●リプレイ本文
●相談
パリで冒険者を乗せたトレランツの帆船ソレイユ号は二日目の昼頃、本社のあるルーアンに寄港した。
少女リノを乗せるとセーヌ川の流れに戻る。河口まで下り、さらに航行して目的の海域に辿り着かなくてはならなかった。
「助かります」
護堂熊夫(eb1964)はリノから手紙を受け取る。友人のレオパルドが本社宛でパリから送ってきたものだ。
パリの噂だが、フレデリック領内でもレミエラ作りは盛んのようだ。全てはデビル・フライングダッチマンのダッケホー船長から情報提供されたレミエラを作るための準備段階という疑いは拭いきれなかった。
パリでタケシに見送られた時、護堂熊夫はジャパンのレミエラについてを耳にしていた。
仲間の多くもフレデリック領のゼルマ領主に情報供与されたのは、ヒューマンスレイヤーのレミエラではないかと想像していた。
リノを含めた一行は甲板に集まる。話題は奪取すべきサンプルレミエラについてだ。
「もし忍びがヒューマンスレイヤーやインビシブル等のレミエラを手に入れられたら、社長達に危険が及ぶだけではない」
レイムス・ドレイク(eb2277)はラルフ領主を始めとする重要人物の暗殺が容易くなるのを危惧する。
「大量生産可能だとすれば、一介の雑兵すら強大な戦力になりかねない代物だからねぇ〜」
シルフィリア・ユピオーク(eb3525)もヒューマンスレイヤーではないかと想像していた。ジャパンではデビルの関与によって作られたらしい。
「私もヒューマンスレイヤーだと思います。そうでなければデビルスレイヤーの無効化レミエラではないでしょうか? 問題はそれをどう使うかですが‥‥」
護堂熊夫は想像を巡らすが、決定的な答えは見つからない。
「とにかくサンプルを手に入れることですわ。これを証拠にオリソートフの不穏な企みを打破できればよいのですが」
クレア・エルスハイマー(ea2884)は、先手を打つべく失敗は許されないと気合いを入れる。
「とにかく見張りを頑張るよっ。フライングブルームもあるし」
エル・サーディミスト(ea1743)は箒を取りだして、胸の前でガッツポーズをしてみせた。
「私は海岸線で待機して妙な動きがないかを探りましょう。連絡方法はどうしましょうか?」
島津影虎(ea3210)が腕を組む。仲間のテレパシーを使っても全域をカバーするには到底足りなかった。焚き火の煙か誰か飛べる者がいたら頼むかのどちらかになる。もしもの為に合い言葉も決められた。
「アガリ船長の計らいで篝火の用意はされています。濃霧になっても役に立つでしょう」
十野間修(eb4840)はデビルの脅威を覚悟していた。持ってきたシルバーナイフはアガリ船長に貸してある。彼がいなくなればソレイユ号は立ち行かなくなる。
「私はとにかく泳ぎます。海の中は任せて下さい」
河童の磯城弥夢海(ec5166)は仲間へにこりと笑った。海流や水深などを調査して、どんな状況にも対応出来るように準備をしておくつもりでいた。
「海に出たらティシュトリヤで敵を探すつもりです」
グリフォンを連れてきたコルリス・フェネストラ(eb9459)は空中からの捜索をするつもりである。主人以外には危険を及ぼしそうなペットはいざという時まで船底の檻に閉じこめる事となる。ケルピーのシフカとナイアスも同じだ。
「目的海域の運行ルートはアガリ船長から教えてもらった。デビルならやはり人目を避けた場所を選ぶはずだ。なんにせよ忍者は注意しよう。そうだ、リノ――」
エメラルド・シルフィユ(eb7983)は思いだしたようにリノに訊ねる。どのような水系魔法が使えるかを。
ウォーターウォーク、ウォーターダイブ、ウォーターボム、フリーズフィールドが達人レベルで使えるとリノは答えた。
ソレイユ号は二日目の夕方、セーヌ河口を通過する。さらに一日をかけて目的の海域に辿り着くと調査が開始された。
●調査
三日目の夕方から取引場所と疑われる海域での監視が始まった。
「まずは見つかりにくい拠点を作りましょう」
島津影虎は小舟で夕方の海岸に降ろしてもらうと、野営の準備を行う。自前の保存食はあったが、いくらかの食料を船乗りが置いていってくれた。
灯りや獣避けも意味も含めて焚き火は必要である。たくさんの煙が出せるような準備も用意しておく。
初めての土地で夜間に動くのは危険過ぎる。四日目の朝から監視活動をすべく就寝する島津影虎であった。
「さすがに夜は見づらいですね」
「敵も夜に船を動かすとすれば灯りは必要でしょう」
夜、護堂熊夫と十野間修はマスト上の見張り台で夜の海を監視していた。
天気はウェザーコントロールで晴れにしてある。ただし天候が崩れだした様子で明日以降維持出来るかどうかは不透明であった。
甲板では絶えず篝火が焚かれていた。敵帆船から目視されるかも知れないが、こればかりはお互い様である。
状況を把握出来ていない三日目夜の現状はとても危険だ。フレデリック領側とダッケホー船長との接触がないのを二人は祈るばかりであった。
「それでは北側を」
「私は南を見てきます」
星空の下でペガサス・フォルセティを駆るクレアと、グリフォン・ティシュトリヤに騎乗するコルリスは巡回を行っていた。
ただしソレイユ号の甲板に輝く篝火が見える範囲である。
リノの護衛をするつもりであったコルリスだが、まずは敵帆船を注力した。戦闘が起きたのなら必ずリノを守る心構えであった。
クレアは途中でぼんやりと海が光る現象を見かけるが、危険はないと判断する。戻って船乗りに聞いてみると非常に小さな虫の集団が海の中で光る事があるのだという。
蛍のようなものだとクレアは納得した。
四日目の朝が訪れて、さらに本格的な活動が開始された。
河童の磯城弥とケルピーを用意したエメラルドは海中から探る。
(「結構激しい海流です」)
磯城弥は怪しい存在を探しながら海流などの状況も調べてゆく。
(「忍者も水中で行動が出来る術を持っているようだ」)
エメラルドはリノにウォーターダイブをかけてもらった。おかげで一時間、息の心配はなくなった。ケルピーと共に海中を疾走する。
休憩を挟みながら海中の状況を把握してゆく二人であった。
マスト上の見張り台にはレイムス、シルフィリア、リノの姿があった。
カモメが空を舞う中、水平線と地平線がよく見えた。これならかなり遠くの帆船でも発見出来るはずである。
「ダッケホー船長ってデビルがいるって聞いたけど、どんな奴なのかい?」
シルフィリアは別方向を監視するレイムスとリノに話しかけた。二人ともダッケホー船長が現れた現場近くにいたものの、直接対峙した事はないと答える。
「ヤッホー♪ ‥‥なんだか混んでるね。海岸の影虎を手伝ってくるっ」
「ちょっと待って」
見張り台まで登ってきたエルが戻ろうとするのをシルフィリアが引き留めた。そしてダッケホー船長の事を訊ねる。
まるでズゥンビような船長姿のデビルだとエルは語った。フジツボが肌に貼りつき、腐った臭いもして最悪だったという。
ふざけた話し方をしていたが頭はよさそうだったといってエルは話を締めくくる。
「エルさん、これとても良さそうです」
レイムスはエルから借りたウォーターメイルをつけていた。ダッケホー船長が水魔法を使うのは判明している。いざ戦いになったら事を優位に運べそうである。
レイムスはコルリスと同じく戦いの時はリノを守るつもりでいた。
リノもウィザードとして戦闘に参加するだろう。そうなれば魔法詠唱を邪魔されないように盾となる覚悟のレイムスだった。
エルはアガリ船長に頼み、少しだけ海岸へ近づけてもらう。それからフライングブルームで飛び立った。フライングブルームの高度は海底から計算されるからだ。
徐々に天候は悪くなり、ウェザーコントロールでも曇りか小雨を維持するので精一杯となる。
様々な船が監視する海域を通過してゆく。グラシュー海運の帆船が使われていたとしても、偽装されているだろう。
どんな船であっても油断は禁物であった。
●引き渡し
七日目の暮れなずむ頃、海岸線近くに船影が現れた。
航路を大きく逸れた大型帆船である。
真っ先に気がついた島津影虎は、ちょうど来ていたエルに仲間への伝言を託す。
島津影虎は引き続き海岸に残って監視を続ける。
エルは敵帆船に見つからないように遠回りをしながらフライングブルームで海上を飛ぶ。ソレイユ号が見える所まで辿り着いたが、海に沈みそうなのでフェアリーのパルに迎えの連絡を頼んだ。
ソレイユ号は動きだし、エルは無事ソレイユ号の甲板へと降り立つ。
散らばった仲間を集める為、篝火を隠して何度も点滅させる。見張り台の上でも旗が振られた。
島津影虎を除く全員が集まった時、雨が降りだしてくる。ウェザーコントロールでも抑えられない状況になっていた。
まずは海岸近くに碇泊している大型帆船の調査が行われる。ソレイユ号は現状のまま待機であった。
コルリスはケルピーに乗り換えた。同じくケルピーを操るエメラルドと共にリノからウォーターダイブを付与してもらい、海中から大型帆船へ近づいた。
コルリスはオーラセンサーで敵側の人物を一人ずつ探ってみるが反応はない。だからといっていないとは限らなかった。それなりに知った人物でないとわからないからだ。
クレアは雨の中にも関わらず、ペガサスで海面スレスレを飛びながら遠くの大型帆船の監視を続けていた。
嵐のような状況の中、どこからともなく現れたゴーストシップが大型帆船へと近づいてゆく。この時点で大型帆船はオリソートフ側の敵帆船と決めつけられる。
十野間修が空飛ぶ絨毯を操って海面近くで停止する。持ち主の護堂熊夫も一緒であった。
護堂熊夫はテレスコープとアイテムに付与されたレミエラを駆使して敵帆船甲板のダッケホー船長を目視する。
さらにエックスレイビジョンでダッケホー船長が手にしていた小箱を透視し、レミエラが入っているのを確認した。
護堂熊夫が目を離さずに状況をそのまま話す。十野間修はクレアにテレパシーで事を伝えた。続いて反転し、ソレイユ号へと全速力で空飛ぶ絨毯を飛ばす。
雨降り注ぐ敵帆船の甲板上で、ダッケホー船長から帆船の代表者に小箱が手渡された。その瞬間、白い風が通り過ぎて小箱をさらってゆく。
風の正体はペガサスを駆るクレアであった。
そのまま逃げ切れるかと思えたが、海の中から大量のブルーマンが現れてしがみつかれる。勢いのまま海岸の砂地に不時着した。
島津影虎がブルーマンを挑発して砂浜を駆ける。疾走の術を使った上での囮である。
護堂熊夫と一緒に空飛ぶ絨毯でシルフィリアが海岸に到着した。
シルフィリアがその場に残っていた船幽霊ブルーマン二体を脇差で斬り伏せた。プールマンは実体のない幽霊なので魔力が込められた武器でないと戦えない。
クレアはペガサスのリカバーによって回復が計られた。島津影虎がブルーマンの群れを引き連れて戻り、冒険者四人と対峙する。
その頃、帆船同士の戦いも始まっていた。ソレイユ号が大胆に割り込んで、敵帆船の船首を抑える。
ダッケホー船長が戻ったゴーストシップは敵帆船に加勢する事なく姿を消す。サンプルレミエラを渡した段階で役目を終えたのだろう。
エル渾身のグラビティーキャノンが敵帆船を狙う。魔力もソルフの実で補給する。プラズマフォックスもライトニングサンダーボルトで主人の魔法攻撃を手伝ってくれた。
リノのウォーターボムも敵の甲板上で弾ける。
レイムスとコルリスはリノを中心に魔法を操る者達の護衛を行った。敵の船乗りがソレイユ号に乗り込んできたのである。
十野間修は敵の船乗りの影を縫い止めてゆく。敵の侵攻を遅めるだけで、かなりの有利となった。
コルリスはオーラショットで敵の船乗りを近づけさせない作戦をとった。こういう場合、冷静なリノの言葉は頼りになる。
ライトニングトラップ、オーラショットを潜り抜けてきた敵の船乗りには、レイムスが立ち向かう。振りかざされた斧を氷の盾で受け止め、一気に叩きつぶす。
レイムスは戦いながら疑問を感じていた。どちらの船の甲板にも敵忍者の姿が見あたらないからだ。
その時、敵忍者二人は海中からの攻撃を仕掛けようとしていた。それに対抗していたのがエメラルドと磯城弥である。
エメラルドはケルピーと共に水遁の術の敵忍者Aと海中戦を繰り広げていた。剣と刀が交差し合う。
磯城弥は河童である利点を活かし、泳ぐ事で水遁の術の敵忍者Bよりも優位に立った。戦っても勝ち目がないのはよくわかっていたからだ。
ようは時間稼ぎが大切なのである。もしも敵忍者Bがソレイユ号を襲うようなら微塵隠れで注意を引くつもりでいた。
敵帆船が撤退を始め、ソレイユ号は追いかけずにその場に留まった。
敵の船乗りはかなり倒したが、敵忍者二人を倒すまでには至らない。生きて捕まえた船乗りは尋問を恐れて誰もが自決をしていた。
身なりは船乗りだが、訓練された兵士のようにも思える。ゼルマ領主に忠誠心を持っているか、もしくは愛する者を人質にされているかのどちらかであろう。
アガリ船長は十野間修に謝った。貸してもらったナイフをブルーマンを追い払おうとした時に海へ落としてしまったという。ソレイユ号にもブルーマン二体が襲ってくる事態があったのだ。
海岸にいた仲間もソレイユ号に戻ってくる。クレアが手に入れた小箱の中にはサンプルレミエラが入っていた。
後にわかるがヒューマンスレイヤーではなく、ウォーターダイブを付与出来るレミエラであった。本人のみだが一時間の効果が見込めるものだ。
ウィザードにとっては珍しくもない魔法だが、よく考えてみれば非常に厄介な代物である。
ヴェルナー領とフレデリック領の狭間にはセーヌ川が流れている。そこに水中で活動できる兵士がいたとすれば戦術にかなりの幅が期待出来る。
生産数にもよるが、一時間付与のウォーターダイブのレミエラはヴェルナー領の脅威となり得た。
●そして
ソレイユ号は九日目の昼頃、セーヌ川沿いにあるルーアンへ寄港した。
サンプルレミエラを受け取ったカルメン社長は冒険者達に感謝する。礼としてゲドゥル秘書から追加報酬とレミエラが贈られた。
サンプルレミエラはラルフ領主に渡される予定である。
カルメン社長、ゲドゥル秘書、リノに見送られてソレイユ号はすぐに出航した。
十日目の夕方、ソレイユ号はパリの船着き場に入港するのだった。