ウーバスの凶行 〜ツィーネ〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 1 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月06日〜12月12日
リプレイ公開日:2007年12月14日
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●オープニング
『自分の命と引き替えに殺した奴はいるのか?』
レイスのウーバスは人に取り憑いて、真夜中の道で問いかける。自らの魂をも燃やし尽くしそうな恨みの業火を胸に抱く者を探す為に。
肯定する者は何度も何度も、想像の中で、夢の中で、恨む相手を殺していた。すでに自分の命を投げ捨て、殺したと錯覚する程に。かつてのウーバスがそうであったように。妹のエフーナがそうであったように。
後は肯定する者が実行しやすいような一押しをウーバスは行う。それは言葉であったり、実際に相手を誘いだしてやるなど方法はいろいろだ。
否定した者は、ただの迷い人だ。悲しみを背負う前にこの世から消えた方が幸せだ。ウーバスはそう考えて殺してあげた。
ある時、妹のエフーナが消し去られた事をウーバスは知った。それがエリクの息子、ハインツ・ベルツの仕業だという事も。
「うるさいな。誰だまったく」
自宅にいた女性冒険者ツィーネは激しく叩かれるドアに振り返りながら呟く。
「誰だ! この真夜中に」
「わたしです。ハインツです」
「いくらなんでもこんな時間に訪ねてくるなんて失礼だぞ!」
「すみません。緊急の事態なので‥‥」
「緊急?」
ツィーネは仕方なくドアを開ける。部屋に入ってきたエルフの少年ハインツは怪我をしていた。いつもの護衛の者も血だらけの格好であった。
「どうしたんだ!」
「ウーバス‥‥、いやウーバスに取り憑かれたウィザードが屋敷に侵入して吹雪を起こしてめちゃくちゃに。ウィザードは取り押さえましたが、ウーバスは逃亡しました」
「吹雪? きっとアイスブリザードだな。それは」
「ツィーネさんの身が心配でとりあえずやって来たのですがご無事で何よりでした」
「心配してくれた事は感謝するが‥‥つけられてはいないか? ウーバスに」
ハインツは瞳を大きく見開いた。
「もしや‥‥いえ、つけられていると考えた方が自然です。迂闊でした」
「こうなっては仕方ないな」
ツィーネはベットで寝ていた六歳の男の子テオカを起こす。そして最低限必要なものが入ったバックを背負って準備を整える。腰には魔剣を携えた。
「ウーバスの他に二体のレイスを屋敷の者達が目撃しています。相当手強いのではと」
「ハインツ、所有する物件の中で戦いになっても、他の者に迷惑がかからないものはあるか?」
「‥‥一つ、あります。すでに使われていない石工職人用の作業所が森の中に」
「冒険者ギルドに立ち寄り、応援の依頼を出したらそこに行こう。テオカを連れて行きたくはないが‥‥、今は誰に預ける訳にもいかない」
ツィーネはテオカを連れてハインツと一緒に馬車に乗り込んだ。御者をする護衛の者が手綱をしならせると走りだす。
馬車には例の銀製の檻が取り付けられてある。ツィーネはもしもの時、テオカに檻に潜り込むように教える。
廃墟となった石工職人用の作業所でウーバスらを迎え撃つつもりのツィーネであった。
(「頼りになる冒険者が早く集まってやってきてくれるといいのだが‥‥」)
ツィーネは魔剣の鞘を強く握りしめた。
●リプレイ本文
●作業所
空は赤と紫に染まりゆく。
地平線に沈もうとする太陽を横切る影が一つ。
鳥ではない何かはものすごい速度を維持しながらも、めちゃくちゃな軌道を描いて森の上空を飛んでいた。
「ゆっくり出来ないど‥‥ころ‥か、これはもう拷問‥‥かな、と」
ヤード・ロック(eb0339)はエイジ・シドリ(eb1875)の腰に手を回してしがみついていた。
フライングブルームはヤードの持ち物だが、今はエイジの操縦である。魔力を温存する為に交代で発動させていたのだ。
途中までは別のフライングブルームに乗る陰守が先導してくれたので順調であった。陰守は一日だけの行動なので、残念ながら途中で引き返していって今はいない。
「舌を噛むぞ」
「せめて女性との‥密着を‥‥うぐっ!」
エイジのいった矢先にヤードが舌を噛んだ。搭載重量に問題はなくても、二人乗りとなると途端に操縦が難しくなるのがフライングブルームである。馬の扱いに長けていればもう少しましなのだが、二人とも素人程度。そして可能な限りの速度で飛ばしていた。ここまで大きな事故を起こさなかったのは奇跡であった。
「建物が見えた。着陸する」
「ツィーネ、まだ‥無事かね? うぉぉ〜」
着陸というより、落下に近い形で木に突っ込んだ二人はなんとか地面に辿り着く。腰をさすりながら立ち上がり、身体にかかる折れた枝を払う。
エイジは真剣な眼差しで周囲を見回す。さっきまでおどけていたヤードもだ。
耳を澄ますと何かが聞こえる。建物の中からである。二人は石材が野ざらしにされている敷地をかけて建物内に入った。
そこには魔剣を手にして戦うツィーネの姿がある。青白い炎のようなレイスが一体、建物の中を飛び回っていた。
「とりあえず離れてくれよ、と。ムーンアロー!」
ヤードがムーンアローでツィーネを援護する。
エイジがオグマ・リゴネメティス(ec3793)から借りた降霊の鈴を鳴らしながらツィーネに駆け寄った。魔力はあまり残っていないエイジであったが、少しでも時間稼ぎをしようと考えたのだ。
ムーンアローが当たるとレイスは退散し、ツィーネがその場に座り込む。
「ツィーネ、どこか怪我でもしたのか?」
「大丈夫かな、と」
エイジとヤードは心配するが、ツィーネが座った理由は安心して気が抜けたせいだった。致命的な怪我まではしていない。隠れていたハインツとテオカ、ハインツの護衛が物影から出てくる。
「後は‥‥他の皆が来るまでなんとか持ちこたえるしかないな‥‥と思ったら二人が来たな、と」
ヤードが開け放たれていた扉から外を眺める。ペガサスに乗ったクリス・クロス(eb7341)とリスティア・バルテス(ec1713)がたった今空から到着した。
「ツィーネ! 大丈夫? 怪我とか無い?」
リスティアはツィーネに走り寄る。
「ティア、心配かけてしまったようだ。テオカ、ハインツは平気だ。わたしよりも先にハインツの護衛をしているロウトさんの怪我を治してあげてくれないか?」
リスティアはツィーネに頷くと、すぐにロウトの怪我をリカバーで治療する。
「ありがとう。早めに着いたよ。これだけの人数が揃えば全員が集まるまでしのげるはずだ」
クリスはペガサスのホクトベガのたてがみを撫でながら語りかける。
「おかげで私の親友は大丈夫だったわ。まだ悪霊は退治されていないようだから、もうしばらく悪霊を滅ぼす為に協力してね」
ロウトとツィーネの治療が終わったリスティアも、ペガサスに近づいて感謝を言葉にする。
冒険者達はさっそく用意してきたアイテムの取り付けを行う。
エイジはオグマから借りた魔除けの風鐸を風通しのよい場所に設置する。
クリスは黄金の枝を発動し、さらに道返の石も発動させて二重の結界を張った。
エイジも国乃木めい(ec0669)から預かった道返の石を使おうとしたが、魔力が尽きていた。今日のところは全面的にクリスに任せたエイジであった。
日が暮れてしばらく経ち、続々と仲間が到着する。
「四人ともご無事でなによりです」
セブンリーグブーツで現れたヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)はほっと胸を撫で下ろす。
「無事のようで、よかった‥‥。もし食料が足りなければいってくれ。保存食は多めに持って来てある」
愛犬黒曜と共にリンカ・ティニーブルー(ec1850)はセブンリーグブーツで現れる。
「ツィーネさんのお宅とパリのお屋敷の両方とも平気だと思いますわ」
国乃木はツィーネとハインツに伝える。十野間空とチサトが家に罠などが仕掛けられていないか調べてくれていると。
「エイジさんに貸したアイテムが役に立ったようでよかったです」
インビジブルホースのクロックワークで訪れたオグマは、魔除けの風鐸の効果が持続するようにウェザーコントロールで天候操作を行う。
さらにオグマはインフラビジョンで周囲を探った。近くにレイスはいないようだ。
孤立していたツィーネら四人はもちろんの事、急いでやってきた冒険者達もかなり疲れていた。
たき火の用意をすると、見張りの順番を決め、持ってきたテントに入ってすぐに就寝するのであった。
●話し合い
全員が集まった後は何事もなく過ぎ去り、二日目の朝が訪れる。
「あらためて、はじめまして。レンジャーのオグマ・リゴネメティスと申します。どうぞよろしく」
「こちらこそ助かったよ」
ツィーネとオグマはしばらく話す。オグマはツィーネと関わりのある知人に頼まれて参加してくれたのだという。
しばらくして一同でたき火を囲みながらの話し合いが始まった。
「エイジとヤードが来たときはレイス一人と闘っていたが、その前にはレイスに憑依されたと思われるファイターとウィザードにも攻撃された。どちらかにウーバスが憑依していたと思う」
ツィーネは冒険者達が来るまでに起きた事を話す。
リンカは話しを聞きながら周囲を見回した。建物内は仕切られもせず、広い空間に石材や巨大な道具類が残されている。屋根があるのは助かるのだが、建物の壁が視界を遮っているともいえた。かといって、外でわざわざ野営をするのもそれはそれで欠点がある。
リンカはアンデットを排除するアイテムを効果的に配置し直せば、視界が悪い点は克服できそうだとの考えに至る。矢を放つ場合にちょうどいい位置をリンカは探す。
「ハインツさんとテオカ君の身を守れるのは貴方しか居ないのだから、頼みましたよ、ツィーネさん」
ヴァレリアはツィーネに非戦闘員のハインツとテオカの護衛に専念した方がいいと伝えた。仲間も賛同する。ツィーネの戦力は魅力的だが、その方がよいと。
ツィーネは意見を受け入れる。護衛のロウトもいるので、冒険者達はこれで気兼ねなく戦う事ができる環境となった。
エイジは道具を組み合わせて武器作りを行う。ふと、思いつくことがある。
「そうだ。エリク・ベルツは襲撃時の対処方法は残していないか?」
エイジの訊ねにハインツは答えるが特にはないという。あえていうならば銀製の檻がそれに当たるそうだ。
「ウーバスの最終的な目標は‥‥ハインツさんでしょう。そしてその取り憑かれた人達を犠牲にしてでも、事を成そうとするはずですわ」
国乃木はテオカの遊び相手をしながら話し合いに参加する。言い聞かせてはいるがテオカは子供だ。リンカの側に近づかないように注意する国乃木であった。
様々な準備を行い、やがて日が暮れて夜が訪れた。たき火だけでなく、灯りを確保する為にランタンも用意してある。
ツィーネには嫌な予感があった。
「テオカ、いいかい? 隠れてといったらここから出ないようにね。わたしがいいというまでは、絶対だからな」
「わかったよ。ツィーネお姉ちゃん」
ツィーネは馬車内に積まれた銀製の檻を触りながらテオカに言い聞かせた。レイスが銀に弱い訳ではないが、通過する事は出来ない。少なくても中に居れば憑依されるのは防ぐ事ができる。
ハインツも呼び寄せ、護衛のロウトにも相談する。
「昼間にも話したが、戦いは冒険者達に任せよう。今はこの二人を護る事に専念すべきだ」
ツィーネにロウトが頷いた。
深夜になっても冒険者達は全員が起きていた。
特に危険なのは夜。昨晩は疲労で休んだが、これからは昼に交代で休んで、夜には全員で待機である。
夜に注意すべきという勘は当たった。
リンカが人影を見つけ、オグマがリヴィールエネミーで様子を探る。少なくともオグマにも敵意は向けられていた。
「来襲!!」
リンカの叫びで戦いが始まる。
リンカのソウルクラッシュボウと、キューピッドボウが大きくしなり、矢が一直線に敵影へと放たれる。矢が何本か刺さっても敵は怯まず、敵影は近づいてくる。
敵影の正体は剣を手にしたファイターであった。ヴァレリアとクリスが武器を持って対峙する。
「エフーナさんは我々が浄化しました! 今は安らかであることを祈ります」
果たして目の前のファイターに憑依しているのがウーバスなのか、それとも近くに隠れているかはわからなかったが、クリスは説得を試みる。しかしどこからも反応はなかった。
クリスは魔法の盾で攻撃を受け、魔力を帯びた短刀で敵ファイターの隙を狙う。ヴァレリアのカターナが敵ファイターの剣とぶつかりあい、火花が散った。
敵ファイターが近づいてきた時、国乃木が射程に余裕があるコアギュレイトを使わなかったのには訳があった。
結界を張るアイテムは万全である。馬車を中心にアンデットが近寄れない安全帯を作り上げられているので、直接の攻撃は難しい。その意味ではレイスが憑依する敵ファイターは大した脅威には成り得ない。
一番注意しなければならないのは、ハインツのパリ屋敷が襲われた時と同じく、ウィザードなどの魔法による遠隔攻撃である。ハインツが一番危惧していた事だ。
国乃木がコアギュレイトを温存したのもその為であった。
「いたぞ!」
エイジが手作りの縄ひょうを投げる。建物入り口近くの茂みに青白く微かに輝くレイスが隠れていた。ヤードのムーンアローが光の軌跡を描いて、敵の位置を正確に示す。
「セーラ様の名のもとに‥‥闇へと帰れ!」
エイジとヤードに護られたリスティアはレイスへと近づき、ピュアリファイを唱えた。
レイスが悲鳴をあげながら闇の中を飛び回る。
(「ここでなんとかしないと、ツィーネが大変‥‥」)
リスティアはピュアリファイを再び唱え、浄化を促進させる。
「あそこにもう一人いるぞ!」
犬達が吠える方向に人影がある事をリンカは気がつき、すぐに矢を放った。オグマもそれに倣う。
国乃木は犬達が吠える方向に振り返る。そこにいたのはエルフ。姿はまさにウィザードであった。
すかさず国乃木はコアギュレイトを唱えた。
敵ウィザードのファイヤーボムが放たれるが、明後日の方向で弾ける。コアギュレイトで見事敵ウィザードは身動き出来なくなる。だが、その真上に青白い炎があった。レイスのウーバスである。
「まだだ‥‥こんな事で‥‥諦めると思うな‥‥。ハインツ・ベルツよ!」
レイスのウーバスは夜空に消え去ってゆく。
敵ファイターはクリスが攻撃を盾で受けて時間を稼いでいる間に、ヴァレリアがコアギュレイトを唱えて動きを止めた。ピュアリファイをかける事でファイターに憑依しているレイスのみに攻撃を仕掛ける。堪えきれずにファイターから飛びだしてきたレイスを一気に仕留めた。
残るレイスはエイジ、ヤード、リスティアによってすでに倒されて消え去っていた。
「この魂が安らかな癒しを得る事が出来ますように」
ヴァレリアは祈りを捧げる。ウーバスを逃したのは悔やまれるが、今は二体のレイスを思う時であった。
●パリへ
三日目の太陽が昇る。
リカバーが使える冒険者はファイターとウィザードを回復してあげる。二人をどうするつもりもないが、パリまでは念の為に縛らせてもらう。ファイターとウィザードもそれを了承していた。
ウーバスは逃がしたが、最大の目的であるツィーネら四人を冒険者達は無事助ける事が出来た。目標は達せられたのである。
四日目に一行は石切場の建物を後にする。多くの者達は行きとは違い、馬車に乗っていた。
「なんとかなった‥‥な、と。ツィーネは怪我はないかね? 女性の身体に傷がついたら大変だぞ、と」
「ヤード、やけに優しいんだな」
「俺はいつでも優しいぞ、と。しかしこれで、帰りはゆっくり出来るかな、と」
ツィーネが寝ころんだヤードに満面の笑みで頷く。
「ところでツィーネさん、パリに着いたらわたしの屋敷に住んでみてはいかがですか?」
ハインツがツィーネにかけた言葉を聞いて、ヤードは飛び起きる。
「何をいっているのかな? そんな事、ツィーネがする訳ないぞ、と。ハインツ」
ツィーネに話させずに、ヤードがハインツに詰め寄る。
「いえ、ウーバスが退治されるまではご自宅に帰る事は無理だと思いまして。ウーバスが侵入できないよう、屋敷に万全の備えをするつもりですから安心して下さい。ツィーネさん」
「テオカを一人にしておく訳にはいかないし‥‥この際仕方がない。そうすることにしよう。ただし、恩に感じることはないぞ。いいな?」
考えた末のツィーネがハインツに答えた。それを聞いたヤードはふらふらっと馬車の隅で仲間に背中を向けて寝転がった。
「ちゃんとホーリーフィールドも張ってくれてたようだし、ホクトベガ、ありがとうな」
クリスはペガサスのホクトベガに礼をいった。
五日目の昼頃、無事に全員がパリへ到着する。
ファイターとウィザードを解放し、それから冒険者ギルドへと向かった。
ハインツがギルドに預けておいたお金はお礼として冒険者達に分配される。
期間をかなり残して依頼が終えたのも、すべて冒険者達が最初に急行してくれたおかげであった。