湖での戦い 〜トレランツ運送社〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:19 G 54 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月29日〜07月12日

リプレイ公開日:2009年07月06日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。
 女性社長カルメンを中心にして男性秘書ゲドゥルが補佐するトレランツ運送社は、領主ラルフとの間に強い繋がりが出来ていた。


 旧フレデリック領であるブロズ領。
 ブロズ領とはクーデターに成功したシャラーノ・ブロズ嬢が勝手に名乗っているだけの通称だ。ノルマンの王たるウィリアム3世が統治を許した訳ではなかった。
 そしてシャラーノに反目するのがミュリーリア騎士団である。
 ミュリーリア騎士団もまた正式に国から結団が認められていない組織だった。旧フレデリック領に属していたミュリーリア家当主が中心となり、打倒シャラーノを旗印に掲げていた。
 領主フレデリック・ゼルマがデビルが関与していた事実を知ったミュリーリア団長は決別の覚悟を決める。デビルと与するならばフレデリック・ゼルマもシャラーノと同じノルマン王国の敵に他ならないからである。
 セーヌ川を隔てた位置に存在するヴェルナー領のラルフ卿から協力するように願われたトレランツ運送社は、ミュリーリア騎士団に手を貸していた。
 巨大な湖の島にそびえるシャラーノ城を陥落させる為、様々な方策が用意される。
 二隻の中型帆船をひとまず城塞の町バスタームまで運び終えていた。シャラーノ城までは馬車で約一日の距離にある。
 陸上輸送で中型帆船を運び入れるには二日から三日の猶予が必要だ。
 戦いの準備としてトレランツ運送社から大量の弓と矢がミュリーリア騎士団に提供される。デビルに対抗する為に魔弓もかなり含まれていた。
 ミュリーリア団長は決意を固め、作戦を部下に提示する。
 作戦とは湖の畔から弓矢で湖上のシャラーノ水軍の帆船と交戦し、その間にバスタームにある二隻の中型帆船を運ぶものだ。
 湖はとても広く、中型帆船が無くては攻略不可能といってもよい。
 ミュリーリア団長はトレランツ運送社のカルメン社長に手紙を送る。これまでに手伝ってくれた冒険者達の協力を再び願う内容であった。

●今回の参加者

 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

ファング・ダイモス(ea7482

●リプレイ本文

●真夜中の出発
 四日目の深夜に城塞の門が開かれ、巨大な物体がゆっくりと動き始める。
 場所は通称ブロズ領内の城塞都市バスターム。
 運ばれるのはアトランティスの技術によって造られた中型帆船二隻。特殊な性能こそ持ち合わせていないが、頑丈と軽量を兼ね揃えた非常に優れた帆船である。
 帆船二隻は多くの馬達によって牽かれていた。追走する馬車や、併走する兵士の姿がある。当然ながら護衛を任された冒険者達の姿もあった。
「すでに昨日から湖近くで戦いは始まっているらしいねぇ‥‥」
 帆船のマスト上の見張り台でシルフィリア・ユピオーク(eb3525)は周囲を監視する。
 シャラーノの居城は湖中央の島に建てられていた。その付近で繰り広げられているミュリーリア騎士団との戦いにシャラーノ側は集中していると思われる。
 それでも帆船二隻の輸送が襲撃されない保証はどこにもなかった。
 何故なら湖上での戦いにおいて、この帆船二隻がミュリーリア騎士団側の状況打開の切り札になるのは明白だからだ。
 シャラーノもそう認識しているからこそ、以前に港町バンゲルから城塞都市バスタームまでの移動を妨害したに違いない。
「それではわたしは東を見てきますわ」
「では、西を見てきます」
 ペガサス・フォルセティを駆るクレア・エルスハイマー(ea2884)と、グリフォン・ティシュトリヤに乗ったコルリス・フェネストラ(eb9459)の二人は夜空からの偵察に出かける。
「私は北を担当します。お二人ともお気をつけて」
 ペガサス・黎明で浮かぶ琉瑞香(ec3981)はクレアとコルリスを見送ってから、巡回に向かった。星明かりさえないのであまり遠くには行かず、道を照らしながら進む帆船輸送の隊列が望める範囲に留められた。
 輸送隊の上空を任されていたのはペガサス・ブリュンヒルトと共にあるマミ・キスリング(ea7468)だ。
(「今の所は問題ありませんね」)
(「了解しました。引き続きお願いします。また連絡しますので」)
 マミはテレパシーで話しかけてきた十野間空(eb2456)に報告を行う。様々な情報は地上の馬車内に待機する十野間空が集め、さらに帆船輸送を指揮する輸送隊長に伝達された。
 愛馬・毘沙門天に乗って輸送隊と併走していたのが井伊貴政(ea8384)である。
「あまり時間はかけられませんねー。早く到着できるとよいのですが」
 たいまつや甲板の篝火によってうっすらと闇に浮かび上がる帆船を井伊貴政は見上げる。
(「敵の忍びが暗躍する可能性もある‥‥」)
 レイムス・ドレイク(eb2277)も井伊貴政と同じように愛馬に乗りながら輸送隊を護衛していた。
 今は出発したばかりなので冒険者全員で事に当たっているが、しばらく後には二つの班で交代制になる。
 ブルエ班がコルリス、クレア、レイムス、琉瑞香、磯城弥夢海(ec5166)。
 コクリコ班がマミ、井伊貴政、シルフィリア、十野間空。
 名前は青い花ブルエと、赤い花コクリコからつけられる。
 湖に着いたのなら、この班分けそのままで中型帆船二隻に乗り込む予定であった。
(「敵に潜入されるかも知れませんし、注意は怠らないようにしないと‥‥」)
 夢海は後方の帆船内で得意の隠密の技を駆使して物影に身を潜めていた。
 帆船二隻の陸上輸送は比較的順調に進んだ。
 途中、アンデッド化した兵士の死体に襲撃されたものの、殲滅するのに大した苦労はかからなかった。湖近くでミュリーリア騎士団が頑張ってくれているおかげである。
 一晩が過ぎ去り、そして再び天を闇が覆う。
 中型帆船二隻がシャラーノの居城のある湖間近まで近づいたのは、六日目の夜明け前であった。

●湖
「今だ!! ロープを切れ!!」
 輸送隊長の声が轟き、次々と帆船を固定していた縄が斬られた。枷の木材も外されると、帆船を載せたまま巨大な土台は湖へと沈んでゆく。
 車輪のついた土台はそのまま湖に沈み、帆船二隻は湖上へと浮かんだ。
 一部の者を除いて乗船はまだであった。用意してあった小舟を使って同行していた船乗り達が乗り込んでゆく。
 丁度、朝日が昇り始める頃、冒険者達は仲間の飛行騎乗動物に相乗りさせてもらって空中から甲板へと降り立った。
 ブルエ班は帆が青く染められた帆船へと乗り込む。船名をブルエ号という。
 コクリコ班は赤く染められた帆を靡かせた。この船の名はコクリコ号だ。
 湖ではシャラーノ水軍とミュリーリア騎士団との戦いが続いていた。
 シャラーノ水軍は湖に浮かべた帆船やガレー船を駆使する。ミュリーリア騎士団は畔に作ったトーチカからの攻撃を行っていた。
 互いに弓矢か魔法による攻撃が放たれる。
 畔から島へと繋がるアーチ状の長い橋はシャラーノ側の手によって殆どの部分が解体されていた。畔から城までは五百メートル以上あるので、届く魔法はごくわずかな状況である。それが可能だったとしても、シャラーノ城に待機する敵ウィザードによって相殺されてしまう。
 シャラーノ水軍が陸上での戦いに転じない限り、膠着した状況は変わらないはずであった。そこへミュリーリア騎士団側の帆船二隻が持ち込まれた事により戦況に変化が訪れる。接近戦が持ち込まれたのである。
「一対多では勝機はない。一対一に持ち込んでくれ!!」
 レイムスはブルエ号の船長に頼み、速度を活かして敵船に追いかけさせる。
(「この船の相手はまだですよ」)
 河童の夢海は水中の追いかけてくる敵船の数を少なくしようと頑張っていた。船首下部分で微塵隠れをしてわずかに軌道を逸らす。加えて甲板に現れ、敵の船乗り達をやはり微塵隠れで撹乱し続けた。
 そうこうするうちに飛行するデビルが参戦してくる。
「まずはご挨拶ですわ!」
 クレアはファイヤーボムを放ち、湖の上空で巨大な火球を弾けさせた。
 巻き込まれたインプやグレムリンが奇声をあげてよろめく。二度目のファイヤーボムに巻き込まれたデビルは湖面へと落下していった。
(「ダッケホー船長はどこに‥‥」)
 コルリスは追いかけてくる敵船に乗るデビルに魔弓で矢を放つ。今の所、ダッケホー船長やゴーストシップの存在は見当たらなかった。
「近づけさせません!」
 琉瑞香はアンデッド対策としてホーリーライトの光球をいくつか船乗り達に持たせていた。そしてホーリーフィールドをブルエ号の周囲に作り、乗り込んでくる敵の勢いを削いだ。
 敵船甲板での戦いとなったが勝負はすぐに片づく。魔力回復の薬などを出し惜しみせずに一気に勝負に持ち込んだからだ。
 敵帆船の一隻が沈み、次に追いかけてきた敵船とも一対一の戦いに持ち込む。船乗り達や畔に待機するミュリーリア騎士団の弓矢による援護射撃も得て倒していった。
 もう一隻の帆船コクリコ号もブルエ号と同じく敵船を沈めてゆく。
(「城には近づかない方がよいみたいです。ウィザードに魔法で狙われますので今は湖上の敵に集中した方がよさそうです」)
(「わかった。そうしよう」)
 コクリコ号に乗る十野間空はテレパシーでレイムスに状況を伝えた。城のある島から離れて戦えばウィザードの攻撃は怖くはない。それが可能な程に湖は広かった。
「敵の船はあと一隻か二隻‥‥。あれはもしかして‥‥‥‥まずい!! 十野間!」
 シルフィリアはソニックブームで敵兵の乗船を退けた後、肩で息をしながら滝を注視する。テレパシーの定期連絡があるまで待てずにシルフィリアは大声で叫んだ。
(「どうしましたか?」)
(「どうもこうもありゃしないよ。伏兵が滝の裏に隠れているかも知れないのさ」)
 声を耳にした十野間空からのテレパシーがシルフィリアに届く。シルフィリアは推理を伝えた。落ちる滝の向こうがとても怪しいと。
「十野間さぁ〜ん〜!!」
 続いて甲板を守っていた井伊貴政からも十野間空に声がかかった。
 城のある島の方角で霧が立ちこめ始める。この状況が何を示しているのか冒険者達はよく知っていた。デビル・フライングダッチマンのダッケホー船長はこうした状況で現れると。
「確認してきます!」
 ダッケホー船長がとても気になっていたマミだが、先に滝を確認しに向かう。ペガサスを駆り、湖面スレスレを飛んで滝の中に飛び込んだ。
 滝の裏側は真っ暗ではなかった。
 篝火に照らされていたのは無傷の帆船二隻とガレー船一隻であった。甲板から矢を射られたマミはすぐに脱出する。
 マミは十野間空のテレパシーの問いかけがあると、即座に危険な状況を伝えた。
 すぐに滝の裏からシャラーノ水軍の帆船二隻とガレー船一隻が姿を現した。
 ダッケホー船長が操るゴーストシップも霧の中にシルエットを浮かべる。ブルエ号とコクリコ号は敵に挟まれた形となってしまった。
「やられた‥‥」
 レイムスは滝に注意を向けなかった作戦の不備を悔やんだ。そして苦渋の決断をする。
 ブルエ号は滝から現れた三隻の中に突っ込む。
 十野間空のテレパシーを通じ、コクリコ号の仲間達にゴーストシップとの戦いを託して。
 コクリコ号は一丸となってゴーストシップに挑んだ。ブルーマンなどのアンデッドを倒しきるとダッケホー船長はゴーストシップから姿を消す。
 しかし最後にマジカルエブタイドがダッケホー船長によって唱えられた。そのせいでコクリコ号は一段下がった水位の範囲で身動きできなくなってしまう。
 畔のミュリーリア騎士団の遠隔攻撃も借りてゴーストシップを湖に沈めたものの、コクリコ号はその場に留まる事しか出来なかった。
 マミは井伊貴政をペガサス・ブリュンヒルトの後ろに乗せてブルエ号の加勢に向かう。
 入れ替わるように十野間空からテレパシーを受け取った琉瑞香がペガサス・黎明でコクリコ号の甲板に降りた。琉瑞香はニュートラルマジックでマジカルエブタイドの水位低下を解呪させる。
 ブルエ号は単独でシャラーノ水軍のガレー船一隻を沈没に追いやる。しかしブルエ号のメインマストは折れ、そこら中が穴だらけとなってしまった。
 動けるようになったコクリコ号が合流し、さらにシャラーノ水軍の帆船一隻を沈没させる。しかし残る帆船一隻には逃げられてしまう。
 ブルエ号の損傷はあまりに酷く、修復不可能だと判断された。ブルエ号に乗り込んでいた全員がコクリコ号に避難する。
 まもなくブルエ号は湖の底へと沈んでしまう。
 六日目の宵の口、湖周辺は長く忘れていた静けさを取り戻すのだった。

●そして
 それからの数日間、小競り合いはあったものの状況は持久戦に持ち込まれる。
 帆船コクリコ号の修理を入り組んだ湖畔で行いながら、冒険者達とミュリーリア騎士団はシャラーノ水軍を退け続けた。
 シャラーノ側に残った湖上の戦力は中型帆船一隻と、ダッケホー船長が出現させるゴーストシップである。それとは別にシャラーノ側も戦闘で壊れた帆船一隻の修復を急いでいるようだ。
 冒険者達が消費したソルフの実や矢などの消耗品は、ミュリーリア騎士団が補てんしてくれた。とはいえ元を質せばトレランツ運送社が提供したものだ。
 冒険者達が湖を離れる前に帆船コクリコ号の修復は完了する。
 理由は定かではないが、その頃にはシャラーノ水軍が湖上に姿を現さなくなる。冒険者達は城のある島に近づきすぎない範囲で湖を制圧したといえた。
 シャラーノの居城がある島には変わらず多数のウィザードが待機し、近づくものがあれば即座に魔法攻撃が行われる。それがまったく関係のない野鳥であったとしても容赦なく。
 冒険者達は城塞都市バスタームまで戻ってゲドゥル秘書と合流する。
 港町バンゲルまで戻り、セーヌ川に浮かぶトレランツ運送社の帆船に乗り込んだ。そして対岸のルーアンに立ち寄ってカルメン社長に報告をする。
 ゲドゥル秘書はそのまま下船し、冒険者達はパリへの帰路についた。