●リプレイ本文
●始まり
(「トーネードドラゴン‥‥」)
フランシア・ド・フルール(ea3047)は仲間とは別行動をとってパリに残っていた。
宮廷図書館を始めとする様々な施設でデビルやドラゴンの文献に目を通す。トーネードドラゴンの謎を少しでも補完する為である。
フランシアも目撃したが、Tドラゴンの体長は十メートル程度で体格からいえばミドルクラスである。だが今までのミドルクラスよりは能力が優れ、ラージクラスに迫っていた。飛行速度はラージクラスの最高速度と同等である。
文献によれば通常のドラゴンの系統ではなく、存在した時からデビルであるらしいが真実は伝説の中だ。
パリではエリー・エル(ea5970)の子供である大宗院透と大宗院亞莉子がデビルやテギュリアの情報を探し求めていた。何かわかった時はフランシアに伝えてもらう段取りである。
九名の冒険者は馬車を中心にして既にパリを出発していた。
目指すはヴェルナー領東部山岳部の麓にあるロセラ町である。ルーアンから派遣される学者五名とは現地で集合する予定であった。護衛もついているので何も問題はない。
「おじいちゃんにあのドラゴンのこと聞きたかったなぁん。あのドラゴンってデビルなんでしょぉんって」
エリーは愛馬バウバウの上で首を傾げる。残念ながらルーアンに立ち寄らないので、今回テギュリアに会う機会はなかった。
エリーも含めてペットなどで馬車に併走する者はたくさんいる。
リアナ・レジーネス(eb1421)は乱雪華(eb5818)のグリフォン・ヤーマオへ一緒に乗せてもらっていた。
(「ヴェルナー領はいろいろと大変な状況にあるのですね‥‥」)
リアナはパリ出発時に友人が話してくれた事を思いだす。コルリスによればヴェルナー領と緊張状態にあるフレデリック領はオリソートフという組織を動かし、デビルと結託するつもりらしい。雀尾はドラゴンについての知識を、元は戦い方の助言をリアナにしてくれた。
一日遅れでパリを出発したフランシアはセブンリーグブーツを使い、三日目の昼頃に馬車一行へ追いついた。
馬車一行は三日目の暮れなずむ頃にロセラ町へと到着する。すぐさまヴェルナー領の兵士に守られた学者五名と合流した。
ロセラ町は壊滅状態にあり、火事を免れた教会が避難場所となっていた。庭では食事の配給が行われていたが、町の規模に比べて人の数はまばらである。
他の町や集落に身を寄せた者も多いのだろうが、それだけ生き残った人々は少なかった。
未だ酷い怪我を負ったままの被害者に冒険者達は薬類を提供する。
「もう大丈夫だからな。気をしっかりするんだ」
李風龍(ea5808)は魔力を使い切るまでリカバーを患者達に施す。今回は救護に回るつもりの李風龍であった。
食料に関しては学者一行が運んできた分で間に合っていた。さらなる物資が運ばれる予定である。
教会の一室が冒険者達には提供された。学者達が拠点とする部屋の隣室であった。
庭の一角では兵士達が何頭かのグリフォンを世話していた。空中からの調査の為と、対Tドラゴン用として用意されたものだ。
ここまで馬車の御者を務めてくれたディグニス・ヘリオドール(eb0828)は、グリフォンを一頭借り受ける。
他にも西中島導仁(ea2741)はエリーと共同でグリフォン一頭を貸してもらう。
シクル・ザーン(ea2350)も、いざ戦いになった時には地上で行える事が少ないと考えて一頭を選んだ。
他の冒険者は地上での援護に回ったり、自ら用意した相棒のペットで対応するつもりであった。Tドラゴンが破壊した町を調査をする以上、万が一に備える必要を誰もが感じていたからだ。
「仕留め損なる度に犠牲が生まれる。戒めがまた一つ増えてしまった‥‥」
夕日の中、ナノック・リバーシブル(eb3979)はペガサス・アイギスでロセラ町を上空から見下ろす。
「トーネードドラゴンが現れたとしたら、例え空であろうと、騎士が騎上での戦いに遅れをとる訳にはいかない」
デュランダル・アウローラ(ea8820)も、空を滑空するヒポグリフ・ミストラルの背中から町を眺めた。
あきらかに飛行能力を持つドラゴンによる広範囲攻撃が行われた形跡がロセラ町の地上には刻まれていた。
●瓦礫
ロセラ町の壊滅の仕方からTドラゴンの能力を探る調査が行われる。
細かい調査は学者五名に任すとして、冒険者達も知っておきたい知識であるのは間違いない。地上や空中からの状況把握に務め、その上で解明に協力するつもりの冒険者であった。
「ロセラの被害はゴルオの時とよく似ておるのぅ」
ディグニスは瓦礫になった町をつぶさに観察する。
上空から強い力で押さえられたような痕跡がいくつも見つかった。生き残った人々から話を聞き、Tドラゴンの仕業であるのを確信する。
デビルとドラゴンの能力を兼ね備えたTドラゴンは厄介な敵であった。
「デビルが出てくるかもしれませんので、よろしければお使い下さい」
乱雪華は学者を護衛する兵士達にデビルスレイヤー武器を進呈しようとした。
こんなに高価なものは頂けないと兵士達は断る。ただ今回の任務には必要かも知れないと兵士達は乱雪華から借り受けた。
グリフォンに乗った乱雪華は上空から生き残りがいないかを探る。
同じくリアナも生き埋めになった被害者がいないか、ブレスセンサーで瓦礫の下を探した。すでに襲撃から一週間以上も経過しているが、食料が備蓄された地下室に閉じこめられたのなら生存の可能性は残っている。
リアナは根気よく確認してゆき、ついに三名の一家族を探し当てた。仲間を呼んで瓦礫の下から救出に成功する。すぐに教会に運ばれて李風龍が世話を引き受けた。
「どうしたのぉん?」
愛馬で巡回をしていたエリーが地べたに座り込む幼い兄妹に声をかける。
目の前の瓦礫の山が住んでいた家だったと兄が泣きじゃくりながら答えた。二人の両親はTドラゴン襲来の際に亡くなったらしい。
エリーは地面に座って兄妹を強く抱きしめる。しばらくお話をした後で兄妹を教会に連れてゆく。教会の司祭に二人の面倒を頼むエリーであった。
西中島も壊滅した町を巡回して救助が必要な人を探していた。怪我が悪化した被害者を愛馬に乗せて避難場所に運ぶ。
(「もし奴が現れたら、空を飛べなければ勝ち目がないのだ」)
救助を終えた西中島は、昨晩のうちにかけておいたオーラテレパスを使って一頭ずつグリフォンに会話を試みた。
人を乗せるのに慣れておらず、それに冒険者達とは初対面のグリフォンである。少しでも人に馴らそうと西中島は兵士の許可をとって一頭ずつ訓練を行った。
「私もお手伝いします。そうでなければいざという時、トーネードドラゴンに立ち向かえないでしょうから」
シクルもグリフォンの訓練に参加する。西中島と二人でグリフォンを手なずけていった。
「やはり、そのような破壊の痕が残っているのですか」
フランシアは学者五名とTドラゴンの情報を交換した上で様々に論じた。
フラップストームを始めとするドラゴン特有の攻撃範囲から判定すると、やはりミドルクラスとラージクラスの中間に当たるようだ。
稲妻の息は射程百メートルだと想像される。物証は乏しいが、証言なとから風の精霊魔法の他にデビル魔法も操れるらしい。
調査は順調に進んだ。医療を専門とするルーアンの部隊もロセラ町に到着して完全な意味での治療も行われる。
生き残った人々も少しずつ希望を取り戻していた。瓦礫の撤去に汗を流す者も出始める。
未来に向けて新たな一歩を踏みだそうとロセラ町の生き残った人々が決意を固めだした頃、遠くの地で青緑色の翼が広げられた。
それから数日後、再びの脅威がロセラ町を襲うのであった。
●風
八日目は山から風が強く吹き荒んでいた。
デュランダルとナノックは町に到着してからずっと空からの警戒を怠らなかった。嫌な予感を感じていたからだ。
監視はわざとロセラ町から大して離れずに続けられる。
範囲を広げすぎると結果として町が無防備になってしまう。Tドラゴンの飛行速度は半端ではなかった。そうであるならと別の対策を考えていたナノックである。
Tドラゴンは唐突にやって来る。出現したのは昼の最中であった。
「速い!」
真っ先にTドラゴンを確認したデュランダルはヒポグリフで追う。進路を予想して先回りをしようとするものの、それでも追いつくのは無理だ。
デュランダルのヒポグリフとは三倍弱の速度差があり、あっという間にTドラゴンがロセラ町上空に到達する。
「アイギス、力を貸してくれ!」
ナノックはTドラゴンの存在に気づくやいなや、自らとペガサスの全力を使って上空に多数のホーリーフィールドを展開させた。
Tドラゴンの動きを封じ込めるには至らなかったが、障害物として飛行速度を鈍らせるのには成功する。
「トーネードドラゴン、来襲!」
ヒポグリフに跨ったデュランダルが地上を掠めるように滑空して叫んだ。間もなく警鐘が鳴り響き、ロセラ町周辺にいるすべての者がTドラゴンの再来襲を知る。
「奴は何処ですか?」
「上だ!」
借りたグリフォンで空に舞い上がったシクルにナノックが答える。シクルもホーリーフィールドの展開を手伝った。
西中島とエリーもグリフォンで飛び立って加勢しようとする。だがエリーは高速詠唱が使えず、空中でのホーリーフィールドは諦めた。
(「とにかく、あの子達を守るのねぇん」)
エリーは心の中で呟いた。
あらかじめ地上でかけておいた魔法を活用し、西中島とエリーは教会上空で武器を構える。
「何かがわかるかも知れない」
西中島はTドラゴンと会話を試みるつもりでいた。
地上では李風龍が教会の人達を守ろうと待機してる。羽ばたく風精龍・飛風に西中島はオーラテレパスで話しかけ、教会にTドラゴンを近づけさせないように頼んだ。
進路を妨害されたTドラゴンは一旦離れ、今度は外縁部分から低空で町への侵入を試みた。
その時、憑依しているイペスは微笑んでいた。
町の破壊はすでに果たしている。今、成すべきは打ちひしがれた人々を蹂躙し、絶望の淵に追いやる事だ。それがラルフ領主を絶望へと導く結果に繋がる。
「神の思し召しを」
フランシアは護衛兵士が操るグリフォンの後ろに乗せてもらっていた。降り立った場所はTドラゴンが侵入しようと迫ってくる真正面の城壁上であった。
フランシアは自らが扱える最大のホーリーフィールドの詠唱を始めた。
その間にもTドラゴンは急速に迫る。
スモールホルス・ソルが体当たりをして時間稼ぎをしてくれる間に、フランシアの詠唱は終了した。
Tドラゴンの体長以上のホーリーフィールドが盾として張られる。Tドラゴンが勢いのまま衝突し、大きく軌道を逸らす。
リアナがレミエラの補助によってライトニングサンダーボルトを扇状に放ち、さらにTドラゴンの動きを牽制した。
乱雪華が高い建物の屋根に降りた。矢にオーラパワーを付加し、ドラゴンスレイヤーの弓を構えて放つ。手応えはあったものの、Tドラゴンにドラゴンスレイヤーが効いたようには思えなかった。
デュランダルもまたドラゴンスレイヤーの剣を試したが乱雪華と同じ印象を持つ。
ディグニスはグリフォンで空を駆り、捨て身の覚悟で剣をTドラゴンに叩きつけた。威力は充分であったが傷を負わせる事は敵わなかった。
以前に指輪の蝶が反応した通り、Tドラゴンはデビルである。魔力が込められていない武器で太刀打ち出来るものではない。
Tドラゴンの爪攻撃を受けたディグニスはグリフォンと共に落下するものの、バランスを取り戻した。そして西中島にオーラパワーを付与してもらう。
「何かよい方策は‥‥」
フランシアはTドラゴンを山の谷間に誘いだして速度を殺せないかと考えていたが、よい方法が見つからなかった。エリーが光や音を使ってみたが、Tドラゴンは興味を示さない。ゴルオ町の時はTドラゴンがエフォール副長を狙っていたからこそ誘導出来たのである。
「これはどうです!」
シクルはグリフォンに騎乗したまま、ミミクリーで伸ばした腕で七徳の桜花弁をばらまいた。触れたTドラゴンが呻き声をあげた。
引き続きシクルは般若湯を振りかける。狙った目は外れるものの、確実にTドラゴンにダメージを与えた。
「どうして、この町を襲おうとするのだ!」
西中島がオーラテレパスで話しかけるとTドラゴンが苦しみの咆哮をあげた。
「同時に話しかけるなだと?」
西中島はTドラゴンが返してきた言葉を呟いた。
「グレムリンが襲ってきたのねぇん!」
町の教会にグレムリンの群れが集ろうとしていたのをエリーが気づく。
今は李風龍が押さえているが、一人では捌ききれない数であった。西中島とエリーは地上付近まで降下して教会の防衛に手を貸した。
「町への侵入は抑えたが」
ナノックは飛翔するTドラゴンを見据える。
「俺はこっちだ!」
デュランダルがナノックの動きに呼応し、ホーリーフィールドの空中迷路でTドラゴンを挟み撃ちにした。
上空の冒険者達は一斉に攻撃を仕掛ける。するとTドラゴンが無理な動きで次々とホーリーフィールドを壊してゆく。
強制的に脱出をしたTドラゴンの背中にイペスの姿が現れるのを多くの冒険者が目撃する。だがすぐに姿を消した。
Tドラゴンは天に向かって稲妻の息を吐きだすと撤退する。ほとんど同時にグレムリンの群れも撤退を始めた。
引き続き警戒は続けられるものの、再びTドラゴンが現れる事はなかった。少なくても当分の間は大丈夫そうである。
地上にいた仲間にイペスの存在が伝えられた。フランシアとリアナはTドラゴンにイペスが憑依していたとの考えに至る。
「街に残っている人は一時、近くの町に避難した方がいいのねぇん」
エリーは心配し、生き残った町の人々に一時の避難を勧めるのだった。
●そして
十日目の朝、冒険者達はロセラ町を後にした。
フランシアは学者にラルフ領主への伝言を頼んだ。いっその事、戦いの場にテギュリアを同行させたらどうかという内容である。
十二日目の夕方、冒険者はパリの地を踏んだ。冒険者ギルドには追加の報酬がルーアンから届けられてあった。