少年の冒険 〜アーレアン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:8 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月30日〜05月08日

リプレイ公開日:2009年05月09日

●オープニング

「お〜い」
 地下洞窟の奥、少年ハロフはたいまつを掲げて叫ぶ。
 目の前にあるのは水面。やがて現れたのはシャチの子供である。
 ドレスタット北東の湖内に浮かぶイグドラシル遺跡の島。その地下でハロフはシャチの子供と会っていた。
 出会いは偶然だった。
 約一ヶ月程前、たまたまハロフが誰も近寄らない洞窟に潜ったところ、シャチの子供が洞窟奥の小さな水面で泳いでいるのを発見する。
 ワーウルフの子供であるハロフは、即座にシャチの子供が何らかの理由で湖に迷い込み、さらに魔法の障壁の隙間をぬって島の地下に辿り着いたと推測した。
 島周辺より遠くへ行ってみたかったハロフは、その日から準備を始める。そしてすべてを整えて今日を迎えたのだ。
「頼んだぜ」
 ハロフは大きく息を吸うと裸に近い姿でシャチの子供にしがみつく。
 シャチの子供は潜水し、洞窟底の小さな隙間をかいくぐる。しばらくしてシャチの子供と共にハロフは島から遠く離れた湖面に浮かび上がった。
「死ぬかと思った‥‥」
 途中で偶然に空気が溜まる空間を通過したおかげでなんとか息が続いた。そうでなければ溺れていたところだ。予想していた通り、浮かんでいる辺りは魔法の障壁の外側である。
 ハロフは服を着ると陸を歩いた。シャチの子供は湖を泳いで海岸付近まで辿り着く。
「砂浜はまずいから、固い地面を走らないと‥‥」
 ハロフは島で用意してきた車輪を拾った太い流木に取りつける。そしてシャチの子供を乗せると流木に取りつけたロープを引っ張って一気に海辺を目指す。
 今度はハロフがシャチの子供を助ける番である。
 息も絶え絶えに約三百メートルを駆け抜けて岩場の海岸へと到着した。倒れる前にシャチの子供を海へと帰してあげる。
(「ミリント‥‥もうすぐ‥‥」)
 ハロフがこんな無茶をしたのは二年前に島を出ていったワーウルフの少女ミリントと再会する為だ。
 しばらく休憩してからハロフは立ち上がって歩き始めるのだった。


 アーレアンはフェアリー達が届けてくれたヴァルキューレ・ブリュンヒルデからの木皮の手紙を読み、冒険者ギルドで仲間を募集する。差し迫った内容ではなく、今後の相談をしたいとだけしたためられていた。
 ハロフが島から消えた事実が発覚するのは、冒険者一行が島に到着した後になる。

●今回の参加者

 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb0416 イェン・エスタナトレーヒ(19歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

鑪 純直(ea7179)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ パール・エスタナトレーヒ(eb5314

●リプレイ本文

●出発と到着
「こんな感じでいいかな?」
「アーレ、ありがとね」
 ドレスタットの冒険者ギルド個室。アーレアンは諫早似鳥(ea7900)から頼まれたエイリーク辺境伯宛ての手紙を書き終える。
 内容は精霊の排斥の片棒を担いでいたマッタラについてだ。騒ぎが起きた町の人々に処分を任せたのだが、諫早似鳥はエイリーク辺境伯に身柄を引き取らせた方がよいとの考えを持っていた。
 事情は知らせるので後はエイリーク辺境伯の判断次第となる。
 船着き場へ向かうまでに手紙を出し、冒険者一行は海戦騎士団の帆船エグゾセ号へと乗り込んだ。
 暮れなずむ頃には湖に近い海岸へ小舟で下ろしてもらう。そして湖の畔にある船の係留場まで歩いてゆく。一晩を係留所付近で過ごしてから、中型帆船を借りてイグドラシル遺跡の島を目指した。
「船はやっぱええわ〜」
 いつもの事だが大型帆船の指揮も出来るルイーゼ・コゥ(ea7929)がいなければ手漕ぎの小舟で渡らざるを得なかった所である。
 二日目の昼前に島の沿岸に辿り着くとフィディエルのクールネが出迎えてくれた。
「ブリュンヒルデがすぐにでもみなさんに相談したいと」
 クールネの伝言に冒険者達は疑問を持つ。アーレアンが受け取った木の皮の手紙には確かに相談の来訪が願われていた。だが差し迫った内容ではなかったはずだ。
 とにかくと一行は島中央の遺跡へと急ぐ。
「これは皆様、お呼びだてして申し訳ありません。今後の相談をと考えていたのですが、突然の問題が起きまして――」
 到着するとさっそくヴァルキューレ・ブリュンヒルデが事情を話してくれた。
 冒険者の多くが知るようにイグドラシル遺跡の島にはビーストマンの集落がいくつも存在している。その中のワーウルフの集落で子供が一人行方不明になったという。名はハロフという男の子である。
「ある日を境にして突然いなくなりまして‥‥、島内を捜索しましたが影も形もなく。どのような抜け道かはわかりませんが、島の外に出たのではないかと。そこで島から出られないわたくしどもに代わって皆様にハロフを連れ戻してもらいたいのです」
 ブリュンヒルデの願いを冒険者一行は即座に引き受けた。ワーシャークの子供二人が殺された事件と似た臭いを感じ取ったせいかも知れない。
「それではわたくしがひとっ飛びしてワーウルフの皆様から聞いてまいりますわ〜」
 シャクリローゼ・ライラ(ea2762)が自らの羽根で飛んでゆく。
「僕も行って来ますね。ハロフくんがとても気になります」
「私も集落に行くのだわ。どこにいったのかわからないと始まらないし」
 壬護蒼樹(ea8341)が広げた空飛ぶ絨毯にイェン・エスタナトレーヒ(eb0416)が乗り込む。
「私も気になりますので行ってきます。容姿を知りたいです」
 リーマ・アベツ(ec4801)は自前の空飛ぶ絨毯を発動させた。こちらには諫早似鳥が同乗させてもらう。
「私を含めて他の方々は出港準備がよいでしょうね」
 マロース・フィリオネル(ec3138)の意見に反論する者はいなかった。
 約二時間後、ワーウルフの集落から仲間が戻ってくると中型帆船は島から離れる。湖の畔にある係留所に着いたのは宵の口であった。

●町へ
 ワーウルフの集落で手に入った重要な情報はいくつかある。
 その中で重要なものは二つ。
 一つはハロフが二年前に島から家族と一緒に出ていった女の子ミリントを未だに忘れていない事。もう一つはミリントの家族が移住するといっていた町の名前だ。ネトガスカといわれる町らしい。
 二つの情報から冒険者一行はハロフが向かった先がネトガスカだと見当をつけた。目立つのを避ける為に何体かのペットは中型帆船の船倉へと預けられる。
 三日目の朝を迎えた冒険者一行は二手に分かれてネトガスカへと向かった。
 空飛ぶアイテムを活用して先行し、ハロフが接触しようとしてる家族を探す『ミリント捜索班』は壬護蒼樹、ルイーゼ、イェンの三人。ちなみに飛行アイテムでは水没の危険があるので昨日の湖横断には中型帆船が利用されている。シフールの飛翔能力とはまた別の話だ。
 ハロフ捜索班であるシャクリローゼ、諫早似鳥、マロース、リーマ、アーレアンの五人は、係留所の兵士達から馬車を借りてネトガスカを目指した。

●ミリント捜索班
 ミリント捜索班は昼過ぎにネトガスカの町へと到着する。まずは宿を探して拠点を決めた。
「ほなウチは町の商人ギルドで話をつけてくるやさかい。またな〜」
 ルイーゼはハロフ捜索班が行う肉料理の屋台準備を整える為に飛んでいった。ハロフはワーウルフの子供なので、特に肉料理が好きなのではと想像されたからだ。
 手配が終わったのならルイーゼはミリントの捜索に従事する予定である。
「それではもう一度やってみるのだわ」
 イェンは金貨を取りだすとサンワードを使ってハロフとミリントの居場所を順に太陽から教えてもらおうとする。
 何処かに隠れているのか残念ながらハロフについてはわからなかった。
 ミリントについては大まかに判明する。宿屋を基準にして当てはめると、ミリントがいるのはどうやら町の東側らしい。
「僕は目立つのでしばらくは宿で静観したいと考えています。それと――」
 壬護蒼樹に頷いたイェンがさらにもう一回サンワードを使う。頬に傷を持つエルフの女性『ノーム』を探す為に。
 ノームはかつて島を去ったワーシャークの夫婦をそそのかしている。今回も湖をデビルに監視させていても不思議ではない。そうであるならば、ハロフの存在はノームにばれているはずだ。
「まだこの町にいなくて遠くなのだわ」
 イェンが壬護蒼樹を見上げる。
 太陽によればノームの特徴を持つ人物はまだ遠くにいるらしい。ダバのドステリィーアについてはわからないとの返事があった。

●ハロフ捜索班
 馬車で向かうハロフ捜索班は途中で馬車を停めて準備を行った。
「次はマロースだ」
 諫早似鳥はハーフエルフのリーマとマロースの髪の一部を編み込んで耳が隠れるように気をつかう。
 パリやドレスタットのような都会と違い、これから訪ねるネトガスカは田舎である。それ故にマロースとリーマがハーフエルフなのがばれると厄介だと諫早似鳥は感じていた。
 その他にマロースが用意してくれた古着に着替えて変装も完了する。
 夕方、ネトガスカに到着するとイェンが出迎えてくれた。そのまま馬車は宿へと駆けてミリント捜索班と合流するのだった。

●罠
 雲一つない澄んだ空が広がる四日目の朝、ネトガスカの広場にはたくさんの市が立つ。
 その中に芳ばしい香りを漂わせる一角がある。ハロフ捜索班が用意した肉の串焼き屋台であった。
「とってもうまい。一口食べたらホッペタ落ちちゃうよ〜」
 アーレアンが串焼きをもって呼び込みに精を出す。
「はい〜。二串ですね。少々お待ちを♪」
 諫早似鳥は炉の網上で肉が刺された串をひっくり返した。人の子供に変装しているので年齢に合わせた口調である。
 最初は少しずつの客入りだったが、徐々に人だかりが出来てゆく。
(「集落で聞いた話では、ハロフさんは人の世界に詳しいといえなかったようです。きっとお腹を減らしているはず‥‥」)
 リーマは広場の人混みの中に紛れて焼き肉の匂いに誘われるであろうハロフを待ち続ける。今朝フォーノリッヂの魔法で見た未来がこんな感じの人混みであった。
 町の外はシャクリローゼが見回るというのでフェアリーのゾフィエルも一緒である。目立たないように袋の中で待機してもらった。
(「どんな感じだね?」)
(「ハロフらしき子供はいないね。今の所、デビルの反応もないよ」)
 アーレアンは諫早似鳥からのテレパシーに答えた。デビル感知は借りた杖のレミエラ反応によるものだ。
 その頃マロースは町中を歩いてハロフを探し回っていた。同時に警戒していたのはデビルの存在である。
(「町中にはいないようですが‥‥油断は禁物です」)
 マロースはデティクトアンデッドを絶やさないようにして町を隈無く歩き続けた。
(「静かに、静かにですわ‥‥」)
 シフール便に扮して町の外を探していたシャクリローゼは思わぬ状況に遭遇してしまう。急いで身を隠し、ミスラのユニを静かにさせようと懸命になる。
 試しに頼んだユニのサンワードでデビルが間近にいるのを知ったからだ。
(「ノームの手下かしら? それとも追跡されたのかしら?」)
 シャクリローゼは息を潜めながら考える。木のウロから頭を出して探してもデビルの姿は見つからなかった。
 透明化しているのではと考えたシャクリローゼは、自らとも消えようとインビジブルの魔法を唱える。ユニにもかけて二人で町中へと逃げ込むのであった。

「あ、間違えてしもうたわ。堪忍な〜」
 ミリント捜索班のルイーゼは新米シフール便になりきって家々を回る。
 そしてミリントの家族が住む家を特定した。ミリントとその家族の容姿は集落で聞いたのでまず間違いない。
「そうですか。やはりイェンさんがいってたあの辺りに住んでいましたか」
 宿の部屋に待機していた壬護蒼樹がイェンと一緒にルイーゼの報告を聞いた。
「た、大変ですわ〜。デビルが町の周囲で隠れていましたの〜」
 その後すぐにハロフ捜索班のシャクリローゼが窓から飛び込んでくる。
「間違いないんだわ」
 イェンがもう一度サンワードで太陽に聞き直しても答えは同じであった。質問を微妙に変えてみたところ、五体のデビルがいると判明する。
「もしそのデビル等がノームの手下ならば、ハロフが逃げないように町を周囲から監視する命令を受けているのかも知れませんね」
 戻ってきたマロースによれば、ネトガスカ内で不死者に類する存在は確認出来なかったという。
「作戦の変更というか、考え方を少し変えないといけないですね」
 壬護蒼樹が呟いた。

●ハロフ
 五日目の広場でも焼き肉の屋台は行われた。
 昼が過ぎようとした頃に事態が動き始める。
(「それらしき少年がそちらを見ています。屋台近くの木の後ろに――」)
(「確かに特徴は集落で聞いた通りだね」)
 諫早似鳥はマロースと念波で話し、ハロフらしき男の子を発見する。そして思い切り扇子で肉の焼ける匂いを木の方向へと仰いだ。
 炉の前をアーレアンに任せて諫早似鳥が男の子に近づく。
「ねぇ、とっても忙しいの。もしよかったら賄い付でお店手伝ってくれないかな?」
「えっ、俺?」
 金に見える愚者の石を見せながら諫早似鳥は男の子を誘う。
 男の子の腹の虫が返事となった。とりあえず一串を食べさせてあげてから手伝ってもらう。
 デビルを警戒しながらの商売であったが、何事もなく好評なまま続いた。
「俺、ハロフっていうんだ。ここんとこ何も食べてなくて困ってたんだよ」
「そうだと思ったわ。だってキミってワーウルフでしょ?」
 会話が弾むようになった頃、諫早似鳥は事情をあきらかにした。デビルにいつ襲われるかも知れない状況であまり悠長な事はしていられなかったからだ。
 驚いた様子のハロフだったが、どこで覚悟していたのか逃げるような真似はしなかった。
 聞けばまだミリントとは会っていないという。勢いでやって来たものの、いざとなったらミリントに忘れられているのではないかと臆病になったようだ。
「痺れを切らせたようでデビルが一体近づいてきます!」
 人混みに隠れていたマロースが屋台前に現れて叫ぶ。切迫している状況を諫早似鳥とアーレアンは感じ取った。
「何かあったら今教えた宿屋に向かってね」
 諫早似鳥はハロフにジャーニージャケットを着せるとインビジビリティリングを貸した。さっそく発動させて透明になってもらう。
「あとわずかです!」
 マロースはホーリーフィールドを屋台周辺へと張る。
「そこ!」
 大きく振りかぶった諫早似鳥はマロースが指した方向に白の聖水が入った瓶を投げた。何もないはずの空間から奇声があがり、黒い物体が浮かび上がる。
 それはグレムリンであった。
 聖壁の保持に気を使いながらマロースがホリーを放つ。諫早似鳥は手元に戻ってくるレミエラ付きの魔力が込められた手裏剣で攻撃を続ける。
「逃がすか!」
 飛び去ろうとしたグレムリンをアーレアンがファイヤーボムで仕留める。レミエラの力で範囲を縮小させてあったので人的被害には及ばない。
 ちょうどその頃、町の外でもデビルとの戦闘が始まっていた。
 屋台上空でハロフの確保を目撃したシャクリローゼが宿屋の仲間達に知らせてデビル退治を決行したのである。採用された作戦はデビル四体の各個撃破だ。
 シャクリローゼとイェンのサンレーザーが降り注ぎ、ルイーゼのライトニングサンダーボルトが空気を切り裂いてグレムリンを貫く。そして一気に壬護蒼樹が大錫杖で追い込んでいった。
 ノームや仲間へ連絡されないようにリーマのグラビティーキャノンが逃げようとしたグレムリンを捉える。
 ジニールのネフリティスも風魔法で手を貸してくれた。
 約一時間後、ネトガスカ周辺のデビルは一掃される。
 事が一段落し、冒険者達はハロフをミリントが住む家へと案内する。
「えっ! もしかしてハロフなの?」
「あ、あの‥‥。ちょっと近くに用事があったんで、どうしてるかと思ってさ」
 冒険者達は邪魔をしないように家の外で待つ。
 その間サンワードでノームの監視を続けた。町に近づいているのがなんとなくわかるものの、大まかなので判断がとても難しい。
「ハロフさん、残念ですが‥‥」
 声をかけた壬護蒼樹の瞳は悲しみに満ちていた。
「うん‥‥。これ以上俺がここにいたらミリントの家族もデビルに見つかってしまうんだよね。それじゃあミリント、さようなら」
「ハロフ、会いに来てくれてありがとう」
 別れを告げるとハロフは馬車へと飛び込む。そしてノームが来ないうちに一行はネトガスカの町を後にするのだった。

●そして
 冒険者一行はイグドラシル遺跡の島へ立ち寄ってハロフを無事送り届けた。その時、感謝の印としてブリュンヒルデからレミエラが贈られる。
 ちなみに屋台の儲けは全員で分配された。
 シャクリローゼが別れ際にした質問にブリュンヒルデが困った表情を浮かべる。今回のような事態が起こらないように、島全体を魔法の障壁で完全に包み込めないものかというものだ。
 一瞬ならともかく長くは無理だとブリュンヒルデは答えた。現状を維持するだけでもとても大変なのだと。障壁の開閉方法については秘密とされる。
 八日目の夕方、一行は帆船エグゾセ号でドレスタットの地に帰還した。