一抹の不安 〜ツィーネ〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月24日〜03月01日

リプレイ公開日:2008年03月03日

●オープニング

「どうしようか‥‥」
 日中の冒険者ギルド。女性冒険者ツィーネは掲示板の前で迷っていた。
「ツィーネお姉ちゃん、どうしたの?」
 ツィーネが育てている男の子、テオカが見上げる。一緒に市場まで買い物に出かけた帰りであった。
「何でもないんだ。少しだけ待ってくれるかな?」
「うん!」
 笑顔で返事をするツィーネにテオカは元気よく答えた。だが掲示板に振り返ったツィーネの表情が曇る。
 ツィーネはゴースト系アンデットが絡む依頼によく参加していた。報われず、この世をさまよう幽霊を苦しみから救う為に。
 いつもなら二の句もなく参加するのだが、気乗りはしなかった。
 掲示板に貼られた依頼書には、パリから離れた町の建物に幽霊が出没するとある。
 建てられた当初は宿屋であったが、その後に貸し部屋となったらしい。今は無人のはずだが、かつては住人もかなりいたようだ。
 依頼とは建物にあるはずの遺留品を取ってきてもらいたいという内容であった。
 特に不思議な点はない。
 だがツィーネには引っかかるものがある。
(「とにかく参加はしてみよう‥‥。すべてはそれからだ」)
 ツィーネはテオカをテーブルにつかせ、カウンターで参加の手続きを行う。
 依頼主は商人で男性三十歳。今回が初めて出す依頼のようだ。
(「どうして遺留品があるのを依頼人は知っているのだろうか‥‥。まあ、依頼の本筋とは関係ない話ではあるのだけど」)
 手続きを終えるとツィーネはテオカと共にギルドを立ち去った。

●今回の参加者

 eb0339 ヤード・ロック(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb7341 クリス・クロス(29歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2838 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

エフェリア・シドリ(ec1862

●リプレイ本文

●出発
 一日目の朝、冒険者達は空き地の馬車周辺へと集まった。
 まずは顔合わせをしてから、それぞれに出発である。
「これで連絡してくれ。連絡先の町は――」
 エイジ・シドリ(eb1875)は妹のエフェリアにシフール便代を手渡し、調査を頼んだ。依頼書にあったロジャー・グリムについてである。
「待たせた」
 エイジは空飛ぶ木臼に座ると、貸してくれたヤードに声をかけた。
「それじゃあ俺は先に町へ向かってるぞ、と。ツィーネと一緒に行けないのは寂しいけどな、と」
「町で会おう、ヤード。エイジ、気をつけろよ」
 ヤード・ロック(eb0339)はツィーネに手を振るとフライングブルームで大空に舞い上がる。エイジも空を飛び、目的の町の方角へと消える。
「エイジさんにもお貸しましたが、念の為、ツィーネさんにもこちらを」
「ありがとう。もしもの時には使わせてもらうよ」
 クリス・クロス(eb7341)がツィーネにセブンリーグブーツを手渡すと、ペガサスのホクトベガに跨る。飛んでいった仲間の二人を追いかけるように大空を駆けていった。
「それでは私達も行きましょうか」
 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)は愛馬スカアハ、リンカ・ティニーブルー(ec1850)の愛馬蓮華、クリスの愛馬ブリッドを馬車に繋げ終わり、御者台に座る。御者はツィーネと交代で務める約束となっている。ペガサスのセルフィナには上空の監視をお願いしてあった。
「テオカ、またね。ツィーネ、出発よ」
 リスティア・バルテス(ec1713)はテオカに一声かけてから、ツィーネと一緒に馬車へ乗り込んだ。
「じゃあね〜」
「気をつけてください。テオカさんを家までちゃんと送ります」
 馬車は発車し、見送りのテオカとエフェリアが徐々に遠ざかってゆく。手を振っていたツィーネが席に座り直すと、馬車内には微妙な空気が流れていた。
 リスティアの視線をツィーネが追うとリンカの頭に辿り着く。
 なぜかうさぎ耳スタイルのリンカである。
 無言の小一時間が経った後、耐えきれなくなったリンカ自らが口を開く。
「視線が耳に向き難くなるし‥感覚が鋭くなるから良いだろうと、知人に勧められて」
 顔を真っ赤にしながらリンカは手振り身振りの説明だ。
「本人がいいのなら‥‥ね」
「なんというかその‥‥屋内ならともかく外ではやらないほうが‥‥」
 リスティア、ツィーネとも言葉を詰まらせながら答える。
「にっ、似合わないのはわかっているのだが――」
 赤い顔をさらに赤くさせて説明するリンカであった。

 夕方、目的の町スードラナに先行組は辿り着いた。
「さて、それじゃあ俺はまずは酒場にいってくるかな、と」
 ヤードはさっそく情報収集をするために駆けてゆく。だが一度立ち止まってエイジとクリスを振り返る。『‥‥ナンパじゃないからな?』と何故か断ってから、街角に消えた。
「本格的には明日からにするが、建物を外から眺めてくるつもりだ。見取り図が手に入るといいのだが。建築家とか建てた者の子孫とか現在の土地の所有者を探してみるつもりだ」
 エイジはまず問題の建物周辺に向かってみるつもりであった。
「自分は警護隊、教会に記録がないか伺ってみます。集合場所はあの宿屋ですね」
 クリスは賑やかな一角を指さす。依頼人の計らいで、町にいる間は屋根のある場所でゆっくりと休めそうだ。話しは仲間全員に伝わっている。
 エイジとクリスも離ればなれとなり、先行組の調査は開始された。

 日が暮れて馬車組は野営をしていた。
 少しでも暖かくする為に、全員でブリジットのテントに入って休む。ランタンが灯る中、お喋りが続いていた。
「テオカ、元気だったね」
「あれでもやっぱり男の子でね。けっこうイタズラも多くなってきた」
 リスティアとツィーネは寝ころびながら話す。リスティアはある友人の事を話題にしようから思ったが、内緒にしなければならない事が多く、ほんの少しだけ話した。
「テオカ君、今いくつです?」
「もうすぐ七歳になるな」
 ブリジットも気になっていたようで話題に参加する。それと今回から調査記録として絵を描くとツィーネに伝えておいた。
「‥‥‥‥外でつけるのはやめておく。あのバンド‥‥」
 たまたま話題が途切れた時、ぽつりと背中を向けて座っているリンカが呟く。
「やだな。まだ気にしていたの。リンカらしくないよ〜」
 リスティアがリンカの背中を指でつつく。
「リンカさん、仮装パーティでは栄えると思いますよ」
 ブリジットは振り向いたリンカに笑顔で頷く。
「戦っている最中はいいかも知れないな。少しでも有利にするのが戦いだ」
 ツィーネは上半身を起こすとリンカの寝袋を整える。
「そろそろ寝ましょうか」
 ブリジットはリンカが寝袋に入るのを見届けてからランタンの火を落とした。

●町
 二日目の夕方、馬車組はスードラナ町に到着する。
 宿屋へと向かい、先行組の三人と合流した。
 ヤードによれば、問題の建物に付近の住民は誰も近づかないという。幽霊の噂が立ち、徐々に住人が減って廃墟になったようだ。
 建物は他の住居から空き地を挟んで少し離れた位置にあり、幽霊も建物の外には出ないらしい。なので町民の間ではないものとして扱われている。
 エイジは建物の構造を調べてきた。設計者などはいなかったが、描き上げた外観図を元住民に見せて間取りを教えてもらったのだ。大体の配置は当たっているはずである。
 クリスの調査によると、現れる幽霊は二体である。常に姿を現している訳ではないらしい。今までにも幽霊退治はされたようだが、どれも失敗に終わっている。冒険者ギルドを通じた退治依頼は、自分達が初めてのようだ。
 パリのエフェリアからエイジの元にシフール便が届いた。エイジの似顔絵付き手紙である。結論としてロジャー・グリムの正体はわからない。名前はパリに広まっていないようだ。
 明日からの本格的な行動に備え、話し合いが終わると早めに就寝する冒険者達であった。

 三日目、冒険者達は問題の屋敷へと向かう。
 町中にあるとはいえ、人々の生活から外れた場所に建物はあった。仲間全員で近隣の住民達に聞き込みをする。
 いくつかの事がわかる。
 幽霊は昼も夜も出没するらしい。
 ロジャー・グリムについては知っている者が一人だけいた。とても物静かな人物で礼儀正しい人物だったようだ。ただ、それだけに彼に対しての記憶が薄く、住んでいた部屋の場所までは覚えていなかった。一人暮らしだったらしい。そして廃墟になった後のロジャー・グリムの消息は不明である。
 人気がないのでリンカはうさぎ耳をつけて建物に近づいた。
 戸が外れた窓に、一瞬だけ人が見える。声をかけるが返事がない。
 誰も住んでいない建物だ。一旦リンカは建物から離れて仲間に相談した。
 見かけたのは老翁一人。
 すでに暮れなずむ頃で、建物に踏み入れるには遅い時間であった。物探しをするのに暗くなる夜に向かうのは愚かしい事だ。
 実際に建物へ入るのは明日に持ち越されるのだった。

●謎の箱
 四日目の朝、冒険者達は建物へと向かう。
「さて、それじゃあ探索開始といくかな、と。問題ないとは思うがツィーネも気をつけろよ、と」
「気を引き締めていこう、ヤード」
 ヤードがツィーネに声をかけるのをきっかけにして、全員が建物に足を踏み入れる。
 木造のせいか、一歩歩くたびに廊下が軋む。
 窓の戸はほとんどが壊れていた。部屋に入るためのドアは開いていたり、閉められていたりといろいろである。
「札がかかっているね」
 リスティアはドアをいくつか見て確認する。ドアには住んでいた住居人の名前札が取り付けられている。
「闇雲に探すよりも、まず『ロジャー・グリム』の札を探さないか?」
 エイジの言葉に仲間達が同意し、名前札を確認してゆく。
 簡単にロジャー・グリムの部屋は発見される。二階の廊下奥の部屋であった。
「こりゃいつかわからないが、先客がいたな、と」
 ヤードが陽が射し込む部屋を見て頭をかく。すでに荒らされて、物が床にばらまかれて酷い有様である。
「わたしはここで待機する。調査は頼んだ」
 ツィーネは廊下へ残った。魔剣に手を添えながら周囲を警戒する。
「ではわたしは大体の様子を」
 ブリジットが大まかな部屋の様子を絵に描き始める。
 他の冒険者達は窓を全開にすると部屋の調査を開始した。ランタンを灯して、なお暗い場所を照らしたりする。
 窓の外では二頭のペガサスが飛んで、時折補助の魔法をかけてくれた。クリスから借りた道返の石をエイジは発動させて持っている。幽霊対策も万全だ。
 部屋にはたくさんの木板があった。どれにも腕輪や指輪などの宝飾品の絵が描かれている。その他にある物といえば、彫金細工用の道具類だ。
「ロジャー・グリムとは、彫金師だったのでしょうか?」
 クリスは部屋をぐるりと眺めた。
「腕はわからないが、なかなか、いい道具を揃えている」
 エイジは机に並ぶ道具類を見て呟く。
「ん?」
 リンカは移動した時に気づく。どの床も程度の差はあれ軋むのだが、一個所だけ明らかに音が違った。
 仲間に伝え、床板を剥がしてみると何かが見つかる。取りだしてみると、金属製の小箱であった。
「これだな」
 リンカが手にする小箱は、ずしりと重かった。
 床下には他に何もなかった。
 ないと思われたのだが。
「きゃああ!」
 床下を覗き込んでいたリスティアは、飛び跳ねるように顔をあげる。
 間髪入れず、床下から何か青白いものが飛びだす。
 正体はレイス二体であった。
 ツィーネが魔剣を抜き、廊下から部屋へと駆け抜ける。小箱を抱えるリンカの前に立ち、レイス一体に一撃を加えた。
「何故にこの世に迷う!」
 ツィーネがレイスに問いかける中、ヤードはテレパシーを使ってみる。だがレイスの思考はめちゃくちゃで会話は成り立たない。
「セーラ様の名において‥迷える魂に救済を!」
 リスティアは自分が扱える一番難しいピュアリファイを唱えた。しかし失敗して不発に終わる。
「もう一度!」
 エイジが作っておいた簡易縄ひょうを飛ばしてリスティアを狙うレイスを牽制する。リスティアは再び唱えた。
 ブリジットが鎮魂剣の一振りでレイスの動きを止める。そして発動したリスティアのピュアリファイで一体のレイスは浄化する。
「行かせない!」
 ツィーネが廊下に飛びだそうとしたレイスの前で魔剣を構えて壁となる。クリスのピュアリファイが発動し、残るレイスが悲鳴をあげた。ほとんど同時にリスティアのピュアリファイが唱えられ、最後のレイスも浄化してゆく。
 冒険者達はレイスが残っていないのを確認する。
 建物を立ち去る時、ツィーネを始めとして、レイスに思いのある者達は祈りを捧げた。
 ツィーネは建物を振り返る。何か試されたような気がしてならなかった。

●疑惑
 五日目の朝、冒険者達はスードラナ町を後にした。行きとは違って全員馬車に乗っての帰り道である。
 昨晩のうちに小箱は冒険者達によって調べられる。
 リンカとエイジによって鍵開けが試されるが無理であった。道具があれば、あるいはリンカなら開けられたのかも知れない。
 小箱はとても装飾性が高かった。
 リンカがヤードからスクロールを借りてリヴィールポテンシャルを使ってみると、見かけ通り銀製であった。リスティアがスススッと小箱を持つリンカから離れていったのが、ツィーネには印象的だった。
 ブリジットは絵を描き上げる。レイス二体の姿を思いだし、そして小箱も描いておく。日の出と共に起きて、似顔絵を建物の近隣住民に見せたブリジットであったが、これといった情報は得られなかった。ロジャー・グリムにも似ていないらしい。描き上がった絵はツィーネに預ける。
「彫金や宝飾品関連からロジャー・グリムの何かしらがわかりませんでしょうか‥‥。ツィーネさんは気にかかるんですよね?」
「そう‥‥、依頼人とロジャーとの繋がりが今一しっくりとこないんだ。パリに帰れば依頼人に会えるはずだ。そうしたらわかるかも知れないな、クリス」
 揺れる馬車の中でクリスとツィーネは言葉を交わす。
「依頼人がどんな奴なのか‥‥、それまではゆっくりだな、と」
 ヤードが呟きながらツィーネの横の椅子に深く座る。
「もうそろそろだな。交代しよう、ブリジット」
 ツィーネが御者台に行ってしまい、ヤードは座りながらもずっこけた。
「あら? どうかしましたか?」
「なんでもないぞ、と」
 ツィーネと交代で馬車内に戻ってきたブリジットに訊ねられるが、ヤードは目を閉じてふて寝を始めた。

 六日目の夕方、馬車は無事にパリへ到着する。
 まずはクリスの意見で教会に小箱を調べてもらったが怪しい点はなかった。それから冒険者ギルドへと向かう。
「よくやってくれました。皆様に感謝致します」
 ギルド員から紹介された依頼人はとても紳士的な中年男性であった。冒険者達は互いに顔を見合わせる。
 依頼人がツィーネから小箱を受け取る。すると追加の謝礼金が入った小袋をツィーネに渡した。その時一瞬だけだが、ツィーネは依頼人の手に触れる。
「その箱の中身、何が入っているのか興味があるのだが」
「すみませんが秘密です。ただ‥‥今回に関連して新たな依頼を出すかも知れません。その時はお願いできますでしょうか? 優秀な皆様にお願いしたく考えております。では、ご機嫌よう」
 依頼人は帽子を被り、冒険者ギルドを立ち去った。
「やれやれ‥‥どうやらこれだけじゃ終わりそうになさそうだな、と」
 ヤードが呟く。
「あれは職人の手だ。もしくは‥‥。あの依頼人の正体は一体」
 ツィーネは依頼人が消えていったギルドの出入り口を見つめ続けた。

●ピンナップ

リンカ・ティニーブルー(ec1850


PCシングルピンナップ
Illusted by 響 零