霧の中で 〜ノワール〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:21 G 72 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月16日〜05月31日

リプレイ公開日:2009年05月25日

●オープニング

 ヴェルナー領中央の丘陵地で発見されたヘルズゲートはアガリアレプトが支配する地獄の階層へと繋がっていた。
 ラルフ・ヴェルナー卿はブランシュ騎士団黒分隊とヴェルナー領の兵士から選抜したアガリアレプト討伐隊を編成。ノルマン側をエフォール副長に任せ、自らは地獄側の陣頭指揮をとる。
 ヘルズゲートを死守するのはもちろんだが、このままでは埒があかなかった。アガリアレプトの居城へと攻め込む準備を整える為に様々な手を打ち始める。
 その中の一つがフミッシュの登用である。彼女は本来ヴェルナー領で文献調査を行う役職に就いていたが、ブランシュ鉱床の発見に寄与してくれた事もあってラルフ卿の中での評価は高かった。それ故にアガリアレプト階層の地図作成を指揮する責任者として呼び寄せたのである。
 地獄に建てられた急拵えの建物内でラルフ卿とフミッシュは面会する。
「フミッシュ、若い女性のあなたをこんな戦場に駆りだしてすまない。だがどうしてもその才能と勘を借りたいのだ。現在、パリで護衛をしてくれる頼もしい冒険者を募集している。これまでの攻略に手を貸してくれた有能な冒険者参加を優先しているので心配しないでおくれ」
「は、はい‥‥。あ、あの‥‥護衛はわかりましたが、わたし一人で地図を?」
「それも手配している。まだ到着していないが地図作成に慣れた者を十名預けよう。護衛の冒険者が到着する頃には全員が集まっているはずだ」
「わ、わかりました」
 フミッシュはラルフ卿との話しを終えて別室に移る。窓の戸をわずかに持ち上げて外を眺めようとしても霧でほとんど何も見えない。
「霧が晴れないなら、目では確認できないよね‥‥」
 フミッシュは目に頼らずに地図を作る方法を探る。そしてブレスセンサーとバイブレーションセンサーを併用して地形の起伏を知ろうと考えついた。
 魔法は得意ではないフミッシュだが、文献調査を主にしていただけあって精霊碑文学には通じている。スクロールさえあればどちらの魔法も活用出来るはずである。
 さっそくラルフ卿に相談してスクロールの手配をしてもらう。さらに部下となる十名が精霊碑文学に明るいかの確認をとる。全員が使える必要はないが念の為だ。
 数日後、部下になる十名が到着する。後は護衛の冒険者の来訪を待つのみとなった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ネフティス・ネト・アメン(ea2834)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

●アガリアレプト階層
 晴天のパリ。
 ブランシュ騎士団黒分隊から一両の馬車を借りた冒険者一行は、パリを出発して一路ヴェルナー領の中心地を目指す。
 二日目の夕方には到着してエフォール副長と挨拶を交わした。すぐに地下のヘルズゲートを潜り抜け、アガリアレプト討伐隊が待つ地獄の階層を訪れる。そこでは陣が敷かれ、多数の兵が警戒を行っていた。
「相変わらずな景色だな」
 李風龍(ea5808)は一瞬立ち止まり、真っ赤に染まる霧が立ちこめた景色を眺める。
 冒険者一行は出来たばかりの建物内に入ってラルフ黒分隊長と面会する。
「よく来てくれた。依頼書にもあったと思うが、今回はこちらのフミッシュが率いる地図作成班の護衛をお願いしたい」
「よ、よろしくお願いします」
 ラルフ黒分隊長が緊張気味の班長フミッシュ嬢を紹介した。
 まずは測量の仕方がフミッシュから説明される。
 常に霧に覆われているこのアガリアレプト階層では目視による計測は不可能に近かった。稀に晴れる時もあるのだが、それを待っていては仕事にならない。そこでブレスセンサーとバイブレーションセンサーのスクロールの出番となる。
 周囲に配置する部下の呼吸と振動を正確に把握すれば、周囲の地面の起伏を知る事が出来るだろうとフミッシュは考えたのだ。
(「地形を把握しているのとしていないのとでは天と地ほど異なるからのぅ。‥‥といってもここは地獄なのだが」)
 ディグニス・ヘリオドール(eb0828)はフミッシュの説明を聞きながら心の中で呟いた。
「フミッシュさんと地図職人十名、テギュリア翁も参加されるのですよね?」
 シクル・ザーン(ea2350)の質問にフミッシュがそうですと答える。
「アビゴールだけでなく‥‥エドガも復活か。大きな障害になるな。心してかからないと」
「この間の奴らのあの余裕、訳がありそうだ。今回の調査でそれが判れば良いのだが」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)とナノック・リバーシブル(eb3979)は壁沿いに立って小声で話す。
「ちょっといいかい? ここの霧なんだが‥‥地上のと同じか? 毒とか混じってねぇだろな」
「どうやら平気なようです。ただ、地獄のどの場所の霧も同じかといわれると断言は出来ないっていわれましたけど――」
 フミッシュはテギュリアから聞いた情報をシャルウィード・ハミルトン(eb5413)に伝える。クレリックのコンスタンスとエミリールは同席していたが、エルフの老翁テギュリアの姿はなかった。
「この危地へ赴かれた事。戦う者に非ざる身で、己の責務を果たさんが為によく――」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)はフミッシュとこの場にはいない地図作成班の十名の勇気を讃えた。みんなも喜ぶとフミッシュは恐縮する。
「うぅん、次はぁ、才女かぁん。ヒロインの座は渡さないよぉん。ところでねぇん――」
 エリー・エル(ea5970)はフミッシュに笑顔で話しかけ、テギュリアがこの場にいない理由を訊ねる。どうやら深い意味はなく、酒の呑みすぎで二日酔いのようだ。
「私もブレスセンサーを使えますが、こちらは地図作成に関わる全員の状況を把握するのに使います」
 リアナ・レジーネス(eb1421)は自分の役目をフミッシュに伝えておいた。
「測量はどのくらいで移動するのでしょうか? ナノックさんが貸してくれる白光の水晶球をデビル探索に活用したいのですが」
 乱雪華(eb5818)は測量作業の具体的な内容をフミッシュから教えてもらう。一個所ごとにそれなりに時間はかかるようなので活用出来そうな気配である。他にもシクルが聖なる釘で結界を作るようだ。
(「コンスタンス殿の身に何かが?」)
 フランシアはパリ出発前、ネフティスに未来見してもらった結果を思いだす。唯一疑問が残った情景はコンスタンスらしき少女が眉をひそめた瞬間だったらしい。
 地図作成と妨害の指定を含めた未来見による結果だ。本人とエミリールも含めてすでに仲間へは伝えてある。
 調査は明朝からと決まる。しばらくフミッシュと話した後で冒険者達は用意された一室で就寝するのだった。

●測量
 予定通り三日目の早朝から地図作りは始まる。
 アガリアレプト討伐隊の駐屯地を中心とした一キロ程度はすでに調べられていた。だが肝心な湖までの約二十キロが判明していない。
 人の側で湖を最初に発見したのはシャルウィードであり、その後も何名かが到達していたものの、土地を理解するまでには至っていなかった。
「すみません。そこを登っていただけますか?」
 フミッシュは霧で見えない状況の中、部下に指示を出す。
 渓谷というには大げさだが、十メートル程度の段差はそこら中で見かけられる。霧で視界を奪われた上で足を踏み外せば大怪我するのは必至だ。
 複雑な地形というのはそれだけ敵が潜みやすい状況ともいえる。魔法やアイテムなどでデビル探知の方法が確立されているとはいえ、この地は地獄の階層である。何があってもおかしくないと誰もが慎重だった。
 測量は主に二つの班に分かれて行われた。
 フミッシュ班は当人を含めて部下五名と、デュランダル、シクル、李風龍、リアナ、エミリールの計十一名。
 テギュリア班は本人と地図作成班の五名、そしてナノック、エリー、シャルウィード、フランシア、ディグニス、コンスタンスの計十二名。
 フミッシュ班が測定拠点として一個所に留まり、テギュリア班に指示を出して測量してゆくのが基本となった。
 フミッシュ班は一個所にまとまっているので護衛するのは比較的簡単である。
 危険なのはテギュリア班だ。地図作成班の五名はバラバラに行動しなくては意味がない。そこで一人につき冒険者が一人が一緒に行動する事となった。
 テギュリアは地図作成というより周辺調査が主だ。護衛はエリーの役目である。
 戦うにしろ、守るにしろ、一時的に護衛対象者を守れさえすればなんとかなる。何故なら、どの地点であっても百メートル以内に仲間達がいるからだ。
 測量は順調に続く。夜になる前に出来る限り駐屯地へと戻る日々を送った。
「何かあったか?」
「いや、今の所平気だ」
 ヒポグリフ・ミストラルに乗るデュランダルが、グリフォンで警戒する討伐隊と挨拶を交わす。稀にデビルの反応はあるのだが、戦闘になるまでには至っていなかった。
「どうか致しましたか?」
 フランシアは眉をひそめて立ちすくむコンスタンスに声をかけた。
「テレパシーが‥‥、これはエドガ・アーレンス?!」
 呟くようにコンスタンスが語る。
 フランシアは測量に携わる全員に呼びかけてコンスタンスの周囲へと集めた。
「超越のテレパシーじゃと届く範囲は十キロ。今、コンスタンスに届いているのがそうとは限らんが、そうだったとすれば奴は近くにはおらん。だからといって他のデビルが潜んでいないとも限らんがな」
「おじいちゃん、すごい物知りだよぉん♪」
 エリーと腕を組んでいるテギュリアが珍しく自ら協力的な行動をとった。
「後でエドガが何を話したのか教えてくれればよい。それではな」
 ディグニスは指に石の中の蝶をはめているのを確認してコンスタンスから離れた位置に待機する。
「俺は空から見張ろう」
 ナノックはペガサス・アイギスで仲間の上空で浮かんだ。
「これから頭の中に届いたエドガからの言葉を順次わたくしが喋りますので」
 コンスタンスは目を瞑り、そしてゆっくりと話し始める。
「こうしてテレパシーという面倒な手段をとったのは、ゆっくりと伝えたいことがあるからなのだが‥‥余談に過ぎんな。ではコンスタンス、さっそく本題に入ろう。アガリアレプト様に従う我々は、今お前達がいる周辺を一時的にラルフに預けるつもりだ。理由は簡単。あまりに一方的な戦いでは興味が削がれるからな。当然ながら我々の側――」
 エドガからの伝達は長きに渡る。内容の多くは的を射ないものがほとんどであった。
「これは時間稼ぎでしょうか?」
「どうなのだろう。デビルの反応はないが‥‥」
 近くにいたシクルと李風龍が小さな声で会話する。
 デビル感知のアイテム類に反応はない。少なくても百メートル内にはいないと思われた。
「いえ、たった今反応が」
 白光の水晶球に注目していた乱雪華が声をあげる。
 白球の点滅が始まり、徐々に早まってゆく。デビルが近づいてる証拠であった。
「そろそろお前達も気づいた頃だろう。そちらに向かっているのはアビゴール様だ。テレパシーでのやり取りは性に合わぬと申されてな。地獄におけるアビゴール様の実力を確かめるもよしだが‥‥、狭量でないのならしばし対話の時間を提供されよ。わたしは失礼する。次は戦場で」
 コンスタンスがテレパシーの内容を話し終えた頃、霧が立ちこめる上空に影が浮かんだ。
「わざわざ話しに来るなんざ、デビルってのは余程お喋りらしいぜ」
 シャルウィードは『霊剣「アラハバキ」+1デビルスレイヤー』を抜いた。
(「白球の反応があるなら、あそこにいるはずですが‥‥」)
 リアナはスクロールのインフラビジョンで上空の影を見つめたが、はっきりとした存在を発見する事は叶わなかった。どうやらインフラビジョンでデビルの姿を確認するのは難しいようである。
「この間の戦いでは会えなかったのでな。コンスタンス」
 霧の中から現れたのはヘルホースに跨るアビゴールだった。コンスタンスは口を開けたものの、言葉を発せずにそのまま呑み込んだ。
「もうおじさまとは呼んでくれないのか?」
 嘶くヘルホースをなだめながらアビゴールは語りかけるが、コンスタンスは無言のままだ。
「あの時の言葉は本心ではないと考えておる。エドガもいっていたはずだが、ノルマンでの出来事はすべて不問に付そう」
 冒険者達はアビゴールの戯言を聞きながらコンスタンスの様子を目の端で確かめる。
「‥‥ここでわたくしが泣き叫んで懇願するのを望まれているのですか? それとも鼻で笑い、悪態をつけばよろしいのでしょうか‥‥。悲しみであれ、怒りであれ、もうわたくしはあなた方の言動に心を揺らすことはありません」
 コンスタンスは迷いのない瞳でアビゴールを見つめる。
「みなさん、あの輩は神敵。そしてわたしたち人の敵! どうか征伐を!!」
 コンスタンスがアビゴールを指さす。
 真っ先に攻撃を仕掛けたのはリアナである。ライトニングサンダーボルトの稲妻がアビゴールを貫く。
 続いてはシャルウィードのソニックブームがアビゴールが乗るヘルホースを退かせる。さらに飛びだした李風龍がヘルホースの鼻先を『大錫杖「昇竜」+1』で弾いた。
「どうぞ、こちらへ」
 フランシアを始めとしたクレリック達はホーリーフィールドを張って地図作成班の者達を守った。
 エリーはテギュリアを真っ先にホーリーフィールド内へと案内する。
 鳴弦の弓をかき鳴らしたのは乱雪華だ。
 ディグニスの一撃をアビゴールが盾で受け止める。撤退の頃合いだと考えたのか、アビゴールはヘルホースを操って上昇しようとしていた。
 そのヘルホースの後ろ足をシクルがミミクリーで伸ばした腕で掴む。
「何をするのだ!」
 アビゴールはわざとヘルホースを暴れさせてシクルを振り落とそうとする。
 その間にヒポグリフ・ミストラルに騎乗したデュランダルが『テンペスト+2オールスレイヤー』を握りしめてアビゴールに迫った。
 アビゴールが長槍の柄でデュランダルの攻撃を凌ぐ。そして霧の中から現れたグレムリンの群れにデュランダルは邪魔をされた。
 限界を感じたシクルはヘルホースの足から手を放す。あわやと思われたが、ディグニス、シャルウィード、李風龍が受け止めてくれた。
「トーネードドラゴンはどうしたのだ? この地獄にはいないのか!」
「知らぬわ。あのような外道は!」
 逃げようとするアビゴールとナノックは空中で刃を交える。やがてグレムリンの群れに紛れてアビゴールが去ってゆく。
「‥‥確かに強くなっているようじゃな」
 以前アビゴールと戦った経験がある冒険者はディグニスの呟きに同感する。
 人数で押したおかげでアビゴールを撤退させた感がある。だが同じ一撃を以前のアビゴールに加えたのなら、もっと手応えを感じていたはずだ。
「お、お、おおおおわわわっりま‥したか‥‥?」
 頭を抱えながら地面で丸まっていたフミッシュが恐る恐る顔をあげた。
「もう大丈夫。ご安心を」
 フランシアが優しい声をかけて肩を貸す。
 地図作成に携わる一同は駐屯地へ戻る。そしてラルフ黒分隊長に起きた出来事すべてを報告した。

●湖 そして
「そう、この湖だぜ。霧のせいで見渡せる状態じゃないんで、少し畔を探ったところで前は帰ったんだけどな」
 測量が終わりに差しかかった頃、地図作成の一同は湖の畔に到達していた。
 ひとまず測量を止めて畔を全員で半日歩いてみたものの、全体像が掴めない。移動した距離も一直線に近く、迂回しているようにも感じられなかった。
「この湖があるせいで、奴らは余裕を感じているのだろうか」
 ナノックはペガサスで少しだけ湖の上空を飛んでみるが状況は変わらない。
「湖の中にきっと敵は潜んでおるじゃろ」
「それってアガリアレプトの部下なのぉん?」
 エリーに答えずにテギュリアが黙り込む。
 湖の迂回が可能かどうかまではわからずに終わったものの、地図は完成した。目的は果たしたといえる。
「みなさん、ありがとうございました。わたしはもう少しこちらで地図作りの精査をするつもりです」
 十四日目の朝、帰ろうとする冒険者達をフミッシュが見送る。ラルフ黒分隊長の姿もあった。
 追加の報酬を受け取った冒険者一行はヘルズゲートを抜けてノルマン王国ヴェルナー領の大地に立つ。
 そして行きと同じ馬車を借りてパリへの帰路に就くのだった。