ロジャー・コレクション 〜ツィーネ〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月31日〜11月10日
リプレイ公開日:2008年11月08日
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●オープニング
女性冒険者ツィーネは仲間と共に盗賊組織の首領ウエスト・オリアイリの手元から宝飾品『眩しき翼の王冠』を奪還する。
元の持ち主であるロームシュト家のミランテ夫人の願いにより、すぐに眩しき翼の王冠は教会へ寄付された。
これによって長く不幸を振りまいてきた眩しき翼の王冠は無事封印された事になる。
問題はツィーネと少年テオカの今後であった。
ウエストはツィーネを付け狙ってくるだろう。逆恨みなのだが、非道な盗賊相手に正論をぶつけても何の意味もない。対抗出来る唯一の手段は実力行使のみだ。
昔、ロームシュトの家から眩しき翼の王冠を盗みだしたのは生前のロジャー・グリムである。今はスペクターとなって自分のコレクションに異常な執着を持っていた。当然、眩しき翼の王冠にも執心する。
スペクター・ロジャーはウエストの手に渡っていた眩しき翼の王冠を取り戻そうと、他の幽霊を引き連れて林の中の屋敷を襲った。結果としては、ツィーネと仲間に横からかっさらわれてしまう。その後、教会に寄付されてしまったのは前述の通りである。
正気ではないスペクター・ロジャーの行動を予想するのはとても難しいが、ツィーネを狙う動機は充分にあった。
これまでにウエストの盗賊組織の名称は、はっきりと判明していない。調査の最中にいくつかの名前が出てきたものの、毎回違うので特定出来なかったのだ。
小さな組織をたくさん従えていて、それを牛耳る形でウエストは君臨している。煙草を扱う組織もその一つであり、ルーアンでテオカを監禁していたのも、そんな中の一つに過ぎない。
ロームシュトの屋敷でツィーネは考え続けた。ウエストをおびき寄せるには何がいいのかを。
ツィーネはミランテ夫人を通じてヴェルナー領の官憲宛てにウエストの隠れ家を通報していた。しかし官憲が出向いた時にはすでにもぬけの殻であったらしい。
自分を餌にしてもウエストは手下に狙わせるだけだろう。用意出来る半端なお金ではウエストが動くはずがない。眩しき翼の王冠はあまりに精巧で偽物を作って誘いだすのも難しかった。
「眩しき翼の王冠には劣るかも知れないが‥‥、ウエスト自らが動くとすれば、後はロジャー・コレクションぐらいか」
幽霊の森の奥にスペクター・ロジャーが埋めた宝飾品コレクションが眠っている。ウエストもかつてロジャーの足取りを追って森の外縁まで辿り着いたが、奥には意識が向かなかったらしい。
ウエストが森の中にロジャーコレクションが埋まっているのを知った時はすでに手遅れであった。自らが滅ぼした村人が幽霊として徘徊し、容易には入れない森と化していたからである。
しかし未だロジャーとレイスの幽霊集団は戻っていないと、ツィーネはザオからの手紙を受け取っていた。
「このチャンスに賭けてみよう」
ツィーネはミランテ夫人に事情を話して協力してもらう。まずは屋敷の使用人を使って森に幽霊が戻っていない噂を流してもらった。
ツィーネは冒険者ギルドで集めてもらう仲間と共に幽霊の森へと出向いて、訪れるであろうウエストと手下を迎え撃つ用意であった。
●リプレイ本文
●パリ
一日目の早朝、冒険者達は目立たぬように待ち合わせの空き地へと集まった。
「頼めるか?」
「うわさを流すのです。わかりました」
エイジ・シドリ(eb1875)は妹のエフェリアに作戦の一端を託す。パリで噂を流す挟撃班の補助をするのがエフェリアの役目である。
「これは、どういう事なのでしょうか」
兄妹の近くではリアナが未来予知を行っていた。
ツィーネとウエストについては意味がわからずとも何らかの未来が見える。しかしロジャーについては青白い炎が闇に存在していただけであった。
冒険者達は二つの班に分かれる。
ロジャー・コレクションを掘りだす行動をし、ウエストの焦りを誘うのが誘出班である。
ツィーネ、エイジ、西中島導仁(ea2741)、ヤード・ロック(eb0339)、シュネー・エーデルハイト(eb8175)、オグマ・リゴネメティス(ec3793)、リスティア・バルテス(ec1713)が誘出班となる。
ウエストを焦らせる噂を流したり、森周辺の人々の安全を促すのが挟撃班の役目だ。これはリンカ・ティニーブルー(ec1850)と明王院月与(eb3600)が任された。
「どうしても私達が着いてからでは時間が無い。お願いできないか?」
先に森へと出発する誘出班のツィーネにリンカが説得を頼んだ。
これまでに馬車を預かったりと協力してくれた集落の人々を危険な目に遭わせる訳にはいかなかった。かといって、突然に集落を離れろといって素直に聞いてくれるとも思えない。それでもツィーネは引き受けた。もうウエストによって流される涙は見たくないと。
ミランテ夫人の厚意によって馬車は用意されていたものの、出来る限り早い到着をする為に各自がとれる移動手段が用いられる。
西中島は韋駄天の草履。エイジはヤードから借りたフライングブルーム。シュネーはグリフォン・シュテルンに騎乗。オグマは愛馬テルプシコラで駆ける。
ツィーネが御者をする馬車にはヤードとリスティアが乗り込んだ。冒険者達のすぐには使わない重たいアイテムが馬車に預けられる。
挟撃班のリンカと月与は遅れてパリを出発するが、二人ともセブンリーグブーツを準備済みである。
誘出班の出発を見送った挟撃班とエフェリアは、目覚めたパリの雑踏に紛れてゆくのだった。
●誘出班
「ツィーネ、いよいよね! 気持ちはわかるけどあんまり気負わないでいきましょ!」
「そうだな、ティア。慎重に、だが確実にいかないと」
御者をするツィーネの横にリスティアが座ったまま、馬車は幽霊の森を目指す。馬車より早い手段を持つ誘出班の仲間達は前もっての準備をする為に先行していた。
「絶対にとっつかまえてやるんだから!!」
リスティアはツィーネを諭しながらも自らが気負っている。特にテオカを誘拐して駆け引きに使ったウエストが許せなかった。
「リスティア、そろそろツィーネの話し相手、交代してあげてもいいんだぞ、と。寒いし」
まるごとすくろーる姿のヤードが馬車内の窓から何とか顔を出す。今回、御者のなり手がツィーネの他にいなかったのはヤードにとって大いなる誤算である。
「ありがとう。でも大丈夫よ」
防寒服に身を包んでいるリスティアが振り向いてニコリと笑う。交代するつもりはないようだ。
「とにかく、ウエストとの腐れ縁をこれで終わりにしないとな、と。気合入れるとするかな」
「期待しているぞ、ヤード。でも無理しないでくれ」
ヤードは無理な体勢が我慢できなくなるまでツィーネに話しかけた。その後は仕方なく馬車内で昼寝をして時間を潰す。
馬車が到着するのは二日目の夕方になる。
二日目の早い時間には先行した誘出班が森外縁にある集落近くに到着していた。
「偵察しながら、飛んでくるわ」
シュネーはわざと目立つようにグリフォンで大空を舞う。ウエストの盗賊組織の誰かが見かけたのなら焦るように。
「これをもっていった方がいい」
西中島がシュネーに持たせてくれたのは焼いた石を布で巻いたものだ。季節は冬といってよく、防寒の用意もなしに空を飛ぶのはとても辛い。
「これでいい」
エイジは森の浅い所で罠作りをしていた。
植物や持ってきたボロ布を使って、かかった者を苛立たせるような罠を仕掛ける。集落の人々には教えておいた。もしもかかったとしても命に別状はないものだ。
「北側は終わりました」
オグマもエイジと同じように罠を仕掛けてくれる。ウエストの盗賊組織が冷静さを失ってくれればしめたものである。
集落を守る意味を含めて誘出班は馬車の到着を待った。到着するとツィーネが集落の長と面会する。
三日目の朝、誘出班は森の奥へと出発した。幽霊が徘徊していないので、飛行動物や飛行アイテムを使って一気に空から進入するのだった。
●挟撃班
パリに残った挟撃班の月与とリンカは変装をした上で様々な場所に顔をだして噂を流す。エフェリアの力も借りてウエストを揺さぶる。
いつもは幽霊が徘徊していて立ち入られない森が何故か安全であり、その隙をついて財宝探しを行おうとする輩が現れたなどを吹聴する。
ミランテ夫人のロームシュト家の使用人が既に流していた噂に具体名などを補完して、もっともらしく仕立てた。
ただし、大きな問題がある。
パリで噂を流せば確かにウエストの組織と繋がりのある者の耳に届くだろう。元々ロジャー・コレクションに興味があったウエストが知るのにも大した時間はかからないはずだ。
しかしウエストの居場所は不明である。組織の者を発見したとして、ウエストにまで辿り着ける可能性は非常に低い。
とどのつまり、幽霊の森周辺を見張るしかウエストを発見する術はなかった。
二日目には月与とリンカはパリを出発する。
愛犬や鷹にも周囲を警戒してもらい、早くウエストの存在を確認するように努めた。
「ウエストが来るとすれば、この道だと思うのだが。他の道には風歌と黒曜に監視させてあるので、洩らすつもりはない」
森に至る道近くでの監視をリンカに任せ、月与は三日目の昼頃集落を訪れる。誘出班は森へと出発済みである。
「この機を逃すと執念深い凶賊に何時までも狙われ続けちゃうよ」
月与は集落の長の説得を試みる。
ツィーネによって話は通っていたが、長く集落を空ける訳にはいかないと集落の長が難色を示す。夏と秋に蓄えたばかりの食料を置いて集落を離れる事は難しいからだ。
集落の人々にとって盗賊も飢えも死という意味では同じである。盗賊相手ならば、抵抗すれば撃退出来るかも知れないという一縷の望みも残っている。
結果、集落の長はウエストの盗賊組織がやって来るのがわかった場合、三日間だけは集落から離れるという約束を月与と結んだ。
月与は鷹に結びつけるスカーフの色が示す危険の意味を集落の人々に教える。つまりウエストが近づいてきた時の連絡である。
月与はリンカと共に監視に戻った。
そして挟撃班の二人がウエストの盗賊組織と思われる馬車群を発見したのは、五日目の昼頃の出来事であった。
●誘い込み
森外縁に住む人々は一時的に退去して、集落はもぬけの殻となる。
盗賊集団は立ち寄って不思議がるものの、すぐに森へと向かった。グリフォンに乗るシュネーの姿を見かけたからである。
盗賊集団にはウエストの姿もあり、挟撃班による誘き出し作戦は成功した。後はより有利に盗賊集団の討伐をするかだ。
リンカが探ったところ、盗賊集団の数は二十五人。武器や装備の他に何本かフライングブルームを所有しているが、全員分はないと判断される。
(「こっちよ」)
空飛ぶ盗賊の偵察が追いかけてきたのでシュネーは気づかぬふりをして追跡させる。向かったのはスペクター・ロジャーが棲んでいた窪地ではなく、嘘の発掘現場である。
本物の箱を一つだけ掘りだして移動させ、そして周囲にたくさんの穴を掘ってそれらしく偽装していた。
偵察の連絡を受けて盗賊集団は森に入る。
間もなく、エイジとオグマの仕掛けた罠で盗賊集団は四苦八苦した。足を引っかけて転んだり、しなる枝で顔を強く叩かれたりする。幽霊がいないとはいえ、見知らぬ薄暗い鬱蒼とした森での罠は非常に厄介であった。
全員が空を飛べない以上、盗賊集団は森の中を徒歩で移動するより他に方法はなかった。
挟撃班はこっそりと盗賊集団を追跡する。敵は盗賊であり、隠密にも長けているので油断は禁物であった。
ちなみに森の中の住処を発見されても大丈夫なように、冒険者達はザオに連絡を入れてある。しばらくは避難してもらっていた。
「ここですか‥‥。掘っていたという奴らはいませんね」
六日目の夕方、部下を引き連れたウエストが発掘現場に立つ。
たくさんの穴が周囲にはたくさんあり、その中に空になった箱が一つだけ残っていた。箱の底にたまる泥を払いのけてみると、金細工のペンダントが見つかる。
「眩しき翼の王冠には劣りますが、確かにロジャーが目をつける程の逸品です。せめてこれらを大量に手に入れないと気がすみません‥‥。ツィーネ、どこにいるのかは知らないが、許しはしない。簡単には殺さない‥‥。せいぜい楽しませてもらわないと」
ウエストがわずかに夕日が落ちる森の中で呟いた時、どこからか悲鳴があがるのだった。
●薄暗い中での戦い
「貴様らに名乗る名前はない!!」
真っ先に盗賊集団に斬り込んだのは誘出班の西中島であった。時折夕日に反射して霊剣は七色に輝く。
まず狙うはウィザードである。魔法というのは敵に回すととても厄介なものだからだ。
「背中は任せろ!」
ツィーネは西中島が後ろから狙われないように戦う。しかし常にウエストの存在を忘れてはいない。
(「がんばってね、みんな」)
リスティアはホーリーフィールドをいくつも張って安全地帯を作り上げる。その中には後衛のヤードの姿もある。
「やれやれ、お客さんのようだな、と。そこなんだぞ」
プラントコントロールで大木の枝を動かして、ツィーネの援護を行う。軽く足止め出来れば、その後はツィーネか西中島が始末してくれた。
急襲にあった盗賊集団の動きには統率感がまったくない。ウエストは何とか体制を整えようとする。
(「そうはさせない」)
エイジは魔法詠唱を始めた盗賊側のウィザードを発見するないなや縄ひょうを投げて腕に巻き付かせる。そのまま引いて転倒させた。
「痛!」
どこからか放たれた矢を肩に受けてウエストは声をあげた。何かの影に隠れようと退くと、それには霧が立ちこめていた。
矢も霧もオグマが仕掛けた事である。
「ここは一時撤退を」
ウエストはフライングブルームを部下から奪い取って発動させた。
ふわりと浮かび上がり、そのまま森の上空へ脱出しようとした時、背中に衝撃が走ってバランスを崩す。そして木々の枝を身体で叩き折りながら地面へと叩きつけられる。
「一人だけ逃げようなんて、卑怯な奴ね。もっとも行動が読みやすかったけどね」
ウエストを叩き落としたのは森の上空でグリフォンに跨って待機していたシュネーであった。
「いいから逃げろ!」
全滅の危険を感じたウエストの部下共はウエストの命令を待たずに逃げだした。
身を潜めていた挟撃班はわざと敗走するウエストの部下共を見逃す。今はウエストを仕留めるのが先である。
(「ウエストを見つけたよ。リンカお姉ちゃん」)
月与がリンカに合図を送ると、ウエストの退路になりそうな位置に立った。
(「ウエスト、逃がしはしない!」)
リンカの矢がウエストの足に突き刺さる。ウエストは積もった枯葉の上に転がった。
「ウエスト!」
飛びだしたヤードが振り切った拳は、立ち上がろうとしたウエストの頬を歪ませる。ウエストは再び倒れ、枯葉が周囲に舞い上がる。
「テオカの命をよくも危うくしてくれたな!!」
ツィーネは魔剣を振り下ろす。血飛沫が枯葉に一筋の道を作り上げた。何かを呟こうとしたウエストの喉元にツィーネは切っ先を立てる。
激しい怒りにツィーネは震えていた。ウエストはやがて動かなくなる。
「これは‥‥。幽霊が近づいて来てるみたい!」
リスティアが念の為にかけておいたデティクトアンデットで感知する。どうやら森の幽霊達が戻ってきたようだ。
「ひとまずは、こちらに」
オグマが準備の時間を稼ぐ為に、魔除けの風鐸が設置してある木の下へ仲間を導いた。
そして持ち寄った飛行アイテムや、グリフォンを駆るシュネーの後ろに乗せてもらい、幽霊の森からの脱出を図った。
まとわりつくレイスはいたが、森の上空を過ぎるとそれ以上は追ってこなかった。
冒険者達は地上に降りて日が沈もうとする薄暗い空を見上げた。青白い炎が次々と森へと飛び込んでゆく。
(「ロジャーはいないみたいだけど‥‥」)
仲間よりも長く注意していたリスティアだったが、スペクター・ロジャーの気配は感じ取れなかった。
●そして
冒険者達は誰もいなくなった集落に滞在してしばらく森を見張った。
逃げたはずのウエストの部下は誰一人として森の外には現れない。どうやら戻ってきた幽霊にやられたようである。
八日目の夕方、集落の人々が避難先から戻ってきた。預けていた馬車や馬を含めるペットも戻り、冒険者達は一安心をする。
九日目の朝、冒険者達は集落を後にした。十日目の夕方、パリに入る前にツィーネは馬車を停める。
「このまま財宝を屋敷に持って帰ったら、ミランテ夫人に迷惑がかかる。教会に寄付するのかどうかも決めてこなかったからな。しばらく迷惑がかからない場所に隠れるつもりだ」
ツィーネの言葉に仲間は驚いたものの、いわれてみればその通りである。
眩しき翼の王冠より価値が落ちる箱一つ分の財宝とはいえ、スペクター・ロジャーが取り戻そうとする可能性は充分にあった。
「何かしらの連絡方法を見つけてミランテ夫人と相談する。ギルドに依頼を出した時には協力して欲しい」
ツィーネは仲間が下りた空の馬車を動かし、パリとは別の方角へと去ってゆく。
その後、ツィーネを除いた冒険者達はパリに到着してギルドで報告をする。待機していたミランテ夫人の使いの者にツィーネからの伝言を託す。
使いの者からお礼のレミエラをもらった冒険者達は、ツィーネを心配しながらも解散するのであった。