白き輝けるもの 〜トレランツ運送社〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:14 G 89 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月23日〜06月04日
リプレイ公開日:2008年05月30日
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●オープニング
「しゃ、社長‥‥」
トレランツ本社の社長室。腰を抜かしたゲドゥル秘書は、床を這って卒倒して倒れたカルメン社長に近づいた。
カルメン社長を楽そうな格好にしてあげてから、ゲドゥル秘書は机の上の呼び鈴に手を伸ばす。しかし途中でやめて床に座ったまま机の側面へ寄りかかる。冒険者が手に入れてくれた木箱の中身を他の者に知られるのはまずいと考えたからだ。それがたとえトレランツの社員であっても。
カルメン社長に頭を打った形跡はなく、ゲドゥル秘書もしばらくの休憩で立ち上がれるようになった。
ゲドゥル秘書が濡れた布でカルメン社長の首を冷やす。しばらくしてカルメン社長の瞳が開いた。
あらためてカルメン社長とゲドゥル秘書は木箱の中を覗き込んだ。
そこには真っ白な金属『ブラン』の延べ棒が仕舞われていた。
金とは比較にならない程の価値を持つブラン。これだけの量だと、どれほどの価値があるのかカルメン社長とゲドゥル秘書には想像がつかなかった。
「連絡の内容には、とても衝撃を受けた。なぜならこの手紙も同時期に受け取っていたからだ」
ルーアンのヴェルナー城。カルメン社長はブランを届けに領主であるラルフと対面していた。謁見の間ではなく執務室である。お人払いをしてもらって二人だけであった。
「これは?」
ラルフがカルメン社長に見せたのはフミッシュという部下からの手紙である。その内容はヴェルナー領の北にあるトーマ・アロワイヨー領でブランシュ鉱の鉱床を発見したという内容だ。
「もしや‥‥」
「そうだ。この件とブランの延べ棒は関係ある。トレランツから提出してもらった資料の中にも関連する記述が残っていた。武器商人メテオスが海運業者マリシリと組んでヴェルナー領内に偽物のデビルスレイヤー武器を流したが、陸上の流通にキリューム町のオリソートフ支社が絡んでいた。その他にもいろいろとあるが――」
ラルフはその他の情報についても話した。
現在のトーマ・アロワイヨー領は元々エリファス・ブロリア領であった。
ノストラダムスの預言の最中、領主エリファスがデビルと結託していたのが判明し、陛下の了解を得た上でラルフが攻めて城を落とした事実がある。
当時のラルフにとって、パリから離れた土地であるエリファス・ブロリア領をデビルが共闘の相手として誘惑したのかが不思議であった。どうせたぶらかすのなら、もっと近い土地の領主の方がよい。
それがブランシュ鉱の為であるならば合点がゆく。デビルに対抗出来る武器を増やさない為に押さえたと考えられるからだ。
加えてフレデリック領のフレデリック・ゼルマが、捕らえられたエリファス助命嘆願の際、ブランシュ鉱床の在処をほのめかしている。当時は苦し紛れの嘘と受け取られ、誰も信用していなかったが、こうなると真実味を帯びてきた。
今は亡き友であるエリファス領主の遺産『ブランシュ鉱床』の存在をゼルマ領主が受け継ぎ、勝手にトーマ・アロワイヨー領内での盗掘を続行している。そして自らの息がかかったオリソートフを操って蓄財をし、虎視眈々と王宮転覆の機会を窺っている。
そうとしか思えない状況がラルフに突きつけられていた。
「そういえばフレデリック・ゼルマ領の輸出入はいびつなものだった記憶が。輸入ばかりで輸出はほとんどなく、どこから資金がでているのかとても不思議でした」
カルメン社長が冒険者から受けた報告を思いだす。
「海賊連合の一件も不思議だな。あれだけの海賊を動かすには相当の資金が必要。さらにドーバー海峡沿岸部の町を手に入れたところで、普通ならそこでお終いだ。それ以上の事をしようとすれば、やはり膨大な資金がいる。しかしブランシュ鉱床を握っているのなら何とでもなろう。手に入れようとしていた沿岸部も、今考えればトーマ・アロワイヨー領に近い‥‥」
ラルフの話しを聞きながら、カルメン社長は身震いがしてきた。
「最初の話に戻るが、部下からの手紙にはトーマ・アロワイヨー内での盗掘が報告されている。これまでの情報を総合すれば、掘っているのはフレデリック・ゼルマの息がかかったオリソートフの連中。これまでは盗掘で手に入れたブランを川などでキリューム町のオリソートフ支社まで運び、さらにセーヌ川を使って、今はない海運業者バリジリがフレデリック領まで運び入れていたのだろう。そこでなのだが――」
ラルフはカルメン社長の信頼厚い冒険者に頼みたいと話しを切りだす。ブランシュ鉱床の奪還についてだ。
兵士を送るのは領主のラルフにとって簡単なことだ。だが、たくさんのヴェルナー領兵士が領内に立ち入るのを、ラルフはアロワイヨーがよしとしないと考えたのだ。
「アロワイヨー領内におけるブランシュ鉱に関する一切はわたしに任されている。かかる費用などすべて出させてもらう。頼めるだろうか?」
「さっそく手配させて頂きます」
カルメン社長はラルフに一礼をしながら答えた。
●リプレイ本文
●山へ
「フミッシュと申します」
二日目の昼頃、冒険者一行は帆船を下りてルーアンの地を踏んだ。トレランツ本社の庭で道案内をしてくれる女性フミッシュと挨拶を交わす。
カルメン社長とゲドゥル秘書の姿もあった。
ゲドゥル秘書から今回の詳しい内容が伝えられる。事が事だけにブランについては依頼書で伏せられていたからだ。
「あの箱にそんなにとんでもないものが入っていたなんて」
発見した護堂熊夫(eb1964)自身も重要な品物とは思っていなかった。かいた冷や汗を手の甲で拭う。
「ブランの延べ棒‥‥ものすごい代物ですわね。持ち逃げされなくて、本当に良かったてすわ」
クレア・エルスハイマー(ea2884)が緊張気味のゲドゥル秘書を見ながら呟いた。
「海賊連合や、様々な組織を運営していた資金が、まさかブランだったとは‥‥」
レイムス・ドレイク(eb2277)は少々面食らった顔をした。
「ブランシュ鉱発見にラルフ領主が動いているのは姉上からきいていましたけどー。こういうじょーきょーになるとは。僕も負けてられません〜」
井伊貴政(ea8384)は愛馬を馬車に繋げ、同行してくれる御者に任せる。
「ウィザード見習の元馬祖です。この資料は――」
元馬祖(ec4154)は雀尾の調査をカルメン社長に伝える。未だフレデリック領の貿易は偏ったもののようだ。
「雲行きが怪しいですね」
十野間修(eb4840)は兄の十野間空(eb2456)から借りたスクロールで天候をよい方向にシフトさせておく。道中、目的地でも状況によって変えるつもりである。
「少しだけ時間を頂きます」
十野間空は領主のアロワイヨーとラルフに手紙を用意する。後々を考えた内容だ。その間にエル・サーディミスト(ea1743)は急いで忘れた保存食を買いに走る。
(「被災者への速やかな対応は、良君の名を高めます。どうか御一考を――と、これで」)
書き終えると十野間空はゲドゥル秘書に手紙を託した。
「他人の領土での盗掘、現地の人々の強制労働、密売による不当利益‥‥と。あとどのくらい罪状出てくるんでしょう?」
コルリス・フェネストラ(eb9459)はあきれると同時に驚いていた。領主フレデリック・ゼルマはどれほどやりたい放題なのだと。
「実は私の妹分がアロワイヨー様とは懇意にしているのです」
「アロワイヨーとは友だちよ。できれば会って相談したいけど‥‥無理っぽいよね」
カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)とエルは領主のアロワイヨーに縁がある。依頼とは別に今回の行動には意味があった。
「鉱床が新たな火種にならないかが少し心配です‥‥」
「幸せと不幸せは表裏一体って感じ。復興は進んでいるけどまだまだだから、うまくいけばブランでアロワイヨーの領地は潤いそう。でも奪い合うようなことにな‥‥」
カスミの前でエルは首をブンブンと左右に振る。
「そうならないように支えないと☆」
「そうですね。妹分が悲しい顔をしないようにがんばります!」
エルとカスミは気合いを入れた。
「発布がされましたので、ラルフ様がブランシュ鉱の調査をしているのは周知の事実です。ですけどブランの延べ棒の発見は社員にもまだナイショなんです。どうかご内密に」
ゲドゥル秘書が最後に冒険者へお願いをする。いつかはばれるだろうがなるべく秘密にしておきたいようだ。
準備が整い、冒険者達とフミッシュは御者付き馬車に乗り込んだ。
向かうはトーマ・アロワイヨー領の盗掘の集落であった。
●山登り
冒険者一行は二日目の夕方に関所を通過して野営を行った。
三日目の昼頃には山の麓に到着する。
馬車は御者に任せ、一行は山登りを始めた。荷物の為にペガサスなどの身軽なペットは連れてゆくが、その他は馬車の近くで留守番である。コルリスはケルピーのシフカをよく言い聞かせて川に放ち、上流で合流することにした。
目立つのを避ける為、空に舞い上がるのは禁止になる。もちろん状況次第で変更はあり得た。
岩場が多く、とても険しい道のりを冒険者達は進んだ。
フミッシュのいう通り、まったく人気はなかった。もしいたとすれば盗掘者なので注意が必要だ。
一晩の野営を経て、一行は四日目の昼頃に集落近くへ到着する。峰から集落を見下ろすと、たくさんの人々が集落の中心にある穴を掘る作業をしていた。
冒険者達は周囲の調査を開始した。
(「静かに‥‥地面を舐めるように‥‥」)
護堂熊夫は空飛ぶ絨緞に乗り、超低空飛行で山林の中を飛ぶ。同乗するカスミは落とされないように絨緞を強く両手で握りしめていた。
危険になった場合、隼のフォンケルが主人のクレアに知らせてくれる段取りになっているが、そうならないように気を付けなければならなかった。
野営をする峰より集落に近い場所を見つけて降り立つと、二人はうつぶせで窺う。
カスミはブレスセンサーで数や配置を探った。
護堂熊夫はテレスコープとエックスレイビジョンで監視する。
「現在集落にいるのは四十七名。何名かは集落の外を巡回しているようです。足すと五十一名。無理矢理働かされている強制労働者かどうかの判断は難しいですね‥‥」
カスミは呼吸を感じ取る。
「あの作業は‥‥ブランの精製でしょうか?」
護堂熊夫は小屋の中を透視した。真っ赤に燃える手で作業をする者が一人いた。二名の武装した者に監視されているようにも見える。
そして護堂熊夫はある事に気がついた。作戦には関係ないが、鉱床の位置がはっきりとわかる事を。
エックスレイビジョンでは魔力のある物を透過して見ることは出来ない。逆の発想をすれば、透過出来ない地面にはブランシュ鉱がある可能性が高かった。
護堂熊夫とカスミは夕方には仲間の元に戻った。
「そこのお前、何をしている?」
川辺に怒鳴り声が響く。
「綺麗な小川だったからつい。もしかして‥下流で水使ってる?」
十野間修はまだ幼い容姿を生かして、近づいてくる男に惚けてみせる。
「こんな山奥になんで来たんだ?」
「旅をしている途中なんだ。数日休んでから立ち去るつもりなんだけど」
「いいからすぐに荷物を背負え! 連れてゆく!」
「わ、わかったから、槍を向けるのやめてよ」
十野間修は川辺にあがる。その様子をコルリスはケルピーと一緒に岩に身を隠して見ていた。
(「修さんなら平気でしょう」)
コルリスは念の為、弓の弦に矢をかけていたが、ここは十野間修の判断に任せる。
誰もいなくなった後でコルリスは川を調べた。特に仕掛けられた様子はないが、川の付近は盗掘者達が巡回している。
コルリスは十野間空へ修の事を伝えた。
「きっと弟は強制労働させられている方達との橋渡しを考えているはずです」
十野間空は顔にこそ出さないが、心の中では弟の心配をするのだった。
太陽が沈み、夜の帳が下りる。
エルはアースダイブで地中からの侵入を試みる。泳ぎが得意なレイムスもエルと行動を共にした。
十野間空と元馬祖は空飛ぶ箒で闇に紛れて侵入する。
「この小屋は昼間は使われていなかったみたい。でも今はたくさんいるわね」
エルは集落内に潜入すると、さっそくバイブレーションセンサーで周囲を探る。仲間が作った地図を窓から洩れる灯りを利用して眺めた。帰ったら自分の調査結果も反映させるつもりである。
「これは一体?」
レイムスは小屋の外に並べられた小石に気がつく。その時、空中から侵入した十野間空と元馬祖も合流する。
「弟の暗号です。この小屋に入ってくれという意味です」
小石の並びの意味を読みとった十野間空は小屋の扉に手を掛ける。鍵は掛かっておらず、すんなりと中に入れた。
「わたしはその他の小屋を探って来ます」
元馬祖はその場を立ち去り、闇に紛れる。
「ボクはここで見張りをしながら調べておくね」
エルは小屋の中で灯りが洩れないようにランタンを灯す。
十野間空とレイムスが小屋の奥に入ると、たくさんの人達の視線を浴びた。その中に十野間修の姿もあった。
「あんたらかい? 坊主が助けてくれるといっていた人達は」
小屋の代表者がレイムスに訊ねる。
「はい。やはりこの小屋にいらっしゃるのは無理矢理働かされている方々ですか?」
「その通りだ‥‥」
代表者がこれまでの経緯を語る。この小屋に詰め込まれている三十名は山の中腹の集落で暮らしていたが、脅迫されて、この有様だと。
「是非、私達が突入するまでは、今まで通りの行動をお願いします」
「わかった。そうしよう」
レイムスと十野間空は代表者と相談をし、突入は六日目の深夜と決まる。問題はこの小屋の中に裏切り者がいないかだが、こればかりは信じるしかなかった。
「心配しましたよ」
最後に十野間空は弟の修と会話する。
「見つかった時はどうしようかと思いましたが、考えを切り替えたのです」
経過はどうであれ、十野間修のおかげで強制労働者達との接触が楽になったのは確かである。
十野間修は残し、冒険者四人は集落を立ち去るのだった。
●戦い
六日目の夕暮れ頃、冒険者達は侵入の手筈を整えて配置についていた。
時間は経過し、深夜となる。
輝く矢が十野間空によって夜空に放たれた。一斉に冒険者達は突入を開始する。
地上の冒険者達はエルにアースダイブをかけてもらい、集落を囲む塀の下を潜り抜けた。
空から侵入する冒険者は一気に夜空を駆け抜ける。
冒険者達が目指したのは盗掘者達が休む家屋であった。
「あの家屋です! ムーンアローが吸い込まれていったのは」
カスミはペガサスに跨りながら地上の仲間に正確な位置を知らせる。
「任せてくださいませ!」
クレアは敵の本拠地なので遠慮なくファイヤーボムを家屋の壁周辺で爆発させる。炎が消えた後には壁が崩れて穴が空いた。
焦げる臭いが立ちこめる中、井伊貴政は先頭を切って乗り込んだ。
襲ってくる盗掘者達に向かい、井伊貴政は斜に構えた。太刀を振るうと、敵の剣は折れて鎧は砕け散る。
「次はこーはいきませんよー。‥‥どこですか? あなたたちの親玉は?」
笑顔の井伊貴政を恐れた盗掘者が尻餅をつき、廊下の奥を指さした。
「伏せて!!」
エルが叫ぶと労働者達が左右に分かれる。放たれたグラビティーキャノンで盗掘者が弾け飛び、塀に叩きつけられた。
「うおおおっ!」
護堂熊夫は盾を盗掘者に当ててひたすら前進する。大木に押しつけると盾から手を離した。最後にスープレックスで盗掘者の後頭部を地面にめり込ませる。
「大丈夫ですか?」
護堂熊夫は労働者達に近づいた。先程メロディで志気をあげたせいもあるのか、怖がっている者は少なかった。
「影縛!」
十野間修は見張りの影を地面に縫いつける。
「少しだけ待って下さい‥‥」
元馬祖は複雑な仕掛けがされている門の器具を動かす。間もなく門は開かれて、労働者達を集落の外に脱出させるのに成功する。
「これを揉んで――」
エルは薬草で怪我した者を手当てしてゆく。労働者達の中に重傷者はいなかった。エルは心の中で良かったと呟くのだった。
レイムスは井伊貴政等とは別の家屋へ踏み込んでいた。
一気に突入し、有無を言わさずに盗掘者達の武具をたたき壊してゆく。
敵の戦闘力を奪うのがレイムスの目的であった。そうすれば労働者が盗掘者と接触しても安全だ。むしろ数に分がある労働者の方が有利になる。
「逃げても無駄です」
レイムスは外に逃げてゆく盗掘者に一言かけた。
「ま、待って下さい!」
部屋の隅にいた男が叫んだ。
「奴らの仲間ではありません! ブランを精製する為に無理矢理連れてこられたんです。ほっ、ほら!」
男は唱えると手を真っ赤に燃やす。ブランを精製する為のヒートハンドであった。
「こちらは行き止まりですわ。お戻りあそばせ」
雷の魔法を放ったクレアは地べたでのたうち回る盗掘者達に声をかける。
ペガサス・フォルセティのおかげでクレアは集落のどこでもひとっ飛びである。仲間の魔法による探知によって、逃げようとする盗掘者はすぐにわかった。
「小舟が一艘ないようですが、仲間が張っているはずですし」
クレアは川辺の小舟の数を数えた。
「また来ましたわ」
盗掘者が近づいてくるのを確認し、今度はローリンググラビティーを放つクレアであった。
「ここまでくれば‥‥」
盗掘者の二人は櫂で漕ぐのをやめて、小舟に寄りかかる。
「ん? なっなんだあ?」
川の流れに任せようとした矢先、突然揺れだして小舟が転覆する。盗掘者二人は泳いで川辺まで辿り着くと、不思議なものを月明かりの中で見上げた。
水を滴らせた馬だ。よくみると足に水掻きがあった。
「うわああっ!」
急いで川からあがった盗掘者二人は必死に逃げる。
だが間もなく足に激痛を感じて二人とも転倒する。痛む足をみると矢が刺さっていた。
「よくやりました、シフカ」
コルリスはケルピーを褒めた後、倒れている盗掘者二人に近づくのだった。
「影よ! 弾けろ!」
井伊貴政がタイミングよくドアを開け、十野間空がシャドゥボムを部屋の中の人物に放つ。
部屋の中にいた一人の足下の影が爆発する。部屋にいた三人全員が倒れ込んだ。
「この人みたいですねー」
井伊貴政は一番風格のある男の首に太刀の先を向けた。男はしばらく井伊貴政のにこやかな瞳を観た後で、握っていた剣の柄を手放した。
十野間空は倒れていた二人を近くにあったロープで縛る。
「オリソートフの者ですね?」
十野間空の問いに風格のある男は答えない。
「あまり意地を張らないほうが、これからの貴方のためですよ」
十野間空は忠告をしておいた。
七日目の朝が訪れようとしていた頃、集落は解放された。
怪我をした冒険者もいたが、それも薬で完治する。
労働者達の歓喜の声を聞き、喜びを噛みしめた冒険者達であった。
●そして
七日目、フミッシュと冒険者達は集落の調査をしてブランを回収した。
八日目の夕方には山の麓まで移動し、九日目には移動を開始する。
廃墟の集落に解放した人達を戻しても、生活が立ち行かないのはわかっていた。アイテムやペットなどを総動員して遠くの村まで連れてゆく。
フミッシュが村長と交渉し、今後のヴェルナー領からの支援を約束して解放した人達を預かってもらう。
冒険者達がルーアンに到着したのは十日目の夕方であった。捕まえた盗掘者の生き残りは官憲に引き渡される。
ヒートハンドが使える職人はトレランツ本社での預かりとなった。
フミッシュによって感謝の追加報奨金が冒険者達に支払われる。
十一日目の昼頃、心地よい疲れを残しながら、冒険者達は帆船での帰路についた。