陸を進む船 〜トレランツ運送社〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:16 G 29 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月26日〜06月05日

リプレイ公開日:2009年05月31日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。
 女性社長カルメンを中心にして男性秘書ゲドゥルが補佐するトレランツ運送社は、領主ラルフとの間に強い繋がりが出来ていた。


 ルーアンのトレランツ本社社長室。女性社長カルメンは男性秘書ゲドゥルから、シャラーノ城の居城周辺の説明を受けていた。
「城は湖中央の島にあります。広さはかなりありまして、どの湖畔からも城までは五百メートル以上離れています。ですので多くの魔法は意味を成しません。何とか届く魔法もありますが、城に待機するウィザードに相殺される可能が非常に高い。そしてフレデリック・ゼルマの時代に湖を拡張する工事が行われ、その際に深く掘られたようです。きっと飛行マジックアイテム対策でしょう。湖面から湖底まで三十メートル以上あるので、フライングブルームなどでは沈んでしまうはずです」
「うむ‥‥」
 ゲドゥル秘書が指さす地図を前にカルメン社長が呻る。
「さらに湖にはシャラーノ水軍が待機しています。確認されただけで帆船六隻、ガレー船四隻。もっとあっても不思議ではありません」
「それにダッケホー船長がいれば、ゴーストシップも加わるって訳か‥‥。こりゃ難儀だねぇ。湖の水位は下げられないのかい?」
「湖畔近くの崖から落ちる滝がありますが、どうやら湖底に地下水が湧き出ているポイントがいくつかあるようで、滝に繋がる川を塞き止めた程度ではどうにもならないと考えられます」
「そうか‥‥八方塞がりってことかい」
「一つだけ案があるのですが‥‥。笑わないで聞いてもらえますでしょうか?」
「なんだい? ゲドゥル、いってみな」
 ゲドゥル秘書はあらたまった上でカルメン社長に陸上から船を運ぶことを提案する。
「そりゃ、少しぐらいの距離ならなんとかなるだろうさ。しかしセーヌ川から城の湖までどれくらい離れていると思っているんだい」
「その点はご心配なく。以前に身柄を預かったアトランティスから来た設計技師ジェームスと船大工のジノが中型帆船を二隻建造したのは以前に社長へご報告しました。その中型帆船ですが、特別な装備がないかわりに構造に凝り、とても軽量ながら頑丈な船に仕上がっています」
「それは‥‥工夫すれば陸上を運べるのかい?」
「はい。ジェームスとジノは大丈夫だといっておりました」
 カルメン社長は思案の表情を浮かべる。そしてゲドゥル秘書の案を採用した。
「ミュリーリア騎士団がどう動くにしろ、湖があるっていうのに船の一隻もないんじゃ話しにならないだろうさ。その計画、進めておくれ」
「わかりました」
 カルメン社長の許可を得たゲドゥル秘書は、ギルドで冒険者を募集する為にパリ行きの準備を始めるのだった。

●今回の参加者

 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●リプレイ本文

●陸の船
 早朝のパリを出港したトレランツの帆船は、二日目の昼頃にブロズ領の港町バンゲルへと入港する。
 陸へとあがり、町中へと続く角を曲がった誰もが真っ先に行ったのは見上げる事である。それは冒険者も例外ではなかった。
 巨大な車輪がつけられた台車の上の載せられていたのは中型帆船。しかも二隻分だ。
「どうだい、こいつは。驚いただろ!」
 陸上の帆船の甲板から顔を覗かせたのは船大工のジノである。
「高い所からすみません。今回はみなさんが護衛してくれるそうで。大事な船をよろしくお願いします」
 ジノの横に現れた設計技師のジェームスが冒険者達に挨拶をする。
「ありがとう、ジェームス、ジノ。この船があればシャラーノに剣を突き立てられそうだ」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)はジノとジェームスを見上げながら剣の鞘を触る。
「陸を行く船の護衛ってゆーのも変な感じですけど、大事な護衛ですし頑張りましょー」
 井伊貴政(ea8384)は愛馬・毘沙門天の背中を撫でながら微笑んだ。
「超越のホーリーフィールドなら帆船を包めそうです。一隻ずつになると思いますが」
「はみ出した帆の部分はブリュンヒルトに頼みましょう」
 フィーネ・オレアリス(eb3529)とマミ・キスリング(ea7468)は、陸の帆船二隻を眺めながら襲撃時の防御を相談する。ブリュンヒルトとはマミのペガサスである。
「ジノさんとジェームスさん、相談があるのですが――」
 十野間空(eb2456)はジノとジェームスへ一緒に来て欲しいと願った。理由は簡単だ。移動の途中で帆船が少々壊れても二人がいれば直せるからだ。
 ルーアンのトレランツ本社へ引き返す予定だったジノとジェームスだが、同行する事になる。
 ちなみにパリから冒険者と一緒に来たゲドゥル秘書はこのバンゲルで待機と決まっていた。
「それではここに来るまでに決めておいた班分けで護衛をしましょう。まずはA班とB班が行い、C班は早めに就寝という事で」
 レイムス・ドレイク(eb2277)はあらためて班分けを説明する。
 A班はエメラルド、シルフィリア・ユピオーク(eb3525)、琉瑞香(ec3981)。
 B班はレイムス、コルリス・フェネストラ(eb9459)、十野間空、フィーネ。
 C班は井伊貴政、マミ、磯城弥夢海(ec5166)。
「それではみなさんよろしくお願いします。何かあれば起こして下さい」
 夢海を含むC班は船着き場近くの宿へと向かう。明日からの移動の際には同行する荷馬車で休む事になるだろう。
「あたいは船の上で監視させてもらおうかねぇ」
 身軽なシルフィリアは陸上の帆船にかけられたロープを器用に登り、さらに甲板からマスト上の見張り台まで辿り着いた。
「私は黎明と一緒に町の上空を巡回してきます。それでは」
 琉瑞香は自らにデティクトアンデットをかけた後でペガサス・黎明で飛び立つ。
「船着き場周辺を低空で飛んで監視します」
 コルリスが乗るとグリフォン・ティシュトリヤは翼を広げて宙に浮かぶ。
 A班とB班は各々の長所を活かせるやり方で陸の帆船二隻の護衛を開始した。
 十野間空はなるべくジノとジェームスと一緒にいられるように努める。
 バンゲル内に不死者の反応はない。何事もなく一晩が過ぎ去るのだった。

●陸を移動する船
 三日目の早朝から帆船二隻の陸上移動が始まった。ゲドゥル秘書とはしばしのお別れである。
「わかっていたことだが、これだけの存在感なら確実にシャラーノ側にばれるな」
 エメラルドは愛馬・ラファエロで併走しながら呟く。
 中型とはいえ、それなりの人数が乗れる立派な帆船だ。
 その巨体が動く様はとても目立っていた。これをシャラーノ側が察知出来なかったとすれば、あまりに間抜けという他にない。
 人の歩く速度より少し速い程度で陸の帆船輸送は進んだ。
 アトランティスから来たジノとジェームスが建造した中型帆船二隻は通常の船より軽く出来ている。その上で頑丈さは折り紙付きだ。
 ただしいくら軽くてもやはり重く、坂道になると途端に進みが遅くなった。牽いている馬達が嘶き続ける。
 特に注意すべきは坂道だと冒険者達は判明する。そこでレイムスが愛馬で先行してバスタームに至る道の状況を調べた。
 多くは平坦な道が選ばれていたが、どうしても通過しなければならない丘があった。他にも注意すべき危険地域はあるが、そこだけが突出していた。
「火に注意しないといけないと思うねぇ〜。なかなか着火はしないはずだけど、そのかわり燃えだしたら何をしても手遅れだからさ」
 シルフィリアは敵であるシャラーノ側が、魔法、もしくは火矢などで帆船二隻を燃やそうとしているのではないかと示唆する。
 過去に上空から油の入った容器を敵船に落として火を点けやすくした作戦を実行した事がある。それを逆にやられる可能性があった。
 幸いな事に空中で戦える仲間は多い。
 ペガサスを駆るマミと琉瑞香、グリフォンを相棒にするコルリスとフィーネは制空に注力した。例え油などの可燃物が使われなくても、制空権の確保が戦いに有利なのは間違いないからだ。
「みなさーん、器を持って並んでくださーい。一列にお願いしまーす〜」
 夕方になると輸送は中断されて一晩を過ごす為の野営が行われる。
 井伊貴政は用意されていた食材で得意の調理の腕をふるった。
 何度食べてもこの美味しさは変わらないと仲間達は井伊貴政が作ったスープの味を絶賛する。
 初めて食べたミュリーリア騎士団の協力者達はいわずもがなである。匂いに惹かれ、一口を含んだ瞬間に無我夢中になり、食べ終えるまで一言も話す者はいなかった。
 美味しい食事は明日への活力に繋がる。すべての者が満足して眠りに就く。
「上空から輸送の進みを判断すると、明後日の昼頃に問題の丘を通る事になりそうです」
 夜、琉瑞香は仲間達と焚き火を囲みながら昼間の内に調べた情報を報告する。
「他の時間も気は抜けませんが、デビルが襲うとすればやはり‥‥」
 コルリスが腕を組む。レイムスがいっていた急勾配の丘を誰もが気にしていた。
「明日にでも先乗りして丘の周辺を調べてみようと思います。指輪で透明化も出来ますのでご心配なく。どなたか途中まで運んで頂けませんか?」
「それなら私が。ブリュンヒルトにはオーラテレパスで話しておきます」
 夢海の願いを引き受けてくれたのはマミである。
「今は停車していますし、一時間程になりますが寝る前に護っておきましょう」
 フィーネは超越のホーリーフィールドを二度詠唱し、帆船二隻を聖なる障壁で包み込んだ。
「ジノさんとジェームスさんを見てきますね」
 十野間空はテントで先に休んでいるジノとジェームスの様子を確認しに向かう。
 ちょうどその頃、輸送隊の野営地から離れた崖の上では黒き翼を持つデビルが月夜に浮かぶ帆船のシルエットを見つめていたのだった。

●襲来
 四日目は何事なく過ぎ去った。
 だが夢海の調査により、問題の丘周辺にデビルが潜んでいる事が判明した。
 そして迎えた五日目。
 昼前に輸送隊は丘へと差しかかる。
 準備を整えた上で輸送隊は坂道を上り始めた。帆船を載せたそれぞれの台車は馬達に牽かれて非常にゆっくりと車輪を回す。
 丘から近い位置には森があり、敵が隠れるとすれば絶好の隠れ場所である。その予想は夢海の調査で裏付けられていた。
「ここが正念場だな」
 エメラルドは剣を抜く。
 危険を前に休んでいる班はなく、冒険者全員が戦う準備を整えていた。
「やはりそう来ましたか」
 丘の上に突然古びた帆船が現れるのを目撃したレイムスは呟く。フライングダッチマンのダッケホー船長が出現させたゴーストシップであろう。
「邪魔なものは僕が片づけさせてもらいますので〜」
 井伊貴政は愛馬・毘沙門天でゴーストシップに近づいて飛び降りる。その勢いのまま太刀「鬼神大王」+2を手にゴーストシップを破壊しにかかった。
 ゴーストシップの背後からアンデッドらが井伊貴政の視界内に姿を現す。
 しかし琉瑞香からもらったホーリーライトの光球のおかげで、アンデッドはある一定の距離までしか井伊貴政に近づけなかった。
「あなた達の敵はこっちですよ 昼月!」
 動きの鈍いアンデッドを翻弄したのは夢海である。微塵隠れを使っては瞬間移動し、アンデッドを背後から斬りつけてゆく。
 陸の帆船輸送は一時中断される。台車二両の車輪をあらかじめ用意しておいた木材で固定し、坂道を転げてゆく危険は回避された。
 森から飛び立ったグレムリンの群れが輸送隊を襲う。だが予想された事態なので冒険者達は冷静に対処した。
「そう簡単にこれを壊す事はできないはず」
 フィーネは超越のホーリーフィールドで二回詠唱して帆船二隻を覆った。
「ありがとう。ブリュンヒルト」
 マミは帆船のはみ出している部分をペガサス・ブリュンヒルトにホーリーフィールドで包んでもらう。
「こちらなら安全です。もしも破れたら他のに移って下さい」
 琉瑞香はミュリーリア騎士団の協力者の為にホーリーフィールドをいくつか張っておいた。その上でマミと一緒にデビルとの戦いに挑んだ。
「あれは?」
 マスト上の見張り台にいたシルフィリアは、スクロールのテレスコープで得た能力で燃えるような何かが森の方角から近づいてくるのを知った。
 燃えるような何かがデビル・グザファンだと知るのは後の事である。
 しかし正体がわからなくてもデビルと予想するのは容易く、そして間近に迫る危険なのはあきらかであった。
(「わかりました。みなさんに伝えます」)
 十野間空から定時のテレパシーによる問いかけがあった時、シルフィリアはグザファンの存在を知らせた。
 そして十野間空から全員に伝えられる。
「わたしが行こう! 任せてくれ!」
 エメラルドは十野間空から教えてもらった方角に愛馬・ラファエロで駆けた。すぐに燃える存在グザファンを発見し、勢いのまま剣を叩きつける。
「近寄らせません!」
 コルリスはグリフォンで空に浮かびながらグレムリンに向けて矢を射る。レミエラのスレイヤー能力のおかげで一撃の重さに磨きがかかっていた。
 しばらくして井伊貴政がゴーストシップを破壊し終わる。邪魔な船体が消えてゆく。
 すでにダッケホー船長が身を隠している位置はシルフィリアによって発見されていた。その情報は井伊貴政にも当然伝えられてあった。
 愛馬へ飛び乗った井伊貴政は再びゴーストシップを出現させようとしていたダッケホー船長に太刀を浴びせる。。
「あら、だめよ。そんなことしちゃ」
 よろめくダッケホー船長の側からひょっこりとデビル・リリスが現れた。そして井伊貴政に魅了しようとする。
 魅了に耐えた井伊貴政だが、愛馬を反転させている間にダッケホー船長とリリスは姿を消した。
 陸の帆船から離れた位置で戦っていたエメラルドはグザファンを倒しきる。
 グレムリンらはゴーストシップが再出現しない状況に苛立っていた。ついには我慢しきれなくなって撤退を始める。
 冒険者達が残るアンデッドを始末すると、すべての敵は一掃された。
 まずは怪我をした者にリカバーによる治療が行われる。体力の維持の為、戦いの途中で回復の薬を使用した冒険者もいた。
 やがて帆船二隻の輸送が再開される。丘を上りきると制動をかけながらゆっくりと坂道を下ってゆく。
 デビルに襲撃されたせいでかなりの時間が経過していたが、バスタームが間近な事もあって輸送は続けられた。
 夜になるとホーリーライトで道を照らす。やがてバスターム城塞の灯火が確認出来るようになる。
 深夜、台車に載せられた帆船二隻がバスタームの巨大な城塞門を潜り抜けるのであった。

●そして
 冒険者達は帆船二隻を点検するジノとジェームスを待って六日目、七日目とバスタームに滞在した。
 そして八日目の朝、一行はミュリーリア騎士団から借りた馬車でバスタームを後にする。夕方には港町バンゲルでゲドゥル秘書と合流した。
 九日目の朝にはトレランツの帆船に乗り込んでルーアンへと立ち寄った。ゲドゥル秘書、ジノ、ジェームスの下船とカルメン社長への報告の為である。
「よくやりきってくれたね。なんだかデビルとの戦いが激しくなってきたようだし、ラルフ様から頂いたこれを持っていっておくれ」
 カルメン社長は追加の報酬金とは別にデビルスレイヤーの能力を付加できるレミエラを冒険者達に贈った。
 十日目の夕方、冒険者を乗せたトレランツの帆船は無事にパリへと入港するのだった。