隠された秘密 〜ノワール〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:11 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月02日〜03月14日

リプレイ公開日:2008年03月10日

●オープニング

「久しぶりだな。ラルフ殿」
「今は部下はいない。昔のように呼び捨てで構わないよ。よく来てくれたジュエール」
 ルーアンにあるヴェルナー城ではブランシュ騎士団黒分隊隊長でもあるラルフ領主が古い友人を迎えていた。
 友人の名前は『ジュエール・オートリ』といい、男性である。見かけの年齢は二十歳前後だが、エルフなのでラルフより長く生きている。
 復興戦争当時、ラルフ、エフォールと共にデュールの野望を阻止した三人の騎士の中の一人だ。
 黒分隊発足時の初期メンバーでもあり、作戦参謀として活躍した。復興戦争後は隊を止め、今はヴェルナー領内にあるポーム町の町長をしている。
「ラルフ、噂は本当なのか? デュール・クラミルとブラーヴ騎士団の事だ」
 テーブルの椅子に座ったジュエールはすぐにラルフへ訊ねる。
「ああ、本当だ。どうやらデュールはデビノマニのようだ。部下のブラーヴ騎士団達も、どの程度かはわからないが、デビルに魂を売ったと考えるべきだろう」
「ついこの間、エフォールのヴェルタル領が盗賊に襲われたようだな。それも関係しているのか?」
「関係しているとみている。報告によれば、盗賊との戦いの時にデビルが目撃されている。今、ヴェルナー領内でデビルを指揮しているのはイペスのようだ。奴の仕業に間違いないだろう。そしてイペスはアガリアレプトとも繋がっているらしい‥‥」
「アガリアレプト! あのパリに攻め入ろうとしたあのデビルか!」
 ノックがされ、部屋に侍女が紅茶を運んできた。侍女が立ち去った後でラルフとジュエールの会話を再開させた。
「ラルフ、わたしが入手した情報によれば、ヴェルナー領に盗賊が集まっている節がある。ポーム町では図書館の充実を図る為に、ある別領地の貴族から本の寄付をしてもらう計画を立てたんだ。つい先日、一回目の搬送を行ったのだが、かなりの妨害を受けた。本は無事だったが、そのせいで二回目の搬送は取りやめにしたよ。貴重な本を焼かれたりしたら大変だからな」
「リュミエール図書館の蔵書を増やす計画か。知っている。デビルが邪魔をしようとしたの‥‥」
「どうかしたのか? ラルフ」
 ラルフは顎に手を当てて考え込む。
「ジュエール、話しの流れからすると、本の輸送を狙ったのは盗賊だけか?」
「いや。言葉足らずですまない。デビルもいたと報告にあった。ポーム町の護衛隊長は慎重な奴で、ちゃんとデビル対策を兵士達に‥‥。いわれてみれば、おかしいな。ただの嫌がらせならば、襲うのは盗賊だけで充分なはずだ。わざわざデビルが出てくるとは」
「搬送された本の中に重要な情報が紛れているのかも知れない。ジュエール、運ばれた本をよく調べてくれ。リュミエール図書館の警備も、よりしっかりとしたものに強化してくれ」
「わかった。すぐに伝令を出そう」
「もう一つ、搬送は後何回を予定していた?」
「残り二回を予定していたが、それがどうした?」
「一回にまとめた上で運びだそう。わたしも黒分隊の何名かを連れて搬送の護衛を手伝おう」
「無理に急がなくても。それに領主自ら護衛だなんて‥‥危険だ!」
「‥‥ブラーヴ騎士団、そしてデュールが現れるかも知れない。これはチャンスだ。頼んだ、ジュエール」
 搬送の再開が決められる。ラルフはジュエールの心配をよそに護衛に向かうつもりだ。
(「エフォールは別件で来られない。イペスやブラーヴ騎士団と接触した冒険者達に、手伝ってもらうのが望ましい」)
 ジュエールとの話しが終わると、ラルフは冒険者ギルドへの依頼手配を行うのであった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

イフェリア・アイランズ(ea2890)/ 朧 虚焔(eb2927)/ スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)/ 土御門 焔(ec4427

●リプレイ本文

●始まり
 冒険者達は馬車でパリを出発し、二日目の昼前にポーム町へと到着する。
 着いて早々にラルフ黒分隊長を始めとするブランシュ騎士団黒分隊八名、ポーム町の兵士達と挨拶を交わして作戦や必要な物資の相談を行う。
 本については、寄付の交渉にあたったポーム町のシスターニーナが、既に運ばれてある本の調査指揮を任されていた。
 三日目の朝、荷馬車六両、黒分隊用馬車一両、冒険者用馬車一両の輸送隊は出発する。輸送隊の前後左右には騎乗する冒険者と黒分隊隊員の姿がある。飛行できるペットを持つ冒険者も多く、空からの監視も行われた。
 本の寄付をしてくれる貴族ボーエント家はヴェルナー領に隣接する別領地にあった。別領地の領主にも話は通してあり、関所などの許可で足止めを喰らうような事は起こらずに順調に事は進んだ。
 問題は盗賊や、ブラーヴ騎士団、デビルである。行きはよいとして、本を積んだ帰りが心配されていた。
 四日目の夕方、輸送隊は町に入り、ボーエント家へ到着する。
 町はごく最近デビルに襲来されたものの、官憲の功績によって被害は最小で済んでいた。デビルの目的はボーエント家の蔵書だと、町ではもっぱらの噂である。
 五日目は本を荷馬車へと積むのに費やされた。
 輸送隊がボーエント家を出発したのは、六日目の朝であった。

●予感
「のどかなのが、逆に不気味ですね。本を狙うなんて、デビルは何を考えているのでしょうか?」
 御者をするシクル・ザーン(ea2350)は隣りに座るフランシア・ド・フルール(ea3047)に声をかける。
 冒険者用の馬車は隊列の一番前を走っていた。どの方向から敵が来たとしても、進路の確保がすべてに優先される。故に一番先頭の役を買ってでたのだ。黒分隊用馬車は一番後方で殿を務めていた。
「ジュエール殿によれば、一回目の移送時、盗賊やデビルは焼くなどの破壊行為には至らず、奪取にのみに奔走した模様。おかげで敵に隙があって守り通せたと。つまりはわたくし達に知られたくないだけではなく、自らも知りたい書物があるのでは」
 話しながらフランシアは腰にぶら下がる皮の水袋を確認する。馬車内の樽にも対デビル対策用の色水が用意されていた。姿を消すデビルを発見するにはこれが簡易でわかりやすい。
「よっと!」
 韋駄天の草履で移動していた李風龍(ea5808)が冒険者用馬車に飛び乗った。
「地上からは俺が、空中からは飛風が斥候したが、今の所以上なしだ」
 斥候を終えた李風龍は馬車の仲間に報告をすると、しばしの休憩をとる。
 今は六日目の午後過ぎ。順調にいってもポーム町に到着するのは七日目の夕方。まだまだ長い距離が残っている。無理は禁物だ。
「もうすぐ崖がある。気を付けよう」
 馬を駆る氷雨絃也(ea4481)は馬車に近づき、御者のシクルに一声かけた。愛馬二頭は荷馬車に繋げてある。騎乗しているのは李風龍の大風皇だ。黒分隊などから戦闘馬を借りようとしたが、仲間の好意に甘える事にした。
 行きの道中で敵が隠れそうな場所は調査済みである。ラルフを始めとする輸送隊の各責任者には既に伝えてあった。
「さて、どうなることか。まずは本を無事届けねば」
 ディグニス・ヘリオドール(eb0828)は愛馬で隊列の先頭を駆ける。行く先にはいくつかの丘が見え、一つを越えるとまた次が現れる。
 ディグニスは丘に上ると停まって四方を見回した。遠くに森がいくつかあり、小さな池がある。輸送隊が追いつくと再び駆ける。
「本かぁ。資料は大切だよねぇん」
 エリー・エル(ea5970)はディグニスとは反対に一番後方で愛馬バウバウに跨り、輸送隊の護衛を行う。他に二名の黒分隊隊員も騎乗して後方護衛を務めていた。
 エリーは黒分隊隊員とも笑顔で会話する。昔はもしかしてお互いに関わっていた事があるかも知れないが、それはどこかに置いておく。
 輸送隊の上空では四人の冒険者が集まった。
「南は大丈夫。旅をしている馬車が一両だけです。挨拶をしたら、素朴な方々でした」
 乱雪華(eb5818)は空飛ぶ木臼で漂う。心の中では土御門焔がいった言葉に気にかかっていた。あまり良い事をいわれなかったのだ。
「東には集落が一個所あった。こちらにブラーヴ騎士団が潜伏している可能性は低くそうだ。‥‥もっとも襲われるのであれば昼間の方が戦いやすいのだが。多少の危険は覚悟の上だ。敵がどういう出方をするか見極めよう」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)はヒポグリフのミストラルの背に跨っていた。
「西は平気です。そろそろ荷馬車の覆いにかけたアイスコフィンが切れる頃なので、それが終わってから次の索敵に向かいます」
 リアナ・レジーネス(eb1421)はフライングブルームで空を飛んでいた。
「北は異常なし。油などが道に撒かれている可能性もある。お互い注意をしよう」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)は翼で舞うペガサスのアイギスに乗っていた。
 代表としてナノックがラルフ黒分隊長に報告をし、空飛ぶ四人はそれぞれの役目に戻る。
 輸送は順調に進み、日が暮れて野営が行われた。
 薪なども用意されていたので、何もない野原の真ん中でも不自由はない。
 かがり火も焚かれ、かなりの遠方が照らされた。月も頭上にあり、視界はかなり確保されている。
 見張りは黒分隊と冒険者達に任される。本を積んだまま野営をするこの時間が一番危険なのを、輸送隊の誰もが知っていた。

●ブラーヴ騎士団
 襲来は朝日が昇る瞬間に始まる。
 日の出の方角からグレムリンの群れが地上スレスレに飛来してくる。目視するのは難しく、輸送隊は発車に全力をあげた。
 空を飛ぶ術のある冒険者三名がグレムリン共と接触する。
「近寄らせはしない!」
 ナノックはグレムリン共の動きに合わせて、ホーリーフィールドを展開する。自らとペガサスのアイギスによる見えない空中の障壁だ。
 衝突してもグレムリンが落ちるだけのダメージはない。しかし衝突して勢いを無くすグレムリン。迂回せざるを得ないグレムリンなど、確実に効果はあった。
 乱雪華は木臼で飛び、グレムリンを撹乱させる。輸送隊が完全に動きだしたのを見極めると荷馬車の先頭へと下りた。
「どうか、黒分隊のみなさん。グレムリンの撃退を!」
 乱雪華が鳴弦の弓をかき鳴らす。荷馬車に乗り込んでいた黒分隊隊員が荷台の上で刀を抜いた。迫り来るグレムリンと爪と刀が火花を散らす。
「そこ!」
 デュランダルは目を瞑り、ミストラルで刀を振るう。朧虚焔がわざわざ持ってきてくれたシルヴァンエペだ。前より強くは感じるが、所詮はグレムリン。ディグニスは次々と斬り落としてゆく。
(「問題はもっと高位のデビル、デビノマニ。イペスやデュール‥‥」)
 デュランダルはグレムリンを払いつつも、敵の別働隊を気にしていた。
 リアナは発車直前にレジストファイヤーを荷馬車三両に付与したのだが、残る四両は時間が足りずにそのままだ。
 できればかけたいところだが、今は敵との戦いに集中する。フランシアの考えが正しければ敵は本を焼くような真似はしないはずだからである。
「見つけました!」
 リアナはシクルが御者をする横でテレスコープを使い、周囲を警戒していた。黒分隊からもらったソルフの実で魔力を補給し、フライングブルームで先頭の冒険者用馬車を離れる。大地に足をつけて、ここぞの魔法詠唱をする。
 伸ばされたリアナの腕から稲妻が走った。遙か遠くのブラーヴ騎士団目がけて。
「二人‥‥ですね」
 リアナはブラーヴ騎士団の二騎が崩れたのを確認した。再びフライングブルームに跨ると輸送隊を守る仲間と合流する。
「おぬしら!」
 真っ先にブラーヴ騎士団と武器を交えたのはディグニスであった。馬達が嘶き、足踏みをし、砂煙が舞い上がる。
 そして武器と武器がぶつかり合う金属音が鳴り響く。
「いい加減お前さんらの顔も見飽きた、引導を渡してやる!」
 ディグニスと並んで戦うのは氷雨だ。戦いながらブラーヴ騎士団をまとめるデュールを探す。奴をやれば敵は瓦解すると。
 だがデュールは氷雨から離れた場所に向かっていた。
「ラルフ殿!」
「風龍殿か!」
 李風龍はラルフ黒分隊長が一騎で戦う場に現れた。
 長い大錫杖を生かして敵の馬を狙ってゆく。大きく振り回しては馬の腹に打ち込む。ブラーヴ騎士団は悪魔崇拝者かも知れないが、馬はそうでははない。落馬したブラーヴの団員と李風龍は対峙する。
「デュール、なにゆえにこのような!」
 ラルフ黒分隊長に騎馬姿のデュールが剣を手に勝負を挑んだ。
「のうのうと生きているお前にはわからぬ!」
 デュールがラルフ黒分隊長に答えた言葉はこれだけであった。後は何度尋ねても口を噤んだままだ。
「邪魔です!」
 シクルは片手に手綱、もう片方にはホーリーメイスを握り、一番先頭の冒険者用馬車を操っていた。
 飛来するグレムリンをミミクリーで伸ばした手に握るホーリーメイスで弾き飛ばす。仲間達のがんばりによって、ブラーヴ騎士団の騎士が輸送隊に取り付いていないのが幸いであった。
「ありがとうございます」
「いえ。すぐに次が来ます」
 フランシアはホーリーフィールドを張り、シクルの支援をしていた。
 前回と違って六両となると隊列に歪みが生じる。すべての車両がホーリーフィールドを潜るのは無理であった。しかし牽制にはなる。可能な限り、ホーリーフィールドをフランシアは張り続けた。
「変なのねぇん‥‥」
 殿として騎馬の黒分隊隊員二人と共にグレムリンと戦っていたエリーは妙な臭いに気づいた。もしやと思い武器を鎖分銅に変えておく。
「頼むのねぇん!」
 黒分隊用馬車にも載せられていた色水が周囲に撒かれる。すると奇妙な空を飛ぶデビルが輪郭を現す。イペスであった。
「気づかれたか!」
 イペスはエリーの投げた鎖分銅を紙一重でかわす。そのまま後方へと消えていった。
「撤退ですか?」
「そのようです」
 シクルとフランシアは空中に漂うグレムリンの動きを観て言葉を交わす。グレムリンが高く上昇してゆくが確認出来る。
 ブラーヴ騎士団も落馬した仲間を馬の後部に乗せると撤退していった。
 追撃したいのは山々だが、本の輸送が第一である。
 輸送隊は一時的にゆっくりと走り、怪我した者の治療が行われる。
 本に関しては被害はないといってよい。
 決して停まらずに、輸送隊はポーム町へと向かう。
 七日目の深夜、無事輸送隊はポーム町の城塞門を潜り抜けた。

●一冊の本
 八日目は丸一日、本を建物内に運ぶだけで終わる。
 ラルフ黒分隊長はルーアンでの公務が残っており、この日でポーム町を立ち去った。見送った冒険者達にはラルフの心残りがありありとわかる。後は報告書で読んでもらうしかない。
 指揮をしていたニーナによれば、すでに運ばれていた本の中にそれらしきものは発見出来なかった。
 あるとすれば今回持ち込まれた荷馬車六両分の本の中にあるようだ。
 冒険者達も本の分類整理や読み解きに手を貸した。シクルは建物の外で警備にあたる。
「マリア、ネズミがいたらお願いね」
 フランシアは子猫のマリアを本がある一室に放つ。大事な本をネズミにかじられたら大変だからだ。
 運ばれてきた本には様々なものがあった。ジーザス教聖書の外典から始まり、子供向けの寓話、叙事詩など。
 言語で多かったのはラテン語、ゲルマン語であったが、その他のものもある。
 デビルが襲うからには神、天使、悪魔にまつわる内容のものだと推測し、本が選びだされる。ゆうに400冊はあった。
 冒険者達はそれぞれに得意な言語の本を読む。読むのが得意でない者は本の移動を手伝った。
 十一日目の深夜になっても、これだと思われる本は発見されなかった。
 今日中にポーム町を出発したかった冒険者であったが、ぎりぎりまで粘ろうという事で本探しは続けられていた。
「それは‥‥なんですか?」
 乱雪華がニーナの後方を指さす。
「なんだか本の石の彫刻が混じっていたんで、退けておいたんです。最後に降ろした荷馬車にあったものです」
 その場にいた魔法を操れる者達は顔を見合わせる。
「もしや‥‥」
 フランシアは石の本にニュートラルマジックを唱えた。みるみるうちにストーンの魔法が解かれ、一冊の本が姿を現した。
「古い文体のラテン語ですね‥‥。これは!」
 フランシアは最初のページを捲って目を見開く。
「何か書いてあるんだ?」
 李風龍が訊ねるとフランシアは深呼吸をしてから話し始める。
「アガリアレプトに関する書物のようです‥‥。少し待って下さい」
 フランシアはとりあえず本を斜め読みしてゆく。
「細かく読み解かないと、何が重要なのかはわかりませんが‥‥、この本の存在そのものをアガリアレプトは許さないでしょう」
 フランシアはこの場にいない仲間も呼んで説明する。
 一説であるが、アガリアレプトは地獄の秘密情報機関の首領といわれている。つまりは諜報に長けた存在だ。そして本というのは情報の固まりである。
 他の者の秘密を知るのを当然とする者が、他の者に秘密を知られるなどというのは屈辱以外のなにものでもない。
「どのような経緯でこの本の存在がデビル側に知られたのかはわかりませんが‥‥、余程の管理が必要です」
 フランシアは残っていた黒分隊隊員に本を手渡した。読む時間は、もう残っていない。
 シクルが聖遺物箱を貸そうとしたが、黒分隊隊員も用意してある。本は丁寧に聖遺物箱へと収められた。
 黒分隊隊員はラルフ黒分隊長から預かっていた追加の謝礼金と、戦いの用意で余った薬を冒険者達にお礼として手渡した。
 出来ればすぐにでも本をラルフ黒分隊長に届けたい所だが、解読もしないうちに奪われてしまっては大問題だ。
 ラルフ黒分隊長からの指示を待つ事にし、本が入った聖遺物箱はポーム町の教会に預けられた。

 十二日目のまだ日が昇りきらないうちに、冒険者達はパリへの帰路につく。
「恐らくあの本の中には他人に知られたくない秘密の事が書かれているのじゃろう」
 ディグニスはポーム町を振り返りながら呟いた。