天使降臨の地へ 〜ノワール〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:14 G 11 C

参加人数:10人

サポート参加人数:7人

冒険期間:09月17日〜09月25日

リプレイ公開日:2008年09月24日

●オープニング

 トトノカ町で生産された射撃車両『ラ・ペ』はヴェルナー領の中心地であるルーアンにも設置された。
 対トーネードドラゴン用として開発された兵器であり、大型クロスボウ二基を搭載している。使用にあたってはデビル対策としてオーラパワーを付与出来る騎士が不可欠だが、もしもに備えて銀の鏃製のボルトも用意されていた。
 熟練のウィザードを大勢揃えられるのならそれに越した事はないが、ヴェルナー領のすべての町に配置するのは空論といえる。
 牽制の意味も含めてラ・ペの対空攻撃性能は必要であった。
 各地にラ・ペの設計図は配布され、トトノカ町以外でも組み立てが始まっていた。


 トトノカ町での開発に手を貸したエルフの老翁テギュリア・ボールトンは、ルーアンのヴェルナー城の一室に戻る。
 デビル・アガリアレプトとの繋がりがある人物であり、独特の考えを持つ。
「わしがあやつの秘密を持っているというが、大したものではないぞ」
 テギュリアのいうあやつとはアガリアレプトの事だ。石化から復活した元ブラーヴの騎士六人の説得も続いていたが、のらりくらりとした答えしか返って来ない。
 ある時、テギュリアは古き小さき教会を訪れたいと言い出す。
 古き小さき教会はルーアン近郊にある。天使・プリンシュパリティ降臨の伝説が残る教会であり、実際にラルフ領主も接触していた。
 テギュリアの願いを聞いたラルフ領主は、城の兵士の他に冒険者にも護衛を頼む事にする。
 テギュリアが古き小さき教会の滞在を願ったのかは不可解であったが、それがアガリアレプトとの秘密と繋がるのであれば試すべきだとラルフ領主は考える。
 数日後、ヴェルナー領からの使いの者により、冒険者ギルドに依頼が出されるのであった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ディアルト・ヘレス(ea2181)/ 西中島 導仁(ea2741)/ イフェリア・アイランズ(ea2890)/ 田之上 志乃(ea3044)/ マギー・フランシスカ(ea5985)/ ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)/ テティニス・ネト・アメン(ec0212

●リプレイ本文

●テギュリアの真意
 帆船でセーヌ川を下り、冒険者一行がルーアンに到着したのは二日目の昼頃であった。
 迎えの馬車に乗り込んでヴェルナー城を目指す。冒険者の一部は馬などのペットに騎乗して馬車に同行する。
「おじいちゃん、元気してたぁん! 頑張ってぇ、護衛しちゃうからねぇん」
「おう、頼んだぞ。年寄りにはちときついかも知れんのでな」
 満面の笑みを浮かべたエリー・エル(ea5970)が、エルフの老翁テギュリアに近づいて挨拶をする。
 もう一人、エリーとは反対に冷たい視線を投げかけるフランシア・ド・フルール(ea3047)もテギュリアの側に立つ。
「何故、かの教会への訪問を望まれました?」
 フランシアは前置きもなく強い口調でテギュリアに問うた。周囲の空気に緊張が漂う。
 口には出さなかったがシクル・ザーン(ea2350)もテギュリアの行動に疑問を持っていた。方法を問わず、プリンシュパリティ・ハニエルへの接触を謀ろうとしているのではないかと考えていたからだ。
 二人以外にも疑問を持つ冒険者はいた。
 フランシアとテギュリアは城の一室を借り、人払いをした上でやり取りをする。
 御遣いが現れる聖なる場での不見識な思索は赦せず、納得の叶う答えがなけれは、誰がどういおうとテギュリアの行動を阻止する決意で依頼に望んでいたフランシアであった。
 テギュリアはおもむろに用意してあった手紙をフランシアに託した。自分が死んだ時か、無事にルーアンに戻った後に開封してもらいたいと付け加えて。
 テギュリアは説明する。
 デビル・アガリアレプトは自分がハニエルと接触する事を警戒している。ブラーヴ騎士団のデビノマニ・デュールも同様である。
 それを利用してデュールをおびき寄せ、冒険者達に追いつめてもらうのが今回の狙いだという。
「ささいな秘密じゃが、人は正しければ信じる訳ではない。自らが信じたいものや、相手を認めた時に信じるもの。故に正しかろうと間違っていようと、わしの言葉はぬしには届かん。そうじゃろ? 問いつめられる毎日にも飽きた。わしの言葉を補完してくれる者こそデュールなのじゃ。その手紙の中に書かれた言葉、デュールの口から吐きださせる事こそが狙い。天使に喧嘩を売るような真似はせん。する素振りがあったのなら魔法なりでわしを討てばよい」
 今日のテギュリアは酒も呑まずにしらふである。すべてに納得がいった訳ではないが、フランシアは状況を見守る事にした。
 ルーアンから古き小さき教会まで馬車で二時間程度である。合流した一行はその日のうちに到着した。
「何というか、ここを訪れたのは少し前のはずなのに、懐かしい気がするのは俺だけだろうか‥」
 李風龍(ea5808)は教会の建物を見上げる。
 古き小さき教会は大きく分けて二つの建物からなっている。教会そのものと併設されている霊廟の建物だ。
「俺もそうだ。まだ1年経ってもいないが‥この場所での防衛戦も久しい。それはそうと、こいつは教会内に設置してくれ」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)はデビル感知に威力を発する白光の水晶球を李風龍に預ける。龍晶球は駐在の兵士長に貸した。そして自らはペガサス・アイギスで空からの状況を探りに飛んだ。
「グリフォンをお借りします。特に周囲に障害物のない教会ですから、空からの警戒を強くした方がよいでしょう」
 シクルは城の兵士が連れてきたうちのグリフォン一頭を借り受けた。
 ディグニス・ヘリオドール(eb0828)もグリフォンを借りる。トーネードドラゴンの警戒を考えれば優先すべき選択である。
「ここまで出張ってくるということは、ここに何かキーがあるということかのぅ?」
 ディグニスはテギュリアが教会まで何かを確認しにきたと想像する。
 フランシアがテギュリアから手紙を預かった事実は仲間全員が知っている。
「野盗か、ブラーヴ騎士団か。どちらにせよ、地上の敵の殲滅は任せろ」
 氷雨絃也(ea4481)は兵士達と古き小さき教会を守る覚悟であった。Tドラゴンについては仲間に任せるつもりだ。
「あの老人と教会とは少々意外な組み合わせだな。だが、それだけに何かが起きるきっかけになるかもしれない」
 すでにヒポグリフ・ミストラルで空からの監視を行っていたデュランダル・アウローラ(ea8820)は、眼下の教会に入ってゆくテギュリアを眺めて呟いた。
 乱雪華(eb5818)のグリフォン・ヤーマオに同乗していたリアナ・レジーネス(eb1421)もテギュリアと共に教会内へ入ってゆく。フランシアとエリーも一緒だ。
「危険は迫っているようです」
 リアナは時間を見つけてフォーノリッヂで何度も占う。結果、空と地上の両方の警戒が必要だと考えられる未来を垣間見た。占いが終わるとテレスコープを駆使して周囲の警戒にあたるリアナである。
「デビルが出てくるかもしれませんので、よろしければお使い下さい」
 乱雪華は兵士達にデビルスレイヤーを貸しだした。進呈するつもりだったが、遠慮されたので貸すという形に収まる。
 テギュリアは教会内や霊廟の見学をしたり、年老いた司祭から話を聞いて滞在時間を過ごした。
 フランシアはテギュリアから目を離さなかった。エリーはテギュリアにつかず離れずしながら時折質問をする。
 食事時、李風龍は元ブラーヴの騎士六名といくらかの話をした。トトノカ町から帰ってきてからのテギュリアの様子は以前と変わったらしい。
 後にギルドの置き手紙で李風龍は知るのだが、西中島とイフェリアはパリで際だった情報を得る事は出来なかったようだ。

●真実
「何だ? あれがテギュリアが待っていたものなのか?」
 六日目から七日目に渡る雨の降る深夜、上空で輝く何かに氷雨絃也が気がつく。すぐに古き小さき教会にいる全員が知る所となる。
 多くの篝火が教会周辺では焚かれていた。冒険者や兵士は戦闘の体制を整える。
「ハニエル殿ではないな。あれは‥‥」
 教会の窓から目を凝らした李風龍が呟いた通り、光の正体はプリンシュパリティ・ハニエルではなかった。天使の姿に化け、ダズリングアーマーの光を纏ったイペスだ。
「あれは伝説の天使ではない。邪なるデビルだ!」
 ナノックが何も知らない兵士達が惑わされないように真実を叫んだ。
 古き小さき教会には天使が降臨するという逸話がある。それを茶化しているとしか思えないイペスの行動に誰もが憤慨した。
「テギュリアに伝えよ。アガリアレプト様は『さらば、友よ』と仰っていた」
 かんに障る笑い声の後、イペスは語って飛び去ってゆく。
 ナノック、乱雪華、ディグニス、シクル、デュランダルは飛翔可能なペットに跨って追いかけようとするが、イペスとすれ違う集団に阻まれる。グリフォンを駆るブラーヴ騎士団である。
「邪魔をするな! 冒険者よ!」
 デュールの声が雨の降る夜に空しく放たれた。ブラーヴ騎士団はデュールを含めてわずか八名のみだ。
 城の兵士のうち二名がグリフォンに騎乗して、空で戦う冒険者達の加勢をしてくれる。
 真夜中の、しかも雨が降りしきる上空では、頼れる灯りは存在しない。雨雲より高く飛べば星明かりや月光があるかも知れないが、ブラーヴ騎士団の目的は地上の教会内にいるテギュリアだ。ブラーヴ騎士団のグリフォンを追いかけた結果ならともかく、自ら高く飛ぶわけにはいかなかった。
 夜目、魔法使う時のわずかな発光などを頼りに敵の存在を確認しては空の冒険者達は戦う。地上のリアナが放ってくれる雷光魔法の輝きも役立った。ただ、夜空を漂うブラーヴの騎士を確認出来ないので魔法を当てるのは叶わない。
 視認が難しい深夜という時間、そして警戒が緩むという雨という気象はデュールの作戦の一部である。どのような手を使おうともテギュリアを亡き者にしようというデュールの覚悟の表れだ。
 地上でも戦いは始まっていた。
 オーガ族の集団が教会目がけて近づいてくる。篝火は遠くにも配置してあったので、比較的早めに確認出来たのが幸いした。
「この剣の露と消えろ!」
 氷雨絃也と兵士達がオーガ族の侵攻と激突する。暗闇に火花、篝火に照らされて血飛沫が散らばる。
「もしかするとトーネードドラゴンに憑依する為に‥‥」
 リアナはイペスの行動に疑問を感じ、古き小さき教会の屋根の上でウインドレスの魔法を施した。直径百メートルの球の中に教会と霊廟の建物はすっぽりと包まれる。これによってもしもTドラゴンが現れたとしても被害をかなり抑えられるはずだ。
 問題は風精龍・飛風とスモールホルス・ソルが得意とするウインドスラッシュだが、上空の仲間を支援しているので影響はないと考えたリアナであった。
 ウインドレスの後、リアナは見晴らしのよい屋根の上からオーガ族を雷撃の餌食にしてゆく。
 教会の中ではテギュリアと年老いた司祭を守る為に李風龍、エリー、フランシアが待機していた。
「翁を信じた訳ではありませんが‥‥」
 フランシアはまず出入り口周辺を中心にしてホーリーフィールドを次々と張ってゆく。
「敵が来たのなら声を出してくれ!」
 李風龍は攻撃をすり抜けて教会に辿り着いたオーガ族を一撃の元に叩きのめしてゆく。すでに弱っているので容易い事であった。
 元ブラーヴの騎士六名には他の出入り口部分を守ってもらう。
 グレムリンの襲来にも備え、色水も用意されている。今の所、白光の水晶球の反応もなくてデビルは圏内には入っていない。
「教会の中ならテンプルナイトに任せるのねぇん。セーラ様の加護全開だよぉん」
 エリーは常にテギュリアの近くにいた。移動する場合も考え、ディテクトアンデッドをかけ直し、ホーリーフィールドを教会内に張っておくのも忘れない。補助魔法も可能な限り施しておいた。
「デュール!」
「退け!」
 空中ではナノックとデュールがすれ違い様に刃を交える。
「今、加勢する!」
 デュランダルがブラーヴの騎士一騎を討ち、騎乗するヒポグリフの姿勢を変えた。
「待って下さい! あれは!」
 空中でホーリーフィールドを張って仲間を支援していたシクルが叫んだ。
 雨雲をかき消しながら急落下する物体が月光で闇に浮かび上がる。Tドラゴンであった。
「この状況で!」
 乱雪華が弓を構えて次々と矢を放つがTドラゴンには当たらない。
「やはり追いつきは‥‥あれは!」
 グリフォンの背に伏せながらTドラゴンを追いかけるディグニスは、視線の先に何かを見つけて驚きの表情を浮かべる。
 空中に佇んでいたのは、長槍を持ち、ペガサスに乗って雨に濡れるプリンシュパリティ・ハニエルであった。
 Tドラゴンが大きく翼を広げて速度を落とす。追いついたディグニスは体当たりの要領で巨大な剣を脇腹に突き立てた。続いて乱雪華が操るグリフォン・ヤーマオの爪が首筋を引っ掻く。
「義に劣る振る舞い!! テギュリア・ボールトン、貴様だけは!」
 ナノックとデュランダルが放った渾身の一撃でも怯まず、デュールがグリフォンの手綱を腕に巻きつけて落ちるように滑空してゆく。
 デュールの血飛沫が月光に照らされて軌跡を作り上げるが、それを目撃したのは追いかけたシクルだけであった。
 教会の間近まで近づいたとき、シクルはデュールの肩をミミクリーで伸ばした手で掴んだ。
 バランスを崩したデュールはグリフォンから落馬し、土煙を巻き上げながら地面へと衝突する。シクルはバランスを保つのに精一杯で教会の壁をかすめながら遠ざかった。
 Tドラゴン攻撃にはデュランダルが加勢し、デュールの元にはナノックが急行した。
 ブラーヴ騎士団はすべて倒され、残りはデュールのみとなる。片足だけでデュールは立ち上がり、テギュリアのいる教会へと身体を引きずる。
「退け‥‥」
 ペガサスから降りて立ちふさがったナノックにデュールが呟いた。
 オーガ族の殲滅が終わった氷雨絃也も駆け寄る。
「お前さんともいい加減腐れ縁だな」
 氷雨絃也の言葉にデュールが歯茎を見せてニヤリと笑う。
 杖代わりにしていた剣をデュールが高く持ち上げた。ナノックの槍と氷雨絃也の剣がデュールの胴を串刺しにする。デュールの剣が手から零れて地面に突き刺さる。
「デュールよ。さよならじゃ」
 エリーとフランシアに守られたテギュリアがデュールの目前に現れた。
 真っ赤に染まる震えた手で胸元のナイフを抜いたデュールは投げる。テギュリアには当たらず、ホーリーフィールドに阻まれて弾き返された。
「テギュ‥リア、お前の好きにはさせ‥‥。冒険者‥‥おもしろ‥を教え‥てや‥‥る。マーシーいっせ‥‥にはきを‥‥‥‥」
 デュールは膝を大地につき、動かなくなった。
 流れた大量の血は大地に染み込む事なく、途中で消えてゆく。やがてデュールの身体そのものも消え去った。
 Tドラゴンが飛び去って、すべての勝敗は決する。
「私はエリー・エルと申します」
 エリーが見上げて上空のハニエルに話しかけた。
「敵は強大です。お気をつけなさい」
 エリーに微笑んだ後、ハニエルはテギュリアに振り向く。
 短くも長い時間、テギュリアと見つめ合った後、プリンシュパリティ・ハニエルはペガサスと共に飛び去っていった。

●ルーアン
 戦いの後、もう滞在の時間は大して残されていなかった。傷ついた者の治療を終えるとテギュリア一行は教会を立ち去る。
 エリーは最後に『この世の悲しい人々が救われますように』と祈りを捧げた。
 昼前にはルーアンのヴェルナー城へと帰還する。
 テギュリアとの約束通り、フランシアは手紙の封を開けた。そして書かれてあったのは『マーシー一世』の名であった。
「マーシー一世には注意する事じゃ。わしが知っている秘密といえば、それぐらいしかないのじゃからの」
 テギュリアはそういって酒を呑み始める。敵であるデュールが死の間際に自分と同じ人物の名を出したのだから信用しろといいたいらしい。
 冒険者達はラルフ領主から追加の謝礼金と品を受け取って帰りの帆船へと乗り込んだ。
 八日目の夕方、帆船はパリの船着き場へと入港する。
 その頃、ヴェルナー城は大騒ぎになっていた。誰にも知られずにテギュリアが姿を消したのである。
 発見されないまま、テギュリア捜索は終わるのだった。