メテオスの身柄 〜トレランツ運送社〜
|
■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:14 G 1 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月24日〜10月05日
リプレイ公開日:2008年09月30日
|
●オープニング
パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。
社長付き男性秘書ゲドゥル。彼にそっくりな人物がトレランツ運送社の敵である武器商人メテオスである。
グラシュー海運の女社長シャラーノと共にフレデリック領ゼルマ領主の実働秘密組織オリソートフの幹部なのは明白なのだが、まつりごとというのは兎角難しい。メテオスはパリ近郊に住んでいるにも関わらず、未だ自由の身だ。
ゲドゥル秘書とメテオスはよく似ており、そのせいでシャラーノに付きまとわれた過去もあった。その他にもいろいろとあり、ゲドゥル秘書はメテオスを特別に警戒視していた。そして地道に続けていた調査が結実の時を迎える。
メテオスがパリ以外に拠点としている場所があきらかになったのだ。確信が持てたところでゲドゥル秘書はカルメン社長に相談をした。
「メテオスが拠点としている港があります。それはここです」
ゲドゥル秘書が社長室の壁に貼られた大きな地図を指さす。
そこはオーステンデと呼ばれる大きな港町であった。
北海に面した海岸線の町であり、ミリアーナ領の中心地でもある。定期便が出ている事もあってルーアンやパリとの繋がりが深い。ドレスタット寄りではあるが、航路としてはパリとドレスタット間の途中に位置していた。北海に面しているしイギリスも近い。海路での輸送において重要な港町だ。
「リノさんの暗号解読によってオーステンデの郊外にオリソートフの隠れ家の存在が確認されました。そしてもう一つ、重要な事があります」
「なんだい? 重要な事って」
「メテオスがオーステンデを訪れます。ドレスタットの時とは違い、今度こそ捕まえるべきだと考えます」
「‥‥相手はメテオスだ。今は野に下っているとはいえ、他の貴族との繋がりが強い。分が悪すぎる。ヘタをするとこっちが痛い目に遭っちまう」
「ラルフ領主を通じてミリアーナ領オーステンデのハニトス・カスタニア領主に許可を頂ければ、大丈夫だと思われます。掛け合っては頂けませんか? カルメン社長」
いつもとは違うゲドゥル秘書の様子にカルメン社長は面食らう。余程そっくりのメテオスに気に入らないのかとカルメン社長は思ったが、ゲドゥル秘書の真意は別にあった。それは人には話せない、ゲドゥル秘書にとって非常に個人的な理由を発端とする。
ともあれメテオスを捕まえられるのであれば、これからの優位となる。
一介の海運業者に早く戻り、お金儲けだけを考えて生きてゆきたいカルメン社長だが、なかなかそうはいかない。
早くそうなる為にもメテオス、シャラーノを蹴散らし、オリソートフを壊滅させ、フレデリック領の爪牙を抜かなければならなかった。
やはり、海運業者のやるべきことではないとカルメン社長は頭を抱える。大変な所はラルフ領主に任せるとしても話が大きすぎる。
遡ってみるとシャラーノと関わったのがケチの付け始めだ。
「わかった。確かにメテオスを捕まえるチャンスを逃す訳にはいかないね。オーステンデでの行動をラルフ様を通じて許可をとっておく。冒険者ギルドでの手続き、やっておいておくれ」
「ありがとうございます。カルメン社長。さっそく依頼の手配を致します」
張り切ったゲドゥル秘書は機敏な動きで社長室を後にした。
●リプレイ本文
●パリ、ルーアン、そしてオーステンデへ
冒険者達を乗せたトレランツ運送社の帆船がパリの船着き場を出航する。西中島、タケシ、アレーナに見送られて。
二日目の昼頃、ルーアンに入港すると冒険者達は一旦下船した。三日目の朝の再出航までの間、トレランツ運送社で細かな情報をもらってさらに作戦を練り上げる為である。
これによって見送りの者達が心配していた情報は補完される。
やがて朝が訪れ、再び冒険者達は帆船へと乗り込んで港町オーステンデを目指す。今回、リノは同行しなかった。
武器商人メテオスという存在はトレランツ運送社の敵としてかなり大きなものである。ここで捕らえる事が出来たのなら、次はグラシュー海運女社長シャラーノへの足がかりになるはずだと、長くトレランツに関わってくれた冒険者は理解していた。この機会を逃す訳にはいかないと心に闘志の炎を燃やす。
セーヌ川を下って河口を通過したのは三日目の昼頃。そしてオーステンデに入港したのは四日目の昼前であった。
カルメン社長からラルフ卿を通じてオーステンデを含むミリアーナ領の領主からオリソートフの隠れ家への襲撃許可はもらってある。幸いな事にオーステンデ郊外にある目標の屋敷周囲に人家はなく、戦う時は全力で戦えそうであった。
メテオスが屋敷から出てきた所を生かしたまま捕らえるのが理想だが、攻め入って拘束する場面も冒険者達は想定していた。
問題があるとすれば、オリソートフの隠れ家となっている屋敷が海に近い事だ。海上、もしくは海の中に逃げられてしまう可能性もある。フライングダッチマンのダッケホー船長の加勢や、ウォーターダイブを付与出来るレミエラをメテオスが所持している可能性も考えられた。
魔法や指輪などのアイテムによってデビルの存在は常に注意が向けられる事となる。特にフライングダッチマンのダッケホー船長には警戒しなくてはならない。
まず冒険者一行はオーステンデ郊外にあるオリソートフの屋敷を監視する為に向かう。ペットや移動に適したアイテムが駆使された。
一部の仲間は情報収集をする為にオーステンデに残る。いつメテオスが動きだすかわからないので、何か得られたらすぐに合流する約束であった。
●準備行動
フィーネ・オレアリス(eb3529)は港町オーステンデに残り、ひとまず情報収集を行った。
オリソートフの屋敷近くに酒場などの娯楽施設どころか人家もない。もし屋敷の者が遊ぶとすればオーステンデを訪れるしかなかった。オーステンデと屋敷の間は徒歩で三時間半である。
フィーネはゲドゥル秘書からメテオスと関わりのある商売人の情報は得ていた。さらなる情報を酒場で探る。
「そう‥‥とてもお酒、お強いのですね」
赤いドレスで着飾ったフィーネは、目を付けた商人に声をかけてお酒を呑ませて口の滑りをよくした。
景気のよかったメテオスの武器仲介の仕事も、ここ最近は落ち着いているらしい。
それが果たしてメテオスの凋落の証拠なのか、さらなる躍進の前の静けさなのかまではわからなかった。
「あらいい男ねぇ〜。夜は冷えるでしょ? こちらをサービスしちゃうわ♪」
悩ましき姿の行商人にばけたシルフィリア・ユピオーク(eb3525)は、表向き年老いた貴族の別荘となっているオリソートフの屋敷の門を訪ねる。
日が暮れ始めた上に海沿いにあるので風が結構強い。より寒く感じている二人の門番にワインを進呈する。
「老貴族の屋敷‥って言う割りに、美形の若い貴族が出入りしているって噂だけど‥跡継ぎか何かなのかい?」
シルフィリアは立ち話をしながら屋敷の状況を探る。中に入れてくれとは頼んでみるが、まず許可が出ないのはわかっていた。また差し入れをするといって、門番の交代時期などを聞きだす。
(「助かります。それでは急いで‥‥」)
シルフィリアが門番の気をひいている間に島津影虎(ea3210)が塀を飛び越えて潜入する。これまでを考えると、忍者やウィザード、場合によってはデビルが潜んでいる可能性もあり、特段の注意が必要であった。
多くの番犬が庭に放たれていた。犬を引き連れての庭を巡回する見張りもいる。
島津影虎は屋敷に取りつくのは断念するが、代わりに庭を隈無く探った。海側への脱出口らしき短い地下トンネルを発見して敷地内を脱出する。
「わかりました。気をつけますね」
海側で待機する予定の磯城弥夢海(ec5166)には、特に地下トンネルについての情報が詳しく説明された。
「メテオスの姿は見えませんね。警備は相変わらずです」
日中は護堂熊夫(eb1964)が魔法やレミエラを駆使して遠距離から屋敷を監視する。
数日が経過した。
外出する気配がないので、潜入してメテオスを捕まえる作戦が検討される。問題は本当にメテオスが屋敷内にいるかである。
「メテオスの存在を感じるまでにはいきませんでした」
コルリス・フェネストラ(eb9459)はオーラセンサーを使ってメテオスを探ろうとしたが失敗する。それなりに知った相手でないと感知出来ないのがオーラセンサーの欠点だ。メテオスとコルリスはそこまでの繋がりにはなっていなかった。
その他にもフィーネの酒場での聞き込み、シルフィリアの門番からの証言がメテオスの所在を示していたが、あくまで伝聞情報である。
ゲドゥル秘書の情報を信じて作戦を実行するかどうかの判断に迫られた。
「難しい所ですね。賭けになってしまう」
「そうだな。どうするべきか」
十野間修(eb4840)とエメラルド・シルフィユ(eb7983)が焚き火を挟んで顔を見合わせる。
メテオスの所在が確認出来ないのは痛いが、冒険者達にとって有利な点は一つある。ゲドゥル秘書とメテオスがそっくりなおかげで特別な変装をされていない限り、冒険者達が見間違える事はあり得なかった。混乱の中ではかなりの優位性になりうる。
「やりましょう。メテオスがいてもいなくても、オリソートフの隠れ家は潰さなくてはなりませんわ。領主の許可も得ているのですから」
クレア・エルスハイマー(ea2884)が一押しした後で、全員の決が採られる。結果、突入が決まった。
作戦実行は七日目から八日目にかけての夜明け前となる。
「逃がさないこと優先しようね」
エル・サーディミスト(ea1743)が両腕を胸の前で構えると、フェアリーのシアとモナも真似をする。敵とはいえ不殺の作戦はエルにとって願ったりであった。
冒険者達は二つの班に分かれる。
屋敷へと突入する襲撃班は、エメラルド、磯城弥、コルリス、クレア、エルの五人である。
メテオスが逃げだすのを想定して待ち伏せる追撃班はフィーネ、シルフィリア、島津影虎、十野間修の四人となった。
●突入
(「それでは行きますわ」)
夜空が白み始めた時、大木の影から身を乗りだしたクレアはローリンググラビティーを唱え、門番一人を地面へと叩きつける。
もう一人の門番が唖然としている間にエメラルドは愛馬で駆ける。残る一人の急所を狙って気絶させた。
「しばらく眠っていればいいのだから幸せだぞ。お前達は」
エメラルドが気絶している門番二人を見下ろしていると、クレアがペガサスと一緒にやってくる。
門番二人は交代したばかりである。犬を引き連れて庭を巡回する見張りが去ってわずかなタイミングでもあった。
グリフォンに乗ったコルリスや、エル、磯城弥も現れて、襲撃班全員が屋敷の庭へと立ち入る。
「いくね! もしもの時はシア、モナ、手伝ってね」
エルが最大級のライトニングサンダーボルトを唱え始める。
「本当に復興戦争を戦い抜いた者なら、これぐらいでは死なないでしょう」
ほとんど同時にクレアもファイヤーボムを詠唱し始めた。
どちらの魔法も狙うはオリソートフの屋敷であった。
雷撃が薄暗い宙を走り、屋敷の出入り口となる大扉を吹き飛ばす。炎球は上空で弾け、屋根や壁の一部を四散させた。
先制攻撃の後、襲撃班は屋敷へと疾走する。
エメラルドは愛馬ラファエロで大地を駆けた。
コルリスはグリフォン・ティシュトリヤで低空を飛ぶ。
クレアはペガサス・フォルセティと一丸となる。
エルは発動させたフライングブルームに掴まって風となる。
磯城弥はエルにアースダイブをかけてもらい、地表すれすれを得意の泳ぎで一気に進んだ。
庭に放たれている番犬を蹴散らしながら、襲撃班は屋敷へ侵入する。フェアリー達のスリープで眠らされた番犬も多くいた。
どこかで鐘が鳴らされる。すると休んでいたオリソートフの者達が廊下や広間に飛びだしてくる。
襲撃班にとって目的はメテオスのみで、残りは障害物でしかあり得なかった。
「メテオスはどこに!」
オーラセンサーでは見つけられなかったコルリスはドアの蝶番を狙ってオーラショットを叩き込んだ。ドアが吹き飛ぶと襲撃班の仲間が部屋の中を確認する。
(「ここにメテオスが来たら、この杖で」)
頃合いをみて地上に上がった磯城弥は、微塵隠れで番犬共を蹴散らしながら庭を移動した。そして海側へと繋がる地下トンネルの出入り口付近で待機する。
屋敷内は混戦となる。
その勢いは内部にとどまらず、屋根や壁が庭へと吹き飛んだりもした。襲撃班の攻撃だけでなく、敵側の魔法攻撃も凄まじいものがあったからだ。
「あれは! メテオスが空へ逃げようとしてますわ!」
それぞれにフライングブルームへ跨った敵三人が、広間の壊れた屋根の穴から飛び立とうとしていたのをクレアが発見する。その中にはメテオスも含まれていた。
クレアはペガサスと共に飛んで先回りをし、敵三人の行く手を塞ぐ。スモールホルスのリューベックも手伝ってくれる。
「行かせない!」
エルが稲妻の魔法でフライングブルームを狙い、メテオスを撃ち落とした。コルリスが放った矢は他の敵二人に命中する。
屋根へ落ちたメテオスは転がる勢いのまま、三階相当の高さから地面へと叩きつけられる。フライングブルームで飛んでいた敵二人はメテオスを助ける為か、逃げずに庭へと降りた。
「落下して動けない様子ですが、助けようとしている敵が二人います」
屋敷を監視していた追撃班の護堂熊夫がメテオスの発見を仲間へと伝える。
「行きましょう。ではお先に」
疾走の術で島津影虎が駆けると追撃班の仲間も続く。
フィーネはグリフォンに乗って飛翔する。
シルフィリアは愛馬アルボルの手綱をしならす。
護堂熊夫は空飛ぶ絨毯で低空を飛んだ。
太陽が昇り、朝焼けで辺りが真っ赤に染まった。
庭へと落下したメテオスの周囲では激しい戦闘が繰り広げられている。そこに追撃班が加わった。離れた場所にいた磯城弥も、集合の合図を聞いてやって来る。
「邪魔をしないで頂きたいものです」
島津影虎はフィーネを護衛しながら敵を次々と気絶させてゆく。
「命は大切にしましょう」
フィーネはコアギュレイトで大量の敵を一気に動けなくさせた。ホーリーフィールドで仲間の安全地帯も作りだす。
「メテオスを逃がそうとする輩がいます!」
アイスコフィンで敵の動きを封じ込めていた護堂熊夫が叫んだ。シルフィリアが反応する。
「どこに行くっていうんだい? こんな美人を放っておいてさぁ」
シルフィリアがメテオスを背負って逃げようとしていたジャイアント男の前に立つ。
「これで終わりです。メテオス」
十野間修が遠距離を活かした伏兵的なシャドウバインディングで、ジャイアント男の足を地面へと縫いつけた。無理に動こうとしたジャイアント男は体勢を崩し、背負っていたメテオスを落としてしまう。
壊れた壁から愛馬と共に屋敷から飛びだしてきたエメラルドが、ぐったりと倒れているメテオスを回収して口笛を吹く。
決めてあった作戦の通り、メテオスを捕獲したエメラルドの脱出を仲間達は助ける。達成を確認し、すぐさま撤収するのであった。
●そして
オーステンデに戻った冒険者一行は、すぐにトレランツの帆船に乗り込んで出航した。
デビルや忍者はいなかったもののオリソートフは手強かった。特にウィザードが多くて手こずった感がある。
酷い怪我を負っていたメテオスだが、フィーネのリカバーによって治療される。念の為の介抱はエルに任された。
船旅の途中で尋問が行われるものの、メテオスは口を割ろうとはしなかった。
メテオスによく似た身代わりの疑いもあったが、ニュートラルマジックを使っても変化はしない。
厳密な調べはルーアンの官憲に任せるが、間違いなく本人であると冒険者達は結論づけた。
九日目の昼過ぎ、ルーアンの船着き場へと入港する際にかなりの緊張が走った。
フレデリック領はルーアンの対岸の地にある。ゼルマ領主やシャラーノ嬢にとってメテオスの存在は大きく、フレデリック領とヴェルナー領との戦争が勃発する可能性があったのだ。だが、最悪の事態は起こらずに終わる。
入港するとメテオスはルーアンの官憲に引き渡された。
冒険者達は少しの間だけルーアンに滞在した。トレランツ本社では、柔らかいベットと豪華な食事が振る舞われる。追加の報酬もこの時に手渡された。
「助かったかも‥‥」
使われた薬類の補填もあってエルはホッとした。
「何故、そんなにメテオスを捕まえるのかに一生懸命だったのか、ですか?」
エメラルドと護堂熊夫に問われたゲドゥル秘書は、しどろもどろになって困り果てる。
無理に話す必要はないといって二人は引き下がった。だがパリへと出航する十日目の朝に教えてくれた。
以前にメテオスと自分がそっくりだとわかった時、カルメン社長の言葉がショックだったようだ。好みの顔ではないとばっさりと切り捨てられたらしい。
自分でアプローチをして玉砕したのならともかく、似た人物がいたせいで思わぬタイミングで失恋をしたとゲドゥル秘書は思い込んでいた。みみっちい理由だとゲドゥル秘書自身もわかっていたが、心を自由にする事は叶わなかった。
社長と秘書という関係ではなく、ゲドゥルはカルメンに男として恋心を抱いていた。
そもそも船酔いをしてしまうような男が海運業者で働いているのが不自然極まりない。すべてはカルメン社長の近くにいたいというゲドゥル秘書の想いからだ。
男女の立場が入れ替わっているような気はするが、それはそれで似合いであるかも知れないとエメラルドと護堂熊夫は話し合う。だが、ゲドゥル秘書は完全に失恋モードであった。
十日目の昼頃、冒険者達を乗せた帆船はルーアンを出航する。
十一日目の夕方には無事パリの船着き場へと入港するのであった。