騎士の誇り 〜ノワール〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:13 G 14 C

参加人数:10人

サポート参加人数:7人

冒険期間:05月17日〜05月27日

リプレイ公開日:2008年05月25日

●オープニング

「本来ならばパリを攻め落としてコンコルド城でくつろいでいるはずが、この様な場所とは、いささか気分が滅入る」
 山奥の古城。デビル・アガリアレプトは寄りかかりながら呟いた。
 広間は装飾品に満ちあふれ、天井から下がるシャンデリアには蜜蝋燭が輝く。
 段の下ではデビル・イペスと、ブラーヴ騎士団団長デュール・クラミルが跪いていた。
「‥‥イペスとデュールよ」
 アガリアレプトは頬杖をついて、微笑みながら見下ろす。
 イペスが天使を騙り、さらにデュール率いるブラーヴ騎士団がヴェルナー領の領民を助ける作戦は、大した効果を発していない。
 領民が領主ラルフに寄せる信頼を砕く事こそが目的だったのだが、未だ極一部の若者の扇動が成功したのみであった。
 先頃、ポーム町に侵攻した一件でも、真の目的は何も達成されていない。
 アガリアレプトについて書かれた写本の奪取は失敗。プリンシュパリティ・ハニエルのせいでもあるが、町民を一人も殺せず、図書館の本を燃やす事も出来なかった。
 町の建築物を焼き落とした程度である。
 強行すれば、あるいは何かしらの成果を得られたかも知れないが、ラルフを支えていた者達の力は凄まじかった。
「これからどうしようというのだ? イペスよ」
「はっ、それは‥‥」
 アガリアレプトの問いにイペスは答えられない。跪いたまま、床を見つめていた。
「デュールはどうなのだ? もしやイペスのような余裕の態度をわたくしに見せるつもりではなかろうな。賢いデュールなら、そのような戯れ言は慎むと考えるが」
 アガリアレプトがデュールに投げかけた言葉にイペスが身を縮こませる。
「‥‥ラルフとの一騎打ちを考えております」
 デュールは深く頭を垂れる。
「余興としては面白そうだ。だがそれで、何が変わるというのだ? ラルフが受けるかどうかも怪しい。もし受けたとしても、さすがのラルフでもヴェルナー領を賭けはしないだろう」
「ラルフは騎士。わたしも大義はアガリアレプト様にありますが、騎士の心得は忘れてはおりませぬ。まず我らがしなければならないのはラルフの名誉を失墜させる事。民の心がラルフから離れれば、おのずと道が拓けるでありましょう」
「ふむ。なら、やってみよ。ラルフを騎馬から地面へと叩き落とし、泥の味を思いださせてやれ」
 アガリアレプトの許可を得ると、デュールは広間を立ち去る。
「‥‥イペス、わかっておるな。デュールが不利になったときには、騒ぎを起こして同行するであろうブランシュ騎士団の隊員を一人でもいいから殺せ。ラルフはまだ殺すな」
 アガリアレプトは含み笑いをする。
(「あの本‥‥、敵の手にあるのは不快であるが、ほとんど無意味な内容の羅列だ。だが、一つだけ知られてはならないことが‥‥」)
 イペスを去らせた後、アガリアレプトはしばらくラルフの手にある写本の事を考え続けた。


 数日後、ヴェルナー領ルーアンに佇む城にデュールからの手紙が届けられる。
 その内容は噂としてすでに流されていた。当然、ヴェルナー領の中心都市であるルーアンの人々の耳にも届く。
 当初、誰もがラルフが決闘を受け入れないと考えていたが赴くことが判明する。
 そもそも、ブラーヴ騎士団隊長であるデュールはノルマン王国において犯罪者である。その犯罪者とルーアンの領主が一騎打ちをするなどは狂気の沙汰だ。
 城の内部、黒分隊内部からの反対の声は大きかった。
 それでもラルフは意志を曲げようとはしない。
 昔の事とはいえ、一時は父親のように慕ったデュール・クラミル。
 ウィリアム3世への裏切りを知り、戦いを選んだあの時からラルフの心にはわだかまりが残っていた。崖下に落ちてゆくデュールに涙をして叫んだのは、今でも夢に見る。
 デュールが昔からデビルに傾倒し、今はデビノマニなのはわかっていた。
「あの時の決着はまだついていないのだ。わかってくれるだろうか?」
 ラルフは友としてエフォールに訊ねる。
「まったく‥‥。そういわれたら何もいえなくなるだろう」
 エフォール副長は頭をかいて面会の部屋から立ち去った。


 冒険者ギルドにはエフォール副長によって依頼が出される。
 黒分隊も出動するが、心強い冒険者にも近辺の警戒をしてもらいたいという依頼であった。
 戦いは森中央の拓けた場所。
 その時だけは戦う二人を除いて、お互いに手は出さない決まりである。もちろん、何らかの戦いを仕掛けてきた場合は無効である。
 戦いが終われば、冒険者達はルーアンに招待される予定になっていた。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

クレア・エルスハイマー(ea2884)/ マギー・フランシスカ(ea5985)/ メイ・ラーン(ea6254)/ ティズ・ティン(ea7694)/ コルリス・フェネストラ(eb9459)/ テティニス・ネト・アメン(ec0212)/ 雀尾 嵐淡(ec0843

●リプレイ本文

●決闘の場
 冒険者達はパリを馬車で出発し、三日目の暮れなずむ頃には森に到着する。ブランシュ騎士団、ブラーヴ騎士団ともおらず、一番乗りであった。
 拓けた場所は直径百メートル程の円形になっていて、周囲は全部木々で覆われていた。唯一、一本道だけが決闘の場に繋がってる。
「俺の目だと見えなくもないが、昼間でもやはり暗いな。森の中は」
 森の中から戻ってきた李風龍(ea5808)は仲間の元に近づく。
「この場所で決闘か‥‥。さて、横槍を入れずにはいられない性を持つのがデビルと言う奴だ」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)はペガサス・アイギスの傍らで腕を組む。
「一騎打ち‥‥聞こえはいいが、デュールはデビノマニ。額面通り信じられないだけに不安だな」
 李風龍は周囲を見回す。
「これは逆に好機と考えるべきだろう」
 ナノックはデュールをラルフに任せ、自分達はイペスを狙うべきだと考えを披露する。
「騎士の心得はわたくしの与り知らぬ事ですが‥‥『大いなる父』の僕として、ラルフ殿の決断を讃えましょう。妨害は必至なれども、まずはラルフ殿の決断をお聞きしたいところ」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)は、用意してきた色水の樽に手を掛ける。樽にはフェアリーのヨハネスがチョコンと座っていた。
「デュールをラルフ殿に任せるのは賛成だ。イペスを討ち取るべきだと俺も考える」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)はヒポグリフのミストラルで空からの警戒をするつもりでいた。ナノックも同様に空からの警戒をするようだ。
「見えた未来ですが、決闘自体はまず行われるのを示しています。それ以外は曖昧でした」
 リアナ・レジーネス(eb1421)は敵の探知や報告を主に行うつもりであった。視界が遮られて森の中はわかりにくい。それらを魔法で補完するつもりである。
「注意すべき点はいくつかあります。黒分隊員や冒険者に見せかけた決闘の妨害。決闘中のラルフ隊長への横槍。決闘を囮にした襲撃といったところでしょうか」
 シクル・ザーン(ea2350)は特に襲撃について危惧を抱いていた。幸いな事に森の周辺に人気はなく、特に柵などは用意必要は無さそうであった。
「決闘とはな、未だに騎士とやらの誇りは持っていたか。それにしても円形の決闘場だ。全方向を警護する必要がある。詳しい作戦は黒分隊が到着してから相談するとしても、班分けはしておいた方がいい」
 氷雨絃也(ea4481)にナノックが頷く。
「もしもの時は、出来るだけ決闘場から離れた位置で各個撃破するべきですね‥‥。それこそ決闘の邪魔をしたら、どのような噂を流されるのかわかりません。デビルが自分達の存在を隠したいのならオーガ族を使うのが手っ取り早くはあります」
 乱雪華(eb5818)はいつも使う鳴弦の弓の使いどころをどうしようか迷っていた。決闘の近くでは使えないからだ。
「邪魔は‥‥まぁ、あると思っといていいだろ。あたしらで御両人を決闘に集中させてやろうぜ。ん? さっそく主賓のお出ましだぜ」
 シャルウィード・ハミルトン(eb5413)は木々のざわめきの中から馬の蹄の音を聞き分ける。
 間もなく騎馬と馬車の列が道の奥に姿を現す。ラルフ率いるブランシュ騎士団の到着である。
「今回も世話になる。部下達と共に、どうか決闘を邪魔されぬようにお願いする」
 馬車を下りたラルフは、まず冒険者達に声をかけた。
「ちゃんと一騎討ちするぐらい騎士道精神が残っているなら、仲直りして悪いことしなければいいのにねぇん」
 エリー・エル(ea5970)はラルフの前で口を尖らせる。
「そうだな、それが一番だ。だが、目指すものが違う‥‥わたしが許すことは出来ない未来をデュールは選んだのだから」
 プンスカ怒るエリーを前にしてラルフは最後、奥歯を噛みしめた。

●一騎打ち
 決闘の開始は、四日目の太陽が一番高くなった時と決められていた。
 ブラーヴ騎士団が決闘の場に現れたのは開始の約一時間前である。
 冒険者達は守りの位置につく。
 北班は氷雨絃也と黒分隊隊員三名。
 南班はシクルと黒分隊隊員三名。
 東班はシャルウィード、李風龍と黒分隊隊員二名。
 西班はエリー、乱雪華と黒分隊員二名。
 空からの索敵と防衛はデュランダルとナノック。
 全体の援護として行動するのはフランシアとリアナである。
 これまで死闘を繰り広げてきたブラーヴの騎士達が間近にいる状況に、戸惑いを持つ者もいた。
 試しにエリーは話しかけてみるが無視をされる。頬をプクッと膨らませて怒るエリーである。
 デュールを除くブラーヴの騎士達は十八名を数えた。
 乱雪華はグリフォン・ヤーマオで空から地上を確認した後で配置につく。
 鎧を始めとする防具を身につけ、ラルフは魔力の込められた長槍を装備する。デュールも準備が終わり、互いに決闘の場へ移動した。
「一度彼の者とは死合ってみたかったが、此処はラルフに譲り腕を見極めさせてもらうか、得る物があるかも知れん」
 氷雨絃也は北班の黒分隊隊員に背中を預けて決闘の場に視線を向ける。騎馬姿の二人を強い日差しが照らしていた。中央にはフランシアの姿がある。
「では! 始め」
 フランシアは合図が出すとすぐに配置に戻る。
 両者は互いに突進する。
 馬が土煙を上げ、騎乗する者の槍は水平に保たれる。勢いよく二騎は交差した。互いの槍は鎧から弾け、一度目では勝負はつかない。反転し、より長い距離で二騎は再び突進した。
 ラルフの勢いがわずかに勝り、長槍を受けたデュールが落馬する。ラルフはぐらつきはしたものの、馬上に踏みとどまる。
 ここでラルフの勝ちだとしても異論を挟む余地はなかった。だが、ラルフは馬から飛び降りると刀を構える。
 起きあがったデュールも剣を抜いた。

(「敵の呼吸を発見。方角は北東と南西から。大きさからの推測ですがオーガ族と思われます」)
 リアナはブレスセンサーで知った敵の位置をヴェントリラキュイで、それぞれの班の代表に伝える。
 ちょうど、ラルフとデュールの刀剣の戦いが始まった瞬間であった。
 冒険者と黒分隊隊員は二人の決闘に向けていた意識を、完全に敵へ向けた。
「僕のデビルは?」
「いない。いないはずはないのだが」
 デュランダルとナノックは、リアナからの報告を聞いて戸惑う。敵は地上のみで、空中には誰もなかった。
 北東からの敵には北班、南西からの敵には南班が対応する。東班と西班はさらなる敵の攻撃に備え、少々位置を変えながらも待機した。
(「未だラルフ殿の失墜を諦められぬよう‥‥」)
 周囲の状況を確かめながらフランシアは心の中で呟く。デビルが現れて妨害をしたのなら決闘の意味がなくなる。オーガ族しか現れていないのは、まだデュールの勝利をデビル側が諦めていない証拠だ。
 ラルフとデュールの刀剣の戦いは熾烈を極めていた。互いに紙一重でかわし、決定の一撃はまだであった。

「オーガ族とはな。デビルは‥‥これからか?」
 北班の氷雨絃也は黒分隊隊員三名と連携をしていた。敵に背後をとられないよう戦う。
 木に登って投擲するオーガには少し苦慮するが、それ以外にはあっという間に両断にする。
 槍に持ち替えた黒分隊隊員が木の上のオーガ族を地上に引きずり降ろす。
「陽動か?」
 氷雨絃也は慎重に状況を見極めようとしていた。

「動き、この臭いは!」
 シクルは南班に近づいてくるオーガ族がズゥンビ化しているのに気がつく。すぐさま聖水を取りだして振りかける。
「行きます!」
 さらにソードボンバーを放つと、黒分隊隊員三名と共にズゥンビオーガ族の群れに攻め入った。
(「たたのオーガ族ではなく、ズゥンビだとすると背後にデビルの影が見え隠れしますね」)
 戦いながらシクルは考えを巡らした。

「ぼろが出たとみるべきかね」
 待機していた東班のシャルウィードは、近くにいたブラーヴ騎士四人の行動に毒づく。ブラーヴ騎士四人が剣を抜き、構えたからだ。
「ハミルトン殿、違うようだ」
 李風龍は風精龍・飛風の鳴き声を聞いてブラーヴ騎士四人とは別の方向に視線を向ける。
「こっちからも来たのかい!」
 シャルウィードも昼間でも暗い森の奥に蠢く一団を視認する。
 ラージバットとインプの群れであった。木々の間を器用にすり抜けながら黒い翼が東班に迫る。
「任せてくれ」
 東班の黒分隊隊員が弓をしならせて矢を敵の翼に向けて放つ。
「ラルフ殿の決闘の邪魔はさせん!」
 李風龍は大錫杖を振るった。
(「そういや、ブラーヴの奴らは?」)
 シャルウィードが戦いながら意識を周囲に向ける。何故かブラーヴの騎士達もラージバットとインプを相手に戦っていた。

 西班も東班とほとんど同じに敵の襲来を知った。
「イペスはどこにいるねぇん?」
 エリーはグレムリンと戦いながらイペスを探す。襲撃を指揮するのがイペスだとエリーは女の勘で決めつけていた。
「この位置なら」
 乱雪華は鳴弦の弓をかき鳴らし、エリーと黒分隊隊員二名の戦いを支援する。ある程度敵の数が減ったのを確認し、オーラの力を拳に付与して直接の戦闘に挑む。
 西班の近くにいたブラーヴの騎士達もグレムリンと戦っていた。

 仲間が討ち洩らした敵をフランシアとエリーは撃退する。そして、ついにラルフとデュールの戦いが動く。
 ラルフがデュールの首筋近くの隙間に刀を滑り込ませた。血しぶきが上がり、デュールは倒れ込む。
 シルヴァンエペの切っ先がデュールの喉元にあてられて勝負は決まった。
 無言のまま、ラルフとデュールは視線を合わせ続ける。
 その時ナノックは目撃する。上空からグレムリン五匹に追いかけられるように天使が急行下してゆくのを。
「イペス!」
 ナノックはそれがプリンシュパリティ・ハニエルの姿に似せたイペスであるのを即座に見抜く。判断を鈍らせる為のイペスの策略であった。
 ペガサス・アイギスと共にナノックも急降下する。グレムリン五匹が急反転すると体当たりを喰らわせてきた。
「俺はグレムリンを! イペスは任せた! デュランダル!」
 同じく急降下していたヒポグリフ・ミストラルに跨るデュランダルにナノックは叫ぶ。
「うおおおっ!」
 地面に激突する勢いでデュランダルは急降下し続ける。イペスが向かう先にはラルフの姿がある。
「なに?」
 地面すれすれで天使姿のイペスは軌道を変えた。
 敵の排除が終わり、冒険者と黒分隊隊員は決闘の場の周囲に集まり始めている。その中の黒分隊隊員一名にイペスは目を付けた。
「往生際が悪いぞ!」
 氷雨絃也はイペスの飛翔方向に立ちふさがる。イペスとすれ違い様に剣を振り下ろす。イペスの右翼の先端が切り取られる。
「やらせるか!」
 李風龍は大錫杖の先端を地面に食い込ませて、反対側を握ったまま反動で跳ねる。繰りだされた李風龍の右足はイペスの顎を蹴り飛ばした。
「消滅しろ!」
 追いついたデュランダルは重い一撃をイペスの背中に放つ。クルクルと風に舞う落ち葉のように、イペスは弾け飛ぶ。
 巨木に激突したイペスは地面に落下して動かなくなる。だが周囲にグレムリンとインプが集まって囲んだ。
「邪魔すんじゃねぇよ!」
 イペスに止めを刺そうとしたシャルウィードにグレムリンがまとわりついた。ぐったりとしたイペスをたくさんのインプが掴んで空に飛び上がる。
「当たって」
 リアナはライトニングサンダーボルトを放つが、わずかに逸れてイペスには当たらない。
「ブラーヴ騎士団も逃げるのねぇん!」
 エリーが愛馬に乗りながら仲間に叫んだ。
 周囲の意識がイペスにとられているうちに、ブラーヴ騎士団の者達によってデュールが運ばれようとしていた。
「ラルフ殿は無事。デュールを!」
 フランシアはラルフの周囲にホーリーフィールドを張る。決闘は終わったので阻害するものは何もない。
「決闘であるのに何の代償も払わずに逃げるとは卑怯者がすることです!」
 シクルは逃げてゆく騎乗のブラーヴ騎士団にソードボンバーを放った。
「乗るのねぇん!」
「助かります!」
 エリーが騎乗しながらシクルの愛馬を連れてきてくれた。シクルも愛馬に飛び乗ってブラーヴ騎士団を追うが、オーガ族ズゥンビに道を塞がれて諦めざるを得なくなる。
「後方にもたくさんのデビルが控えていました。残念ながら‥‥」
 乱雪華はグリフォン・ヤーマオに跨り、運ばれるイペスを追いかけた。だが決死のデビルの抵抗で見失い、帰還する。
「狙っていたのは、ラルフ黒分隊長ではなく隊員の人達だったのかなぁん?」
 戻ってきたエリーは口の端に人差し指をあてる。
「どうであれ、決闘の勝利者はラルフ黒分隊長です」
 レウリー隊員がラルフに振り返った。
「阻止してくれて助かった。しかしブラーヴの騎士らも、どうやら襲撃を知らなかった様子に見えたのだが‥‥」
 ラルフがシルヴァンエペを鞘に収める。
「僭越ながら、わたくしが」
 フランシアは勝利の祝福をラルフに施すのだった。

●写本
 冒険者達はラルフからルーアンのヴェルナー城に招かれた。
「アガリアレプトがしてやられるような説話がありゃいいのにねぇ〜」
 シャルウィードがベットに寝転がる。
 フランシアは同室で写本を熟読していた。
「やはり‥‥」
 何度読み返しても、フランシアには本の内容がアガリアレプトの秘密に繋がっているとは思えなかった。
 何処を切り取っても空想の物語である。デビル側の視点による後味の悪い結果を除けば、吟遊詩人の詩に出てきそうな内容だ。
「失礼します」
 しばらくしてラルフの使いの者が部屋を訪れた。
 フランシアは調査を願って、写本の中に登場する人物を書きだした手紙をラルフに送ったことがある。その結果であった。
「テギュリア・ボールトン‥‥」
 フランシアは使いの者が口にした名前を復唱する。本に書かれていた中で、唯一実在の人物のようだ。逸話の中ではアガリアレプトと会った人物として描かれている。
「そいつが生きていりゃよかったのにさ」
「かなりのご高齢ですがご存命でいらっしゃいます。エルフの老翁ですので」
 シャルウィードに使いの者が答える。フランシアは驚きの表情を浮かべた。
「ルーアンへお越し願えるように現在説得中です。どうにも偏屈な方のようで難航してい‥‥失礼。今のは聞かなかったことにして下さい」
 失言をした使いの者はそそくさと部屋を立ち去る。
 フランシアとシャルウィードは宴席の時、仲間にテギュリアの存在を話す。
 ラルフもテギュリアも存在に期待を寄せていた。

 九日目の朝、冒険者達はセーヌ川に浮かぶ帆船に乗り込んだ。今回の礼として黒分隊から追加報酬が手渡される。
 十日目の昼過ぎ、冒険者を乗せた帆船は無事パリの船着き場に入港するのだった。