バティ領の真下 〜ツィーネ〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:21 G 72 C

参加人数:9人

サポート参加人数:7人

冒険期間:06月18日〜07月03日

リプレイ公開日:2009年06月27日

●オープニング

 四方を山に囲まれた外界から閉ざされた盆地。
 ノルマン王国における領主が決められており、領地名もちゃんと存在した。もっとも盆地は広い領地の一部に過ぎないが。
 領主の名はアンゼルム・ブノイル。領地名はブノイル領。
 ただ、山を隔てた盆地を知る領民達は決してそう呼ばなかった。何故なら盆地はアンデッドに支配されていたからである。
 支配するのは死霊王とも呼ばれるファントムのカーデリ・ダマー。領地はわざと古い土地の名前でバティ領と呼ばれていた。


 地下迷宮『ズノーリム』。
 前回、ツィーネと仲間達は城下町カノー近くの入り口から進入し、進路を阻む青銅の門にまで至った。
 ツィーネは再びズノーリムに挑戦する為にパリ冒険者ギルドで仲間を募集する。
 地図作成も同時に行われたので入り口から青銅の門までの経路はすでに判明していた。青銅の門を潜り抜けられたのなら、そこから先は山に囲まれたバティ領の中央に続いていると考えられる。つまり敵の総本山だ。
(「バティ領まで辿り着いたのなら、亡霊達に発見されずに引き返す事が肝心だな‥‥」)
 自宅に戻ったツィーネは少年テオカの遊びにつき合いながら作戦を練った。いくら仲間達が優秀でも大量の亡霊に襲われたのならひとたまりもない。それに奇襲に使うのなら、発見されては意味がなくなってしまうからだ。
 夜になり、アンゼルム領主から使わされているトノスカとツィーネは話し合う。
「アンゼルム様と連絡がとれました。もし青銅の門の錠開けに長けた方がおられないのであれば、一人用意すると。ただ‥‥錠開けは得意でも非常に恐がりな方なので、隠密の行動が必要な今回の依頼には不向きだろうと。連れてゆくとすれば不安が残ります」
 錠開けの得意な冒険者が参加してくれるのが望ましいとトノスカは語る。
「仲間は多い方がいいが、そういう者だと確かに困るな」
 ハーブティを口にしたツィーネはあまり心配していなかった。きっと連れてゆかなくても済むだろうと。
 ベットへと横になって眠りに就く。今しばらく安らぎの日々を過ごそうとするツィーネであった。

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3793 オグマ・リゴネメティス(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4047 シャルル・ノワール(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

李 雷龍(ea2756)/ クレア・エルスハイマー(ea2884)/ マミ・キスリング(ea7468)/ セイル・ファースト(eb8642)/ 井坂 佐代(ec0590)/ 九烏 飛鳥(ec3984)/ クレイ・バルテス(ec4452

●リプレイ本文

●門の向こう側
 早朝のパリ船着き場。
 マミ・キスリングと李雷龍はこれから出発する冒険者一人一人に祈紐を手渡す。
 井坂佐代は円巴(ea3738)を見送りしようと船着き場を訪れていた。帆船に乗り込もうとする円巴に手を振る。
 クレイ・バルテスは、リスティア・バルテス(ec1713)の姉である。全員に挨拶をした後で旅の安全をセーラ様に祈った。
 四人に見送られながら帆船がパリの船着き場を出港する。
 セーヌ川を下り、目指す先は北海に面するオーステンデ。さらに馬車に乗り換えて陸路を進み、ブノイル領の城下町カノーに到着したのは四日目の夕方であった。
 冒険者一行は城に一晩泊めてもらう。
「前に見逃した部分はなかったか‥‥」
 エイジ・シドリ(eb1875)は以前に目を通した文献を今一度読み直してみたが、地下迷宮『ズノーリム』に関する新たな情報は得られなかった。
 五日目の夜明け前、ロンシャル騎士団のパナピス分隊がズノーリムの入り口がある馬小屋まで馬車に乗せてくれる。地下探索に適さないペットは城でお留守番となった。
「ツィーネ、これを使ってね」
 リスティアが昨日の就寝前にホリーライトの魔法で作った光球をツィーネに手渡す。
「ありがとう、ティア」
 微笑んだツィーネは光球を掲げながら地下への一歩を踏みだした。灯りになると同時にアンデッドが近寄れなくなるので地下探索にはとても役立つ。
「こちらも点けておこう。何があるかわからないからな」
 リンカ・ティニーブルー(ec1850)はもしもに備えてランタンも灯した。
「まずはこちらですね」
 オグマ・リゴネメティス(ec3793)が地図を見ながら枝分かれしている地下道の一つを指さした。
 鍵開けの腕を持つリンカ、イフェリア、オグマが参加してくれたので、アンゼルム領主が用意していた人物を同行させないで済んでいた。
「俺が先に行こう」
 西中島導仁(ea2741)は盾を構えて一番先頭を歩く。まずは前回到達した青銅の門までだ。すでに判明しているので最短ルートを歩んだ。
「ちょっと調べてくるで〜。待っててな〜」
 空を飛べるシフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)が先行し、行き先の状況確認をしてくれた。隠密にも長けているので、これ以上の適任はいない。
「今度こそ最後まで攻略しないとね」
 シュネー・エーデルハイト(eb8175)は主に後衛の護衛として動いた。この前襲ってきたドッペルゲンガーは入り口付近から見張っていたはずである。この地下迷宮ズノーリムにおいて、自分達は招かざる客なのだとシュネーは心に刻んだ。
(「青銅の門を抜けた先はどうなっているのか‥‥」)
 円巴は一行の殿を務めながら、これから先を考える。極端な高低差があった時の為に空飛ぶ絨毯をあらかじめ用意してきた。オグマも持っているようなので数は足りるはずである。
 一番憂慮すべきはどのような敵が出るかだ。備えとして複数のスレイヤー能力を備えた武器を携帯していた円巴であった。
「いまのところ、ネズミと思われる小動物以外はいないようよ」
 シャルル・ノワール(ec4047)はブレスセンサーで周囲に呼吸する生き物がいるかを把握して報告する。怪しいと感じられた空間では魔法ステインエアーワードで空気と会話する。
 陽光が射し込まない地下迷宮だと昼と夜がわからなくなる。そこでリンカはランタン油の消費を覚えておき、現在の大まかな時間を計った。
 六日目の昼頃、冒険者一行は青銅製の門まで到達した。
「あたいの出番だね。さぁてと‥‥」
 リンカは持ってきた道具を取りだして、さっそく開錠の作業を開始する。腕に覚えがあるイフェリアとオグマも手伝ってくれた。
「けったいな錠やな。三個所同時に開ける必要があるんか〜」
 羽ばたくイフェリアは門の天井近くに浮かび、自分の道具で錠の穴をいじった。
「もう少しで‥‥わかりました」
 オグマは道具の一部を仲間から借りて開錠作業を進めた。
「ツィーネ、合図を頼む」
「わかった、零で同時に開錠だ。三‥‥二‥一、零」
 リンカの頼みに応じてツィーネがカウントする。
 次の瞬間、三つの開錠の音が周囲の石壁に反響した。わずかに遅れて青銅製の門が揺れる。
「成功したようだな。開けられるようだぞ」
 エイジが門の扉と枠の間に新たな隙間を確認する。さっそく全員が協力しあって青銅製の門が開けられた。
「なんなの。この空気は‥‥」
 リスティアだけでなく流れてきた空気に全員が嫌悪する。特に異臭がした訳ではないのだが気分が悪くなった。
「この先にファントムのカーデリが統治する、ゴースト系アンデッドが漂うバティ領があるのね」
 シュネーは眉を潜ませて暗闇の向こうを見つめた。
「さて本番だ。ゆっくりと進まなくてはな」
 エイジはナイフで壁に印をつけると、アンゼルム領主から提供されたペンと羊皮紙を取りだす。ここからはこの前の依頼と同じようにオグマと手分けして正確な地図作りを行う必要があった。依頼達成において一番大切な作業である。
「なんやぼんやりとしか見えへんけど、通路三つに別れているようやなぁ〜。また手探り状態やな」
 イフェリアはさっそく偵察に出かけようとするがツィーネに止められる。
「嫌な予感がする。ここからはリンカと一緒に同じ通路を偵察してくれ。頼む」
「ツィーネはんがそういうんなら」
 了解したイフェリアはリンカと一緒に偵察へと出かけた。
 オグマはスクロールのクレバスセンサーで周囲に怪しい隙間が無いかを探る。リンカも同じスクロールを持っているので、この先で使用している事だろう。
 リスティアが安全地帯としてホーリーフィールドを張った。その中でエイジは通路が枝分かれするまでの状態を地図に書き込む。
 シュネーは剣を抜いたまま、リスティア、エイジとオグマの三人を護衛した。特に地図作りに集中しているエイジとオグマは無防備なので周囲の注意を怠らなかった。
 西中島、シャルル、円巴、ツィーネは背中を向け合って各通路の先を見つめて警戒を強める。
 偵察の末、有力な通路が判明するものの、宵の口になったので就寝の時間となる。
 この間、ドッペルゲンガー二体とブラックスライムに襲撃された事実を踏まえて、人数を増やした上での見張りを行った。
「こうも静かだと、自分の心臓の音で眠れなくなりそう」
「本当に。地下水の流れまでも聞こえますね」
 シャルルと円巴は小声でお喋りをする。
 何事もなく一晩は過ぎ去り、冒険者一行はさらに奥へと進んだ。
「ここの壁の向こう側に空間があるはずです」
 ズノーリムをさまよっている間にオグマが隠し部屋を発見する。調べている暇はなく、ひとまずは放っておかれた。
「こちらの通路の方が近い。だが迂回しなければな。あれはビリジアンモールドのように見えたのだが‥‥」
「その奥の通路の両端にはガーゴイルの石像があったんやけど‥‥、もしかすると魔法がかけられてかも知れへんなぁ〜」
 リンカとイフェリアの報告を参考に安全な通路が探されてゆく。
「下がれ! 呑み込まれるぞ」
 ツィーネが叫んだ。立方体型の敵が地下通路を隙間無く栓をしながら少しずつ迫ってきたのである。
「正体はゼラチナスキューブよ! あたしが足止めするわ」
 リスティアは迫り来るゼラチナスキューブとの間にホーリーフィールドを定間隔に張った。そのおかげでゼラチナスキューブは進みを鈍らせる。
 時間的余裕が出来たリンカとオグマは遠方から矢を放つ。エイジは縄ひょう、イフェリアはアイスチャクラで遠隔攻撃を続ける。
 ゼラチナスキューブを倒すと、複数の金の指輪が床に残った。

●バティ領
「注意すべきですね。もうバティ領なのかも知れませんし」
 八日目昼頃、シャルルは澱んだ空気から亡霊らしき存在が稀に漂っている事実を教えてもらう。
「この上がすでに亡霊の巣‥‥」
 西中島は水滴が貼りつく天井を見上げて呟いた。
「幽霊が迷って入り込んでくるってことは‥‥この辺りの壁は普通の石材で出来ているってことよね」
「なら、あれが使えるか試してみるか」
 シュネーの言葉にリンカがスクロールのアースダイブを試してみる。確かに壁をすり抜けて地中まで到達出来た。地上までの深さが問題だが、泳ぎが得意な者なら地上までたどり着けるのかも知れない。
「不思議ね。この地下迷宮を知っている亡霊がいるというのに、これまでの道のりでアンデッドと接触していないなんて」
 円巴はツィーネに振り返ると首を傾げた。
「ゴースト系のアンデッドは狂気に駆り立てられている者がほとんどだ。カーデリ・ダマーのように、あそこまで人と同じ理性を保っている亡霊はわたしも初めてだ」
「つまり下っ端の亡霊達はこの地下迷宮の重要性に気づいていないという訳ね。しかし、私達がここにいるのを知ったのなら、そうはならないはず‥‥」
 円巴とツィーネは周囲に気を配りながら小声で話し合った。
「ここからは壁に印をつけるのは控えよう。忘れ物もないようにしないといけないな」
「そうした方がいいみたいですね」
 円巴とツィーネの話を聞いていたエイジが、一緒に地図作りをしていたオグマの同意を得る。
(「ツィーネはん、隙ありまくりやな。ここは一つ‥‥」)
 ツィーネの胸にダイブしようと企んでいたイフェリアだが、通路の奥で青白く光る存在に気づいた。
 イフェリアは仲間達に身振り手振りで青白い光る存在を知らせる。どう見てもレイスに間違いなかった。
(「これで!」)
 俊敏な円巴は足音を立てずにレイスへと近づき、刃を閃かす。
「逃がす訳にはいかない!!」
 別通路から大回りをしていた西中島も霊剣でレイスに深い傷を負わせる。
「いつまでもこの世界をさまよっているものではないわ」
 シュネーが勢いのままアンデットスレイヤーの剣をレイスに叩きつけた。
「もう、さまようのは終わりにして‥‥」
 最後はリスティアのピュアリファイによってレイスは消え去った。
 周囲の安全が確かめられた後、亡霊に思うところがある冒険者は祈りを捧げた。ツィーネも十字架を握り、瞳を閉じる。
 それから冒険者一行は半日程周囲を探索する。そして出口らしき地上へと続く石階段を発見した。但し途中で石蓋がされていて簡単には出られないようになっていた。
 すでに外では真夜中の時間であったが、冒険者一行は安全と思われる地点まで強行して戻る。魔力が必要な仲間だけ就寝させて、他の冒険者は警戒に徹する。
 九日目の昼頃、冒険者一行はこれまで来た地下迷宮の道のりを引き返した。
 安全な道のりがわかっているので帰りは最短の時間で戻る。行きに発見した隠し部屋を調べるとルーンストーンが発見された。
 ツィーネの判断でルーンストーンはリスティアに贈られる。他の仲間達にはゼラチナスキューブを倒した時に得た金の指輪が分配された。
 十一日目の夜、ブノイル領側の入り口となる馬小屋まで辿り着く。
 バティ領の石蓋の階段からブノイル領の馬小屋まで歩いて正味三日。睡眠時間を削ればもう半日程短縮出来るかも知れないとツィーネは考えた。
 出発時と同じくロンシャル騎士団のパナピス分隊の馬車に冒険者一行は乗り込んだ。消費した矢はパナピス分隊が提供してくれた。
「ご苦労であった。首尾はどうであったのだろうか?」
 真夜中だが、アンゼルム領主と冒険者一行の謁見が行われた。ツィーネの手から地下迷宮ズノーリム内の地図がアンゼルム領主に手渡される。
 追加の報奨金を受け取った冒険者達は泥のように眠る。ズノーリム内での疲れが一気に吹きだしたのだ。
 そして十二日目の朝、馬車で城下町カノーを出発。夕方には北海に面する港町オーステンデへと到着する。
 十三日目の夜明け前に帆船へと乗り込み、航海を経て十五日目の夕方に冒険者一行はパリへと戻った。
「バティ領に攻め入る時にはロンシャル騎士団と共同ということになるはずだ。アンゼルム領主の決断次第だが、次にそうなる可能性は高い。カーデリの邪魔さえなければだが‥‥」
 ツィーネはギルドでの報告を終えた後、仲間達と一緒に今後を話し合う。少しでも早く目的地に到達出来る手段として空飛ぶアイテム類の活用も話題に上った。
 現状だとパリからカノーまで片道四日間。往復で八日間もかかってしまう。オーステンデからカノーまでを空飛ぶアイテム類でひとっ飛びすれば、六日半から七日程度にまで短縮出来るのではと結論が出る。
 ツィーネはトノスカに適したアイテムが借りられないか相談してみると言葉を残し、冒険者ギルドを去っていった。