●リプレイ本文
●拠点
一日目の朝、冒険者達はギルドの個室に集まった。
『眩しき翼の王冠』と名がついたものだけに、やはり貴族や富豪の所有物であったのではないかと意見がまとまり、さっそく行動開始となる。
「ツィーネ、頑張ろうね☆」
「ティア、気をつけてね。何かあったら連絡よろしくな」
リスティア・バルテス(ec1713)とツィーネは別れ際挨拶を交わす。
「それと‥‥」
リスティアはツィーネの側にいるヤード・ロック(eb0339)へ振り返る。
「二人きりだからって変な事しちゃだめだからね」
「俺は紳士なんだぞ、と」
ヤードは目をそらして惚けた。
「おーい。ティア! いくぞー」
道の遠くでリンカ・ティニーブルー(ec1850)がリスティアを呼んだ。今回は集まったメンバーの中で二人組となって行動する。リスティアとリンカは同じ組である。
「じゃあ、またね〜」
手を振りながらリスティアがリンカに駆け寄ってゆく。
「元気ですこと。それでは私達も行きましょうか」
「そうしよう。まずは宝飾店だな」
国乃木めい(ec0669)が、屈んでセブンリーグブーツを確かめるエイジ・シドリ(eb1875)に声をかける。国乃木も同じ物を履いていた。
「それでは。テオカ君をくれぐれも」
「ツィーネ・ロメール、また後でな」
国乃木とエイジが街角に消える。
ヤードとツィーネも調査を開始するが、その前にする事がある。ツィーネの自宅に寄ってテオカを連れだした。
これからハインツ・ベルツの屋敷を訪ねるが、しばらくの間、テオカを預かってもらうつもりであった。許可が得られれば拠点にさせてもらう。仲間にも趣旨は伝えてある。
「今日は、おいらに任せるのだ」
現れた玄間がテオカの面倒を見てくれるという。
「ハインツに迷惑をかけることになるな」
「ツィーネの為になるなら、ハインツはきっと二つ返事だぞ、と」
ヤードがツィーネに答えながら見下ろすと、テオカが笑っていた。
「ありがと。ヤードおじちゃん」
「お、おじちゃんはないぞ、と‥‥」
テオカの何気ない言葉にヤードはがくっと肩を落とす。ツィーネがなだめても、テオカがおにいさんと言い直しても、しばらくヤードは元に戻らなかった。
「もちろん歓迎しますよ。お部屋を用意致しましょう。『眩しき翼の王冠』については初耳です。なので、関係者については心当たりがありません。少し時間を頂けますか?」
ベルツ邸の主、エルフの少年ハインツは快くヤードとツィーネの願いを聞きいれる。テオカは別室で玄間と遊んでいた。
(「ハインツに頼むのはしゃくだがしょうがないな、と」)
どうにもツィーネに対するハインツの態度が気に入らないヤードである。
まずはこれまでロジャーに関してわかったことをハインツに話すツィーネだった。
●宝石店
「私達は、眩しき翼の王冠‥と呼ばれる品を探しているのですが、御心当たりはありませんでしょうか?」
宝飾店に入ると国乃木はさっそく店員に話しかける。
「実は‥この品の噂がある場所では必ずと言っておぞましい事件があり‥後に死霊が彷徨う事態になっているのです」
「そういわれましても。店主と代わりますので少々お待ちを」
二人いたうちの片方の店員が店の奥へと消える。
エイジはフロア内に展示されていた宝飾品をチサトと共に眺めていた。
「高いのだろうな‥‥。値段はわからないが」
「そうですね。予想ではこれぐらいでしょうか?」
エイジはチサトが指先で示す数字に何度も瞬きをする。確かにキレイではあるが、どうして多くの女性は宝石類を欲しがるのだろうとエイジは不思議がる。
(「美少女はそのままで充分美しいのにな‥‥」)
「どうかしましたか?」
チサトを見ながら考えていたエイジは我に返った。
「なんでもない」
誤魔化したエイジは、別の観点から宝飾品を観ることにする。どれだけ精巧な彫金がされているかをだ。後々になって覚えた知識が役に立つかも知れない。
店主がフロア内に現れる。国乃木と一緒にエイジとチサトも話しを聞いた。
「あまり有名ではないのですが、父である先代から子供の頃、聞かされたおとぎ話があります。何でも大昔のある国の王様がより豪華な王冠が欲しくなり、注文を出したのです。受けた彫金師は精魂を込めて王冠を作り上げます。ですが途中で、王位を狙っていた王様の弟の陰謀によって王冠に呪いがかけられてしまう。被った王様はしばらくして落馬で死んでしまったそうです。弟は企み通りに王位を継ぐが、これまたすぐに死んでしまう。呪いを引き受けた魔女は、元々王家に仕えていたのに追いだされたのを恨んでいたのです。それから様々な人の手に王冠が渡るものの、誰もが不幸になってしまう‥‥。その形から次第に『眩しき翼の王冠』と呼ばれるようになる。まあ、よくありそうな話ですよ」
店主の話しを聞き終わると、お礼をいって冒険者三人は店を立ち去る。他にもいくつかのお店を訪ね回るが、これ以上の情報は得られなかった。
●復興の村
「なんとか到着出来たな」
「夜になっちゃった。遠いね」
一日目の宵の口、リンカとリスティアはセブンリーグブーツを使って、パリから遙か離れたエテルネル村に到着する。
かつて冒険者として盗賊団と戦っていたデュカスから話しを聞く為である。村の位置はギルドの受付嬢シーナから教えてもらったのだ。
門の前に立つと見張りの村人に声をかけられる。事情を話すと村の中に入れてくれた。
さっそくリンカとリスティアは青年村長デュカスの家屋を訪ねた。
「えっと、『ウエスト・オリアイリ』『ロジャー・グリム』『眩しき翼の王冠』ですか。ちょっとわからないですね。少なくともぼくが昔に調べた盗賊集団コズミの情報にはありません」
申し訳なさそうにデュカスが答える。
「そうだ。今、ワンバがパリにいるはずなんです。彼の方が、そういう話しには詳しいはずです」
デュカスはワンバがパリで泊まる宿を教える。そして一晩の宿として空きの家屋を二人に提供してくれた。
二日目の早朝、リンカとリスティアはパリへと戻る。夕方、パリの宿屋で休んでいたワンバを発見した。
「おいらが知っている『ウエスト』でよければ話しましょ」
食事を終えた青年ワンバは、覚えている過去を話してくれた。
ワンバはかつて盗賊集団コズミで潜入などの情報集めに携わっていた。その頃の話しである。
ウエストと呼ばれる一件大人しそうな男が、要注意人物として囁かれていたのをワンバは覚えていたのだ。
「慎重だが、手段を選ばない奴らしいですわ。普段一人で行動してやすが、部下もかなりいるようですな。それに目標を決めたら、しつこいとも聞きやす。ロジャーという奴のコレクションがもの凄い価値を持っているとすれば、絶対に諦めないでしょうな。奴が当時狙っていた貴族といえば――」
ワンバの話しには貴族の名前も出てきた。リンカとリスティアはお礼をいうと、仲間の待つベルツ邸へ急いだ。
●情報
二日目の日中、ヤードとツィーネは宝飾店回りをする。エイジと国乃木も別の宝飾店回りを昨日に引き続いて続行し、今はベルツ邸に戻っていた。
リンカとリスティアがベルツ邸を訪れ、一室に全員が集まって情報をつき合わせる。
エイジと国乃木は王冠のおとぎ話。
リンカとリスティアはワンバに教えてもらったウエストの過去。さらにウエストが狙っていた貴族の名。
ヤードとツィーネはハインツから得た貴族の名をいくつか伝える。まだ確定された情報ではなかった。
さらに一日目に応援してくれた冒険者仲間の情報もツィーネによって話される。
クレアはペガサスでルーアンに向かい、ラルフの従者から、かつてパリに王冠があったという噂を手に入れてくれた。
ガラフは貴族のシレーヌ嬢から、神聖ローマ軍の侵攻時に王冠を所有していた貴族が亡くなった事実を伝えてくれる。
十野間はパリ周辺の森にいたアロワイヨーの執事から王冠の形について情報を得る。主に金が主体で様々な宝玉が埋め込まれている。額の部分に天使の彫像があり、羽ばたくような両翼がついているそうだ。
「いろいろな者の手を経たようだが、知りたいのはロジャーの前の持ち主。つまり、盗まれた被害者だ。それがわかればロジャーの情報も得られるかも知れない」
ツィーネは意見をまとめると、ハインツにも内容を伝えた。
●繋がり
三日目、四日目と冒険者達はパリ市内で調査をするが、これといった情報は得られなかった。
冒険者達が集めた情報でハインツに貴族のつてを辿ってもらう。ついに元の持ち主を発見し、五日目に全員で向かう事となる。
「確かに我が家にその王冠はありましたわ。個人的には盗まれてほっとしていますの。無くなった途端、夫の体調が良くなりまして」
盗まれたロームシュト家のミランテ夫人が冒険者達と会ってくれた。
ミランテ夫人によれば七年程前の嵐の晩に盗まれたという。
「こういってはなんなのですが、換金しやすいもっと高価な物も同じ部屋に置かれていたのです。それなのになぜ泥棒はあの王冠のみを盗んでいったのか‥‥。『眩しき翼の王冠』の存在は外に洩らさぬようにしてあったのですが」
ミランテ夫人はロジャーとウエストについては何も知らなかった。ただ当時似たような盗難が貴族の間で起きていた。他の高価な品には目もくれず、曰く付きの宝飾品だけを狙う盗難が。
冒険者達はそれらの貴族への紹介状を書いてもらう。
六日目には全部の貴族の屋敷を訪ねて事情を聞いた。その中で唯一、侍女が泥棒の顔を目撃していた。昔の事なので顔を思いだす事は出来なかったが、事件から一年後に似たような人物を貧民街のある一角で見かけたそうだ。
七日目、冒険者達は目撃現場を中心にしてロジャーの足取りを探し、発見する。ロジャーが泥棒稼業を活発に行っていた頃の隠れ家を。
屋根が抜け落ちで雨ざらしの部屋は酷い状態であった。ほとんど何も残ってはいない。
「これ‥‥」
リスティアが壁に刻まれた文字を見つける。あまりに大きな文字なので反対側の壁に背中をくっつける位に離れた。
「えっと‥‥『奪うのなら、奪ってみよ。なら、私はこの身を変えてでも、我がコレクションを守り抜くであろう。我が愛する女神に捧げる為に』とあるわ」
ラテン語だったので、一番達者なリスティアが壁に刻まれた文字を読む。
「狂気を感じるな‥‥」
エイジもそれなりにラテン語が読める。特に女神の部分の文字が大きく力強く刻まれていた。
「他の隠れ家を知っていたウエストなら、きっとこの場も訪れているだろう。他の部分はよいとして『女神』とはなんだ? ロジャーの恋人だろうか」
ツィーネが腕を組んで首を捻る。
「それにしてもいい天気だ。こんな日は仕事なんてやめて昼酒でも呑んで、ぐうたらすると愉快なのだが」
リンカが、らしくない言葉を呟く。仲間との決めた危険な時の合図だ。何者かに見張られている意味を示していた。
「いいお酒がありますわ。今度一緒に呑みましょう」
そういいながら国乃木は昇ってきた階段を窺う。隠れているつもりだろうが、間抜けな事に石の床へ影が落ちていて丸わかりである。
「俺も混ぜてくれ」
エイジは袖の下に隠しておいたダートを掌に握る。貧民街とはいえ、パリ市街であまり大きな騒ぎは起こせない。なるべく穏便に済ませる必要があった。
「ツィーネ、あまり端にいると危ないぞ、と」
ヤードはツィーネに近づきながら、壁に覆う蔓を見つめる。
「それにしてもウエストって盗賊で仲間もたくさんいるのに、たった一人の泥棒を捕まえられないなんて」
リスティアがツィーネに話しかけながら、崩れた壁の部分へと歩んだ。その時、数本の矢が冒険者達を襲う。
「敵よ!」
即座にリスティアがホーリーフィールドを張って矢の攻撃を防いだ。
「止まりなさい!」
壁から飛びだして階段を登ってきた武器を手にする何者かを国乃木がコアギュレイトで動けなくする。
(「いるのはわかっている」)
エイジが壊れて出来た屋根の穴へとダートを投げた。すると、わずかに身を乗りだしていた男に当たって落下する。着地に失敗した男の手には短刀が握られていた。
冒険者達は階段を駆け下りて地面へ辿り着くが、武装した者達が待ち伏せていた。
ツィーネが仲間より前に出て敵と剣を交える。
「ツィーネ、後ろ!」
ヤードは急いでプラントコントロールを使用してツィーネの援護をする。垂れていた蔓を動かし、敵の手足に絡ませてゆく。
敵わないと考えたのか、襲ってきた者達は撤退を始めた。一人を捕まえて吐かせてみるが、どうやら金を握らされ、襲うように命じられたようだ。ウエストの仕業であろうが、証拠といえる物は何もなかった。
●夕方
「こんなはずじゃないんだぞ、と‥‥」
美味しそうな料理を前に、ヤードは呟く。
夕方、場所はパリにあるレストラン・ジョワーズ。パリの裏地図で調べたチーズの料理で有名な店である。
「ヤードおにいちゃん、おいしいよ」
「そうか。よかったな、と」
喜んでいるテオカの頭をヤードは撫でる。
依頼を受けた当初からツィーネと一緒の食事をしようとしていたヤードであった。テオカに食べさせてあげたい気持ちもあったので、三人でも問題はない。
しかしその他がたくさんだ。仲間の誰かが計画を嗅ぎつけたようで、お店の前で待ち伏せされた。しかも、なぜかハインツの姿もある。
「エイジ、ものすごく嬉しそうだな、と」
「そ、そうか? そんなことはないぞ」
ウェイトレスが通りすがったばかりのエイジにヤードは話しかける。
「そんな顔しないで。ワインも美味しいわよ」
ニコリとリスティアがヤードのカップにワインを注いだ。
「情報屋もあてにならない時もあるものだな‥‥。美味いな、この肉料理」
リンカはブレ・サレの子羊料理に瞳を大きく開いた。
「祖国の料理も負けていませんが‥‥、さすが美食のノルマンですね」
国乃木も一つ一つの味を確かめながら、料理を頂いていた。
「差し出がましいようですが、どうか受け取って下さい。ツィーネさんをよろしくお願いします」
ハインツは冒険者一人一人に声をかけて、報償と別立ての謝礼金を渡してゆく。以前の依頼の事を未だ感謝しているらしい。
かなりの情報も得られ、最後に楽しい時間も過ごして依頼はお終いとなる。
ヤードは最後、ツィーネとテオカを家まで送る。
(「さりげなく手を繋ごうと考えていたが、ツィーネに隙はなかったな、と」)
ヤードは今回の事を思いだしながら歩いた。すると、温かい何かが右手に触れる。テオカの手であった。
テオカのもう一つの手はツィーネの手に繋がれていた。
ヤードとツィーネに挟まされて手を繋ぐテオカはとても喜んだ。
「こういうのも悪くないぞ、と」
「何かいったか? ヤード」
そのままツィーネの家まで歩く三人であった。