潜伏者への支援 〜トレランツ運送社〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 26 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月13日〜02月22日

リプレイ公開日:2009年02月21日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。
 女性社長カルメンを中心にして男性秘書ゲドゥルが補佐するトレランツ運送社は、領主ラルフとの間に強い繋がりが出来ていた。


 シャラーノ・ブロズはいくつもの顔を持つ。
 グラシュー海運の女社長、闇の組織オリソートフの幹部、かつて領主の娘であった時代もある。
 そして今はフレデリック領でクーデターを起こし、女性領主の座へと収まった。
 国王ウィリアム3世が認めるはずもないが、デビル侵攻阻止に力を傾ける時期であり、後回しにされたのである。
 フレデリック領は名を変えてブロズ領となっていた。
 ヴェルナー領主ラルフ卿からの使者がトレランツ本社を訪れる。
 カルメン社長はいつものようにゲドゥル秘書をパリの冒険者ギルドへと向かわせた。ブロズ領に潜伏する騎士団からの要請に応える為である。
 その名はミュリーリア騎士団。
 かつての領主フレデリック・ゼルマに仕えていたミュリーリア家が中心となって結成された即席騎士団のようだ。正式な結団式は行われていないので便宜的に呼称されている。
(「しょうがないか。義理ってのもあるし‥‥」)
 ミュリーリア家がゼルマ領主の配下であったのが気になるカルメン社長である。しかしゼルマ領主を救出する依頼の際、冒険者達の脱出を助けてくれたのも事実だ。
 数日後、ゲドゥル秘書によって冒険者ギルドに依頼が出される。不足している武器と食糧をブロズ領内に隠れているミュリーリア騎士団に届ける内容であった。

●今回の参加者

 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

イフェリア・アイランズ(ea2890

●リプレイ本文

●準備
「おっしゃ! 気合い入れてぇ〜〜〜〜〜みんながんばってや〜!!」
 一日目、早朝。セーヌ川の上空からシフールのイフェリアがトレランツ運送社の帆船を見送る。
「ええ、わかりましたわ〜♪」
 クレア・エルスハイマー(ea2884)を始めとした甲板の冒険者達が手を振った。
 帆船は二日目の昼頃にルーアンへ入港する。冒険者達とゲドゥル秘書はトレランツ本社へ直行した。
「依頼書にある通り、ミュリーリア騎士団ってのを、ひとまず助けてやってもらえるかい?」
 カルメン社長はあまり乗り気ではない態度で冒険者達の前に現れた。ラルフ卿の願いとはいえ、ゼルマ元領主の配下に協力するのは本意ではなかった。
 ブロズ領への潜入は明日と決まり、それまでは自由時間となる。
「少し出かけてきます。なるべく早く戻りますので」
 パリで変装の古着を用意をしきれなかったコルリス・フェネストラ(eb9459)は、ルーアンの街中へと買い物に出かけた。
「三十歳ぐらいか? ミュリーリアというのは」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)はシルフィリア・ユピオーク(eb3525)から借りた道具でミュリーリアの似顔絵を模写する。揺れる船上で模写は難しかったからだ。
 夕方になるとコルリスが古着を抱えて戻ってきた。
 さっそく明日に備えて変装が始まる。
「私は旅の占い師でいきますね」
 十野間空(eb2456)は占い師らしい衣装を選ぶ。占いの道具はすでに用意してあった。
 さらにエメラルドと並んで机に向かい、ミュリーリア家の紋章入りのタロットカードを描き上げておく。潜入後に使うつもりである。
「私はやっぱりこれですね」
 コルリスは御者に扮する。帽子を深く被り、化粧と合わせて目立たないように気をつかった。
「いくら陽動班とはいえ、ワザとらしくても拙いので出来るだけ目立たないよーにしましょーかね〜」
 井伊貴政(ea8384)は少々くたびれた服を選んだ。
「私もそうですが、まずはハーフエルフというのを隠すようにしましょう」
「余計な事で騒ぎを起こしたくはありません。お願いします」
 レイムス・ドレイク(eb2277)は琉瑞香(ec3981)の髪型に手を入れる。茨の冠に合わせてボリュームをつけた。
「クレア殿もなさるようですし、私も普通の馬に見えるようにブリュンヒルトの翼を隠すつもりです。私自身は今後に備えて面が割れないように普段とは違う服装をしなければいけませんね」
 マミ・キスリング(ea7468)は磯城弥夢海(ec5166)と一緒に仲間が変装する様子を眺めていた。ブリュンヒルトとはペガサスの名前である。
「河童の私はどうしても目立つので最初から身を隠すつもりです」
 磯城弥が目を細めながらマミに答える。
「そうそう、こんな感じ」
 シルフィリアは仲間の変装を手伝う。自らは女行商人風に化ける予定だ。
「これで変装が必要な者は全員か?」
 エメラルドも仲間の変装を手伝った後で自らの支度を始めた。長くシャラーノに関わってきたエメラルドなので、念入りの化粧が必要であった。
 夜が明けて三日目。冒険者達は偽装した貨物帆船へと乗り込むのだった。

●ブロズ領
 貨物帆船は一旦セーヌ川を下流へと進んだ。日が暮れようとした頃に上流へと反転し、夜陰に紛れて冒険者十名と馬車一両をブロズ領に降ろした。
 夜の移動はかえって目立つ。冒険者達は馬車ごと森に身を隠して一晩を過ごす。
 四日目の朝、一行はミュリーリア騎士団が潜伏するというココット町に向けて出発した。頼りはゲドゥル秘書から渡された一枚の地図である。
 官憲によって何度か停められたものの、ゲドゥル秘書が持たしてくれた資金から賄賂を懐に忍ばせて事なきを得る。
 残った場合に追加の報償として冒険者達に与えられる予定のお金であったが、失敗しては元も子もない。すでに古着の購入代として使っており、町に着いたのなら宿や酒場での支払いでさらに消えてゆく予定だ。
 五日目の夕方、ココット町を間近にして馬車が停まる。一行は三つに分かれて行動を開始した。
 隠密班のシルフィリア、コルリスは馬車を預かって町には入らずに近くの森へと身を隠す。
 陽動班の十野間空、マミ、井伊貴政、磯城弥は堂々と町に入る。それとは逆に接触班のクレア、レイムス、琉瑞香、エメラルドは目立たぬように足を踏み入れるのだった。

●陽動班
 五日目の昼の最中、マミは馬に偽装したブリュンヒルトと愛馬・閃光皇を連れて町中を練り歩く。二頭の背中には偽の物資が載せられていた。
「こちらを見て頂けますか?」
 マミは紋章図や似顔絵を町の人に見せては訊ねるのを繰り返す。探すだけでなく、目立つ事によって他の班の行動を助ける意味も含まれていた。
 井伊貴政も紋章図と似顔絵を手に聞き込みを行う。
(「どのくらい傷んだ食材を使っているんでしょーか‥‥」)
 主に酒場や市場を巡っていた井伊貴政である。何も注文しない訳にもいかないので酒場で料理を注文してみるとあまりにまずかった。それでも残さずに無理矢理胃袋に押し込んだ。
 ブロズ領の食料事情は厳しさを増していた。だからこそミュリーリア騎士団も物資を必要としているのだろう。
「お客様はこの図案に何か心当たりが?」
 占い師に扮した十野間空は酒場を主に回る。ミュリーリア家の紋章が描かれたタロットカードをこっそりとテーブルの隅に置いておく。
(「あの右の席の人‥‥やけに空さんを見つめていますね‥‥」)
 磯城弥は隠密の技を活かして仲間を周辺から見守る。周囲の目を気にして接触に踏み切れないミュリーリアの関係者がいるかも知れないので見逃さないようにする。同時に官憲への通報者にも注意した。
 元々ミュリーリア騎士団側から物資補給を願っていただけあって、陽動班は関係者と比較的簡単に接触の機会を得る。明日の夕方、町外れにある小屋周辺で物資を引き渡す約束が十野間空のテレパシーによって交わされた。
 ミュリーリアの関係者の身辺を守る為に十野間空を除いた三人が動く。磯城弥の案内の元、井伊貴政とマミがブロズ領の官憲に通報しようとした者達を黙らせた。
 夕方、陽動班全員が同じ宿屋に泊まって細かい情報交換を行った。
 ミュリーリア騎士団の名は一般的ではないようだ。ミュリーリア家や当主についても同じである。
 深夜、磯城弥が闇に紛れて接触班と隠密班にミュリーリア騎士団側との約束を伝えた。
 これによって陽動班の残る仕事は退路の確保のみとなる。昼間目立って行動しただけあって、すでに宿屋の周辺にはブロズ領の官憲らしき者達が張り込んでいた。
 ミュリーリアの関係者を追跡しようとした通報者はすべて排除しておいた。しかし自分達陽動班を付け狙っていた通報者はわざと見逃したのである。
 明日の夕方まで監視の目を引きつけた上で、その後完全に振り切って脱出しなければならなかった。陽動班に求められた行動はかなり高度なものであった。

●接触班
 接触班の四人が町に入って最初に行ったのは馬車の確保である。本物の物資を載せた馬車は隠密班が動かすので作戦上もう一両必要だったのだ。
 何とか借りることに成功したが、これでゲドゥル秘書から預かったお金はすべてなくなる。
(「シャラーノは欲望の赴くままにが信条のようですね」)
 レイムスは空いた時間でブロズ領の政治状況を調べた。他の領地との交易が制限されているせいで経済状況が芳しくなく、それが治世にも影響しているようだ。
 この状況下で耳を疑いたくなるのだが、シャラーノが領内の優男達を城に集めている噂もあった。
 夜、陽動班の磯城弥からの連絡で物資の受け渡し場所が判明する。偽の物資は夕方までに借りた馬車へ載せ終わっており、準備は完了していた。
 六日目の夕方、接触班は町外れの小屋へと向かった。
 馬車の御者はエメラルドが務めて琉瑞香が同乗する。クレアは馬に偽装したペガサス、レイムスは愛馬で馬車を護衛した。
 小屋の前では馬を引き連れた三人が待つ。ミュリーリア騎士団に属する者達である。
「ミュリーリア騎士団の団長はいないのか」
 エメラルドは三人の中にミュリーリア家当主が含まれていなかった事を残念に感じる。一応ミュリーリアの騎士達にも質問したが、満足な答えは得られなかった。
 レイムスはわざとミュリーリアの騎士達と大きな声でやり取りをした。何者かの耳があった場合、情報収集を行っているように欺く為だ。
「デビルかも知れない存在が近くにいます‥‥」
 琉瑞香が隣にいたクレアに囁く。デティクトアンデットで探知したのである。
「陽動班が内通者や官憲を引きつけてくれているおかげで、きっと私達の相手はデビルだけになったのですわ」
 クレアはペガサス・フォルセティの翼に被せた覆いをいつでもはがせるように待機する。
「貴殿等は私達が死守しよう。‥‥接触班が伝えた作戦通りに頼む。それとすべてが終わったら馬車を宿屋近くの大工に返しておいてくれ」
「わかりました。健闘を祈ります」
 エメラルドにミュリーリアの騎士の代表者が頷いた。
 ミュリーリア騎士団の三人は乗ってきた馬を馬車に繋げ終わるとすぐに発車する。接触班はすぐに自らや仲間に補助魔法を唱えた。
「我は導く魔神の息吹!」
 クレアが巨大なファイヤーボムを放つ。位置は琉瑞香に教えてもらったデビルらしき存在が固まって隠れている岩場周辺である。
 これをきっかけとして戦いが始まった。
「そこです!」
 琉瑞香は探知したデビルに向けてホーリーを唱えた。
 なるべくその場に留まり、襲ってくるインプやグレムリンを排除してゆく。移動が必要な時にはセブンリーグブーツを活用した。
「邪魔はさせません!」
 レイムスは愛馬で駆け、馬車に取りつこうとしているグレムリンに追いつく。そして高く掲げた聖剣デビルスレイヤーを叩きつけた。
 弾き飛ばされたグレムリンが土煙をまとって地面を転がる。
「邪魔だ!」
 レイムスの後方を愛馬で駆けていたエメラルドはグレムリンを払うようにシルヴァンエペで斬り伏せた。
 地上付近で馬車を狙うデビルはレイムス、エメラルド、琉瑞香によって排除されてゆく。空中はペガサスで駆けるクレアに任された。
 やがて草原にある石造りの建物の近くで馬車が停まった。攻勢が強まるものの、接触班は怯まずに一体ずつデビルを潰してゆく。
「指揮しているデビルがいますわ!」
 敵はインプとグレムリンだけだと思われたが、その中に一回り大きいデビルをクレアが発見した。ネルガルである。
 接触班がネルガルに攻撃を集中させると、デビルの群れが撤退を始める。
 予めの作戦の通り、草原の石造りの建物はミュリーリア騎士団の隠れ家ではなく、ただの廃墟であった。

●隠密班
 陽動班が官憲や内通者を引きつけ、接触班がデビルの群れを偽の隠れ家に誘導していた頃、隠密班のシルフィリアとコルリスはココット町を馬車で駆けていた。
 二人とも馬車の御者台に座り、手綱を持つのがコルリスでシルフィリアは商人姿だ。
 普段このような無防備な状態で町を走っていたら、誰かに目を付けられていたはずである。しかしすべてといってよい冒険者の敵は町から出払っていた。
 それでもなるべく他の馬車の隊列に紛れたりして気を使いながら移動を続ける。やがて陽動班の磯城弥から教えてもらった寂れた屋敷の倉庫に到着する。
 薄暗い奥から現れた男達がミュリーリア家の紋章を隠密班の二人に見せた。
「助かった。わたしがミュリーリア。ミュリーリア騎士団の代表者だ。感謝する」
 もう一人奥から歩いてきた男は自らをミュリーリアと名乗った。似顔絵にそっくりである。
「ラルフ卿からの使いのもんさ」
「同じく私も」
 ミュリーリアが求めてきた握手にコルリスとシルフィリアが応じた。
「これが物資になるよ」
 シルフィリアが馬車後部の扉を開く。運んできた木箱の中には武器や食料が詰め込まれていた。
「こんなに簡単だったのは仲間のおかげですね」
 コルリスがシルフィリアに微笑んだ。
「突然のクーデターで何が何やらわからぬまま、このようになってしまったのだよ。ヴェルナー領に保護されたゼルマ侯は現在どのように?」
 ミュリーリアの質問にシルフィリアとコルリスが顔を見合わせる。悩んだものの、自分達が知る真実を話した。現在ブロズ領にはびこるデビルはゼルマ領主の頃からの負の遺産であると。
 他にもシャラーノやゼルマの暗躍を聞いたミュリーリアは唖然とする。
「そんな‥‥馬鹿な‥‥。確かに少々気まぐれなところはあったが、デビルと与するなどと‥‥」
 ミュリーリアは衝撃を受けたようで、何度もシルフィリアとコルリスに問い質した。しかし答えが変わるはずもない。
 図らずともこの場にいないエメラルドの質問の答えとなる言葉をミュリーリアは口にする。いくら尊敬する領主といえども、デビルと協力したのが事実ならば許す事は出来ないと。
 隠密班は軽くなった馬車で町の外へと脱出した。決めてあった集合場所で陽動班、接触班と合流するとセーヌ川を目指す。
 七日目の宵の口、岸に現れた輸送帆船に全員が乗り込んでブロズ領から離れる。夜遅くなったものの、その日のうちにルーアンへと入港した。

●そして
「ミュリーリアはデビルと与したゼルマ領主を許せないといったんだね?」
 トレランツ本社の社長室でカルメン社長は冒険者達から報告を聞いた。
「これは以前レミエラサンプルを手に入れてくれたお礼の意味も含まれています」
 感謝の印としてゲドゥル秘書から冒険者達に贈られたのはウォーターダイブのレミエラである。ヴェルナー領内にあるタマハガネ村で完成したものだ。ただしサンプルとして手に入れたものよりも性能は低かった。
 八日目の昼頃、冒険者達はパリ行きの帆船に乗り込んで帰路についた。