潜む敵 〜ノワール〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:11 G 38 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月10日〜02月18日
リプレイ公開日:2009年02月18日
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●オープニング
パリ北西ヴェルナー領ルーアンのサン・アル修道院。
ブランシュ騎士団黒分隊副長エフォール・ヴェルタルの腹違いの妹メリーナ・ヴェルタルは、修道女となったコンスタンス・アフレと日々を過ごしていた。
突然に襲う本物の両親を殺した過去も、コンスタンスと一緒だと和らいでゆく。まだ十三歳のコンスタンスもデビルに貶められた過去を持っていた。
コンスタンスの一言はメリーナにとって何よりの救いである。
「真の狙いはどこに‥‥」
コンスタンスは日々、アガリアレプトの真意がどこにあるかを考えていた。
ノストラダムスを利用した時のような大規模な戦闘でなく、ラルフ黒分隊長やエフォール副長を狙う作戦に変更したアガリアレプト。
安心は禁物だが、ラルフとエフォールに関しては冒険者達の功労によってうち砕かれた感がある。メリーナについても同様だ。
しかし狡猾なアガリアレプトが、これらの者達だけを目標にして仕掛けていたとは考えにくかった。
「次は誰を‥‥いやもしかしてすでにもう毒牙にかかり、堕ちた者もいるのかも知れません」
礼拝所で祈りを捧げ終わったコンスタンスは顔をあげながら呟く。
デビルとの戦いに力を貸すためにウィリアム3世の特赦を受けたコンスタンスだが、決定的に情報が不足していた。
獄中からサン・アル修道院に移されたのは去年暮れの聖夜祭の頃だ。時勢に疎いのは仕方ないといえる。加えて外出は禁止なので、伝聞に頼るしか方法がない。
ある日、サン・アル修道院を訪れた使者が一通の手紙をコンスタンスに届ける。ヴェルナー領の領主でもあるブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーから送られたものだ。
シスター・エミリールと冒険者の同行を条件として短期間ならば外出をしてもよいとの内容であった。
コンスタンスはエミリールに相談し、代理人にパリ冒険者ギルドでの依頼を頼んだ。気になっていたヴェルナー領内にあるイリューア家に向かう為である。
騎士の家系であり、当主の名はイヴァン・イリューア。
領地は特になく、所有しているのはルーアン郊外の町に建つ屋敷のみだ。
ブランシュ騎士団黒分隊への入隊を希望していたが叶わず、現在はヴェルナー城に務めていた。
コンスタンスがイヴァンに目を付けたのには訳がある。
イリューア家の屋敷があるバノリーア町では奇病の発生が噂されていた。実際に確認してみないとわからないが、奇病の正体はデビルにデスハートンで魂を抜かれていると推測される。
そして奇病発生の中心になっているのがイリューア家の屋敷。加えて、ここ二ヶ月程イヴァンは城勤めを休んでいるらしい。
患者の家族がひた隠しにしているせいか、噂はあまり世間に広まっていなかった。たまたまサン・アル修道院のシスターが相談を受けたために知り得た情報である。
(「神よ‥‥」)
コンスタンスは自分の想像が外れている事を祈りながら、日々を過ごすのであった。
●リプレイ本文
●ルーアンへ
「ご武運をお祈りします」
エスリン・マッカレルに見送られながら、冒険者一行はブランシュ騎士団黒分隊から借りた馬車を中心にしてパリを出発した。
道中では特に何事も起こらず、二日目の暮れなずむ頃にルーアンへ到着する。そのままサン・アル修道院を訪れた。
「警備が厳重なのは承知しているが、一度はこの目で確認しないとな」
氷雨絃也(ea4481)は中には入らず、まずはサン・アル修道院の周辺を巡回し始める。
他の冒険者達は教会内の一室に通された。やがてエミリールとコンスタンス、メリーナが現れる。
「わたくしの勘が外れていればよいのですが‥‥」
コンスタンスは依頼書では削られた細かな自分の考えを冒険者達に伝えた。
「イヴァンなる者の事、ラルフ殿ならきっとご存じでしょう。城へ訪問し、詳細を伺ってからバノリーア町に向かうのがよいかと」
フランシア・ド・フルール(ea3047)はコンスタンスに助言する。エミリールにはラルフ卿への面会手続きを要請した。
幸いな事にラルフ卿は現在ヴェルナー城に姿があった。
「もうしばらくこちらでお世話になりますが大丈夫です。もしお兄様に会われる事があれば、メリーナは元気にしていたとお伝え願えますか?」
「エフォール副長にもし会えれば、そう伝言しましょう」
メリーナと面会したシクル・ザーン(ea2350)はほっと胸を撫で下ろす。この前別れたときより元気そうであったからだ。
「コンスタンス殿、町に出かける時の護衛はどうか任せてくれ」
「エミリール様と共に頼りにさせて頂きます。風龍様」
李風龍(ea5808)はコンスタンスに笑顔で話しかける。
「やっぱりぃ、若いっていいわねぇん。お肌の張りが違うなぁん♪」
「きゃあ〜!」
突然、頬を指先で突かれたコンスタンスが悲鳴をあげた。エリー・エル(ea5970)の仕業である。
「す、すまん。なんというか‥‥」
李風龍はコンスタンスの驚いた様子に、つい笑ってしまった。昔、コンスタンスと戦っていた頃に、こんな瞬間が訪れようとは夢にも思わなかった李風龍である。
ラルフ卿との面会の許可をもらう時間が必要なので、冒険者達はサン・アル修道院に一晩泊まらせてもらう。
「もしもには備えるべきだな」
ナノック・リバーシブル(eb3979)は来客用の寝室に白光の水晶球を設置した。発動させられる仲間と順番に使って警戒に努める。
ラルフ卿との面会許可が下り、冒険者一行は翌日の朝にヴェルナー城へと向かった。
領主でもあるラルフ卿は資料を片手にイヴァン・イリューアがどのような人物かを教えてくれる。
年齢二十五歳のイリューア家の若き当主である。ラルフ卿の記憶によれば、とても自信家であったらしい。
今も続く二ヶ月越えの欠勤の前は特に問題は起こしていなかった。唯一あったとすれば、黒分隊への入隊志願をラルフ卿に直訴した時ぐらいだ。その場では答えずに、後に正式な文書によって不許可を通達している。
フランシアの願いを聞き入れたラルフ卿は、イヴァンの詰問許可の書状を文官に用意させてサインと印を施した。
書状を預かった冒険者はさっそくバノリーア町へと出発する。馬車を中心に冒険者達が愛馬などに乗って護衛をしながらの旅路である。
シクルは一足先にセブンリーグブーツで先行した。馬車の御者は氷雨絃也が任される。
「まずは因果関係を突き止めることが第一だな」
ディグニス・ヘリオドール(eb0828)は愛馬で一番先頭を走った。
今回は馬車の護衛は仲間に任せて少々距離をおく。敵の罠があったのなら、少しでも早く察知する為だ。
「ただの流行り病であってくれれば良いが‥‥」
ヒポグリフ・ミストラルで空を駆るデュランダル・アウローラ(ea8820)は町の奇病を気にする。
「特に不審な存在はありませんでした」
「わたしも同じです」
乱雪華(eb5818)とリアナ・レジーネス(eb1421)は馬車を中心に駿馬で広範囲を走って敵を警戒する。
馬車一行がバノリーア町に到着したのは三日目の暮れなずむ頃であった。
●町
先行してバノリーア町に入ったシクルが馬車一行と合流する。ひとまずは様子を見るために宿屋を借りる。
デュランダルだけはまだ町を訪れていなかった。周辺の状況を探ってから、宿屋で仲間達と合流する予定だ。
「姿こそ隠していましたが、間違いなくイリューア家の屋敷はデビルの根城となっています」
シクルはデビル探知の指輪『龍晶球』をナノックに返すと報告を始める。
龍晶球を発動させてイリューア家の屋敷を囲む塀沿いに一周してみた所、反応が止まなかった。敷地の広さから考えると複数のデビルが潜伏している可能性がある。『霊刀「ホムラ」+1』に付加されるレミエラで短距離のデビルをサーチした反応からしても、二桁の敵が隠れていても不思議ではない。
一同が暖炉の前にいたコンスタンスに注目する。
「龍晶球などの特別な魔法道具での探知が必要とはいえ、ここまであからさまな状況だとは考えもしませんでした‥‥」
コンスタンスは燃えさかる暖炉の中をじっと見つめる。
「奪った魂を上位のデビル、例えばアガリアレプトに献上するならば一個所に貯め込んでいてもおかしくはないな」
「魂を主に叛きし愚かなる者ども自らが消費しているのなら、それらは倒さねば取り返せません」
ナノックとフランシアは顔を見合わせる。
「体調を崩している町の人達がどの程度いるのかも気になります。まずは把握しないと」
「賛成だ。奇病に関係する者達はイリューア家に弱みを握られているのかも知れないが、根気よく説得を試みるべきだ」
シクルとディグニスは奇病の広がり具合を気にしていた。それは同時にデビルの活動状況を知る意味もある。
「俺は特にエミリール殿とコンスタンス殿から離れないで護衛をしよう。鷹の蒼風と指輪のオーラテレパスでやり取りをすれば、空からの警戒にも対処出来るはずだ」
李風龍は窓近くの壁に寄りかかって隙間から外を覗く。
「私もお二人について行きます」
乱雪華は鳴弦の弓を握りしめる。
「俺もそうだ。いつデビルが襲ってくるかわからないからな」
「よろしくお願いします」
目が合ったエミリールに氷雨絃也は頷いた。
「何かぁシスター二人を護衛するのってぇ、テンプルナイトっぽいよねぇん」
エリーもコンスタンスとエミリールの護衛につく。
「私はなるべくデビルには気づかれないように奇病の家族を把握をします」
リアナはスクロールのリシーブメモリーを活用するつもりでいた。
「作戦の細かな所は後で煮詰めます。その前にさらなる細かな情報を集めましょう」
コンスタンスの一言で話し合いは終わる。
そして宵の口からバノリーア町での調査が開始された。
●デビル
雨の降る五日目の昼頃、教会の鐘の音がバノリーア町に響き渡る。
コンスタンスとエミリール、そしてフランシア、李風龍、エリー、氷雨絃也、乱雪華はイリューア家の門を潜り抜けた。
「特にお越し頂く必要はなかった。体調を崩していたのは事実だが、もう大丈夫。心配には及ばない」
応接の間に通された一行はイヴァン・イリューアと面会する。イヴァンはラルフ卿のサインと印が記された書状を読み終える。
「ラルフ卿直々の書状ではないにしろ、これまで休みの理由を質す手紙が何度も送られてきてたはず。それを無視なさったのは何故でしょう?」
「それはとても不思議な事。病に伏している際に口述をしてもらい、家の執事に頼んで返事を送らせた。何か途中でトラブルでもあったのかも知れないが――」
コンスタンスの質問にイヴァンは白々しい答えを連ねた。
ため息をついたコンスタンスが隣りに座るエミリールに視線を移し、そして李風龍の顔を仰ぎ見る。
コンスタンスが頷いた次の瞬間、李風龍は『大錫杖「昇竜」+1』をイヴァンのみぞおちに突き立てた。椅子ごと吹き飛び、イヴァンが床へと転がる。
氷雨絃也は邪魔をする屋敷の使用人達をすり抜けて別室に駆け込んでいった。
コンスタンスとエミリールはテーブルから下がるとフランシアが瞬時に張ったホーリーフィールド内に飛び込んだ。
デビルを減退させる竪琴の音色は乱雪華がかき鳴らしていた。
敵が次々と正体を現す。使用人達はグレムリン、イヴァンもネルガルへと変貌してゆく。
「憑依ではなく、最初から偽者?」
ホーリーを唱えたエリーが白く輝いた。そしてネルガルに聖なる衝撃を与える。
「本物は確保した!」
「今、俺も行く!」
別室から氷雨絃也の声が聞こえ、李風龍が応援に向かう。
氷雨絃也は不自然ではない呼吸をしている者の大まかな位置を屋敷へ入る前にリアナから教えてもらっていたのである。
「貴様等!」
ネルガルは瞬時にファイヤーウォールを唱えて来訪者との間に炎の壁を作り上げた。そして窓を突き破るようにして翼を広げて空へと飛び立つ。部屋は三階であった。
「造作もない。しかし、この場所がばれるとは‥‥ん?」
逃げ切れたと笑うネルガルに大きな影が覆い被さる。ヒポグリフ・ミストラルに乗ったデュランダルである。
光点が胸に輝くデュランダルは勢いのまま、『テンペスト+2オールスレイヤー』を振り切る。深い傷を負ったネルガルが体液をまき散らしながら、地面へと落下してゆく。
地面を這いずるネルガルの背中にデュランダルは剣を突き立てて止めを刺す。そして地上から屋敷を見上げる。
昼間だというのに雨雲のせいで景色は暗かった。雨が降る中で煙が立ちのぼり、窓から炎が噴きでていた。
屋敷がデビルの巣窟だとわかって仲間達はあえて訪問した。イヴァンの生死を確かめる為、そして町中にいるデビル共を呼び寄せる為だ。
屋敷内の仲間達はデビル共と戦っているに違いなかった。
「来たか‥‥」
デュランダルは後方の空へと振り返る。町に散らばっていたデビル共がイリューアの屋敷へと集まろうとしていた。
敵の動きに合わせて屋敷周辺に待機していた仲間達も動き始める。
「中には入れさせません!」
シクルはミミクリーで手を伸ばし、屋敷の敷地内へと戻ろうとするデビルに一撃を加えた。大抵のデビルは矛先をシクルに向けて、屋敷に向かうのは忘れてしまう。
地上スレスレを飛ぶようになったデビルを仕留めてゆくのがディグニスとリアナの役目である。
「今のうちです!」
スクロールのアグラベイションをリアナが読み上げると何体かのデビルの動きが鈍くなる。
「狙うのならこの拙者を狙え!」
ディグニスはデビルを挑発し、わざと攻撃を受けきりながら反撃を加えてゆく。
深い傷を負って空へ逃げようとするデビルには、リアナがライトニングサンダーボルトで仕留めた。
その頃、ナノックはペガサス・アイギスに乗って窓の戸を突き破って屋敷内に突入した。絨毯が敷かれた廊下をそのまま駆けて仲間達を探す。
「邪魔だ!」
前傾姿勢のナノックが『クロスブレード+1デビルスレイヤー』でグレムリンを払う。やがて煙の向こう側にイヴァンを抱えた氷雨絃也を発見する。
「アイギス、デビルとの戦いに勝つ為にもこのイヴァンをラルフ氏の元に連れていかなければならない」
ナノックはペガサスを納得させた上で、気絶したままのイヴァンを背中に乗せた。そして氷雨絃也が開けてくれた窓から雨降る空へと飛び立つ。
「これで思う存分戦えるな。獲られた人々の魂、返してもらおうか」
氷雨絃也は『聖者の剣+1』を抜き、廊下の天井に貼りつくエフィアルテスと対峙する。
「あったよぉ!」
エリーが発見した使用人二名の導きで、人の魂である白き玉を屋敷内の一室で発見した。デビルを倒した跡に残る白き玉と一緒に屋敷の外へと運びだす。
全員が煙の充満する屋敷から脱出に成功した。
エミリールは氷雨絃也が貸してくれた聖なる釘を地面へと打ちつけて、フランシアのホーリーフィールドと共に安全地帯を確保する。ペガサスを駆って戻ってきたナノックはイヴァンをエミリールに任せて戦いに赴く。
コンスタンスもまたホーリーフィールドを周囲に張ってデビルの動きを妨害した。
かつてウィザードであったコンスタンスだが今はクレリックである。火の精霊魔法も唱えられるが、過去への戒めとして封印していた。
燃えさかる屋敷の近くで攻防が続く。最初イヴァンに化けていたネルガルとは別の一体がグレムリンの群れやエフィアルテスを統率する。
一部のデビルが黒き瘴気をまとって戦いを挑んできたものの、冒険者達の敵ではなかった。
雨が急激に強まり、やがて屋敷が鎮火する。
その頃には冒険者達の手によってデビルは殲滅されていた。
●そして
デビルとの戦いが終わって残ったものはいくつかある。
三分の二ほど燃え残った屋敷。デビルに加担していたイヴァン。かろうじて生き残った使用人二名。そして屋敷内で発見された大量の白き玉である。この中にはデビルを倒して得た白き玉も含まれていた。
一行は奇病にかかった患者を抱えるすべての家庭を回った。そして一つずつ白き玉を患者の口元に近づけてゆく。本人の魂であれば形を変えながら吸い込まれて、元気を取り戻せる。使用人二名の白き玉も見つかって元通りになった。
残念ながらイヴァンと生き残った使用人二名以外の屋敷の者達はかなり以前にデビルによって殺されていた。
「ラルフが悪いのさ。人を見る目のない奴が上だと下が腐るってもんよ。だから、デビルを手伝ってやったんだ。‥‥なんだよ、その目は。俺が悪いっていうのかよ」
気絶から目を覚ましたイヴァンは反省がない態度を続けた。その姿を悲しそうな瞳でコンスタンスが見つめていた。
六日目の昼過ぎ、一行はバノリーア町を去った。宵の口にはルーアンに到着する。
まずは城でイヴァンの身柄を引き渡した。
非常に短い時間ながらラルフ卿が一行と面会する。感謝の言葉とレミエラが贈られた。
深夜にサン・アル修道院へと戻り、冒険者達はもう一晩泊まらせてもらう。
翌朝の七日目、コンスタンスとエミリールが冒険者達に追加の報酬を手渡す。
「ルーアンに近いバノリーア町があのような状況になっているなんて‥‥。今一度、ルーアン周辺の警戒をラルフ様にお願いしたいと考えています」
コンスタンスの最後の言葉が冒険者達の印象に残った。
冒険者達は馬車を中心にして帰路につく。八日目の暮れなずむ頃には無事にパリへと到着した。