心の重み 〜アーレアン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:9 G 43 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月23日〜06月04日

リプレイ公開日:2009年05月30日

●オープニング

「君がアーレアン君か」
「あなたは?」
 昼のドレスタット冒険者ギルド。ぼんやりと考え事をしていた青年ウィザード・アーレアンは中年男性に声をかけられる。
 中年男性は自らをストッシュと名乗った。そして秘密の相談があるといってアーレアンを相談用の個室へと誘う。
 初対面の怪しい状況に断るアーレアンだが、ストッシュの囁きで考えを変えた。ストッシュは自分がワータイガーだとアーレアンに打ち明けたのである。
 証明としてストッシュは個室に入るとアーレアンの目の前でワータイガーに変身してみせた。他の者にばれないようすぐに人の姿へと戻る。
「長く人の世界で暮らしてきたわたしですが、イグドラシル遺跡の島へと戻りたいのです。デビルとの戦いが本格的になる前に島へと戻って、仲間に手を貸したいと考えまして」
「理由はわかったけど‥‥。どうしてそれを知っているんだ? 俺の顔も知っていたし」
「アーレアン君も何からの方法で島と連絡をとっているのですよね? やり方は明かせませんが、わたしも島の同胞と連絡をとっているのです。それでいろいろと知ったんですよ。昔ならともかく、今は魔法の障壁がきつすぎて単独では戻れそうもないので――」
 ストッシュは仲間に力を貸す為に島へ戻りたいだけだと繰り返した。
「‥‥わかった。依頼をギルドに出してもらえれば参加するよ。ただし、イグドラシル遺跡の島へ向かうのは内緒にして、どこかへの旅の護衛募集とかの内容にして欲しいんだ」
「了解しました。ではそのように」
 さっそくストッシュがカウンターで依頼を出す。ワータイガーであっても、人の姿なら特に疑われはしなかった。
「これで俺の参加もよしと‥‥。依頼最初の朝に船着き場で待っていてね」
「わかりました。それではよろしくお願いしますね」
 アーレアンはギルドを去ってゆくストッシュを見送る。
「何だかおかしな感じもするけど‥‥」
 アーレアンは心の奥に引っかかるものを感じていた。

●今回の参加者

 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb0416 イェン・エスタナトレーヒ(19歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●迷い
 早朝のドレスタットの船着き場。
「しばらくよろしくお願いします。アーレアン君から聞いているかも知れませんが――」
 依頼人のストッシュは集まってくれた冒険者達に自分がワータイガーであるのを明かす。
 宿奈芳純(eb5475)を除けばこれまでにイグドラシル遺跡の島に関わっていた者達だとアーレアンから聞かされていたからだ。
 一通りの挨拶を交わすと、さっそく係留されている海戦騎士団のエグゾセ号へと乗り込んだ。
 船長の号令の元、帆が張られてエグゾセ号は出港する。目指すはイグドラシル遺跡の島がある湖近くの海岸である。
「人と一緒のこれまでの生活はどうでしたか?」
 壬護蒼樹(ea8341)は甲板の船縁に腕をかけて海を眺めていたストッシュに話しかける。
「悪いこともありましたが、それ以上の良いことも。できるのならずっと人の中で生活をしていきたかったのですが‥‥」
 遠くを見つめるストッシュの姿に深い悩みがあるのではないかと壬護蒼樹は想像する。
「? なにしているんだろ」
 ふと振り向いた壬護蒼樹は甲板上にアーレアンの姿を発見して近づいてみる。
「あ、壬護さん。ちょっと姉ちゃんに手紙でも送ってみようかなって思って。しばらく会ってないし。でもさ、いい文章浮かばないんだよな」
 アーレアンは甲板に固定されていた木箱を机代わりにして手紙の文章を考えていた。故郷の村に住んでいる姉のイレフールに向けてである。
 アーレアンと壬護蒼樹が肉親の話題に花を咲かせている姿をストッシュはじっと見つ続けた。
 昼の半分が過ぎようとしていた頃、甲板で身体を動かしていたパラーリア・ゲラー(eb2257)は立ち止まる。
「はわっ? ストッシュさん、どうかしたのかなぁ? もしかしてお腹が痛いの?」
 パラーリアはうずくまるストッシュに近づくと腰を屈めて顔を覗き込む。
「すみませんが‥‥、みなさんをわたしの船室に集めてもらえるでしょうか? わたしもすぐに向かいますので」
「うん、いいよ〜。お話があるんだね〜」
 了解したパラーリアは元気な様子で甲板室内の階段を駆け下りてゆく。
 しばらくしてストッシュに割り当てられていた船室内に冒険者全員が集まった。当の本人は一番最後に現れる。
「実は黙っていたことがあります。いえ‥‥黙っていたのではなく、実はアーレアン君に話したことのほとんどが嘘なんです‥‥」
 別の意図をもってアーレアンに近づいて依頼を成立させたとストッシュは吐露した。
「顔に傷のあるエルフのノームとかいう女に妻と娘を誘拐されて、それで悪い事と知りながらいいなりに。指示はイグドラシル遺跡の島で状況を探るようにでした。ノームには異形の手下がたくさんいましてどうにもできなかったのです。わたしは詳しくありませんがおそらくデビルではないかと‥‥」
 ストッシュは震えながら両膝を折って倒れるように座り込み、そして両手を床についた。
「ノームとはどのような方で?」
「そやなぁ〜。デビルのダバのドステリィーアと組んで悪さしとるエルフ女なんよ。それでイグドラシル遺跡の島を狙っているんやわ」
 宿奈芳純にルイーゼ・コゥ(ea7929)が簡単な説明をする。
「ノームならやりそうですわ。これまでにもたくさん騙してきましたもの」
 シャクリローゼ・ライラ(ea2762)はワーシャーク夫婦を思いだす。非常に間接的だが森で暴れていたゴーゴンもノームに騙されたといえる。
「‥‥事情はわかったよ。いろいろといいたい事はあるけど一つだけ‥‥。協力はする。が、これから嘘ついたらアンタを殺す」
 諫早似鳥(ea7900)は生気の感じられない瞳でストッシュを睨んでから一歩下がって勢いよく椅子に座った。
「助けてあげるのに反対の人はいる?」
 アーレアンに問いに返事をする仲間はいなかった。
(「まずは大丈夫そうだわ‥‥」)
 イェン・エスタナトレーヒ(eb0416)は注意深くストッシュを観察してから結論を出す。今現在のストッシュから殺気や嘘をついてる様子は見受けられなかった。かといって信じ切るのは早計だ。
「ノームから指示された時、他に気をつける様にいわれた事とかあるかしら?」
「特にはありません‥‥。ただ七月までに有用な情報を得た上でどんな方法でもいいから島から脱出をして伝えるようにと。遅くても八月の始めにはそうしないと、妻と娘を殺すからと‥‥」
 ストッシュは声を絞りだしながらイェンに答える。
 イェンの問いにデビルの監視についてはいないとストッシュは答えたが、念のために指輪『石の中の蝶』でエグゾセ号の周辺が調べられた。特に反応はなく、ひとまずは安心出来る。
 その他にもストッシュから情報が引きだされた。
 ストッシュの妻と娘は元々住んでいた町から近くの町に監禁されている可能性が非常に高いという。ドレスタットから向かえばどちらの町も馬車で一日半の距離だ。
 諫早似鳥はアーレアンに布へと手紙を書いてもらう。そして鷹の真砂の足に結びつけてイグドラシル遺跡の島へと飛ばした。ヴァルキューレのブリュンヒルデ宛てである。
 手紙にはワータイガーに関わる問題が発生した内容と、ドラゴンによる巡回を密にした方がいいという助言がしたためられてあった。
 湖近く海岸は間近であったが、エグゾセ号は停船して沖で一晩を過ごす。
 朝方に鷹の真砂が返事をもらって帰ってくると、エグゾセ号はドレスタットへと船首を向ける。出港した船着き場へと戻ったのは二日目の暮れなずむ頃である。
 日が暮れるまでに変装に必要な衣服や移動に必要な馬車などが準備される。遠方の町の情報を得るためにもいくらかのお金が使われた。
 支払いはすべてストッシュ持ちだ。本人たっての希望である。
 冒険者同士のアイテムの貸し借りも行われる。アーレアンは諫早似鳥からレミエラ付きのインタプリティングリングを譲り受けた。
 そして三日目の朝に再集結した一同は、馬車に乗り込んでストッシュの妻と娘を救出する旅へと出かけた。

●隣りの町
 四日目の昼頃、一行はストッシュが住んでいた町レイムーラの直前で馬車を停めて野営の準備を始めた。まずは時間が惜しいのを我慢し、夜の訪れを待つ。
 天上の月を確認した上で宿奈芳純はムーンシャドゥを唱え、ストッシュとアーレアンと一緒にレイムーラ内に瞬間移動する。
 すべてはストッシュが戻っているのをノーム側に悟られない為である。
 そして主要な現場で宿奈芳純がパーストで過去の状況を探った。確認したのはノームとネルガル、グレムリン五体の姿だ。
 デビルの足取りを辿ろうとするものの、ノームはアースダイブをし、グレムリンは透明化したので追跡には至らなかった。
 五日目の朝になり、何名かの冒険者は変装をして隣町アルムーラへと潜入した。
 諫早似鳥は酒の臭いを漂わせる為に発泡酒をかけたマントをはおって練り歩く。その格好は黒髭の小男である。偽の名前としてニコルを名乗った。
 情報によって特に治安の悪い周辺は判明していた。昼間は場所を確認して夜に近づく予定である。
 わざと薄汚れた格好をしたシャクリローゼも、昼の間にアルムーラ上空を飛んで町の様子を頭の中に叩き込む。
 パラーリアは情報屋を探しだし、顔に傷のあるエルフ女性がいるかどうかを訊ねた。それらしい人物はいるようだが、名前がノームとまではわからない。多めにお金を渡して口止めするも忘れなかった。
 ルイーゼは野営地に残り、宿奈芳純からの情報を参考にした上でストッシュにもう一度いろいろと思いだしてもらった。
 壬護蒼樹もその場にいたが一番気をつかったのはストッシュの心である。なるべく落ち着く会話をするように努めた。
 犬の小紋太はストッシュの近くで鼻を利かせ、上空では鷹の真砂とクリンが滑空する。
 アーレアンは借りた空飛ぶ絨毯とデビル探知のレミエラ付き杖でデビルの存在を警戒した。
 イェンはサンワードで何度も太陽と会話を試みる。仲間が仕入れた情報を元にして、さらに絞り込む為である。
 大まかな返答から総合して考えると、アルムーラの方角に頬に傷のある女性エルフがいるのは間違いなさそうだ。ストッシュの妻や娘もおそらく同じ場所に監禁されているのだろう。
 ストッシュの想像の域を脱しなかった情報であったが、これでかなり裏付けられる。
 日が暮れて諫早似鳥が危険地域に立ち入ろうとした時にはシャクリローゼが協力した。
 シャクリローゼはインビジブルの魔法を使って酒場の看板や酒樽などを一時的に透明にしてしまう。
 誰かが気がつき、酒場周辺は騒然となる。その反対に危険地域から人影が少なくなってゆく。
 その間に諫早似鳥はフラフラと酔っぱらいを演じながら危険地域を徘徊し、仲間達から得ていた情報を総合して監禁場所を特定した。
 悪魔崇拝者なのか、それとも単にノームが雇っただけなのはわからないが、古びた三階の建物は人による警戒もされていた。見張りは三人で武器は主に剣のようだ。
 ルイーゼも建物近くに隠れてブレスセンサーで建物内の人を数えた。全部で人らしき存在は二十人である。
 より詳しく調べようとした時に妙な叫び声を諫早似鳥は耳にする。
 もう一度聞こえて目を凝らしたが、その方向には誰もいなかった。実は透明化していたグレムリンが諫早似鳥が漂わせる発泡酒の臭いに反応していたのだ。
 酔っぱらったふりを続けて諫早似鳥はその場を立ち去るのだった。

●救出
 六日目の夜になって、また酒場周辺で騒ぎが起こった。
 昨日と同じくシャクリローゼが様々な品を透明化させたのである。
 宿奈芳純が唱えたムーンシャドゥで救出班は五百メートル先にある建物の屋上に落ちていた影へと瞬間移動する。もちろんストッシュの妻と娘が監禁されているはずの建物だ。
 諫早似鳥が扉の錠を外して建物内部に潜入した。
 諫早似鳥を先頭に宿奈芳純、ストッシュ、壬護蒼樹と続く。
 ストッシュを連れてゆくように勧めたのはアーレアンである。疑心暗鬼になっているはずの囚われの二人を信じさせるにはストッシュの存在が不可欠だと考えたからだ。
 建物内には人が多く、発見されないようにするのはあまりにも難しかった。一人二人と敵の見張りを気絶させては簡易に縛って放置する。
 ルイーゼによれば、ブレスセンサーで感知した娘と思われる体格を持つ者は、二階周辺にいるらしい。
 イェンのサンワードでも娘らしい人物が太陽によって発見されていた。つまりは日中に陽の当たる可能性のある方角にある部屋だと推測される。
 見当をつけた部屋の前にいた見張り二人を気絶させた時、多くの敵に潜入がばれる。
 諫早似鳥は開錠の術で扉の鍵を開けた。
 廊下の奥から迫り来る敵にはストッシュが矢で射る。間近に迫ると壬護蒼樹が『大錫杖「昇竜」+1』を手に前衛として戦う。
「わたしです! ヒルダとマシニア、大丈夫かい!!」
 ストッシュが呼びかけると室内の妻ヒルダと娘マシニアが泣きながら応えた。
「あの辺りがよさそうです」
 宿奈芳純が窓の戸を開けて適当な遠方の影を決めると、自分に触るようにとストッシュ親子と仲間達に声をかけた。
 廊下で戦っていた壬護蒼樹とストッシュが部屋へ飛び込む。諫早似鳥は扉を閉めると近くの棚を倒して障害物とした。わずかな時間稼ぎしか出来ないが、魔法の詠唱をするには充分であった。
 全員が自分に触っているのを確認した上で宿奈芳純は遠くの影に瞬間移動する。
「こちらの動きに気づいてくれたみたいですね」
 壬護蒼樹が建物のある方角へと振り返って呟く。
 夜空に走る雷光は建物付近で待機していたルイーゼのライトニングサンダーボルトであろう。
 続いてアーレアンのものと思われるファイヤーボムが夜空で爆発する。
 救出に成功した一同は目立たないように町の外まで徒歩で脱出した。
「あ、こっちだよ〜」
 町の郊外ではパラーリアが御者する馬車が待機していた。全員が乗り込むと可能な限り速く馬車を走らせる。
 灯りはシャクリローゼが置いていってくれたライトの光球だ。シルフの『りろ』がパラーリアの横で支えている。
「怪我はどこにもないようだわ」
 イェンは安心できるようにヒルダとマシニアの側にいてあげた。二人は震えたままだ。
 その頃、ルイーゼとアーレアンは空飛ぶ絨毯で救出班とは反対方向へと飛んでいた。追いかけて来るのはグレムリンの群れである。一瞬だがフライングブルームに乗ったノームも確認された。
 月夜の空で、空飛ぶ絨毯は浮かぶ巨人とすれ違う。
 シャクリローゼが連れてきたジニール・ネフリティスである。
「大暴れしても構いませんわ!」
 自らを透明化して飛んでいたシャクリローゼはネフリティスに攻撃を頼んだ。
 まずはグレムリンの群れにウインドスラッシュを放つ。ルイーゼとアーレアンも空飛ぶ絨毯を着地させて参戦する。
 戦いが激しくなりかけた時にグレムリンの群れが撤退してゆく。ノームかネルガルが陽動だと気づいたのだろう。
 しかし敵にとってはもう手遅れの時間になっていた。
 ストッシュの親子を乗せた馬車はアルムーラの町から遠く離れていたからだ。
 ルイーゼ、シャクリローゼ、アーレアンは空飛ぶ絨毯であらかじめ決めておいた待ち合わせ場所へと向かう。
 そして七日目の昼頃に合流を果たした。
 そのままドレスタットへと向かって到着したのが八日目の夕方。安全の為に帆船エグゾセ号内で一晩を過ごし、翌日には出港する。
 陸にあがって船を乗り換え、イグドラシル遺跡に着いたのは十日目の昼頃であった。
 冒険者達はブリュンヒルデとクールネにストッシュ親子を預ける。
 その際にブリュンヒルデから仲間を助けてくれたお礼にとレミエラが冒険者達に贈られた。
 ストッシュも感謝の印として硬貨の入った革袋をアーレアンに手渡す。
 冒険者達は今来たばかりの路を引き返した。
 革袋のお金は依頼にかかった費用を補填した上で分配される。諫早似鳥にはアーレアンがさらにアイテム代を支払う。まずは三分の一である。
「みんなありがとう。またよろしくね」
 十二日目の夕方に報告を終えた後、アーレアンは元気に冒険者ギルドを立ち去ってゆくのだった。