リノの母 〜トレランツ運送社〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 26 C

参加人数:9人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月01日〜05月10日

リプレイ公開日:2008年05月09日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。


 場所はルーアンのトレランツ本社。
 ハーフエルフの少女リノ・トゥーノスは、羊皮紙を綴じた束の写しを詳しく調べなおしていた。
 特別な暗号で書かれた内容は闇の組織『オリソートフ』の名簿である。
 先日捕まった海運業者マリシリの男性社長バリジリも名を連ねていた。
 グラシュー海運の女社長シャラーノと結託し、トレランツ運送社の女社長カルメンを騙そうとした、酒問屋ローオーの女性社長ラリオネの名もある。
 他にも何名かヴェルナー領に住まう者が名簿には記載されていた。証拠が固まったものはバリジリ社長と同じように官憲によって逮捕される。
 しかしローオーのラリオネ社長に関しては証拠不十分で未だ逮捕されていなかった。
 トレランツ運送社との関係が悪くなった酒問屋ローオーは、輸送を請け負ってくれる別の海運業者を探しているようだが見つかってはいない。結果として酒問屋ローオーに悪い噂が立ったからである。
「どうしたんだい? そんなに急いで。今度からはノックぐらいはしておくれ。仕事場なんだからさぁ」
 カルメン社長が社長室に飛び込んできたリノを諫める。廊下を全速力で走ってきたようで、荒い息をしていた。
「あ、あの‥‥」
「落ち着いて下さい。どうぞ」
 うまく話せないリノにゲドゥル秘書が水の入ったカップを手渡した。飲んで、呼吸を整えた後でリノは話し始める。羊皮紙を綴じた束に隠されていた重大な事実を。
「二段構えの暗号で情報が隠されていたんです。あの羊皮紙を綴じた束のオリジナルはセーヌの向こう岸、フレデリック領の港町バンゲルの屋敷にあったと聞きました。そこは本部ではなく支社。本部の位置はわかりませんが、支社のいくつかははっきりと」
 リノは持ってきた地図を社長の机に広げる。
「ほとんどがフレデリック領内にあります。ですが一個所、ヴェルナー領内にあったのです」
 リノがヴェルナー領周辺の地図を指さす。カルメン社長とゲドゥル秘書が覗き込む。
「ヴェルナー領で一番セーヌ川の下流にある町かい。小舟はともかく、帆船は一隻か二隻程度しか係留できない小さな港しかない‥‥え〜と、キリューム町か」
 地図を観ながらカルメン社長が呟く。
「ルーアンの官憲の調べによってマリシリの倉庫が調査されました。ゲドゥルさんから借りたこれが資料です」
 リノは羊皮紙を綴じた束とは別の資料も机に置く。
「この倉庫にあった貨物はほとんどがキリューム町を経由しています。そして‥‥わたしの母アリリアトの書いたと思われる血文字の布が発見された倉庫でもあります」
 俯いて話すリノをカルメン社長とゲドゥル秘書は見下ろしていた。
「もしかしたら、そのキリューム町の支社に母が幽閉されているかも知れないんです。あの血文字の布は、きっと母の精一杯のメッセージかも」
 リノは『生きていれば』という言葉を呑み込んだ。

 翌日、カルメン社長はヴェルナー城に出向く。
 そして領主のラルフから許可を得て戻ってきた。
 期間限定であるが、ラルフ署名のオリソートフに繋がる調査における特別権限である。
 キリューム町すべての建物への立ち入りと、調査を許す内容であった。
「これぐらいの強攻策をとらないと、どうにもならないところまで来ているからね。ゲドゥル、いつもの依頼、頼んだよ」
 カルメン社長の指示でゲドゥル秘書は冒険者ギルドへの手配を行った。
「できれば、わたしも行きたいのですけど」
「そうだねえ‥‥」
 リノの願いにカルメン社長は悩んだ末、許可を出す。
「ただし、冒険者に迷惑かけるんじゃあないよ。わかったね?」
「はい。ありがとうございます。カルメン社長」
 カルメン社長にリノは感謝するのだった。

●今回の参加者

 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0317 カスミ・シュネーヴァルト(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)/ レオパルド・ブリツィ(ea7890)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ 玖耀 藍月(eb5510

●リプレイ本文

●キリューム町へ
 パリからトレランツの帆船で出航した冒険者達は、二日目の昼頃にルーアンの地を踏んだ。すぐにトレランツ本社に出向き、リノと合流する。
「アリリアトさんを必ず助け出しましょうね」
「ありがとう。これは?」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)はリノを安心させる為に桜餅を渡すと、グリフォン・ティシュトリヤに跨って空へと舞い上がる。
 十野間空(eb2456)が考えていたラルフ直々の命を示す旗を、コルリスはヴェルナー城まで授かりに向かったのである。
 他の全員は馬車でキリューム町へ出発した。
「リノさん、今こそ約束を果たすよ」
 御者をするレイムス・ドレイク(eb2277)は、隣りに座るリノに話しかける。
「ありがとう、レイムスさん。コルリスさんも、みなさんもそういってくれるのは嬉しいのですが、本当に母がいるのかどうかはわからないのです‥‥」
 リノはどこか不安げであった。
「リノさん、だいじょーぶですよ。でも無茶だけは駄目ですからねー。いざという時は守りますけどー」
 愛馬毘沙門天で馬車に同行していた井伊貴政(ea8384)も御者台のリノに声をかける。
「誰一人、オリソートフの奴らを建物から脱出させませんわ。そうすれば見つかりますわよ」
 馬車を挟んで井伊貴政の反対側に、愛馬シュワルツで駆けるクレア・エルスハイマー(ea2884)の姿もある。
「些細な事でもいいので、何か他にわかったことはありませんか? リノさん」
 後方から声が聞こえてリノは振り向く。馬車の窓から護堂熊夫(eb1964)が顔を覗かせていた。
「それが何も‥‥。まずはオリソートフの会員と資料の確保をお願いします。そこから何かがわかるかも――」
 馬車内にいる他の仲間もリノの言葉に耳を傾けた。
「どんな手を使ってもアリリアトさんの情報を引きだすつもりです。その為にはリノさんのいう通り、建物すべての保全が優先されますが」
 十野間空はどう捕まえた敵から情報を引きだすかを考えていた。
「物証確保は任せて下さい。シルフィリアさんと連携して必ず押さえます」
 十野間修(eb4840)はシルフィリア・ユピオーク(eb3525)と目と目を合わせてから、リノに力強く宣言する。
「あたい、目立つのも目立たないのも得意だよ。忍び込む時は目立たないようにするからさ。任せておいて」
 シルフィリアはリノにウインクをした。
「みなさん、本当にありがとう」
 リノは涙ぐむ。
「リノさん、ちょっとこっちで休みましょうか」
 カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)はリノの狂化を特に心配していた。馬車内の隣りに座らせて落ち着かせるように心がける。
 日が暮れだした頃、一行の馬車はキリューム町に到着する。
 セーヌ川沿いにあるとても小さな町であった。

●事前調査
 ゲドゥル秘書が予約していた協力してくれる宿に泊まり、三日目の朝が訪れる。
 昨日のうちにコルリスも到着して合流済みである。
 目立つのを避ける為に護堂熊夫とシルフィリアの二人だけが、町中での調査に向かった。

(「レオパルド君とタケシさんによれば、今回の作戦はどこにも洩れていないようだけど‥‥」)
 護堂熊夫は一人で町を散策する。
 質素な建物が多く、閑散とした町であった。
 護堂熊夫は教会の塔に登り、問題のオリソートフ支社をテレスコープで眺める。
(「庭いじりをする人が二人。セーヌ川へと繋がる用水路が建物へと繋がっている。少々の荷物なら小舟で運べそう‥‥」)
 護堂熊夫は時間のある限り観察を続ける。おかしな動きがあればすぐに仲間へ報告するつもりであった。

「あのさ、どうなの? ここ最近の景気とか」
 ドレス姿のシルフィリアは町の酒場にいた。
 なるべく裏の商売に繋がる情報を引きだすようにシルフィリアは努めるが、酒場の客達は口が堅い。
「そんなこといっていないでさ。まあ、お呑みよ」
 シルフィリアはテーブルで頬杖をついて胸元を強調してみたりしながら、客の心の隙を狙う。
 オリソートフ支社の建物にはこの町では珍しいくらいに人の出入りが激しかった。その中に海運業者も含まれる。それがマリシリだったのかまではわからなかった。

●突入
 深夜、冒険者達はリノを連れて敵支社へと向かう。
 三階建ての建物には広い庭があり、煉瓦造りの塀に囲まれている。
 逃亡阻止班が監視するのは二個所の門とセーヌ川へと繋がる用水路だ。クレア、護堂熊夫、十野間空がそれぞれに担当する。コルリスはグリフォンに跨り、空からの監視と支援を行う予定であった。
 突入班は井伊貴政、レイムス、シルフィリア、十野間修、カスミ、リノである。井伊貴政とレイムスは抵抗された場合の戦闘による排除。シルフィリアと十野間修は処分される前に資料の確保と保全を行う。カスミとリノは魔法による支援である。
 あらかじめいくつかの魔法によって建物内部の様子が調べられていた。
 敷地内にいる敵の数は二十七名。体格からいって十九名が成人男性と思われる。どれだけの人数が起きているのかまでは把握出来なかった。
(「行きます」)
 十野間修の言葉を十野間空がテレパシーで中継して仲間に伝える。突入の間、十野間空が中継をしてくれる手筈になっていた。
 十野間修は遠距離からのシャドウバインディングで南門の見張り二名の動きを止めた。突入班は門をこじ開けて一気に敷地内へとなだれ込む。
「御武運を」
 南門周辺の監視は十野間空に任された。リノが用意してくれていたロープで固まっている見張り二人を縛る。
 同時期にクレアと護堂熊夫は北門を制圧していた。
 クレアのローリンググラビティーで高い所から落とされた見張り二名は、止めとして護堂熊夫にスープレックスを決められて気絶してる。
「ここは大丈夫ですわ。卯月も手伝ってくれますし」
「では私は用水路に向かいます」
 南門はクレアが担当する。護堂熊夫は空飛ぶ絨緞を使って用水路に向かった。
「果たしてどこから出てくるのか‥‥」
 コルリスは突入班が建物内に入ったのを確認する。そしてグリフォンに跨ったまま、庭にあるかがり火すべてに火を点けて回る。逃げだした敵を発見しやすいようにする為だ。終わると建物上空で監視をする。
 建物からの激しい物音をコルリスは耳にした。

 レイムスが剣を構えると、高く振りかざして大きな扉に叩きつけた。
 厚い木板で作られているはずの扉は蝶番が外れて吹き飛ぶ。突入班は建物内へと立ち入った。
「強制捜査ですから、神妙にお願いしますねー。抵抗されれば五体満足で居られる保障はしかねますので〜」
 井伊貴政がコルリスが預かってきたラルフの書状を入り口の扉近くで待機していた見張り四名にちらつかせる。
「‥‥やっぱり、抵抗するんですか?」
 井伊貴政の話しをまったく聞いていない見張り四名は剣を構えた。一名が奇声をあげ向かってくる。
「だから〜」
 井伊貴政が左手の軍配で敵の攻撃をいなしてから、利き腕の刀を振り下ろす。鮮血が飛び散り、敵一名が床に転んで悲鳴をあげる。
「口さえ動けば、こっちはみなさんがどーなっても構わないのですよ。せっかくちゅーいしてあげてるというのに」
 井伊貴政は残りの見張り三名に微笑みかける。
「リノさん、今は下がっていて下さい」
 レイムスがリノに頷いてから歩み、井伊貴政の横に立つ。
(「突入班のみなさん。隠れていた一人が今、屋敷の奥へと走ってゆきました」)
 カスミは透視によって壁の向こう側で走り去った見張り一名を知る。テレパシーによって他の突入班に中継された。
「ここは任せました!」
「いってくるね!」
 十野間修とシルフィリアが見張りの隙をついて突破して屋敷の奥へと向かう。追いかけようとする敵の見張りを遮るように井伊貴政とレイムスが移動する。
「早く片づけないと私達も奥に行けないだろう」
 レイムスは敵の攻撃を盾で受け止め、刹那の間で剣を叩きつけた。
「リノさん、平気ですか?」
「大丈夫です」
「魔法使いに大切なのは冷静な心です。冷静さを失わず、貴女を守ったお母さんの事を思い出して」
「うん、ありがとう。そうだよね」
 戦いの間、カスミはリノをかばう。
 見張り三名が倒されて、リノによってロープで縛られる。近くにあった小部屋に放り込むと、残った突入班四名も屋敷の奥へと向かって走った。

「影縛!」
 部屋に飛び込んだ十野間修は、一名の敵の影を縫った。兄である十野間空のムーンーアローが突き刺さるのを目撃したからである。支社の中で一番偉いのが目前の男のようである。
「隙がありすぎ」
 気づかれずに背後に回ったシルフィリアは、ソニックブームでまとめて敵二名を弾き飛ばす。転げた敵は武器を落としたり、気絶している。
 動けないように縛り上げてから部屋の中のものを確認する。
 取引に使われたと思われる書類がたくさん置かれていた。
「シルフィリアさん、ここを死守しましょう」
「おっけ〜♪」
 十野間修とシルフィリアは部屋の廊下へと出て、互いの背中を合わせる。どんな敵がやってきても足止めする覚悟を持って。

「ありがとう。よくやってくれたわ」
 北門で敵の逃亡を防ぐクレアは胸元に隠していたフェアリーの卯月に微笑みかけた。
 スリープで敵を眠らせて、隙を作ってくれたのである。
 北門に逃げて来たのは六名いた。今は足下に転がっている。
 テレパシーによれば、まだ敵の抵抗は続いているようだ。クレアは気を引き締めるのだった。

「退け!」
 南門近くで敵二名が十野間空に襲いかかろうとしていた。
 ちょうど重要な連絡をテレパシーでとろうとした時であった。さすがの十野間空でも無防備に陥っていた。
 夜空から黒い影が舞い降りて敵一名を転ばせる。グリフォンの爪による攻撃である。
「時間を稼ぎます。連絡を!」
「助かります」
 グリフォンに跨っていたコルリスは弓を構えて矢を放つ。敵の息の根を止めないように足を狙う。
 その間に十野間空は連絡を完了させるのだった。

「のおおおおおおっ!」
「なっ、なんだ! 貴様は!」
 小舟を使って用水路から脱出を試みようとする敵一名がいた。
 護堂熊夫は覚悟を決めて高い位置から小舟に飛び降り、敵の背中をとる。
 激しく揺れていた小舟の上で護堂熊夫はスープレックスを決める。敵の身体は弧を描く。小舟の底に敵の後頭部が叩きつけられる。
 敵は気絶をした。
 護堂熊夫も少しだけ頭をぶつけて両手で頭を抱えていた。
「痛たた‥‥無理はするものではありません‥‥。ところでこの荷物は?」
 護堂熊夫は小舟に載せられた木箱をチカチカする目で見つめる。
「重要なものなのでしょうか」
 気になるが後回しにした。
 櫂を手にした護堂熊夫は、小舟をどこか乗り降り出来る場所に移動させようとがんばるのだった。

 突入から約二時間後、コルリスによって屋敷の屋根に旗が掲げられる。
 ヴェルナー領ラルフ領主の権限による強制調査を示す旗がはためいた。

●リノの母
 四日目からは屋敷内のさらなる調査とオリソートフの会員達の尋問が行われた。
 重要と思われる資料は馬車に積み込まれる。護堂熊夫が押さえた木箱も積み込まれた。
 一番の責任者を十野間空が尋問する。チャームを使ったり、罪の軽減による取引などをちらつかせる。その他にも様々な手を使う。
 七日目になって、敵の責任者はようやくリノの母の情報を吐いた。
 キリューム町の船着き場近くに海運業者マリシリが使っていた隠し倉庫がある。リノの母アリリアトはそこに幽閉されているらしい。
 リノ、カスミ、レイムス、コルリス、護堂熊夫は急行する。支社の屋敷で強制調査が行われたのを知ったせいか、隠し倉庫はもぬけの殻であった。
 床に隠し扉があり、暗い階段をランタンを灯して下りてゆく。
「お母さん!」
 リノが錆びた牢に駆け寄る。
「リノ‥‥、リノなのね」
 鉄格子越しにリノとアリリアトは抱き合う。
 レイムスによって牢が破壊された。痩せてはいるものの、アリリアトは自分の足で歩けるようであった。
「よかった‥‥」
 レイムスは寄り添う親子を見て呟く。
「これに乗った方がいいですよ」
 地上まで辿り着くと護堂熊夫が空飛ぶ絨緞を広げた。
「先にトレランツ本社まで、お二人を連れてゆきます。お医者さんに診せないと」
 護堂熊夫はリノとアリリアトを乗せると空飛ぶ絨緞を舞い上がらせる。
「リノさん、これで落ち着くでしょう」
 カスミは遠ざかってゆく空飛ぶ絨緞を見上げる。
「そうですね。本当によかった‥‥」
 コルリスも見上げながら、リノが狂化したときの事を思いだしていた。
「約束を果たせました。ここも一応調べて帰りましょう」
 レイムスの一言で隠し倉庫も調べられる。だがこれといったものは出てこなかった。

●パリへ
 八日目の朝、冒険者達を乗せた馬車はキリューム町を出発した。捕まえたオリソートフの会員は町の官憲に預けてある。
 昼頃馬車はルーアンへと辿り着く。
 すでにパリ行きの帆船は船着き場にあった。馬車を降りた冒険者達は次々と乗船する。
 先にルーアンへ戻っていた護堂熊夫と共にカルメン社長とゲドゥル秘書が帆船を訪れる。
「リノの母親だけど、少し弱っているだけで、特に酷いようではなかったよ」
 カルメン社長からアリリアトの様子を聞いて、冒険者達はほっと胸を撫で下ろす。
「簡単にですが、資料に目を通させてもらいました。やはり偽デビルスレイヤー武器の横行はオリソートフの仕業に間違いありませんね。今までの証拠をさらに補完する内容です」
 ゲドゥル秘書は簡単な資料の報告を行う。そして追加の報償金とお礼の本を冒険者達に渡した。
 船乗り達の叫び声に、カルメン社長とゲドゥル秘書は下船する。
 鐘の音が響き、冒険者達を乗せた帆船は出航した。
 順調ならば九日目の夕方にはパリに入港するはずである。
 この時、護堂熊夫が手に入れた木箱の中身はまだ詳しく調べられていなかった。
 数日後に中身の正体がわかり、カルメン社長は卒倒する。決して大げさではなく、ゲドゥル秘書も驚愕をして腰を抜かす。
 連絡を受けたラルフ領主も、思わず立ち上がって何度も問い直す事となる。
 今は何事もなかったかのように、リノの母の救出を喜ぶ冒険者達であった。