ラーミアの説得 〜アーレアン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:9 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月17日〜07月26日

リプレイ公開日:2009年07月26日

●オープニング

 港町ドレスタット。
 青年冒険者アーレアンは海が見える木陰に寝転がる。
「えっと‥‥、今回はやけに字が小さいな。それだけたくさん書いてあるってことか」
 アーレアンが目を通していたのはフェアリーの集団が運んでくれた薄い木の皮の手紙である。イグドラシル遺跡の島のヴァルキューレ・ブリュンヒルデからのものだ。
 内容はビーストマンのラーミアについて書かれていた。
 イグドラシル遺跡の島にはいくつものビーストマン集落が存在する。その中の一つにラーミアが暮らすものもあった。
 イグドラシル遺跡の島に住むラーミア達は一般動物の血を得て生きている。しかし島を離れて暮らすラーミアが人を襲うのは珍しくない。中には好んで人を吸血するラーミアも存在する。
 ラーミアは美しい女性の姿で魅了や月魔法によって人を惑わして誘い、生き血を啜るという。変身した姿はとても大きく、蛇に似た下半身を合わせれば十メートル前後もあるらしい。
 人からすれば敵だが、ラーミアの立場からすれば吸血はごく自然な事だ。日々の食事で生存しているに他ならない。
 しかしデビルとの戦いにおいて人との協力が必要な現在、少なくとも湖周辺に住むラーミアには自重してもらわなくてはならないと、ブリュンヒルデとラーミアの長との間で協定が結ばれた。
 アーレアンに宛てられた木の皮の手紙には、湖外縁に住むラーミア二人との交渉が願われてあった。人の血を吸わないという約束だけに終わらず、島への移住を促して欲しいという。
 譲れる一線は、デビルとの戦いが終わったのなら島を自由に出ていっても構わないという約束までである。
 話し合いが決裂した場合は、強制的な島への移住が望まれていた。これは最終手段であり、出来る限り避けて欲しいとも書かれてあった。
(「ラーミアの説得か‥‥。難しそうだ。うまくいかなければ戦う事になりそうだし‥‥」)
 アーレアンは手紙を読み終わるとしばらく目をつむって考え続ける。
「よし!」
 決意を固めたアーレアンは勢いよく立ち上がる。そして依頼を出す為に冒険者ギルドへと駆けていった。

●今回の参加者

 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb9226 リスティア・レノン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

アニエス・グラン・クリュ(eb2949

●リプレイ本文

●相談
 初日、冒険者達は暗いうちに船着き場へと集まると、海戦騎士団のエグゾセ号へと乗り込んだ。
 夜明けと同時に帆が張られ、エグゾセ号がドレスタットを出港する。
「真砂に手紙をブリュンヒルデまで届けさせたいのさ。島の障壁がどんなものなのかよくわからないからね。飛ばすのを頼めるかい?」
「わかった。念の為に俺がやるよ」
 諫早似鳥(ea7900)からアーレアンが鷹の真砂を預かる。真砂の足には質問が記された薄い羊皮紙が結びつけられていた。
 アーレアンは話しかけたり、撫でたりした後で真砂を青空へと解き放つ。上空で旋回した後で、真砂がイグドラシル遺跡の島の方角へと飛んでいった。
 冒険者達は暮れなずむ頃に湖間近の海岸へと上陸する。そして湖畔の船の係留所にまで移動した。駐留する兵士達と挨拶を済ませると、野営の準備をして明日に備える。
 太陽が沈もうとした時、ヴァルキューレ・ブリュンヒルデからの手紙を足に結んだ真砂が主人の元へ戻る。
 手紙には過去にラーミア姉妹と関わった者は島の外へ出ていないと書かれてある。二人のラーミアの名は、姉がスカリーナ、妹がモルティーナとあった。
 諫早似鳥が望んだ島の使者の証として、妙な図形が描かれた一枚の小さな羊皮紙も含まれていた。
 壬護蒼樹(ea8341)が質問した答えもある。同族だという理由以外に、ラーミア姉妹と深く関わる者はイグドラシル遺跡の島にはいないらしい。
「ビーストマンってあちこちにいますのね。島に集めるのは秘密を守るため‥‥かしら?」
 宵の口、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)を含めた冒険者達は、少し離れた位置にある焚き火を灯りとして話し合った。
「それもあると思うけど、一番は戦力の集中じゃないかな?」
 アーレアンが草の茎を口に端に銜えながらシャクリローゼに振り向く。
「森の中とはいえ、結構、湖に近い位置に住んでますよね。今までよくデビルに目をつけられませんでしたね‥‥」
 岩の上であぐらをかいている壬護蒼樹が腕を組んで唸る。
「ラーミア、強いみたいだから、下っ端デビルじゃ返り討ちだったんじゃない? 二人もいるし。ドストリーアやノームはきっと別の事が忙しかったんじゃ‥‥」
 アーレアンはふと気になった。ドストリーアとノームは今、隠れて何をやっているのだろうと。
「ラーミア姉妹が島の外に居続ける理由はなんやろか。人間が美味しいから人間界から離れたくないの♪ ‥‥ってのは確かになんか違う気がするなぁ」
 ルイーゼ・コゥ(ea7929)は悩んだ末、詳しい情報を得る為に島への立ち寄りを提案する。
「ラーミア姉妹のお名前はわかりましたけど、ラーミアの長とあらかじめ話しておきたいです」
 リーマ・アベツ(ec4801)もルイーゼと同じくあらかじめの島への来訪を望んだ。
「あたしはどうしようかな〜。アーレくんはどうするの?」
「何人かが行くのなら俺も島へつき合うよ。一応、辺境伯との約束では俺が行くのが基本で、その上で同行者が認められている形だからね。船動かすにも、人数が必要だろうし」
 パラーリア・ゲラー(eb2257)はアーレアンの返事を聞いてからも、しばらく悩み続けた。せっかくだからと島に向かう事にする。
 ちなみにパラーリアはロック鳥のちろに乗って、上空から帆船に随行する予定である。
「わたくしはラーミア姉妹のところに向かう前に、一番近くの町、もしくは村か集落へ寄りたいと考えています。何かわかるかも知れませんし」
 リスティア・レノン(eb9226)は島からとは別の方法でラーミア姉妹の情報を得ようと考えていた。シャクリローゼと壬護蒼樹も同様である。
 そこで島へ立ち寄る班、周辺の人が住む地を訪ねて調査する班、森の中のラーミア姉妹を監視する班に分かれる事となった。
 実際にラーミア姉妹と接触するのは再集結した後である。
「デビルの探知については任せて下さい。魔法と合わせてラーミア姉妹に発見されないように空飛ぶ絨毯で監視します」
 雀尾嵐淡(ec0843)は落ち着いた様子で仲間達に頷いた。交渉と説得の結果、血が必要ならば提供しても構わないという。
 話し合いが終わる。見張りの順番が決められると就寝の時間になった。

●ラーミアの家
 四日目の宵の口。集合場所となる森の外縁で全員が再び顔を合わせた。
 まずは、一番近くの村で調査したリスティア、シャクリローゼ、壬護蒼樹の三人が報告する。
 村の誰一人としてラーミア姉妹が比較的近くの森の中に住んでいるのを知らなかった。少なくても、そういう答えしか返ってこなかった。
 村人が一時的に行方不明になる事件は稀に発生している。生還した何人かにも訊ねてみたが、誰もが口をつぐんで話してはくれない。
 行方不明になった者が誤魔化すのは、後ろめたい事実があるのか、もしくは魅了によってラーミア姉妹を信じきっているのかのどちらかであろう。
 ちなみに村にある宿屋の主人によれば、非常に疲れた様子の旅人をたまに見かけるらしい。
 続いてはイグドラシル遺跡の島へ向かったルイーゼ、リーマ、パラーリア、アーレアンが語る。
 ラーミアの長との面会は薄い衝立で仕切られた状態で行われた。さらに長の言葉は直接聞けず、介在する若いラーミアの娘によって伝えられたという。
 細かい事情までは教えてくれなかったが、スカリーナとモルティーナは本当の姉妹ではなかった。詳しく知りたければ本人に聞くしかないようだ。
 最後は先乗りして遠巻きからラーミア姉妹を監視していた諫早似鳥、雀尾嵐淡の話となる。
 ラーミア姉妹が獲物となる者を手に入れるには二つのパターンがあった。
 一つは森へ迷い込んできた者を魅了して吸血する。
 もう一つはとても古くさいやり方だが効果的な方法が採られていた。
 姉妹のどちらかが道ばたで病を演じてわざと倒れる。通りすがりの男が助けようとすると、森の奥にある家まで運んでくれと頼む形で誘う。そして魅了してしまい、二人で吸血するやり方だ。
 ラーミア姉妹の住まいの近辺でデビルは見かけられなかった。
 情報が揃ったところで最終的な打ち合わせに入る。
 作戦実行は明日の暮れなずむ頃と決まった。

●スカリーナとモルティーナ
(「今、家の中にいるのは二人のようや。あ、出てきおったで。これから往来に出て、血を吸う相手を探すんやろか」)
 大木のうろの中に隠れながら、ルイーゼはラーミア姉妹の様子を探る。ブレスセンサーで周囲の生き物を把握し、知った内容はヴェントリラキュイによる腹話術で離れた位置に待機する仲間達へと伝えた。
「ルイーゼ様の仰る通りですわ。森の中の道を歩いているのは、特徴からいってモルティーナだと思われますわね」
 シャクリローゼはクレアボアシンスとエックスレイビジョンを駆使してモルティーナの動きを追う。
「それではお二人に伝えてきます」
 雀尾嵐淡は空飛ぶ絨毯で超低空を飛び、街道で待機している諫早似鳥と壬護蒼樹、そしてアーレアンの元へと連絡しに向かった。
 しばしの後、モルティーナが街道へと現れる。
 雀尾嵐淡から連絡を受けた壬護蒼樹と諫早似鳥はアーレアンに一時間持続するフレイムエリベイションをかけてもらう。そして旅人を装って道を歩んだ。
「そこの方、どうしました?」
「本当だ。ど、どうしたのかな?」
 壬護蒼樹と諫早似鳥は道の隅で座り込んでいたモルティーナに声をかけた。ちなみに諫早似鳥は少年の姿である。
「少し眩暈が‥‥。あの、この森を少し入ったところに住まいがありますの。すみませんが、連れて行ってもらえるかしら」
 流し目でモルティーナが壬護蒼樹と諫早似鳥に訴える。
 引き受けた壬護蒼樹と諫早似鳥は道をそれ、モルティーナと一緒に森へ足を踏み入れた。やがて森の中の一軒家へと辿り着く。
「あら‥‥たくましいお方とかわいいお方ね」
 家の中から出てきたスカリーナが壬護蒼樹の手を握った。そして強く瞳を見つめながら魅了を施そうとする。
 モルティーナも魅了で諫早似鳥を陥れようとしていた。
 次の瞬間、大きな影が地上に落ちる。ロック鳥のちろに乗ったパラーリアが家の上空で旋回したのである。
 モルティーナの魔の手から抜けた諫早似鳥は月の着流しに込められたムーンアローを放つ。スカリーナに命中し、壬護蒼樹の首筋から鋭い歯が離れる。
(「まだ敵対心はお持ちのようですね」)
 茂みから出たリスティアはスクロールのリヴィールエネミーでラーミア姉妹の敵対心を感じ取る。
「誰かがこの家に近づこうとしていますね」
 リーマがバイブレーションセンサーで何者かの接近を探知する。
「わたくしがいってまいりますわ」
 シャクリローゼが確認と足止めに向かう。後にわかる事だが、近づこうとしていた人物は調査に向かった村の若者であった。魅了が解けていないようで、自ら血を提供する為に足を運ぼうとしていたようだ。
「協定は知っているはずだよね。いいのかい? 人の血を吸ったりしてさ」
 諫早似鳥が壬護蒼樹の首筋から流れる血を指さして、ラーミア姉妹に問う。そして使者の証として羊皮紙の図形を見せた。
「こうなったからには、お終いやと思うけど。まだ『獲物』狩り続けるとなると、本格的に冒険者ギルドに話が回るかもしれまへんなぁ」
 うちらよりもっと強い冒険者が来るかも知れへんとルイーゼはほのめかす。
「ちょっとタイムね〜」
 鋭い目つきのラーミア姉妹の側へ、ちろの背中に乗るパラーリアが着陸する。
 すぐにスクロールのファンタズムを使い、ラーミア姉妹にデビル・ドストリーアとエルフのノームの姿を見せた。
「今、こいつらが人とイグドラシル遺跡の島を狙っているんだ――」
 アーレアンがこれまでの経緯をラーミア姉妹に説明する。
「僕らも生き物を食べて生きてます。今ここで起きた事はなかった事にしてもいい。‥‥どうか島へ戻ってはもらえないでしょうか?」
 壬護蒼樹は雀尾嵐淡から首筋の治療を受けながらラーミア姉妹に話しかけた。
「もしかしてあのラーミアの長からの差し金かい?」
 スカリーナの問いにリーマが頷く。するとラーミア姉妹が同時にため息をついた。
「二人から敵対心が感じられなくなりました」
 リスティアからの情報に冒険者達は警戒を緩める。
「まだ、あたしらをあきらめていないのか‥‥。まったく諦めの悪い男だね」
「まあ、結局他のラーミアの男は見つからなかったし。どうする?」
 姉妹が求めていたのはラーミアの男との出逢いであった。ラーミアは女性と比べて男性が極端に少ないビーストマンである。
 スカリーナとモルティーナはイグドラシル遺跡の島の出身ではない。まだ赤ん坊の頃、外部から預けられたらしい。
 年頃になった頃、新しい血統を欲したラーミアの長に求められたものの、二人は島を立ち去った。遠くに行かなかったのは、同族を求めて島へ向かおうとするラーミアの男がいるかも知れないと考えたからだ。
 人への吸血を止めさせる意味。そしてデビルの襲来に備えて少しでも戦力が欲しいだけでなく、島のラーミアには姉妹を呼び戻したいもう一つの事情があったようだ。
「あの長、悪くはないんだけどね。歳がね‥‥」
「そうなのよね‥‥」
 ラーミア姉妹はアーレアンをじっと見つめる。
「あたしたち、若い方が好みなんだけどあきらめるわ」
「そうね。その代わり――」
 最後にアーレアンの血を吸わせて欲しいとラーミア姉妹は条件を出した。後は誰もが想像するような展開である。
 交渉は成立し、アーレアンはラーミア姉妹から血を吸われるのだった。

●そして
 ラーミア姉妹を無事イグドラシル遺跡の島へ送り届けた冒険者一行は、エグゾセ号でドレスタットへの帰路に就く。
 冒険者の多くは甲板で海原を眺めていた。
「アーレくんは恋とかど〜なの〜?」
「えっと〜〜。‥‥俺、眠くなったから」
 パラーリアの質問に答えず、アーレアンはその場を立ち去ろうとする。
「ん? まだ克服していないのかね」
「きっと、恥ずかしいだけだと思いますよ」
 諫早似鳥と壬護蒼樹はアーレアンの初恋の相手を知っていた。二人は雑談を交わしながらパラーリアに追いかけられるアーレアンを目で追う。
「そういえば、ミローレアさんという方でしたね」
 リスティアも何となくだが記憶にある。
 一行は船上で残った資金とブリュンヒルデからの報酬を分配する。アーレアンは諫早似鳥に借金を返し、残りは約三分の一となった。
 
 夕方、エグゾセ号は何事もなくドレスタットの船着き場へと入港するのだった。