●リプレイ本文
●出発
「ツィーネおねえちゃん、大丈夫かな‥‥」
出発の朝、集合の空き地にはトノスカ嬢に付き添われた少年テオカの姿もあった。いつもの元気がなく、心配げで遠くで話しているツィーネを見つめている。
「親友は私が守るわ。安心して」
リスティア・バルテス(ec1713)がテオカに近づいて頭に手を乗せた。するとテオカが小さく頷いた。
「任せてくれ。ツィーネと一緒に必ず無事で戻ってくるからな」
武具の確認をしていたリンカ・ティニーブルー(ec1850)も気になって声をかけると、テオカが肩をなだらかにする。彼なりに気を張っていたのだろう。
(「ん〜、ツィーネはん無理しぃへんか、うちもその辺が心配やな〜」)
イフェリア・アイランズ(ea2890)は枝の上に座りながらテオカと仲間達の会話を聞いて考える。後でツィーネの緊張を解いてあげようと、手をワキワキさせてよからぬ事を思いついたイフェリアであった。
「ここで一気に決めてみせるぜ」
「全力でお手伝いさせてもらいますわ。あら、お二人が」
西中島導仁(ea2741)とクレア・エルスハイマー(ea2884)が意気込んでいると、見送りの李風龍とマミ・キスリングが空き地に姿を現した。ファントム・カーデリ退治の成功と二人の無事を願う李風龍とマミだ。
「いよいよ最後の戦いね。カーデリを倒す‥‥いえ、眠らせてあげましょう」
「その通りだ。様々な理由があるにせよ亡霊がこの世界に彷徨っているのは不幸な事だから‥‥。ん?、テオカ?」
シュネー・エーデルハイト(eb8175)とツィーネが話していると、トノスカ、リスティアの両人と手を繋いだテオカが歩んでくる。
「元気でかえってね」
「わかった。約束しよう、テオカ。絶対だ」
ツィーネは大きく屈むとテオカを両腕で抱きしめる。シュネーとリスティアは互いの顔を見て頷き合った。
「ツィーネ・ロメール。どの空飛ぶ絨毯も大丈夫だ。発動させればいつでも飛び立てる」
「そうか、助かった。そろそろ行こうか」
エイジ・シドリ(eb1875)が、トノスカが提供してくれた空飛ぶ絨毯三枚がほつれたりしていないかの確認を終えてツィーネに報告してくれた。
「夜になれば寒くなる季節。テントの用意は人数分あるだろうか?」
円巴(ea3738)は最後に食料や夜具の点検を呼びかける。
「悲しみと怨嗟に縛られし悲しき魂を解き放つために‥‥」
国乃木めい(ec0669)は決意の表情で空飛ぶ絨毯へと座る。
「やはり乗っていった方がよさそうですね」
オグマ・リゴネメティス(ec3793)はグリフォン・ピエタに乗るか、空飛ぶ絨毯に相乗りするかで迷っていたが決断した。
連れてきた飛翔可能な騎獣に乗るかの判断は冒険者それぞれであったが、重量があって空を飛べないペットに関してはパリへ残される。
ブノイル領は遠い。急ぐには空を飛ぶ他に方法が無かったからだ。
冒険者一行は離陸してブノイル領を目指す。
二晩を経てブノイル領の城下町カノーに到着したのが三日目の暮れなずむ頃。出発は明日朝として、夕方から城の一室でロンシャル騎士団との話し合いの場が開かれた。
直接、冒険者達に協力するのは三分隊。
男性騎士トナンテ・ペテオス分隊長が率いる剣を主体としたペテオス分隊、二十名。
女性騎士ノリアッテ・パナピス分隊長が率いる弓を主体としたパナピス分隊、十九名。
男性騎士ソレイア・ケラース分隊長が率いる弓を主体としたケラース分隊、二十一名。
三分隊を除いたロンシャル騎士団は城下町カノーと地上の町バルシャワの護りに就いて、もしもの亡霊襲来に備える。
冒険者達は共に戦う分隊長三人と多く意見を交わす。地下の『ズノーリム』はそっくりな二区画が隣り合う双子都市であり、カーデリを含めて亡霊等は片側しか利用していなかった。
亡霊等のいない区画での調査によって前回の地図作りは捗った経緯がある。今一度カーデリが待機しているであろう屋敷周辺を詳しく調べた上で作戦を実行すべきだと冒険者達は唱えた。
三分隊にとっても地図や伝聞より自分達の目で都市の状態を確認した方がよいと話がまとまる。稀に迷い込んでくる亡霊に注意しながら、無人の区画をもう一度調査する事が決まった。
「過去にした先祖の過ち‥‥。それを無きものにしようとは思わぬ。しかし民を守るのが領主たる務め。どうか、カーデリを――」
アンゼルム領主も会議に現れて、その場の全員に声をかけた。
ほどなくして話し合いは終了し、アンゼルム領主が用意してくれた晩餐のご馳走も程々に地下へ向かう者全員が早めに就寝した。
●亡霊が待つ地下都市へ
翌朝、空を駆ける手段を用いて全員で新生の町バルシャワへと向かう。
「亡霊のせいでまだ手つかずなのだな」
ツィーネは空飛ぶ絨毯から地上の景色を見下ろす。修復と整地の予定があるものの、地下から現れる亡霊のせいで工事は遅々として進んでいなかった。
山々に囲まれているこの土地はついこの間まで古き土地の呼び方でバティ領と呼ばれていた。ファントムとなり果てたカーデリが人であった大昔に治めていた頃の名である。
人々が新たにつけられた名であるバルシャワと呼ぶにはきっかけが必要だ。忌みをすべて過去にし、新たなる未来への展望が見えた時に人々は初めて口にするのだろう。
塔近くに着陸をし、すでに配備しているロンシャル騎士団の者達といくつかのやり取りを終える。
そして塔の巨大な地下への穴を降りてゆくのだった。
●無人の区画
「隠し扉はなさそうだが、問題は‥‥」
エイジはカーデリの屋敷とうり二つの物件を調査していた。壁や床、天井も探って不自然な個所がないかを洗いだす。カーデリといざ戦いという時に逃げられてしまっては困るからだ。
とはいえ相手はファントムである。魔力が込められているなどの特別な障壁がない限り、すり抜けてしまうに違いない。
それでもエイジがこだわったのには訳がある。カーデリは人並みの知識と判断力を備えたゴースト系アンデッドだ。故にこれまでの行動から道理が感じられた。逃げるとしても闇雲にするのではなく、隠し通路などの道しるべがあるのならそれに沿うだろうと。
ロンシャル騎士団によれば、カーデリが亡霊等を率いて地上のバルシャワに現れた時だけ、ちゃんとした撤退が行われている。地表と地下のズノーリムに横たわる魔力の込められた遮蔽物をすり抜ける道筋をカーデリは知っているのだろう。地上に繋がる通路か、もしくはそれに似た脱出路があっても不思議ではなかった。
その他に玉座らしき品がないかと探してみたが、特には見あたらない。ただ、地下二階の部屋に儀式めいた品々が並んでいたのが気にかかった。
「廊下は弓で狙えるとして、問題は室内か‥‥」
リンカは斥候として先にカーデリの屋敷へと潜入し、状況を把握する役目を買って出ていた。それには敵に発見されず、効率よく屋敷内を探らなければならない。屋敷内を歩いて地図ではわからない細かな部分を頭へと叩き込んでゆく。
「換気用の空気穴があったで〜。ここからなら亡霊が彷徨ってきぃ〜へん限り、結構な部屋を覗き見できそうやなぁ〜」
天井付近の穴からイフェリアが顔を出してリンカに話しかける。小柄なシフール・レンジャーにはうってつけの移動通路である。
「今のところいませんね」
「大丈夫そうですわ」
薄暗い区画の上空ではオグマとクレアが空飛ぶ騎獣に乗って警戒を続けていた。今、カーデリに自分達の存在を気づかれる訳にはいかなかった。
隣の区画に繋がるトンネル状の通路付近には多くの者が待機する。ツィーネ、リスティア、シュネー、国乃木、円巴、西中島の姿もある。
「もしも亡霊が現れたら、ホーリーフィールドで戻れないように塞ぐから」
「わたしは即座に倒そう。‥‥浄化したいところだが、その余裕がないのがつらいところだな」
ツィーネとリスティアは崩れて地面に転がる石のブロックの上に座りながら通路の出入り口を監視する。他にもロンシャルの騎士達が多く待機していているので、足止めさえ成功すればまず討ち漏らす事はないだろう。空中を漂っていたとしても、魔弓から放たれた矢ならば何の問題もない。
「シュテルン、がんばってね」
シュネーは連れてきたグリフォンの背中を撫でてあげる。しばらくはオグマ、クレアと交代で空中からの監視を続ける。いざ戦いになれば、空中を駆って仲間達の盾になるつもりであった。
「皆様のお役目は正しく命懸けのもの‥‥。死霊達の注意をそらし、態勢を整えるのに必要なら躊躇わず発動した旗を投げ捨てて下さい。生の輝きに勝る宝は無いのですから」
国乃木はロンシャルのある騎士に引魂旛などを貸し出した。どれもアンデットを迷わせるのに有効な品々だ。
「そうなのか。それは残念だ」
円巴はレミエラを騎士達に貸そうと考えていたが、難しいようで取りやめる。かなりの時間と安全を要するので依頼の間に武器へのレミエラ付与は行えなかった。すでにレミエラが取り付けられた品なら、おそらくは大丈夫であっただろう。
「これを使ってくれ」
西中島はホーリーガーリックと呼ばれる品をノリアッテ分隊長に渡した。燃やして使えばアンデッドも弱体化するはずである。
ロンシャル騎士団と冒険者達は交代で区画内を回って下見をした。その際、戦術の摺り合わせも行われる。
下調べの間に冒険者とロンシャル騎士団が待機する区画に迷い込んできた亡霊は三体。どれも瞬時に倒されてカーデリには知られていないはずである。
すべての準備が整った七日目の早朝、カーデリ討伐の作戦は開始された。
●渦巻く青白い炎
冒険者十一名をロンシャル騎士団三分隊六十名が取り囲むような陣形で亡霊の住まうズノーリムの区画へと一気に進攻する。区画間を繋げるトンネルに漂っていた亡霊を蹴散らしながら。
弓を得意とするパナピス分隊とケラース分隊が立ち止まって弓矢を構えた。
天井の一部からもたらされる外光はわずかなはずなのに、青白い亡霊等がたくさんいるせいか亡霊が住まう区画の方が明るく感じられた。おかげで狙いもつけやすい。
冒険者を含めたペテオス分隊はそのまま直進し、カーデリがいると思われる強固な屋敷の五十メートル手前で足を止めた。迫る亡霊等との戦いが増す中、二人の冒険者が身を隠しながら屋敷へと先行する。リンカとイフェリアである。
屋敷に突入しておきながらカーデリの姿がなければ作戦のすべては水泡に帰す。さらに屋敷全体に何らかの罠が仕掛けてあるとすれば、全滅の憂き目に遭う可能性も高かった。それらを事前に防ぐ為にリンカとイフェリアが潜入したのである。
いくつもの矢が宙を割き、青白い炎の群れが悲鳴や雄叫びをあげながら舞う。魔力が込められた武器を使っているので亡霊に立ち向かえる。しかし手応えは普通の敵を討つのと何かが違う。まさに幻と戦っているが如く、悪夢のような感覚が続いた。
(「しばらく粘っていてくれ」)
(「待っといてや〜」)
リンカとイフェリアは細い建物の隙間をすり抜けて屋敷の敷地へ辿り着く。ここまで双子の都との配置はまったく同じであった。
壁の出っ張りを利用して二階へと登り、屋敷内に潜入する。通風口へと入るイフェリアと別れてリンカは壁づたいに歩を進める。
この場で亡霊に見つかり、騒ぎがカーデリに伝われば作戦に重大な支障をきたす。失敗する訳にはいかなかった。
壁から青白い炎が飛びだしてきても動じずに息を殺してやり過ごした。あらかじめ怪しいと決めておいた部屋を一つずつ確認してゆくリンカである。
(「狭いし、暗いな〜。どこまで続くんやろ」)
その頃、イフェリアは狭い縦の通風口を静かに下降していた。身体を壁に擦り付けながら跳び続けるのは結構な苦労である。気分が萎える前に仲間達の奮闘を思い浮かべてやる気を取り戻す。その中にかなりエッチな想像が含まれていたのは誰にも内緒である。
屋敷の一階から上の部分はリンカの担当なので、イフェリアは地下を調査した。敵に発見されないようランタンをつける訳にもいかない。いくら目がよくても、さすがに真っ暗闇の中では何もわからなかった。手探りをしながらの長い時間が経過する。
唯一の救いは敵である亡霊等が青白く輝いていることだ。この状況下で見逃すはずはなかった。
(「次は壁に出っ張りがある方に曲がるんやったな」)
頭の中に叩き込んだ地図を思いだしながら進んでゆくと、イフェリアはやがて一番地下にある広間の天井近くへ辿り着く。
(「きれーな姉ちゃん、みっけたで〜。‥‥亡霊やけど」)
眼下にいたのは気品のある長い髪の二十歳前後の女性。青白く輝いて半透明のファントムのカーデリであった。他には側近らしき亡霊五体の姿もある。
イフェリアは一旦戻り、前もって決めてあった小部屋でリンカにカーデリ発見を告げる。それが終わるとカーデリの監視を続ける為に再び地下へ戻ってゆく。
「今こそが動く時!!」
リンカは仲間達へ合図を送る為に敷地の庭へと飛びだすと、力強く弓の弦を引いて火矢を薄暗い地下区画の宙へと放った。
「任せて!」
「行け!」
「倒して来い!」
パナピス分隊長、ペテオス分隊長、ケラース分隊長が戦っていた冒険者達に叫ぶ。
各々に応えた冒険者達は激しい戦闘の場を離れる。一部ロンシャル騎士団の騎士達も同行した。
グリフォンやペガサスを駆る仲間に相乗りさせてもらい、石畳すれすれを飛んで目指すはカーデリのいる屋敷。
「待ってて。リンカとイフェリア!」
「今こそ永遠の安寧を‥‥」
リスティアと国乃木は相乗りさせてもらいながらアイテムで魔力の回復を図る。西中島とクレアも補給したいところだが、今は手綱を握っているのでわずかでも余裕が出来た時に行うつもりであった。
矢や魔力回復の薬はロンシャル騎士団からそれなりの数が支給されていた。ただ、間に合わなければ誰もが自前のものを消費するつもりでいる。
「あそこに降りよう!」
「承知した!」
西中島の背中に掴まるツィーネの瞳に亡霊等の接触攻撃を身軽さで避けているリンカの姿が映った。
建物間近に全員が着陸するとリンカが一番地下にカーデリがいると伝えた。
「案内は任せてくれ」
「これを使って」
一番建物に詳しいエイジにリスティアが出現させたばかりのホーリーライトを手渡す。アンデッドを近寄らせない輝きが屋敷の内部を照らした。
一緒に来たロンシャル騎士団の五名は追ってきた亡霊の対処として庭先に残る。陽動が効いたおかげで屋敷内の亡霊はかなり少なくなっていた。
冒険者達の足音だけが廊下に響き渡る。寄ってくる亡霊等を排除しながら建物内を駆け抜ける。
「相手は私だ!!」
突然天井抜け出てきた亡霊等が背後から急接近する。円巴は二つの刃から疾風のような衝撃を放って退けた。さらに追い打ちをかけてゆく。
「カーデリの元には行かせません!」
続いてオグマが魔弓から放った矢で漂う亡霊等を仕留めた。国乃木に回復してもらったリンカも弓での遠隔攻撃に加わる。
「先に行け! ここは死守する!」
円巴の言葉に一瞬躊躇したツィーネであったが、信じて目指すカーデリのいる地下へと急ぐ。もしもの為にとリスティアがホーリーライトの光球を一つ、円巴の元に置いてゆく。
「ここから一気にたどり着けるはず」
エイジを先頭に冒険者達は長い螺旋階段を駆け下りる。
「この扉の向こうか! 下がっていてくれ!!」
西中島が石製の扉に取り付けられた錠に向かって剣を勢いよく振り下ろす。激しい火花と共に閉じられていた扉がずれた。後は全員で押して何とか通れる程の隙間を開ける。
「カーデリ! 我は四大属性を操る魔術士にして、炎の精霊との契約者 クレア・エルスハイマーですわ!」
クレアはカーデリに向けて伸ばした腕から稲妻を走らせるとペガサスに乗って宙に浮かんだ。
「正しき心と強き力を持つならば、悪の暴力に屈せず守るべき『もの』のため命を賭して戦い抜く‥人それを『勇気』という‥闇を操り心を蝕む者達を、俺は決して許しはしない!」
西中島もまたペガサスで浮かんでカーデリが天井を抜けて逃げるのをクレアと共に防いだ。
「ツィーネはん、そこの石柱の中に亡霊が隠れておるで!!」
隠れていたイフェリアが姿を現してツィーネを含めた仲間達に注意を呼びかける。
「これでどうだ?」
エイジは魔力の込められた網をかけた上でホーリーライトを石柱に近づけた。すると亡霊二体が慌てて飛びだしてくるものの、網に移動を遮られる。
「仲間達に指一本触れさせたりしないわ!」
グリフォンを駆るシュネーが網の隙間から逃げようとする亡霊等を盾で押さえてからアンデッドスレイヤーで一体を仕留める。もう一体はツィーネによって片づけられた。
他に隠れていた亡霊三体もイフェリアによって潜んでいた場所が暴かれる。抵抗はされたものの、冒険者達は次々と倒してゆく。
「傷付きし魂達に安らぎが訪れん事を」
国乃木はピュアリファイで亡霊等の最後を看取る。さらに仲間達へ補助魔法をかけていった。
「カーデリ以外のアンデッドはこの周辺にはいないわ」
デティクトアンデッドで周囲の状況を調べたリスティアがツィーネへと振り向く。
頭上では西中島とカーデリの戦いが繰り広げていた。その間にリスティアがペガサス達と協力してホーリーフィールドを内壁周辺に張り巡らせる。加えてオグマとクレアがスクロールのアイスコフィンで周囲の石壁を凍らせていった。
すべてはカーデリを逃がさない為の策であった。
「何をする貴様達! このわたしをズノーリムへと追いやっただけでは気が済まぬのか!」
「まるで無抵抗のような物言いだな、カーデリ。‥‥すべてをアンゼルム領主の先祖に奪われた恨み、わたしにもわからない訳ではない。だが、その仕打ちをした者達はすでにこの世にはいないはず。すべて過去の出来事なのだ」
ツィーネが頭上で輝くカーデリを見上げる。戦っていた西中島もしばしの間だけ剣を振るうのを止めた。
この時、追ってきた亡霊等をすべて倒した円巴も地下二階の広間に足を踏み入れる。
「わがダマー家の一族には残ったのはブノイル家への遺恨と、この頼りないアンデッドの姿のみ。あやつらの血を引くアンゼルムと何喰わぬ顔で暮らす領民を道連れにしてこそが、ダマー家の者に残された最後の道。わかったか! 小賢しい女よ!!」
カーデリの様子に危険を感じた冒険者達は周囲に張られていたホーリーフィールドへと飛び込んだ。
次の瞬間、ファイヤーボムの火球が膨らんで炸裂する。狭いが故にクレアが使用を控えていた精霊魔法だ。カーデリは昔、ウィザードであったらしい。
カーデリ自らも傷ついたようだが、消失したホーリーフィールドもいくつかあった。壁をすり抜けて逃げようとするのをグリフォンに乗ったシュネーが身体を張って阻止する。
そこの壁が薄くて奥に隠し通路があるのはエイジの調査ですでに判明していた。
エイジが手裏剣で、リンカとオグマが矢で威嚇する。その間にオグマがスクロールのアイスコフィンで逃げ道となる壁付近を凍らせて塞ぐ。
もう一度ファイヤーボムを爆発させたカーデリはすぐさま急降下する。軌道の直線上にはツィーネが構えていた。
国乃木とリスティアが殆ど同時に高速のピュアリファイをぶつけてくれたおかげでカーデリの勢いは弱まる。ツィーネは身を翻しながら魔剣をカーデリの左足に突き立てた。そして円巴の斬撃がカーデリを完全に失速させる。
宙に浮かぼうとしても飛翔騎獣に跨った西中島、クレア、シュネーが頭上にあってカーデリは飛び立てない。その隙間に浮かんでいたイフェリアがライトニングサンダーボルトをカーデリ目がけて落とした。
稲妻の衝撃に悲鳴をあげたカーデリの肩口を狙って西中島が深く剣を突き刺す。
「哀れなる魂に‥‥セーラ様の祝福を!」
リスティアが力のすべてを振り絞ったピュアリファイによってカーデリは仕留められた。
眩しいほどに輝いていたカーデリの青白い炎の輝きが消え去り、辺りを照らすのはホーリーライトの光球だけになる。
ツィーネだけでなく全員が終わりを感じたが、外ではまだロンシャル騎士団と亡霊等の戦いは続いていた。祈る暇はなく、急いで戻って加勢する。
約二時間後、地下の都ズノーリムから亡霊の青白い炎はすべて消え去る。すり抜けて地表に逃げた亡霊がいたとしても、バルシャワに待機しているロンシャル騎士団の他の分隊によって倒されているのに違いなかった。
●そして
まずは治療が行われ、それから体力の回復が図られると全員で地上へと帰還する。
報告を聞いたアンゼルム領主は喜びの表情と同時に悲しみの瞳も浮かべた。先祖の過ちがあったからこそのあまりに長い亡霊との争いだったからだ。
祝いの晩餐を楽しむには誰もが心と身体が疲れすぎていた。あらためて行われる事になり、冒険者達はパリへの帰路につく。
「テオカ、ここで待っていてくれたのか。戻ったぞ!」
パリのギルドを訪れるとテオカが冒険者達の帰りを待っていた。一緒のトノスカが気を利かせてくれたのだろう。
ツィーネは涙を浮かべながらテオカを抱きしめる。その様子を仲間達は微笑みながら見守った。