ゼルマ領主の旅 〜トレランツ運送社〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:11 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月31日〜08月12日

リプレイ公開日:2008年08月07日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。


 トレランツ運送社の女性社長カルメンは領主ラルフの呼び出しによってヴェルナー城に赴いた。
 そして直々に頼まれたのはセーヌ川を境にしてヴェルナー領の反対側に広がるフレデリック領にまつわる調査である。
 フレデリック・ゼルマ領主が近々ドレスタットへ船旅をするので、動向を知りたいのだという。
 もしもの時を考えると、ヴェルナー領の兵士やブランシュ騎士団黒分隊が動くには危険が大きすぎる。そこでカルメン社長が懇意にしている冒険者に頼みたいというのがラルフ領主の願いであった。
 引き受けたカルメン社長はトレランツ本社へと戻り、男性秘書ゲドゥルに依頼の手続きを命じた。
「シャラーノとメテオスも同行するようだよ。何か企んでいるね」
「あ、あの二人がですか?」
 カルメン社長を見つめるゲドゥル秘書の声は上擦っていた。
「怪しすぎるだろ。さて、本物かどうかはわからないがゼルマ領主もお出ましになるからにはドレスタットで何があるんだろうね。‥‥闇の組織オリソートフと関係あるのだろうさ。あの二人が一緒ならね」
 カルメン社長は目を閉じて語る。
「リノにも行ってもらおうか。あの娘の魔法は役に立つだろうし」
「そうですね。アリリアトさんの調子もいいですし、リノさんも快諾してくれるでしょう」
 水のウィザード少女、リノ・トゥーノスが社長室に呼ばれる。リノは冒険者への同行を引き受けてくれた。

●今回の参加者

 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607)/ セイル・ファースト(eb8642)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●ドレスタット
 トレランツ運送社の帆船がドレスタットの船着き場に入港したのは四日目の夕方であった。
 ゼルマ領主一行が乗った帆船三隻は昼頃入港済みである。まずは何処に滞在しているかを調べるところから始められた。
 とても目立つ一行であったらしく、船着き場にいた船乗りに聞いただけで滞在先はわかった。ある貴族の別宅にゼルマ領主一行が入ってゆくのが見かけられていたのである。別宅といっても高い塀に囲まれた広い敷地もある立派な屋敷だ。
 冒険者達は屋敷近くに宿を見つけると二階の部屋を借り切る。宿屋の主人には秘密にするようにいくらかの金を握らせておく。宿代と食事料金はすべてトレランツ持ちである。囮の冒険者用に別の宿でも二部屋借りてあった。
「おまちどーさまですー」
 井伊貴政(ea8384)は夕食の大鍋を持って仲間が集まる部屋を訪れる。美味しそうな匂いが立ちこめ、しばし会話が中断された。
 絶品の魚煮込み料理を頂いた後で話し合いが再開する。
「相手方に忍者が居ると聞き及んでいます。馴染みの無い私に化けられては寝覚めが悪いですし、何らかの合言葉を決めておかれては?」
「合い言葉は欲しいのだぁ〜。いざという時に役に立つはずなのだ」
 玄間北斗(eb2905)と島津影虎(ea3210)は忍者であるがゆえに、敵方の行動を警戒する。いくつかの合い言葉が決められた。
 何にせよ諜報活動に変装は不可欠である。化粧はエメラルド・シルフィユ(eb7983)、服装に関してはレイムス・ドレイク(eb2277)が担当する。
 コルリス・フェネストラ(eb9459)はパリで古着をいくつか手に入れていた。それらをレイムスに預けて活用してもらう。
 お互いの役割を再確認し、夜にも関わらずさっそく行動が開始された。屋敷を監視する者、集められた情報を整理する者、町に繰りだして情報を得ようとする者などいろいろだ。
 ゼルマ領主、シャラーノとメテオスの行動を知る事こそ依頼の趣旨であり、また最大の関心事であった。

●監視
(「忍者がいるかも知れへんしな‥‥」)
 シフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)は夜の闇に紛れて屋敷の周囲を飛翔していた。夜目を活かし、物影に隠れては監視をする。
 忍者が護衛をしているのなら大きく分けて二通りのやり方が考えられる。変装して一般の者に紛れるのと、完全に身を隠して監視する方法だ。
 夜ならば身を隠して監視している可能性が高かった。イフェリアは慎重に行動する。屋敷内部への潜入が出来るかどうかは状況がはっきりしてからである。
(「わかりましたわ。リノさんもお元気ですのでご心配なく」)
 クレア・エルスハイマー(ea2884)は宿に待機していた。部屋に入らなくても窓の隙間から覗くクレアのテレパシーによって情報のやり取りが出来た。
 クレアは仲間からの情報を預かっては整理し、別の仲間へ伝えてゆく。
 イフェリアは睡眠休憩を織り交ぜながら昼夜を問わず屋敷の監視を続けるのだった。

●ギルド
「エメラルドさん、入りましょうか」
「何かわかると信じよう」
 護堂熊夫(eb1964)とエメラルドはドレスタット冒険者ギルドを訪れる。
 ゼルマ領主一行の目的や、出来るなら闇の組織オリソートフに関する情報も得たいところである。
 カウンターで応対してくれた受付嬢ペテラが調べてくれる。
 ゼルマ領に関わる依頼は極端に少なかった。そしてどれも重大とは思えない内容だ。
 グラシュー海運についてはペテラが噂を知っていた。半年前までは羽振りが良かったが、ここ最近になって急激に落ち込んでいるらしい。
「そういえば」
 ペテラがさらに思いだす。ゼルマ領使者一行ならば今年の一月後半にドレスタットへやって来ていた。グラシュー海運を使って付近の海の調査を行ったようだ。
 護堂熊夫とエメラルドは船着き場に移動し、船乗り達にも訊ねた。
 海の調査はグラシュー海運だけでなく、海運会社マリシリも加わって行われていた。
「タケシさんもドレスタットで不穏な事件があるといってましたし。最近の海の事件といい、実は大変なのかも‥‥」
「セイルによればゼルマ領主は花を愛でるのが好きな人物のようだ。男だがな」
 護堂熊夫とエメラルドは手紙を送ってくれた友に感謝し、さらに調べる為に町中へと消えていった。

●動き
(「屋敷内から一歩も出ないとは‥‥」)
 十野間修(eb4840)は屋敷から少し離れて監視を行う。わざと東洋の顔立ちは隠さず、服装に関しては船乗りに習ったものを身に纏っていた。
 サンワードによってシャラーノが屋敷内にいるのはわかっている。他の人物に関してはよくわからない状況にあった。
 宿の二階からはクレア、物影に隠れてイフェリアが監視していた。十野間修は地上間近からである。
(「あれは‥‥」)
 屋敷の正門から一両の馬車が出てゆく。十野間修はテレパシーでイフェリアに後をつけるのを頼んだ。
 馬車にはメテオスが乗車していた。船着き場に着くと碇泊する帆船内部へメテオスが入るのをイフェリアは見届けた。帆船はゼルマ領所有のものだ。
 ゼルマ領主は屋敷からなかなか姿を現そうとはしなかった。

●市場
「流石に訪ねて行く訳にはいきませんからねー。どーしましょーか」
「それは最後の手段ですね」
 井伊貴政は宿でリノとお喋りをしながら食事を作る。当分のスープを用意すると、ドレスタットの胃袋を支える市場に向かった。
 忍者に見張られている場合を考え、これから先はもう一つの宿を使う事となる。連絡については仲間のテレパシーと合い言葉があるので心配はなかった。
 井伊貴政はゼルマ領主一行が滞在する屋敷に出入りしている業者を見つける。毎日市場で食材を買い集め、馬車で運び入れているらしい。
 井伊貴政は最近増えた食材の量をさりげなく聞きだす。結果、ゼルマ領主一行は五十名前後の人数だと判断した。
 三分の二が護衛だと想定し、さらに精鋭の忍者が含まれているとすれば、かなりの強敵であった。

●疑問
 釣り竿を片手に玄間北斗はドレスタットの町を歩く。
 目立って行動する仲間を遠巻きに眺めては、ゼルマ側の監視がついていないかを探っていた。
 数日経ってもゼルマ領主は未だ屋敷の敷地内だ。別宅を貸した貴族とゼルマ領主は政治的な繋がりは少なくて趣味の友人関係にある。コレクションを観る為だけにわざわざドレスタットを訪れたとは考えにくかった。
(「メテオスの動きが気になるのだぁ‥‥」)
 玄間北斗は仲間の監視を島津影虎にお願いすると、メテオスが訪れた船着き場周辺で釣り糸を垂らした。
 時間はかかったものの、メテオスが近海の状況を調べていたのを噂話として耳にした玄間北斗であった。

●敵
 島津影虎は誰にも悟られぬように護堂熊夫とエメラルドを監視していた。その二人からつかず離れずの尾行をする女を発見する。
 身のこなしからいって女は忍者であろう。人遁の術で変装していると考えられた。
「セーヌの流れは?」
「悠久のままに」
 島津影虎はすれ違い様の合い言葉で十野間修と互いを確認する。十野間修にはテレパシーで護堂熊夫とエメラルドにつけられているのを伝えてもらった。
 近頃のドーバー海峡、北海周辺はとても騒がしい。今回のゼルマ領主一行の旅と関係あるのではと思いながら島津影虎は監視を続けた。

●謎
「この景色、覚えています」
 リノが海を眺めながらレイムスとコルリスに話しかける。父親との逃亡の際、リノはドレスタットに長く滞在していたという。
 グラシュー海運の動きをリノ、レイムス、コルリスの三人は探っていた。ゼルマ領の三隻の他にグラシュー海運所有の帆船もかなり係留されている。貨物の運搬を行ってはおらず、周囲の海を巡回していると聞く。
 レイムスとコルリスは注意深くリノを護衛する。
「こちらへどうぞ」
 レイムスは愛馬の手綱を握ってリノと一緒に歩いた。
「やはり船乗りが多いですね」
 コルリスも手綱を持って歩いていたが、こちらの正体は馬でなくケルピーだ。
 町に繰りだす前、コルリスはオーラセンサーで今までに戦った事がある忍者を探ろうとしていたが徒労に終わっていた。
 仲間からの情報も総合すると、ゼルマ領主一行は海を気にしている。
 検討の末、滞在中の屋敷内へ潜入するのは取り止められた。あまりにも警備が厳重な為だ。
 レイムスは疲れた様子のリノを馬に乗せてあげる。コルリスが先導し、三人で宿へと戻るのであった。

●交渉
 ゼルマ領主一行に動きがあったのは七日目の夕方からである。
 十野間修が見張っていた屋敷の裏門を十名の集団が潜り抜ける。そして道ばたに停めてあった馬車へと全員が乗り込んだ。
 その中にはメテオスとシャラーノ、さらにリノがゲドゥル秘書から預かってきたゼルマ領主の似顔絵にそっくりな人物もいた。
 忍者は人遁の術を使えば一瞬にして化ける事が出来る。ゼルマ側の忍者が囮となって冒険者側を惑わそうとしている可能性もあった。
 だからといって分散して動いていたのでは、何も得られないかも知れない。まずは愛犬に馬車を追いかけさせる十野間修である。
 続いてイフェリアにテレパシーで状況を伝える。イフェリアは二個所の宿へと飛び、仲間を全員集めてくれた。
 今度は正面の門から馬車が出発する。
 護堂熊夫がテレスコープを中心とした魔法を駆使して一番よく知るシャラーノの顔を判別する。二つ目の馬車に乗るシャラーノは偽物だと断定した。
 ゼルマ、シャラーノ、メテオスが必ずしも同じ馬車に乗るとは限らないが、ここは賭けである。少なくてもシャラーノから追求する事は可能だ。
 愛犬が追う一つ目の馬車が本物ではないのを十野間修は心の中で祈った。
 四つ目の馬車が裏門から出発する。護堂熊夫は迷いながらも本物のシャラーノだと結論を出した。もちろんゼルマ領主、メテオスらしき人物も確認される。
 冒険者達とリノは、馬などのペットや空飛ぶ道具を駆使して、四つ目の馬車を追いかける。
 ドレスタット郊外に出ても馬車は走り続ける。日が暮れて夜空には星が瞬き始めた。しばらくして海岸に近い廃墟の屋敷の中に入ってゆく。
 冒険者達は周囲に見張りがいないのを確認する。隠密に秀でる玄間北斗、島津影虎、イフェリアが廃墟の屋敷に潜入を試みた。
(「あれ、デビルやないか?」)
 イフェリアが広間を見下ろせる位置に身を隠しながら見下ろした。コウモリみたいな翼を持ち、尻尾を持つデビルらしきものがいた。ゼルマ一行の護衛の姿もある。
 広間の一角だけは綺麗に掃除され、テーブルと椅子が並べられている。何本もの蝋燭がテーブルを照らす。
「それでは始めましょう」
 まるで女性の見間違う容姿を持つゼルマ領主が口を開く。長い金髪に端整な顔立ちをしていた。人間であり、歳は四十に近いはずだが、とても若いと評判であった。
 メテオスとシャラーノも椅子に座っている。
 最後の椅子に座っていたのは人ではなかった。
「ダッケホー船長と呼んでおくれ。ん? そんなに珍しいですかな?」
 ダッケホー船長は骸骨姿のモンスターだ。
 イフェリア以外に玄間北斗と島津影虎もダッケホー船長を確認した。後で戦った事がある仲間からフライングダッチマンというデビルだと知らされる事となる。
 話し合いは続く。
 海賊連合を用いた時の敗北から闇の組織オリソートフは考えを改め、デビルの力を借りる路線に変更したらしい。それまでは人の手によって王国転覆を謀るのが大前提だったようだ。闇の組織オリソートフがゼルマ領の裏の顔だとはっきりとわかる。
(「それだけ追いつめられているのだぁ‥‥」)
 玄間北斗は壊れた壁の中で耳をそばだてながら、仲間がしていた話を思いだす。
(「これは一大事」)
 島津影虎は仲間の中でテーブルに一番近い床の下へ隠れていた。全ての会話を聞き漏らさないように頭へ叩き込む。
 話題はレミエラに移る。ダッケホー船長が知るレミエラの知識の一部をフレデリック・ゼルマ領に供与する取引が行われた。見返りについては触れられる事なく終わる。
 全員が椅子から立ち上がると別れの挨拶を交わした。ダッケホー船長は壊れた窓から外へ飛びだす。外で待機していた冒険者達とリノは慌てて物影に隠れる。
 海岸にはいつの間にかゴーストシップが浮かんでいた。ダッケホー船長は軋む船体に乗り込むと海原に消える。
 突然レイムスが立ち上がり、リノの前へ飛びだした。
 飛んできた手裏剣がレイムスの左腕へと突き刺さる。二撃、三撃目はコルリスが盾で受け止めた。
 既に冒険者達とリノは囲まれていた。囮となって散らばっていたゼルマ側の護衛と忍者が主の元に再集結していたのである。
「脱出!」
 エメラルドが叫ぶ。
 リノの安全を優先し、レイムスとコルリスは海からの脱出を選択した。二人はリノにウォーターダイブをかけてもらうと一緒に海へ飛び込んだ。ケルピーに掴まって潜行する。
 海を背にして井伊貴政とエメラルドが刀剣を振るう。
 玄間北斗は微塵隠れで一気に距離を稼いた。続いて島津影虎と共に疾走の術でゼルマ側を撹乱し、仲間の脱出を手助けする。
 クレアはペガサスに乗って地上すれすれを飛んで敵の目を引きつけた。イフェリアが空中からのライトニングサンダーボルトでゼルマ側に緊張を与え続ける。
 護堂熊夫が空飛ぶ絨毯の用意を終わる。シャドウバインディングで敵の動きを食い止めていた十野間修が飛び乗ると、一気に空へと浮き上がった。
 エメラルドは愛馬、井伊貴政はレイムスの馬を借りて敵の囲みを突破する。玄間北斗と島津影虎も疾走の術を活かして脱出を計った。
 空飛ぶ仲間の支援を受けて、地上の冒険者達も無事に逃げおおせる。
 冒険者達とリノはドレスタットに戻ると、すぐにトレランツの帆船に乗って出航する。これ以上のゼルマ側との戦いはラルフ領主に迷惑がかかるかも知れないと判断したからだ。
 十日目の夕方、トレランツの帆船はルーアンの船着き場へと入港した。

●そして
 冒険者達は海辺の廃墟で行われたゼルマ側とダッケホー船長との会談内容を、カルメン社長とゲドゥル秘書に伝えた。
 カルメン社長が険しい表情をした後で目を瞑る。
「シャラーノの奴、デビルと手を組もうとしてるのかい。そこまで落ちぶれたのか‥‥」
 カルメン社長はため息をついた。
 ゲドゥル秘書がお礼として追加の謝礼金とレミエラを冒険者達に手渡した。
 十一日目の昼、冒険者達はパリ行きの帆船へと乗り込むのであった。