●リプレイ本文
●始まり
冒険者は大きく二つの行動に分かれる。
パリに残る者達と、山岳部に向かう者達である。
山岳部に向かう冒険者の中でも、ラルフ黒分隊長との会話を望む者は少なくなかった。残念ながら王宮の衛兵によれば依頼期間の四日目から五日目の間にパリへ戻るようである。その為に初日のみ手伝いの冒険者達にもとっかかりの情報は流れなかった。
衛兵はラルフから預かったとして冒険者達に薬をいくつか渡す。
仕方なくではあるがパリに残る仲間に質問を託し、山岳部調査の冒険者は出発した。馬車やおのおのの移動手段を用いてパリを囲む城壁を潜り抜けてゆく。
こうしてデュールとブラーヴ騎士団の調査は始まった。
●パリ
パリに残って調査をするのはシクル・ザーン(ea2350)とディグニス・ヘリオドール(eb0828)の二人であった。
シクルは山岳部に行くのを迷ったが、ラルフとの会話を選ぶ。日程から考えて両方の選択は無理である。
「ブラーヴ騎士団の繋がりよりは個人の繋がりで調べた方が良いのだろうか」
ディグニスがふと呟いた。
シクルは騎士が多く集まる場所へ出席し、話しをするつもりだ。
ディグニスは貴族の周辺から手繰ってみようと考えていた。
四日目の午後に一緒にラルフとの話し合いの場を持とうと約束をして二人は別れる。とはいえ、三日間に大した進展はなかった。
「お待たせしてしまったようだ。どの様な事を知りたいのだろうか?」
四日目、ラルフが冒険者ギルドの個室に現れた。合わせてシクル、ディグニスの三人での話し合いとなる。
シクルが訊ねたのはブラーヴ騎士団の情報である。するとラルフは持ってきた古びたボロボロの紋章旗を二人に見せた。渡す訳にはいかないが、手元に残った唯一の品がこの旗だという。さっそくシクルは図案を描き写した。
ラルフが隊員の名を思いだしながら呟くが、全員は覚えていない。隊員の風貌についても同じだ。当時の戦闘は激しく、団員の入れ替わりも激しかったせいもある。
ブラーヴ騎士団は二分隊の総勢五十名で構成されていたが、その内のデュールを含む十名までをラルフは覚えていた。もちろんエフォールとデュールを倒すのに手を貸してくれた三名の仲間は別だ。失踪した時点での騎士団員の数は三十名前後だったとラルフは記憶していた。シクルはメモをとった。
少なくともデュールだけは似顔絵を描いておくべきだと、シクルは考えていた。時間はかかるがラルフの証言を元に再現してみる。それなりの似顔絵が出来上がった。完璧といえないのはラルフが曖昧にしか答えられない部分もあったからだ。
続いてディグニスが質問を行う。
隊員についてはシクルが訊いた部分がすべてである。各隊員の出身地まではラルフは覚えていない。当時の資料がまったく残っていないのが悔やまれた。
デュールに近親者はいないようだ。ラルフは天涯孤独だと笑い飛ばしたデュールの姿を覚えていた。
ブラーヴ騎士団の成り立ちについてはわからない。貴族出身者のみで構成されていたのは確かである。
ラルフがブラーヴ騎士団に入隊したのは十七年前。それから二年後にデュールの裏切りが発覚した。つまり一番新しい記憶でも十五年も前の事である。
仲間から託されたラルフへの質問も終わる頃にはもう太陽は沈んでいた。
シクルとディグニスは、得られた情報を元に翌日から最終日までパリを奔走するのであった。
●山岳部
パリを出発した一行は二日目の夕方には山岳部付近に到着した。一晩を仲間で過ごし、三日目から調査行動に移る。
山岳部の冬らしく白く雪で覆われていた。それでも山深く入らない限り、雪に閉ざされる事はない。村や集落付近の道は比較的整理されていた。
「宿を一晩貸して頂けませんでしょうか?」
フランシア・ド・フルール(ea3047)は仲間と別れて一人で村や集落を転々としていた。八日目の朝までに帰りの集合地点に向かうまでは独自行動である。
教義に関係なくランタンを手に教会に宿を求め、事を荒立てないようにあえて質問も少な目にする。デビルと関わりがあるのなら、何らかの不自然が存在して隠し難き歪みも表れるとフランシアは考えていた。
渡り歩きながら、この方ならばと思う司祭にだけ懺悔室で事を訊ねる。この地にいたはずのデュールとブラーヴ騎士団について。
昔の話だけあって曖昧な答えも多かったが、いくつかの情報も手に入れた。つい最近、ブラーヴ騎士団らしき集団が見かけられた証言も含めて。
そのブラーヴ騎士団らしき集団が向かった集落には向かわない方がよいと、泊めてくれた教会の司祭は忠告する。
仲間との連絡方法があれば伝えるところであるが、フランシアには手段がなかった。
「ここか」
氷雨絃也(ea4481)は雪庇に気を付けながら崖を見下ろす。
パリでラルフとは会えなかったものの、この崖については黒分隊執務室に残されていた手紙によって知る事が出来た。この周辺が当時のラルフとデュールが戦った場所である。
今は雪で白く化粧されていたが、岩や大木で入り組んでいる。まるで迷路のように。
崖下はかなり深くて暗かった。崖上から落ちたものを確認するのはまず無理であろう。
氷雨は近くの村に向かった。仲間と近くの村で待ち合わせをしていたのだ。
村の上空にはよく見なければわからない高度で何か鳥のようなものが飛んでいた。李風龍(ea5808)の飛風であろう。
村の入り口近くで仲間は待っていた。
「は〜い♪」
馬車に寄りかかるエリー・エル(ea5970)がやって来た氷雨に笑顔で挨拶をする。
「またぁ、村人が巻き込まれているかも知れないのぉん。抵抗できない子供達もいるんだろうに。許せないねぇん」
軽いテンポで話すエリーだが心の中は違っていた。ある意味で一番怒りを覚えているのがエリーであろう。
「デビルと遭遇する事もあるからな。情報収集は大事だが注意も怠らないようにしよう」
李風龍は愛馬の大風皇と共にいる。
「最悪の場合、村一つが丸ごとデビルの軍門に下っている可能性もあるが、初めから疑って掛かっても仕方ない」
デュランダル・アウローラ(ea8820)はデビルの罠があるのなら飛び込む覚悟を持って調査をしようと考えていた。
「この寒さで辛いのは確かだが、村等での宿泊はしない方がいいと思うが、どうだろうか?」
ナノック・リバーシブル(eb3979)はディグニスとは反対の考えを持っていた。そこで話し合いが行われた。
結果、寝るのは村等から離れた場所で野営となる。外部からのデビルの攻撃で村等に迷惑がかかるかも知れないからだ。
昼間の調査については正面から入り、戦いの心構えを持った上で行う事が決まる。
一人で教会回りをしているフランシアの他に、リアナ・レジーネス(eb1421)と乱雪華(eb5818)は旅芸人として別行動をとっていた。二人とも空を飛ぶ手段はあるので、もしもの時は脱出をして合流するのが約束となっている。
山岳部調査の期限は八日目の朝までである。さっそく開始する冒険者達であった。
山岳部を訪れた冒険者達の調査は順調に進んだ。
それがブラーヴ騎士団だとは断言できないものの、それらしき集団の目撃例はかなりある。紋章旗のデザインを覚えている者もいて拾った木片に描いてくれた。
デュールとブラーヴ騎士団を英雄視している村もあれば、裏切り者と蔑む村もある。評価は真っ二つに分かれていた。
天使に化けたイペスの情報は手に入らない。行動していないのか、巧妙に動いているのか、どちらかであろう。
よそ者については、何名かが住み着いた事はあっても、まとまった人数が加わった事はないという。もっともすべての村等を調べきった訳ではない。この山岳部地域は集落がたくさん点在していた。一つの村や町に形成されないのが不思議だと感じる冒険者もいたが、地域独特の風習のようだ。大家族単位で集落を形成しているパターンが多かった。
「そうです。彼女は空を飛べたのです〜」
空を舞う銀ギツネ姿のリアナをくまのぬいぐるみが解説する。ぬいぐるみを喋らせているはヴェントリラキュイを使った当のリアナであるのだが。
「待ちなさい〜。待って〜」
飛んで逃げる道化師姿の乱雪華は追いかけて、雪の上にこけた。
二人は旅芸人として村人を楽しませ、うち解けてからさりげなく調査をする。
「どこか痛いところはありませんか?」
乱雪華は薬草を用意し、体調の悪い人達を気遣いなから治療も行う。
「最近、村長さんの容態が変わったりしてませんか?」
リアナは子供達にそっと声をかける。変な事が起きていないか、いろいろ訊いた。
「ちょいと話があるんだが」
リアナは村人に声をかけられる。なんでも怪しい集落が一年前に出来たのだと。
たくさんの村や集落同士は大した諍いもなく、互いに足りない部分を補いながら生活をしているのだが、その集落はどことも交流がない。それに奇怪なモンスターを周囲で見かけたとの噂もあった。村人は詳しい集落の場所を教えてくれた。
リアナは乱雪華と相談をする。どうであれ仲間に知らせた方がいいと、二人は空を飛ぶ道具を使って大空に舞い上がる。
仲間が調査している大体の方角は知っていた。目印は上空で監視しているはずの李風龍の風精龍である。
二人は急いで仲間を探すのであった。
七日目の朝方、帰りの集合前に山岳部を訪れている冒険者達は一人残らず合流する。途中で乱雪華がフランシアを見つけた事も幸いであった。
罠である可能性もあるが、全員で怪しい集落へと向かう。フランシアが手に入れたブラーヴ騎士団らしき集団が向かったのも同じ集落である。
デビルが反応する指輪石の中の蝶を持つ冒険者達は注意を払い、ナノックは定期的に白光の水晶球を発動させてみる。
事が起きたのは森が拓け、集落の門が見える場所に足を踏み入れた瞬間であった。
石の中の蝶が反応し、冒険者達は身構える。
「弓矢の攻撃だ!」
李風龍は叫ぶ。集落からたくさんの矢が放たれたのである。
驚きながらも一行は少し下がり、木々の後ろに隠れた。フランシアはホーリーフィールドを張って安全地帯を作り上げる。エリーを始めとして冒険者達は有利になるような魔法を自分や仲間に付与してゆく。
リアナのライトニングサンダーボルトで集落民達の気を削ぎ、回避に優れた乱雪華を先頭にして前衛は斬り込んだ。戦闘に物怖じしないペットを持っている者はそれらに乗って地上や空中から一気に集落内に侵入する。
戦う氷雨は集落民の攻撃に手応えを感じた。本気になった自分の敵には成り得ないが素人ではない。訓練された兵士レベルの力はある。気絶に留めておくが、集団で挑まれた時に手加減は出来なかった。
フランシアは近づく敵にブラックホーリーを放って仲間を支援するが、全体の動きに気を配るのを優先した。伏兵の予感がしていたからだ。
(「なんだ! これは」)
目を閉じながら戦うデュランダルは敵の攻撃に感情を揺らしてしまう。これほどの実力者がいるとは考えていなかったからだ。
デュランダルは一度だけ瞳を開けて敵を確認する。敵がつけていた鎧には小さく紋章が刻まれていた。
「貴様か!」
ナノックは怒りを持って魔剣で斬りつけた。指にはまる石の中の蝶はこれ以上ない程に羽ばたいていた。目の前にいるのは騎士姿ではあったが人ではない。デビルが騎士に化けているのか、もしくはデビノマニ化した元騎士のどちらかであろう。
「なかなか鋭い動きだ。その剣で斬りつけられたのなら、ただでは済まないようだ」
騎士は余裕の言葉を持ってナノックと対峙する。
「飛風は仲間の援護を頼む!」
李風龍はナノックに加勢する。すると敵騎士にも加勢がついた。二対二の攻防が続く。
「みなさん、ご注意を!」
フランシアが叫ぶ。周囲の森に隠れていたグレムリンが集落の上空に現れたのだ。
「なんでなのぉん?!」
エリーは大きく瞳を開けて驚く。グレムリンが狙ったのは冒険者達ではなかった。集落民であったのだ。デスハートンを使って魂を集めたり、止めを刺してゆく。
集落民達は攻撃先を冒険者達からグレムリンに変えるものの歯が立たない。冒険者達もグレムリンに攻撃を移すが、混乱の中では一気に殲滅するのはかなわなかった。
デュランダルが対峙する騎士。ナノックと李風龍が対峙する二人の騎士。計三人の騎士のみがグレムリンに襲われずに冒険者達と戦い続ける。
そして混乱で戦いは終わりを告げた。グレムリンは飛び去り、騎士三人はどこかに消えた。残ったのは冒険者達と、グレムリンに殺された集落民の遺体であった。
エリーは嘆く。姉弟らしき集落民の子供二人の遺体を見つけたからだ。デビルの手先の集落だったとしても子供は親を選べなかっただけなのだから。
「秘密の漏洩を防ぐ為の口封じだな‥‥」
李風龍も悔しさを顔に滲ませた。
それでも冒険者達は情報を手に入れた。
翌日の八日目の朝、馬車に乗りパリへの帰路につくのであった。
●そして
九日目の夕方には全員がギルドに集まった。
ギルドへの報告の前に情報が交換される。
シクルはデュールについての情報を手に入れていた。デュールの似顔絵に似た人物の目撃例があったのだ。問題が一つある。少なくとも十五年前の事なのに似た人物は歳をとっていなかった。見かけられたのは去年の七月から八月にかけての王宮近くである。話してくれたのは主に騎士であった。
似顔絵を見たナノックは語る。自分が戦った石の中の蝶が反応していた敵に似ていると。茶色味がかった金髪にいかつい顔。頬には多数の傷がある男だ。
ブラーヴ騎士団の紋章旗については、デュランダルと戦った敵の装備についていた紋章に似ていた。山岳部で得た情報にも似た証言もある。
ディグニスはブラーヴ騎士団についてを話した。山岳部ではそれらしき集団は見かけられたようだが、パリでは一切情報がなかった。後に捕まったとか、処刑されたなどの噂はあったものの、実際の記録には残っていない。
ディグニスにはそれが怪しく感じられてならなかった。失踪したのが三十名だとして、全員が我慢強く十五年の間に渡って身を潜めるなど考えられない。何名かぐらいは平時になった時、親族に会おうとするのが普通だからだ。
フランシアはある教会の司祭がデュールを名乗る男と接触した証言を仲間に伝えた。デュールを名乗る男は酷い言葉で神への冒涜をしたそうだ。
「これは将来を見据えてなのですが――」
フランシアは自分が所属する黒教義の教会に山岳部への伝道師の派遣を奏上するつもりでいた。イペスが本格的な行動を起こす前に先手を打つつもりである。
冒険者達はギルドへの報告を終え、今回の依頼を終了とした。