シャラーノの焦り 〜トレランツ運送社〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:18 G 46 C

参加人数:10人

サポート参加人数:7人

冒険期間:05月07日〜05月19日

リプレイ公開日:2009年05月16日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。
 女性社長カルメンを中心にして男性秘書ゲドゥルが補佐するトレランツ運送社は、領主ラルフとの間に強い繋がりが出来ていた。


 静かな湖面に浮かぶは城。
 その主はシャラーノ・ブロズ嬢。
 彼女はフレデリック・ゼルマ侯から奪い取った領地をブロズ領とあらためて宣言していた。亡き父が治めたブロズ領再興の意味を込めて。
「忌々しい‥‥。このようなはずではなかった。機をみて他領に攻め込み、いずれはノルマン王国を手に入れようというのが当初の計画。ところが領内での混乱の後始末に追われるのみ。しかも劣勢なのは何故なのであろうか?」
 広間に設置された領主の座に就くシャラーノが見下ろしたのはフライングダッチマンのダッケホー船長である。
「ご存じの通り、あのトレランツ運送社のカルメンの邪魔だてが一番の障害かと。ヴェルナー領のラルフ卿の後ろ盾を使い、何かと私どもの抵抗勢力に手を貸している様子。特にミュリーリア騎士団と名乗る集団には冒険者を通じてことのほか肩入れしております」
 いつものふざけた様子もなく淡々とダッケホー船長はシャラーノに答えた。
「あの女狐め‥‥」
 シャラーノは目を瞑ってしばらく考えた末で決断する。奪われた鍛冶の町『バスターム』を奪回すると。
 シャラーノが構える城のある湖はバスタームから大して離れていない。馬車で強行すれば一日もかからない位置にある。ミュリーリア騎士団によってバスタームが要塞として活用されたのなら、攻め込まれるのは必至だ。
「まだ準備は向こうの整っておらぬはず。狙うなら今しかなかろう。船長よ、デビルの協力も要請する。一気に叩きつぶそうぞ。共に輝ける未来の為に」
 シャラーノは隣りにはべらせた青年に手にしたカップへワインを注がせ、頭上に掲げるのであった。

●今回の参加者

 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

西中島 導仁(ea2741)/ 李 雷龍(ea2756)/ イフェリア・アイランズ(ea2890)/ 李 風龍(ea5808)/ 明王院 浄炎(eb2373)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601)/ リンカ・ティニーブルー(ec1850

●リプレイ本文

●目的地へ
 パリを出港するトレランツの帆船を見送る者はたくさんいた。
 西中島導仁、李風龍、李雷龍、イフェリア・アイランズ、明王院浄炎、チサト・ミョウオウイン、リンカ・ティニーブルーである。
 彼、彼女らからは荷物運びの手伝いや有用な情報が提供された。中にはイタズラをしようと機会を狙ったものの、返り討ちにあった者もいたが。
 冒険者十名とゲドゥル秘書を乗せた帆船はセーヌ川を下り、二日目の昼前にルーアンへ到着する。そして物資を載せ、数キロ上流の向こう岸にあるブロズ領バンゲルの町へと入港した。
 夜のうちに物資は荷馬車三両に載せかえられる。三日目の朝には届け先である鍛冶の町バスタームを目指して出発する。
 すべてが順調に終わると思えたバスターム間近の夕刻時。一行は顔色を変えて進行を停める。
 遠くに見えたのは多くの兵士。掲げる旗はグラシュー海運のそれとよく似たもの。
 バスタームを取り囲もうとするシャラーノ軍であった。

●突然の危機
「ここまで攻めてきているなんて‥‥シャラーノ軍だと思いますわ」
 ペガサス・フォルセティで空に浮かぶクレア・エルスハイマー(ea2884)は、遠くの眼下に広がるシャラーノ軍を目の当たりにした。
「あれがシャラーノが率いる軍‥‥。あ、今、十野間殿からテレパシーが」
 ペガサス・ブリュンヒルトでクレアの近くにいたマミ・キスリング(ea7468)は地上の十野間空(eb2456)と念波でやり取りをする。どうやら地上の荷馬車付近からもシャラーノ軍を確認出来たようだ。
「あの軍に確認されるとまずいので降りましょうか」
 グリフォン・ティシュトリヤに乗ったコルリス・フェネストラ(eb9459)は、ペガサス・黎明の琉瑞香(ec3981)と一緒にクレアとマミの側へ近づいた。
 やがて空中に浮かんでいた四人は荷馬車三両が待機する大地へと着陸する。
「空から見た様子では、シャラーノ軍はバスタームの町を取り囲んでいました」
 琉瑞香が代表して地上の仲間達に空からの状況を報告をする。
「どのみちすんなりとバスタームの町には入れないはず。まずはこの荷馬車三両をどこかに隠しましょう」
 レイムス・ドレイク(eb2277)の意見に一同は賛成し、少々道を戻って森の中へ荷馬車三両を隠した。草などを被せて偽装する。
 見張りについてはここまで御者をしてくれた協力者達に任せた。命の危険を感じた時には荷馬車を見捨ててもよいと伝えて。
 そうこうするうちに日が暮れる。
 一行はバスタームを取り囲むシャラーノ軍が望める森の中に潜んだ。
 現状で焚き火をするのは見つけてくれと敵へ叫んでいるのに等しい。野獣からの安全を計る為に一同は太い枝が伸びる大木へと登った。ゲドゥル秘書などの木登りが得意でない者はコルリスがグリフォンで移動させてくれる。
「シャラーノも勝負に出たか。望む所だ、決着をつけよう」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)は枝葉の隙間から落ちてくる月光の下で闘志をたぎらせた。
「デビルにも気をつけないとねぇ。陸の上でもダッケホー船長が現れるかも知れないし」
 シルフィリア・ユピオーク(eb3525)はデビルを察知出来る指輪『石の中の蝶』に目をやる
「ここは相手戦力や防衛状況の確認が出来ればいーのですが〜」
 井伊貴政(ea8384)の意見はもっともであった。
 まずは隠密に長けたシルフィリアと磯城弥夢海(ec5166)が敵状を探りに向かう。その際、五百メートルの届く範囲である限り十野間空のテレパシーが活用される。
(「私にとって有利な水路はシャラーノ軍に押さえられていますね」)
 河童の夢海は単独でのバスターム潜入をあきらめる。ちなみにバスターム内の生活水は主に井戸が活用されていた。
 シルフィリアからはデビルの反応があったとの報告がなされる。シャラーノ軍内にいくらかのデビルが紛れているのは確かなようだ。これまでの経緯からいって他にもどこかに潜んでいる可能性はある。
 城塞のバスタームを相手に例え大軍を率いるシャラーノであっても、おいそれとは仕掛けられないようだ。ミュリーリア騎士団と冒険者達が陥落させた時は好条件が整っていたといえる。
「シャラーノ軍の情報をさらに集め、そして何とか突破して、バスターム内にいるミュリーリア騎士団と合流する。さらに町の外で得た情報を伝え活用して、シャラーノ軍に討って出る作戦で決定なのですね?」
 ゲドゥル秘書が意見の総意を口にした。

●準備
 四日目の夜明け前から五日目の夕方までは情報収集にあてられた。
 緊急の状態になればいつでも行動をと心構えを持っていた一行であったが、シャラーノ軍が静観の構えを見せていたからである。
 シルフィリアと琉瑞香が特に心を砕いたのはデビルがどこに隠れているのかだ。
 空からでは目立ちすぎるので地上での捜索が始まる。シルフィリアが隠密の技でデティクトアンデッドを使う琉瑞香を助けながら身を潜めながら探った。
 その結果、かなりのデビルがバスターム南方に隠れているのが判明する。周囲よりせり上がった崖の上に待機しているようである。飛行可能なデビルなら隠れるのにもってこいの場所だ。
 夢海はシルフィリアと琉瑞香を遠巻きから観察し、もしもの場合は加勢するように努めた。
 他の冒険者とゲドゥル秘書は遠巻きからシャラーノ軍全体の正確な数の把握を行う。
 全体は約五百の軍勢。シャラーノ軍は各隊で分かれているので、突破時に戦う可能性があるのは八十名前後と試算された。さらに少数ながら透明化しているデビルもいるはずだ。
 準備を整えた一行は夜を待った。
 そして深夜に城塞の町バスタームへの突入が敢行された。

●月夜
 バスターム北方に陣を構えていたシャラーノ軍第三部隊はざわめく。
 三つの影が月を背に夜空へと浮かび、城塞バスタームへ飛び込もうとしていたからだ。
 一人はペガサス・ブリュンヒルトのマミ。
 一人はペガサス・黎明の琉瑞香。
 一人はグリフォン・ティシュトリヤのコルリス。
 射られた矢を避けながら三人はわざとゆっくりと第三部隊上空を旋回する。
 それは誘導であった。すべては忍び寄ろうとする仲間から敵の目を逸らさせる為だ。
 ペガサス・フォルセティの傍らで詠唱を唱えるクレアは第三部隊中央を貫くようにライトニングサンダーボルトを放った。輝く青みがかった閃光が第三部隊をかき分けて一筋の道を作り上げる。さらにファイヤーボムの巨大火球が第三部隊の中心で爆散した。
 火球が収まると混乱の第三部隊の中に土煙をあげながら突入の馬群があった。
 愛馬・毘沙門天に跨った井伊貴政は先頭を走り、『太刀「鬼神大王」+2』で迫る敵兵を掬うように斬る。そして迫り来る敵集団に剣風の衝撃波を放つ。
 馬術に長けていないの自分をわかっている井伊貴政は傷つくのをいとわなかった。
 愛馬アルボルを駆るシルフィリアは井伊貴政に少し遅れて駆ける。シルフィリアも馬の扱いに不慣れであったが、井伊貴政のおかげで近づく敵はわずかだったので何とかやり過ごす。
 愛馬・カイルロットに乗った十野間空は、ただ真っ直ぐに門へ向かって走らせるので精一杯である。フロストウルフ・希望が主人に併走して大地を駆け抜ける。
 次に走っていたのは愛馬ラファエロに跨ったエメラルドだ。馬の扱い、そして戦いにも長けた彼女だが、今は後ろにゲドゥル秘書を乗せていた。前方を走る十野間空を補助しながら敵兵を排除する。
 殿を務めていたのはレイムスである。後方から迫り来る敵兵やデビルを払う。時にはわざと遅れて仲間が先に進む時間を稼いだ。
 単独行動の夢海は微塵隠れで敵兵を混乱に陥れていた。姿を消す度に百メートル先に瞬間移動する。
 クレアがペガサス・フォルセティで低空を飛び、地上の仲間の元へ追いついた。上空のコルリス、琉瑞香、マミも地上で馬を駆る仲間達がバスタームへ辿り着けるように第三部隊に攻撃を開始した。
 バスターム間近まで近づくと矢の雨が降り注ぐ。もう駄目だとエメラルドの背中に顔を伏せたゲドゥル秘書だが何も起こらない。自分だけでなく仲間の誰にも矢は突き刺さっていなかった。
 矢はバスターム城塞上から放たれていた。
 十野間空があらかじめ自らに付与しておいたテレパシーのおかげである。愛馬の扱いに必死になりながら、十野間空は目視出来た城塞上の者達に片っ端から念波を送ったようだ。
 強襲された混乱の中でバスタームに近づきすぎた第三部隊の失策も大きい。
 最初に城塞門へと辿りついた井伊貴政は反転して敵兵を食い止める。仲間全員が潜り抜けるのを確認して閉じようとした門に飛び込むのだった。

●合流
 ミュリーリアの騎士団長が冒険者一行の到来を歓迎する。
 さっそくゲドゥル秘書からシャラーノ軍の配置と南方で控えているデビル集団についての報告が行われた。
 すでにバスターム内では戦いの準備が整い、討って出るのを待つのみとなっていた。
 騎士団長ミュリーリアの願いによって一行はデビルとの戦いを主として参戦する事になる。
 長引く様相がない限り戦端はシャラーノ軍の出方次第とされた。
 ゲドゥル秘書と冒険者達は用意された部屋で交代に休みながらその時を待つ。
 シャラーノ軍が動いたのは八日目の暮れなずむ頃であった。

●うねり
 シャラーノ軍の動きは素速かった。
 バスターム南方に控えていたシャラーノ軍第二部隊が二つに割れて西と東に散開する。空いた南方には後方に控えていたデビル集団が押し寄せた。
 つまり補強されなかったバスターム北方の第三部隊は見捨てられたという事になる。バスターム内に巣くう輩はとっとと北側から尻尾を巻いて逃げだせというシャラーノからのメッセージが込められていた。
 そんなまどろっこしい作戦をシャラーノがとらざるを得なかった理由は一つしかない。今後の為に鍛冶の技術を取り戻さなくてはならなかったからだ。
 言い換えればシャラーノ軍は鍛冶に携わる者達を殺さないようにバスターム内で大きな戦いを避けなければならなかった。そこにミュリーリア騎士団の、そして冒険者達の勝機がある。
(「急速に接近しています。魔弓による攻撃にも怯まず、まもなく城塞に到着するでしょう。馬での出撃用意をしている方々には上に来るように伝えてもらえるでしょうか?」)
 十野間空は城塞上で全体を見渡せるように待機していた。テレパシーを使って情報の中継地点となる。
 敵からの攻撃が始まった。
 北・西・東に関しては城塞外での攻防になるが南は違う。築かれている城塞上での戦いへとすぐに突入する。敵のデビルが空を飛ぶのに長けているせいだ。
「こしゃくだ!」
 『マカベウスの黄金剣+2』がグレムリンの翼を切り裂く。その勢いのままエメラルドは指揮をしている上位のデビルを捜した。
 レイムスと共にミュリーリア騎士団長と相談し、敵の中枢を叩いて早期撤退に導こうという作戦を立てていたエメラルドだ。
(「やはり町中まで侵入するつもりはないようですね‥‥」)
 レイムスは大きな構えから衝撃波を放ち、頭上を飛び回るデビル等を落下させるように努めていた。
(「仲間が数を減らしてくれるまで、こうやって注意をひいておきましょう」)
 夢海はなるべくたくさんのデビルを微塵隠れで巻き込みながら姿を消した。そしてあまり遠くにいかないようにして囮になり続ける。
「いきますわよ!」
 クレアは城塞上空で特大のファイヤーボムを爆発させた。爆風がクレアの髪や服を揺らす。繰り返される事により、デビル等は一時的であるにせよ安全地帯を失う。
(「ダッケホー船長は何処に‥‥」)
 マミはクレアがファイヤーボムで押し戻してくれたデビルに『日本刀「長曽弥虎徹」+2』を叩きつける。側にはペガサスを待機させていつでも飛び立てる用意をしていた。
「さすがにシャラーノも馬鹿ではないよーですねー」
 井伊貴政は蝿のように集ってくるデビルをあしらいながら、ソニックブームで遠方のリーダー格のデビルを狙った。
 シャラーノが姿を現したのなら行動を起こそうと考えていた井伊貴政である。
 そしてその任務はシルフィリアに託されていた。
(「シャラーノがいるとすれば‥‥」)
 シルフィリアは戦場を駆けめぐった。戦闘を避けてシャラーノ探しを第一とする。
「よく会いますね。もしかして惚れられてます? わたし」
 シルフィリアの目の前に現れたのはダッケホー船長。そしてこの前も一緒にいたリリスである。
 知らない間にダッケホー船長が召喚したアンデッドがシルフィリアを取り囲んだ。
「力を貸します!」
「相手は私達です!」
 シルフィリアが襲われようとした時、コルリスと琉瑞香がペット達と共に急降下して場を乱した。
 危機を切り抜けたその時、シルフィリアは遠くに立つシャラーノを目の奥に焼き付かせる。
 ダッケホー船長はゴーストシップを出現させて混乱させている間に姿を消す。リリス、そしてシャラーノもいなくなっていた。
 約二割の兵を失った時点でシャラーノ軍は撤退してゆく。ミュリーリア騎士団を中心としたバスターム側の死傷者はわずかな数で済んだ。
 静けさが戻った頃はすでに真夜中であった。

●そして
 森に隠してあった荷馬車三両は御者達と共に無事だった。積まれていた貨物は無事バスタームへと届けられる。
 十日目の朝にバスタームを後にした一行は夕方には港町バンゲルに到着する。そして十一日目の朝、トレランツの帆船でルーアンへと向かう。
「そんな大事があったのかい!!」
 ゲドゥル秘書から今回の顛末を聞いたカルメン社長は驚きの表情を浮かべる。
「すまないね。せめてお金の方だけでも上乗せしておくよ」
 カルメン社長は手持ちの袋から追加の謝礼金とレミエラを冒険者達に手渡した。
 ゲドゥル秘書がルーアンで下船し、トレランツの帆船は再びセーヌ川へと戻った。
 冒険者一行がパリに到着したのは十二日目の夕方であった。