●リプレイ本文
●出発
早朝のパリの船着き場。
まずはツィーネと一緒にオーステンデ行きの帆船へ乗る冒険者が次々と集まっていた。
「いつもテオカは自宅で遊んでいるはずだ。近所の親切な人達が見張ってくれてるし。それではよろしくな」
「はい。テオカさんを送ります」
エフェリア・シドリはテオカと手を繋いで船に乗り込むツィーネと兄を見送った。兄とはエイジ・シドリ(eb1875)の事である。
「お土産買ってくるからね〜♪」
「ホント? 楽しみだよ〜♪」
すでに帆船へ乗り込んでいた船縁のリスティア・バルテス(ec1713)がテオカとエフェリアに手を振る。
(「俺もテオカにお土産を考えておくんだぞ、と」)
リスティアの隣りにいたヤード・ロック(eb0339)も船着き場を見下ろした。
「船で三日、更に馬車で一日か。船はいいとして馬車での道は覚えておきたい。地図でも描いておくべきか」
「あらかじめ地図が手に入ればそれに越した事はないが‥‥。オーステンデに着いたら、城からの迎えの者がいるはずだから聞いてみよう」
エイジとツィーネが甲板で話していると、空から近づく影がある。
「めっちゃお久〜なんや〜♪ 元気しとった? ツィーネはん、うちのこと覚えとるかいのぅ?」
「もちろん覚えているさ、イフェリアさん」
頭上に浮かぶシフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)の訊ねにツィーネは自信ありげに頷く。
「そや。しふレンジャーのイフェリアやで。うれしゅうて、こうせずにはおられんのや〜!」
「ちょっと、イフェリアさぁん!」
イフェリアはツィーネの胸元に飛び込むと『にしし〜』と笑う。その様子を間近で目撃したエイジは瞬きもせずにしばらく呆然としていた。
やがてパリに響く教会の鐘の音を合図に帆船が動き始める。ゆっくりと船着き場を離れてセーヌ川の下流を目指してゆく。
「ロメール殿。顔が赤いが、もしや風邪か? そうなら早めに休んでオーステンデに着くまでに治した方がいいぞ」
「い、いや何でもない。ありがとう心配してくれて」
ツィーネの顔の赤さが気になった西中島導仁(ea2741)である。それからしばらく二人は川面を見ながらアンデッドについて話し続けた。
「領主から手紙が届くなんて、随分と死霊退治で名が売れたものね」
「そうかな?」
ツィーネが食堂室に入るとシュネー・エーデルハイト(eb8175)が隣りに移動してくる。リスティアも一緒だ。
「ホント、ツィーネって有名人なのね〜」
「ティアまでそんな。恥ずかしくなるじゃないか‥‥」
シュネーとリスティアの言葉にツィーネは照れていた。
「何が起こってもいいように用意は必要ですね。それとティアさん。バティ領を統べるファントムのカーデリ・ダマーについて何か知っていますか?」
オグマ・リゴネメティス(ec3793)が皿が乗せられたトレイを持ってツィーネ達のテーブルと同席する。
「あたいも興味あるね。そのファントムは強いのだろうからな。それ故に領主のアンゼルムに安易な回答をしてしまったら、こちらが身を滅ぼしかねないぞ」
リンカ・ティニーブルー(ec1850)も仲間と同じテーブルについて、リスティアを見つめた。
「カーデリは知らないけど、アンデッドのファントムとしてなら。‥‥確かとてつもなく厄介な存在だったような――」
リスティアはファントムについて知っている情報を仲間に教えた。この場にいない者には後でツィーネが伝える。
ファントムはこれまでにツィーネが戦ったゴースト系アンデッドよりも上位の存在でより強く、憑依を得意とし、空も飛ぶことも可能だ。
これだけだとこれまでの敵と大差ないように思えるが、一番の特徴は生前の正気を保っている可能性が高い事にある。
強い恨みを持ってこの世に留まっているのにも関わらず理性を保ったアンデッド・ファントム。リスティアは強敵だと語った。
「ツ、ツィーネ、大丈夫なんだぞ、と!!」
「どうした? ヤード?」
突然、ものすごい勢いで食堂室に入ってきたヤードがツィーネの両肩を掴む。
「ヤード・ロック! 話は最後まで聞くものだ」
追いかけてきたエイジが、ツィーネにイフェリアが抱きついた件を正確に伝える。どうやらヤードは勘違いをしたようだ。
「堪忍してぇなぁ〜♪」
「人騒がせなんだそ、と」
イフェリアを発見するとドタバタと小一時間追いかけ回したヤードである。
時は流れて三日目の宵の口、一行を乗せた帆船はオーステンデに入港した。
●城下町カノー
四日目の朝、ツィーネ一行はブノイル領の馬車を中心にしてブノイル領を目指した。そして夕方、山裾に広がる城下町カノーの城塞門を潜り抜ける。
道中エイジは護衛の兵士にもらった地図に自分なりの目印を描き込んだ。これがあれば道案内がいなくてもオーステンデからブノイル領に辿り着けるはずである。
ヤードはツィーネの側でいろいろと話し込んだ。
仲間達の多くはアンデッドが徘徊しているというバディ領を話題にする。
シュネーは愛馬ヒューゲルで同行し、グリフォン・シュテルンを低空で同行させる。オグマは愛馬テルプシコラで地上を、西中島はペガサス・光刃皇で空から馬車を追いかけた。
「停めてくれ!」
馬車窓から町の景色を見ていたツィーネが叫ぶと御者が手綱を引いてくれた。馬達が嘶きながら馬車は停まる。
ツィーネが魔剣を携えて馬車を飛び降りる。仲間達も馬車を降りて夕焼け空を見上げると青白い炎が三つ漂っていた。レイスである。
すぐに町の人々も気がついて逃げ惑う騒ぎとなった。
「そこ!」
リンカが放った魔弓の矢はレイスAの肩に深く突き刺さる。
「もう大丈夫よ。ほら、立って」
リスティアは転んで泣いている子供に近づいてなぐさめた。手元にはオーステンデ出発の時から用意しておいたホーリーライトの球が輝きを放つ。アンデッドを退ける効力を持つ聖なる光である。
さらにレジストデビルを仲間に付与してゆくリスティアだった。
「この馬車の周辺にアンデッドは近づけません! こちらへ」
オグマは魔除けの風鐸を吊した馬車周辺に町の人々を呼び寄せた。風に揺れて風鐸の音色が響き渡る。
「悪霊はこっちこんとき! みなはんは、はよ、仲間んとこへいってや〜」
イフェリアはスクロールで作り上げたチャクラムの投げて複数のレイスを牽制する。戻ってきたチャクラムを指先で受け取っては投げるを繰り返す。
「この町はいつもこうなのか?」
銀のナイフから弓に持ち替えたエイジは魔力を帯びている稲妻の矢でリンカと同じ空中を漂うレイスAを狙う。
「ツィーネ、木箱が積まれた辺りに逃げ込んだんだぞ、と!」
ヤードはスクロールでムーンアローを放ち、見失ったレイスBの居場所を突き止める。
「助かる!」
ツィーネが空の木箱を蹴り上げてレイスBを発見すると魔剣を振り下ろした。
「あとは‥‥?」
レイスBに止めを刺した後でツィーネは建物の屋根を見上げた。ちょうどレイスAが消滅する瞬間であった。
そしてグリフォン・シュテルンのシュネーと、ペガサス・光刃皇の西中島が高度を飛ぶレイスCを追いつめる。
「このような場所に彷徨うなど!」
西中島は霊剣の重量を勢いに乗せてレイスCに叩きつけた。
「これまでのレイスよりり少し強い感じがしたけど、これでお終いね」
シュネーが止めを刺すと青白い炎のレイスCは茜空で四散する。
一行が町の人々に感謝されている間に日は落ちる。宵の口、一行は町の中心にある城へ到着した。
●土地の歴史
城で一晩を過ごした一行は五日目の昼頃、領主アンゼルム・ブノイルと謁見する。オグマは参加せずに城の庭で警護を行う。
「さっそく本題に入らせてもらおうか」
アンゼルム領主は八十歳を越えた老齢である。席へつく前に杖を突いて歩いていた姿はとても弱々しかった。
これから話す内容は重大な秘密なので、配下の者達の耳に届かせたくはないとアンゼルム領主は呟いた。その理由で謁見用の広間ではなく、小さな個室が選ばれたようだ。
問題のゴースト系アンデッドが占拠する通称バティ領は、ブノイル領の中心に位置している。山に四方を囲まれた盆地であり、石造りの廃墟の町が存在する。
「領地の名は様々に変わったが、わが血族がほとんどの時代、この周辺を統治しておる。神聖ローマ帝国が支配していた時のように外部からの侵攻もあったが、大抵は変わりはしなかった‥‥。変わったとしてもすぐに撤退をして元に戻った‥‥。為政者からすれば、あまりに田舎で、そしてバティ領の存在が統治の興味を削いだのであろう。税を納めるのを条件にこの地を治め続けたのだよ、ブノイル家は。そしてバティ領が誕生してしまった理由もまた、わが血族と関係があるのだ‥‥」
アンゼルム領主は瞳を閉じて話しを続ける。
「アンデッドの領地、バティ領を治めるのはカーデリ・ダマーというファントム。遙か昔、彼女はこの地を治めるダマー家の当主であったと文献に残っておる。そしてブノイル家はかつてダマー家の分家であった」
「それは? 分家のブノイル家がなぜこの地を治め続けているのです?」
目を開いたアンゼルムが疑問を投げかけたツィーネの瞳を見つめる。
「‥‥遙か昔、本家のブノイルと分家のダマーの間で火花が散った。つまり血族の間で権力争いが勃発したのだ。最終的には武力を伴った形で。結果はわがブノイル家が勝利し、ダマー家は滅ぼされた‥‥。しかしそれから大した月日も経たないうちにカーデリが悪霊ファントムとして復活する。ダマー家の者や配下、そして戦いに巻き込まれて亡くなった領民なども悪霊として蘇り、そしてブノイル家は山に囲まれた統治の地を追いだされた。時が流れても、あの土地だけはバティ領と呼ばれ続けて今に至る。これが真相だ」
アンゼルム領主の説明が終わると冒険者側がいくつか質問をした。
兵士達には対アンデッド用の装備をさせているが、あまりに神出鬼没なので対応が遅れることがままあるらしい。昨日一行が出くわした件もそのような中の一つである。
バティ領にいるのはゴースト系アンデッドのみ。ズゥンビ系のアンデッドはこれまで目撃されていない。
アンゼルム領主はツィーネ一行の他に専門家をもう一集団頼むつもりだと語る。それぞれの成果を計る為に引き合わせるつもりはないと付け加えた。
「わしの望みはバティ領の消滅。もしくは以前のように山を境界にして互いに不干渉の状況に戻す事。その為に力を貸して欲しいのだ」
アンゼルム領主は一行の代表であるツィーネに引き受けるように願った。
ツィーネは仲間の助言もあって、この場での返答は控えさせてもらった。パリに戻ってから手紙で意志を伝える事にする。
「ここで聞いた事は他言無用にしてもらおう。引き受けても、そうでなくても守ってもらいたい」
アンゼルム領主の言葉を最後に謁見の時間は終わった。
帰り際、領民を助けてくれたお礼として一行に報償が贈られる。その中にはリンカとエイジが消費した矢類も含まれていた。
●帰路
冒険者達は九日目の朝まで城に滞在しながら町や周辺の土地を調査した。
酒場や料理店で耳にした話では山に近づくにつれてアンデッドと接触する危険が増えるらしい。そして危険なのを知っていながらバティ領に近づく者がいるという。大量の金がバティ領に眠っているという伝説があるせいだ。
欲に目が眩んだ者達がいるせいで、いつまで経ってもバティ領のアンデッドの数は減らないとも噂されている。
丁寧に探したものの、アンデッドと戦える道具類を扱う店は城下町カノーにはなかった。兵士達が身につけているアンデッド用の武器防具は他の土地から取り寄せているようだ。
カノーには教会が一軒あり、何人かの冒険者が滞在期間中に訪ねる。聖水類は用意されていたが、一般に分けられる程の量はなかった。アンデッドについてはリスティアの知識以上のものは得られずに終わる。
城下町カノーを後にした一行はオーステンデで一晩を過ごし、十日目の朝に帆船へと乗り込んだ。
天候が崩れて揺れる中、冒険者達は一室に集まる。
「町の人々は比較的穏やかな方が多いように感じました」
オグマは城下町カノーの印象を語る。よそ者に対する嫌悪感も少ないように感じられた。スクロールのリヴィールエネミーの反応もそう示していた。
「もう一集団頼んであるところからすると‥‥私達が捨て石の可能性もなきにしもあらずね」
「それは俺も感じたな。ロメール殿はどのように受け取ったのだ?」
シュネーと西中島はベットに寝ころぶツィーネに訊ねる。
「もうしばらく考えてみるつもりだ。放っておく訳にはいかないが、かといってアンゼルム領主の物言いが少々気にかかる‥‥」
ツィーネは寝返りをして二人に顔を見せてから答える。
「それがいい。何事も余裕がないとな」
リンカがベットに腰掛けるとツィーネに微笑んだ。
「敵はゴースト系アンデッドのみのようだな。それならこれまでの戦い方もある程度通用するだろう。問題は数か‥‥」
エイジは効率的な罠や道具が作れないものか思案をしていた。
「あたしの方がいいわよ〜。絶対」
「そんなことないぞ、と。こっちの方がうまいんだぞ、と」
リスティアとヤードがお互いに包みを持って言い合いをする。両者ともテオカへのお土産としてチーズを買ったのだが、テオカがどっちを気に入るかで揉めていた。
「きっと両方美味しいって頬張ると思うぞ」
ベットから上半身を起こしたツィーネが肩をすくめながら笑う。テオカの代わりに感謝しながらチーズを預かるツィーネである。
「ええ加減に助けてやぁ〜〜。息苦しゅうてかなわんわぁ〜」
船室の片隅では毛布で厚く巻かれ、ロープで縛られたイフェリアが転がっていた。ツィーネだけに飽きたらず、女性陣全員の胸でむにゅむにゅした罰であった。
しばらくしてからツィーネがロープを解いてくれた。
やがて海は終わって帆船はセーヌ川を上り始める。十二日目の夕方にパリの船着き場へ入港する。
冒険者ギルドにはエフェリアからエイジ宛ての手紙が預けられていた。残念ながらブノイル領でのアンデッド退治の話はパリで見つけられなかったようである。
次までに結論を出しておくと言葉を残してツィーネはギルドを去った。