デュールの覚悟 〜ノワール〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:13 G 14 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月26日〜07月06日
リプレイ公開日:2008年07月04日
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●オープニング
パリから北西の位置にルーアンはある。
ヴェルナー領の中心地であり、ブランシュ騎士団黒分隊隊長ラルフ・ヴェルナーが領主として治める土地でもあった。
冒険者達によってエルフの老翁、テギュリア・ボールトンはルーアンにあるヴェルナー城に滞在する。
かなりの上位と思われるデビル・アガリアレプトと友人の関係にあるという危険なエルフである。異端審問にかけられたのなら、断罪の烙印を真っ先に押されるであろう人物だ。
デビルが奪おうとした本の中に石化したものが見つかって復元される。調査してみると石化していた写本はウィリアム3世を裏切ったブラーヴ騎士団の隊長が写したものであった。著者はアガリアレプトに仕えるイペスとされていた。
内容はデビルの視点から書かれた説話集であったが、中に唯一実在の人物の名が記されている。
それがテギュリアである。
テギュリアとアガリアレプトが物語の中で話し合い、人の醜さと弱さを再確認し、神の験しを罪とする考えに至るまでが書かれてあった。
ヴェルナー城の一室でテギュリアは日々を過ごしていた。訪れる調査官を煙に巻きながら。
テギュリアはどこかの国王の側近をしていたという噂があったが定かではない。
デビルについて、特にアガリアレプトについて訊ねても何も答えなかった。理由を問われるとテギュリアは、詰まらぬ相手に話す暇はないと吐き捨てる。
「そう、欲するのは『知恵』じゃ。聖書にあるように、デビルが知恵の実をそそのかして人の祖であるアダムとイブに食べさせたのなら、わしはそれを歓迎しようぞ。知恵こそわが生き甲斐」
テギュリアは笑った。そしてこうともいう。
「そそのかしたのがデビルだとしても、知恵となる実を所有していたのは神であったはず。デビルではない。人はそれをかすめとったに過ぎん。つまりはどうあがいても神の見えざる手から逃れる術はないともいえる。それこそが原罪かも知れんな」
テギュリアから情報を引きだそうと何人もの調査官が動員されたが、どれもなしのつぶてである。
「そういえば、この間の連中は結構面白い奴が揃っておったな。口べたな奴もおったが、自らの技量で生き抜いてゆく気概が感じられた。使い込まれた武器がそれを物語っておった‥‥」
テギュリアはルーアンまで連れてきてくれた冒険者達を思いだす。
ラルフは別件でヴェルナー城を離れており、特別にエフォール副長がテギュリアに関しての指揮を任される。かといってテギュリアにかかれる時間は少なかった。
アガリアレプトと繋がるデュール・クラミルを少しでも知っている者として、ポーム町から元ブラーヴ騎士団のボグリームと五名が呼ばれる段取りとなる。
エフォール副長は黒分隊隊員や城の兵士達を送らずに、移送を冒険者達に任せるつもりであった。元ブラーヴの騎士達と同様に、冒険者達ならテギュリアを説得出来る踏んだのだ。
エフォール副長の代理がパリ冒険者ギルドで依頼を出した頃、ブラーヴ騎士団も動き始める。
これ以上の情報漏洩を防ぐ為、アガリアレプトから命令を受けたデビノマニ・ブラーヴ騎士団デュール隊長であった。
●リプレイ本文
●始まり
一日目の朝早く、冒険者達はブランシュ騎士団黒分隊から馬車を借り受ける。
情報をくれたクレアと朧が見送られながらパリを出発し、その日の夜にはポーム町へと到着した。
翌日の二日目、ボグリームを含めた元ブラーヴの騎士六名を乗せた馬車と共にポーム町を出発する。目指すはヴェルナー領の中心都市ルーアンである。
元ブラーヴの騎士六名が乗る馬車には、二名の御者と護衛のポーム町の騎士六騎が護衛していた。誰もが強者であり、アガリアレプトから敵が送られてきても、対応はしやすい状況であった。
だが、この時の冒険者達は誰も知らない。ブラーヴ騎士団の覚悟は極まっていた。
●移動
四日目の昼、なだらかな丘陵に続く道を馬車二両と護衛が走る。
冒険者の馬車を駆るのはシクル・ザーン(ea2350)である。愛馬を馬達の指揮の位置にして、より扱いやすくしていた。
(「テギュリア翁の相手をしているよりかは気が楽ですが‥‥」)
シクルはエルフの老翁テギュリアを苦手に感じていた。ルーアンに着けば必然的に会うはめになるのだが、今回は説得の相手として元ブラーヴの騎士達を連れてゆく事となる。自分が説得しなくてもいい状況にシクルの心は少し軽かった。
様々な対策を考えた末、元ブラーヴの騎士六名は二両の馬車に分かれて乗ってもらう。全員を無事運ぶのが任務であるが、もしもがあった場合でも全滅だけは避けなくてはならないからだ。
シクルが御者をする馬車A内にはボグリームと二名の元ブラーヴの騎士、氷雨絃也(ea4481)、フランシア・ド・フルール(ea3047)が待機していた。
「牽制にはなるだろう」
氷雨絃也は用意しておいた拳大の石を手にする。近づいてきた敵への牽制に使われる石だ。乗っている人数が少ない事もあり、それなりの数を用意してあった。
「戦いになった場合、下手に動くなよ。あんたらの動きがかえって邪魔になりかねん」
氷雨絃也はあらためて注意を促す。未だ焦った様子が元ブラーヴの騎士達から窺えた。
「今はルーアンへ呼ばれた理由の説得に注力なされた方が、ラルフ殿の意に叶うというもの。戦うのは、もしもの時のみで」
フランシアはそう元ブラーヴの騎士達言い含めながらもわだかまりがある。相手は元ブラーヴの騎士達ではなくてテギュリアであった。テギュリアの伝え聞いた発言に遺憾あったのだ。知識はあるのかも知れないが、正邪の判別があまりにも足りないと感じていた。
いつものように色水の入った水袋と、小さな樽を用意してある。デビルの察知はいかなる場合にも優先すべき事だ。さもなくば一気に状況が悪い方向に傾く可能性が高くなる。
馬車Bでは李風龍(ea5808)が元ブラーヴの騎士三名の護衛についていた。
(「空からの警戒を頼んだぞ」)
李風龍は窓の戸を開けて、飛翔しているスモールホルスを眺めた。二羽いるうちの一羽が李風龍の育てているものである。もう一羽はリアナ・レジーネス(eb1421)のものである。まだ関わりは深くないが、すこぶる頭がよいので少なくても邪魔をする事はないはずだ。
「さて、次はここで」
リアナはブレスセンサーを使い、敵の探知に気を配っていた。馬車二両の位置を把握し、フライングブルームで先行しては周囲を探る。デビル、デビノマニを探知するには心許ないが、ブラーヴ騎士団の隊員ならば感知できるはずである。
リアナとは別に、空からの偵察を冒険者三名が空飛ぶ相棒と一緒に行っていた。
デュランダル・アウローラ(ea8820)はヒポグリフ・ミストラル。
乱雪華(eb5818)はグリフォン・ヤーマオ。
ナノック・リバーシブル(eb3979)はペガサス・アイギス。
選ばれたルーアン行きのルートは見通しがよく、森などの隠れやすそうな場所があったとしても検討がし易かった。
「この前の決闘にいたのが全員だったとしても、二十数騎はいたな」
ナノックはブラーヴ騎士団を戦力を思いだし、情報確認の為に空中で集まったデュランダルと乱雪華に話しかける。
「今は、襲ってくる敵を叩くことで、アガリアレプトの手足をもいでいくべきだ。‥‥デュールを仕留めさえすれば、ブラーヴ騎士団は瓦解するはず」
デュランダルは周囲を見渡しながら呟く。
「いくつかデビルスレイヤーをポーム町の騎士にも貸しておきました。彼らなら戦力になるでしょう」
乱雪華は黒分隊に譲与するつもりであった武器を護衛のポーム町の騎士に貸していた。エフォール副長はルーアンで待機中であるし、黒分隊隊員も今回の移送には参加しなかった為だ。
三人は再び、散らばって上空からの偵察を続けた。
騎乗して地上から護衛しているのは、エリー・エル(ea5970)とディグニス・ヘリオドール(eb0828)である。ポーム町の騎士六騎と編隊を組んで二両の馬車を護衛していた。
「うぅん、本当にどんな秘密があるんだろうねぇん」
エリーが右の人差し指を口元に当てながら空を眺める。頭の中は?マークでいっぱいであった。
「最近、敵も本腰を入れてきたような印象があるな。それだけ重要なものなのかも知れん」
ディグニスは行き先に向けて眼を凝らす。
ディグニスとエリーは馬車二両を含む移送隊の一番先頭を駆けていた。右翼、左翼、後方についてはポーム町の六騎に任せてある。
まずは元ブラーヴの騎士六名を無事ルーアンに届ける事が優先されなければならなかった。その為にはプライドを捨てた戦い方も必要だとディグニスは覚悟していた。
ここまでの移送はのどかな状況であった。しかし長くは続かない。
ブラーヴ騎士団二十四名が襲ってきたのは、約一時間後の出来事であった。
●戦場
敵の存在を真っ先に知ったのはナノックであった。ペガサスの上から見下ろすと遠くに土煙を巻き上げて草原を駆ける団旗を掲げる騎士団を発見した。
どのブラーヴの騎士も以前に対峙した時より重装甲の鎧に身を包み、長槍を手にしていた。それでいて身軽なようにも見受けられる。
ナノックの脳裏にはレミエラが浮かんだ。
手引きのインプかグレムリンがいるのか、仲間の移送隊を目指してブラーヴ騎士団が移動しているのはあきらかであった。
戻ったナノックは仲間に敵襲を知らせる。周囲には緩やかな丘があるぐらいの草原のど真ん中である。少し迂回した所で戦いを避けられるはずもなかった。
考えられる接触時間までには少し余裕があり、冒険者側は一度進行を停めて準備を整えた。可能な限りの魔法付与などの準備を行った後で、ルーアンヘと続く最短距離を突っ走る。
ブラーヴ騎士団は二つに分かれ、左右から併走するように移送隊に近づく。速度についてはわずかながらブラーヴ騎士団の方が勝っていた。
「まとわりつくものは全て攻撃しなさい!」
乱雪華は急降下し、グリフォンの爪でブラーヴA群を狙う。騎馬した上での槍では上空への攻撃は出来ないに等しい。
乱雪華の一方的な攻撃になるかと思われたが、一部のブラーヴの騎士が槍を捨てて剣に持ち替える。そこから戦いといえるものが始まった。激しい戦闘のせいで、この時は鳴弦の弓をかき鳴らせずにいた乱雪華であった。
「これを!」
フライングブルームからでは不安定過ぎるので、リアナは馬車の天井に座っていた。そして高速のライトニングサンダーボルトを放って乱雪華に加勢する。レミエラの力によって扇状に広がった雷は多くの敵騎士に衝撃を与えた。
「邪魔をするな! 退け!」
ディグニスは先方をエリーと並びながら騎馬で駆け、近寄るブラーヴA群を引き受けていた。ペルクナスの鎚を振り上げたディグニスだが、敵騎士を狙ったように見せかけて馬を打撃する。嘶きをあげた敵の馬が足をもつれさせて、ブラーヴの騎士が落馬してゆく。
逆側面を守るエリーも奮闘していた。
(「イペスはいないようなのねぇん」)
攻撃を盾で受け、聖剣アルマスを振るうエリーは状況にも気を配っていた。今の所はブラーヴ騎士団以外に敵は現れていない。
デュランダルはヒポグリフで地上間近を飛び、ブラーヴB群と戦う。馬車二両に近寄らせないよう、ポーム町の騎士達と共に抵抗する。
氷雨絃也は冒険者用の馬車に近寄る敵騎士に石を投げつける。
(「デュールは?」)
デュランダルは空中からデュールを探すものの見つからない。
「わかるか? デュールがどこにいるかを!」
「わたしは見かけてませんよ!」
ミミクリーで片腕を伸ばして戦うシクルはデュランダルに答える。
デュランダルは混乱した。敵は兜を被っているが、目と鼻、口の形はわかるので判別に苦労する事はない。変身している可能性もあるが、今一理由が不明であった。
「変なのが混じっているぞ!」
氷雨絃也がすべての仲間に聞こえるように大声を張り上げた。石が当たっただけで馬の扱いに綻びが出る敵騎士がいるようだ。
「こっちもそうだ!」
後方の馬車に乗っていた李風龍も叫んだ。あまりにも手応えのない敵騎士がいると。
かといってすべてがそうではなく、かなりの実力の者も確かに存在した。
「シクル殿もお力添えを!」
次第にブラーヴ騎士団の包囲網は縮まり、フランシアがホーリーフィールドを連発して凌ぐ事が多くなる。
「あれは?」
移送隊の後方を手助けしていたナノックは青空に一団を発見した。あきらかにインプやグレムリンの影ではなかった。すぐにグリフォンに乗ったブラーヴ騎士団五騎であるのに気がつく。
何からの魔法で何者かを洗脳し、ブラーヴ騎士団本隊の数合わせをしたのだろう。飛翔する五騎の中にはデュールの姿もあった。
敵グリフォン五騎が急降下し、後方の馬車を爪によって集中攻撃する。李風龍が大錫杖で抵抗するが馬車の屋根が爪によって半分剥がされる。リアナが空中に向けて魔法の雷は一騎のみを捉えた。
フランシアとシクルのホーリーフィールドで大破から後方の馬車は免れる。スモールホルス二羽の撹乱によって敵グリフォン五騎の軌道がわずかに逸れた事も幸いした。
冒険者三名は仲間達に地上の敵を託し、相棒のペットと共に舞い上がる。
集中して叩くべきはデュールであった。乱雪華は鳴弦の弓をかき鳴らして仲間を援護する。
デュランダル、ナノックはデュールに一撃を加えたものの、次の攻撃に手応えを感じなかった。すぐにエボリューションを使ったのだと気づいた二人は武器を持ち替える。
グリフォン・ヤーマオの爪と、スモールホルス二羽の高速移動による撹乱だけでは、敵グリフォン四騎を完全には押さえ込められない。結果としてデュランダルとナノックが対処に追われ、デュールに隙を作る事となる。
デュールは屋根が半壊した馬車に向かってグリフォンから飛び降りた。
フランシアがホーリーフィールドを詠唱するものの、デュールの剣によって消滅する。一瞬足場を失ったデュールだが、馬車最後部に踏みとどまった。
李風龍と、飛び移った氷雨絃也がデュールに攻撃を仕掛けるが、グレムリンがまとわりついて邪魔をする。リアナが放った雷はデュールを弾き飛ばすまでは至らなかった。
「懐かしい顔だ」
シクルの唱えたホーリーフィールドを剣技で消滅させながらデュールが見下ろす。一人の元ブラーヴの騎士とデュールの視線が合った。
「うおおっ!」
その時、愛馬の速度を一気に下げて馬車に近づいたディグニスの鎚がデュールの足を掬った。バランスを崩したデュールは走る馬車から落下して地面に転倒する。
デュランダルがヒポグリフを駆り、地面スレスレに飛んでデュールを狙う。立ち上がった泥だらけのデュールが構え、すれ違い様に刃が交錯する。
もう別方向からナノックも狙っていた。回転するペガサスから剣を繰りだす。
デュールの吐いた血がデビノマニの為かすぐに消え失せる。膝を地面につくデュールだが、剣を杖にして再び立ち上がった。
グリフォンが着地し、デュールが倒れ込むように背中へと乗る。
その頃には地上のブラーヴの騎士達は激減していた。
残りの敵騎士をポーム町の騎士達に任せ、エリーは愛馬バウバウで反転する。乱雪華はグリフォンで急降下した。
状況は混沌とする。
デュールの脱出をはかろうとブラーヴ騎士団達は足を止めて抵抗を始めた。デュールに対する忠誠は深く、最後まで盾となる。
「仲良くすることって――」
すべてが終わった時、エリーが呟く。本当は戦いの前にデュールへかけたかった言葉であった。
冒険者達にはブラーヴ騎士団の約三分の二を仕留めた手応えが残る。デュールは逃してしまったものの、大きな成果である。
屋根が半壊した馬車は車軸にも損傷があり、元ブラーヴの騎士六名は全員冒険者用の馬車に移った。
怪我の治療や、馬車の事などで時間をとり、移送隊がルーアンに到着したのは六日目の夕方であった。
●ルーアン
「神は万物の創り主。人のみならず主に叛きし愚かなる者どもであろうと、全て主の御手の内にあります。其は原罪ではなく真理なのです」
七日目から八日目。ルーアンのヴェルナー城ではテギュリアへの説得が続けられていた。
フランシアは話したい事があるといい、テギュリアと面会を行う。
「知恵を得た事ではなく、その真理より逃れんと神の主権を侵した事こそが原罪。しかし神の子ジーザスの苦難以後、人にはその罪を贖う機会が与えられたのです。其こそが試練‥即ち験しとは主の慈悲に他なりません」
フランシアの話しを聞いた上でテギュリアが口を動かす。
「知恵の実についても様々な考えもあろう。もしもだが、神に約束された救世主が、未だこの世に現れていないとすればどうする? あくまで頭のお遊びであるがな。きっとジーザス教黒教義のぬしには疑いようもない事実と返されるであろう。だが、そう信じてやまない者もこの世には存在する。それをわしは無視出来ん」
テギュリアは呑まずにおいた酒を一口含む。
「断っておくがジーザスが救世主ではないといっている訳ではないぞ。そうであるかも知れないし、そうでないかも知れん」
テギュリアの主張をある程度聞いたフランシアはこれ以上の話しはないとして退室する。
「はぁい、おじいちゃん、また来たよぉん」
フランシアと入れ替わり、エリーがしばらくテギュリアの話し相手を務める。その後は元ブラーヴ騎士六名との面会が行われた。
九日目、昼頃の船着き場。冒険者達はエフォール副長から感謝として追加報酬の金とレミエラが渡される。
「テギュリアからフランシアさんへの伝言としてわずかながら情報を得られた。自分が出てくる本の説話についてだが、あのような行動をした覚えがないといっていた。信用に足るかどうかはいささか怪しいのだが」
最後にエフォール副長の口からテギュリアの言葉がフランシアに伝えられる。
帆船は出航し、十日目の夕方、パリの船着き場に入港するのだった。