●リプレイ本文
●石像
パリ出発の際、クレアとイフェリアの護衛付きで馬車は大地を駆ける。
二日目の昼過ぎ、冒険者一行は目的の集落に到着した。
集落の長と挨拶を交わし、そして納屋に案内される。
「これがただの石像なら、相当の腕の彫刻師だな。詳しくはないが、ストーンで石にされた本物だろう。‥‥厳重にしないといけないな」
李風龍(ea5808)は膝をおって、藁の上に寝かされた五体の石像を眺める。既に貯水池から運ばれてあった。
「ずっと石になってったんだよねぇん。長生きできるけど微妙だねぇん」
エリー・エル(ea5970)は石像にこびりついた乾いた泥を掌で拭ってあげる。
「こんなものだろうか。十年以上池の底にあったとすれば‥‥」
ナノック・リバーシブル(eb3979)は石像の風化具合を確かめた。少なくとも新しいすぎる感じはない。緑色のコケがつき、それなりの年月は経っているようだ。
「古布などをお貸し願えませんか? 納屋の中とはいえ、目立つのは禁物」
フランシア・ド・フルール(ea3047)の願いに布が用意されて石像にかけられる。
何人かの冒険者は納屋に残り、その他の者は集落の長と共に石像が沈んでいた貯水池に向かう。今は用水路も直り、大量の水をたたえていた。
「しかし石化し、こんな所に沈んでいたとは、何の意味があるのか謎だな」
氷雨絃也(ea4481)は貯水池の水面を眺める。
「そうだ。何の目的があって沈めていたのかは気になるな」
ディグニス・ヘリオドール(eb0828)は石像の騎士達が悪魔関連の物品を持っているのではと仲間に考えを話す。
「いろいろと訊いてみたが、この近辺でブラーヴ騎士団を知る者といえば、ポーム町のジュエール町長だけのようだ」
氷雨絃也がパリ出発前に調べた事を呟いた。それを聞いた集落の長の表情が一瞬だけ変わるのを、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)は見逃さなかった。
「先程、石像を運ぶ為に御者つきの荷馬車を貸して頂けると仰ってましたが、干草や毛布などをさらに用意してもらえますでしょうか? 少しでも安全に運びたいのです」
「わかりました。協力は惜しみません。ところでわたしも一緒にポーム町に同行させてもらいますのでよろしくお願いします」
シクル・ザーン(ea2350)の願いを集落の長が受け入れる。
「未来予知によれば、今回の輸送をブラーヴ騎士団は狙っているような景色が見えました。充分な注意が必要だと思われます」
リアナ・レジーネス(eb1421)はフォーノリッヂで知った内容を仲間に知らせた。
「一通り見回っておきます。それでは」
乱雪華(eb5818)はオーラセンサーを発動させると空飛ぶ木臼に跨り、上空まで浮き上がる。
冒険者達は集落の長と話し合う。今日と明日で輸送の際に石像が壊れないような策を施し、四日目にポーム町へ出発する事が決まった。
「石像でいる間って意識あるんかな? あったとしたら地獄だぜ‥‥」
深夜、シャルウィードは自分の担当する見張り時間が終わると、灯したランタンを手に貯水池に繋がる用水路に沿って歩く。
昼間観た五体の石像は妙な格好ではなく、落ち着いた様子で直立のまま固まっていた。どうも覚悟してストーンをかけられた様子である。
シャルウィードは倒れて用水路を塞いだ場所に辿り着いた。そして残った木の株の部分を調べる。
「最初に斧で斬ったような傷‥‥、そしてとてつもない衝撃を受けたような跡。魔法で倒されたのか? ここにある大木は‥‥」
シャルウィードは顎に手を当てて考える。
「あの、集落の長、怪しいぜ‥‥」
昼間の態度を思いだしながら、シャルウィードは呟いた。
●ブラーヴ騎士団
四日目の朝、馬車一両と荷馬車一両の輸送隊は集落を出発した。
シクルはもしもの時、石像を守る為に荷馬車の荷台の上に乗る。
フランシア、氷雨絃也は馬車内で待機だ。
李風龍は韋駄天の草履、シャルウィードはセブンリーグブーツで時折周囲の警戒巡回を行う。
愛馬で移動するディグニスは輸送隊の前方、エリーは後方の守りを担当した。
空からの警戒と守りはペガサスのアイギスに乗るナノックと、空飛ぶ木臼の乱雪華、フライングブルームのリアナに任される。
ポーム町まではそれほどの距離はなかった。休憩をとらずに一気に向かう作戦が採られた。
近づいてくる敵の存在を真っ先に知ったのは空から警戒していたナノックであった。仲間に知らせてさらなる確認がされる。
敵はブラーヴ騎士団の騎馬群であった。リアナのブレスセンサーによって十五騎と数えられる。後方からブラーヴ騎士団は追いついてきた。
「ズルイのねぇん!」
エリーは三騎に襲われて声をあげる。砂煙をあげながら囲まれるが、それでも荷馬車からは離れずに剣で食い止める。
「もう少しだ!」
空を舞っていたペガサスが地を滑るように駆ける。剣を抜いたナノックはエリーに加勢した。
「そちらはお願いします!」
シクルはミミクリーで腕を伸ばし、近づく一騎を剣で遠ざける。車輪を攻撃しようとしていた一騎にも、ふり返り様に鞭のように腕をしならせて剣を叩きつけた。
「左は任せろ!」
李風龍が荷馬車に飛び乗ってシクルに声をかける。荷馬車の荷台に乗り込んだ敵騎士との戦いが始まる。
「大丈夫ですか?」
馬車の屋根に降りた乱雪華は中にいるフランシアに一声かける。デビノマニのデュールらしき姿もあり、イペスの存在も怪しい。乱雪華は鳴弦の弓をかき鳴らした。
「お役に立てれば」
フランシアはホーリーフィールドを張って移動する輸送隊のトンネルを作り、後方の仲間の支援を行う。そしてフェアリーのヨハネスには遊びだといって、用意した色水を周囲に撒かせた。透明になったデビルを探るための対策である。
「顔色悪いけど平気かい? 守ってやるから安心しな」
「ありがとう。平気ですので」
馬車内のシャルウィードが集落の長に一言かける。心配というより、何か行動を起こさないか釘を刺した部分が大きい。
「しつこいな、いい加減諦めたらどうだ!」
御者の横で氷雨絃也は後方の見えない敵に向かって剣を振るい、手応えを感じた。馬車を停めるには、牽いている馬か車輪を狙うのが容易い。氷雨絃也は馬車のあらゆる所を移動して近寄る敵に戦いを挑んだ。
馬に関しては前方のディグニスの踏ん張りによって守られていた。
「退け! 邪魔をするでない!」
ペルクナスの鎚が空を切り裂いて唸る。ディグニスは近寄る敵を輝ける金鎚で払う。
「リアナです。右舷のまとまっている敵をやります」
「ん? ああ、腹話術か」
ディグニスが遠くのリアナを発見するのと同時に馬の鞍から声を聞く。
リアナは仲間にヴェントリラキュイで連絡したのである。
フライングブルームで輸送隊の進行方向に先乗りして地面に降り立ったリアナは魔法を詠唱する。
冒険者達は輸送隊の右舷から一旦退く。
稲妻が宙を走り、一直線にブラーヴ騎士団の騎馬群を貫いた。
笛の音が鳴り響くとブラーヴ騎士団は撤退していゆく。
「やはり貴様か!」
遠くで馬車を観ていた騎馬姿のデュールが声を荒らげた。声は馬車内にも響き渡る。
その時、窓から顔を出していたのは集落の長であった。
●謎
戦闘で迂回をした為に輸送隊がポーム町に着いたのは夕方であった。
到着するやいなや冒険者達は集落の長に説明を求めた。デュールがなぜ集落の長を見て声をあげたのかや、用水路を塞いだのが人為的であった疑いについても。
集落では貯水池の底を浚ったのは四年程前と長は答えていたが、それすらも今では怪しく感じられる。
「すべては明日。石像が再び動き始めた時にお話します」
そういって集落の長は用意された教会の一室に籠もった。
五日目、五体の石像が収められた教会内の一室に冒険者達は集まる。集落の長の姿もあった。
「町長は少し遅れますので、始めて下さい」
ジュエール町長の秘書が冒険者に告げる。残念であったが、解呪作業は開始される。
ナノックは白光の水晶球を設置した。近くにデビルはいない。
「わたしでは無理なようですね。フランシアさん、お願いします」
シクルがニュートラルマジックを使ったが、解呪は出来なかった。代わったフランシアはまずはやや力を抑えてかけてみるが駄目である。
全力でかけた時、解呪がされる。
「ここは‥‥、痛たたっ」
蘇った騎士は石化されていたとはいえ、肌の部分などが擦れて傷ついていた。血が滲む頬を触ろうとしていたが手が届かない。もしもに備えて解呪の前にロープで縛ってあったのだ。
水晶球に反応はなかったが、エリーは念の為にデティクトアンデットで蘇った騎士を調べる。デビルではなかった。
「拙者はディグニス・ヘリオドール。回りにいるのはほとんどが仲間だ。そのお姿、ブラーヴ騎士団とお見受けするが、いかに?」
ディグニスが訊ねると騎士は答える。かつてブラーヴ騎士団に所属していた者だと。
「今が何時だか分かるぅん?」
エリーはジーザス教白教義を意味する指輪を見せながら蘇った騎士に話しかける。
「ボグリーム殿の容姿から察するに、十数年といったところでしょうか」
蘇った騎士が集落の長を見つめながら答えた。エリーも含めて全員の視線が集落の長に注がれる。
「その者達をストーンで石化させたのはこのわたし。かつて彼らと一緒にブラーヴ騎士団に所属していたのです」
ボグリームが閉じていた目を開くのと同時にドアが開く。
「‥‥ボグリームか」
現れたジュエール町長も集落の長をボグリームと呼んだ。
「真実をお話しましょう」
ボグリームが過去の出来事を語り始める。
騎士団とはいえ、ごくわずかながら特殊技能を持つ者もブラーヴ騎士団には含まれていた。ウィザードのボグリームはその能力を買われて配属される。
ある時からの記憶をボグリームは嫌悪していた。何故ならば不覚にも魅了されていた時期があるからだ。
デュールが陛下に行った裏切り行為にボグリームも加担する。そしてラルフとエフォール、ジュエールと二人の騎士に阻止された。
逃亡の途中で魅了が解けて脱出を図るものの、何名かの仲間はデュールと側近達に殺されてしまう。生きて逃げられたのはボグリームと五名の騎士だけであった。
自決を考えた六名の騎士であったが、将来のノルマン王国の為に生き残る道を選択する。
ただ、復興戦争の直中でもあり、全員で生きてゆくのは目立ちすぎた。ばらばらに生きてゆけば、いつかは結束も揺らぐ。そこで採った方法がストーンによって石となり、眠りにつく事であった。番人はストーンを扱えるボグリームに任される。
六人で用水路と貯水池を作りあげた。
五人はストーンで石にされて水底に沈められる。ボグリームは貯水池の周辺に集落を作り上げて今に至った。
「ブラーヴ騎士団の元騎士の言葉など、信じろといってもすぐには無理でしょう。ただ、あの坊や、いや‥‥ラルフ領主が窮地と聞き及び、イペスが現れたと知った今こそが我々の成すべき時と考えました‥‥。ジュエールならば、すべてをうまく仕切ってくれると考え、相談の手紙を送らせてもらったのです」
ボグリームの話しは終わる。
蘇った騎士の治療が終わると尋問が行われる。魔力の関係もあり、五日目はもう一人の解呪で留まった。いっぺんに解呪する事も出来たが、慎重な行動を選んだのである。
冒険者達は尋問組と本の解読組に分かれて、ポーム町での数日間を過ごす事となった。
●本
七日目の午後、石化の解呪も終わり、フランシアは本の精読を始める。
ホーリーフィールドを張り、周囲に注意を払った上で聖遺物箱から取りだして読み進める。
場所は教会中央の厳重な部屋であった。
教会内での見張りを氷雨絃也が、教会上空では乱雪華とリアナが警戒してくれた中での作業だ。
「頼んだぞ。飛風」
李風龍はポーム町の南側を担当する。ペットの風精龍・飛風を高く飛ばし、地上から目立たないようにして周囲を警戒させる。李風龍自身も韋駄天の草履で巡回する。
シャルウィードは北側を担当した。鷹のハルに上空の監視を任せて、怪しい者がいないか目を光らせた。
ナノックはペガサス・アイギスを外に待機させた上で、本を読むフランシアの護衛をする。
フランシアが真っ先に調べたのは著者である。
この本は原本ではなく、写本であった。
写字したのは若き頃のデュール。そして原本の著者はどうやらイペスのようだ。
内容はデビルにとっての説話的内容で、主にアガリアレプトを中心にして書かれてある。具体的な地名は出てこないが、人物名はかなりの数にのぼる。
果たして実在した人物なのか、そして存命なのかまではわからなかった。
フランシアは名前を書き出して、手元においておく事にした。写しをもう一つ用意し、シクルが似顔絵をラルフ領主に送るというので、同封させてもらう事にした。
夜、冒険者の間で情報交換が行われる。
フランシアは考えも付け加えて仲間に話す。写字したのがデュールならば、その頃からデビルに傾倒していた可能性が高いと。その他の情報としては、アガリアレプトは月とデビル特有の魔法をすべて使えるようである。
シクルは蘇った騎士達がとても焦っている事を問題とした。
しばらくはジュエール町長の管理下で、集落の長のボグリームも含めた六人を拘束する事が決まった。
六人はブラーヴ騎士団との直接対決を望んでいるようだ。名誉回復をしなければ、自分達は犯罪人として処罰されると考えているらしい。
ディグニスは蘇った騎士達の持ち物を詳しく調べた事を話す。
今の所は変哲もない品物ばかりであるが油断は出来ない。身につけていた全ての物は没収されてポーム町で管理される。
「自分の子供がどうなったか、気にしてた人もいるのねぇん‥‥。ジュエール町長には頼んだけど、前に調べた中にはなかったと思うのねぇん」
エリーはちょっと悲しそうな瞳でペンギンのペンペンを抱きしめる。
「どこまで信じたらいいのかね‥‥。やれやれ」
シャルウィードがテーブルに頬杖をつきながら呟いた言葉が全てを表していた。
ホーリーフィールドで敵意はないことがわかっているものの、蘇った騎士達をどこまで信じてよいか判断がつきかねる。逆に蘇った騎士達にとってもそうであろう。
信頼関係を築くべきか、果たして築けるのかなどの問題は先送りとなった。
八日目の昼頃、冒険者達はジュエール町長から追加の報酬金をもらい、ポーム町を馬車で出発する。
九日目の暮れなずむ頃、無事に冒険者達はパリの地を踏んだ。