エフォール・ヴェルタル 〜ノワール〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:9 G 99 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月14日〜02月24日

リプレイ公開日:2008年02月23日

●オープニング

 ブランシュ騎士団黒分隊隊長ラルフ・ヴェルナーと副長エフォール・ヴェルタルが14歳の若さであった頃、大きな出来事があった。
 二人はすでに旧王国軍ブラーヴ騎士団に所属し、騎士として神聖ローマ軍からノルマン王国を取り返そうと戦いの日々を送っていた。
 進軍途中、山岳部で偶然デビルの一団と遭遇して交戦状態となる。甚大な被害を受けたブラーヴ騎士団であったが、ラルフとエフォールは生き残った。その際、隊長デュール・クラミルと何名かの団員は行方不明になる。
 怪我をしながらもデュール達は二日後に拠点へと戻ってきた。デビルを追跡していたが、途中で見失ったのだという。
 それからしばらく経ち、ラルフとエフォールはブラーヴ騎士団隊長デュールの企みを偶然に知る。
 デュールと側近の二人がしていた会話を聞いたのである。神聖ローマ軍を誘導してウィリアム3世が隠れている村を襲わせ、討ち取らせようとする裏切りの作戦であった。
 知った時はラルフとエフォールは自分達の耳を疑う。思慮深く、騎士として尊敬していたデュールであったのだから。
 悩んだ末、ラルフとエフォールは団の中で特に親しい三名にのみデュールが旧王国軍を裏切ろうとしている事を教えた。上に進言したとしても一兵卒の戯言とされるのがおちである。若い騎士五名は自分達の胸の中にだけに秘めた。
 デュールが裏切りの作戦を実行しようとした時、エフォールは嘘の伝令役をして味方の騎士団を進軍する神聖ローマ軍の前に晒した。
 晒された騎士団と神聖ローマ軍が戦っている最中、二人と親しい騎士一名が村に向かい、ウィリアム3世に進言する。村には反撃しようにも大した軍備は残っていなかったのである。
 晒された騎士団は壊滅するが、それが時間稼ぎとなってウィリアム3世の身は守られる。
 二人と親しい騎士二名はブラーヴ騎士団の本隊の食事に死なない程度の毒を盛り、混乱に導く。そしてデュールを本隊から引き離した。
 ラルフは単独でデュールに戦いを挑み、なんとか勝利をもぎ取った。
 崖下に落ちたはずのデュールの死体は発見されず、毒で苦しんでいたはずのブラーヴ騎士団二十五名前後は失踪する。
 ブラーヴ騎士団で残されたのはラルフとエフォール、騎士三名のみ。結果としてブラーヴ騎士団は自然消滅となった。
 若い騎士五名の活躍でウィリアム3世の命は救われたものの、騎士にあるまじき行為として旧王国軍内部からも非難される。
 特に味方を犠牲にしたエフォールには非難が集中する。エフォールは作戦前から覚悟を決めていた。当初、ラルフの役目であったのを無理矢理に代わったのも、こうなるのがわかっていたからであった。
 議論はされたものの、ウィリアム3世の一言で数ヶ月の謹慎のみでエフォールの罪は許される。しかしこの事は後に引きずる事となった。
 翌年、ラルフはブランシュ騎士団の一分隊を任されて分隊色を黒、つまりノワールとする。エフォールはラルフの片腕として副長となった。


 ヴェルナー領内にぽつりとエフォール・ヴェルタルの領地は存在した。
 小さな町一つとその周囲の畑を含むわずかな土地である。
 復興戦争後、ラルフは先代の統治していた土地を賜り、それがヴェルナー領となる。領地を持たない貴族であったエフォールに半分を譲ろうとしていたラルフであったが、周囲の猛烈な反対によって断念する。ほんのわずかな土地をエフォールへ譲るのに復興戦争から四年の月日が必要であった。
 その土地に関わる難題が突然にエフォール副長を襲った。

 状況を知ったエフォール副長は冒険者ギルドを訪れた。
 ヴェルタル領の町が危険な状態にあったのだ。
「先日、ブラーヴ騎士団の生き残り達が盗賊崩れの者達を扇動して領地の町を襲った。兵士達が敵を跳ね返したようだが、未だ町は包囲されている。敵は元々持久戦に持ち込むつもりであったらしく、襲撃の際に食料備蓄が狙われて燃やされたようなのだ。きっと町の人々は飢えているに違いない。囲んでいる敵共の陣を突破して食料を届けたいのだ。冒険者の力を貸して欲しい」
 エフォール副長は依頼を出し終えると、急いで食料調達に向かった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

オグマ・リゴネメティス(ec3793)/ 元 馬祖(ec4154)/ 土御門 焔(ec4427

●リプレイ本文

●白い世界
 冒険者十名とエフォール副長率いる黒分隊七名がパリを出発してかなりの時間が経過していた。
 四日目の夜が訪れた時、一同はせわしく動きだす。
 目的地であるヴェルタル領のゴルオ町近くまでは来ていたのだが、今まで突入の機会を窺っていたのである。
 ゴルオ町の周囲を取り囲む盗賊共の数はかなりに上る。
 リアナ・レジーネス(eb1421)と乱雪華(eb5818)による空中偵察によれば、二百人は下らないという。迂闊に立ち入れば集中攻撃を受けるのは必至だ。それにデビルが扇動したのなら、イペスやグレムリンも注意しなければならない。盗賊をそそのかしたとブラーヴ騎士団の関与も疑われている。
 空を徘徊する数匹のグレムリンをリアナと乱雪華は遠方から確認していた。空や地上の隙間を縫ってゴルオ町に潜入するのは不可能に近かった。
 敵陣形の集中突破以外に方法はなく、その為のチャンスは今夜において他にない。
 フランシア・ド・フルール(ea3047)のペットであるフェアリー・ヨハネスの予報によれば、もうすぐ大雪が降りだす。
 雨や雪は降るだけでも人の活動を制限する。心が縛られて動きも鈍るのだろう。
 まして盗賊共は野外である。おのずと気分は落ち込んで隙が出来るはずだ。突破するには絶好の機会である。
「来た‥‥」
 鎚の手入れをしていたディグニス・ヘリオドール(eb0828)は舞い落ちる雪を目にした。
「予報通り、本格的になりそうだな」
 ペガサスのアイギスの世話をしていたナノック・リバーシブル(eb3979)が夜空を見上げる。わずかであった雪が瞬く間に増えていった。
「すごいのねぇん〜。子供なら大喜びするよねぇ〜。‥‥でも、お腹空いていたら楽しくないのねぇん‥‥」
 エリー・エル(ea5970)はペンギンのペンペンと喜ぶが、すぐに沈んだ表情になる。そして眉に力を入れて握り拳を作る。町の子供達に早く食料を届けようと心に決めたのだ。
「雪降る中での騎馬による戦いになりそうだ。エクレイル、俺に力を貸してくれ」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)は愛馬のたてがみを撫でながら声をかける。
「私は馬車から手を伸ばして戦うつもりでいます。どうかよろしくお願いします」
 シクル・ザーン(ea2350)は改めて御者の黒分隊隊員に挨拶をする。
 馬車は後方の荷馬車三両の進路を作るための矛であり盾でもある。騎馬の仲間達が前方で敵を蹴散らしてくれるとはいえ、隊列としては先頭だ。
 一点集中突破をするのなら退く事は出来ない。馬車が停まったらそこで全てが終わりである。責任は重大であった。
「そうか。ならば貸して頂こう」
 氷雨絃也(ea4481)は愛馬二頭を荷馬車に繋げ、代わりに一頭の戦闘馬を借りた。混戦になるので普通の馬では怯える可能性が高いからだ。荷馬車は大型なので牽く馬も多く、普通の二頭が混じっても中央に置けば問題はなさそうであった。
「わたしも騎馬で戦う用意だ。部下達は御者も含めて荷馬車に乗っての戦いになる。よろしく頼む。李殿」
 馬の準備をしていたエフォール副長が、愛馬大風皇に跨る李風龍(ea5808)に声をかけた。
「副長殿、いろいろとあるようだが、この難関も乗り越えなければならない一つのはずだ。力を貸そう」
 李風龍はエフォール副長と手を叩き合う。その様子を焼き石を布にくるんだものを配布していたフランシアが目にする。
「恐らく町の襲撃そのものは手段に過ぎぬでしょう。此度の狙いは恐らく、エフォール殿」
 フランシアは呟く。エフォール副長にはすでに伝えてある。エフォール自身も気づいており、忠告を感謝していた。
 馬車の近くでは乱雪華とリアナは立ち話をする。
「うまくいきませんでした」
 乱雪華が失敗したのは、ダウジングペンジュラムの事だ。そういう時もあるとリアナは乱雪華を慰める。
「土御門はイペスは夜空に、エフォール副長は敵に囲まれ、ブラーヴ騎士団はどこかで休んでいる未来を観たようです」
 リアナは友人が調べた未来予測を話す。
「それは仲間に伝えましょう。私も友人からの情報をいくつか。『黒分隊長は忙しいという理由で町を見捨てるつもりだ』と噂を流している者がパリにいるとオグマから聞きました。元馬祖も敵に通じている者がパリにはいるって、いっていましたし‥‥」
 乱雪華とリアナの情報交換は続くが出発の時間となる。
「それではお願いしますね」
 リアナの言葉に乱雪華が頷いた。
 デビルが現れたのなら乱雪華は鳴弦の弓をかき鳴らす予定である。
 リアナはフライングブルームを掴むと乱雪華と一緒に馬車へと乗り込んだ。

 雪は風に乗って降る。そして大地を覆い、白く染め上げる。
 李風龍、氷雨、エリー、デュランダル、ディグニス、エフォール副長は騎馬で雪を蹴散らす。ナノックはペガサスで低空を駆ける。
 馬車に乗るのは黒分隊隊員の御者、シクル、乱雪華、リアナである。後方の荷馬車は一両につき、黒分隊の御者と護衛の二人に任されている。フランシアは中央の荷馬車へと乗り込んでいた。
 雪降る闇の向こうには灯火が点々とする。盗賊共の焚き火である。
 一団は走りながら陣形を整えると、盗賊共の先にあるゴルオ町に向けて突き進んだ。

●戦闘
「なんか来たぞ? あれは‥‥騎馬と馬車群?」
 雪が降りだして明日の朝には降り積もるだろうと仲間と話していた矢先に、見張りの盗賊は何者かの接近に気がつく。
 合図の鐘が鳴らされ、ある盗賊は馬へと飛び乗る。ある盗賊は弓を手にした。
 明日には包囲中のゴルオ町への侵攻が予定されている。それを前にして小事を起きただけだと、この時の盗賊共は考えていた。
「馬車の一団だとすれば、きっと補給をしに来たのだろう。あの程度の敵、すぐに潰せ! 明日の勝利への生け贄だ!」
 首領が叫び、盗賊共が一気に動きだす。
 盗賊の弓兵共が矢を放とうとした時、突然一人が後ろへと倒れ込んだ。続いて大きな鳥が超低空で掠めるように飛び去ってゆく。
「なんでウイバーンが? ‥‥まあいい。考えるのは後だ。射て!」
 改めて矢が放たれようとした瞬間、闇の中を貫いて稲妻が駆け抜けてくる。弓兵の何名かが衝撃に倒れ込んだ。稲妻に当たらなかった盗賊共も怖じ気づき、ヘナヘナの矢しか飛ばせない。
「何をしてやがる。俺様が片づけてやるから、そこを退け!」
 盗賊共をかき分けて前に出る者がいた。ウィザードである。
 すぐさま詠唱を開始され、ファイヤーボムが放たれる。ゴルオ町を背にしたウィザードの前方は一瞬だけだが昼のように輝いた。
「むっ? もしや‥‥」
 全部は範囲に収まらなかったはずだが、先頭を走る何騎かはボムに巻き込まれたはずである。それなのに向かってくる勢いは鈍っていない。
「奴ら、対抗する魔法を持っているぞ!」
 ウィザードが叫ぶと、首領の額に血管が浮かび上がった。
「小細工はなしだ! 叩きつぶせ!」
 首領の言葉に盗賊共は雄叫びをあげた。
 盗賊共は騎馬を先頭にして近づく馬車の一団へ駆けだす。
「お手伝いしましょう‥‥」
 部下が少なくなった首領の横に突如現れたのはイペスであった。
「我々が信じられないのか? 黙っていてもらおう。それにブラーヴ騎士団はどうした?」
「ブラーヴの者達は別の事を‥‥。それと黙っている訳にはまいりません。上空を制圧しているのはわたし達。そうでなければ、あの者達は簡単にゴルオ町へと向かっていたことでしょう。せっかくデビルと手を組んだのです。利用なさい。わたし達も利用させてもらいます。持ちつ持たれつといきましょう」
 イペスが笑うのを首領は黙って見続けた。
 次第にイペスの回りにはグレムリンが集まり始める。
「行きなさい。グレムリン達よ」
 イペスが命令すると、グレムリンは盗賊共が向かった方角へと一斉に飛び立つのであった。

「敵陣を突破するには電光石火の速さが必要。いざ!」
 ディグニスは愛馬で駆けながら鎚をぐるりと回した。無意味な行動ではない。タイミングを計る為である。
 騎乗の盗賊とのすれ違い様に鎚を振り下ろす。盗賊は仰け反り、持っていた剣が宙に舞った。
 飛んできた剣を李風龍は紙一重で避け、大錫杖を強く握る。
「物資を届けねばならんのだ!」
 向かってくる騎乗の盗賊を大錫杖で仕留めてゆく。殺しはしなかった。今の状況では一時の戦闘能力を奪えばよい。気絶をさせれば事足りる。
「さすがだな。わたしも負けられん」
 李風龍の横で駆けるエフォール副長は刀を振るう。少し離れて騎乗のデュランダルの姿もある。
 デュランダルは李風龍と共にエフォール副長をさりげなく補助していた。エフォール副長の剣技が劣っている訳ではない。敵に狙われているかも知れず、万が一の為だ。
(「敵の最大の狙いは、エフォール副長を狙った黒分隊の切り崩しかも知れない」)
 デュランダルは目を閉じ、手にしたランスを構え、勢いと重量を先端の一点に集中して騎乗の盗賊を弾き飛ばす。飛ばされた肉塊は他の盗賊共を巻き込んでゆく。
「自分たちのために、私利私欲をむさぶるなんてしていいと思っているの! ‥‥あれぇ?」
 エリーは愛馬バウバウに乗り、馬車近くで盗賊の攻撃を退けていた。説得しようとしてもすれ違うのが速くてその暇がない。盗賊共に反転して追いかけられないように速度を出しているせいもある。
 エリーは途中で説得を諦めた。そして町にいるはずの子供達の事を強く思った。聖なる誓いをエリーは子供達に立てていた。
 より奮起したエリーは荷馬車に近づこうとする盗賊共をレイピアで退けてゆく。
 エリーが馬車の右翼なら、反対側の左翼は氷雨が受け持っていた。
「手加減の必要はないな」
 氷雨は荷馬車に近づく盗賊共を容赦なく斬る。肉片が飛び散り、白い雪が赤く染まる。
 敵陣の配置のせいか、特に左翼側には盗賊が多くいた。馬ではなく自らの足で駆けてきた盗賊もたくさんいる。
「ん?」
 氷雨は闇に紛れる黒い影を見つける。
「新手だ! デビルに違いない!」
 氷雨の声は荷馬車に乗るフランシア、馬車の屋根にいる乱雪華とリアナ、馬車の御者台にいるシクルへと届いた。
「やはり来ましたか」
 シクルは御者台に立ち、ミミクリーを使って腕を伸ばす。大きく振りかぶるとグレムリンを剣で斬り落とした。
 雪がグレムリンに降り積もり、馬車に取り付けられたランタンのわずかな灯りでも見つけられる。
 シクルの剣が夜空に舞う。馬車の後方の荷馬車の車輪が落下したグレムリンをひいてゆく。
「弱りなさい。この響きで!」
 乱雪華は鳴弦の弓を鳴らし、近づくデビルの弱体化させる。
 馬車の屋根にはリアナの姿もある。いつでも飛び立てるようにフライングブルームは発動させた上で魔法の稲妻を放っていた。
 屋根の上の方がまだフライングブルームよりも安定していたからである。
 初撃のライトニングサンダーボルト、ファイヤーボムの被害を抑えるレジストファイヤーはリアナのおかげである。
 副長からもらったソルフの実をかじって魔力の補給し、リアナは魔法攻撃を続ける。近づいてきたグレムリンには乱雪華の一撃が放たれた。
「やはり絡んでいたか!」
 ペガサスを駆るナノックは上昇と下降の勢いを使って剣を叩き込み、グレムリンを墜落させてゆく。
 想定よりグレムリンの数が多く、次第に荷馬車へグレムリンが取り憑いた。
「主に叛きし愚かなる者どもに、何が出来ましょう」
 フランシアは襲ってくるグレムリンを避ける為にホーリーフィールドを張る。そしてある事に気がつく。
 ホーリーフィールドは展開した空間に出来上がる。走る荷馬車の荷台に作ったからといって、動きに合わせてついて来る訳ではない。移動したらホーリーフィールドは置き去りにされ、荷馬車は範囲から外れるのである。
 この事をホーリーフィールドをよく展開するフランシアは熟知している。だから一瞬でも役に立てばそれでいいと考えていた。
 しかし荷馬車後方に取り憑いたグレムリンが、ホーリーフィールドにぶつかったのを見てフランシアは思いついた。
 直進の場合に限るが、先頭の馬車でホーリーフィールを張れば、後方の荷馬車三両は自動的に潜る事になる。荷馬車に取り憑いたデビルや盗賊がいたら弾き飛ばされるはずだ。
「ナノック殿! お願いが」
 フランシアはペガサスで夜空を駆けるナノックに叫ぶ。今すぐ先頭の馬車に連れて行って欲しいと。
 ナノックの手に掴まり、フランシアは危なげであったが先頭の馬車の屋根に飛び乗った。
 そして御者台のシクルと、平行して飛ぶナノックに説明する。ホーリーフィールドを連続で使えば馬車に取り憑く敵を退けられると。
 フランシアとシクルがタイミングを計りながら定期的にホーリーフィールドを張る。ナノックとペガサスのアイギスも張るのを手伝ってくれた。
 魔力はもらったソルフの実で補給する。
 ホーリーフィールドで出来上がった断続的なトンネルを抜ける事で、敵は荷馬車へと近づけない。
 ついに一団は盗賊の陣を抜けて障害が無くなった。目前にはゴルオ町の外壁門がある。
 リアナがフライングブルームで先乗りして町民達に告げる。エフォール領主が食料を持ってやって来たと。
 町の見張りも騎乗して向かってくるエフォール副長を確認して門が開かれた。騎馬、馬車、荷馬車は滑り込み、門は閉められる。
 ゴルオ町に食料が届けられた瞬間であった。

●そして
 食料が届けられた事と、領主であるエフォールが命がけで駆けつけてくれた事でゴルオの町民達は奮い立った。
 エフォール領主の指揮の元、黒分隊七名、冒険者十名が加わって盗賊の殲滅作戦が始まる。
 三分の一を倒し、残りの盗賊共は敗走した。
 デビルが見放したせいもあるが、戦いはゴルオ町の勝利で終わる。つまりはヴェルタル領の勝利だ。
 冒険者達を乗せた馬車は十日目の昼頃にパリへ到着した。
 お礼の品と追加の謝礼金がエフォールの手で冒険者達に渡される。李風龍とエリーは保存食を途中で買ったので、その分だけ手持ちが少ない。
 冒険者ギルドへの報告も終わる。
 シクルに過去の出来事についてを訊ねられ、エフォール副長は話し始めた。
 十四歳の若さでラルフと一緒に神聖ローマ軍と戦った事や、イペスとの遭遇、ブラーヴ騎士団での出来事、全てを言葉にする。
 冒険者は全員エフォールの話しを聞く。
「今は味方なのねぇん」
 それだけをいってエリーはギルドを立ち去る。他の冒険者もエフォール副長に挨拶をしてからギルドを後にするのだった。