親睦の戦い 〜ツィーネ〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:14 G 1 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月18日〜04月29日

リプレイ公開日:2009年04月27日

●オープニング

 四方を山に囲まれた外界から閉ざされた盆地。
 ノルマン王国における領主が決められており、領地名もちゃんと存在した。もっとも盆地は広い領地の一部に過ぎないが。
 領主の名はアンゼルム・ブノイル。領地名はブノイル領。
 ただ、山を隔てた盆地を知る領民達は決してそう呼ばなかった。何故なら盆地はアンデッドに支配されていたからである。
 支配するのは死霊王とも呼ばれるファントムのカーデリ・ダマー。領地はわざと古い土地の名前でバティ領と呼ばれていた。


「ええ、皆様にはバティ領攻略の糸口を探して頂いてますが、いざという時には兵力も必要です。そこでブノイル領を護る騎士団との親睦も必要かとアンゼルム領主は考えておられます」
 夜、パリのツィーネの自宅。ブノイル領への連絡係兼少年テオカの世話係の女性トノスカはツィーネに説明をする。
 トノスカとツィーネの間にあるテーブルにはアンゼルム領主からの手紙が置かれていた。
「いざという時、いきなり一緒に戦えといってもうまくゆくはずもない。それに冒険者のわたしがいくらアンゼルム領主の命によってだとしても、上に立つのは気に入らない騎士の方々も多いだろう。それの解消ということか。この親睦試合は」
 ツィーネはアンゼルム領主からの手紙をあらためて目を通した。
 親睦試合が催すのでツィーネとその仲間の冒険者に参加して欲しいとしたためられてあった。
「わかった、受けるとしよう。トノスカさんはアンゼルム領主に了承の手紙を送っておくれ。わたしは明日冒険者ギルドで仲間を募集する」
「はい。ではそのように」
 ツィーネとトノスカが終わると、隣りの部屋で覗いていたテオカが駆け寄ってくる。
「終わった?」
 見上げるテオカにツィーネは微笑んだ。
 しばしの間三人で遊ぶと、就寝の時間となる。
 翌日、ツィーネはトノスカに話したように冒険者ギルドで仲間を募集するのであった。

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3793 オグマ・リゴネメティス(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

エレオノール・ブラキリア(ea0221)/ 李 風龍(ea5808

●リプレイ本文

●試合までの日々
 一行が目指すブノイル領の地は遠い。
 パリから帆船でセーヌ川を下り、河口に辿り着くまで丸二日。そしてドーバー海峡から北海へと航行し、オーステンデに入港するまでが一日かかる。
 さらに馬車で陸路を走り、城下町カノーに到着したのは三日目の夕方であった。
「親睦の試合までにはまだ日があるな」
 城に用意された女性用の部屋でツィーネが仲間達に話を切りだす。今は相談の為に男性の西中島導仁(ea2741)とエイジ・シドリ(eb1875)の姿もあった。
「そうだな。それまでにファントム・カーデリの情報を得られるとよいのだが。パリで見送ってくれた風龍殿も、それを心配していた」
 西中島は窓の外を確認しながらツィーネに答える。見晴らしがよく、亡霊の来襲があってもすぐにわかりそうな部屋だ。
「試合が行われる場を見せてもらえるように、この部屋まで案内をしてくれた者に頼んでおいた。今日は無理だが、明日には大丈夫だといっていたぞ」
 エイジは希望を持っていたリンカ・ティニーブルー(ec1850)に伝える。話題は広がり、時間もあるので全員で見学する事となる。
「隠密の試合に参加するつもりですが、あの林で行われるのかも知れませんね」
 オグマ・リゴネメティス(ec3793)は西中島の横に立ち、夕日に染まる城内の庭にあった林を見下ろす。
「ねぇ、ツィーネ。あたしは魔法の試合に出場するつもりだけど、相手が動けなくなったら負けって事でいいのよね。具体的にはコアギュレイトで拘束しようと考えているのだけど」
「審判次第かな。ルールには中傷まで追いつめて勝ちが明言されているから、どう判断するのか‥‥」
 もしクレリックとして親睦試合であっても悪意を持たない者を傷つけるのが嫌なら、自ら降参する手もあるとツィーネはリスティア・バルテス(ec1713)に答える。親睦試合なので表面的な勝ち負けに大きな意味はないともつけくわえた。
「そうですか。参考になりました。礼法はこちらの流儀と作法に合わせますね」
 円巴(ea3738)は騎士の西中島から簡単な手ほどきを受ける。
 ノルマン王国にはジャパンの刀剣術を採り入れたノルド流も存在するが、やはり国が違えば礼儀も変わる。郷に入っては郷に従えと自らが合わせる事にした。
「親睦試合か〜。うちはかくれんぼで勝負やな〜」
 イフェリア・アイランズ(ea2890)はベットの上で胡座かいて腕を組んだ。かくれんぼとは隠密の技を指すらしい。
(「相手はカワエエ娘がお近づきになれてええんやけど‥‥、騎士団には流石におらへんやろ〜な〜」
 目的がずれてはいたものの、試合にかける情熱は持ち合わせていたイフェリアである。
 早めに就寝し、旅の疲れを残さないように心がける一行であった。

●試合場
 冒険者達は一緒に試合場を巡る。とはいえ闘技場のような特別な施設が城にある訳ではなかった。
 基本はただの城庭だ。
 剣術の試合場は庭中央の土の地面上である。案内の者によれば、試合が始まる前には周囲に席が用意される段取りになっているらしい。
 魔術の試合場は剣術の場と同じだが席が用意される前に行われる予定だった。観客は安全な城のバルコニーから観戦する事になるだろう。
 一番特殊な隠密の試合場は城の中にある林が使われる予定だ。こちらも別方角のバルコニーから見下ろす形になるが観戦が楽しめるかどうかは不明である。よい試合が行われるほど、戦う二人の姿は見えないと想像されていた。
(「あまり枝は太くないようだな‥‥。そして木々の間はそれなりにある。一度発見されたら、もう一度姿を隠すのは難しいだろうな」)
 エイジは念入りに試合場となる林の中を調べ上げる。
(「射線は確保出来そうだが、瞬時に登れる樹は数えるほどしかなさそうだ」)
 またリンカも林の下見に余念がなかった。
「君たちか。我々の相手となるのは」
 別の下見一行がツィーネ達に声をかける。その出で立ちからすぐに騎士だとわかった。
「あなた方が親睦試合の? わたしはツィーネ・ロメール。特にリーダーというわけではないが、アンゼルム領主にバティ領と呼ばれる土地の奪還を頼まれた者だ」
「これは失礼。私はロンシャル騎士団の隊長ババモーア・フェルテス」
 ババモーアは騎士の振る舞いをもってツィーネに接してくる。
 他にいたのはロンシャル騎士団の分隊長の面々であった。この中の何名かが親睦の試合に出場するとババモーアは語る。
「どれほどの力を持っているのか楽しみだ。それでは試合の当日にまた‥‥」
 ツィーネはロンシャル騎士団の一行が去ってゆくのを仲間と見守る。
「いい人達なのか、そうでないのか‥‥まだわからないわね」
「そうだな、ティア。しかし弱い者の下にはつきたくないとババモーア隊長の瞳の輝きは訴えていたよ」
 ツィーネは気を引き締める。そして何かに誘われるようにバティ領の方角へと振り返った。
(「カーデリ‥‥。今一瞬、彼女の顔を思いだしてしまった‥‥」)
 遠くの山の連なりをツィーネはしばらく眺め続けるのであった。

●親睦
 六日目の試合当日。
 晴天の最中、さっそく試合が始まった。
 アンゼルム領主もバルコニーから観戦する。
 まずは隠密の技で競う試合からだ。これに参加するのはエイジ、リンカ、イフェリア、オグマの四人である。
「隠密の試合、最初は俺から行こう」
 エイジが立ち上がると、イフェリアは大きく口を開く。
「うちが出‥‥」
 いいかけた途中で相手陣営から唸り声が届く。まるで熊のような体格の男が岩を持ち上げて準備運動をしていた。ロンシャル騎士団側の一番手だ。
 審判によってザザドスという名前が公表される。
(「あわわ‥‥止めておくんや‥‥」)
 すごすごと後ろに引っ込んだイフェリアである。
 エイジは庭へと降りると林の中へ入ってゆく。まもなく試合開始を告げる鐘が鳴らされた。

●エイジ
(「しかし屈強そうな男だったな」)
 エイジは樹木の幹に隠れながらザザドスを探す。
 隠密の試合に出てくるだけあって巨体ながら身軽なようだ。なかなか発見できずにエイジは息を呑む。
 五分、十分と時間が経過する。何も起こっていないが、緊張は高まってゆく。
 その時、突然地面から何かが飛びだす。
「ザザドス!」
 エイジは樹木を盾にしながら身を翻した。ザザドスは地面に穴を掘ってじっと潜み、エイジが近寄るのを待っていたのである。
 距離をとって投擲で威嚇しようとするものの、ザザドスはしつこく追いかけてくる。
 エイジは唯一といってよい木々の間が密集した個所へとザザドスを誘い込んだ。脱いだ上着のブラックレザーを茂みに被せて自分がいるように見せかけて。
 そして手にしていたダガーで一撃を加える。深追いせずに一旦離れて投擲で威嚇し、ザザドスを周辺に釘付けした。
 力任せなザザドスの棍棒攻撃も侮りがたく、何発かはエイジに命中する。
 最後は枝に引っかけたロープに掴まってエイジは体当たりを敢行した。ただし、途中で枝が折れてエイジも地面に激突してしまう。
 審判の判断の末、引き分けで終わるのであった。

●リンカ
「うちが行‥‥ええ!!」
 イフェリアはリンカの姿を見て驚いて気が抜けてしまう。
 リンカは頭にスカーフを被る異様な姿だ。これも作戦の内だと呟くと林へと消える。
 相手の名はカタビアナ・トレートス。女性の弓使いだ。
 見立てておいた樹木へと登ってリンカは姿を隠す。そして頭のスカーフをとると離れた枝に引っかけておく。
 スカーフの下には勘が鋭くなるラビットバンドがつけられていた。さらにレミエラの効果でリンカは感覚を研ぎ澄ます。
(「いたぞ!」)
 先に茂みに隠れていたカタビアナを見つけると、リンカは急所を狙って矢を放つ。
 リンカの二射目と前後してカタビアナが放った矢はスカーフをかすめるだけ。リンカの位置と勘違いしたのだ。
 結果、一気に攻撃を決め、勝利をもぎ取ったリンカであった。

●イフェリア
「うちが出るんや!」
 イフェリアが叫んで次の出場が決まる。
「へ? ほ、ホンマにうちでええんかいな!?」
 戸惑う理由はただ一つ。試合の相手が女性だったからである。
 イフェリアとしては望むところなのだが、親睦の試合でイタズラをしそうなのを仲間に止められるかと考えていたのだ。
 相手の名はノリアッテ・パナピス。分隊長にしてはとても若い外見だ。
 試合が始まるとイフェリアは身を隠し、生えている草を結んで足を引っかける罠を作ってゆく。さらに蔓も活用する。
 準備が整うとシフールのイフェリアは木々の間を飛んだ。手には直前に作り上げたアイスチャクラを持って。
 姿を発見するとアイスチャクラを投げては受け取り、そしてノリアッテの矢を避けてゆく。
 これがかくれんぼである。
 やがてノリアッテをうまく罠まで誘導し、身動き出来ないようにしてしまう。
「これでうちの勝ちや。それにしても可愛いお方やなあ〜。ちょっとだけダイブしても‥‥!!」
 不用意に近づいたイフェリアは、ノリアッテに握っていた石でこづかれて気絶寸前にまでいってしまう。
 判定の末、引き分けで終わった。

●オグマ
 隠密の試合を締めくくるオグマが林へ向かう。
 相手の名はソレイア・ケラース。男性の弓使いだ。どうやらロンシャル騎士団には弓を扱う分隊が多いようである。
 隠密の定石通り最初は身を潜めようと考えていたオグマだが奇襲に遭った。
 ソレイアはいきなり急接近し、矢を放ってきた。それも多数の矢をいきなりというオグマと同じ作戦を持ってして。
(「手強いですね‥‥」)
 オグマは体勢を立て直した後、弓矢で応戦する。
 互いに樹木を盾にして矢を放ち合うという戦いが続いた。
「デッドライジング!」
 ソレイアの隙をついてオグマの矢が先に当たる。ソレイアの矢はオグマを掠めてゆくだけだ。
 結果、オグマの勝ちで終わった。
「お手合わせありがとうございました」
 オグマは礼儀正しくソレイアと握手を交わすのだった。

●リスティア
 次は魔術での親睦の試合となり、リスティアが試合の場へと立つ。
 相手の名はヒリアステ・シシノア。男性のウィザードであった。
 リスティアは試合開始と同時にホーリーフィールドを張り、ヒリアステのファイヤーボムを防いだ。
 そして重ならないように近くへ新たなホーリーフィールドを張っては移動を繰り返し、魔法攻撃をやり過ごす。
(「このままだと‥‥」)
 ヒリアステをコアギュレイトで呪縛しようと考えていたリスティアだが、なかなか近づいてこない。こちらから向かおうとしても距離をとられてしまう。
 ホーリーフィールドで防ぎきれなかった魔法攻撃で負った傷が徐々に蓄積し、リスティアの負けが決定した。

●西中島
 魔術の試合が終わり、庭に席が用意されてアンゼルム領主がバルコニーから移動する。
 剣術での親睦試合の始まりである。
「うちが〜〜〜、あひゃー☆」
「まだ元に戻らないのか‥‥」
 目玉をグルグルと回すイフェリアの様子を心配しながらも西中島は試合に望んだ。
 円巴が覚えられるようにゆっくりと儀礼を行ってから霊剣を抜く。
 相手の名はトナンテ・ペテオス。目つきが鋭い男性騎士だ。武器は剣である。
「そうか。そういうことならば」
 試合が始まると同時にトナンテはオーラ系の付与を始めた。それを見た西中島も出来る限りのオーラ系魔法を自らに施す。
 互いに準備が終わって剣を構える。
 二人が近づくと試合はすぐに終わった。西中島の二撃でトナンテは負けに達する怪我を負ったのだ。
 決してトナンテが弱い訳ではなく、西中島の強さが突出していた所以である。
 あまりのあっけなさにしばらく試合場は静まりかえるのだった。

●円巴
「私の番ね」
 円巴は西中島に習った作法で礼をして試合に望む。
 相手の名はサリアッタ・カトリアテ。いかにも騎士といった雰囲気をまとった男性だ。
 開始の鐘が鳴らされると真っ先に左手の七桜剣につけられたレミエラを発動させる。利き腕ではない不利を少しの間だけ無くす為に。
「連理の枝に咲き誇れ『姫桜』」
 円巴は迫り来るサリアッタを冷静に見つめ、構えた剣を振り放つ。
 二つの衝撃が宙に放たれてサリアッタに命中する。
 この時点で勝敗は決まったといってよかった。後は丁寧に急所を狙い、一気に勝負をつける。
 当然ながら円巴の勝ちで終わった。
(「何かしら?」)
 円巴はふと空を見上げる。
(「亡霊の敵地は山の向こう側とはいえとても近い。注意を忘れないようにしましょう」)
 刀剣を仕舞いながら円巴は心の中で呟くのだった。

●ツィーネ
 最後はツィーネの試合となった。
 相手は下見の時に出会ったロンシャル騎士団の男性隊長ババモーア・フェルテスである。
(「さすが隊長。隙がない‥‥」)
 ツィーネは魔剣を構え、ババモーアと睨み合う。
 一歩を踏みだそうとしたその時、目の端に動くものが見えてツィーネは立ち止まった。
 ツィーネに打ち込もうとしていたババモーアが空振りする。瞬時に妙な雰囲気を感じ取り、わざと外したのであろう。
「カーデリだ!!」
 ツィーネはアンゼルム領主がいる壇上に向けて駆けた。
 その様子に仲間達も敵襲に気がついて即座に対応する。空にはうっすらと浮かぶ青白い炎の集団が近づこうとしていた。
 ファントム・カーデリ率いるバティ領からの亡霊の群れである。
 本調子に戻っていたイフェリアが空の集団に向けて稲妻を放った。
「アンデッドを鎮める事こそクレリックの本領よ!」
 リスティアがホーリーフィールドをアンゼルム領主を中心にして張る。
 リンカとオグマは亡霊集団の勢いを削ごうと矢を放ち続けた。残念ながらオグマに魔除けの風鐸を設置する余裕は残されていなかった。
 他の冒険者とロンシャル騎士団の隊長、分隊長はアンゼルム領主を取り囲んで護りに徹する。
 亡霊の群れはアンゼルム領主を狙いながら間近を通り過ぎた後、そのままバティ領の方角へ飛び去ってゆく。
 カーデリにすれば、奇襲に失敗した所であろう。
 安全が確認された後、冒険者達はロンシャルの騎士達と健闘を称え合う。
 アンゼルム領主から出場者にソルフの実が贈られる。鐘の響きが親善の試合の終わりを告げるのであった。

●そして
 アンゼルム領主の護衛をロンシャル騎士団に託した一行は八日目の朝にパリへの帰路ついた。
 夕方にはオーステンデへ到着し、翌日の九日目朝には帆船に乗り込む。
 そして十一日目の夕方、冒険者達は無事パリの地を踏んだ。