煙草ついてを話してくれた。ガラフも一緒に手伝ってくれたものだ。
パリでも該当する煙草はそれなりに流通しているようだ。ただし、短時間の調べなのでそれ以上の事はわからなかった。
冒険者達を乗せた馬車は出発した。
「昼はまだ暖かいが、夜は大分冷えるようになってきたな」
「気を付けなくてはな。ああ、それと林に近づいたのなら逃走ルートを調べて置きたい。手伝ってもらえるだろうか?」
愛馬・獅皇吼烈に乗る西中島導仁(ea2741)と馬車の御者をするエイジは併走しながら、依頼での注意すべき事柄を話し合う。
「向こうについたら、ティアも乗せてもらうのでよろしくね、シュテルン」
シュネー・エーデルハイト(eb8175)はグリフォンのシュテルンで空を飛んでいた。郊外に出たら低空で馬車に寄り添った。
馬車内にはヤード、月与、リンカ、リスティア・バルテス(ec1713)、オグマ・リゴネメティス(ec3793)、ツィーネの姿がある。
ヤードはいつものようにツィーネの隣りの席に座っていた。
「ツィーネ、ウエストとロジャーの事が一区切りついたら一緒に食事しないかな、と‥‥」
「今はウエスト側の監視の目があるから無理だが、片づいた後ならいつでも構わないぞ」
ツィーネの即答にヤードは狭い馬車内で走りだしそうな勢いで喜んだ。
「く、来るんじゃない! ヤード!」
「あ、すまなかったんだぞ。そうそう、これを渡すの忘れていたんだな、と」
リンカは男性に触られるといろいろと大変であるようだ。ヤードはリンカに触れないようエックスレイビジョンのスクロールを投げて貸す。
「ツィーネ、本当にいいの? きっとデートのお誘いだと思うよ」
ヤードの浮かれた様子を横目で見ながら、リスティアがツィーネに耳打ちをする。『そうか』と鈍いツィーネは気がつく。ただ単に二人で食べるだけとツィーネは考えていたようである。
「林に近づいてからが勝負です」
オグマは正面に座る月与に語る。アンデッド避けとなる魔除けの風鐸を活用して作戦実行時には馬車を幽霊集団から守るつもりであった。
「眩しき翼の王冠を手に入れないと何も始まらないもんね」
月与は元気一杯に両手をグウにしてポーズをとった。
夕方、馬車が停められて野営の準備が始まる。
「こうしておけば快適な睡眠ができるぞ」
西中島は焚き火の中に石を入れておき、取りだすと余った布で巻いた。これを懐に入れておくと暖かいので、仲間の分も用意しておく。すでに夜になれば寒さを感じる季節である。
「これを食べれば元気いっぱいだよ」
月与は身体が暖まる料理を作って振る舞った。問題の林に近づけば、食事も簡素に済ませる事になるだろう。その前のひとときだ。
大きな布は染めては干すのが繰り返される。林近くに到着する頃には、大分濃い色となるのだった。
●林
三日目の昼頃、一行は目的の林に近づきすぎない場所を野営の拠点とした。ウエストの手下に気づかれないように、木々に囲まれてひっそりとしている空き家が選ばれた。
アンデッド避けの魔除けの風鐸は目立つのて、作戦の時までは馬車に吊されない。天候についてはオグマのスクロールによって風が吹きそうな状況にシフトされる。
西中島は寝る前にオーラテレパスを使っておき、魔力の有効に使った。
脱出経路などの周囲の調査を行った上で冒険者達は待機する。
スペクター・ロジャー率いる幽霊集団がウエストの屋敷を襲った時が作戦実行の機会である。
冒険者達はすでに二手に分かれていた。
眩しき翼の王冠の奪取、又は破壊をする為にウエストの屋敷へと向かう潜入班は、エイジ、リンカ、オグマだ。
ロジャーとウエストの戦いをさらなる混乱に導く為の陽動班は西中島、ヤード、月与、ツィーネである。シュネーとリスティアも陽動班だが、眩しき翼の王冠を受け取るのが主な役目とされた。
ひたすらに幽霊集団が屋敷を襲うのを冒険者達は待ち続けた。監視において染色された布は姿を目立たなくさせるのにとても役に立つ。
林の中にある盗賊組織の屋敷の警備は厳重であった。
手下の殆どがゴースト系アンデッドに対抗し得る魔法武器を手にしている。精霊魔法を操るウィザード崩れの盗賊もいた。
絶えず巡回も行われており、警備に隙は存在していなかった。
ロジャー率いる幽霊集団を全滅させなければ、ウエストは今後も不自由を強いられる。ウエストの必死さが警備の状況から見て取れた。
日に日に、ウエストの手下の疲労が窺えた。冒険者達が知らない所で何度か攻防は行われていたのだろう。屋敷に少しだけだが破損があった。
滞在出来る時間も残り少なくなって冒険者達が焦り始めた頃、スペクター・ロジャー率いる幽霊集団の青白く輝く群れが夜空に現れるのであった。
●三つ巴
七日目の深夜、林の屋敷周辺では鐘の音と怒号が響き渡る。飛来した幽霊集団と盗賊の手下の戦いが始まったのだ。
ヤードのテレパシーによって作戦開始が仲間に伝えられる。
背を屈めながら、潜入班の三人が林の中の移動を始めた。離れた位置のヤードがプラントコントロールで林の中の植物を出来るだけ動かして道を作りだす。
インフラビジョンを付与したオグマはインビジブルホースに乗って、林の中を静かに先行した。潜入時だと目立ちすぎるとして魔除けの風鐸は馬車の守りに使われる。
いくら暗視が出来るからといって透明化した状態では視界は悪く、音をなるべく立てない意味でもゆっくりと進んだ。エイジとリンカは染め布を被りながら騎乗するオグマの後をついてゆく。
盗賊と幽霊の戦いは激しさを増していた。
幽霊に憑依された盗賊が仲間を不意打ちにする姿を横目に、潜入班は屋敷内部へと潜入する。
「戦いは避けたいものだが‥‥」
エイジは武器をマトックofラックからナイフに持ち替える。狭い場所ではナイフの方が役に立つ。
「前にウエストの声が聴いたのは、この部屋だ」
廊下を進むリンカがドアを指さしながら囁いた。屋敷内の廊下にも盗賊は残っていて、いつ接触してもおかしくない状況だ。
「この周辺にいるのは――」
オグマはブレスセンサーでウエストかも知れない何人かの候補を割りだす。
「これでよし」
エイジは簡単な罠を廊下に仕掛けた。
リンカはウエストらしき人物がいる部屋の前でエックスレイビジョンを自らに付与した。そして壁の向こう側を透視する
ウエストは眩しき翼の王冠を必ず側に置いているはずだとツィーネはいっていた。その言葉を信じて潜入班はウエストを探し続ける。
ちょうどその頃、陽動班は盗賊と幽霊の戦いに第三勢力として介入する。
天候が崩れて雨が降り始めた。
篝火が照らす真夜中、林の拓けた屋敷の周辺では三つ巴の戦いが繰り広げられる。
「貴様らに名乗る名前はない!!」
自らの志気を高めた西中島は霊剣を振るう。
「正しき心を持つ者は、貴様らのような悪党どもに何度踏みにじられても諦めず立ち上がる希望を持っている!」
西中島が切り伏せた盗賊が埃の臭いが立ちこめる地面へと崩れる。まずは幽霊ではなく、主に盗賊を敵とした西中島である。
「こっちだよ!」
構えた月与はソードボンバーでまとめて敵に手傷を負わせてゆく。
(「潜入班が入った窓の方には行かせないんだから‥‥」)
優先すべき潜入班の突入を悟られない事である。その為に月与は敵の注意を自らに集中させた。
「さて、少し派手目に陽動と行くかな、と」
ヤードはグラビティーキャノンを遠方から放って盗賊共を転倒させてゆく。陽動班前衛の援護である。
(「ツィーネ、後ろが危ないぞ!」)
(「わかった。ヤード」)
ヤードは後衛の護衛をかってでてくれたツィーネにテレパシーで状況を伝えた。テレパシーを使うのは敵に悟られない為だ。
「そろそろね、ティア」
「うん。今、デティクトアンデットをかけるから」
シュネーとリスティアは後方で待機していた。
潜入班を信じるならば、眩しき翼の王冠を手に入れている頃である。
ウエストに取り返される状況に陥ったり、スペクター・ロジャーの手に渡るようならば破壊を選択しなければならない。だが、依頼主であるミランテ夫人は出来れば教会への寄付を望んでいた。
これからの突入が全てを決める。
リスティアは夜空を漂う幽霊集団の位置と動きを把握すると、シュネーが駆るグリフォンの後ろに乗った。
屋敷の方角でファイヤーボムの火球が弾ける。それはオグマが出した眩しき翼の王冠奪取成功の合図であった。
「振り落とされないでね!」
「うん!」
シュネーとリスティアはグリフォンに乗って林の上空で風となった。雨粒が強烈に顔へ当たり、酷く痛いがひたすら我慢をする。
潜入班は屋敷内での戦いの末、屋根の上に登っていた。
「あたしが受け取るわ!」
「これだ! リスティア・バルテス!」
エイジが眩しき翼の王冠を高く掲げた。シュネーはグリフォンを操っているので、後ろに座るリスティアが手を伸ばす。
もう少しというところで、眩しき翼の王冠はリスティアの手に渡らない。突然現れた青白い炎に邪魔をされたのだ。
正体はスペクター・ロジャーであった。
「お前の敵はあたいだ!」
リンカが矢を放ち、スペクター・ロジャーを威嚇して隙を作る。
「今度こそ!」
何度かの失敗の後、リスティアはエイジから眩しき翼の王冠を受け取って抱きしめる。銀が使われていると狂化の原因になるのでリスティアはちゃんと手袋をしていた。
「先に!」
シュネーが手綱を使ってグリフォンを反転させる。そして一気にパリを目指す。スペクター・ロジャーは追いかけたが、グリフォンの速さには到底敵わなかった。
「もうここにいる意味はありません。階段から近づいてくる足音が聞こえます」
盗賊が追いかけてこないかを監視していたオグマが仲間に注意を促した。突入班の三人は屋敷の壁にある突起をうまく使って地面へと降りる。
「奴ら、どこだ!!」
手下を連れたウエストが屋根に到着した時、ちょうどスペクター・ロジャーが戻ってきた。
互いに眩しき翼の王冠を逃した悔しさを抱えるウエストとスペクター・ロジャーの空しい戦いが屋根の上で始まる。周囲を漂っていた幽霊も屋根の上の戦いに加わった。
エイジはヤードを探しだして眩しき翼の王冠の奪取成功を教える。テレパシーを通じて成功が仲間に伝えられた。
それぞれに林からの脱出を図り、馬車のある拠点の空き家で再集結する。シュネーとリスティアはパリのミランテ夫人の元へ向かっていることだろう。
魔除けの風鐸のおかげで馬車や馬を始めとするペット達も無事であった。
怪我をした仲間をリカバーで回復するとさっそく出発である。睡眠は走る馬車の中で順にとる事となる。
エイジが握る手綱がしなる。
朝日に照らされながら冒険者達を乗せた馬車はパリを目指すのだった。
●そして
八日目の夕方、馬車一行は先に戻った二人と合流する。
ミランテ夫人に本物の眩しき翼の王冠なのを確認してもらい、教会に寄付した事がリスティアから話された。
教会がウエスト、もしくはスペクター・ロジャーに襲われないかを心配する冒険者もいたが、それは大丈夫なようだ。
安易に手を出せばノルマン王国を敵に回す程の教会に納めたからだ。スペクター・ロジャー程度のゴースト系アンデッドでは近づく事さえ出来ないであろう。
これによって長く不幸を振りまいてきた眩しき翼の王冠は眠りについた。
だがウエストとスペクター・ロジャーが存在する限り、ツィーネとテオカの安全は危ういものであった。これまでの罪を償わせる意味も込めて、何とかしなければならないと冒険者の誰かが呟く。
シュネーがミランテ夫人から預かった追加の報酬とレミエラを仲間に分配する。
冒険者達はギルドへの報告の後、しばらく今後についてを話し合うのだった。