来訪シャラーノ 〜トレランツ運送社〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:8 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:8人

冒険期間:03月14日〜03月22日

リプレイ公開日:2008年03月20日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。


 ある晴れた午後のトレランツ本社社長室。
 女性社長カルメンと男性秘書ゲドゥル、そしてハーフエルフの少女、リノ・トゥーノスはテーブルについていた。
 冒険者ギルドに新たな依頼を出すにあたって、リノから重要な話しがあるという。
 用意された紅茶はすでに冷め、三人は黙ったまま、椅子に座り続ける。
 テーブルの上には普段リノが首からぶら下げているブロズ家の紋章が入ったペンダントと、血文字の布が置かれていた。オリソートフの協力者が暗号で書かれている羊皮紙を綴じた束の写しもある。
「……わたしの父の名は『ガルセリア・トゥーノス』。母の名は『アリリアト・トゥーノス』。父が人間で母がエルフです。博識であったものの、父はごく普通の人間。母は水の魔法使いでした。わたしが魔法を扱えるのは、きっと母から譲られたものなのでしょう――」
 ようやくリノが話しだし、カルメン社長とゲドゥル秘書は耳を傾ける。
「前にシャラーノのやり方についていけず、家族で逃げだしたとまでは話したはずです。元々ブロズ家の臣下であった父さんが、なぜシャラーノについてゆけなくなったのか‥‥。それはフレデリック領の領主、フレデリック・ゼルマとオリソートフとの密約に疑問を感じた部分が大きいのです」
「密約?」
 リノに目を細めながらカルメン社長が訊ねる。
「はい。密約とは同盟の事。薄々皆さんも感じ取っていると思いますが、シャラーノとメテオスが幹部を務めるオリソートフは王国転覆を狙っています。思い立ったきっかけは別にして、ゼルマ領主も同じ思想の持ち主です。事実、今は亡き反逆の領主『エリファス・ブロリア』を救おうとした疑いもあります」
 リノが語ったエリファス・ブロリアとはデビルに加担して断罪された領主だ。ラルフによって捕まえられた経緯がある。
 ちなみにエリファス・ブロリア領は一旦取り潰されて、現在領主が変わり、トーマ・アロワイヨー領と名を変えていた。
「シャラーノが強く王国に反発しだしたのは、ブロズ領が取り潰されて野に下ってから。それ以前からも傾向はありましたが、享楽に身を投じるのに忙しく、素性は世間にはばれていませんでした。元々ドーバー海峡沿いの街にあったグラシュー海運がフレデリック領に移ったのも、フレデリック・ゼルマとの密約が成立したからです‥‥。その時、父さんは逃げる覚悟を決めたようです」
 リノは血文字の布を見つめた。
「シャラーノの命でゼルマ城に住んでいたわたしたちは脱出を試みましたが、途中でばれてしまい、母さんが魔法で兵士達を食い止めようと‥‥。父さんはわたしを抱えて夜の街を走りました。この血文字の布は母さんの着ていた服の切れ端。書いてある言葉の意味は『生きてまた』です‥‥。なぜこれがルーアンの海運業者マリシリの倉庫にあったのか、それは不思議ですが、この暗号と文字のクセは、母さんのものに間違いありません」
「それでバリジリ社長を倒しにいったのですか? 直前まで冷静のように見えて、だからこそ我々は易々と逃げられたのですけど」」
 膝の上で両手を強く握るリノにゲドゥル秘書が訊ねる。
「‥‥わたしは興奮するほど、一見冷静になってゆくと母さんがいってました。そしてある一線を越えると狂化する。どうやら持って生まれた定めだと‥‥。前兆が、脱出前のわたしに起きていたのかも知れません。ギリギリで踏みとどまっていたが、堪えきれずに脱走をし‥‥そのままバリジリを殺しにいかなかったのは幸いでした。探すまでに落ち着いたようです。我に戻った時はルーアンの片隅に立っていましたので。でも心の中に沸いた憎悪は消しきれず‥‥」
 一通りリノの話しが終わる。
 カルメン社長は冷たくなった紅茶をすすった。
「フレデリック・ゼルマもシャラーノ、メテオスと同じく王国転覆を謀っている。そして地理的、戦力的、戦略的にヴェルナー領ルーアンが邪魔でしょうがない。そりゃそうだ。目の前で常に監視されているようなものだからね」
「はい。ここからは想像ですが、海賊連合を裏で動かしたのはオリソートフ。一部の資金提供はフレデリック・ゼルマが行ったはずです。そうする理由が奴らにはあります」
 カルメン社長にリノは意見を述べた。
「それと関係するのかね‥‥。今回の暴挙は‥‥」
 カルメン社長はつい先程、ヴェルナー城からの使者から聞いた事を思いだす。
 シャラーノとメテオスがラルフ領主に面会を求めた一件だ。
 二人はヴェルナー領でお尋ね者。本来なら足を踏み入れた途端に逮捕なのだが、海賊連合と戦った際、海難者を救助してもらった恩がある。
 恩の押し売りとはいえ、無下にするのは問題だ。
 熟考の末、ラルフ領主はルーアン内のヴェルナー城での面会を許可した。指定した三日間のみ、指名手配を取り下げるという約束で。
「使者はシャラーノとメテオスをよく知るわたしたちに警護を頼んできたよ。まあ、よく知っているのは冒険者なんだがね」
 カルメン社長は説明を終えると、ゲドゥル秘書にギルドへの依頼を指示した。

●今回の参加者

 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0317 カスミ・シュネーヴァルト(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

イフェリア・アイランズ(ea2890)/ フィーナ・ライト(ea8017)/ 玄間 北斗(eb2905)/ 鳳 令明(eb3759)/ アンリ・フィルス(eb4667)/ 磯城弥 魁厳(eb5249)/ マロース・フィリオネル(ec3138)/ 土御門 焔(ec4427

●リプレイ本文

●ヴェルナー領
 冒険者達は二日目の昼頃にルーアンへ到着し、一度トレランツ本社に立ち寄ってから用意された馬車でヴェルナー城に向かった。
 リノ・トゥーノスは侍女の格好をして冒険者達に同行する。リノの護衛を志願したレイムス・ドレイク(eb2277)、十野間修(eb4840)、コルリス・フェネストラ(eb9459)が、身近な方が守りやすいと考えたからである。
 護衛の三人以外にもリノを心配する冒険者はたくさんいた。
 城に到着し、いつかの部屋が一行に割り当てられる。一室はリノ専用の部屋とされた。
「皆さん、お伝えしておきたい事があります‥‥」
 神妙な顔つきでリノは冒険者達に、この間の経緯と過去についてを話した。父親と母親、シャラーノとメテオス、オリソートフ、そしてフレデリック・ゼルマに関した情報を。
「いろいろと、ご迷惑をかけてしまいました」
 リノは俯き、冒険者達から視線をそらす。
「よく話してくれたな。ありがとう。一人で大変だったろう」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)はリノの両肩に手を置いた。
「もう一人じゃない。私達がいる。なあ、みんな」
 エメラルドが振り向き、リノが顔をあげる。そこにはリノを見つめる冒険者達の姿があった。
 準備を終えると、さっそく冒険者達は城内での警護につくのだった。

 リノには順番でレイムス、十野間修、コルリスの誰かが付き添う事となる。
 一人は廊下で、もう一人はリノがいる場所とは別の廊下との中間にある部屋で休憩を取りながら待機する。
 休憩を含めたのは城の兵士には任せずに、二十四時間体制でリノを警護する為だ。ゲドゥル秘書によれば忍者の存在が疑われていた。対策を用意しながら、リノと冒険者三人は緊張の時間を過ごす事となる。
「物証もこの部屋に保管されています。ご心配なく」
 最初にリノについたのは十野間修であった。
「羊皮紙の束を読み返し、言葉の奥に潜む情報を探ってみます」
 リノもただ守られる訳ではない。形は違うがリノも一緒に戦っていた。
(「シャラーノの来訪の目的は何なのか‥‥。陽動か、こちらの行動の延滞させる為の策か、他にも。とにかく私はリノさんを守りきろう」)
 レイムスはいつでも剣を抜ける体勢で、ドア近くの廊下で見張りを行う。
 十野間修の知人である玄間がパリ出発前に教えてくれた事によると、忍者は変装が得意だという。その他にも様々な術を使うようだ。
(「今日は平気ですが‥‥」)
 コルリスはベットに横たわりながら考える。出発前に磯城弥、マロース、土御門が話してくれた事も心に留めていた。
 予定通りならば明日三日目の昼頃、シャラーノとメテオスがルーアンを訪れる。ラルフ領主との面会は明後日に予定されていた。
 リノを守りながらもオーラセンサーで二人の行動を監視するつもりのコルリスであった。

「セーヌ川がよく見えますね。明日になればシャラーノが乗ってくる帆船も見えるのでしょうか」
 護堂熊夫(eb1964)は見張り台で城の兵士と共に海賊船などが襲来しないかの監視を行った。テレスコープなどの魔法も活用して。
 隼の旬が大空からの監視を手伝ってくれる。少々風はあるが、日中はそれほど寒くない。つらいのは日が沈んでからであろう。
 護堂熊夫は城に来る前にトレランツ本社で話した事を思いだす。
 リノの護衛も大切だが、カルメン社長とゲドゥル秘書の身辺も心配である。アクセルとフランシスカに二人の事を護堂熊夫は頼んでいた。
 シャラーノの真の目的も問題だ。損害を与える相手がラルフのなのか、リノなのか、それともトレランツ運送社に関わる誰かなのかはわからないが、注意深く用心する必要を感じていた。

「ふう‥‥」
 カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)は超越のブレスセンサーを成功させてから城内の監視を行う。
 見取り図を借りて検討し、広間隣りの小部屋に陣取った。ここならば城の大抵の場所の探索が可能だからだ。
 落ち着く為に小部屋にあった椅子に座り、瞳を閉じる。
 問題はよほど変な変装をしていない限り、見破る事が難しい事である。明日の来訪に合わせて普段より少なかったが、それでもかなりの人数が城には出入りしていた。
(「妙な動きをする人や、城の外からの進入してきた人に的を絞りましょう」)
 カスミは城内すべての監視を諦めて、ある程度の人数に限定した。
 今日のところは、全体の把握に務めるカスミであった。

「ここですかー。最近になって入ってきた新人とかいらっしゃいます?」
 井伊貴政(ea8384)は食料庫に出向いて、番人に質問をする。
 特に怪しい事実はなかったが、油断は禁物だ。変装をして潜り込んでいる可能性もある。
(「やっぱり、ここは毒味役をちゅーいしておくべきですよね〜」)
 井伊貴政は毒味役の六人を知る者達に最近変わった点はないかと訊ねた。そして変だと感じたら、知らせてくれとも頼んでおく。
 井伊貴政自身は明日からの三日間、シャラーノとメテオスの護衛につくつもりでいた。嫌がられたりするのは覚悟の上だ。
 何があっても本来敵である二人から離れないようにと心に決めていた井伊貴政であった。

「わかりました。ご商売、がんばって下さい」
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)は城を出て、様々な商人の元を訪ねては不審な品が大量に流通していないかを調べていた。
 特に注意していたのはオリソートフのリストにあがっていた人物達である。
(「さすがにルーアンで足がつくようなドジはしていないようだ。しかし‥‥」)
 海運業者マリシリの動きにも注目して、倉庫や本社などをゼルスは見て回った。その際に妙な印象を持つ。言葉では表現出来ない例えがたい違和感であった。
 ゼルスはトレランツ運送社に寄ってカルメン社長に相談する。
 内緒にしていた事があるとカルメン社長はゼルスに秘密を教えてくれる。ただし他の冒険者に知らせないようにと念を押されて。
 なぜならばラルフ領主の指示した作戦に絡んだ秘密であり、トレランツの人員は城の警備に集中するようにと、あらかじめ使者から釘を刺されていたからだ。
 ゼルスは納得をし、心の奥に収めておく。
 シャラーノとメテオスが来訪したのなら、カスミと同じくブレスセンサーで探索し、テレパシーで仲間の連絡役をするつもりのゼルスであった。

「今の所、不審な点はないようね。そういえば城に来たがっていたけど、イフェリア、どうしているかしら‥‥」
 クレア・エルスハイマー(ea2884)はペガサスのフォルセティで城上空を周回していた。時々、見張り台にいる護堂熊夫と情報を交換する。
 隼のリューベックは護堂熊夫の隼、旬と共に警戒を手伝ってくれる。
 仲間からの情報によれば、かつてトレランツ運送社が襲われた時、忍者が大凧で襲っていたという。空の警戒を怠る訳にはいかない。
 見張り台からと、直接の空からの監視と違いはあるものの、クレアは護堂熊夫と交代で高い場所からの監視をする事に決める。
 いくら冒険者が丈夫とはいえ、一人で二十四時間監視するのは難しいからだ。城の兵士を信用しない訳ではないが、わずかな情報の時間差が大変な事態を招く事にも繋がりかねない。
 明後日の面会の時には、警戒は護堂熊夫に任せ、ドレス姿に変装をして城内に待機するつもりである。
 クレアはセーヌ川の向こう岸になるフレデリック領を見つめた。

「警護は明後日の面会時にお願いしよう」
 エメラルドとフィーネ・オレアリス(eb3529)はラルフ領主との謁見を行っていた。
「ラルフ卿、お元気になられたようで何よりと存じます。一つお伺い事が。機密事項の書類などはどこに保管されているのでしょう。もし差し支えなければ教えて頂けますか?」
 フィーネの質問にしばらくラルフは考えた後で答えた。地下室の倉庫に厳重に保管されていると。魔法を駆使した侵入にも対策されてあった。
「もっともこの世に絶対などはない。より警護を固めるように指示を出しておこう」
 ラルフ領主の言葉にフィーネは礼をする。
「シャラーノという者。ジャパンの忍者を間者としています。城内にこの事を伝えてもらいたく考えています。そして一つお願いがあります」
 エメラルドは面会の後、少しだけシャラーノ、メテオスとの話す機会が欲しいとラルフ領主に頼んだ。
 今まで様々な形でシャラーノとメテオスに接触してきたエメラルドであったが、ちゃんと話した機会はなかった。この機会にはっきりとさせておきたいことがエメラルドにはある。
 本来は指名手配者ではあるものの、二人は客人だ。城の兵士立ち会いの元ならばとラルフ領主から許可が下りる。
 緊張の時間は過ぎ去り、夜になり朝が訪れる。
 三日目になり、ルーアンが目を覚ます。
 昼頃、ルーアンの船着き場に帆船からシャラーノとメテオスが降り立った。

●会談
 三日目の昼、予定通りにシャラーノとメテオスはルーアンのヴェルナー城に現れる。
 城に一晩泊まり、面会は四日目の昼間である。
 二人の存在で緊張に包まれたが、何事もなく一晩が過ぎ去って面会の時を迎える。
 面会は謁見の間で行われた。
 高い位置にある領主の椅子にラルフが座り、少し下がった階段途中の両側でエメラルドとフィーネが護衛する。
 廊下へと繋がる扉近くには井伊貴政の姿もあった。
 シャラーノとメテオスが跪き、延々と挨拶をする。ようやく本題に入ると、フレデリック領主、ゼルマ卿から預かった親書をシャラーノが取りだす。フィーネが受け取り、ラルフに手渡される。
 ラルフは目を通すが一笑にふす。大した事は書かれていないようだ。
 ドーバー海峡での救助活動についての話しが行われ、感謝の言葉がラルフから述べられた。
 ここからが双方にとって本題であった。
 シャラーノとメテオスがヴェルナー領内での商業活動再開を願う。すると、ラルフの指示によって一本の剣が運ばれてくる。
「お二人ならヴェルナー領がデビルによって様々な妨害を受けているのをお知りであろう。領民に不安を感じさせているのはわたしの愚策のせいだ。だからといって看過出来ない事もある。近頃このような剣が領内で出回っている。何でもデビルスレイヤーの剣だとか。武器商人であるメテオス殿、鑑定はしてもらえないか?」
 メテオスは剣を受け取るが、黙り込んだ。
「その剣は海運業者マリシリによってヴェルナー領内に運ばれて流通している。調べによれば、シャラーノ殿のグラシュー海運が仲介した品物。そして大元で扱っていたのはメテオス殿だ」
 ラルフは椅子から立ち上がり、階段を下りる。そしてノルマンの様式でありながらジャパンの刀の姿をしたシルヴァンエペを抜き、切っ先をメテオスに向けた。
「これこそデビルスレイヤー。そのなまくらとどうしてこの刀が同じといえるのだ?」
「それは誤解。マリシリなる業者が勝手にデビルスレイヤーだと嘘をついて売ったに過ぎません」
「そうは思えない。形だけはそれらしく、まるで匠の逸品のような拵えだ」
 ラルフとメテオスのやり取りは続いた。そして四日目の今朝、海運業者マリシリを取り潰す為に手入れをした事をラルフは明かす。
「何かしらの繋がりの証拠が出れば、ヴェルナー領内での指名手配だけで済ますつもりはない」
 面会の時間は終わる。ほとんどがラルフとメテオスの会話に費やされ、シャラーノの出番は少なかった。
 ラルフが謁見の間から立ち去った後で、エメラルドはシャラーノを見据える。
「シャラーノ、何度か顔を合わせているが、はっきりといっておく。私がお前の敵だ。そこのメテオスという奴も覚えておけ」
 エメラルドにシャラーノがニヤリと笑った。
 シャラーノとメテオス、どちらが真の敵なのかは謎のまま残る。だが、シャラーノの瞳の奥に底知れぬ闇を感じたエメラルドであった。

●襲撃
 四日目の深夜、カスミが妙な人の動きをブレスセンサーで探知した。
 今まで兵士だと思っていた二人である。見張りを終えて兵舎に戻るのが普通なのに、リノがいる部屋の方へ急速に移動していた。
 カスミは離れた部屋にいるゼルスとテレパシーで交信していた。ゼルスもブレスセンサーで探知していたので、役割分担をしていたのである。
 ゼルスは急いで部屋を飛びだす。階段を降り、踊り場で立ち止まった。
 リノのいる部屋までは遠いが、この場所からならギリギリでテレパシーが届くのをゼルスは前もって調べておいたのだ。
 ゼルスのテレパシーはレイムスに繋がる。
 レイムスは寝ていた十野間修を起こし、リノとコルリスに鈴の音で危険を知らせた。
 闇の中から突然現れたクナイをレイムスは盾で受け止める。
 その姿から忍者だと、レイムスは敵を認識した。
 もう一人の忍者がドアの前で煙を立ち昇らせると鍵の開く音がする。開錠の術を使ったのだ。
 ドアが開き、忍者の一人は中に飛び込んだ。
 十野間修はシャドウバインディングを唱えるが間に合わない。十野間修に一撃を当て、忍者は部屋の奥まで侵入する。
 忍者はリノのいる奥の部屋に入る為に、再び開錠の術を使おうとした。
 十野間修は痛みを堪えながら転んだまま、再度のシャドウバインディングを唱える。しかし奥の部屋へのドアが先に開いた。
 忍者は奥の部屋に飛び込んだ。
 万事休すと十野間修が思った瞬間、忍者が中間の部屋へと押し返されてくる。コルリスが盾とガードを駆使して立ちふさがったのである。
 シャドウバインディングで忍者の足が影に縫いつけられた。
 レイムスと戦っていた忍者も中間の部屋へと侵入する。そして仲間の忍者を助ける為に、ランタンの前に立って灯りを遮った。
 ここまでと感じたのか、二人の忍者は微塵隠れを使う。物が吹き飛び、レイムスと十野間修も少々の怪我をする。
 咄嗟にコルリスが奥の部屋のドアを閉めたおかげでリノに怪我はなかった。
 ゼルスとカスミが現れて、二人の忍者の捜索をするものの、ブレスセンサーの範囲からすでに消えた後だ。
 エメラルドとフィーネも駆けつけて、リカバーによって治療が行われる。
 その後の護堂熊夫、クレアの報告からして、むささびの術で忍者二人は空中から逃げたようである。あまりの速さに追跡は不可能であった。
 翌朝の井伊貴政によれば、シャラーノとメテオス、お付きの十名に動きはなかった。忍者二人は前もって城に潜伏していたようだ。
 五日目になり、シャラーノとメテオス一行はフレデリック領へと戻る。
 リノは羊皮紙の束を調べたが、新しい事実はわからなかった。
 冒険者達はラルフからお礼として服を贈られ、カルメン社長からは追加の謝礼金を受け取る。
「もし貴方の母が敵方の手に落ちているなら、決して彼らの元に下っては駄目ですよ。人質が人質として役立つのは目的を果たすまでなのですから」
 去り際に十野間修はリノに言葉を残す。
 七日目の昼、冒険者達はルーアンを出航し、パリへの帰路についた。