どこかにある島 〜ノワール〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:21 G 72 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月08日〜06月23日

リプレイ公開日:2009年06月17日

●オープニング

 ヴェルナー領中央の丘陵地で発見されたヘルズゲートの先にはアガリアレプトが支配する地獄の階層が広がる。
 ブランシュ騎士団黒分隊とヴェルナー領の兵隊から選抜されたアガリアレプト討伐隊はノルマン王国ヴェルナー領側と地獄アガリアレプト階層側の両方で陣を敷いていた。
 ノルマン側を指揮するのはエフォール副長、地獄側はラルフ黒分隊長である。
 先日、文献調査を得意とするフミッシュ嬢の指揮の元、地獄の地図作成が行われた。霧深いアガリアレプトの階層での作業は困難を極めたが、フミッシュのアイデアと冒険者達の護衛によって見事完遂される。
 地獄側の駐屯地から湖までの約二十一キロメートルの状況は判明した。残った問題は湖だ。。
 かなり広いようでどの程度迂回すればよいのかフミッシュにも見当がつけられなかった。
「グリフォン‥‥しかないな‥‥」
「わたしもそれしかないかと」
 ラルフ黒分隊長とエフォール副長はヘルズゲートのノルマン側近くで相談をする。討伐隊の者も近寄らせずに二人だけの会議である。
 船を用意するならば、ヘルズゲートの大きさを考えると木材を運んで地獄側で建造しなくてはならない。それをしている悠長な時間は残っていなかった。
「問題は辿り着けるかどうか‥‥か。グリフォンの航続時間は四時間が限界のはず。向こう岸に辿り着ければよし、もしくは休める小島などがあればいいのだが」
 ラルフ黒分隊長は口元に手をあてる。
「あの霧では遠くを見通せるはずもなく‥‥。いや、少しお待ちを‥‥」
 エフォール副長は会話を途中で切って何かを考え始めた。
「デビルはそれほど遠くない所で駐屯しているはず。そうでなければ、これだけたくさんの攻撃を仕掛けられないでしょう。そして地獄側の駐屯地から湖の二十一キロに渡る広範囲にはデビル側の駐屯地が存在しない。もしかして敵の駐屯地は湖にあるのでは?」
 エフォール副長は推理をラルフ黒分隊長に伝える。
「なるほど。つまりは湖にはそれだけの島があるはずだと、そういうことだな」
 ラルフ黒分隊長にエフォール副長が頷いた。
「島があるならば、こちらの駐屯地にしてしまえばいい。これでテギュリアのいうアガリアレプトの城に近づける!」
 ラルフ黒分隊長とエフォール副長はさらに作戦内容を煮詰めた。
 まず達成しなければならないのは島の発見である。
 ラルフ黒分隊長は部下に二つの指示を出した。
 一つはグリフォンの頭数増強の手配、そしてもう一つはパリ冒険者ギルドでの募集だ。
 島を発見し急襲するにあたり、これまでに協力してくれた冒険者の力は不可欠であった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

李 雷龍(ea2756)/ ネフティス・ネト・アメン(ea2834)/ クレア・エルスハイマー(ea2884

●リプレイ本文

●地獄
 二日目の宵の口。
 冒険者一行はヴェルナー領側のヘルズゲートを抜けて、地獄階層にあるアガリアレプト討伐隊の駐屯地に立つ。
 夜になれば闇が訪れる。ただ深い霧が晴れる事はなかった。
 一晩が過ぎ去り、冒険者達はラルフ黒分隊長と共に集められたグリフォンを見学する。柵の中で鎖に繋がれたグリフォンに落ち着きはなく、多くが鳴いていた。
「昨晩は眠れただろうか。急遽集めたので、ご覧の通り調教があまり進んでいないグリフォンがほとんどだ。それでも何とかしなければならない」
 ラルフ黒分隊長は冒険者一人一人にグリフォンを借りるかどうかを訊ねる。
「俺にはアイギスがいるので遠慮させてもらおう」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)は少し離れた位置で休んでいるペガサス・アイギスに視線を向ける。
「ミストラルに乗るつもりだ‥‥」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)はヒポグリフ・ミストラルを相棒とする。もしもの為にペガサスも一緒だが、まだ意志疎通が完全にはとれていなかった。
「連れてきたマリーナフカですが――」
 リアナ・レジーネス(eb1421)は十メートルの巨体を持つ若いロック鳥・マリーナフカを連れてきていた。そして仲間達に囮に使いたいと提案する。
 島を発見する時にはあまりに目立ちすぎるので、その後の襲撃時に飛行速度を生かして活躍してもらう事となった。
「私には貸して下さい。どのグリフォンでも乗りこなせると思います。ただ追跡しなければならないので、おとなしいのがいいのですが――」
 シクル・ザーン(ea2350)は騎乗の腕には自信があった。ジャイアント故に体重が気になるものの、装備を必要最低限に抑えれば何とかなるはずである。
「島捜索のときはグリフォンを借りようか。拙者も静かなグリフォンをあてがってもらえるだろうか」
 ディグニス・ヘリオドール(eb0828)もグリフォンを借りる事にする。
「私にはヤーマオがいますので」
 乱雪華(eb5818)には、これまで一緒に危険を潜り抜けてきたグリフォンのヤーマオがいた。
「あたしは黒分隊の誰かに相乗りさせてもらうよ。なに、島まで連れてってくれりゃいいよ。上陸すりゃこっちのもんだからな」
 シャルウィード・ハミルトン(eb5413)は後で同乗の隊員を紹介してもらえるようにラルフ黒分隊長に頼んだ。
「わたくしも湖の移動の際には何方かと相乗りを」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)は島を探すそのものよりも、他の面で役に立とうと考えていた。具体的にはデビル出現記録からの洗い出しである。
「俺もグリフォンに二人乗りさせてもらおう。誰に乗るかわからないがよろしくな」
 李風龍(ea5808)は何頭かのグリフォンに指輪で付与したオーラテレパスで挨拶をする。
「ちょっと乗せてもらえると、助かるよぉん♪」
 エリー・エル(ea5970)は試しに一頭のグリフォンを借りて乗ってみる。無理だと感じたエリーも討伐隊の誰かと相乗りさせてもらう事にした。
「襲撃してきたデビルを追跡して、湖にあると思われる島を探す作戦だ。それまでは休んでいてくれ。とても安らげる環境ではないのは承知だが」
 見張りなどの雑務はすべて討伐隊が引き受けると、ラルフ黒分隊長は冒険者達に告げるのだった。

●準備
 李風龍は李雷龍とクレアから預かった祈紐を仲間達に手渡す。教会などで多くの人に手伝ってもらい、作り上げたものである。
 シクルはいつも必要最低限の装備を心がけた。そして仲間達と一緒にグリフォンの調教に勤しむ。
 エリーはテギュリア翁の護衛を行った。フランシアも一緒にデビルがどの様な手を打ってくるかをテギュリアと相談する。
 地獄の討伐隊駐屯地が襲われた記録から、デビルがどの様な経路を利用したかを予測してゆく。結論としては、やはり広大な湖の何処かにデビルの拠点があるとしか考えられなかった。
 エリーがテギュリアに訊いたところ、湖の水は今のところ毒ではないらしい。かといって非常に遅効性な未知の毒の可能性もあり得る。可能な限り潜水は控えた方がいいとテギュリアはエリーにアドバイスをした。
 パリ出発時のやり取りだが、フランシアの前で見送りのネフティスが未来見をしてくれた。それによれば湖に島がある可能性は非常に高いという。そして島は別の何かではなく、真に島であるようだ。
 デュランダルは哨戒の討伐隊隊員達から話を聞いた。どうやら駐屯地から討伐隊が離れられないように、デビル側は常に小規模な攻撃を仕掛けてきているようだ。
 ディグニスは愛馬で駐屯地の周囲を巡回する。
 リアナはロック鳥のマリーナフカの世話をした。
 ナノックは白光の水晶球が常に発動しているように心がける。その側でシャルウィードは武器の整備を行っていた。
 乱雪華はクレリックのコンスタンスとエミリールの近くで待機する。いざというときには二人にも戦ってもらう事になるだろう。
 地獄での日々は過ぎてゆく。やがて襲撃は起こった。

●グレムリンの急襲
 七日目の夕暮れ時、討伐隊の駐屯地をグレムリンの群れが襲う。
 数こそ多かったが、そこに真剣さは感じられない。時々の襲撃を行う事で、その場に討伐隊を縛りつける意図が見え見えであった。
 冒険者一行は討伐隊とグレムリンの戦いを見守る。
 その中にはラルフ黒分隊長、コンスタンス、エミリールの姿もあった。
 ラルフ黒分隊長は単独でグリフォンに騎乗する。コンスタンスとエミリールはそれぞれに討伐隊の誰かとグリフォンに相乗りさせてもらっていた。
 三十分弱の小競り合いが終わり、グレムリンの群れは撤退を始めた。
 グレムリンを追って島を探索する作戦は討伐隊の隊員にも伝えられてある。撤退しようとするグレムリンの何体かの邪魔をし、わざと立ち往生させた。
 グレムリンの群れを指揮をするネルガルについては、先に撤退するように仕向ける。そしてよさそうなグレムリン一体を選別し、他は倒してしまう。
 わざとらしくならないように、ある程度痛めつけてからグレムリン一体が見逃された。
「それでは行こう」
 ラルフ黒分隊長が手綱を引くとグリフォンを翼を広げる。
「それじゃみんなついて来てねぇん♪ あ、ここからは静かにだよぉん」
 エリーがデティクトアンデットを自らに付与すると、相乗りするグリフォンの騎手の背中から手を回して強く掴まる。
 デティクトアンデットによって離れた位置から追跡する作戦である。今回の場合、視界を遮る深い霧は冒険者一行にとって好都合であった。
 ラルフ黒分隊長とエリーが乗るグリフォン二頭が飛翔して先行する。少し遅れて冒険者全員がそれぞれの騎乗動物で飛び立った。
(「順調のようですね」)
 リアナがブレスセンサーで呼吸を探知してエリーを追跡する。そのリアナを中心にして残りの仲間達は追跡し続けた。
 こうすればグレムリンとの距離をかなり稼げるので発見される可能性が低くなる。もしも追跡中のグレムリンにエリーとラルフ黒分隊長が発見されても倒して作戦をやり直せばよい。問題なのは追跡の事実がデビルを指揮する誰かにばれる事である。
 グレムリンが地上に降りて翼を休めた。良い機会だと冒険者一行も離れた場所に着地して休憩をとる。
 グレムリンに気づいてる様子はなく、数時間後に飛び立つ。ついに湖上空へ到達し、冒険者一行は気を引き締めた。
(「もしや‥‥」)
 ナノックは指輪『石の中の蝶』の羽ばたきに気がつく。距離からして追跡中のグレムリンとは考えられない。
 ナノックはデュランダルとアイコンタクトをとり、仲間達から離れて周辺を探った。そして帰還中の別のグレムリンを発見する。
 騒がれないうちに仕留めて事なきを得る。追跡する対象が二つになるといろいろと面倒になるからだ。それに放置すれば、先行するエリーとラルフ黒分隊長のグリフォン二頭が発見されていたかも知れない。
 湖の畔から三時間が経過した頃、ラルフ黒分隊長は霧に覆われる眼下に大地を見つけた。これまで追いかけてきたグレムリンを一気に仕留めてて着陸する。
 後方の冒険者一行も次々と着地した。
 地上と同じかわからないが、湖にある島は木々に覆われて森のようになっていた。
「湖の向こう岸ってわけじゃなさそうだね。この感じだとさ」
 上空から岸を眺めた印象をシャルウィードが語る。霧のせいで見通せなかったものの、シャルウィードはそう感じ取った。
「俺もそう思う‥‥」
「同じくだ。しかしまるで海みたいな広さだな。この湖は」
 デュランダルと李風龍もシャルウィードの意見に賛成する。
「エドガやアビゴールを含めたに叛きし愚かなる者どもと接触せず、敵の陣営地を発見せしめればよいので?」
 フランシアの問いにラルフ黒分隊長はその通りだと答える。
 無闇に動けばすぐに発見されると考えた一行は、何名かを選抜して探ってもらう事にした。
 ずば抜けた視力を持ち、忍び歩きやクライミングにも精通するシャルウィードが真っ先に選ばれる。森林に詳しいリアナと乱雪華、そして忍び歩きに覚えがあってミミクリーで変幻自在な戦い方が期待できるシクルの四人がデビル拠点の探索に出発した。
 半日後、四人は無事に戻ってくる。
「敵陣営をこの目に焼きつけてきました」
 シクルがデビルの拠点を説明した。デビルの数でいえばアガリアレプト討伐隊と同等だと。
「そこら中にグレムリンやインプがいましたが――」
「ネルガルは見える場所にはいませんでした」
 乱雪華とリアナは拠点の状況を説明する。警戒態勢はとられていたものの、隙だらけだったらしい。
「じっくりと観察してみたらアビゴールがいたぜ。エドガは見当たらなかったな。奴は別の場所か?」
 最後にシャルウィードが細かな情報を仲間達に報告する。
「アビゴールか‥‥」
 李風龍が左の掌を左手で叩く姿を、コンスタンスとエミリールがじっと見つめる。二人にとってもアビゴールは因縁深き敵である。
「やはりここは一旦退いて、準備を整えて叩くべきだと考えるが‥‥」
 ディグニスがラルフ黒分隊長をじっと見つめた。
 しばらく考えたラルフ黒分隊長は決断を下す。当初の予定通りデビルにばれないよう島を一旦引き揚げ、体制を整えてからあらためて占拠しようと。
「それではこっそりといくよぉん♪」
 デティクトアンデットを付与したエリーが隊員の背中に強く掴まる。そしてグリフォンは飛び立った。追跡時よりも気楽に詠唱出来るのが嬉しいエリーである。ちなみに魔力回復のアイテムは討伐隊から支給されていた。
 冒険者一行はヘルズゲートのある討伐隊の駐屯地に帰還する。
 ラルフ黒分隊長はさっそく島を占拠するための部隊編成を行った。駐屯地の守りを確保する為にノルマン側からいくらか応援をもらう。
 冒険者達も湖島の攻撃部隊に組み入れられた。
 攻撃部隊グリフォンが地獄の空を飛行し、一直線に湖の島を目指す。途中で接触したデビルは一匹残らず殲滅していった。それだけの実力を持った者達ばかりだ。
 そして躊躇なく湖島を攻め入る。
「ラルフ! 貴様!!」
「地獄だからといって油断したのが間違いだったな。心強い友が、わたしにはいるのだよ」
 アビゴールとラルフ黒分隊長が地獄の空中で刀と槍を交え、火花を散らす。
 作戦は功を奏し、アビゴール率いるデビル軍は撤退していった。方角はヘルズゲートのある駐屯地と反対。つまりその方角にアガリアレプトの城があると推測された。
「やはりトーネードドラゴンは現れず。半端者とは一体‥‥」
 戦いが終わった島の景色を眺めながらフランシアは呟く。そして気になるのがコンスタンスについてである。
 果たしてエドガとアビゴールは本気でコンスタンスをデビル側に引き込もうとしているのか、それとも、もっと大きな企みを隠す為の撹乱か。フランシアは勝利の中、考えを巡らせるのだった。

●そして
 ラルフ黒分隊長から追加の報酬を受け取った冒険者一行は駐屯地まで戻る。そしてヘルズゲートを抜けてエフォール副長に報告するとパリへの帰路についた。
 十五日目の夕方、パリに到着した冒険者はギルドでも報告を済ませる。そして互いの健闘を称え合い、別れるのであった。